夜の秘事【沙綾】
「……どうしよう」
今私の目の前に置いてあるのは、普段生活する上であまり見慣れないような器具。
ほんの出来心、ほんの出来心だったのだ。ただオンラインショッピングサイトで、たまたまページに表示されて、たまたまページへのリンクを押してしまって、たまたま買おうとしてしまった、あの時の自分を思い切り叱りつけてやりたい。そんなふうに考えても後の祭りで、私の目の前には。
「どうしてこんなの買っちゃったのよ私……」
分かる。使い方が分かる。どこに押し当ててどんな風になるのかもわかってしまう自分が一周通り越して忌々しかった。数日前の夜読んでるうちに恥ずかしくなって、すぐにページを消して、履歴までご丁寧に消したけど、私の脳みそはどういうわけか、天邪鬼のようにそこの部分だけ強烈な記憶として残してくるのだった。図解というか、動画で紹介されていて、とても分かりやすかったのだ。だからきっと、仕方がないんだ。
「捨てようかな……、いやいやでもこんなの捨てたのバレたら……」
お母さんからの目線なんて想像しただけで恐ろしいし、純や紗南に見つかるなんて最悪だ。いや、きっと何に使うかなんて分からないだろうけど、自ら大切な妹や弟を穢しにいっているようで。
いやいや、そもそもこういうのを使うというのを後ろめたく思うからダメなのかもしれない。いっそポピパのみんなに聞いて……いや、ダメだ。もうそんなことをした暁にはみんなに合わせる顔なんてない。多分これが何か分かるのなんて精々有咲ぐらいだろうけど、それでも自らそんなこと相談するなんて拷問と何ら変わりなかった。
「ほんとどうしよう……」
そんな悩む私を、この無機質な玩具たちは嘲笑するがごとくその派手なパッケージを見せつけてくる。自分がほんの僅かな気の迷いで買ったものだと言うのに、それらを見るのは本当に堪えられなかった。見ているだけで、何だかモヤモヤしてたまらない。
「……一旦閉まっとこう」
もし純や紗南が部屋に入ってきても絶対にバレないように、ベッドの下のスペースの奥の奥に仕舞い込む。これならきっとバレることはないだろう。そんな風に自分に言い聞かせてのそのそとベッドに潜り込む。フレッシュグリーンのベッドは、電気が消されて黒へと変わった。私も何もかも忘れようと目を瞑ったのだった。
のそのそとベッドから這い出る。枕元のスマートフォンの画面をタップすると、ぼっと明かりが点いた。
『00:12』
そんな表示が目に入る。
「寝られるわけないよぉ……」
今私の寝ているベッドの下には……下には。ぼんやりと脳に浮かんできたのはあの妙に丸みを帯びた、そんな物体。……ダメだダメだ、そんなこと考えてたらもっと眠れなくなる。明日も学校なのに……。早く寝なきゃだめなのに……。
「……ちょ、ちょっとだけなら」
それを奥底にしまうだけだとモヤモヤが取れず眠れなくて、恐る恐る小さな明かりだけでベッドの下から箱を取り出す。奥底に閉まっていたつもりだったが、枕のある面から取れば結構簡単に取り出せた。取り出した箱の中にはやはり変わらず、夜の玩具たちが整然と並んでいた。
「開けちゃお……」
このまま布団に入ったところで眠れそうにないし、ならばとりあえず開封だけでもしてしまって拝むだけ拝んで寝よう、そう考えてベッドの上で包装から取り出した。……しかし。
「うっ……、や、やっぱりだめっ! 寝よう!」
見ているだけで恥ずかしくなる。箱に乱雑にそんな玩具たちを戻してベッド横に放り投げて、布団に潜り込む。
どうせ朝早く起きるのだし、純や紗南に見られることもないし、そう思って目を閉じる。すでに夜も遅かったからか、意外とすぐに私の意識は落ちていった。
「んっ、はぁっ……はぁっ……」
