血塗れた屋敷 赤い少女
馬車の御者席。青く晴れた空が広がる街道。
隣では鼻歌を口ずさみながら手綱を握る、綺麗な羽に包まれた人の姿をした鳥の男が座っている。
「殿下。随分と浮かない顔をされていますね」
「.......」
「後悔されているのですか」
「まさか。馬鹿言わないでくれバティ」
バティ。鳥の獣人で、俺の従者であり国の外交官を務める詩人だ。
「ではどうして?」
「本当に生きているのかって。間に合わなかったらって」
「はは、またですか殿下?。そうしてすぐに心配されますが、人の上に立つ者としてどうかと思いますよ」
「......」
「貴方は私達の主人であり、我らの次の皇なのです。せめて私の前では強い御方で居て下さらないと困ります」
「そう.....だな」
「貴方はもっと強い。前を向いてください。彼らとの約束があるでしょう」
「全く。本当に人の事をよく見ているんだな」
「そうでもなければ詩人など務まりませんよ。我々は何気ない事の1コマを切り取り、
上品に笑うバティ。流石に両親の次に俺をよく知る人物だ。
「しかし、ヴァロン殿が不在とは時期が悪かったですね」
「ああ、いつも助けられてるばかりに不安だ」
「殿下?」
「すまない」
「お願いしますよ。いつまでも皇太子ではないのですから。
と、見えてきましたよ。コルネット領」
バティが指さす先、小さな町が見えてくる。
かつては活気に満ちていたそこも、今は流行病によって壊滅寸前の事態に陥っている。
今回俺が出向いた理由も現状調査が主な目的で、医療知識のあるバティが同行してくれているのだ。
「すっかりゴーストタウンですね。ものの数カ月で領民の半数近くが感染。それから2週間で感染者のほとんどが死亡。なんとも痛ましい」
「悪い冗談だと思いたかったが、あれを見たら認めざるを得ないな」
「最善を尽くしましょう。殿下」
「ああ、1人でも多く救うんだ」
「殿下の目的はコルネット嬢の救出です。患者の治療はお任せを」
「危険な仕事を任せてしまってすまない。すぐに手を貸すから」
「おや、そういった発言は看過できませんよ?殿下」
バティは困ったように笑って見せる。
「お相手は御令嬢。女性に対してすぐに終わらせる。等と軽くあしらうような発言はいけませんね。こんな状況下で傷ついておられるかもしれません。どれだけ時間がかかろうと私は構いません。彼女の傷を少しでも取り除いて差し上げて下さい。絶対にですよ」
「.....分かったよ。お前には適わないな」
「では、行ってらっしゃいませ。殿下」
馬車から降りたバティが深々と礼をする。
羽の生え揃った美しい腕は、大空を舞うに相応しい鮮やかな翼の形をしている。
彼と別れ、領地の広場を抜けて領主の屋敷へと向かう。
道中の家はどこも戸締りがされ、風の音が泣いているように感じられた。
聞き込みができればとメモ帳を持ってきたが、それも必要なさそうだ。
「速く行かないと」
速足で屋敷まで向かうが、その前で思わず足を止める。
薄くではあるが、錆び臭い嫌な臭いが鼻を突く。
「嘘だろ.....」
慌てて玄関まで走り寄り、 扉に手を掛けた途端、内側からただならぬ重圧感が押し寄せる。
本能がその中に入ることを拒む様に足を重くさせ、取っ手を握る腕には誰かが阻むように後ろに向けて引かれる感覚がある。
「........ふ.....う」
意を決し、一呼吸。 バティが言っていた少女。その子がこの屋敷の中にはいる。 俺よりもずっと怖い思いをしているはずの子が。
扉を引く。隙間から冷たい風が漏れ出し、その臭いが鼻に触れる。
「.......っづ!」
脳に眠っていた地獄が甦る。
甘ったるい腐敗臭が鼻を酷く刺激する。
それだけの些細なものでさえ過去の記憶が目を覚まし、瞬く間に脳に広がる。
「.......あ......ヴっ」
喉を昇る生暖かい液体の感覚に口を抑える。
ふらつく体で屋敷の壁に手を付ける。
「っぉお.....っげえ.....」
口内に溜まり、瞬く間に広がる酸味。
