「はぁ〜……」
昼下がりに落ち着いた空間を提供する珈琲店で、大きなため息を吐く2人の姉の姿があった。周囲にも容易に聞き取れるほどのあまりに大きなそのため息は彼女たちが抱えている、普段の生活の荷の重さを如実に表していた。まるでそのテーブル席だけ異質な空間のような、店内に漂う挽きたての豆のコク深い香りすら届いていないような、そんな表現が正しかった。
「そういえばこの間あこが、Roseliaの練習中にお腹空いたって騒いだら、リサさんがクッキーくれたんだって、嬉しそうに話してくれたんです」
「今井さんはいつもクッキーを作って練習に持ってきてくださるので。とても美味しいんですよ」
「そうなんですか。……あこ、迷惑かけてないですか?」
「迷惑ですか? ……いえ、全然。最近はドラムにも熱心に取り組んでいますし」
「良かったです……。あこがあんまりにもわがまま言って、困らせてないかだとか、偶に心配になるんですよね」
「あぁ、とても分かります。私も日菜がPastel✽Palettesの皆さんを振り回していないか、よく丸山さんや白鷺さんに聞いたりしますから」
言葉尻だけ捉えれば、姉から妹への不満だとか、愚痴のようにも聞こえるが、互いの妹を語らい合う姉の目線はどちらもコーヒーから立ち上る温かな湯気を捉えていた。
「姉の立場だと大変ですよね……。あこなんかは甘え上手というか、悪い意味じゃないんですけど」
「弱みを素直に見せられるという点だと、確かに羨ましく感じる時もありますね。日菜はそんなに落ち込んだりはしませんが、感情を素直に表現できるというのは羨ましく感じます」
一通り話し合えると、2人が向かい合うテーブルの上を、深いため息が行き交っている。同じ立場の人間同士でしか分かり合えない独特の気苦労を互いに感じ、知らず知らずのうちに吐き出しているのだった。そんな気苦労に苛まれてなのか、暫しの沈黙がテーブルを覆う。
「……ねぇ紗夜さん。今度うちの家に泊まりに来ませんか?」
「泊まりに……ですか?」
「なんだか紗夜さんとだったら一晩中、思い思いに話せるような気がして」
「なるほど……。……いいかもしれませんね。そういえば今度日菜が地方にロケに行くから家にいない日があったような……」
「その日にしますか? 日菜先輩が居たらアタシが怒られちゃいそうなので」
「……ふふっ、そうですね。日菜は不貞腐れるかもしれませんから」
珈琲から立つ湯気が空気に溶けてゆくように、2人の姉の笑い声も薄れていった。
「お邪魔します」
「どうぞ、上がってください」
夜に入りかけた宇田川家には紗夜を招くために準備をしていた巴以外の人影はなかった。あこは巴に勧められるがままにクラスの友達の家へと泊まりに行き、あこの知らないままに家に紗夜がやってきたのである。靴を揃えた紗夜はリビングへと通される。
「それでは、時間も良い頃合いですから、作り始めましょうか」
「材料は買ってありますよ」
巴の許可を得た紗夜はキッチンに立って、解かれていた髪を後ろで高く縛る。そしてネットから取り出した玉葱を手早く包丁でみじん切りにし始めた。
「じゃあアタシは鶏肉切りますね」
2人は晩餐の準備を手際よく進めて行き、1時間ほどもたてば。
「……よっと」
「おお……。すごいですね、卵も崩れずに……」
「まぁ、慣れれば意外とできるものですよ」
テーブルの上には形も綺麗に仕上げられたオムライスが2皿並んでいた。2人は対面で椅子に掛けて、手を合わせた。
「いただきます!」
「どうでしょうか?」
「……うぉ、美味しいです、紗夜さん!」
「……そうですね、我ながら……良い具合です。宇田川さんも手伝っていただきありがとうございます」
食卓を囲う2人の話は弾みに弾む。どこか似た境遇を歩んできた彼女たちの話題はどういうわけか決まって妹のことであった。
「あこは紗夜さんのギターがカッコいいっていつも言ってますよ、言い回しはいつものアレですけど」
「少し恥ずかしいですが、……ふふっ。ですが、あこさんも練習中はいつも巴さんのドラムや太鼓の話をしているんですよ」
「えっ! あはは……そっかそっか……」
「あこさんの話は巴さんのことかゲームの話が大半ですから」
話せば話すほど、妹を持つ者の気苦労やあるある話で共感するのであるが、楽しさと同時にどこか肩の荷が降りるような、そんな感覚に浸るのであった。
