奥まで届いてすぐ蕩ける
人は誰だって健康でいられないときがある。
というよりは、生けとし生けるものはみな、苦しみの中を這いずり回り、その時々で巡り合わせによってたまさかに恵まれるときもある、という方が正しいかもしれない。
だから辛くて立ち上がれないときや、病で起き上がれないときだって、あるのだ。
「うぅ……生きるということはそれ自体が苦しみ……」
「また大げさな」
「ウルウは風邪ひいた時も理屈っぽいですね」
「うぐぅ……」
まあ、普通に風邪ひいたんだよね。
この体って前世よりかなりの健康体だし、適度な運動と適度な食事、睡眠もしてるし、いままで不調らしい不調ってなかったんだけど、まあ、油断したよね。
「あったかくなってきたとはいえ、さすがに水遊びしてそのままはよくなかったですね」
「濡れたまま横になっちゃったものね。そりゃ冷えるわよ」
「君らのアホみたいな元気に付き合わされる身にもなってよ……」
「めっちゃはしゃいでた大人がなんか言ってますよ」
「めっちゃはしゃいでたわよねえ」
「やめて」
いやまあ、はしゃいだははしゃいだけど。
川遊びって、なかなか機会ないじゃん。
いい感じに水量があって、でも流れはそこまで急でもなくて、水は澄んでて、ほどほどに魚とかもいるっていう、まあ稀に見るベストスポットだったんだよね。
今日は早めにここらで野営しようかってなって、あれこれ終わってやることもなくなってさ、そりゃちょっと遊びたくもなるじゃん。
まあ、言っても私だ。
最初はこう、暇つぶしに軽く水切りしてみる程度だったんだよ。
ほら、平べったい感じの石を投げて、水面をはねさせるやつ。
おっ、いまのいい感じに跳ねたんじゃないかなとかやってたら、トルンペートが横からひょいって石投げて、何回も跳ねさせてしれっと反対岸に届かせてやんの。どや顔付き。かわいい。
それでまあ、生意気なってことで私も
そしたらリリオが子犬みたいに駆け寄ってきて私もやりますって適当な石を拾ってさあ……リリオの適当な石ってさあ、ヒト殺せるサイズなわけでさ。
止める前にとーおぅってぶん投げたもんだから、水しぶき盛大に上げた上に反対岸の木の幹にめり込んでやんの。
一度濡れちゃったら後はもう、同じってことで水切りしたり足滑らせて川に落ちたり、水かけあったり、そのままごはん用に魚獲ったりカニ獲ったり……。
いやふたりとも同じくらい濡れてるし、そのまま自然に乾くに任せてたよね?
私だけ風邪ひくのは納得いかないんだけど???
「まあウルウは普段からはしゃぎなれてないですし……」
「急にはしゃいで熱出すのあるあるよね」
「ちっちゃな子供のやつでは???」」
まあ、最近は神経張り詰めてたり、ふたりを監禁したりメンタルがよろしくなかったからな……二人とも簡単に死んじゃうとか言いながら私が風邪ひいてるの本当に情けないな。しんどくなってきた。
「風邪を引いてるときは心がしんどくなるものですよ。しっかりお布団かぶって、ゆっくり休んでください」
「そうそう。滋養のあるもの食べて寝てれば治るものよ」
「うう……ふたりの気遣いが逆につらい……」
「うーん、この面倒くささ、ウルウって感じです」
「癖になる面倒くささね」
「なんか適当にあしらわれてる……」
なんて。
しばらくはそんな風に軽口も叩いてたんだけど、いよいよ熱が高くなってきたのか段々気も遠くなってきて、うつらうつらしたり、急に落ちるように眠っちゃったり、はっと目が覚めたり。こういう時素直にぐっすり眠っちゃえたら楽だとは思うんだけど、なんでだろうね、昔から熱を出したときはうまく寝付けなかったものだ。
父がいた時は、子供のころは、よく眠れたように思う。たまご粥を食べさせてもらって、汗を拭いてもらって、寝入るまでそばにいてくれた。機械仕掛けのように安定した手つきが、私を安心させてくれた。時々目が覚めてしまっても、父の気配があれば、すぐに落ち着けた。
でも一人暮らしで風邪をひくと、どうしようもなかった。
そもそも熱が出た程度では休めなかった。家に帰って立ち上がれなくなって初めて体調不良を自覚できた。休日も職場から連絡が来るのが怖かった。いつも誰かに見られている気がした。目覚めるたびに時計の針が進んでいないことにおびえた。いや、時計の針が進んでいることの方が恐ろしかった。朝が近づくのが怖かった。仕事に行かなければ。
いまは、なんだろう。
決して広くはない馬車の二台で、うとうととしていること自体が、なんだか心地いい。少し離れて、ふたりの話している声に安らぐ。何をしゃべっているのかはわからない。けれど、そこにいてくれるのだという事実が、息苦しく寝苦しい熱の中で、私を救ってくれる。
時折二人のうちどちらかが、私の枕元にやってきて、額の汗を拭き、濡れ手ぬぐいを交換してくれた。ぼんやりとした頭ではよくわからないけれど、何かしら声をかけてくれる。
それが私には泣きたくなるくらいに
「じゃあお尻に葱をさしますね」
「なんて???」
「あ、ウルウが起きましたよ」
「ちょうどよかったわね。ほら、お尻上げて」
「待って待って待って」
私いまなんかいい感じのこと言おうとしてなかった?