溜まらず口を覆う手を外せば、地面にボトボトと音を立てて液体が落ちる。
封じていた壁が壊れ、一斉に溢れだした過去の記憶が意識の全てを支配する。
四肢を切り裂かれて。喉を掻き切られて。背に赤く濡れた剣を生やして横たわる同胞。
焼け焦げ、炭となった肉から覗く赤い染みの付いた骨。
赤い涙を流し、目を見開いて倒れ伏す骸。
震える足で後ずされば、地を踏みしめるぴちゃりと言う音がする。視線を落とすと、紅く黒く滑る知能が溜まりが、地を彩る絨毯のように広がっていた。
共に引かれて走り去ったその地獄は、遠ざかるほどに広がるその惨状と、その場に立ち尽くして震えながら同胞の死を目に焼き付けるだけだった自身の無力感を思い出させる。
「っ........げっごほっ」
立つことが辛くなるほどに酷い吐き気。
腹の内側が蛇のようにうねり、その度に噎せる。
玄関に踞り、腹が空になるまでえずいて、胃の中身を吐き出す。
「っ.....はぁっあっ.....はあっ」
どれくらい経ったかはわからないが、そう長くはないだろう。
再び立ち上がり、 再び扉に手を掛ける。
「こんなことしてる場合じゃない」
大きく息を吐く。
ほんの少し目を閉じ、雑念を払う。
そうして手の震えを治め、代わりに力を込める。
もう一度。今度は強く取っ手を握り、ゆっくりと開く。
広間に光が射さないよう、そこにあるであろう地獄を目にせず済むよう、狭い隙間を作り、その間を通り抜ける。
下手に中の惨状を目にしたらそこで動けなくなるだろう。
血の海であれ骸の山であれ、見なくて済むならそれに越した事はない。
脳にちらつく現影を振り払い。
暗い屋敷を進む。
エントランスは見慣れた間取り。
奥の部屋へと繋がる扉が一つ。その横には上階へと伸びる階段が左右に二つ。
鼻を突くのは上階から流れる濃厚な血の臭い。普段は自分を助ける物事を探る為の嗅覚を憎く思うのは他者の死と向き合う時だ。
例えそれがどんなものでも、他者の「死」を目にする度あの惨劇が甦り。
気が狂いそうになる。
「駄目だ......今は考えるな」
沈み掛ける心に渇を入れ、階段を上る。
手すりには気味の悪い温もりを感じる。
手を離せばにちゃにちゃと糸を引いて纏わりつき、その手でもう一度触れれば、今度はぬるぬると滑る。
「........うっ」
手探りで進む他ない闇の中。
カーテンの閉めきられた屋敷に窓からの光は届かず、ただ触れる物の感触を頼りにする。
ソレの正体も知らないはずがない。
立ち眩みがし、腹の底からは不快感がせり上がってくる。
口を手で覆い吐き気に耐え、臭いを避け前屈みになりながら進む。
この様を端から見ている誰かが居たなら、きっと滑稽な姿だと嗤うだろう。
「っ......あ....はぁ.....はぁ」
階段を上り、手すりで体を支えながら廊下に向かう。 血の臭いが濃くなる。窓からの薄明かりで、少し先の廊下が照らされる。
人の足と思しきもの。その下に敷かれた赤い絨毯に思わず目を逸らす。
「ぉ.......ぉぁぁあ......こっ.....」
うめき声。 先の廊下。誰かの声が聞こえる。 息を殺し、静かに歩く。 絨毯は赤く濡れ、踏みしめる度に水音が小さく聞こえる。
息の音さえ無い空間では、その音すら洞窟の中にでもいるかのように生々しく、鮮明に響く。
「ぁ.......ぁぁ.......あ」
弱々しい声。先ほどよりも弱く。
歩みは止めない。 あるところまで進むと、前方に蠢くものを見つける。
使用人だろう。
暗い中でも分かる苦悶の姿に吐き気がする。
傍らに屈み、質問をする。
「コルネット嬢はどこに?」
血の臭いに噎せ、咳き込む。 それを鮮明に見ずにいられるのが唯一の救いだろう。
「ぁ?.....誰か......お嬢......ま。 ち.....がぁ....あ.......ば....も....ゴブッ」
使用人が血を吐き出し、荒い呼吸を繰り返す。
「コルネット嬢の居場所を教えてくれ。彼女に用がある」
使用人は震える手で奥の廊下を指差す。
