中編上(共通)
持ち帰った宝をいつもの場所に隠してから、私はココヤシ村を見渡せる岸壁へと向かう。前を見れば海が広がり、下を見ればココヤシ村が見える。
背後には木々が生い茂っていて、走り回る皆を、笑い合う皆を誰にも気付かれずに見ていられる場所。身体は海へと向けて、海と空の交わるその場所を見ているように見せ掛けていた。
水は本来無色透明で、だから海も塩や岩がある為に多少の濁りはあるけど基本的には無色透明と呼んで差し支えない。なので、空の色を鏡のように反射しているその性質が邪魔をして区切りがよく分からなくなる。
誰かの笑い声が聞こえた。それに意識を奪われるようにして立ち尽くす。
そんな
だけど、それも後少しで終わる。お金は集まったのだから、もう、そんな悲しい現実が襲って来る事は無くなる筈よ。
あと少しで皆に……。〝返せる〟と思ったのか〝会える〟と思ったのか、それさえ分からない自分に泣きたくなってしまう。
「ナミ」
呼び掛けられて振り向けば、そこには帰ってからまだ挨拶に行っていなかった相手がいる。その巨体を見上げて、私は薄く笑みを浮かべた。
あの日誓ったように、私は笑い続けてみせると決めているから。それでも、表情筋が日々失われているから、笑顔の形を成しているかは甚だ疑問だけどね。
「あら、アーロンいたの?」
「ああ……。帰ったなら、顔を出せ。お前は俺の仲間だろ」
「……仲間?……私に、仲間なんて居ないわ」
自らの発した言葉が、胸が僅かに痛みを伝えて来る。それは、私を愛していると伝えてくれた優しい彼を否定したような気がしたからかな。
でも、表情は凍っていく。僅かにあった笑みさえ、凍り付く勢いで。
「ナミはアーロン一味の幹部だ。仲間じゃねェと言うなら、俺の性欲処理をして貰おうか」
「そんな契約は結んでないわ!私は手を組んでるだけよ」
思わず怒りを滾らせたけど、怒るだけ無駄と後半は深呼吸して怒りを霧散させて何とか感情をコントロールする。そんな私に、アーロンは無遠慮に歩み寄って来た。
それを見上げた時、髪を手にして何かを考え込むようにする。それが不思議で、でも髪を持たれているのが妙に不快。
……彼が、そうした時は嫌な感じは何も無かったのに……。そう考えたら、私、随分我儘ね。
そう思ってフッと笑った直後、腹部に感じたのは強過ぎる衝撃。見れば無表情のアーロンがいて、犯人は考えるまでもなくアーロンであると分かる。
「アーロン、どうし、て……」
崩れ落ちていくナミへと、俺は即座に腕を伸ばす。そのまま、そっと力の抜けた身体が草むらに落ちるより早く支えた。
振り向いた時の微笑みが、硬かった蕾の開花に見えて内心で喜んだ直後、見付けてしまった羽虫に付けられたであろうマーキング。こうして腕の中にいると感じ取っちまう、別な雄の臭い。
あの日、俺の印を肩に刻んだその時からナミは俺の所有物だ。誰にも、くれてやるつもりはねェ……!!
苛立ちを抑えられないままにナミを拷問部屋のベッドに下ろした時、何に使うのかと放置していたネズミに贈られた下着を思い出す。媚薬を買った時の贈答品にも、似たような衣装があったのを続いて思い出せば、部屋にある全ての布を取り払い代わりにそれらだけを用意した。
通常のハンドタオルの半分しかない布を少し用意してやれば、風呂はどうにかなるだろう。俺から逃げようと言うなら、裸より恥ずかしいその衣装で飛び出すしかないぞと内心で笑った俺は、恐らく相当に醜悪な顔をしている筈だ。
そのまま部屋を出て、俺は最近入手したばかりの薬を取りに向かう。他の誰かが入れないように、鍵だけは忘れずに掛けて。
ドアを閉めた直後、聞こえて来た咳き込む音に僅かな動揺をした己を疎ましく思う。ナミは、卑怯で卑劣な人間であり、正義を振り翳す海兵の娘だ……俺達にはナミを苦しめる権利が……ある。
「ゲホッ……!カハッ……!」
打ち身が、下手なのよね。アーロンは人間の脆弱性を甘く見てる節があって、覇気を纏ってなかった私にはそのダメージが結構残ってる。
漸く呼吸が落ち着いたら、何故か何も着てなくて……。でも、何かをされた様子は無いからとシャワーを浴びに向かう。
その途中で着替えを取り出そうとして、呼吸と共に動きを止めてしまった。紐で作られた服として機能しない物や、一応全て隠れるように見えて動くと全てさらけ出される踊子の衣装。
明らかに全てが透けて見える物と、布はかかるけど風が吹くだけで全て丸見えになる物。多少の色やデザインの違いはあっても、そんな物しか入ってない。
下着も紐だけとか、大切なところに穴が空いてるのとか、布が垂れ下がってるだけとか、そんなのしか入ってなくて……。大切なところにある穴を塞ぐように縦に一本宝石とかが連なってるのもあるけど、寧ろ刺激する為にあるのだとしか思えない。
