地球人には愚かな奴が多い。
それは俺がこの宇宙に辿り着いた時からよく知っており、争いを多く見ていた感じた正直な感想である。
元々ブラッド族としての使命をあまり重視していない俺にとって、星を滅ぼす行為に意味を見出せずにいた。
兄であるエボルやキリバスに関してもあまり意見が合わず、殺し合いを行うのは珍しくなかった。
その中で俺が興味を持ったのは、女だ。
俺達ブラッド族には特定の肉体というのは存在しないが、肉体が存在する生き物は子孫を残す為に性行為というのを行っている。
その性行為というのは、互いに求めるように行い、俺達のように身体を乗っ取る訳ではなく、まるで一つの生き物のように混ざり合っていた。
「あそこまで、心地良いのか?」
偶然見掛けたその行為は、これまで見てきたどの生き物とも違っていた。
それが、どのような感情を持って行っているのか。
感情のないブラッド族である俺には興味が尽きず、それを得たいと考えるようになっていた。
しかし、洗脳というやり方は、俺はあまり好まない。
相手の方から、自身の意志で混ざり合い、一つになる感覚。
それが分かる為には、相手の全てを押し殺し、支配する洗脳は俺の目的には合わない。
「それでは、これからどうするか」
そう言いながら、俺はそのまま人間の姿を擬態し、考える。
そして、暫くしてから気付いた。
「火星か……」
今いる太陽系において、最も生存に適した場所であると聞いた事がある。
文明のレベルも高く、特に地球と呼ばれる星の人間は優秀らしい。
何より、人類における最大の敵とされている存在がいない事が魅力的だった。
「よし」
早速向かうとするか……!
あれから数日後。
俺は、宇宙船に乗り込んだ後にすぐに火星に向かって出発した。
途中で寄った惑星でも多くの人間の雌を手に入れて堪能したのだが……。
『……』
やはり、あの日の光景を思い出す。
惑星に降りた時、見つけたのだ。
そこには血を流しながらも生きている少年がいた。
初めは、他の人間同様に殺そうとしたが……。
(違う)
何かが違うと感じ取り、一旦殺す事は止めた。
それにしても奇妙な話だが、その時の俺は人を助けたいだなんて考えていなかった。
ただ単に、自分の欲を満たすだけの為に助けようとしていた。
何故そんな事をしようと考えていたのかは分からないが、まぁいい。
とにかく、助かったと思ったのだろう。
泣きじゃくり、安堵していたのを覚えている。
それからは、連れ帰った。
意識を失い、弱りきっている人間というのも、また一興。
目覚めた時の絶望する顔もまた、楽しませてくれる。
「やめろ!」
恐怖に満ちた声を上げる。
それを無言で眺める。
「やめて、許して、もう殴らないでくれ!!」
悲鳴を上げ、涙を流し、必死に逃げようとする。
その姿を見て、思った事は『不愉快』という単語である。
目の前にいる生物が見せる絶望というのは俺が好んでいる類いではない。
同じように命乞いをする奴らを見て、笑みを浮かべるのは俺のような外道の計画を徹底的に潰した時の絶望した顔だった。
同じ顔をしているのに、どうしてこうまで不快な気分にさせられるのだろうか。
ふつふつとした怒りが湧き上がる。
「や、嫌だ、死にたくないよぉ」
苦痛に悶え、死の間際の断末魔を響かせる。
治療をする意味もなく、そのまま死んだ奴の身体を見て、感じたのは大きな『不愉快』という感情だった。
殺した連中の顔が脳裏に過る。
奴らを殺した時には愉悦と思えるような幸福感に覚えていたはずの俺が、今、目の前にいる奴の死を見て、不愉快に、いや、悲しんでいるだと?
『はっ、何を考えているんだ、俺は?』
星を滅ぼす為に活動しており、感情のほとんどがないとされている俺に感情がある?
あるはずがない。あってたまるか。
俺は、思考を切り替えた。
それからは、何度も死にかけていく内にあいつの死を思い出す。
なるほど。これが、精神の崩壊というやつか。
最初は面白半分で見ていたが、段々と面白くなくなってきた。
そんな疑問に思いながらも、ふと火星のある惑星、骨と皮だけになった死体が転がる中、残った人々が僅かな食料を求めて殺し合う地獄が見えた。
その時の光景は本当に気持ち悪く、吐き気がした。
「止めろ、不愉快だ」
俺はそう言いながら、ブラッド族の力の証でもあるエボルドライバーを使い、戦闘形態へと変わり、そのまま近くにいた生物を殺し、奴らに与えた。
飲み水に関しても、近くにいた軍の奴らから奪い、それを渡した。
すると、どうだろうか。
先程まで殺し合いをしていたはずの奴らがまるで手の平を返したように、助け合い、俺に感謝をしていた。
その中には女性兵士もいた。
彼女は泣いて感謝していた。
だが、この時、心の中では罪悪感よりも先に覚えたのは喜びだった。
善人とも言える女が、最悪の悪人とも言える俺に対して愛を囁く。
実際に、俺の正体を明かしたとしても、そいつは俺の事を愛しているから、止められないと言い続けた。
本当に愚かでちっぽけな存在だと思えた。
力も弱く、頭も弱い。簡単に同族を裏切る事もできる、俺がこれまで仕事で淡々と滅ぼしてきたどの惑星の奴らよりも醜い存在だ。
だが、同時に生き物に本来ならば備わっているエゴに従い、間違っていると分かっていても、従う姿はとても愛おしい。
「くくっ、なるほど、そういう事だったのか」
悪人共の計画が歪み潰された瞬間の絶望の顔を好み、奴らが幸せに満ちた笑顔は俺は嫌う。
そして善人は俺に騙され、助けられ、奉仕する姿を好み、悪人共にそんな俺の獲物が奪われるのが、酷く不愉快に思えた。
あの時、あの子供が死んだのは、その姿を見れず、悪人にそれを奪われたからこそなのか。
「ならば、これからの方針は決まったな!!」