※この作品はR-18です。

「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」   作:木桜 春雨

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父親は決断した、両腕の銀の輪(女)は予想外のものだった

 決めたんですねと聞かれて正幸は頷いた、数日前まで迷っていたのが嘘のようだと思ってしまう自分にオザキは聞いても良いですかと訊ねた。

 

 「問いつめた時の顔を見て、そっくりだと思った」

 

 息子だった人間が、これから先、どんな目に、だが、自分には関係ないと隣を見た、自分と会うとき、サングラスをしているので細かな表情は分からない、だが、聞いてしまった、泣いているのかと。

 

 否定の言葉に正幸は、確かにと頷いた、今更だ。

 すると、これからもっと泣くでしょう、彼女はと言われて言葉を飲み込んだ正幸は目を閉じた。

 何を言えばいいのかわからなかったからだ。

 

 

 素敵なマンション、これで中古なんですかと美夜は驚いた。

 

 「実は購入者が外国に移住する事になりましてね、突然です、半月程ですが、それでも中古物件になるんです」

 

 室内は綺麗、いや、台所の冷蔵庫、オーブン、洗濯機などの家電も新しい。

 

 「実は買い手が見つからないのは広さのせいなんです、将来的な事を考えると家族が増えたら少し手狭という感じで、売り手側は少しぐらい安くてもいいと投げ売り状態です」

 

 説明をする男はどうでしょうと二人を見る、

 

 「家電も込みです、引っ越し先が海外となると輸送費も大変ですからね」

 「確かに、美夜さん、どうだい」

 

 案内人の男性は、ここぞとばかりに説明する。

 

 「セキュリティですが、しっかりとしています、最近は不審者や泥棒も多いですからね、交番、警察署も近いので、この点は安心していただけると思うのですが」

 

 即金ということだが、正幸の言葉に案内人は申し訳なさそうにはいと頷いた。

 

 「日本に戻ってくることはないということ、支度金として現金のほうが都合がいいとなれば難しいんです」

 

 

 男の説明に頷いた正幸は窓の外を見ている女性の背中を見ていたが、決めたと呟いた。

 案内人、いや、美夜、彼女の方が驚いた。

 

 

 

 

 帰国は明日だ、家に帰るというのに落ち着かないのは、やはり父親に自分の浮気がばれているせいかもしれない。

 多分、いや、妻には話していないだろう、二人は仲が良い、事実を知れば驚いて取り乱すのは目に見えている、そうなったら父は困る筈だ。

 別れる、離婚というのが、想像できないというか、自分に惚れている彼女から離婚をい出すことはないだろう、と思っている。

 自惚れがすぎると言われたらそれまでかもしれない、だが、実際のところ、今まで付き合ってきた相手がそうだったのだ。

 浮気なんてと思っていたが、一度、食事だけでも、デートをと言われて仕方なくと思い付き合う、すると大胆になってしまうのだ。

 

 

 「ああ、やっと連絡が付きました」

 

 父親からだと思ったらスマホの向こうから聞こえて来たのは落ち着いた男性の声だ。

 誰だろうと不思議に思うと、お父様の弁護士をしておりますと言われて女は驚いた。

 

 「大事なお話です、お父様が亡くなりました」

 

 男の言葉がすぐには理解ができなかった、それは続く言葉のせいだ。

 聞き返すと、そうですという答えだ、簡素、単調、いや、事務的な口調に女は信じられないと呟いた。

 足下がふらつくのは気のせいだ、どうして父が亡くなったなんて、信じられない、嘘だと思った、とにかく自分のとるべき行動は。

 

 「いつから、そちらに」

 

 男の質問の意味が分からなかった。

 

 「あなたですね、父さんを」

 

 男の言葉に何を言っているのかと聞き返そうとした、そのとき、名前を呼ばれて振り返ると二人の男性が立っていた。

 壮年で眼鏡をかけた鋭い眼光の、もう一人は背の高い少し若い男だ。

 自分に向けられる視線が普通でないことに気づいた女が感じたのは不安という、今まで感じたことのないものだ。

 どうして、そんな目で自分を見るのか、聞こうとした瞬間、男が手を伸ばし、女の腕を掴んだ。

 

 両手にはめられた冷たい感触、それが手錠だと気づいたき、女は牢獄の中に閉じこめられてい

た。

 

 

 

 

 

 一冊の通帳、それは夕食の後、マンションの購入に使ってくださいと手渡されたものだ。

 独身時代の貯金、結婚してから、家計の月々に余った金というが、中を見た正幸は、わずかに眉根を寄せた。

 

 「結婚してから専業だったので、それほどの金額ではないんです、でも、お義父さんが全額出すのは駄目です」

 

 少し考えたが、結局のところ受け取ったのは彼女の表情に困惑したからだ。

 

 「わかった、新しい場所で生活が始まれば何があるかわからない、その時の為に使わせて貰う」

 

 孝史の単身赴任という事だが、それは表向き、実際のところ、完全な決別だ、切り捨てるのだ。

 

 「明日から荷造りを始めますね」

 「最低限の荷物だけですまそう、一度、泥棒に入られるゲンが悪いとかあるだろう」

 

 多少の後ろめたさ、罪悪感がある筈だ、なのに目の前で笑う彼女の顔を見ると、それが和らいでしまう。

 その感情に蓋をし、正幸は通帳を机の引き出しにしまいこんだ。

 

 




女性の名前はなしにしました。
 一応ザマァというか、孝史と同じ人間ということで。

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