「......フランを返せ」
身の内を駆け抜ける雷が弾け、バチバチと体に纏わりつく。
「な、何だよ」
「死にたくないなら構えろ。容赦をするつもりはない」
「っ!」
人間の表情が恐怖に歪む。不安が強まり、剣を握る手の力が弱くなるのが分かる。
それを見逃さず、間合いを詰めて顎をかち上げる。
長く放置されていた建物内に埃が舞い上がり、家具がガタガタと揺れる。
バック転でもするように一回転して情けなく伸びる人間。
それまで黙っていた残りが動く。
「こいつやったぞ!構えろ!」
「どっちが先に手を出した!」
一瞬動きの遅れた人間を狙い、鞘に掛けた手に向けて魔術を打ち出す。
「
小さく尖った雷の槍はその手を見事に捉え、肉に突き刺さり炸裂する。
「ぐああっ!」
黒く焦げ付いた手を押さえ、一人が呻く。
まずは一人。
剣を構えた人間。こちらの攻撃を防ぐつもりだろうが、それも剣では役不足だ。
身を屈めて横っ腹に拳を叩き込むと、その人間も簡単に膝を折る。
「オラアアッ!」
外套が体を引く。その方向に合わせて跳躍し、壁に着地する。
人間の剣が振り下ろされ、石造りの床に激突する。耳に響く衝突音。人間が消えた俺の姿を追うより速く、その顔面を殴り飛ばす。
数秒のうちに起こった戦いに、残る二人の人間は言葉を失っていた。
「フランはどこだ」
「........」
「答えろ!」
詰め寄って怒鳴ると、小さく悲鳴を上げてピンと背筋を伸ばし、答えの代わりに奥の部屋に続く扉を指さす。
「.......大人しくしていれば死ぬことはない。外の奴がここに来なければだが」
外から轟音が響いてくる。バロンが暴れまわっているのだろう。
それを聞いた人間の顔が青くなり、口をパクパクと動かす。
「信じれば救われる。祈ってみたらどうだ。とっくに捨ててしまった信仰心でも、慈悲を掛けてもらえるかもしれないからな」
あり得ない。信仰を捨てたどころか、神々に反旗を翻して戦争を起こしたような連中だ。どれだけ慈悲深い神が居たとしても、その願いを聞き届けるとは思えない。
ノブに手を掛け、扉を開けた先。そこにあった景色に、それまで留めていた感情が沸き上がる。
「フラ.......ン」
探していた少女がそこにいた。
しかし、その衣服は所々傷が付いて綻び、しわやよれが目立つ。白く美しい肌には拳や掌の痕が赤く残されていた。
乱れて汚れた髪を垂れ下げたまま俯くフランを見るのはただただ心が痛んだ。
「っ!フラ」
駆け寄ろうとした瞬間、横から現れた影に殴り飛ばされる。
「ぐぎっ!」
壁に激突して崩れ落ちる。
「またお前か死に損ないが!」
あの巨漢だ。姿が見えないと思えばこんなところに。
「今度こそ殺す。獣人は皆」
「フランに何をした!」
低姿勢のまま地面スレスレを滑るように跳躍し、敵の背後に回り込む。
正面からの打ち合いでは押し負ける。勝ち目があるとすればその隙を突く事だ。
「お前がフランを!」
「獣人は邪魔だ。一匹も残らず」
足を掴もうとする敵の腕を避け、その首を蹴る。
揺らぐ巨体に続けて魔術の弾丸を打ち出す。
直撃と同時に体に電流を流され感電する敵。
「フラン。すぐ助けるからな」
「獣人ッ!!」
着地を狙い振るわれる拳を身を屈めて回避し、無防備な顔を狙いお返しと言わんばかりに右の拳を打ち込む。
「ぐ!」
「フランはお前の道具じゃない。立派な獣人だ」
「獣人にまで見下されるなどお断りだ!。お前を殺さなければ、人間の威厳は失われたままだ!」
「だからってフランを狙う理由がどこにある!?」
魔術の弾丸を周囲に展開し、膝をつく男を追撃する。
蒼白く弾ける小さく鋭い槍が人間を襲う。咄嗟に腕で顔を庇う男だが、槍はその肉を突き破り傷を残す。
「このッ!?.....獣人!!」
男は肘を付いて起き上がり、拳を振り上げようとするがその腕は上がらない。
再び間合いを詰め、顎をかち上げる。
男の首が天井に向かって大きく反れ、そのまま項垂れる。
「電流を腕に流されて動けるはずがない。ただ無防備に弱点を晒すだけだ」
