※この作品はR-18です。

「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」   作:木桜 春雨

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帰国する男(少しずつの変化)気づかない男、そして日本での泥棒騒ぎ  

  

 「いやあっ、大袈裟なんだよ、ちょっと転んだだけなんだ」

 

 はははと笑い飛ばす友人の言い訳に正幸は呆れた顔になったが、だが、友人の息子とそばにいた嫁はとんでもないと首を振った。

 

 怪我をして入院することにしれないと聞いた時には驚いた。

 

 「いや、オヤジ、大袈裟じゃないだろ、家に着いた時は真っ青な顔をしていたじゃないか」

 

 息子の言葉に、そのときのことを思い出したのか、いや、あのときはだなと言い訳をする友人に正幸は、ほっとながら大事に至らなくて良かったと安堵した。

 

 「おじさんのところのお嫁さん、美夜さんには本当に感謝です」

 「助かりました、二人して玄関先でずぶ濡れの姿を見たときは、本当に」

 

 友人の息子と嫁に頭を下げられ、正幸はいいやと首を振った。

 

 「あの、これ焼き菓子の詰め合わせです、よかったら」

 「おっ、そうだ、ついでに、これも」

 

 菓子の箱を、だが、友人からは封筒を渡されて正幸は顔をわずかにしかめた。

 

 「安心しろ、貰いもんの食事券だよ」

 「だったら、息子夫婦に」

 「イタリア料理なんだよ、息子と嫁は、ちょっと苦手なんだよ、オリーブオイル、チーズがあまり好きじゃないんだな」

 

 そばにいた二人は、そうなんですと頷いた、息子夫婦からも言われて正幸は受け取ることにした。

 好き嫌いはないはずだ、朝食にピザトーストが出たこともある、きっと喜ぶだろうと思い正幸は帰途についた。

 

 

 数日前の雨は激しい土砂降りだった、といっても長くは降り続かなかったが、そのとき外出だった友人は歩道橋の階段で足を滑らしたのだが、そこを偶然、通りかかったのが、彼女だ。

 

 

 ようやく、出張が終わる、日本に帰れると思うとほっとした、以前なら、そんなことは思わなかっただろう、だが、今回に限っては別だ、仕事は順調だった。

 だが、それは自分がいたからではなく、元、恋人の功績といってもよかった。

 相手側のクライアントが手放しで彼女の助言やアドバイスを受け入れたことには上司も驚いていた。

 それどころか、上司からは君に来て貰ったのは悪かったという言葉が出てきたくらいだ。

 ならどうしてと思うが、仕事に関しては予測不能の事態などあっても珍しくはない。

 おもしろくないと胸の中では思いながら、不満を顔には出さずにいた。

 帰りの飛行機で自分が座るはずだった席には海外のクライアントが座っていて小声でパソコンを見ながら話しているのもおもしろくなかった。

 会社に着くと机の上の整理を簡単にすませて、思いついたのは気分転換のデートだ。

 

 姿を見つけて、女性に声をかけると少し驚いた顔で迎えられた。

 

 「どうしたんです、てっきり、まだ」

 「これでも予定は延びたほうなんだ、よければ、今から」

 

 食事にでもと誘いの言葉に女は笑いながら、ごめんなさいと軽く首を振った。

 

 「予定があるんです」

 

 そのとき、背後からの足音に女が振り返った、近づいて来るのは男性社員だが、見たことのない顔だと孝史は思った。

 女は小声で囁くように呟いた。

 それに対してすぐには言葉が出なかった、ああと頷いた自分の、それを了承の返事と受け取ったのかもしれない。

 二人の男女の後ろ姿を見送る自分のそばで女性社員の声が聞こえた。

 

 「羨ましいわね」

 「あら、仕事のパートナーじゃないの」

 「そうなの、てっきり」

 

 会話だけではない、女性社員の表情には羨望の色が伺える、そのことに不満を感じている自分がいた。

 

 連絡をしていないので帰ってもすぐには食事にはありつけないかもしれない、だったら外ですませてしまおうと入ったのはチェーン店の牛丼屋だ。

 折角、帰ってきたばかりだというのに、何故、こんなところで食事なんかという気持ちがあった。

 かき込むように素早く食事をすませると店を出た、家に帰るかと思い、店を出たときだ、おい、孝史じゃないかと声をかけられた。

 振り返ると友人の姿が、そこにはあった。

 

 「どうしたんだ、いつ帰ってきたんだ」

 「ついさっきだ、で、今から家に帰ろうと」

 

 すると友人は驚いた顔をした。

 

 「おまえ、連絡してないのか、帰ったところで誰もいないぞ」

 

 孝史はえっとなった。

 

 

 

 

 「運が良かったですよ、奥さん」

 

 割られた窓ガラスを見て警官は驚きと怒りの表情を浮かべた。

 

 「最近は通帳などは見向きもしないケースがあるんです、手っ取り早く現金を、日本人もですが、外国人も多いんです」

 

 頷く女性被害者の顔色はよくない、当然だ。

 

 「実は現場をもう少し詳しく調べたいので今夜はホテルに泊まって貰えるとありがたいのですが、よろしいでしょうか、勿論、こちらで用意します」

 

 警官の言葉にそばでで聞いていた正幸は頷いた、そして運が良かったという警官の言葉の意味を改めて感じていた、もし犯人と遭遇していれば現金どころではない、怪我、命までという可能性もあるのだ。

 息子に連絡をと思ったが、あちらからすぐに戻ってこれるわけでもない、それに警察から色々と聞かれて自分もだが、彼女も疲れている筈だ。

 

 

 

 警察がホテルまで多くってくれたのはありがたかった、部屋で、これから祖木の事を考える、泥棒がスマホをベッドのそばのサイドテーブルに置くと、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 「お義父さん、食べ物と水を買ってきました」

 「ああ、気分は、もしかしてホテルの外に」

 「ロビーの自動販売機ですよ、外にでるのはやめたほうがいいって、警察の人も言ってたじゃないですか」

 

 そうだったと思い出し、孝史に連絡しようかと聞くと彼女は首を振った、心配をかけるだけだ、それにすぐには戻ってこれないと言われた瞬間、頷いてしまう自分がいた。

 

 「でも、少し間抜けですね、現金は床に落としていったし」

 「通報の音に驚いたんだろう、通りかかった散歩中の人が異変を感じて声をかけたせいもあると警察は言ってたからね」

 

 運が良かったよという正幸の言葉に、安心したのか、このとき、ようやく彼女はほっとしたような笑みを浮かべた。

 

 




 日本に帰って来ると、予想外のことが。
 そして恋人の一人は、これは別れ話でしょうか。
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