申し訳ない
唸り声を上げて俺とフランを威嚇する魔物の群れ。
静かにその群れを見つめる俺の隣では、嫌悪に顔をしかめるフランが魔物を睨み付けている。
「うるさいな。兄様の耳に障るだろ」
フランが魔力で猟銃と鉈を生み出し、両手に構える。
身に付けたドレスには不釣り合いなセンスに驚愕しつつ、魔力を雷へと変換させ戦闘の準備を進める。
「全滅の必要はない。進路を開けることに集中するんだ」
「分かった」
前を塞ぐゴブリンに向けて雷を放つ。直撃を受けたそれは激しく体を痙攣させた後動かなくなる。
それを開戦の合図と取ったか、魔物の群れがなだれ込んでくる。
地に指を這わせ。魔力を爆発させると、雷が波のように地を滑り魔物に襲いかかる。
右からオークの腕が伸びるが、それは俺に届く前に鉛の槍に貫かれ軌道を剃らされる。
「家畜が兄様に触るな」
排出した薬莢に炎を纏わせ、鉈で斬り付けて魔物に飛ばす。
返しの刃で弾に撃ち抜かれたオークの腕を切断し、体勢を崩し転倒したその頭部に銃口を突き付ける。
「二度と生まれ変わるな。豚が」
くぐもった銃声とオークの悲鳴が混ざり、気味の悪い音がする、
「......さっさと来なよ。全部殺してやるから」
憎しみと嫌悪の色だけが煌々と輝くフランの瞳に睨まれた魔物は動きを止める。蛇睨みと言うのはこの事だろう。
「フラン。あまり飛ばしすぎるなよ」
「大丈夫。兄様には触れさせない。絶対守るから」
恐ろしいことこの上ないが、頼りになるのもまた事実。
かといってそれに頼りきりと言うのも格好が着かない。負けじと魔力の剣を生成し、右手に構える。
「背中は任せろ。最も隙なんてないか」
「私一人でもやれるよ」
「気を遣ってくれてるんだろうけど、それはそれで傷付くぞ」
「じゃあ後でお詫びのハグ」
「お前がしたいだけだろ」
「来るよ」
「その前に始末する」
フランが銃を構えると同時に疾走し、正面に立ちはだかるゴブリンの腹に雷の刃を突き刺す。
いとも容易く切り開かれた肉が激しく帯電し、ゴブリンの肉体が波紋が広がるように黒く焦げついていく。口から黒煙を吹き出し、カラカラに乾いた目玉が眼孔に沈んでいく。
「ーーーーッフ!!」
威迫の叫びと共に魔力を放出し、奥に連なる魔物を貫く。
引き抜いた幾分か規模を減らした短剣を構え、後方から飛び掛かる魔物に向き直る。脇腹を銃弾に撃ち抜かれた魔物の脳天に突き立て、フランの前に戻る。
「助かった」
「.....あとどれくらい」
「あと一息。一体ずつ始末するしかなさそうだ」
「分かった。無理しないでね」
「お前が言うのか」
再び雷の剣を握り、目の前に並ぶ魔物を睨む。
反応が遅れたオーガに距離を詰め、間髪入れずその腕を切り落とす。
悶えるオーガの顎を柄で打ち上げ、立ち直るより先にその身を串刺しにして振り回す。
幼体とは言え、その大柄な体躯は並の魔物など容易く凪ぎ払う。
オーガごと魔物を馬車の前から撥ね飛ばし、再び進行方向を塞がれる前に御者席に飛び乗る。
「フラン。出すぞ!」
「分かった」
フランの手を取って御者席に引き上げ、手綱で馬の背を打つと、馬は大きく嘶き慌てた様子で走り出す。
後続の馬車に進行の指示を出し、残された魔物を雷で排除する。
隣では険しい表情のフランが身を乗り出して猟銃を構えている。
何かの拍子に落とされないか不安になるが、今は魔物の始末に集中する。
「ギリギリ間に合うか......」
「聞こえない!」
「こっちの話だ。取り敢えず後ろの道を開けてくれ!」
手綱で片手がふさがり、加えて揺れる馬車の上で魔術を使うのは負担が大きい。
狙ったはずの方向に雷が届かず、殆どの魔術は地を黒く焦がすだけに終わる。
「そろそろ弾届かなくなる」
「倒せるだけ倒してくれ。少しでも多く頼む」
乾いた射撃音と、短い魔物の断末魔。死に様が脳に浮かび気分は優れないが、それを吹き飛ばすよう全力で馬を走らせる。
魔物の声が聞こえなくなった所で馬車の速度を落とし、後続の馬車に連絡を繋げる。
彼らの安全を確認し、一息吐く。
「ふう、何とかなったな」
「お疲れですね」
「まだ息が上がってる。こんなこと初めてだったからだろうけど、心臓に悪いな」
「初めてって、普段はもっと平和なんですか」
「いや、魔物に襲われる事自体は何度かある。だけどこの数の群れの襲撃は初めてだってことだ」
「あんな寄せ集めの集団なんてイレギュラー中のイレギュラーでしょう」
「ああ、数も物凄い量だった。そもそもあれだけの魔物を操るような術者を見たのも初めてだが」
「何か仕掛けがあるんですよ」
「だと良いんだが」
女の言葉通りなのだとすれば、あのローブの人物は俺を狙う刺客だ。それがあんな力を持った術者で、他にも控えているのなら大きな脅威となる。
「目的は概ね見当が付きますけど」
「だな」
険しい表情だったフランがあきれた様子で笑みを溢す。
御者席に漂っていた重苦しい雰囲気が消え、気の抜けたような空気が訪れる。
「もうすぐ日が暮れる。予定からは少し外れるが、一晩休んでから出発しよう。そうすれば早朝にはウルガンド付近に到着する」
水晶を通して後続の隊に連絡し、馬車を止める。
枯れ木を拾い集め組み上げた山に魔術で火を灯し、その前に胡座をかく。
魔術で編んだ電気の網を馬車の周囲を囲む様に張り巡らせ、即席の防壁を作り出す。
「夜の間はこれで問題無いと思うが、仮眠を取る時に交代出来る術者を一人残しておいてくれると助かる」
馬車の中に待機している術者に伝え、防壁の維持に意識を戻す。
隊の安全のためにも先刻の戦いの騒ぎで野生の魔物が動き出さない事を願うばかりだ。
戦闘長引かせても読むのだるいしそれが雑魚狩りだとなおのこと......