「ッヅ!!」
腕が動かないと分かれば、男は首を戻して俺を睨み付け、そのまま突進を始める。
外套に導かれて攻撃を避ければ、壁を突き破り煙を上げながら隣の部屋へと消える。
「逃げるな!!」
轟音を響かせ、再び壁を粉砕して引き返してくる男。横方向に回転して回避するが、腕を掴まれ振り回される。
風船のように宙を舞い耳元では風が絶え間なく唸る。
壁や床に何度も体をぶつけ、骨が悲鳴をあげ傷からは血が溢れる。
顔をつたう血に寒気を覚えつつ、激しく痛む頭を押さえながらも立ち上がる。
「生意気な獣人だ......大人しく死ねば苦しまずに済むものを」
「ならフランを解放してこの国から出ていけ。そうすればお前達の目に触れず静かに暮らして死んでいってやる」
「......クク。フランフランと、その怪物が何だ。見つめれば人を殺す魔の瞳。そんな代物を抱える怪物を抱え込んで何になる。兵器としても使わず、ただ箱に入れて大切に守る。それでは怪物としての意義を果たせないのではないか?」
先日俺とフランを襲った女と同じような事を口にする男。
「そいつがいた所でお前が背負うのは重荷ばかり。お前の人生にその存在など不要だろう。俺達に寄越せ。代わりに上手く使ってやる。おい、言ってやれ。教えてやったろ」
男がフランを見て下卑た笑みを浮かべる。
その言葉に項垂れていたフランが小さく震え、絞り出すように口を開く
「......兄様。帰って下さい」
「は?」
「帰って下さい。私がどういう存在なのか、よく分かりました。私は人殺しの怪物。この国に居場所なんて無いんです」
「そんなこと無い」
「そう言ってくれるのは兄様だけでした。バティさんもバロンさんも、皆兄様の前だから私にも良くしてくれるだけ。「私」に意味はなくて、兄様のおまけだったんです」
顔を上げず、ぽつぽつと言葉を紡ぐフラン。その声が小さく震えている。
「きっと兄様の言葉に縋っていたかったんだと思います。私を理解してくれるのは兄様だったから、だから兄様の言葉を信じて、自分は怪物じゃないと思いたかったんです」
「フランは」
「黙って聞いて下さい。またうやむやにしたくありません」
否定しようとする俺の言葉を制止し、フランは続ける。
「でもあの女の言葉で思い出しました。私の目が、この魔眼が人を殺す怪物の目だと言うことを」
床についた手を握り締め、長い間を空けてフランが再び口を開く。
「帰って下さい。私は兄様に必要のない存在です。兄様の人生に巣食う魔物で、兄様の未来を閉ざしてしまう。だから」
「だからお前を捨てろと。無理な願いだ。お前が俺に必要かどうかを決めるのは俺だ」
「っ......またそうやって........。いい加減にしてくださいよ!。これ以上私を嘘で飾らないでください!。どんなに綺麗な言葉で誤魔化したって、結局私は.......私は魔眼に取り憑かれた哀れな怪物なんです!」
聞きたくないとばかりに激しく首を振って叫ぶ。
「もう兄様に助けられたいなんて思いません!。どれだけ兄様が私を必要としてくれても、私に兄様はもう必要無いんです!」
「......」
「分かっただろう。お前が大切にしてる女はもうお前に頼るつもりは無いんだ」
満足したのか男が立ち上がり、俺を見下してニヤニヤと笑う。
「言葉もないか。可哀想に。こうも呆気なく裏切られれば当然だろうがな。まあ心配する必要はない。ここでお前は死ぬんだからな!」
「.......煩い。必要ない?放っておけ?。知ったことか」
質の悪い話だ。顔を見せまいと俯いたままで訴えるフランだが、床には涙が溢れている。
声を震わせ、涙まで流してまでいる奴の言葉を鵜呑みにしろと言う方が無理な相談だ。
「どうせそんなことだろうと思った。何を言われたか知らないが。お前は絶対に連れ戻す」
「だから。女はお前を必要無いと」
「黙ってろ!」
油断しきった男の顔面を殴り飛ばし、壁に衝突し崩れ落ちた姿に怒鳴り付ける。
「必要無い訳がないだろう。怪物だろうが何だろうが、フランはフランだ。誰一人代わりのいない家族だ」
