夜が明け、城下には活気が戻っていた。
ベッドから起き上がり、大きく伸びをする。
「ふう」
窓から射し込む太陽の光と、広場に集まる子ども達の声に目が覚める。
衣装ラックから取り出したシャツとジャケット、ズボンを着込み、スタンドに掛けた外套を肩に羽織る。
寝癖を櫛でとかし、ペリドットのペンダントを首に掛けて部屋を出る。
廊下では使用人が慌ただしく動き回っており、他国の貴族の接待でも無ければここまでの事にはならない。
平和な事に越したことはない。
朝食の用意のために食堂に向かう。
下の階へ向かう階段で、フランと出会う。
「ああ、おはようフラン。今日は朝早いんだな」
顔を上げたフランが、その表情を明るくして駆け寄ってくる。
「おはよう、兄様!」
いつも通り抱き付いてくるフランだが、俺を抱き締める手の力今までと違うより強いものだった。
風に流されて甘酸っぱい香りがする。
「香水か?」
「うん。ミラベリーの香水なんだけどね、初めて使ってみたの。どうかな」
「甘くていい香りだ。使い方も調べたのか?」
「ママに聞いたの。気に入ってもらえて良かった」
フランが跳ねる度に甘い香りがふわりと流れる。
「さあ、収穫祭も今日が本番だ。準備が出来たら行こうか」
「うん。でもその前に」
フランが頬にキスをする。
突然の事に顔が爆発するように熱くなり、何事かとフランを見ると、いつも通りにこにこと笑う彼女がいた。
「今はこれで我慢する。これで元気も貰ったし収穫祭も頑張れるよ」
「そうか.....なら良かった」
「あともう一つ。兄様」
「お嬢様。そちらでしたか。早くご準備をなさってくださいませ」
フランが何かを言いかけたところで、階段の下から使用人の呼ぶ声がする。
「もうそんな時間ですか?少し待ってて下さい」
階段から身を乗り出して使用人を見たフランが振り向いて俺に近付き、声には出さず口だけを動かして何かを伝える。
その言葉に再び心臓が大きく脈打つ。
「ではまた後で!。待ってますよ。兄様」
フランが去った階段に一人残され、熱くなる顔を押さえる。
「......好きだよって」
狐の獣人は悪戯が得意と言うが、これはどうなのだろうか。
「ああぁぁ」
本気でやっているなら余計心臓に悪い。
後で軽く注意してやろうと思いながら、壁に手を付いて呻く。
「どんなやり手だよ」
告白の言葉を交わし、より強く彼女を意識するようになった今では、どんな小さな仕草ですらフィルターが掛かったように愛らしく映る。
退屈凌ぎに読んだ恋愛譚。ぼんやりと聞いていた民の恋の話。愛する相手が出来ると人は変わると言うのは本当らしい。
脳裏に残るフランの笑顔に目眩がする。
「重傷か。忘れよう」
両の頬を叩き気を引き締める。
皇族としてだらしない姿など見せてはいられない。
城下町に下りると、近くで遊んでいた子ども達がやってくる。
「おうさまだ!」
「おはようございます。おうさま!」
「おうさまあそぼう」
「おはよう皆。朝から元気だね」
「うん!おひるごはんはごちそうだっておかあさんがいっていたの」
目を輝かせて期待の言葉を口にする子ども達。その姿はいつみても可愛いものだ。
「じゃあいっぱい遊んでお腹をすかせておいで。そうしたらお昼ごはんもたくさん食べられるから」
「はーい!ばいばーいおうさま!」
「いってらっしゃい」
笑顔で子ども達に手を振り、その様子を見送って広場に向かう。
「アルト様。おはようございます!」
「ああ、バロン。おはよう」
「お体の調子は」
「フランのおかげですっかり楽になった。バロンはよく眠れ」
「一睡も出来ておりません!」
「うん。気持ちいいくらいにハッキリ言ったな。じゃあ一眠りしてくると良い」
「ご冗談を!。俺はアルト様の騎士。主人を差し置いて休むことなど」
「またそう言う事ばっかり言ってるとバティが騒ぐぞ?。騎士団長としての自覚を持て!ってな」
「アルト様からも言って下さい!。俺の使命は貴方を守護するコトであり、国の治安維持は専門外なのですよ!」
