※この作品はR-18です。

未遂   作:夢枕 七変化

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中編下

 揺れる建物。聞こえる、私を呼ぶ声。

 でも、私はもう、会えない。会う、資格が……ない!

 そう思うのに、立ち上がる事さえできなくて、ならばと声を出そうとするのに声さえ喉に張り付いたみたいに出て来てくれない……。アーロンはそんな私に、全てを奪った日に当然のように没収していた私物を投げ返して来た。

 

 「これ……?」

 「護身用に持ってろ。……片付けて来たら、また中に注いでやるから大人しく待ってろ」

 

 待ってろと言うその言葉に、いつまで続くのだろうかと思ってしまった。このままなら、シャンクスとアーロンは戦うだろう。

 そうなったら、アーロンが勝てば私はこのままの生活を続ける事になる。終わりなんて……あるはずも無い事は、もう分かってるわ。

 でも、アーロンが勝てる可能性は皆無に等しい。そうなったら、シャンクスは私に会おうとする筈。

 全身を寒気が襲い、凍り付いたように感覚が鈍くなっていく。その時、窓から聞こえて来たのは……私の、声。

 アーロンに自ら抱いてくれと強請る、その声がいつのものなのかは分からない。それは定期的に強要されるものだから……。

 つまり、シャンクスは、それを見ていて……。皆も、それを聞いていて……。

 いつ撮影していたのかなんて、どうでもいい。ただ、今現在、それが放映されている現実に、私は耳を塞ぐようにして蹲り、絶叫した。

 投げ渡された短剣が、クリマタクトや笛から離れるように少し滑って距離をとる。それを視界に収めながら、ただ耳障りな自分の声を止めるすべさえ失っている。

 声を出そうとした時には、出せなかったのに、聞きたくない今、声を止めるすべさえ分からない。自分の身体が、自分の意思を無視して活動している現実の中、クリマタクトが笛にぶつかって小さな音を出していた。

 

 「ああああああああぁぁぁ!!」

 

 あの日突然、横にあるべき温もりが消えて、机に置かれている手紙を見付ける。その刹那指示を出そうとした俺を、幹部達が総出で止めた。

 迎えに行くと言って騒ぐ俺と、信じて待てと言う仲間達の意見。その意見は正しいだろうとも分かる……だが……何故か寒気がするんだ。

 嫌な……予感がする。実力だけを考えれば、この東の海で今のナミを倒せる相手はいないだろうが、ナミは……甘く弱い。

 それから三日が経過して、帰らないナミのそれに切れたのはまさかのヤソップだった。銃を使えるようにして装備して、船員へと言葉を向ける。

 それは殺気立っていて、幹部ではない人間には声を出すのも躊躇われそうな雰囲気。それでも、俺の船員はそれを理由に押し黙るような事は無い。

 

 「責任は俺が取る。今すぐ、ナミを探せ」

 「だけどよ、ヤソップさ……」

 

 言葉を最後まで聞く事無く、お前覇王色持ちかよと言いたくなる気迫を見せられて、仲間達が青ざめる。無言で海の彼方を見詰めるヤソップは、当初帰ってこようとしたナミが、船が無ければ困るだろうと言っていたのだ。

 だが、もう我慢出来ないとその全身が言っている。目の前に恐ろしい敵がいるかのようなその気迫は、逆らう事を許さない。

 ヤソップが味方に着いた事で、ベックは迷いなく指示を出す。その様子を見るに、恐らく前から検討はつけていたのだろう。

 こういう所が怖い。無論止める側に居た二人が動けば、俺を止める勢力は足りなくなるので迎えに行くのはもう決定事項となった。

 そうして向かうその場所は諸島と呼ばれる物で、ある程度行った所でベックがひとつの島に船を泊めた。そうして、俺達が聞いたのは〝魚人海賊団に所属する魔女〟について。

 その情報は、どう考えても俺達の知るナミではありえない。それでも、少し考えてみればそれがナミの精一杯なのだと分かっちまう。

 あの甘ちゃんが誰かを護ろうとすれば、それ以外の選択肢等無いだろう。だが……だからこそ、ナミには過去になかった変な癖ができていたのだと痛感させられちまった。

 