「アーロンは、何考えてんの?」
タオルもバスタオルどころかハンドタオルすらない。ハンドタオルの半分しかないそれでは、胸を隠すのも不可能だろう。
……とりあえず、シャワー浴びよう。裸で彷徨いてたら風邪ひくわ。
妙に冷静にそんな事を考えてシャワーを浴びつつ、身体を拭くまでは良いとしてその先が困る事に気付いた。でも、そうよねと動くと見える下着の上から透ける物を着れば何とか大切なところは見えなくなるからとそれを身に着ける。
それにしてもアーロン、頭がおかしくなったのかしら。とりあえず、お金は揃ったし契約の話をして家に帰ろう。
そう思っていたら着替えが終わったタイミングで、アーロンが部屋に入って来た。そして、私の姿を見て何故かご機嫌に笑い出す。
「アーロン、何考えてんのよ」
「ああ……最近欲求不満でなァ……人間の女を毎日1人ずつ近くの村から連れて来て、満足するまで犯してやろうかと思ってんだ」
「……なに、言ってんの」
下等生物だと言ってる相手を犯すと言うのもおかしいけど、私の服をこれしか無い状態にした理由にはならない。本当に頭がおかしくなったのかな。
じっと見詰めれば、アーロンは僅かに動揺を見せて視線を逸らした。何がしたいのか、本気で分からない。
「……私の衣服をこんなのだけにした理由にならないわ」
「欲求不満だと言っただろう。人間にも浴場するのか試しだ」
「私は人形でも奴隷でもな「下等生物だと思っていたが、穴としては使えそうだな」」
言葉を遮られて伝えられた言葉に私は息を飲む。本当は、私は契約という名前で繋がってるように見せかけた奴隷だと分かってるから。
奴隷から一般人に戻りたければ、身を粉にしろと言われてるだけ。でも、甘んじて全て受け入れていたら、ベルメールさんやノジコに何をされるかわかったものでは無い。
だから、アーロンの言葉を待つ。少しでもこの不条理な話の中に、妥協点を見つけなければならないもの。
「ナミが俺の相手をするって言うなら、村に選びに行くのも手間だから辞めるが……どうする?」
「近くの、村って……」
「ココヤシ村が近いな。ああ……お前の姉なんでどうだ。そろそろ身体もできているだろうし、若い。暫く使えるだろ」
ノジコを……!?
巫山戯るなっ……と、怒鳴りたくなる。でも、私は村も家族も、親でさえどうでもいいと言う事にしてあるわ。
どうしたら、守れるの。どうしたら……!!
「ナミ、震えてるのか?……そんな姿だからな……ナミが望むなら、俺も欲求不満を解消できて便利だから提案しただけだが……嫌なら構わねェ。少し出掛けてくるだけだ」
「……ココヤシ村は、私が買い取る契約でしょ。備品を壊さないでよ」
「なら、代わりにナミが相手をするしかねェな」
「契約の、お金なら……揃ったわ!今持ってくるか……「俺は、今、欲求不満なんだ。支払いが完了するまでは、全て俺の持物だ」」
その言葉と同時に抱き寄せられて、唇が重ねられる。鼻を避ける為に大きく角度を変えられた首が悲鳴をあげるけど、そんなのより……全身が、寒気に覆われるような感覚が拭えない。
隙を見てはキスして来た彼を思い出す。彼からされたのは、初めてされた時でも不快感なんてなかったのに……。
「やっ……!」
「なら、ココヤシ村に行ってくるか。お前の姉を見付けたら、その場で犯してやるよ」
「やめてっ!!」
「どうした、ナミ?」
どちらを選ぶのかと、アーロンは視線で問い掛けてくる。私に、他の選択肢なんて無いのに。
でも、隠さなきゃ。アーロンに、あの村を私が弱点としてる事を、守りたいと思ってる事を隠さなきゃ。
「……あの村にいる誰よりも、私の方がいい女でしょ。私を見た後じゃ、誰も良いと思えないんじゃない?」
「ナミが俺に抱いて欲しいって言うなら、仕方ねェな。……抱いて欲しいのか?」
嫌だ、と……言いそうになる。でも、ここで拒んだら、ノジコが……。
YESなんて言いたくなくて、小さく頷く。そんな私の顎を掴んで、アーロンはシャハハとご機嫌に笑うと何やら見覚えの無い瓶を差し出して来た。
「飲め。……幹部を壊すつもりはねェからな、体格差をこれで多少はカバーできるだろ」
「あり、がとう……」
手も、声も、身体も震える。お礼なんて、言いたくもないのに……。
「ナミの初めてを貰えなかったのは残念だが、使い古しでも多少の処理にはなるだろう」
「もし、初めてなら、どうなるの?」
「あ?そうだな……もし、初めてなら……半年、俺に逆らわずに処理の道具となると言う条件で……ココヤシ村から女を選ぶのは辞めてやる」
「はん、とし……」
半年、アーロンに犯され続けろと、そう言いたいの?
でも、半年耐えたら、ノジコ達は危険から守られる。あと、たった半年で……。
その後はお金を支払って、皆も私も、開放される……!それなら……!