なぜだろう。こんな夜中に目が覚めたのは。まだまだカーテンの隙間から見える外は真っ暗で夜中なのはすぐに分かる。けれど、なぜか私の足は言うことを聞かなくて、両の太ももを擦り合わせていた。それだけならまだしもどこか体が熱く感じられて、湧き上がる情は抑えられそうになかった。
「うぅ……脱いじゃお……」
紐の緩んだパジャマのズボン。それはいとも簡単に脱ぐことができて、すでに様子のおかしい下着が露わになる。触ろうとしたわけでもないのに、まるで他の人に無理やり動かされているように、震えながら右手が自分の股の間へ伸びた。
「うそぉ、やだ……」
すでに自分でも驚くほどにぐしょぐしょで、下着の布地の上から触っただけなのに湿り気がする。きっとこれではかたがついてしまっても仕方がない。それほどまでに濡れていて、それでいて。
「あっやばこれぇ……」
普段あまり自分を慰めたりなどしないのだが、今日はまるで気分も違った。割れ目のところから少し手前を引いて指でそっと擦り上げると、体が打ち震えるほどに奥底から何かが込み上げてくるようだった。
「はっはっ……あぁ……いいっ」
気がつけば下着も脱いでしまっている。自分ではそんなつもりもないのに。
「あっあ……んんっん……んはぁ……」
人差し指と中指でクリトリスの周りを挟み込んで弄ぶだけでは飽き足らず、伸びた指はそのまま割れ目の奥へ、ゆっくりと、ぬぷりという卑猥な音をこぼしながら沈み込んでいった。
「あひぁっあっ……あっひっあぁ〜……」
情けない声だなぁなんて思いつつも、私の指は全然止まってくれなくて、それどころか自らビリビリと痺れるような場所を探して、蜜の止まらない膣の中を指が這いずり回っていた。私の意識とは裏腹に、手の空いていた左手もいつのまにか上着をまくって、ピンと勃った乳首を慰めているのだった。
「いっあっああっ、あっいくっ、いくっ……ん!」
波が岸壁に当たり砕けるように快感が溢れる。けれども、そんな少しの快感だけじゃ私のこの性欲が収まらなくて、自然とさっき見ないふりをした箱の中に視線が伸びた。
「はぁっ……はぁっ……、これ……」
考える時間すら惜しい。いちばん手前にあったものを取り出した。わかりやすいほどのピンク色をした吸盤のような、パッドのような形をしたシリコン。きっとこれは胸を包むように付けるのだろう。固定具で胸にハマるように取り付ける。
何が起こるのだろうか、予想はつきつつも、自分がどうなってしまうか分からない不安と興奮で心臓がバクバクと脈打っていた。恐る恐るスイッチを押すと……。
「あひっ、あっあっああっ……ひあっ」
最初はゆっくりとした駆動音とともに振動が始まったものの、やがて細かく震え出すと、ずっと同じテンポで乳首に吸いつかれているような、そんな感覚に溺れる。
「へっ、あふっ、あっあっあぁ〜、んあっ」
断続的に起こる震え、頭がおかしくなりそうだった。けど、立ち止まることなんて出来なくて、乳首が責められている間も私の右手の指は、くちゅくちゅと音を立てながら膣を掻き回し続けていた。自分の体が浮くぐらいに激しく掻き回し続けていると、触ってもいないのにクリトリスが振動で震えるみたいで、何度も目の前が真っ白に染まりそうになった。いや、もうなっていたのかもしれない。
「ふあっ、あっ、うぅだめっ……あっんああっ!」
さっきよりも短く、小刻みにピクリと腰が跳ね上がった。呼吸しようとしても何故かうまくできなくて、息を吸おうとしているのにどういうわけか息が小刻みに吐き出されていた。
「はあっ……はっ、まだ、あるよね?」
さっき乳首ローターを取り出した箱をひっくり返す。中からはゴロゴロと、まだ開けるだけ開けて使っていない玩具が転がってきた。卵のような形をした、コードつきのローターと、長く、卑猥な形をなしたバイブ。すでに私の思考回路は溶けきっていて、私の顔は普段からは考えられないほどの恍惚に浸かった表情をしているのだろう。これがメスになるということなのだろうか。