熱でぼんやりしてわからないけど、なんか聞き捨てならないセリフに目が冴えてしまった。
「なに? え? なに? 葱? 葱なに?」
「いいですか、ウルウ。落ち着いて聞いてください」
「う、うん?」
「焦らなくて大丈夫よ。あんたはいま風邪をひいて体力が落ちてるわ」
「そうだね?」
「栄養のあるものを摂って休まなくてはいけません」
「そうだね、わかるよ?」
「だからお尻に葱をさすわ」
「なぜにホワイ???」
なぜにホワイ???
いや、まあ、風邪を引いた時はお尻に葱をさすとかいう民間療法があるとかいう話は知ってる。この世界にもそんなトチ狂った民間療法があるとは知らなかったけど。
「まって、あの、どう考えてもそれは迷信っていうか、効果ないと思う」
「ああ、ウルウはお尻に葱ささない地方の人でした?」
「お尻に葱さす地方メジャーなの???」
「あのねウルウ、理屈っぽいあんたにわかりやすいよう言うとね、葱には風邪によく効く成分がたっぷり含まれてるの。殺菌効果だったり、炎症を抑えたり、体をあっためる効果だってあるわ」
「それに栄養だってたっぷりですよ。普段から葱をたくさん食べる人は風邪知らずだそうです」
「それは、そう、わかるよ?」
「だからお尻に葱をさします」
「待って待って待って?」
そこをだからでつなげるんじゃない。
私の反論は、熱が出て駄々をこねているだけだと思われているのか、リリオは軽々と私の体をひっくり返してうつぶせにさせてしまう。
そして腰がもち上げられ、膝を立てた姿勢でお尻を突き出す羽目になる。
「普通に食べても栄養が消化吸収されるには時間がかかるのよ。だから急いで効果を出したいときはお尻から
「変なルビ振ってない???」
「ウルウはよくわからないことを言いますね」
重たく気だるい体では、ふたりのことを振り払えない。
むしろ暴れようとしたせいかさらに熱が出て、もう頭がくらくらしてきた。呼吸もしんどい。
ぺろんとさらされたお尻だけが外気に触れて涼しい。
そして肛門に濡れた感触。
「んんんんにゃあっ!?」
「にゃあですって、かわいいじゃない」
「なに!? いまなにしたの!?」
「ウルウ、お尻は普通は入れるところじゃないから、ほぐさないといけないのよ」
「入れなくていいんだっておぉおおおおおおっ!?」
返事をしないあたり、これリリオか!
お尻のすぼまりに、相対的にひんやり感じるやわらか体温。そしてお尻の穴にねじ込まれるぬめった熱い何か。なにかっていうかこれ舌!? もしかして舌ねじ込まれてるのかこれ!?お尻の穴に!?
「だ、ダメ! やめて! やめろばか!」
「うーん、色気のかけらもない暴言」
「うんちもないし綺麗なものですよ」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!?!?」
「とどめさしちゃってるわよ、それ」
私が羞恥のあまりに枕に顔をうずめて絶叫している間にも、私のお尻をリリオは蹂躙していった。
思いのほかに長い舌が、私の中に入ってくる。本来ものを出すところに、外から何かが入ってくるという状況に、私のお尻も混乱してお腹がぐるぐるする。私の頭も混乱してぐるぐるだ。熱のせいもあると思う。
私が嫌がって押し出そうとすると、リリオはまるで楽しむかのように深く吸い付いて、私の中身が吸い出されてしまうような感覚。そしてより奥深くまで舌を伸ばして私の中身をねぶってくる。
まるで用を足しているときのような解放感と、それと真逆の圧迫感とが、同時に頭の中で弾けて混ざる。
私が意味不明の感覚に混乱して震えていると、トルンペートの手が優しく私の頭を撫でてくる。耳元を撫で、頬を撫で、息も絶え絶えの私を慰めるように指先が躍る。
だめだ。いまそんなことしないで。いまそんなに優しくしないで。頭がおかしくなる。トルンペートの指先の「きもちい」が、お尻から上がってくる意味不明の感覚と混ざってしまう。
数分か、数十分か、わからなくなってしまうくらいのあいだ、私のお尻はリリオにおいしく頂かれてしまった。
体はくったりと脱力してしまって、でもリリオにつかまったお尻だけは高々と持ち上げられて、はしたない格好で私は身動きも取れない。
ようやく解放された時には、私のお尻はぽっかりと開いてしまって、外気の涼しさが「中身」で感じられてしまって、ぶるりと背筋が震えた。