他の村は私1人ではどうにもできない。だけど……ココヤシ村が開放されたなら、皆が協力してきっと他の村も少しずつ解放してくれる。
こうなっては、他の選択肢を私は持たなかった。渡された瓶の中身を迷いも見せずに全て飲み干して、アーロンへと自ら身を預ける他には、何も……。
「わ、たし……はじめて、なの。色々、教えて……?」
「海賊の女幹部が何も知らねェってのも問題だな。……教育、してやるよ」
ココヤシ村を引合いに出せば、ナミが簡単に落ちるのは分かっていた。だが、まさか未使用だとは思っても見なかったな。
全て俺好みに調教して、半年の間に俺の子を孕ませてやろう。そうすれば、ハーフであれ同胞の母だ。
俺の傍らで可愛がる事に、何の問題も無くなるだろう。震えるナミを憐れとは思うが、辞めてやる気にはならねェ。
手元に残せるならば、何でもいい。ナミの全てが俺の所有物だ。
その瞳に映すのは、俺だけでいい。その能力は、俺の為に使え。
その声は俺への愛を歌い、手も、胸も、俺を慰める為に使えば良い。体の穴は全て俺を受け入れる為に存在するんだ。
抵抗するなら、足など切り落としても構わねェ。逃げる為に使う足など、無くていい。
ソファに腰を下ろして、命じる。それだけで絶望に表情を曇らせるナミのそれが、俺の中に仄暗い愉悦を呼び起こす。
「ナミ、上手にオネダリしてみろ」
「やり方が、分からないわ」
「仕方ねェな。教えてやるよ」
今できる精一杯の抵抗で言った言葉を受けて、アーロンは唾液をアーロンのモノに落とせと言い出す。それに従えば、手で扱くやり方を教えられて……アーロンを悦くする為に必死で手を動かしている。
自分が情けなくて、なのに、解決策が何も無い。アーロンが反応するのを見て、心が冷えていく。
なのに、やっと出させて終わったと思ったら今度はその少し下に同じモノがあると言われて動揺してしまう。……そうだ、アーロンってサメの魚人だから、男根がふたつあるのよね。
これでは、人間の女を相手にしても満足出来ない訳よね。片方しか、満足出来ないもの。
「舐めろ」
「え?」
「次は口だ。やり方は教えてやる」
拒否権等、私には無かった。アーロンに、ノジコや他の村の人達を蹂躙されたくはないし、見付けたらその場で……と言ったからには見せしめとして皆の前でワザと辱めるだろう事は容易に想像がつく。
脳裏で愛してると囁いてくれた彼の姿と声がチラつくけど、それにごめんねと小さく謝る。……私は、ノジコ達の生命と人生の方が、大切なの。
彼ならば、他にいくらでも良い女が現れる。でも、アーロンに尊厳等を奪われたら、村の人達に明日は無い。なら、迷う理由は何処にも無いわ。
言われるままに丹念に舐めれば、次々と指示が飛ぶ。それを従順にこなしていくけど、臭くて、苦くて、気持ち悪い。
でも、こっちも満足させなければ終わらないと言うなら仕方ない。両手で扱きながら、先端の敏感なところに舌を這わせていたらアーロンが不機嫌そうに言う。
「誰が、手を使っていいと言った?……口でやれと言ったろ」
その言葉で耳朶までかっと燃え上がる。煽られてる自覚はあるけど、面倒だわ。
でも、アーロンの手が頭を抑えるから文句さえ言葉にはできない。手を離して、亀頭部を口に含み、舌を絡ませて吸い上げる。
教えられるままに、どくどくと脈打つ幹や根元のまろみまで丹念に舌を這わせていく。唾液に濡れるそれが徐々に質量を増し、硬度を増しているのが分かってしまう。
鎌首を持ち上げている現実が、本当に虚しさを誘う。それでも終える為に、喉の奥までいっぱいに呑み込む。
口の中に広がっていくアーロンのねっとりとした先走りを吐き出したいのに、それをアーロンは許さない。仕方なく舌で転がすように味わい、嫌な思いと共に嚥下する。
「素直だな……その調子だ。いい子にしてれば、優しくしてやる」
傲慢で残忍なアーロンが、声を上擦らせていく。息が荒くなるのが分かる。
下腹部がピクピクと波立っているのが分かり、感じているのだと認識した。それでも、辛いのを堪えていっぱいに頬張る。
太い先端で喉奥を突かれると、生理的に吐き出しそうになる。なのに、しゃぶるしかない。
「ナミは、俺の猫だと自覚しろ。そうすれば、多少のおいたは許してやる。……猫だからな」
俺の名を鳴き声として、喘ぎの歌声を響かせているならば、猫は船の守り神でもあるから大切にしてやる。だから、逆らうな。
少し力加減を間違えたら、折るどころか砕いちまうと分かる脆弱な身体。なのにも関わらず、憎しみと怒りを秘めた眼差しで、けれども諦めたように悲しそうに微笑む。