「誇るなよ......まあ気持ちは嬉しいよ。ありがとう。忠義の騎士」
「お、お.....オオオオン!」
遠吠えが鼓膜を激しく震わす。
真昼の王国の通りにはよく響く声だ
暫く感動の渦の中で盛り上がるバロンの感謝の言葉に苦笑を返す。
話を逸らされた気はするが、これだけ叫ぶことが出来るのなら心配要らないだろう。
そうして賑やかな空気の中で収穫祭の二日目が幕を開ける。
昨日は慌ただしくして見ることが出来なかった国民自慢の作物を見て回る。
どれも艶のある美しい色をしており、夏の環境も作物には絶好の陽気だったようだ。
作物の出来の良さを紹介する国民と会話を交わし、気付いた頃には鼻腔をくすぐる料理の匂いが流れて来た。
子ども達が笑いながら横を駆け抜けていく。
その後ろを大人が
「走ってはいけないよ」
「転ばないようにね」
と呼び掛けながら歩いていく。
同胞の願った平和の形に近づけているだろうか。
答えは無いが、そうあれば良いと思うばかりだ。
博物館が見下ろす噴水広場では使用人達が厨房作業台を広げて料理を始めていた。
その前には国民が列を作って並び、野菜のパイやスープを受け取っている。
いつも賑やかな城下町だが、今日のそれは普段のあわただしさを感じるようなモノではなく、穏やかに流れていくように感じる。
「うん。今日も良い日だ」
昼も過ぎてから言うことか。などと一人小声で突っ込みながら様子を見ていると、子ども達がやって来て俺の袖を引く。
「おうさま!一緒にご飯食べようよ」
リーダーの熊の獣人の子が大きな声で俺を呼ぶと、周りにいた仲間たちも口々に俺を誘って集まってくる。
「俺もか。どうしようかな」
「ねーねー食べようよ。おうさまの分ももらってくるから!」
子どもたちに手を引かれて列に並び、彼らにとっては当たり前の生活の話を聞きながら順番を待つ。
その生活を支える事が家族としての使命であり、皇としての責務だ。これから先もこの日の光のように眩しい笑顔が曇ってしまわないよう。時と共にやってくる多くの理不尽の前に屈する事がないよう。
給仕係から紙の皿に盛られたスープを受け取り、子どもたちについて広場から離れた場所の緑地に腰を下ろす。
「いただきまーす!」
パンと大袈裟に手をあわせて、大きな声で挨拶をしてスープを匙で口に運ぶ子どもたち。
一口食べてから顔を見合せ。美味しいねとはしゃぐ姿は不思議と活力を与えてくれる。
「いただきます」
子どもたちに習い、挨拶をしてスープを口に流し込む。
とろりとした滑らかな舌触りと、野菜の味を残しながらも苦味や臭みを取って飲みやすい味を実現している。
流石は王城専属の使用人。大人だけでなく子どもたちにも気を遣った味付けに舌鼓を打つ。
「俺も教えてもらおうかな」
一口ずつゆっくりと匙を口に運び、その味を楽しむ。
「ごちそうさまでしたー!」
熊の獣人の子が一番に食べ終わり、笑顔で挨拶をする。
口の端にスープが付いているのを指摘すると、指で取ってぺろりと舐める。
「へへん。俺が一番だぞ!ビリの奴は罰ゲームだからな!」
煽られた仲間達が「聞いてない」「負けないぞ」と言いながら皿に残されたスープをかきこむ。
「喉を詰まらせないようにね」
苦笑しながら言い聞かせる。
元気なのは良いのだが、それで体を壊しては楽しい事も台無しになってしまう。
次々とスープを平らげた仲間たちが空っぽの皿を掲げてわいわいと騒いでいる。
木に背を寄せ、駆けていく子ども眺めているとふわふわと心地の良い眠気が訪れる。
あくびを一つして立ち上がる。子どもたちの残した皿を重ね、掌に火球を発生させる。
魔術の火に触れた皿はたちまち炭となって消え、芝生の上に落ちる。
「おうさま。すごい」
「ん?」
控えめな声に視線を落とすと、一人の子どもが俺を見上げていた。
「皆で遊ばないのか?」
「うん。おいかけっこは苦手だから」
頭に小さな角の生えた鹿の獣人の子は、俺と同じ人間に近い体をしている。
「そうか。なら俺と遊ぼうか」
