「おねーちゃん!」
「日菜、部屋に入る時はノックをしなさいと……どうしたの? ギターを持って」
紗夜の目線は自分の手元に携えたギターの方から、ドアを開けて入ってきた日菜の方へと向く。先程までは部屋の中には冷静、正確に刻まれていたメロディラインだけが響いていたのに、急激に部屋は明るくなった。
「えへへ〜、今日おねーちゃんもRoseliaの練習ないんだよね?」
「え、えぇ。それがどうかしたの?」
「あたしも今日練習はないんだけど、新しい曲の練習しなくちゃいけないからなーって」
日菜の目は大好きな姉に下心なしに媚びるように煌めいている。紗夜も当然この後に続くであろう日菜の考えも予想できていた。
「……はぁ」
「一緒に練習しよー!」
以前までならきっと、姉妹でのセッションだなんて、姉にとっては才能の違いを目の前でまざまざと見せつけることでしかなく、それが何の悪意もなしに行われるものだから、文字通り拷問でしかなかった。けれども、互いの蟠りは嘘のように解け始めて、以前のような冷たな空気はそこにはない。
「……ふふっ。仕方ないわね、少しだけよ」
「やったぁ!」
「……まったく」
呆れるような反応を見せながらも、その声色には優しさが見え隠れしている。それが分かっているのか、それとも知らないのか、日菜が姉に向ける視線は、以前から何も変わらず。
「それじゃあそれじゃあ。今度レコーディングの曲なんだけどね」
「それ、私が見ても大丈夫なの?」
「おねーちゃんだもん!」
「……そう」
姉の腰掛けるベッドの隣に勢いよく飛び込み、早速とばかりに体を寄せる日菜。
「日菜、練習をしにきたんじゃないの?」
「おねーちゃんともっとひっつきたいもん!」
「はぁ。……そんなことを言っているのなら、今日の練習はなしね」
「わぁー!! うそうそうそ!!」
そんな非情に切り捨てるような言葉をかけながらも紗夜の目は温かい。そんな紗夜とのやり取りを楽しむように日菜の語尾は跳ね上がっている。……だが、日菜の目線はどうやら、ただ日々の楽しさを味わうだけの目線ではなかった。
晩御飯も食べ、お風呂も済ませた日菜は自室のベッドに半ば倒れ込むように飛び込んだ。何故か大好きな姉とギターを共に弾けていたはずなのに、日菜の顔は明るいとは形容し難い。
「はぁ。……なんだか、るんってこないなぁ」
直接には口に出すことなどできない思いを布団の羽毛へと響かせる。ただ姉と楽しい時間を過ごす、それだけでは足りないのだ。最初こそ、あの冷たかった姉が自分に対して優しさを見せてくれるだけで満足できていたはずなのに、今となってはすっかりもっと先を求めてしまっている。
「……はぁ。電気消そっと」
ピッ、という音とともに部屋は真っ暗になる。寝息を立てるでもなく、布団からモゾモゾと蠢く音と、いつもよりも艶のある吐息が聞こえている。
「はぁ、おねーちゃんっ、おねーちゃん……」
さらに耳を澄ませば聞こえてくるのは機械的な振動音。それはどういうわけだか素直になれない自分自身を慰めるための。
「あっ……くぅっ……。……はぁ。おねーちゃんと、こーいうこと……したい……」
大きくなった欲望はすぐに切り出すことなど出来なくて、以前から抱えていた不満が、どんどんと言語化されて具体的になっていく。日菜がその日見た夢は、自らと姉が交わり合う淫蕩の夢であった。