混ざりあった血の臭い。
「......ぐ....ぇ」
あまりの不快感に口を抑え、壁にもたれ掛かる。 浅く小さな呼吸で意識を繋ぐ。
まともに息なんて吸えば血の臭いを取り込む。結局悪循環だ。
コルネットの令嬢を救うのが先決だ。
俺が倒れたら何も始まらない。
「耐えろ。血なんて見えない。今は何も考えなくていい」
壁から背を離し、使用人の指した方へと向かう。道中に転がっていた死体であろうモノは全て見ないふりをして、ただ前だけを見て進む。
視界の隅、ネームプレートらしい板がかけられた扉が映る。
その扉の前に立ち、その先にいるであろう少女に声を掛ける。
「コルネット嬢。俺はエルラドからの遣いだ。いるのなら返事を」
沈黙。
名前も知らない少女に呼び掛けるが、答えはない。
「コルネット嬢?」
ノックをするが、それにも返答はない。
静かに扉を開け....
「.........!?」
突然体が重くなる。脱力感にも似た感覚に、ノブから手が離れ、部屋の中になだれ込むように派手に転ぶ。
「誰!」
少女の声。
「コルネット.....嬢?」
顔を上げると、壁に背を付けて怯える赤い髪の少女がいた。
年齢は俺より少し年下か同い年くらいか。
小さな声で何かを伝えようとする彼女。
離れた互いの距離で、その声を聞くことは叶わない。
床に手を付いて立ち上がり、彼女に歩み寄る。
「いや!来ないで!」
少女がそれを大声で制す。
「待って、俺は」
「知らない!私を殺すつもりなんでしょう。他の使用人と同じで!」
「な、何を」
「パパとママが死んでから、皆私を化け物って言うんだ。私がパパとママを殺したんだって!」
少女は混乱しているのか、俺にはさっぱり分からないことをただわめき散らす。
「出ていって。助けに来たなんて嘘なんでしょ!」
「そんなことない。俺は君の味方だ」
「うるさい!」
少女の叫びに反応し、その瞳が翡翠色に輝く。 視界がぐにゃりと曲がり、転倒しそうになる体を膝を突いて支える。
「っ......大丈夫。何もしないから」
「そんな話信じられない!」
体勢を崩しながらも立ち上がり、逃げる少女へと歩み寄る。
「来ないでって言ってるの!どうして!」
もう一度叫び、彼女は床に落ちていたナイフを手に取る。
「それ以上来ないで。でないと殺す!」
「..........」
構わず進む。
少女の顔が恐怖に歪む。
「本当に殺すよ。う、嘘じゃない!来るな!」
「それを置いて。コルネット」
諭すよう穏やかに語り掛ける。
少女は目を瞑り、歯を食い縛っている
「ーーーー!」
「それで俺を殺す?。それじゃあ君も使用人と同じになる」
「来ないで.......」
「大丈夫。君を苦しめたい訳じゃない」
彼女の手が震えているのが見える。
「お願い........死んじゃう。貴方も........」
「........」
彼女の目の前まで辿り着き、その手からナイフを取る。
「怖かったね。もう大丈夫」
「.......っ」
瞑ったままの彼女の目から涙が伝う。
その涙を指で拭い。小さな手を握る。
「ここを出よう。俺がついてる」
無言のままの彼女の手を引いて、屋敷からでる。
先に馬車に戻り、彼女を幌の中に案内する。
「ここで待っていてくれ。従者を呼んで」
少女が俺の袖を掴み、首を横に降る。
「.......分かった。彼が戻るまで一緒にいる。それで大丈夫か?」
少女は口こそ聞いてくれないが、その手を離すこともしない。
少女の隣に腰を下ろし、バティの帰りを待つ事にする。
「コルネット......いや、君。名前は」
「.......」
「まだ俺を信じられない?」
無理も無いだろう。彼女の話を聞けば両親を亡くしており、心細い中で使用人にも裏切りのような形で命を狙われた。
「1人が怖いならそれでいい。でも、部屋で会ったときよりも抵抗しないってことは、他の人よりは怖くないと思っていいのか?」
暫くの沈黙の後、その動きが分かるかも怪しいほどに小さく彼女は頷いた。