何処かで気付いていた。ナミは、俺に対して本気で殺意を抱く程には強い感情を持っては居ない事を。
これで隠しているつもりなのだろうか。村や家族が大切で、幼い子供に対して甘い事を……。
……隠せて、いるんだよな。俺以外は誰も、同胞達は気付いていない。
冷たい魔女だと、金の亡者だと、同胞達も村人も信じている様子だ。まァ……村人の方は、何かおかしいとは気付いている節もあるが、単純に信じていてもナミみ見放せないだけの可能性もある。
なァ……ナミ。俺を愛さないなら、憎め。
俺以外の誰かを、どの感情であっても一番に持ってくるなんて許さねェ。ナミは、俺が見付けた俺の優秀な道具だ。
自分でも分かる程に質量を増していくそれを必死で咥えるナミは、息苦しさから涙を落とす。零れる涙が唾液と混ざり絡まって、壮絶なエロさを醸し出している。
これで、処女だと言うなら……全て俺で満たして、他の誰にも顔向けできなくしてやる。意識が無くなった時に、海楼石のリングを乳首につけてやろう。
目覚めて驚いたナミの見てる所で鈴でも付けてやれば、絶望に泣き出すだろうか。憎しみと怒りでの俺だけを見るだろうか。
そんな事をした俺の子を腹に宿して、絶望して、それでもナミは甘いから、腹にある生命の為に俺に従うだろう。子を産んだらまた、いくらでも仕込んでやる。
腹に何も居ない時など与えてやるものか。ナミは、俺の傍らで鳴いていればいい。
「そろそろだな。……ナミ、選ばせてやる。呑み込むか?それとも顔射がいいか?」
その言葉に動きが止まる。するとアーロンは揶揄するように言葉を続けた。
こんなにも酷い奴なのに、最低な奴なのに、アーロンの声もまた、美声だ。アニメで見た時に聞いたその声が、そのままなのだから始末に悪い。
「呑むならそのまま咥えてろ。顔射なら、口を離せ。顔にかけてやる」
その言葉を受けても、選べない私が動けずにいるとアーロンは両方かと言って、髪を掴むようにして腰を動かし始める。それにより逃げる事もできずに口内に熱い迸りを放たれたと思ったら、その途中でそれが口内から引き抜かれて顔にもかけられてしまう。
口にあるそれを吐き出すより早く、その手で口を塞がれて呑めと命じられれば従う他ない。喉が動いたのを見て、アーロンは満足そうに笑う。
嘔吐く私を持ち上げたアーロンは、私を奥の部屋に運び込む。そして、台に座らせたと思ったら鎖で四肢を繋いだ。
何をするのかと思ったら、服の中に手を入れて何かを装着し始める。それが乳首とクリトリスにつけられたと分かったけど、それだけでは終わらず二つの穴には何か丸い物を押し込まれてしまう。
そして……残酷に笑った。蝶の羽根を引きちぎり笑う、子供のように。
「穴からそれをどちらも出さずに二時間耐えたら、今日は突っ込まずにいてやる。途中で出したら……玩具じゃ足りねェって事だろうから、俺の情けをくれてやるよ」
そう言って何かのスイッチを押される。それは中に入れられた物と、三点に装着された物を同時に振動させた。アーロンを高めていた間に薬は効いていたらしく、薬が効きにくい身体になっていても元々が敏感であるが故に耐え難い程の快楽が全身を駆け抜ける。
身悶える度にジャラジャラと鳴る鎖の音を聞く度に私は、精神が追い詰められる。けど、アーロンの前で、弱さなんて見せられない。
キッと睨みつけるようにアーロンを見れば、腕の鎖が巻き上げられて上に伸ばされる。自由を奪われたと言えるのに、足はそのままなのはどういう事なのか。
「ナミが、玩具を楽しみたいなら、抜けそうになる度に座っているその台や足を使って中に戻して好きに楽しめ。……抜け落ちたら、玩具じゃ物足りないって事だろうから、可愛がってやる」
アーロンの言葉により、どちらに転んでもアーロンの都合としては構わないのだと思い知らされる。玩具で自分を慰める女か、玩具では足りないと男を求める女か。
ならば……どちらにしても玩具で弄ばれる事に違いが無いなら、アーロンに犯されない為にも耐えてみせると唇を噛む。そんな私に、アーロンは独特の笑い声と共に告げた。
「玩具で楽しみ出して一時間経過したら、他の幹部を呼び寄せて全員で鑑賞してやる。安心しろ……ナミが玩具だけだと満足できないのは分かっているからなァ」
「なん、ですっ……て!?」
「一時間以内に玩具を落とせば、俺以外居ない状態で、処女喪失だ。一時間経過後に落とせば、幹部達に見られながらの処女喪失。どちらにするか、選べるようにしてやる」