 「……人質は、家族か」

 「恐らくな」

 

 俺の言葉にベックは頷く。その為に魚人海賊団が拠点としている島へ向かう事にしたが、目立たないように他の船が近づいて行った直後に反対側につける事にした。

 その着港した船が海軍の物だったのが、嫌な予感を加速させたが今は現状のナミを知る事が大切だ。それでも念の為に調べて来いと、ボンクパンチに告げればモンスターもその肩に乗って着いていく。

 今はそれ以上の事は出来ないからと、意識を切り替えた。そうして島の中を歩いていると、蜜柑畑が見えて来て俺達は視線だけで確認し合うと足を向ける。

 そこで出逢った車椅子の女性と、似ている要素がほぼないのに何故かナミと重なって見えた少女。間違いなく、ナミの弱点はこの2人だ。

 

 「……お初にお目にかかる。俺はシャンクス。ナミの恋人だ。お二人は、ナミの御母上と姉君で間違いは無いだろうか」

 「ナミの、恋人?でも、ナミは帰ってないわよ」

 

 俺の問い掛けに迷い無く返答した少女。それに慌てた様子を見せるのは、車椅子の女性だ。

 

 「ちょっと待ってノジコ!なんで信じるのよ!?」

 「……だって、ナミが良く口にしてた名前じゃない。私達しか興味無いあの子が、よ?」

 

 この二人の会話に寒気がしたのは、俺だけじゃなかった筈だ。微笑ましい会話だが、ナミは支払いの為に帰った筈なのに、家に顔を見せていないなんて……有り得るだろうか。

 ここは東の海だ。海で何かあるなんて、ナミには有り得ない。

 

 「っ!!野郎共!!……乗り込むぞっ!!」

 

 一刻どころか、一秒の猶予もない。このままではナミを喪う。

 激しい焦燥感に襲われながら、俺達はアーロンパークと呼ばれるその場所へ足を進めた。そこから聞こえて来たのは、信じられない会話。

 

 「あのナミが、アーロンさんにはあんなに素直に甘えるとはな。金でもやってんのかな」

 「人間だとしても、ナミだけは確かにいい女だと思うからなァ……良いよな、アーロンさん。毎日ズコバコしてんだろ」

 「そりゃそうだろ。ナミの鳴き声が聞こえない日はねェんだから!まァ、女幹部なら当然船長の相手するもんだろ」

 

 その後笑い合う様子は、それだけで目の前を赤く染める程。無意識で覇気を出しそうになる俺の肩をルーが掴むから、なんとか理性を保てている。

 そんな時に帰って来た二人がそっと俺達の傍に寄り、静かな声で耳打ちして来る。それは、海軍とこの一味が裏で繋がっているという情報を齎して……。

 

 「ナミは、知らずに……?」

 「知っていても……村全体が人質では、逆らえねェだろうな」

 「……家族、じゃなくて、村全体?」

 

 俺の声が震えたのは間違いない。スネイクはそんな俺に小さく頷くから、スネイクも調べて同じ答えを得てきたのだと理解出来ちまった。

 怒りのままに飛び出そうとしたその時、聞こえて来たのは……ナミの、歌声。悲哀しか感じないその声は、小さく掠れていて、生きているのが肉体だけなのだと……何故か、そんな気がした。

 歌が終わるのと同時に我慢の限界を超えて、じっと黙っている事に耐えられなくなった俺が、グリフォンを抜いて門を破壊したのは当然の事。足が、勝手に前に出るのを感じながら、俺はただナミの名を呼び続ける。

 身体が勝手に腕を、グリフォンを動かしている。そんな中で飛び散る赤い物は、俺の心を僅かにさえ動かしはしない。

 