翌る日の昼下がり。またも偶然と言うべきか、はたまた仕組まれていたのであろうか、休日の氷川家には2人の姉妹が休みを満喫していた。だが、2人でセッションをしていたり、なんていうことはなく、各々が思い思いに過ごす静かな休日。沈黙を打ち破ったのは、またも日菜であった。
「ねー、おねーちゃん」
「またあなたはノックをせずに……。それで、どうしたの?」
「ちょっとお話しよ?」
「お話? 構わないけれど……」
紗夜は軽く目を通していた本を閉じて、机の隅へと置いた。日菜は紗夜より先にベッドに腰掛けて、紗夜を手招きしている。
「それで、お話って、何かあったの?」
「あたしね、えっちなことがしたい」
「……はぁっ?!」
妹からの思いもよらない爆弾の投下に、柄にもなく素の大声で日菜に向き替える紗夜。しかし日菜の顔は至って真剣だった。
「ちょ、い、いきなり私の部屋に来てまでする話なの?」
「……うん! だって、あたしがしたいのは」
「ちょっとっ」
「おねーちゃんとだもん」
驚きの顔を隠す余裕もなく、柔らかなベッドに紗夜が押し倒される。
「日菜……? 何してるのよっ?!」
「おねーちゃんと、こういうことしたかったから」
日菜は紗夜の抗議も耳に入れずに、押し倒したまんま、持ち出していた電マを紗夜に見せる。
「な、何よそれ」
「おねーちゃんはやっぱり知らないんだ? これはね、いっぱいるんってするんだよ?」
「は、はぁ? 何言ってぇ……んっなにっ、どこさわって……」
普段は凛と澄ました様子の紗夜から想像もつかないほどに無防備であった紗夜の股の間に振動部分を持っていく。そして、その筋の少し上の辺りに押し当てた瞬間に、紗夜の口からは甘い吐息が漏れる。
「んっちょっ、やめなさいって、日菜ぁっ……はぁっ、はぁっ」
「すごい……すごいるんっ♪ ってする!」
「何してぇっ、んあっ……はぁっ、やめ……」
紗夜はどうにか日菜の暴走を止めようと必死に体を捩らせる。
「どうして? すっごく気持ちいいでしょ?」
「ちがっ、嫌っ、やめなさいっ」
「……そんなおねーちゃんには、……こうだもん」
「えっ? んんっ?! んっ……んっ……」
決死の抵抗を見せていた紗夜は一瞬でその纏う雰囲気を変えた日菜に動揺した。ほうして無防備な唇を晒したところを見逃すはずもなく、想いを募らせた日菜は覆い被さりながらその唇に吸い付くようなキスを交わす。
「んっ……、日菜……?」
「おねーちゃんとのキス……気持ちいい……」
「えっ? んっ……ちゅ、んっ……」
なんとか異常な目の前の事態への驚きに対処しようと冷静になろうとしていた紗夜に、日菜は負けじと何度も何度もキスの嵐を浴びせている。次第に紗夜の抵抗の力は弱っていく。そして、日菜が長い長い口付けを終えた時には、紗夜の顔はすっかり緩み切って、艶美な吐息を漏らしていた。
「んんっ……。んあっ、ひなぁ……?」
髪を乱れさせた紗夜はその嵐が漸く止んだ時に、閉じていた目を開いた。自分と同じく吐息の荒い日菜の姿にすっかり翻弄され、一瞬気が緩んだのだ。
「日菜っ、んっ……ちょそこぉ」
「おねーちゃんもこういうの、気持ちいい?」
「分かんないっ、わよぉっ、んあっ……」
「……下だけじゃ足りないよね?」
「へ? あっ服……、脱がせないで……」
「おねーちゃん、私とこういうことするの、ヤダ?」
「え……」
「……おねーちゃん」
「嫌とは……んんっ?! んっ、んんっ」
答えを聞くつもりすらなかったのか、紗夜に繰り出された激しいキスは紗夜から正常な思考を奪っていく。キスが終わってからも、服が脱がされることに何の抵抗すら見せないのは、日菜の天性の才ゆえなのだろうか。