「そうか。なら良かった」
「.......怖くないんですか?」
消え入るように小さな声で彼女が口を開く。
「何がだ?」
「使用人を殺したのは私なのに」
「あれだけ怖がって必死になってた。大人しく殺されるなんて誰しも嫌だから。自分を守りたかった。そう思うなら当然の行動だ」
殺した。その言葉には引っかかるものがあったが、話を聞くことにする。
「.......」
「ご両親のことは残念だった。すまない。こちらの把握が遅れたせいだ」
「違います」
「いや、謝らせてくれ。大切な家族を失わせてしまったんだ。許される事じゃない」
「......必死ですね」
「必死?」
「気でも引きたいんですか?」
「そんなはず無いだろう。傷を負った女性の弱みに付け入ろうなんて最低だ」
「変わってる」
「そんなことないだろ」
「人殺し相手に人を殺した事を謝るなんて、充分変わり者ですよ」
「む.....そうか」
「そうですよ.......」
少女は考え込むように下を向いて沈黙する。
「名前.......忘れちゃったんです」
「は?。忘れた」
「はい。2人が死んだ時、頭が空っぽになって。そこから何も覚えてなくて」
「記憶が.....無いって」
「はい.......」
彼女の声が詰まる。
「どうして。パパとママが......」
小さな呟きの後、隣からすすり泣く声がする。
嫌な記憶を抉ってしまったのかもしれない。
静かな泣き声が胸に刺さる。
居心地は悪くなるばかりだったが、ここで彼女を1人にしては更に心細い思いをさせてしまう。
慰めになるような気の利いた言葉も見つからず、何も言えずただ彼女の隣に座っているだけの自分が情けなかった。
「殿下。ただいま戻りました」
「ああ、バティ。お疲れ様。結果は」
「可能な限りの治療はしましたが、望みは薄いでしょう」
「......ねえ」
「残りの住民を国内に移住させるべきか」
「そうでしょう。被害が拡大する前に」
「ねえ」
「おや、殿下。そちらがコルネット嬢ですかな?」
俺の袖を引く少女に気付いたのか、バティが彼女に会釈をする。
「初めまして、レディ。私はバティと申します。エルラドの外交官と、そちらの御方の世話役を勤めております」
「......!」
俺の影に隠れる少女。バティは残念そうに眉を下げる。
「おや、嫌われてしまいましたかね」
バティは幌の後ろを閉め、御者席に向かう。
「殿下。参りましょう」
「ああ。すぐに」
バティの声に腰を上げようとした時、再び袖を掴まれる。今度は先ほどよりも強く。
「嫌だ......」
「.......」
「殿下。いかがされましたか?」
「中に残るよ。出してくれ」
「左様ですか。では」
幌が揺れ、ゆっくりと馬車が動き出す。
揺れに驚いた少女が俺にしがみつく。彼女からふわりと香る甘い匂いにどきりとする。
「.......」
「コルネット嬢」
「......ふあ」
大きな口を開けてあくびをする少女。
「少し。寝ます」
「ああ、国に戻ったら起こすよ」
幌にもたれて瞳を閉じる少女。
暫くして寝息が聞こえてくる。
「コルネット.......もう寝たのか」
彼女の邪魔にならないよう、音を立てず御者席に向かおうとするが、彼女の手が俺の袖を握ったまま離さないのだ。
「........まだ行くなって」
風に煽られて乱れた彼女の髪を整え、もう一度腰を下ろす。
「......髪、綺麗だな」
林檎のように鮮やかな赤色の髪は、糸のように柔らかな指通りをしている。
小さな寝息を立てる彼女の顔は年よりも少し幼く、そして苦しげに見えた。
「なあバティ」
「どうされました」
「この子。どうなるんだ」
「どうなるとは?」
「国に送り届けたとして、それからは」
「村で聞いたことですが、彼女は魔眼を持っている様です。それが真実なら、研究の対象となった後は、施設に預けられるでしょう」
「施設って、そんな突然」
「親もいない独り子。まともに取り合ってはもらえないでしょう」
「そんなの可哀想じゃないか」