 「……よくも、同胞達を……!!」

 

 突然聞こえて来た声に視線を向ければ、ソレがアーロンだと分かる。ナミの肩にあった刺青は、ノコギリザメを象っていた。

 海王類が怒った時のような瞳でこちらを睨むそれに、溜息さえ出ない。自分がナミにした事を平然と棚上げするその神経が、許せないのだ。

 

 「お前が……アーロンだな」

 「あ?……お前、そうか。お前が、ナミに懸想して結局手を出せずに終わった阿呆か」

 「ん?」

 

 その言葉に僅かではない引っ掛かりを覚える。俺を蔑むのも馬鹿にするのもいいが、この言葉にはそれだけでは無い何かを感じた。

 

 「ナミは俺が全ての穴を使い、調教もしてやった。いまじゃ立派な俺のM女……いや、性奴隷だぜ?それでも会いたい……この場合、使いたいか?と聞いてやるべきか!……シャーッハッハッハッ!!」

 「……性奴隷?」

 

 男を知らない、何も理解してない、幼い反応を見せるナミを思う。つまり、家族を盾に犯して……壊した、のか?

 家族の為にプライドを捨てて、従っている可能性も否めないが……その途中で耐えきれなくなり、壊れた可能性もある。通常ならば、快楽に溺れて堕ちたとか、狂ったと考えるべきだが、ナミの場合は堕ちるとは考えにくい。

 少し不安そうに、それでも恥ずかしそうに笑って、俺のキスを受け入れていたナミ。初めては痛いのよね……なんて、少し怯えを見せていたその様子が可愛くて、大切にしてやろうと良さそうなホテル等を物色していた。

 花や海が好きだから、海岸線の見える森の中にあるホテルか、コテージでと計画していた。だと言うのに……この様子では、ナミはその心を砕かれているだろう。

 覇王色の覇気よりも前に殺気が流れ出る。こいつだけは、許せねェ……。

 

 「ああ、見るか?」

 

 そう言って、俺の返事を待たずに映像電伝虫を置いたかと思うと、壁に映し出されたのは胸に鈴を付けられ、卑猥な姿で腰を振るナミの艶姿。ナミの全てが映っているそれに、怒りの余り吐気がしてきた程。

 目の前の魚人を求めるような言葉を、卑猥な表現で口にするそれは、けれどもその瞳を見れば本意ではないと分かる。辱められ、貶められて尚、失われる事の無いその甘く優しい心が、背後にいる存在の為に心にも無い言葉を放ち続けていた。

 無意識だった。気が付けば、俺は立ち尽くしていたつもりの場所から移動していて、手には映像電伝虫がいる。

 ……映像電伝虫の殻を砕いだ瞬間、響き渡ったのはナミの悲鳴。悲哀ではなく悲痛なその声が、何故か喪う事を連想させて背筋を冷たいものが流れた。

 敵を切り刻むよりも、優先すべき事がある。いつもの数倍の速度で駆け出して、声の元へと向かう。

 間に合ってくれ……っ!!頼むっ!

 

 「ナミっ!!」

 

 ベックから貰って、自衛の為にと返された短剣を拾う。手に馴染んでいた筈なのに、何故かいつもより少し大きくて、重く感じる。

 それを迷い無く自らの心臓に向けて、伸ばしていた肘を曲げる。手の中で短剣が震えた気がしたけど、それを気にせず腕を動かしていたら、何故かそれはそれて腹部を突き刺してしまう。

 ……これじゃ、しねない。わたしは、しにたい。

 いきてるいみなんて、もうない。わたしは……もう、いらないのよ。

 短剣を引き抜こうとした手が、誰かに押さえられる。緩慢な動きでその相手を見たら、それはシャンクスで……。

 

 「い、や……」

 「ナミっ」

 

 見ないで、聞かないで、触らないで!私は、もう誰も……傷付けたくないのっ!

