「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」 作:木桜 春雨
その日、机の引き出しに入っていた白い封筒を見つけたとき、嫌な予感がした。
すぐにでも中身を、そう思ったが、社内では人目がある、一度、会社の外に出て確認することにした。
外に出て周りを、そして近づいてくる人間がいないか、確認して中身を取り出してみる、中に入っていたのは数枚の写真だ、女の一緒にいる、いかにも浮気しているという感じの写真だ。
嫌な予感は的中だ、そして、これは偶然なのか、女の顔は映ってはいない、しかし男は見れば自分だとわかるだろう。
一体、誰がこんなことをしているのか、正直、わからない。
最初は女かもしれないと思ったが、男の可能性だってある、しばらくは行動に気をつけようと思っていた矢先だ、告白されてしまった。
その日、付き合って下さいと言われたときは驚いた。
美人で好みのタイプだということに思わず頷きそうになったが、自分は既婚者だと断るつもりだった。
ところが、相手はそれでも構わないと食い下がったのだ、そして、○○さんとは別れたんでしょうと聞いてきたので驚いた。
付き合いは秘密にしていて社内の誰も知らない筈だ。
それなのに何故と思ってしまった、どうして知っているのかと聞くと、見ていればわかります、あなたのことが好きだからと言われて、すぐには返事ができなかった。
だが、後になって悔やむとになろうとは、このときは思いもしなかったのだ。
ホテルから出たとき、孝史くんじゃないかと名前を呼ばれて男は驚いた、振り返ると知らない男性だ。
ゆっくりとした足取りと雰囲気、着ているスーツから、会社の重役のような印象を受けた。
マサは元気かいと聞かれて、父の知り合いかと思いながら記憶をたぐるが、思い出せない。
「一度、自宅にと思っていたんだよ、本当に助かった、今度、礼も兼ねて行くからと伝えておいてくれないか」
「あ、あの」
「オザキがよろしく言っていたと」
そのとき、一人の女性が社長と声をかけてきた。
「本当は今日、訊ねる予定だったんだが、急に用が入ってね、予定が変更になってしまった、すまない、ここで会ったのも運がいい」
手渡された箱を見ていると女が声をかけた。
「以前、こちらの品を大変、お気に召していらしたので」
秘書だろうか、人目でわかる、自分の会社の女性達とは違うのは明らかだ、オザキという男性が父の知り合いというのが正直、信じられなかった。
孝史さんのお父さんも偉い方なんですか、父の友人と別れた後、近づいてきた新しい恋人が驚いた顔で自分を見た。
「これ、上等な焼き菓子ですよ、予約も大変だって聞いたことがあります」
父親の友人に会ったのは久しぶりだ、けれど、あんな人間がいたとは驚きだと思ったが、それだけではなかった。
友人から預かったと菓子折りを手渡すと、父親はじっと自分を見た。
浮気しているのか、まさか自分の父親の口から、そんな言葉を聞くとは思わなかったと息子は驚いた、まさか、あのオザキという人物だろうか、だが、それはないとかぶりを振った。
目の前に出された白い封筒に驚いた。
「見るなら自分の部屋にしろ」
父親の冷たい声に驚いた、即座に言い訳を頭の中で考える。
ただ、女と並んで歩いているだけの、何故、そこまでと思ったが。
行為の写真だ、ホテル内でのなと言われて、まさかと思った、説明、言い訳の言葉がすぐには出てこない。
「女と手を切って、二度と馬鹿なまねをしないというなら、このことは黙っているつもりだ、だが」
父親は息子の顔をじっと見た。
「息子の顔を見たくないと思うとは」
こんな声を聞くのは初めてだ、誤解だ、浮気なんてていないよ、そう言って安心させるつもりだった。
「美夜は知っているのかい、このことは、ちゃんと説明すれば」
だが、返ってきたのは罪悪感の欠片もないのかという一言だ。
頭の中で考えていた言い訳を、今の父親は聞く事はないだろうと思った、自分を見る視線から改めて、そう思うのだ。
少し時間をおいて、改めて話し合おう、そう言って父親の部屋を出た、そうするしか方法がなかったからだ。
自宅の留守電に今日は遅くなるとメッセージを残して帰り支度に着こうとした孝史だが、上司が呼んでいるという言葉に驚いた。
折角の予定、気分を変えようと新しい恋人と食事に行くつもりだったが、その予定は変更となった。
「実はね以前の出張の件なんだが、向こう側がやはり君の意見、いや、案に変更したいといってきたんだよ」
「えっ、ですが、それは彼女の」
向こうの重役が納得していない、直に君と会って話したいと行っていると聞いて驚いた。
「彼女の案に賛同したのは、あちらの一部の人間らしんだ、どうかね、行けるかい、あちらに、また、大変だが」
行きますと返事をした自分を上司が安堵の顔で見る。
「実は向こうの人間が揉めたらしいんだよ、この案件は君に任せるつもりだったとね、まったく、こちらとしては、それなら最初からといいたいところだ」
「仕方がないですよ」
運が向いてきた、表情には出さないが、胸の中は安堵と高揚感で満たされていた男は自分の周りに罠が張られているなど気づきもしなかった。
オザキは色々と準備しているみたいです。