「落とさなきゃ、良いんでしょ!?」
耐えきってみせるわ。見られる位、なんて事は無い。
いつも、薬で苦しむ私を皆で嘲笑っていたのだから、今更だわ。コイツら相手に羞恥心なんて、持つだけ無駄。
「ああ、言ってなかったか。ラスト30分は……足を大きく開いて腰を浮かばせる。丸見えになる上に、中に押し戻す事はできなくなるから……難しいだろうな」
「なっ……んっ……!ひきょう、ものっ!」
「先に教えてやったんだ。優しいだろう。幹部達の前で、玩具を産卵するように出して、俺に可愛がられたいって言うなら……そうしても構わねェぞ」
シャーッハッハッハッハッハッ!と高笑いをしながら、アーロンは椅子に腰掛ける。その先は、ただ葛藤しつつ身悶える私を眺めて、時折スイッチの操作をして強弱を付けてくるだけ。
全身が汗で濡れて、下半身は汗以外も含んで濡れている。でも、泣くものか、声を出すものかと身を震わせるのが精一杯。
肌に張り付く布が不快で、でも、それがあるから何とか色々な所を隠せてる。それが分かるから、不快でも耐えるしか無い。
「……そろそろ30分か。さて、見てもらう方が好みなら、そのまま楽しんでいたらいい」
「あっ……や……ぁ……」
何度も抜けそうになった。達した直後、揶揄うようにイッたなと言っては淫乱だと、男好きだと言葉を向けられて、心が疲弊していく。
脳裏で聞いた事のない声が、谺響する。大人しく股を開いていれば良いのだと、抵抗する資格はないのだと。
私にはその他の価値はなく、本来ならば産まれてはいけなかったのだと、声が聞こえる。知らないのに、知っている声が……責め立てて……。
快楽を感じるのは罪だと、濡れる事は罪悪だと、それを治す治療は男に注いでもらう事だけだと、誰かが言う。罪人は声を出す資格もない、だから声は出すなと誰かが……。
鎖の音が、これまでの痛みと苦痛を彷彿とさせて、震える己の弱さに吐き気がする。その時、アーロンの命じる声が届いた。
「ああ、またイきそうだな。……良いだろう、見ていてやるから、イけ、ナミ」
「やっ……ああああああああぁぁぁ!!」
処女は中でイケない。ならば、表も使って何度か中の刺激に慣れさせつつイかせてやるのは優しさだ。
それを繰り返し準備をさせれば、処女でも中でイける。問題は、体力が持つかと言う一点に尽きるだけの事。
肌に張り付いた布が、何も着ていない状態よりも妖艶さを演出する。その内側にある下着が、本来ならば揺れて弱い所を晒させる仕様だと分かるのに、貼り付いた布の為に動かず、見えそうで見えないという状況を作り出していた。
ナミは人間である事を鑑みても、驚く程の美少女だ。それが、快楽に耐えようと声を押し殺す姿は嗜虐心を煽るばかり。
甲高い悲鳴が、ナミから発せられるのと同時に前の穴からポトリと落ちたそれを見て、俺はゆっくりと立ち上がった。約束通り、誰にも見せる事なく情けをくれてやる為に。
中から抜け落ちたそれもあり、ヒクヒクと伸縮し早く中に挿れてくれと訴えるその場所がよく見えるように、鎖を動かして大きく足を割開けば後ろのそれが奥へと入ったらしい。その刺激に熱い吐息をもらすナミは、壮絶な色気を持っている。
これで未経験だと言うのだから、末恐ろしい。これ程までの妖艶さを持ち合わせる処女は、他にはいないだろう。
「ぁ……ろ……っ」
「安心しろ、ちゃんと……奥まで注いでやる。今日だけで、手も、口も、経験して……敬愛する船長にお情けを貰って女にして貰うんだ。感謝しろよ、ナミ」
「ゃ……ぁ……」
鎖の為に両腕を頭上で固定され、台上で大股を広げ、肛門に玩具を入れた状態で、乳首やクリトリスに小型の電気を流す装置を付けて、自分の何倍も体格差のある男に犯される。これを忘れる事はできないだろう。
それでも足りない。刻み付けるには、まだ……。
ナミに今日の事を忘れさせない為に、あえて寝台では抱かねェ。拷問台の上で、動けなくされて、犯されてイク己を知り絶望して忘れなくなれ。
慣れて来たら、自ら俺が欲しいと言うように教育して、その姿を撮影しておこう。俺を自ら求めるそれを逆らった時闇に流して外を歩けなくしてやれば、俺の傍を離れる事は出来なくなる。
「……ナミ、言う事があるだろう」
ココヤシ村を引き合いに出せば、必ず俺の言葉に従う。分かっていて俺は、その言葉をナミに強要した。
ココヤシ村の住民なら、強姦できた。その楽しみを断念させたんだから、ナミは俺にどうして欲しいのか、何を貰って欲しいのか、お願いして伝えないと駄目だろう?