 知らないでいて、そのままでいて、優しくて温かな、その笑顔を失わないで。私なんかの為に堕ちないで欲しいよ。

 それが叶わないのは、私が存在するから。全ては……私が悪いの、私さえ……存在しなければ……。

 

 「いやぁぁぁ!!」

 

 ドアを破壊して入った時に見えたのは、自らの心臓を狙い短剣を引き寄せる姿。けれどもその時、短剣が震えて軌道を変えた。

 それが無ければ、間違いなくナミは死んでいた。あの短剣……魔剣だったのか。

 短剣を引き抜いて、確実に死のうとしたのだろう。それがわかって、慌ててその手を掴めば、緩慢な動きで、虚ろに俺を見たナミ。

 けれどもその瞳に俺が映るのと同時に、瞳だけ色が戻り……そして、悲鳴があがる。そんなナミの様子を呆然と立ち尽くして、見ているしかできない男を俺は睨み付けた。

 

 「……お前が、ナミを壊したんだ。満足かっ……!!」

 「何、言ってる。てめェが来る前は、普通だった。てめェの存在が、ナミを壊したんだ!」

 「俺は最後の引き金だろう。そもそも、そこまで追い詰めて、傷付けて、苦しめたのは……お前だ。……ナミは、甘い。優しいを超えて、愚かしい程にな。……お前が初めから、ナミに正攻法で触れていればナミは抵抗しつつも少しずつ受け入れただろう。そう言う……馬鹿な女だよ、ナミは」

 「何が……っ!」

 「ガキの頃からそんな所が変わらなくて、一度懐に入れた相手には寛大過ぎて……危なっかしい。冷酷になれないのに、気丈に振舞って、何かを護る時だけ恐ろしく美しく、強くなる。だからこそ、いつ壊れるかと気が気じゃなくて、閉じ込めておきたくなる。それでも、そんな中で自由に飛び回るナミが可愛くて……愛しい。お前も、そうだったんじゃないのか?」

 

 シャンクスが、何か言ってる。耳障りな、甲高い何かが止めどなく何処かから聞こえる。

 アーロンが、何か言ってる。このまま、消えてしまいたい。

 もう、良いでしょう。もう、楽になりたいよ。

 誰もいない。誰にも、会えないのならば、生きてる意味は無いじゃない。

 大丈夫、シャンクスなら皆を助けてくれる。なら、こんなにも汚れた私を、見られない為には消えるしかないわ。

 

 「あーろん……おねがい……」

 

 ずっと叫んでいたナミが、突然その声を止めて、俺ではなく魚人に微笑みかけた。驚き会話も何もかもを辞めた俺達に届いたのは、小さな声。

 甘くて、だからこそ猛毒が含まれていそうな声だ。そして、気を付けなければ聴き逃しそうな声量で、祈るように、言葉は紡がれる。

 

 「……もう、しなせて」

 

 させるかっ!死なせて、たまるかっ!!

 血にまみれた姿で、卑猥な衣装のまま、性奴隷以外の何者にも見えないように傷付けられたナミは、それでも尚……美しい。もしこれが壊れゆくものがもつ美だと言うなら、こんな美しさはいらねェ。

 強力な睡眠薬を口に含み、ナミの唇に押し当てる。そのままそれを喉の奥へと押し込めば、ナミはそれを抵抗なく飲み込んだ。

 毒を警戒して、何を口にするのも躊躇っていたナミが、寧ろ毒であれと願って飲んだのが分かっちまう。そのまま焦点を失い……力を入れていられなくなるナミの頭をそっと腕で支え、撫でる。

 

 「ナミ……今は、寝てろ。悪夢は、終わりだ」

 

 そんな言葉を聞いたのを最後に、ナミの意識は途絶えた。その後は筆舌に尽くし難い程の残虐な拷問ショーが行われ始めたが……誰にもそれは止められない。

 大切な愛しい少女が傷付き、狂いかけて、自ら死を選ぶその現実を創り出した存在を……彼等は許さない。ただ、ナミがそうされたように、死なないギリギリまで追い込み……この先生きる事に絶望させるような事を選んだに過ぎないのだ。