どんな存在だろうと関係無い。フランシアと言う存在は彼女だけ。
「それに、必要無い存在のままで終れるはずないだろ。妹に頼られないで兄なんてやってられるか。仮に俺が必要無いって言葉が真実なら、お前を倒してでも必要だと言わせてやる」
「何故分からない獣人!その怪物を手放せばお前も解放される。なのにどうして拒む!」
「フランが居る事が当たり前になっているからだ。それまで当然にあったものが無くなったとして、それを探さない奴がどこにいるんだよ」
立ち上がろうとする男に向けて魔弾を構えた手を突き出す。
「そもそもお前に俺が必要ないと言うなら、その俺に意見する権利なんて無いんじゃないか。これは俺が勝手にやっていることだ。そこで見ていれば良い」
「........」
「そんな屁理屈!」
瓦礫に体を埋めて喚く男に向け、何か良い言葉を探す。
「とにかく、誰が何と言おうとフランは連れ帰る。仮にフランを預けるとしても、こんな乱暴な扱いをするような奴には任せない」
魔弾を男に打ち出し、気絶したのを確認し未だに顔を上げないフランに向かい歩き出す。
「そんなにボロボロ泣いてたら説得力もないよ。わがまま言ってないで帰ろう。」
「......」
フランの前でしゃがんだ時、それまで忘れていた頭痛と共にめまいがした。
「っあ」
「アルト様!フランシア様!」
静寂を引き裂く怒号のような声。バロンが息を切らせて部屋の扉を蹴破る。鍵もかけていない扉をだ。
「ああ。ご苦労様、バロン」
「アルト様!?ですからあれほど傷が開くと!」
「言ったのはバティだろ。お前は怒り狂ってそれどころじゃなかったはずた」
ひとしきり暴れて落ち着いたであろうバロンが顔を真っ青にしている。
「フランとそこの男を。どうせバティもくるんだろう?」
「しかしアルト様は」
「少し休みたい。今動いたら余計に出血しそうだから。大丈夫、いくら人間の血が濃いからって傷の直りは速いんだ。人質と悪党を確保するのが優先だ」
「......分かりました。絶対に耐えてください!バティがすぐに到着します」
「待って。兄様.....私」
「分かってる。言いたいことなら帰ったらしっかり聞く」
ドスドスと音を立てて部屋に踏み込んだバロンは、気絶している男を担ぎ上げ、フランを小脇に挟み足早に部屋を出ていく。
「戻って来るつもりじゃないか」
言い終わる頃に体が重くなり、床に仰向けに倒れる。
ゆっくりと沈むような感覚に身を任せ、そうして意識が手を離れた。
一日に二度も気絶することになろうとは。
「........」
再び暗い部屋で目を覚ます。
額に触れる柔らかで暖かい感触。目を向ければ、そこにはバティがいた。
「自分の立場を分かっておいでですか」
「.......すまない」
「いつまでフランシア様に固執するのですか」
「......」
「彼女の力はその手に余る。その力で殿下の身を幾度となく危険に晒した。それなのに何故彼女を救おうとするのですか」
「フランがいるのが当たり前になったからだと思う」
「当たり前......またそのように」
「馬鹿なのは分かってる。だけどフランが居なくなるんだと思ったら、考えるよりも早く動いていた」
「......いつまでもそのようなままでは」
地鳴りのような音が近付く。
爆発音にも似た音を立て、物凄い勢いで扉が開き、バロンが飛び込んでくる。
「オオオオン!アルト様!よくご無事で!!」
俺の下に詰め寄り、雄叫びを上げながら涙を流すバロン。
「あれだけの傷を負いながらも国の為に悪を挫く姿.....感動しましたァアア!!」
「やるべき事をしただけだ。バロンこそ危険を覚悟で助けてくれて感謝してる」
「勿体ないお言葉.......俺は、俺は」
「そこまで。何か用があるんだろう?」
「グズッ.....そうでした」
鼻をすすると、バロンは部屋の扉の奥を見る。
「フランシア様」
バロンの呼び掛けに扉の影から静かに現れたフランは、顔を上げて俺の顔を見ると詰まりながらも口を開く。