「いいの?」
「ああ。お料理しているお姉さんたちに手伝わせてってお願いしたけど、だめだって言われちゃったからね。実はやることがなくて困っていたんだ」
「じゃあ、何をしたらいい?」
「そうだな。絵本しかないけどそれでいいかな。狼さんと赤ずきんちゃんのお話なんだけど、俺も好きなお話なんだ」
「楽しそう」
「よし、じゃあ絵本を読んで遊ぼう」
お守り代わりに持っている掌に納まるほどの小さな絵本に魔術をかけると、それはぐぐっと膨れて両手一杯の大きさになる。
「じゃあ始めようか」
______________
一度絵本が終わる頃、俺に気付いた子どもたちが戻ってきてずるい。もう一度とせがみ、それが終わればまた子どもたちが気付いて戻ってくる。繰り返すうちに空は紫がかった茜色になり日も暮れかけ、俺の喉はカラカラになっていた。
「おっと、もうこんな時間だ。皆、夕ご飯の時間だよ。一緒に行こう」
「はーい!」
子どもたちを連れて城下を歩く。お喋りをしながら並んで歩く子どもたちの前を歩いていると、自分がアヒルの母親にでもなったような気がする。
子どもたちを広場まで送り届けると、彼らに別れを告げて王城に戻る。
「さて、俺も準備しないと」
自室の衣装スタンドに外套を掛け、城の入り口に向かう。何人かの使用人がバスケットを持ってこちらに歩み寄ってくると、それを差し出す。
中にはキャンディーやクッキー等の小さなお菓子が沢山入っている。
これは子どもたちへのプレゼントとして用意される物で、毎年騎士団と皇家の者が配るのだ。
バスケットを受け取り感謝の言葉を告げ、深呼吸をする。
意識のスイッチを切り替えると、普段は隠している狼の耳と尾が体に現れる。
「よし」
「また狼男の仮装ですか。アルト様」
「そう言うお前もだろう?バロン」
上階に続く階段から降りてきたバロンが苦笑する。
「勿論ですとも。今年こそはアルト様のように子どもたちから人気の狼男になってみせますとも!」
「ははは。頑張ってくれよ。また大泣きする子どもの親に気まずい顔で見られたくないからな」
「お任せください」
恐らくだが彼は今年も怖がられる。
何事にも余念がないのは良い事だが、彼の場合はちょっとした催し物でもそれが出る。
全身に塗られた傷のメイクに欠けたデザインの耳カバー。黒いアイラインが分厚く引かれた目元に、狼の獣人が持つ鋭い眼。それに牙と迫真の演技が加わればたちまち本物の人狼の完成だ。
幼い子ども達がそんな怪物を見て驚かない筈もなく.....勿論俺も初めの頃は怖がっていた思い出がある。その時のバロンの咆哮がいまだに残っているからだ。
「バロン。今年は普通に渡してみな。演技は無しで」
「ご心配無く!何事も全力でやらせていただきますとも!昨日の戦いなど問題ではないです!」
「.......そうか。じゃあ頑張れ」
そうじゃないと言う言葉は仕舞い、ベストを整えた後、耳と髪を軽く整え身支度を終える。
「フランとバティは?」
「バティは先に出ていますね。フランシア様は.....アルト様に見せたいものがあるとか」
「俺に?」
「はい。楽しみにしていろと」
「ふむ?」
「まあ、俺達は俺達のやることをやりましょう」
「そうだな。じゃあ行こうか」
門を潜り、再び深呼吸をする。
「ウオオオオオオ!!」
隣で地獄の門が開かれ、バロンの雄叫びが轟く。
「悪い子は食ってしまうぞ!そら逃げろ!!」
バロンが邪悪な笑みを浮かべて城の外へと駆けていく。悪い人狼を演じるバロンは子どもたちを驚かすのだが、あの調子ではまた苦情が出る
「全く」
苦笑しながら集まっていた民の下へ降りる。
「親愛なる家族達。恵みの時が過ぎれば、北の神々の息吹がこの谷にも訪れるだろう。厳しい寒さが続き、長い苦悩の季節がやって来る。しかし、皆であればその苦しみをも越えられると信じている。共に厳寒の季節を乗り越え、そして芽吹きの季節には感謝の宴を開こう」
民の手に菓子を配り、来る冬へ向けた激励の言葉を伝える。