 ナミがその身体に傷をつけ、いらない物をつけられたのならば、魚人も同じであるべきだ……とその皮膚を剥ぎ取られ、失血死しないように焼かれる。ナミが全ての穴を異物で弄ばれたのならば、二度とそれを使えないように切り落としてしまえば良い。

 ナミが撮影され、辱められ、尊厳を奪われたのならば、彼等は四肢の一つを失い、その瞳が何も映せなくなれば良いと判断した。それでさえ、本来なまぬるい。

 赤髪海賊団は、慈善団体では無いのだ。正義の味方でも無ければ、保護団体でも無い。

 彼等は海賊。ただ、友人や仲間を大切にすると言うだけの、人を殺す事に躊躇いを持たない海賊である。

 彼等の暴虐を止められる唯一の存在は、今だけは何も知らず……大切に守られて眠りの中に沈んでいる。この諸島を苦しめていた海軍の基地を壊滅させ、そこに処置を終えた魚人海賊団を捨て置いて……。

 ただ、その拷問ショーの最中、赤髪海賊団が思わず見逃した存在があった。それは、意識を取り戻させてから処置に入っていた彼等に、ただ一人だけこう問い掛けた存在。

 

 「ニュー……ナミは、生きてるのか?」

 「……お前……」

 

 己がされる事への恐怖はあるだろう。何故俺がと、何故俺達がと、元を正せば人間が全て悪いだろうと叫ぶ魚人達の中にあって不思議な存在。

 それは、彼等の過去を知る者には異質にしか見えない。ある意味で、彼等が守りたいと願う少女と近い存在なのかも知れないと思わされる。

 無論、彼は賢くは無さそうだし、美しくもない。それ故に、道を選び間違えたのだろうが。

 

 「アーロンさんは、俺達を守る為に人間や海軍を嫌って、その矛先をナミに向けた。……俺達の為だと分かっていても、やりすぎなのは分かっていて、だけど、俺達には止められなかった!ニュー……それに、俺もその酷い事した内の一人で……だから……」

 「……行け。二度と、ナミの前に姿を見せるな。それだけで良い。ナミなら、お前を許すだろうからな」

 「にゅっ!?……ナミィ……ごめんなァ……」

 

 仲間を、友を、同胞を見捨てて逃げる事も後に彼を苛むだろう。だが……それくらいで許されるなら、安いだろうと彼等は考えた。

 他の同胞がどう扱われたのか知らないままに、逃げ出したそれを見送り、彼等は残った者達に死よりツラい生を与えていく。その間に、船医がナミを治療に入り、つけられていた下肢のリングを処分する。

 一気には出来ないからと、精神状態も見ながら対応する事を余儀なくされる。その数日に及ぶ治療が行われている間に、彼等は戦闘と名付けたショーを終えて、ナミの家族に全てを包み隠さずに説明し……ナミを引き取った。

 隠しておく事もできただろう。だが、それでは今後誰も救われない。

 娘が、妹が、どのような目にあいながら家族と村人を護っていたのか。その上で、壊れてしまった事を知って……治せる可能性を持つ彼等に託す他の選択肢等、有り得る筈も無かった。

 ただ一人、父親代わりの男の他は全員が泣きながらそれを認め、見送った。その一人だけは、実力差を分かっていて、シャンクスに掴みかかったが。

 

 「ナミは、儂の娘だ!……強がりで、臆病で、優しいだけが取り柄の……己の価値を理解できない、愚かて善良な娘だ!…………もうっ……これ以上、苦しめるなっ!」

 「……俺達は、仲間を見捨てない。ナミは仲間だし、何より……愛しい女だ。……義父さん、お嬢さんを貰っていきます」

 

 その言葉に、全身を傷だらけにしたその男は黙って手を離した。その傷が、ナミを守ろうとしてついたものであるのは、赤髪海賊団の面々には言われなくても分かっていた。

 彼等は戦いにおいてプロとも言える。だからこそ、ナミが助けを求められなくなった理由も、文字通り命懸けで村を救おうとしていた事も理解出来てしまう。

 こうして、本人の意志を無視して彼等は海賊らしく少女を連れ去る。その後目覚めた少女が、どのような反応をするかを予想もできないままに。

 眠り続ける少女に、彼等は挨拶のように声をかける。その言葉しか、知らないとでも言わんばかりに。

 

 「ナミ、愛してる」

 

 だれの、声だろう。わたし、よばれてる?