ただ頭の中を快感だけが支配していて、自然と手がそれに伸びていた。私の胸に張り付いた吸盤は、未だに震えを止めておらず、イッたばかりの私頭の奥をこれでもかと言うほどに無茶苦茶にしていた。
「これっ、クリにぃ……ひうっ」
冷たいシリコンが触れるだけで、なぜか腰が捩れるほどに気持ち良かった。これをつけたらどうなるのだろうか、そんな期待を抱いて、クリトリスの少し上の辺りに押し当てたまま、ボタンを押してしまった。
「あひぃっ?! んあぁ……!」
途端にまるで全身の隅々にまで一瞬で電流が駆け巡ったみたいに、ビリビリとした。目の前がチカチカして、視界がぐるぐる回った。
「んんあっ、あっあっあぁっ、ひうっ?!」
だめ、おかしくなりそう、そんな言葉が頭の中で響くけれど、手は止められなくって、ベッドの上に残った最後のおもちゃを右手で手に取った。男性のあそこを象ったそのバイブは酷く扇情的で、無機物だというのに、もう私のおまんこは、それが欲しくて堪らないとばかりに蜜をこぼし続けていた。
「これぇっ、挿れちゃってぇっいいよねっんあぁ……」
震える右手でそんなバイブを握りしめる。ゆっくりと先端を割れ目に押し当てた。ぷちゅりと水の跳ねる音がする。そして私は意を決して……それを挿れた。
「ん……あっ、ああぁ……んあぁ……」
最初は手前にちょっと挿れるだけ。その間も私の胸とクリを虜にしたローターたちは休むことなく震え続けていた。ずぶり、ずぶりとバイブは沈み込んでいく。意を決して……私はそれを押し込んだ。
「んっ……へ? あっ……んぁああっ?!」
口から漏れる嬌声は抑えようとしても抑えられなかった。ダメだ、こんな声出したらみんなに聞こえちゃうのに……。そんな考えも気がつけばすぐに消えて、けどすぐに思い出しての繰り返しだった。けれども、バイブを小刻みに動かす私の手は休むことはなかった。私の視界の端にはバイブの電源ボタンがある。……私は、それを躊躇うことなく押し込んだ。
「んっ、んん〜〜〜?!?!」
もうダメだと咄嗟に枕に顔を埋め込む。それでも身体中を襲うこの快楽は止まることなくって、乳首も、クリトリスも、Gスポットも、全部が全部おもちゃに快楽の海へと沈められたのだった。
「んんっ、んんっ?! んんん!!」
だめっ。
「んはあっ、あっあっ、んひぃぃ?!」
おかしくなる。
「ひあぁっあっ、んあっ、あんっっ」
もう止まらないよ。
「ひあっ、いぐぅぅっっ?!?!」
ビクン、ビクンと数度跳ねて、私の体は完全に脱力してベッドに倒れ込んだ。
もう何にも考えられない。私、バカになっちゃった……。
「沙綾ちゃん、おはよう」
「あっりみりん、うん、おはよ」
学校に行かなきゃ、そんな懈怠な義務感でなんとかベッドから這い出た私。正直朝のお店の手伝いとかそんなことできる余裕もなく、ただ学校に行かないわけにもいかないし、そんなぐらいの気持ちで学校の準備をして家を飛び出してきたのだ。
「あれ、沙綾ちゃん元気ないね、目の下の隈もひどいし……大丈夫?」
「……えっ、……あはは、大丈夫だよりみりん、心配してくれてありがとうね」
「ほんとう?」
りみりんはどうもこちらを疑ってくるので、なんとか誤魔化そうと努めて笑顔を見せる。りみりんは少し不思議そうな顔を浮かべてはいたが、どうにかそれで乗り切れたらしい。
けど、やっぱりポピパのみんなにもこんなの言えないよ。
……だって。
「あっ……んあっああっ」
あぁ、おかしくなる。
「ひああっ、んああぁっ……」
だって、こんなにもキモチイイコト、知らなかったんだもん。
「ひぐっ、あんっ、あっあっあっ」
私、もう。
「イクっ、イッちゃっあっ……んあぁぁぁぁ♡」
おかしくなっちゃった。
だからこれは、私だけの夜の秘事。