そんな言葉を、追い詰めながら伝える。それによりナミは震えながら、言葉を口にした。
「……アーロン、お願い。私の、ハジメテを、貰って」
「どうして、俺に貰って欲しいんだ?」
「…………っ!最高の、男しか、私には似合わない、もの。そうでしょ、アーロン」
「気は乗らねェが……大切な〝仲間〟が哀願してるんだ。……仕方ねェ、叶えてやるよ。だが、普段からわがままだからお仕置だ。ベッドで抱いてやるのは
これで終わりでは無いのだと、そう言われても逆らえない。望んでないなんて、求めてないなんて、口が裂けても言えない。
笑え……笑えっ!自分でそう自分に言い聞かせて、甘えたような声を出す。
それによりアーロンは仕方ねェなと言いながら、その凶悪で醜い、阿呆みたいな質量のものを挿れて来た。それにより感じたいのは、寧ろ痛みなのに……薬と直前までされていた行為により、それは叶わない。
望まぬ挿入により圧迫感があるだけ、まだ理性を保てているけど、快楽は心をすり減らす。名器だとアーロンは呻くように言うけど、何も嬉しくは無い。
痛みと苦しみだけなら、いくらでも耐えるのに。どうして……こんなに体格差もあるのに、身体はアーロンを受け入れてしまおうとするんだろう。
「まだ、俺を受け入れるには狭いな。だがっ……!」
半分押し込んだ所で、後ろのそれも落下する。そうなるように仕向けておきながら、アーロンはナミを嘲るように笑い、貶める言葉を紡ぐ。
「なんだ、処女だってのに……両方同時に処女喪失したいとは、良い心掛けだ。……安心しろ、ナミ」
「はっ……ぁ……。な、にを……?」
「俺が毎日、情けをくれてやる。その時は、前と後ろ同時に入れるのが当然だ。俺は下等生物と違い、ふたつあるからな……そうしなけりゃ満足は出来ねェ」
「ゃ……あ……!」
怯えたように震えるナミだが、直後に呼吸を整えて俺を睨む。その堕ちない心を砕いて、卑猥な言葉を口にさせ、俺の事しか考えられなくしてやる。
空いた後ろの入り口にもう片方のモノを宛がえば、小さくヒッと息を飲む。今日はただ、犯すだけだが、明日からは調教してやろう。
イケないギリギリで何日でも玩具で高め放置し、イかせてと強請るまでにして、今度はイき続けさせて意識が完全に戻らなくなるまでイかせてやる。イク時にはイクと、悦くなって来たら気持ちいいと言うようにして、俺のモノを自ら求める言葉を毎日言わせてやれば良い。
いい子にしていれば部屋から出さないが、抵抗するようならこの部屋にある衣装でアーロンパーク内を闊歩させてやり、同胞達の前で犯せばいい。抵抗すればどうなるか、分かっているナミは俺に縋るしかなくなるのだから。
全ての初めてを俺に奪われた今日から、ナミの性奴隷生活は始まる。それも、自ら望む形であると周りからは見えるようなものだ。
ペットとして愛玩されるか、同胞の腹となる為の性奴隷となるかはナミ次第だ。下等な人間を伴侶や恋人なぞには出来ねェ。
だが、この能力も、身体も、声も、眼差しも、俺の物だ。自ら俺を望み、俺に犯され悦ぶ姿を撮影して……お前に印を残した男に送り付けてやろう。
ふたつの穴を同時に犯されなければいけないくらいにして、俺の子を宿してから、その男に会わせてやるよ。そうして、その男を目の前で殺してやれば、二度と俺から離れようとはしないだろう?
二本の俺のモノを両方根元まで埋め込み、腰を振ると絶え間なく喘ぐナミの姿。必死で声を抑えているのだろうが、その態度が余計に鳴かせてやりたくなるのだと何故分からないのか。
だが……いつか、本気でナミが俺を求めるようになったなら……きっと、俺は大切にしちまうだろう。村人を見詰める甘く優しいその眼差しを俺に向けて、隠しているつまりらしい穏やかで優しいその本質を俺に向けたなら……。
同胞には分からないように、部屋の中で大切に慈しむ。だからどうか……少しでも早く、俺を……受け入れて、求めてくれ。
抵抗する事を耐えて、泣くのを耐えて、強気に、気丈に振る舞うそれを見る度に、嬲りたくなる。俺だけの物にならないのならば……いっそ、壊れろ。
「きゃぁぁぁああァあぁぁぁっ!」
目の前が明滅する。意識が何度も飛んで、なのに、強制的に戻されるのを繰り返して……。
アーロンは言う。今日は初めてだから普通に抱いてやると。
ならば、明日からはどうなると言うのか。中に出されたら終わると思った地獄は、終わる事無く続いている。
体勢を保てなくなった私をアーロンが鎖から解放して、ベッドに運んだから、終わったのかと思った。でもそれは間違いで、その後も終わらないそれは続く。
いっそ、死ねたら……。ねぇ、どうして、私は生きているの?
助けを求めれば、その相手が傷付き死ぬのだと分かっている。ならば、助けなどいらない。
だけど……もう、耐えられないよ。ベルメールさん、ノジコ……もう、頑張らなくても、いい、よね……?