 ふわふわとした感覚の状態で声を聞いていた。優しく労りのある声が、甘やかすように降り注ぐ。

 そっと誰かが私に触れて、驚いて目を開けるとシャンクスが私の頬に触れていた。その人物がシャンクスだと認識するのと同時に身体が震え出して、涙が溢れる。

 

 「ナミ?」

 「やっ……!いや、見ないで!触らないでっ!!」

 「ナミっ」

 「やだ……もう、いやぁぁぁ!!」

 

 短剣を求めて視線を動かすけど、それは近くに無くて、代わりに見付けた笛と流星錘。その流星錘に手を伸ばして自らの首に巻き付けた瞬間、覇気が私を襲った。

 弱ってる私では、それにより意識を保っているのが精一杯となり、フラリと落ちるように身体が倒れる。そんな私の身体を支えるように抱き締めて、流星錘を奪い取ったシャンクスは、静かに私を見た。

 その視線が、眼差しが、色を無くしていて……。傷付けているのだと分かってしまう。

 

 「シャンクス……」

 「ナミ、そんなに死にたいか」

 「……うん」

 「なら、俺の腕の中で、死ね」

 

 その言葉の意味を考える間もなく、着ていた病院の着衣のようなそれを剥ぎ取られる。それにより見えたのは、明らかに手当をされた後の身体。

 胸には鈴があったけど、下肢の飾りやそれをつけるためのリングは消えている。見れば、肩の刺青が薄くなっていて……跡だけが僅かに残って……。

 言葉を失う私にシャンクスは表情で笑って、瞳だけ泣いた。器用な事をするシャンクスに、手を伸ばしそうになって、でも、触れたら……シャンクスまで、汚してしまいそう。

 泣かないで、私なんかの為に。泣いていいのよ、強がっていては心が壊れてしまうから。

 そんな2つの矛盾した言葉が、脳内で繰り返される。でも、どちらの言葉も声に出せない。

 代わりに飛び出した声は震えていて、情けないくらいに弱々しい。私は卑怯にも、傷付けていると知りながら、それを望んでしまっていた。

 

 「シャンクス……私を、殺してくれるの……?」

 「ナミが、俺を満足させられたら……ご褒美に、殺してやる」

 

 満足させる……って?と、本気で考えて、その答えに気付く。だから、首を横に振って拒絶した。

 私は、汚い。そんな私が、シャンクスに害を与えずに満足なんてさせられる筈ないわ。

 

 「だめよ、シャンクスが……汚れちゃう」

 「汚れは、洗えばいい。そういう事なら、尚更、綺麗にしてやらないとな」

 「え?」

 「汚れた食器も、洋服も、洗えば綺麗になるだろ。ナミを綺麗にしてやるから、俺に……愛される覚悟を決めろ」

 

 何を言われているのかよく分からなくて、漸く動けるようになった身体を動かして……上半身を起こしてみる。するとチリン……と、鈴が鳴った。

 それだけで、身体が熱を持つのが分かってしまう。中に熱を放たれるのを、身体が待っているのだ。

 パブロフの犬で証明されているように、繰り返される行為に身体や心は慣れてしまう。そういうものだと覚えてしまう事で、それに合わせた対応を自然と行ってしまっている。

 だから、鈴が鳴ると男を受け入れようと身体が準備を整えてしまう。それは、前だけでなく、後ろも同時に。

 それを認識した瞬間、意識が倒錯するのを感じた。これも防衛本能の働きによるもので、自分の意志など関係無い。

 