はしゃぐ子どもとその隣で頭を下げる母親。
「いっぱいお母さんの手伝いをして良い子にしてね。そうしたら次のお祭りでも沢山お菓子をあげるから」
「うん!約束だよ。狼さん!」
「ああ。約束だ」
小さな頭を優しく撫でて立ち上がった時、子どもたちの声が聞こえてくる。
「すごーい!赤ずきんちゃんだ!」
「本当だ。赤ずきんちゃん赤ずきんちゃん!」
どうやら人気者がいるらしい。
赤ずきん。やはり主人公という存在は子どもに人気の人物なだけに、その仮装は目立つようだ。
「狼さん!赤ずきんちゃんだよ」
子どもたちが足下にやって来てはしゃぐ。
「ほら。あっちあっち!」
「む?赤ずきんがいるのか?なら俺が食べてしまおうか!」
「誰を食べるんですか?」
子どもたちの指の先を見た時、人混みを分けて赤い頭巾を身に付けた少女が現れる。
「ごきげんよう。狼さん」
「っな........」
「ふふ。驚きました?私ですよ」
頭巾を脱いだ下からは、見知った長く赤い髪が姿を見せる。
「......あ」
「狼さん狼さん?貴方の耳はどうしてそんなに大きいんですか?。貴方の目はどうしてそんなに大きいんですか?」
「狼......」
「ふふ、狼さん。貴方のお口はどうしてそんなに大きいんですか?」
「......それは」
「それは?」
パニックを起こしている体を落ち着かせ、一つ息を吐く。
「お前を食う為だよ!」
「え!?」
こうなればヤケクソだ。呆気に取られるフランに向けて突進する。狼は赤ずきんを食べて退治される。子どもたちもいる事だし、ここで一つ芝居でも見せれば楽しんでもらえるだろう。
フランの肩をがっしりと掴み、大袈裟に口を開いて脅して見せる。
「っ。兄.....」
「ははっ!若くて美味そうな肉だ。どこから喰ってくれようかな!」
子どもたちの悲鳴と歓声が上がる。
生憎とここに猟師は居ない。つまり狼の独壇場と言う訳だ。
少しやり過ぎな気もするが構わない。
「や.....待って」
「待つ!?嫌だね!観念して俺に喰われてしまえ!」
本気で焦っているフランの顔を見ていると、いつもやられてばかりの彼女に勝利したと言う達成感で自然と笑みが溢れる。
ぐんと彼女に詰め寄ると、その顔が真っ赤に染まる。
「に.......っーー!」
フランの体から力が抜けた所でその背中を支え、場の空気に圧倒され息を飲んで見守っていた民に向かって軽くお辞儀をする。
普段の姿からすればギャップを感じる者も少なくないだろうが、俺も獣人なのだ。この程度の脅しの演技も出来なくてはいざとなった時に困る。
「お楽しみ頂けただろうか。即興の芝居ではあったが、宴会芸とでも思ってくれ」
民から歓声が上がる。その声に心地良い満足感を得る。
「そしてもう一人。赤ずきん役を演じてくれた我が妹にも拍手を!」
続いてフランに向けられた拍手が巻き起こり、広場は歓声と喝采の音に包まれる。
「さて......早く逃げないと今度は本当の狼がくるぞ」
へたり込んでいるフランにいたずらっぽく笑いかけ、手をヒラヒラと振って子どもたちの輪の中に戻る。
遠くから馴染みのある雄叫びが聞こえてくる。
「オオオオオオ!!」
「きゃはは!それそれー!」
全力疾走で広場に突っ込んで来るバロン。
その後ろを子どもたちが追い掛け回す。
「嘘だろ......あのバロンが」
おもちゃの剣と小さな皮のベスト。冒険者気分の子どもたちは狼退治の遊びをしているのだろうか。
「オオオオ!やりましたアルト様!ついに.....ついに!」
涙を流しながら達成感に満ちた眩しい笑顔を見せるバロン。相当嬉しかったらしい。
当初の目的は果たしていないのだろうが本人が楽しいならそれで良いだろう。
「......遊びなんだよ......なっ!?」
後ろから首に何かが巻き付き、そのまま前に体重を掛けられる。
「狼さん?。少しお話しましょう?」
「んな!?。フラ」
「赤ずきんですよー?」
背筋を撫でるような冷たい声。これは完全に怒っている。
「いや、待て。落ちつ.....っぎ!」