「胸? んっ……何っそれぇっ、あっ」
小さな桜色をした乳首に得体の知れない何かをつけられた紗夜は身震いしたが、日菜はそれを落ち着かせるためか、キスで誤魔化してゆく。
「いっぱい気持ちよくなろーね?」
「まっ、んっ、はぁ、あっ……」
馬乗りのようになられた紗夜は既に日菜にされるがままだった。きっといつもなら、風紀がどうだ、だとか規範を持ち出して激しく妹を叱りつけるはずであるのに、すっかり妹の術中にハマってしまった紗夜は日菜のウィスパーボイスに導かれるまま、自ら風紀を乱していく。
「あっ、なにぃ、んっこれぇっ……んあっ」
「これぇ? そっかぁ、おねーちゃんここ弱いんだ?」
「ちょ下着……んんっ?! はぁっ、さわっ、ちゃダメってぇ」
「おねーちゃん可愛い……、そんなこと言って、本当はもっと欲しいんでしょ?」
「ほ、本当っ、こんなのぉっ、んあっ、初めてだからぁっ!」
喉の奥からどうにかして振り絞られた紗夜の声。しかし、そんな最後の足掻きも、姉への愛を暴走させ始めた妹にとっては、様式美と化したスイッチであった。
「ほんとっ? おねーちゃんしたことないんだ?」
「そうよっ、だから日菜ぁっ」
おそらく紗夜は、自分が未経験故に、日菜がこんな暴走を早く止めるように、そう言いたかったのだろう。だが、脳の中がすっかり姉のフェロモンに染まってしまった日菜を止めることなど叶わない。
「嬉しいなっ、あたしがおねーちゃんの初めて! るんっ♪ てきたぁっ!!」
「ちょっ、指もぉっ?! んあっはぁっ、んああっ!」
恥丘の陰に隠された陰唇がすっかり振動に踊らされてしまい、紗夜はまるで体感したことのない性感に心を奪われかけていた。一人で秘所を慰めたことすらない初心な姉は妹の天才的な攻めによって、ハジメテの快楽の味を知り始めていた。
「ほらっ、こんなすぐ入っちゃう」
「そんなとこきたなっ、んんっ、いいからぁっ」
「汚くないよ? おねーちゃんだもんっ」
「わけわかんなっ、あっあっ、んっ、はぁっ」
つい数十分前まではシワ一つついていなかった紗夜の部屋のシーツは乱れる紗夜の体に合わせてズレてしまって、いくつもの山脈をなしている。だがそんな山々も、押し倒されて寝転がる紗夜の隣に倒れ込んできた日菜によって押し潰される。
「えへへっ、おねーちゃん気持ちいい?」
「あっ、分かんなっいいっ、何、なのこれぇっんっ」
「おねーちゃん、1人えっちしたことないの?」
「そ、そんなこと、んっ、あるわけぇっ、ないでしょうっ」
「そっかぁ。じゃあおねーちゃんのこともっと気持ちよくしてあげるっ!」
「へ? 日菜っ、ほんともっだめっ」
「遠慮しないで?」
「遠慮なんかじゃあっ、んんっ?!」
既に乳首も、腰も、唇も、そしてクリトリスも攻め落とされていた紗夜。トドメを刺すかのように、既に蜜が溢れ始めた膣口に、日菜は指を深く挿し込んでゆく。さっきは手前だけだったのに、すっかり湿潤に堕ちた紗夜の膣は容易に日菜の指を飲み込む。一人で慰めたことなどなかったとしても、紗夜の中の本能を、日菜の、日菜なりの攻めが喚び起こそうとしているのだ。
「お、深っ、ああっ! 日菜ぁっ! ほんとにだめっ!」
「なんでぇ? 気持ちよくなったらいいじゃん!」
「変なのぉっ! だからぁっ、日菜? んっ……んっ……」