 「約束を、守ってくれるなら……なんでも、従うわ」

 

 思考が虚ろになって、目の前にいるのが誰なのか分からなくなる。ベルメールさん、ノジコ、皆……私がこうしている間は、皆に手を出される事はないから……だから、もう少し存在しても、いいかな。

 思考が、乱れる。入り乱れて、現在の状況も状態も分からなくなっていく。

 シャンクス達に私が何をしていたのかを知られた絶望と、私にとっての地獄の終わりが皆にとっての地獄の始まりだとわかっているが故の葛藤。だからこそ、終わる訳も無い地獄へ続くだけの未来。

 けれども音が、それの以前に精神を戻してしまう。だから、目の前の雄へと霞のかかった思考で近付く。

 膨らみを布越しに愛撫して、そっと唇で紐を解いて寛げていく。その瞬間にブルンと飛び出して来たそれに舌を出して舐めていけば、何故か苦しそうな呻くような声が降って来た。

 

 「ナミ……そんな状態でも、村を……?」

 「あーろん?……あの村は、私にくれるんでしょ。傷付けないでよ。価値が、下がるでしょ」

 

 繰り返して来た言い訳。大切だなんて、言える訳無いから。

 隠さなきゃ、気を私に引き付けておかなきゃ。私の何を犠牲にしてでも、皆に手は、出させないわ。

 全体が濡れた所でパクリと口で咥え込み、入り切らないところは胸で挟む。今回は、呑むのとかけるの……どっちがいいんだろう。

 そんな事を考えながら奉仕していく。とりあえず飲む方向で考えて、いつものように吸いあげれば放出の直前で肩を捕まれてベッドに押し倒された。

 飲む前だし、かける前なのに。どうしたんだろう。

 ああ、今日は蝋でも垂らしたいのかな。だとしたら、また、打たれるのよね。

 痛みがあるのは、構わない。でも、この身体を傷付ける罪悪感は、消えそうにないの。

 

 「もういい……後は、愛してやるから、好きなだけイけ。そういう意味でなら、いくらでも殺してやるから、だから……生きて、傍にいてくれ」

 「アーロン……?けいやくだもの、そばにいるわ」

 「ナミ……俺はシャンクスだ」

 

 その言葉を言葉として認識できない。命令以外、よく分からないの。

 奉仕をしたらいいの?

 許しを乞えばいいの?

 求めればいいの?

 抵抗したらいいの?

 望むとおりにするから、お願い……。皆を、傷付けないで。

 

 「今日は、何をしたらいいの?」

 「ナミらしく、いてくれたらそれでいい。……偽りのない、ナミの今を見せてくれ。俺は、どんなナミでも、愛してる」

 

 その言葉で時が動く。シャンクスに、知られた衝撃と触れられる悲しみが、痛みとなる。

 目の前にいるのがシャンクスだと、突然理解出来てしまった。理解出来なければ、なんでも耐えられたのに。

 

 「やっ……みな、いでっ!私、もう、いやっ!みないでっ!!いやぁぁぁ」

 

 叫びは、嘆きは、その唇に奪われて、ただキスひとつで慰められる。愛を、伝えてられてしまう。

 それに意識を奪われている間に、宛てがわれたそれが蜜壷へと挿れられてしまう。なのに、不快感も痛みも無くて……。

 身体がそれを求めて、絡み付いていくのが分かる。私の身体は、浅ましく、はしたない……!

 

 「んっ……ぅ……」

 

 鼻を抜けるような声が漏れる。これは挿れられた事が原因なのか、それともキスが理由なのか。

 相手が、理由なのか。それとも……私が淫乱だから?