落ちたであろう意識が戻った時、私はいつも清められた身体でベッドに寝かされていた。けれども卑猥な衣装を身に付けていたし、日々酷さを増す強要に、けれども従う他の道が無い。
今回、ここに戻ってから、ううん……アーロンに犯され始めて、どれだけの時が過ぎたんだろう。直ぐに戻ると伝えたから、心配……してるよね。
でも、もう、会えない。会う、資格が無いよ。
少し動く度に、乳首に付けられた鈴がチリン……と鳴る。この身体を、傷付けてしまった事が申し訳ない。
クリトリスには、アーロンのマークを象った飾りが付けられている。完全にM女の様相で、鈴や飾りを弄られると即座に濡れるようになってしまった。
必ず同時に下にあるふたつの穴を埋められて、前からだと顔を見つめる事を強要される。後ろからだと、鏡の前で自らの痴態を見ていろと指示されて、中に……放たれ続けてる現実。
もう、帰れない。何処にも……行けない。
ベルメールさんに貰った鉄笛にそっと手を伸ばし、触れる。それだけで、心が少しだけ回復するような気がした。
だからそのまま、思い出したその曲を吹いてみる。途中、1、2度間違えたけど何とか演奏を終えて、その時になって背後にアーロンがいる事に気付く。
「……笛の他にも、楽器を扱えるのか?」
「え?……ええ、一通りは」
御三味線は流石に難しいけど、つまり、弦の本数が三本を含むそれ以外の時は駄目だけど……それ以外は扱える。それをどう伝えたらいいのかと迷った時、アーロンは背を向けてドアをしっかりと施錠して消えた。
それから少ししたら、食事と共にハープを持って来るから驚いてしまう。なかなかに、ハープをチョイスするのも珍しいと思うから。
「人魚はよく、ハープを奏でる。魚人街に住む奴には無縁に近いが、人魚の入江では、よくある光景で……騒がれないように、見に行ったりした。兄貴なんかは、仕事に託けて見回っては演奏を聞いていたようだった」
アーロンが魚人島での話をしたのは、初めてかも知れない。そっか……ジンベエさんとの、思い出の……。
そのまま無言で差し出されたそれを、そっと受取る。こんな穏やかな時が続けば、私は……忘れられるのかな。
彼の事を忘れて、皆を守る為にこの身を差し出して、そうしていたら存在する事ができるのかな。もう、この部屋から永遠に出られないのだとしても、皆を想って生きる事が、できるなら……私はもう、それだけでいいのに。
怒りでも、悔しさでも、屈辱でも出なかった雫が、一筋……頬を伝って落ちる。生理的なそれの他は落ちる事の無かったものが、私の意思に反して。
直後、狂乱の宴が始まる。アーロンが満足するまで、弄ばれてしまう。
でも、今回は何かがおかしい。アーロンが、私に何も強要しないなんて。
ただ、乱暴に。けれども私の顔をその胸に抑え込んで、何も見えなくして犯し続ける。……痛みは、どうして消えないのだろう。
首筋に落ちてくる雫が気になって顔を上げた時、傷付いた顔をしているアーロンが見えたけど、直後に立ち上がられて駅弁のそれになれば痛みと快楽と圧迫感で何も考えられない。身体が揺れる度、ゆらされる度に鈴の音と首につけられた鎖の奏でる音が聞こえて来て、犬と猫のどちらなのだろうと妙な事を考える。
四つ這いで鏡を見るように言われたのを拒んだら、つけられた首輪。その後から鎖が出ていて、それを引っ張られて強制的に鏡を見せられるのは苦しい。
犬のように、扱われて、でも動くと猫のように鈴が鳴る。なのに、実際は籠の鳥。
人ではない事だけは間違いないけど、なら、私は言葉なんて忘れてしまいたい。身体の奥に広がる熱に、恐怖して震えたのはもう、随分前のような気がするわ。
「ナミは俺の所有物だ」
「も、壊れ……ちゃ……。あーろん、ゆるし、て……」
「何言ってやがる。まだ一回ずつしか出してねェだろうが」
「アーロンの、おっきいから、苦しい……の……」
「それ、計算か?」
「え?」
「まだ、教育が足りてねェんだな。……しっかり、俺だけのペットとして、どこに出しても恥ずかしくないように仕込んでやる」
意図せずアーロンの欲を煽ったナミは、床で、ベッドで、風呂場でと幾度も犯されて意識を失う。それでも刺激により叩き起され、また意識を失わされるのだ。
そうして意識を取り戻せなくなってしまうまで繰り返されて、漸く開放される。意識のある時は、食事中でさえ犯されている勢いでは、時の経過など解ろう筈もない。
「どうして、ナミは……俺を見ない……?」
意識の無いナミがそれに答える筈も無く、アーロンはそっとナミを清めてベッドに寝かせる。殺すつもりは、アーロンには無いのだ。
己を見ないのに、己に優しさの片鱗を覗かせて、日々表情を失い、己の教育に従い口先だけは卑猥な言葉を紡ぎ、求めているような言動をするナミ。そうしたのは己なのに、その現実に傷付いている愚かな男が居るが、この痛みに終りなどあろう筈も無い。
「んっ……?」
いつものように、意識を失い、目覚める。その傍らにはハープがあって、私はそれを手にして少し音を出してみた。
優しい音が響いて、私は先日奏でたその曲を今度は声と共に音楽にしていた。それはもう、無意識の行動。