そのお尻の穴のふちを、トルンペートの指先がそっとなぜた。それだけで私の背筋は
「いい感じね。もうちょっとほぐしておきましょうか」
「じゃあ葱の準備をしておきますね」
ぬるり、と私の中に入ってきたのは、舌とは全く違う感触だった。よりしっかりとした芯のある、けれど自由自在に動き回るそれ。指。トルンペートの指が私の中をなぞり上げていく。
「あ、ああ、ああ、あ、あ、あ、あ……っ」
「あは、ほっかほか。それに柔らかいのに、こんなにきゅうきゅう締め付けてくる」
「やら、あ、や、やめ……っ」
「もう少しだからね。もうちょっと我慢しなさい」
私の懇願を退けて、トルンペートの指が私の中を押し広げていく。おなかの中身をぐにぐにとでたらめに動き回る存在に、吐き気がこみ上げる。それと同時に、信じられないくらいの甘やかな熱が、私の下腹部に生まれていた。
トルンペートの指先が、私のお尻越しに、私の大事なところに何度も触れた。そのたびに私は、声を押し殺しながら小さく気をやっていた。トルンペートが執拗にせめたてるお尻のすぐ下で、私のあそこはすっかり濡れそぼっていた。
あまりの恥ずかしさに私は死にたくなってきていた。
なにが恥ずかしいといって、お尻で感じてしまうことも恥ずかしかったけれど、それ以上にトルンペートが平常の態度でいることが恥ずかしかった。
私の痴態を眺めながらも、トルンペートは常の態度のままだった。私だけが熱に浮かされていた。トルンペートはあくまでも医療行為の一環として私のお尻をほぐし、ぐぷじゅぷといやらしい音を奏で続けていた。
風邪で苦しんでいる私を助けたいという、善意からの医療行為で、私は気が狂いそうになるほど気持ちよくなってしまっていた。
最初は苦しいばかりだったのに、今や私はもっともっととはしたなく求めてしまっていた。足はだらしなく開き、お尻の穴はすっかり指を受け入れて深く深くくわえ込もうとしていた。
気づけば私は嫌がるのでなく、欲しがるように腰を揺らしていたのだ。
私が自分の浅ましさに死にたくなっていると、リリオが帰ってきた。その手にはつやつやとした白い肌を見せるご立派な葱が握られていた。前世で言えばリーキやポロネギと呼ばれた太くたくましいものだ。根の部分は切り落とされて、表面の汚れた皮も剝がれている。
にこにこ笑顔で葱もって私の尻の前に陣取るリリオに、さすがに正気に戻る。
「あの、ちょっと待」
「ではズブッと行きますね!」
「アッー!?!?!?」
そのすさまじい衝撃に私はばっと跳ね起きた。
……跳ね起きた?
ドキドキと騒がしい胸を押さえて自分を見下ろす。
ひどく寝汗をかいて、ネグリジェは乱れているけど、それだけだ。
私は布団にくるまって今の今まで寝ていたようだった。
パサリと落ちてきた手ぬぐいはすっかりぬるくなってしまっている。
「……夢?」
恐る恐る布団をまくり上げ、私はそっと確認した。
なにをって、まあ、その、なんだ。
幸いにも私のお尻は貞淑なままだった。貞淑なお尻とは……?
まあそれはそれとして汗以外の体液に気づいて死にたくなったりもしたが、これは熱のせいなんだ。高熱に浮かされた結果の悪夢なんだ。そういうことにしよう。
私はほーっと深く息を吐いて、安心したようななんか残念なような、そんな不思議な気持ちを追い払った。
手拭いで軽く汗をぬぐって一息つくと、眠りに落ちる前よりはいくらか楽になっていた。熱はまだあるようだったけど、ふらふらするほどでもない。筋肉痛みたいな節々の痛みはちょっとあるけど、動けないほどではない。
それよりも、熱で体力を使ったからか、そろそろお腹が空いてきていた。
ふたりが煮炊きしているのか、外からはいいにおいもしてきている。
私がそっと馬車を出ると、ちょうど二人が鍋を囲んで、お椀に中身をよそっているところだった。
「あ、ウルウ、もう大丈夫なんですか?」
「うん……まだすこし熱っぽいけど。おなか空いちゃって」
「空腹感があるってのはいいことよ。座れる? 一緒に食べましょうよ」
「ありがとう……いいにおいだね」
「ええ! 栄養たっぷりの
「へえ……へえ」
渡されたお椀の中身は、ごろごろと大きめに切られた、太くたくましい
葱に、味噌。
「ん? どうしたのよ。美味しいわよ」
「
「あ、ああ、うん……いただきます」
お味噌汁のようでお味噌汁ではない
他?
他にはなんもないよ。
知らないったら。