「もう11時ですから、そろそろ寝ましょうか」
風呂も済ませ、長い髪を談笑しながら乾かし合って、時計の針が空を向こうとしているのを見た紗夜はベッドの端に腰掛ける巴にそう言って振り返った。しかし、どういうわけか巴の表情は少しばかり固かった。
「その、寝る前に少しだけお願いがあるんです?」
「お願い?」
「その、紗夜さんに甘えさせて欲しいんです」
「甘える……」
巴曰く、あこのいる手前、堂々と人に甘える機会もなく、紗夜しか己を見ていない今の間に少しばかり甘えたい、ということであった。紗夜の表情はそんな悩み混じりの話を伺ううちに、巴の境遇を自分と重ね合わせたのか、柔らかなものになっていく。
「もちろん、良いですよ」
「……紗夜さん!」
許可が出るなり、それなりに溜まっていたのか、巴が柄にもなく紗夜へと抱きついた。いつもは凛々しさを豊かに表現していた巴はその鳴りを潜め、顔を紗夜の胸元へと埋めている。
「お姉ちゃん……なんて、変ですかね」
「……いいんですよ、宇田川さん。今日ぐらい、どんな我儘を言ったとしても」
「……巴って、呼んでくれませんか?」
その言葉に僅かに目線を逸らした紗夜は小さく息をつく。
「……いいのよ、巴。もっとお姉ちゃんに甘えて」
「……お姉ちゃん」
静かな夜を味わい、楽しむように紗夜は巴を慈しむ。その慈愛の籠めた手つきは巴の頭を擡げさせるほどに凶悪なものであった。
「……お姉ちゃん。これ、……いいなぁ」
「ふふっ……」
暫くすると、頭を撫でられることの優しさを十分に堪能したのか、巴が口を開いた。
「紗夜さん、次は紗夜さんも甘えてみませんか?」
「わ、私ですかっ?」
思いもよらぬ巴の提案に狼狽える紗夜は慌てて遠慮の言葉を口にする。
「いやいや、でもこんな時にしか出来ないですから! それにすごいんですよこれ!」
「う、宇田川さんがそこまで言うのであれば……」
結局その押しに負けるがまま、顔を巴に預けて、その翠の髪を手櫛で解かれてゆく。
「巴……お姉ちゃん」
「……紗夜。……あはは、なんか、擽ったいですね」
「……えぇ、ですが……」
先程まではぎこちなかった紗夜の表情も少し穏やかに、この異質なシチュエーションを楽しめるほどにはリラックスしていた。だが、まだ、そこには心の障壁があることは否めなかったのだ。
「紗夜さん」
「えっ、んっ……?!」
徐に顔を上げた紗夜の潤いに満ちた唇が紡がれる。突然の巴の行動に困惑した紗夜は数秒後に我を取り戻したかのようにハッとしたが、続け様に巴の口づけに責め立てられ、反論の言葉すら思い浮かばないほどに翻弄されていた。
「……ぷはっ。い、い、いきなり何を?!」
「……ごめんなさい。紗夜さんが可愛すぎて、つい」
「かわっ?! ……そうですか」
「えっ? んんっ! ん……んれろっ」
少しだけ不安を駆り立てるような態度から突然紗夜は反撃の狼煙を上げるが如く巴に接吻を繰り返した。
「巴さんだって、こんなに可愛いんですよ?」
「紗夜さん……」
さっきまでは突然の行動に拒絶を示していたはずが、今となっては絡みつくように密着して、舌を絡め合う濃厚な接吻を浴びせ続けている。それは姉妹なんていう垣根を超えて、艶美な夜を形作っていた。
「……紗夜さん、脱がせていいですか?」
「無粋というものですよ」
舌を絡めながらも、互いが産まれたばかりの姿を晒していく。決して互いの妹にも触らせないような膣といったデリケートな部分まで、細い指で触り合っている。
「んっ、……はぁっ」
「巴さんはとても可愛い声で鳴くんですね?」
「……紗夜さんだって!」
「んひっ、あんっ……」
「胸も、弱いんですよね?」
「あっ、だって……触り方がっ……」
風呂上がりで火照りを残していたのか、非現実を生きていた2人の体は驚くほど早く快感を貪る。
「んあっ、指っは、挿れちゃ、あっ、んああっん!」
「さ、紗夜さんだってぇっんひっ、はぁあっ!」
それまで静かであった部屋は数分のうちに淫らな声で騒がしくなる。きっと妹がいればこんな姿は見せられないし、悟られることすら憚られる、乱れた姿。
「さ、さよ、紗夜さ、あっあっ!」
「あ、はぁっ、あっ、イ……!」
互いに震える体を抱きしめ合ってベッドへと倒れ込む。先にその絶頂から意識を取り戻した巴は、準備をしていたかのようにベッドサイドから太さのあるディルドを取り出した。竿のない少女であろうと楽しむための玩具。その片方の頭を興奮に濡れた自分の膣へと、澱みなく挿し入れる。難なく奥まで突っ込まれたその竿を、今度は寝転がっている紗夜の顔の前へと出した。
