外は雪が降り頻って遠くに聳え立つビルの数々も真白に隠れている。寒々しい夜景の中にポツンと姿を眩ませるように灯りを零す一軒家からは暖かい声が漏れ出ていた。
「おたえ、誕生日、おめでとうー!」
「うん……ありがとう、沙綾」
12月4日。寒さが一段と厳しくなった冬の入りにも負けじと部屋の中は明るく保たれ、そんな中で、たえが僅かに頬を赤らめて視線を逸らしていた。それは誕生日を恋人から祝われることの気恥ずかしさと嬉しさが入り混じったものに他ならなかった。
「ケーキはどうする? もう食べる?」
「うーん、今はいいや」
「そっか、なら先にプレゼント、渡しちゃおっかな?」
「プレゼント?」
「じゃあおたえ、少しだけでいいから、私が『いいよ』っていうまで、目を瞑って待ってて?」
「わかった」
沙綾はたえがしっかりと手を目元にあてて、見えていないということを念入りに確認してから、ほうと小さく息をついた。
「もういいの?」
「ちょ、まだダメだって! 『いいよ』って言うまでだからね!」
気が急いているのだろうか、それともやはり誕生日という、1年に一度しかこない特別な日に気分が高揚しているからなのだろうか、目を瞑って、沙綾の声を待っているたえはそわそわとして、落ち着いていないように見える。そんなたえの気持ちを察してなのか、沙綾は大きめの紙袋に入れてあった、それ、を取り出す。そして少しだけ躊躇する素振りを見せながら、着ていた服から、それ、へと着替えたのだ。
「うん……、い、いいよ?」
「目を開けるね。……わっ、うさぎだっ」
視界が開けるなり、沙綾の纏うその衣装に飛びつくように反応をしたたえ。それもそのはず、たえが愛してやまないうさぎの衣装を纏っているのであるから。ただ、うさぎはうさぎでも。
「ちょ、そんなベタベタ触るの?」
沙綾の肌は大きく露出している。凡そこじんまりとした個人の居室には馴染まない、強いて言えばカジノだとか、大人の社交場でこそみられるような。
「これ、バニー服、でいいのかな?」
「い、一応?」
肉付きのよい肢体をより魅力的に演出する黒のバニーガールの衣装に沙綾は突然として変身してしまったのだから。
「すごい、テカテカしてる」
「あはは、ちょっとくすぐったいな」
その素材ゆえの光沢感は、バニー服自体に興味津々だったたえの好奇心をさらに煽り立てて、たえの興奮して荒くなった鼻息が沙綾の素肌をさらりと撫で回していた。
「というわけで、誕生日プレゼントは、……私でしたっ」
「……沙綾っ」
「きゃっ」
恥ずかしさを醸し出しつつもたえを祝福しようという心意気を明るさで見せようとした沙綾に我慢ならなくなったのか、たえは思い切り沙綾に抱きついた。その勢いで思わずよろけた沙綾だったが、なんとか踏ん張り、腕をたえの背中へと回す。
「どう? ……喜んでもらえた?」
「もちろん。ねぇ沙綾」
「どうしたの?」
抱きついていたたえがそっと手を引いて、自らの部屋のベッドの方へと沙綾を誘導する。幾度か見覚えのある光景に、沙綾はこれから始まる情事への期待に胸を膨らませていた。
「こっち」
「うん」
だが、いつものようにすぐに行為に及ぶのではなく、どういうわけかたえはベッドの端に沙綾を放置したまま自分だけベッドから立ち上がり、ドアの方へと向かっていく。てっきり、すぐさま自分が襲われてしまうのだとばかり思っていた沙綾は狼狽した。
「えっ、ちょ、おたえ? どこいくの?」
「ちょっとだけ待ってて」
「う、うん」
待ってて、なんて言ったっきり、ドアがバタンと閉められる。部屋に1人放置された沙綾だったが、いかんせん今の自分が酷く淫らな格好をしている自覚もあり、それでいてやはり少しだけ部屋が冷える季節ということもあり、その肌には薄らと鳥肌が立っていた。いつになったらたえが帰ってくるかも分からなかった沙綾は、まぁ良いか、だなんて考えながらリモコンのスイッチを押して、暖房をかけ始めた。
しかし、意外にも早くドアは再度開いて、たえは帰ってきた。その手に握られているのは細く、ピンクのラインが入ったタオルだった。
「おかえり。どうしたの、そのタオル」
「折角だから」
たえはベッドに飛び乗って、沙綾の背中側へと回り込む。どういうわけだろうと沙綾が疑問に思っていると、たえは沙綾に目を瞑らせた。
「ちゃんと目は瞑った?」
「うんうん、閉じてるよ?」
「そっか」
