「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」 作:木桜 春雨
今まで登場人物の名前はあまり出さず、男、女と書いてきましたが、今回、ちょっと設定してみました。
夫 孝史(タカシ) 大学時代からモテていた、現在も複数と浮気続行中
妻 美夜 (ミヤ) 夫の浮気に気づかない大人しい女性
義父 正幸 (マサユキ) 少し前から息子夫婦と同居することになった、妻は鬼籍
オザキ 性別は不明 孝史二を恨んでいる
京介 (キョウスケ) 孝史の友人
黙っていて悪かったけど、息子の言葉に父親は静かに頷いた。
「子供がいないと不幸だなんて思ってるのか、父さん」
「いや、そんなことはない、夫婦二人でも仲良く暮らしていけるなら十分だろう」
「ああ、それに俺は妻を愛している」
だったら何故と聞きたい、いや問い詰めてしまいそうになる、だが、言い訳をするのは目に見えているし諫めたところで夫婦の問題だと言われたら、そこで終わり、解決はしないだろうと思ったからだ。
いや、正直なところ、その気力さえなかったといえるかもしれない。
ばれたとしても謝れば許してくれる、オザキの言葉を今更のように思いだした。
改めて本当に、そっくりだと思ってしまう。
自分は、どうすればいいと思いながら、机の上のスマホを見た、連絡して下さいというオザキの言葉を思い出した。
手を伸ばそうとしたが、その手が寸前で止まってしまう、弱い人間だ、自分はと改めて実感した。
「お義父さん、今日は出かける予定とかありますか」
朝食の後に予定を聞いてくる嫁に不思議そうな顔をすると宅配が来るんですと言われて正幸は品物派と尋ねた。
「カーテンとラグマットです、あと、ホットカーペットも届くと思うので、少し冷えてきたでしょう、お義父さんの部屋にと思って」
「私の部屋、いや、そんな事までしてくれなくても」
「それから買い物です、下着や服、靴も色々と替えが必要でしょう」
自分よりも孝史のことをと言いかけると、彼女の表情が少し曇った。
「あの人、こだわりがあるみたいで、いつも自分で用意してます」
そうなのかと頷くと用が片づいたら後で買い物に行こうかと声をかけた。
机の上に置かれた封筒を不思議そうに見ながら、自分宛であることがわかると中を確認しようと封を切った。
あと少しで仕事が終わる、今日は家に帰るつもりだった。
だが、付き合っている女から大事な話があると呼び出されていたので、つい先ほど自宅に遅くなると連絡を入れたのだ。
時計を見て、後でいいかと封筒を鞄に入れて男は待ち合わせの場所へと向かった。
待ち合わせは喫茶店の筈だったが、ここではまずいからと女は店を出ると公園へと向かった。
見て欲しいモノがあるの、怒りながらも不快さを隠そうともしない女の顔と態度に一体、何があったのかと不思議に思ったのも無理はない。
ところが、見て欲しいと言われたもの、写真を見て男は驚いた。
自分と女がホテルに入るところ、一緒に歩いているところなど数枚の写真を見せられて驚いた。
「今朝ね、ポストに入ってたの、ばれたらまずいわ」
「一体誰が、こんなこと」
男は写真を見ながら、ふと女の表情に気づいた。
「あなたじゃないの、これ、送ってきたの」
「何故だ、俺が」
「あたしと別れたくてやったのかと思ったわ、他にも付き合っている人がいるんでしょ、だから邪魔になったとか」
馬鹿なこと、確かに今、付き合っているのは目の前の彼女だけではない、だが、邪魔だと思ったことも、別れようと思ったこともないのだ、こんな事をしてどうなるんだ。
そんな言葉に女は冷めた眼差しを返してくる。
「会社に知られたら大変、まずいでしょう」
「ああ、だが」
「奥さんと別れて、あたしと一緒になる、そんな事、考えた事もないでしょう、あなた」
すぐに返事ができなかったのは図星だったからだ。
「大丈夫なの、本当に」
「おい、なんだよ、それって」
「役職に就いているでしょ、家の方には送られてないの」
奥さんに知られたらどうするのと言われて想像する、だが、このとき、先ほどの机の上の茶封筒を思い出した。
友人からの連絡を受けて、孝史は待ち合わせの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
「悪い、待たせたな」
「いいよ、それにしても珍しいな、いきなりじゃないか、困ってるって言われたときはびっくりしたぞ」
大学の時からの付き合いの京介は、ああ、凄く困っているんだと珍しく弱音を吐いた。
「これだよ」
目の前に出された白い封筒、そして、今、仕事は忙しいかと聞かれて孝史は不思議そうな顔をした。
「旅行券、この際、知り合いでもいいんだ、もう日がないし、勿体ないだろ、タダでやるよ」
「なんだ、おまえは行かないのか」
正直、自分が行きたいと思うようなところじゃないんだ、それに静かすぎるのも苦手なんだ、ついでにいうと寒いのも苦手だというダメ出しに孝史は笑った。
「そうだ、おまえのオヤジサンはどうだ、たまには親孝行しろよ、今、同居してんだろ、確かアパートがぼや騒ぎで大変だったんだろう」
「ああ、驚いたよ、でも、色々とあいつが世話してくれるし、ふーん、ペアチケットか、貰ったのか」
「親戚の叔母からだ、無駄にできない、よく見ろよ、昔の作家、文豪が愛した宿とか、一時期、流行っただろ」
「わかった、ありがたく貰うよ」
骨休めに旅館でゆっくりしてきたらいいよと言われたとき、正幸は驚いた、一体どういう風の吹き回しだと。
友人から譲って貰ったけど、本人は都合が悪くて周りに行く人もいなくて無駄にしたくないということらしい。
「ペアチケットなんだ<美夜と行ってきたらいい」
「だったら、彼女が友達と行けばいいだろう」
父親の言葉に息子は首を振った。
「日付を見てくれよ、来週なんだ、もう日がないだろ、いきなり誘われても困るだろ、それに文豪が泊まってた旅館っていうし、好きだろ」
チケットを確認した正幸は困惑した表情になった。
その夜、スマホの着信に気づいた。
「旅行、楽しんできて下さい
協力してくれるんでしょうと言われ、返事ができない。
すると、それがあなたの答えなんですよと言われて正幸は無言になった。
これで自分はは友人を裏切ったことになるのか、いいや、違うと男は自分に言い聞かせた。
時間を巻き戻す事はできない、だが、何もしなければ後悔することになる、失ったものを少しでも取り戻したいと思ったら、こうするしかない。
それだけは、はっきりしていると京介は自分に言い聞かせた。
ざまぁ系、短編、読み切り野場合和えて登場人物を詳しく名前を決める事はないので酢が、今回は続き物ということもあり、あえて名前だけ設定しました。
オザキだけ名字、名前を決めてしまいましたが、今後はオザキで統一仕様と思います。
人物紹介だけだと短すぎて更新できないので、続きもまとめて不Upしました。