「これ、……挿れますね?」
「んへっ? んんっ?! んはぁっ……巴しゃっなに、何をぉっ?!」
「んっ、あっ……ぐぅっ……!」
紗夜の意思とは関係なしに、興奮と快楽に酔った紗夜の膣はその太い棒を瞬く間に飲み込んでゆく。大人びているようで、無垢なその穴に突起が引っ掛かるたびに甘い声を上げた紗夜は、全身の痙攣を堪えきれずに、覆い被さった巴にしがみついた。
「紗夜さん……可愛い……ですねっ」
「な、あっ、ちが……あっ、……んんっ!」
巴が腰を左右に揺らすだけで、2人の膣に挿入された棒が性感帯を押し潰そうとしていた。そこから立ち上る快楽はあまりにも強大で。
「んぎぃ……あっあっ! と、巴さんっ! 動か、ないでぇっ!」
「紗夜さんっ、紗夜さん!! んひっあっ!」
2人の行為に湿潤な膣から勢いのあまり何度も愛液が飛び散る。それはベッドのあちらこちらにシミを作り、情事を儚くも優艶に描いていく。だが、極度の興奮で愛液がどれほどのシミを作ろうとも、巴の動きはまるで止まろうとはしない。
「んあっ、あっ!! また、またイキますからぁっ!!」
必死の静止を呼びかける声も、遍く紗夜の思考を塗りつぶす快楽の桃色に上塗りされて、その声がさらに巴を煽り立てて、激しさを増してしまう。
「い、いいですよ!! おかしくっ、んはぁっ、なって!」
2人の顔はもうすでにその快感のキャパを越えてしまっていることを物語っていた。絡み合う舌と舌に想いが混ざり合う。
「んああっっ?!」
「んはぁあっ! ああっ!!」
遂に絶頂に達した2人は大きな声を上げたまま脱力する。2人の体は折り重なるように崩れた。酸素を欲する紗夜の体が大きく上下して、それに応じて意識を失いかけた巴も呼吸を重ねた。
「紗夜……さん……」
「あっ……巴……さん」
色情に伏した互いの荒い息と共に夜はさらに深まり続ける。2人にとってあっという間に淫らに染まった夜は過ぎて、朝になる。2人の目線は昨晩のまぐわいを思い出してか、相手の体しかまともに直視することが出来ない。けれども、姉としての心持ちを全て忘れ去って、1人の人間としてただ純粋に欲望に塗れることの愉しさを知った。紗夜はそんな日々の息抜きに感謝の言葉を告げて、宇田川家から去るのだった。
それと入れ替わるようにして。
「ただいまー! おねーちゃん!」
「……おっ、おかえり。あこ」
「えへへー! おねーちゃん聞いて聞いて! って……どうかしたのー?」
「……え? いや何でもないぞ?!」
「嘘だぁ! だってなんかニヤニヤしてるし!」
「えっ、ま、まぁ? 良いことがあったと言えば……」
「教えて教えて!」
「あこも話すことあるんだろ?!」
妹にせがまれながら、けれど、こんなこと妹に言えるはずもなく、またもモヤモヤとした気持ちを包み隠して妹の話をじっくりと聞く、姉の姿がそこにはあったのである。
「ただいまおねーちゃん! ロケ疲れたよぉぉぉ!!」
「お、おかえり日菜。もう少し静かに出来ないの?」
「冷たい! あっ、お土産あるんだよ!」
その日の晩。以前までは冷たい糸がピンと張られたようだった氷川家には、活気が取り戻された。日菜が行ってきたという土地の銘菓を受け取りながらも、日菜からの質問に曖昧な返答しかしない紗夜を日菜は疑いの目で見上げた。
「なーんか、おねーちゃん怪しい……」
「ど、どうしてよ?」
「……あたしが目を離した瞬間ニヤニヤしてた」
「ニヤ……?! 気のせいよ、気のせい」
「何か良いことでもあったの?」
「……まぁ、それは、そうだけど」
冷たそうに返すものの、紗夜の顔には昨晩の光景を思い浮かべてか笑みが綻んでいる。
「何っ? なんだかるんっ♪ってした! 何があったの?!」
「な、何でも良いでしょう?!」
「やーだ! 教えてよ! ……なんか、巴ちゃんの匂いがする」
「……えっ?!」
「あたしの匂いもつけよーっと!」
「やめなさいって! 日菜!」
マーキングの如く姉に擦り付く妹。紗夜は、その妹の楽しそうな表情と、昨晩見た巴の興奮に満ちた表情を交互に思い浮かべるが、悟られてはまずいと心を切り替える。そして日菜を労う言葉を掛ければ、予定調和のように日菜は尻尾を振って喜ぶのである。そこにはまさしく姉、紗夜の姿があったのだった。