じゃあとばかりに沙綾の首へといきなり腕を回す。視界が閉ざされた中でそんな抱きつかれたことにびっくりしていた沙綾だったが、驚くべきはそれだけでらなかった。
「えっ?」
「ここと、うん。いいよ、目を開けても」
「ちょっと、目を開けてもこれじゃ何も見えないよ?」
目を瞑っている間に、沙綾には目隠しが施されている。それはたえが先程持ち込んでいたタオルであったが、そのタオルはしっかりと沙綾の視界を悉く奪っていた。
「うん、それで良いんだよ」
「い、良いんだよってこれじゃ何も、っ?! んっ……」
全く何も見えない中で沙綾の鼻筋を少しばかりの息が通り過ぎたかと思えば、突然沙綾の唇が紡がれた。それは他でもないたえによって。視界が奪われた沙綾にとって感じることが出来るのは、たえの舌が自らの口の中を犯してまわる感触と、激しい水の音、そして荒い息遣い。
「んっんんっ、んはぁっ、ちょおたえ?」
「沙綾とのキスって気持ちいいよね」
「……あ、ありがと」
キスで少しばかり沙綾の感覚が狂わされていたのだろうか、反応が少しだけ薄くなった沙綾の腕をたえは今度は前で組ませた。
「え、え、何するの?」
「良いから」
たえが懐から取り出したのは、先程は隠してあった手錠だった。どうしてこの家にそんなものが置いてあるのかなんてことはよく分からないが、きっとたえも沙綾との行為を重ねる中で色々と考えた末のことなのだろう。
「えっ、なにこれ?」
「手錠。これでもう動かせないでしょ?」
「うん、ど、どうするの? んっ……」
困惑していた沙綾を黙らせるように唇を塞ぎにかかるたえ。たえによってバニーガール姿の沙綾は両手を手首で縛られ、さらに目隠しで視界まで奪われてしまった。
「んっ……。んはぁっ、キスするの、ずるいよ」
「嫌だった?」
「……そんなわけないじゃん」
「……良かった」
「おたえ……」
見えているわけではないのに、自然と相手がキスを求めているということが2人の間で通じ合っていた。何度も何度も音を重ねて、唾液を交換しながら、暗い世界で感情が昂っていく。
「んっ。……ねぇ沙綾」
「おたえ? わっ!」
何も見えていない沙綾にとってはそれは余りにも突然だった。急に不可視の世界が90度ひっくり返ったかのような浮遊感、そして続けてぼふんと自分の上半身に届いた衝撃。側から見れば沙綾がベッドの上へと押し倒されたことは容易にわかるのに、視界を奪われた沙綾から取ってみれば何が起きたのかすらすぐには理解できず。
「おたえっ、えっ、んっんっんん! んちゅっんっ……」
背中に感じた柔らかな感触でようやく自分がベッドの上に寝転んでいるのだと理解した沙綾は大人しくたえの舌をじっくりと受け入れていく。当然断るわけなのないのだが、視界も、手足の自由すらもない沙綾に抵抗する術などなかった。
「んはぁっ、はぁっ、おたえぇ……」
「……ふふっ、沙綾、かわいい」
「ちょ、耳元でそんなこと言っちゃダメだってぇ……」
沙綾の耳に届く全ての音は沙綾にとって周りの状況を窺い知るための貴重な情報だというのにそのどれもが淫らな色に塗られている。2人が奏でる口づけの音も、絡まり合う呼吸の音も、快楽と興奮に自然と捩られる体が起こす衣擦れの音も、甘く囁かれる愛の言葉も。全てが全て、昂りを刺激する材料でしかなかった。
「だって、思ったから」
「そうだとしても、んっあっ……」
そしてたえの手は露出された首筋へと伸びてゆく。沙綾の首筋には僅かに汗が滲んで、そんな肌の上を滑るようにたえの細い指先がなぞる。次にどっちの方向へその指が進むのか、予想もつかない沙綾は時折大きな声を漏らしながら、その呼吸をより荒くしてゆく。
「気持ちいい?」
「うんっ、あっちょそこは……」
「なんで? いつも触ってるでしょ?」
「け、けど今日はぁっ、んんっ」
半分ほど露出され、ギリギリその先だけは出ていない乳房も、たえは遠慮することなく撫で回す。たまに指圧で押さえて、それで凹んだ乳房を僅かに隠す服の反射が、たえの興奮を煽り立てた。
「こんな格好、襲われたかったんじゃないの?」
「おたえに喜んでっ、もらいたかったからぁっ、あっ」
「うん。嬉しかった」
「よかったっあっんっ」
「けど」
「んっ……けど……?」
「もっと可愛いところ、見たくなっちゃった」
「……へ?」