「あ...え、と....兄様」
しかし言葉が見つからないようで、すぐに黙り込んでしまった。
「バティ。バロン。フランと話がしたい。二人にしてくれないか」
「殿下。私の話は終わって」
「行くぞバティ。少しは雰囲気ってのを気にしろ」
バロンに諭され、不服そうな顔をしながらもバティは扉を閉め、バロンと二人部屋を出ていく。
「......」
「おいで、フラン」
手招きをすると、躊躇いながらもベッドの隣にやってくるフラン。
「あの、兄様」
「ああ」
「ありがとうございます。兄様がいなかったら.....それと、私酷い事を」
掠れてしまうほどに小さなフランの声。無理もないだろう。
「本心じゃないんだろ?」
「当たり前です!。これまでずっと兄様と居たんです。今更嫌いになんてなりません.......」
最後の言葉の歯切れが悪く感じる。
「不安になったんです。あの女と、あいつに言われた事で」
掛け布団の上からフランが俺の手に触れる。
「兄様の言葉が嘘だと。それを信じそうになって...だから......あの......言葉....は」
「分からないんだな」
「ごめんなさい。兄様はきっと純粋に私を思ってくれているのに......それなのに私は」
重なる手が小さく震えていた。
出ない答えを聞いても話が終わらないと思い、フランと同じようにこちらの真意を語るため口を開く。
「フランを思って.....確かにそうだ。だけど俺のしてきた事は、全て俺が勝手にしたことだ。それをどう思うかなんてフランの自由だ」
「.......」
「幸せになれるか。フランの言葉に誓ったのは俺で、それをフランが望んだわけじゃない。始めから俺が勝手にやって来たことなんだ。だから今回俺がフランを助けたことも同じだ」
ただ当たり前にあったものが消えてしまう事を恐れた。フランシアと言う存在がこの手を離れてしまうことを嫌ったのだ。
「必要ないだとか、一度言われたくらいじゃ引き下がれないし。その理由だって知りたい。俺に出来る事なら、それを直してでも必要とされて一緒に居たい」
フランの手に触れる。ひんやりと冷たく小さな手がそこにあった。
「フランに言っておかないといけない事がある」
「何ですか」
「お前を幸せにするって、これは俺が勝手に誓ったことで、その誓いを果たすまで、俺はどこまでも勝手にお前を振り回すと思うってこと。
そこに何を意見されたって、多分止められない。俺はどこまでも勝手な人間だ。勝手にフランを連れてきて、勝手に世話して、勝手にお前の為に怒る。だから勝手にやらせてくれよ。俺の勝手に、お前を幸せにさせてくれ」
「.......」
「代わりになる物なんて無い。人の皮を被った怪物でも殺人鬼でも、本当の怪物だとしても、フランはたった一人の俺の妹だ。兄が妹の為に必死になることに理由なんていらないだろう?」
「......兄.....様」
「何があっても俺はフランの味方だ。いつも無理して笑っているんだ。辛いことがあったらどれだけ強く当たってくれてもいい。俺を信じて」
「っ.......ぅぅ」
少し熱を帯びたフランの手が布越しの俺の手を握る。
「兄様......ずるいよ」
「こうでも言わないとフランは遠慮するじゃないか」
「それはそう......だけど」
目に薄く涙を浮かべ、何かを堪えるように俯くフラン。重ねていた手を離し、その顔に手を添えて持ち上げ、目を合わせる。
「そうやって泣いている姿。見たくないんだ」
「見たくないって。そうしたら兄様がまた」
「隠そうとしないでほしい。何度も言ってるだろう?。俺はフランを幸せにしたい。俺の見えている場所だけで幸せだって言われても、それは本当の幸せとは言わないし言いたくない」
一つ。覚悟を決める。
顔が熱を帯び、鼓動が速まるのを感じる。
胸に詰まっていたモノ。隠し通し、忘れようとしていたモノ。
目の前でそんな顔をされては、吐き出さずにはいられなくなる。
俺は間違いなく最低な男になるだろう。
神が見ていると言うならどうとでも罵ってくれ。