未知の感覚に怯えていた紗夜。しかし、日菜の慈愛に満ちた口付けがなされた瞬間、すっと大人しく、甘い吐息だけを漏らすようになる。下半身は湧き上がってくる未知の快楽に打ち震えていると言うのに、打って変わって、紗夜の顔は蕩けてこそいるが、ただ真っ直ぐに端正な顔でキスを授ける日菜を見つめ、安心したかのように荒く、ゆっくりと呼吸を重ねた。
「いいんだよ? 一緒におかしくなっちゃお?」
「そんなこと……言っても、んっ」
「あたしとおねーちゃん2人だけだよ? 風紀なんて気にしなくてもいいでしょ?」
「そういう、ことじゃっ」
「あたし、おねーちゃんともっともっと、気持ちよくなりたいな。一緒に、2人で」
「2人で……」
体にじわじわと与えられる快楽と、日菜の儚く脆い甘い言葉が、紗夜の脳みそをドロドロに溶かしていく。紗夜だって、最近になり漸く日菜と、本当は親しくありたかった日菜と、本音で接することが出来る様になったのだ。
紗夜が堕ちるのは、ある意味で必然であった。
「……日菜っ、んっ……」
「んっ、んっ、おねっ」
「んれろっ……んっ。……ふふ、そうよね」
「ぷはっ、おねーちゃん?」
「折角日菜がこんなに愛おしいんだもの。……覚悟なさい?」
「……おねーちゃんっ!」
「わっ」
「だーいすきっ!」
「ふふっ。私も、好きよ、日菜」
それまで何かが心の中で、喉の奥で、ストッパーとなってずっと出すことができなかった。それが今すんなりと、口をついて出てきたのだ。
「んっ……えへへ、おねーちゃんも、あたしのココ、触って?」
「すごい……濡れているのね」
「おねーちゃんと居るだけで、ずっとこうなっちゃうんだよ?」
「……日菜」
「責任、取ってよね?」
「……ふふっ。ええ、私も、負けていられないから」
「へ?」
ベッドの端に転がっていた電マを拾い上げ、スイッチを入れる。
「ここ、さっきはどうもありがとう」
「ちょ、おねーちゃん?」
「お返しよ? 日菜」
「へ?! んんんっ?! はぁっあ、んああっ!」
愛する姉からの唐突な攻めに不意を突かれ、日菜は大きな喘ぎ声をあげる。
「そう。そんなに気持ちいいの?」
「んあっ、るんって、るんってするのぉっ!」
「ココだけじゃ、足りないのね。私がされたことと同じことをしてあげるわ」
「あっ、んん、はあぁっあっ、おね、おねーちゃっ、あっ」
形勢逆転と言わんばかりに紗夜は乱れる日菜に追撃を加える。だが、負けじと日菜も空いた右手で、ゆっくりと紗夜の小さくツンと勃った乳首をこねくり回す。
「んっ、日菜っ」
「おねーちゃんっ、すきっ、大好きぃっ!」
「私もっ、日菜ぁっ!」
互いの名前を愛しそうに呼び合いながら、敏感なところを互いに虐め合う。2人はまるで同じように震え、声を上げる。
「もっと、るんってくるぅっ、あっ、んはぁっ!」
「私もっ、変になりそっ、おぉっ、日菜ぁっ」
「一緒だよっ、おねーちゃんっ、あっ、んああっん!」
「日菜っ、ひなっ、あっ、んああっ♡」
2人は同時に絶頂に達し、脱力したまま、倒れ込んだ。
「日菜……日菜ぁ……」
「えへへぇ、おねーちゃん……最高にるんっ♪ ってしたよ……」
「私も……ふふ、るんっ、って、したわ……ありがとう……」
消えいるようなか細い声が部屋に響いて、暫くしてその声も聞こえなくなる。やがて夜を迎えて、部屋は電気も点けずに真っ暗であった。
そんな真っ暗な部屋で聞こえてくるのは、達した疲労を確かめ合うように、腕を背中へと回して、抱き締めあう2人の安らかな寝息だけであった。