ベッドからは外を見る事はできないし、今ベッドから降りるのも難しいけど、声を出す力はまだ残っているから。ねぇ、こんなにも汚れて擦り切れて砕けそうになっても、存在してるなら……想う事だけは、許されますか。
別れを決意したあの時、夕焼けだった。夜闇に紛れて姿を隠す為、故郷に帰る為にしたこの選択を私は後悔しない。
でも、あの茜色が忘れられないの。これは、未練……かな。
「ツキミソウ」
小さく呟いた筈なのに、妙に響く。誰も居ないからかも知れないわね。
ハープの音色が響く。私は、それに歌声を乗せた。
「ーーー」
大切な人との出会いと別れを繰り返して、その度に幸福を知り、だからこそ心がすり減っていく。記憶を探るまでもなく、思い出せる彼の事が何故か滲んでしまう。
「ーーー」
彼を知らない世界なら、アーロンにこうされた今も、ここまで苦しくなかったのかな。ずっと、マシだったのかも知れないわね。
いつか再び出会うなら、その時はきっと心がすれ違う。私はもう、貴方に相応しくないから……本音なんて隠して、壊して、消し去ってみせるわ。
「ーーー」
茜色に染まる村を見る度に、貴方のいた船を思い出す。でも……忘れてしまいたいよ。
素直に、助けを求めたなら……貴方の事も喪ったり、傷付けたりしてしまのでしょう。分かってるから、心でいくら泣いたとしても、頼れない。
間奏に入って少し呼吸を整える。誰に聞かせる予定もない歌は、けれど歌う事で少し渦巻く感情を発散出来る気がした。
「ーーー」
季節がいくら変わろうと、貴方は私と会えばその瞬間に、私の世界を奪うのでしょうね。感じる温もりが、私の未来も奪い去ると分かってる。
「ーーー」
私の心の中にある時計の針は、突然止まった。アーロンの告げた言葉ひとつで、私の全ては凍り付く。
どうして、私はここで独り……生きているのかな。シャワーに紛れて泣いた意味は、何だろう。
「ーーー」
彼と共に過ごした筈の海を見ても、もう彼を思い出す事は許されない。早く……忘れなければ……。
愛した記憶も、愛された記憶も、全て投げ捨てて……。そうしてでも護りたい人達がいるから、望まない新しい日々へと歩き出す。
それが例え奈落に進むのだとしても、そこに堕ちるのが私独りなら……構わないの。だけど、だからこそ……堕ちた今の姿を見ないで欲しい。
「ーーー」
鼓膜が破れても良いから、結んである髪を解いて、叫びたい。私は、優しく在りたかった……。
もう、誰にも逢いたくないよ。逢えばきっと、狂ってしまう。
「ーーー」
凍えてしまいそう。寂しいと、つらいと嘆いても、救いなんて何処にもない。
私に譲れないものがある限り、ここから抜け出す道は無いの。大好きで、だからこそもう、会いたくない彼は遠く離れている。
巻き戻してあの日に戻れるなら、伝えたい事があるわ。でも、もう遅い事も分かってるのよ。
「ーーー」
茜色に染まる海を眺めては、共に歩く事は二度とないと思い知らされる。忘れたいのに、忘れられない。
今更……素直に助けを求める事は出来ないよ。本当は分かってる、助けを求めれば全力で助けてくれる事は。
私は、今も彼を求めてる。でも、私が差し出せるものが、対価になるものが何も無いのだから、仕方ないじゃない。
歌が終わり残りの演奏をする。そんな時部屋の入口から音が聞こえて視線を向ければ、アーロンが佇んでいた。
「ナミ……」
傷付けて、苦しめて、弄び、それでも傍に置いておけるならそれで構わなかった。だが……突然聞こえて来た音色に、それは間違いだったのではないかと思わされていたのは確かだ。
ずっとナミが大切にしていた笛があるのは知っていたが、それを楽器として使うのは初めて見た。いつも、武器としている姿しか知らなかったから。
だが、それで演奏されたのは物悲しい曲。聞き覚えの無いそれを、他の楽器ならば違って聞こえるのかと与えてみたが……間違いだったのだろうか。
ハープを手に涙を流すナミが妙に神聖に見えて、己の罪を突き付けられた気がして……その顔が見えないようにして犯した。傷付けている筈なのに、俺の方が叫びたい程に胸を締め付けられて……。
性的に触れれば反応する。だが、それは俺を求めてのものじゃねェ。
俺が、そうなるようにガキの頃から薬漬けにしたんだ。今だって、俺に逆らえなくなるように追い詰めたから、こうなっている。
分かっていて、苦しみと痛みに喘ぐ俺は、きっと滑稽だろう。それから意識を失い目覚めなくなって、いつものように清めて、逃げられないように卑猥な姿で寝かせて放置した。
だと言うのに日が傾き始めた頃、聞こえて来た音色と、遅れて聞こえて来た声が思考を奪う。何かが近付いているという同胞のそれを、対処は任せると言い捨てて駆け出していた。
歌うその声があまりにも哀しくて、その姿が儚くて……このまま消える気がした。どうしたら、繋ぎ止められるのか、俺の物だと自覚するんだ。
手放すくらいなら殺してやりたいと思うのに、傷付く姿にそうじゃないと心が軋む。誰を想って……歌ってやがるんだっ!
「アーロン?」
人の名を呼ぶだけ呼んで動きを止めているアーロンを見て思わず声をかけたら、直後に建物が揺れた。何事かと思うけど、上手く立ち上がる事さえ出来ずにその場に座り込む私。
直後に聞こえて来たのは、聞こえて来てはいけない声。会いたくて、でも、会いたくない愛しい彼の声だった。