「辛いことがあるなら俺に頼って良い。それは辛さを押し付けることじゃない。一人で抱え込まなくていいんだ」
そこまで続け、もう一度気を落ち着ける。
「フランが好きだ」
「え......」
「だから願い事は全て聞いてやりたい。辛い事は全て取り除いてやりたい。フランがどう思っているかは分からない。でも俺は、フランが好きだ」
フランの声は耳に入って来ない。それほどに必死だったのだろう。
「いつも幸せそうに笑っていてほしい。何も隠さないでほしい。好きな相手だからこそ、どんな小さな事でも必要としてほしい」
「に、兄様。待って.....」
フランの手が触れる。
「待って。私、兄様に謝らないといけないのに......」
「いらない。フランがここに居るならそれで」
「.......優し過ぎるよ。私が何をしたって、兄様は許して、私がどれだけ隠したって兄様はそれを見通して。どれだけ頑張っても兄様は」
「それで」
「良くないよ。今日だって兄様は」
俺の頭に目を移し、彼女は続ける。
「どうして兄様が苦しまなきゃいけないの。私は辛くなんか無いよ。私だって一人でも」
「ならどうして泣くんだよ。辛くて仕方ないから、耐えられないからだろう」
「.......ああもう!」
それまでのしおらしい態度から一変して声を荒げるフラン。
「兄様が傷付くのは見たくないよ!。その度に兄様が死んじゃったらって.......考えたくないよ!。屋敷から連れ出してくれた。絵本を読んでくれた。一緒にお菓子を食べてくれた。誰かを殺すのは嫌だったから。だから兄様の事も拒んできたのに」
フランの瞳から涙が溢れる。もう何度泣いたのか。女の子を、妹を泣かせるなんて最低だ。
「好きだよ!。赤ずきんの絵本をくれたあの日から、ずっと!。そんなこと駄目だって分かってたのに.....好きになっちゃったんだよ!.......だから、せめてそれが気付かれないで終われるように......この思いで兄様を苦しめないようにしてきたのに。なのに兄様は!」
強く、胸を叩かれる。
「どうしてそれを許してくれないの!?。私が堪えられなくなるような事ばっかり!」
「好きだから......それじゃ足りないか。フランが好きだから、フランが幸せになれるなら」
「.......嫌だ。兄様まで死ぬのは嫌だ。皆死んじゃった。パパもママも。皆私を怖がるようになった。コルネットでも、この国でも。私を付け入れてくれるのは兄様だけなの。その兄様まで死んじゃったら、今度こそ一人になっちゃう」
グシャグシャになった顔で泣きじゃくるフラン。その頭を引き、胸に抱き寄せる。
「大丈夫。死なない。どこにも行かない。絶対に。フランが幸せだって、心から笑える日が来るまで、ずっとフランの側にいるから」
「ぅ......ぁああ」
声を抑えて泣き続けるフラン。彼女が泣き止むまで、その頭を撫でていた。
柔らかく、撫でる度に甘い香りのする彼女の髪は、埃を被っていたのが嘘のように美しかった。
___________________________
「ごめんなさい。見苦しい所を」
「いや、こっちこそごめん。あんなこと言うつもりじゃなかったんだが」
「いいですよ。嬉しかったですから。兄様も同じ気持ちなんだって思えて」
フランの額が、俺の額とぶつかる。
「兄様。好きです。大好きです」
「ああ、俺もだ」
「むう。俺もだ。じゃないですよ。格好つけないで、ちゃんと言って下さい」
「ちゃんとって」
勢い任せに言ってしまった告白の言葉とは違い、こうして改めて口にすることとなると、途端に緊張するものらしい。
「私だけじゃ不公平です。ほら、速く速く」
「わ、分かったよ」
フランの催促に押し負ける。弱いな。
「好きだよ。フラン」
「ふふ。良くできました。私も好きですよ。兄様」
額を突き合わせたまま、二人でクスクスと笑う。
開いた傷口の鈍い痛みも忘れられる程に、それは暖かい時間だった。
ドアの立て付けがさ......悪かったんだよね
丁度十話だし有言実行だけしときますね。