「わあ!赤ずきんちゃんすごい!」
「そうですよー。赤ずきんちゃんはとっても強いんです。これからわるーい狼を退治してきますね」
「頑張れ赤ずきんちゃん!」
はしゃぐ子どもたちの純粋な喜び様は微笑ましいが、後ろに乗り掛かっているであろうこの赤い悪魔は間違いなく俺を締めるつもりだ。
「わがっだ.....わがったから離れ」
「それ行け狼!」
「っぎあ!?。おおぜのままに!」
巻き付いた腕に力を込められ、息の詰まる苦しみのあまり抵抗を止めて従う事を選ぶ。
暫くフランの乗り物にされた後、収穫祭の閉幕を見届けて再び城内で乗り回される。
使用人が微笑ましいと言わんばかりの顔で通りすぎていくが、この悪魔の無垢な殺意に気付くものは居ないのだろうか。
「兄様.....お部屋行きましょう?」
耳元で聞こえる囁き声に総毛立つ。
「びくって震えて.....可愛いですよ。兄様」
「苛めないでくれ」
「あれで私に勝ったつもりなんですか?」
「悪いかよ」
「さ、速く速く」
部屋まで背負った彼女を送り届ける。
扉を閉め、彼女を床に下ろす。
「遅くなる前に休みな。本調子じゃないだろ」
部屋から出ようとすると、手を握られる。
「やだ」
「何が?」
「行かないで」
「........」
余裕に満ちた弄ぶ様な態度は身を潜め、フランの声は小さく寂しげなモノだった。
「話そう?」
「良いけど、何を」
「この服。どうかな」
彼女が纏う赤ずきんの仮装に目を向ける。
童話で良く目にするその衣装は、彼女の印象に良く似合う可愛らしいデザインをしている。
「似合ってるよ」
「うん。知ってる」
ぽすんとベッドに腰掛ける音がして手を引かれる。
それに応じて隣に座ると、フランが口を開く。
「少し怖かったですよ」
「あれでも大分手を抜いたぞ?」
「分かってますけど」
「どう怖かった?」
「本当に食べられるかと思った」
「してやったり」
「馬鹿兄様」
「痛い痛い。頬をつねるのは止めろって」
相当不満だったらしい。
「悔しかったか?」
「それはそうですよ。驚かすのは私の得意分野なのに。それで兄様に負けるなんて」
「ははっ。ギャップってやつだよ......待て今軽くバカにしたか?」
「気のせい」
「むう.....」
「にしても残念だな。せっかく今日のために用意した服なのに」
「いたずらのダシにされたって?」
「そうだよ」
「俺が狼なら芝居をするのに丁度良い組み合わせだろ?」
「そういうつもりで着たんじゃないの」
「ならどういうつもりだ?」
「兄様を驚かすため」
「国の祭りで俺を標的にするなよ」
収穫祭の仮装としては文句無しだが、その動機には少し引っ掛かる。
「収穫祭は国の催しなんだ。あまりそういう動機は頷け」
「うるさいなー。子どもたちも喜んでたんだしいいじゃん」
「そういう問題でも」
「あー!あー!聞こえない!」
「全く......」
「だいたい兄様も感想が薄いよ!何、似合ってるって。それだけ!?」
「どうどう」
「私は落ち着いてる!」
「はいはい。可愛いよ可愛い」
「投げやり!」
すっかり疲れてしまった体に彼女の世話は辛いわけで、一刻も早く眠りにつきたいのが本音だった。
「悪い、少し休みたい。まだ疲れが取れてないんだ」
「まだ全然話せてない」
「明日な。取り敢えず眠らせ」
握られた腕を引っ張られ、ベッドに転がされる。
突然の事に寝ぼけていた目が覚める。
「なら、ここで休んじゃえばいいよ」
「.......顔が怖いぞ?」
「安心して寝てていいよ?」
「何する気だよ」
「いたずら?」
俺を押し倒して微笑むフランの目はギラギラと輝き、それだけでこのまま彼女の好きにはさせられないと察する。
「.......寝ないんですか?」
「何が望みだ」
「朝出来なかった続き」
「明日な」
「やーだ」
「っ......」
月の昇り出した国の一室。今日もまた眠れない日がやって来るのだろう。
またチマチマ書き貯めながらやっていくのだよ
次回から申し訳程度の新展開と