突如離れていくたえの気配。視界を奪われてしまっていることによって、沙綾がたえを認識するにはたえの気配だとか、声だとかで察知するしかないのに、たえが一度離れると、その気配だとかは一瞬で消えてしまう。それはまるで今までの全てが蜃気楼だったかのように。たえの荒い呼吸音も聞こえなくなって、沙綾の頭には不安だけがよぎった。
「え、ねぇ、おたえ? おたえってば」
しかしその呼びかけに反応するものはいない。先程までこの部屋には、自分のすぐそばにはたえがいて、自分を愛してくれていたのに、そんな考えが募るばかりで、けれども沙綾の声に返事はない。
「ちょっと、ねぇっ、おたえっ、おたえっ?」
部屋は水を打ったように静まり返っている。
「おたえっ! ねぇっ、おたえっ? 私を1人にしないでよっ」
ずっと静かだった時間。沙綾にはそれはとてつもなく長く感じられたかもしれない。
「おたえっ、あ……。おたえ……」
突如沙綾の体に触れた温もり。それは紛れもなく。
「沙綾。ごめんね」
「おたえっ、おたえぇ……」
沙綾を孤独の恐怖に晒したたえの顔には満足そうな笑みが浮かべられている。たえが寝転がったままだった沙綾の肌に触れ、その体を抱きしめた瞬間、沙綾はそれがたえの体のどの部分かも分からないままに、必死に唇で吸い付いた。それは自らの存在を誇示するための愛情表現だったから。そしてまだ自由だった沙綾の両脚はたえをしっかりと逃がさないためにその下半身へと絡まりつく。
「もうっ、怖かったんだよっ?」
「ごめんね。でも今の沙綾」
「んっ……はぁっ、はぁっ」
「さっきよりももっともっと可愛い」
「ば、バカぁちょっんっ……はぁっあっ」
恥ずかしさだとか、そういうものがどんどんと薄まってきたのだろうか、沙綾はその甘い声を我慢しないようになり始めた。発言も普段に比べれば数段も素直に、正直であった。沙綾はたえの囁きにより繊細に反応して、体を震わせている。
「もっと、可愛いところ見せて?」
「んひぃっ、ちょっ下はっだめっ、ダメぇっんっ」
薄くなった布地をここぞとばかりに撫で回す。たえの指はそれでも力強く沙綾の股の間のスジを何度も何度も上下に擦る。
「あっ、お、おたえぇっあっ、んんっ!」
「すごく気持ちよさそう」
「言わなくてっいいのっ、んっはぁん!」
もはやその淫らな色に満ちた声を隠そうともしない沙綾は抗議の声を上げながらも、下半身からねっとりとたえの指に堕とされていく。
「そんなこと言うなら、中に指、挿れないよ?」
「えっ、やだっ、っ、い、挿れてっ」
「ちゃんと全部言ってくれなきゃ」
「私の、んっ、おまんこの中におたえの指挿れてっ」
「良いよ」
「んんっ?! んっはぁっあっ、あっ!」
すでにたえの侵入を待ち望んでいた膣はあっという間にたえの指を飲み込んでゆく。たえの指は興奮がはち切れる寸前の沙綾の膣に追い討ちをかけんとばかりに暴れ回っていた。
「ちょあっ、んんっ! んはぁっあっあっ!」
「沙綾のその声好き、もっと聞かせて」
「んあっ、そんにゃっ、言わなっ、あっあっいでぇっ」
「好きだもん。聞きたいな」
「あっんん! 私もっ、おたえすきっ、好きぃっ!」
「沙綾、口開けて?」
「へっ、はっはっ、はぁっ、はぁっんっ、はぁっ」
膣を犯されながらも、たえは舌で沙綾の口を弄ぶ。口の中を犯してまわるのかと思えば、たまに口から離したりと、繰り返す。たえの舌の熱と愛を求めて、沙綾は大きく口を開けたまま、必死にベロを上へと突き出す。
「んっ、よくできました沙綾」
「あっんっ、はぁっ、あっおたえっ!」
「んっ……沙綾っ、んっ……」
「んんっ! んっ、んんっ!!」
思い切りその呼吸を奪って、トドメを刺そうとたえの指が沙綾の膣を激しく責め立てる。沙綾は必死に身を悶えさせて抵抗していたが、その快楽に勝つことなど出来なかった。
「あっんんっ、んっ!! んんっ〜!!」
「んっ……」
大きく潮を吹きながら、沙綾は体を震わせた。しかしその絶頂の嬌声もすっかりたえによって食べ尽くされ、2人はベッドの上へと折り重なる。暖房があっためた部屋の温度以上に、2人の愛の情事がもたらした熱で、沙綾の素肌にはすっかり大粒の汗が浮かんでいた。
「お、おた……え……」
「……ふふっ、沙綾」
「んっ……んんっ」
2人の口付けは休む暇もなくまたも繰り返される。結局最後まで拘束を解かれることも、目隠しを外されることもなく、2羽のうさぎは情に耽るのだった。