「同情だけでこの世は生きていけません。お気持ちは分かりますが」
「バティ。この子.......城で引き取れないか?」
「何を仰っているのですか」
バティの言い分は最もだ。分からないことの多い少女を城に入れるのは危険が多すぎる。
「家族として受け入れたい」
「殿下.......冗談はお止めください。彼女は魔眼を持っている可能性がある。それに人を信頼することが出来ないのであれば、他人に危害を及ぼしかねない。ましてそれが皇族に向けられるのであれば、そのような事を許可など」
「頼む。彼女の傷が癒えるまでだけでもいい。救ってあげたいんだ」
この時の俺に、バティの声は届いて居なかったのかもしれない。
魔眼という単語を聞いても、それを気に留めずに説得を続けた。本来ならもっと冷静になれていたはずだが、それほどに彼女に執着していたのだろう。
「........私には決定出来かねます。皇帝陛下に願う他ないでしょう」
バティは悲しげにそう言うが、すぐにその声はすぐに重く力の籠った物に変わる。
「しかし殿下。それは貴方の身勝手な意思。彼女がそれを望むとは限らないのです。その思いで彼女が更に傷を背負う事になるなら。また家族を失うことになるなら」
「貴方はその対価を払えるだけの覚悟があるのですか。よくお考えになって下さい。貴方の言う事は、多くの他者の命を背負うという事なのです。未だ戦争のトラウマからも立ち直れていない貴方に、それが出来ますか」
バティの言葉は最もだ。しかし、それでも彼女を思うと胸が酷く痛むのだ。
「それでも、俺はこの子を助けたい。それが身勝手な願いだとしても。幸せにしてあげたいんだ」
「.........左様ですか」
バティはもう何も言わなかった。
俺に呆れているのか、何か考えているのか。
彼の姿を見ることが出来ない以上、その考えを知ることは出来ない。
「また迷惑を掛ける。すまない。バティ」
「........」
隣で眠る少女。
彼女はあの血に濡れ、苦悶の声に満ちた地獄の中でただ1人生きていた。
この願いはただの独善かもしれない。
それでも、苦しむ彼女を無責任に放って生きることができる程に俺は強くない。
それが間違いだと分かっていても、悲しむ人がいれば手を差し伸べずにはいられない。
「間違いじゃない.....はずだから」
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「結局、コルネット領の事は未だに心残りです」
「まだ何かできる事があったんじゃないかって」
「殿下。最後の方で表情が曇られましたね。何か嫌なことでも」
「む。それは自分の胸に聞いてくれ」
「おやおや、私は間違ったことなど言っていないはずですが」
「あの時は仕方なかっただろう」
「そういうわけにも行きません。甘やかすなと申し付けられておりますので」
過去の話に花を咲かせる。
良くも悪くも、それが笑い話になるのは今があるからだ。
「フランシア様の事は驚きました。まさか皇帝陛下があれほど簡単に承諾されるとは」
「後で聞いた話じゃ戦争に使う目的があったらしい。国の為とはいえ、随分酷なことをさせようとしてたみたいだ」
「成る程。それならば納得ですね」
バティが紅茶を啜り、本をテーブルに置く。
「あの時の殿下の熱意に動かされた可能性もありますがね」
「どうだろうな」
「あれほど魔術と史跡調査に没頭していた貴方が女性を連れてきた....」
「別にそういう意図があった訳じゃないぞ!」
「おや、そうなのですか」
「そうだよ」
「ふむ」
「さあ、この話は止めだ」
「仲がよろしいことは結構です。大切にして差し上げるよう」
「分かっているからその含みのある言い方をやめてくれ」
血塗れの屋敷で出会ったたった1人の少女。
この話にはもう少し続きがある。
勿論、今に至るまで全てが順調だったわけではないのだから。
後半(確か)二年前に書いた作品のコピペ。気付けた天才の貴方も何か書いて投稿してみないか