 

 「ナミ……愛してる」

 「ぁ……しゃん、くす……」

 「ああ、俺だ。中にいるのも、キスをしているのも、俺だ。約束しただろう?もう、悪夢は終わった……ナミが回復するその時まで、部屋から出さずに大切に……愛し続けてやる」

 

 肩にある忌々しい刺青は、俺の物に変えてやろう。乳首にある飾りも、ナミを傷付けるならば取り払い、代わりに何かが必要と言うのであれば首輪を付けてやれば良い。

 俺の元を離れて、傷付いてしまった愛猫を甘やかす事に何の罪があるだろうか。猫は猫らしく、首輪に鈴をつけてやればいいだろう。

 俺を見て怯える姿が、壊してしまいたくなる程に憎い。だが、俺を怯える理由が、俺以外に犯された罪悪感だと分かるからこそ理性を保っている。

 死ぬ為の道具を求めて徘徊しようとするなら、その足が弱るまでベッドから出さなければいいだけの事。その手が死ぬ為の道具を使うと言うなら、安全な柔らかい物を与えて、その上で鳴かせれば良い。

 その身体を、もう二度と傷付けさせはしない。船医からナミの腹には何も宿っていないと聞かされているが、念の為に中まで洗浄させて薬も飲ませてある。

 今日から10日は俺の子を宿らせる事もできないだろうが、魚人の血が入った子供なんぞは産ませられねェんだからそこは耐える他ないだろう。ナミは、俺のものだ。

 グイッと腰を深く押し込めば、愛らしく喘ぎ、時に恥ずかしそうにしながらも、俺を煽るような事を言う。だがそれも、恐らくはあの魚が仕込んだのだろうと分かるからこそ、余計な事を言えなくなるまで注いでやろうと腰を動かす。

 

 「あっ……そこ、きもち……ぃ……もっと……!注いで、中、いっぱいにしてぇ……!」

 

 甘えたように声を出すナミは、アーロンに仕込まれた通りに動く人形と化していた。それは、正気を失っていると言えるだろう。

 抱いている限りは、正気を保っている比率が半々となるのであれば、時に正気に戻り嘆かれた所で死のうとしない現実を男は選択する。回復を促すにせよ、ニセモノの愛を囁かせるにせよ、生きている事が大前提なのだから当然として。

 ナミが鈴と鎖の音に反応する事に気付きながらも、それをあえて利用する事を選んだ時点で、男は結局アーロンと同じ最低行為をしていると言えるだろう。それでも、犯していない時に正気に戻れば徘徊して死のうとするのだから鎖で繋ぐのは必然。

 投与されていた媚薬を抜いてやる為には、下手な物は投与できないからこそ、音で濡れるならば負担が少ないと考えた男に罪は少ないのかも知れない。だが、結果としてそれはナミの精神を追い詰める事となる。

 愛を免罪符にしていれば、女にする全ての行為が赦されるのであれば、アーロンも許されて然るべきである。彼とて素直になれない背景があった事を除けば……確実に、明確に、歪んではいて、ナミをも愛していたのだから。

 ナミに対する愛の歪みについては、この男も大差は無い。首輪をつけて、鎖で繋ぎ、鈴をつけて、部屋から出さないのだから。

 護るなんて言葉は、免罪符にもなりはしない。愛を免罪符にする事は、愛という物を愚弄しているとも言えるだろう。

 この時、男もまた狂っていたと言えるだろうとこの二人を見ていた者達は思った。喪う恐怖に怯え、他の男に先を越され、傷付き狂うその姿を目にして耐えられなかった事を責める事は誰にもできない。

 それでも、この時の男はアーロンと同じ歪みで、同じ免罪符を振りかざして、閉じ込めて犯し続ける日々を過ごしていた事だけは間違いないのだ。この二人の恋愛が、この先どのような結末を迎えるのかは未知数と言える。

 

 「もう、死なせて……」

 「死なせて、たまるか……」

 「「愛しているから、傍に(居られない)いて欲しい」」

 

 同じ所から、同じ理由で、正反対な答えを胸に抱く男女の擦れ違い。この事に善悪は存在しないのだろう。

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