商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
星降りの夜、無限城の残骸に乗ってキャロルが辿り着いたのは果てが見えない大樹海であり、そして周囲にいる生物の多くが魔の眷属であったのだ。
ゴブリンであったり、オークであったり、オーガであったり、形容しがたい異形であったり、魔王と呼ばれる者たちの遠い眷属がこの大樹海には溢れていた、城が落下してできたクレータの中心で混乱の真っただ中にあったキャロルは、自分が置かれている状況もよくわからないまま目の前の危機を脱出する為に走ったことを覚えている。
騒ぎを察知して集まった大量のゴブリンに追い回されながら、落ち着く間もなく三日三晩は逃げ回ったのだ、最終的には大樹海に流れる川に飛び込んで難を逃れた。
だがそれで全てが終わった訳ではない、周囲に広がっているのはどこまでも続く大樹海、周囲に文明はなく朽ちた遺跡がポツポツと点在するだけで頼れる存在は一人もいない。
キャラバンも遠く、街もなく、頼れる誰かもいない、キャロルのサバイバルがこうして始まったのだった。
唯一縋れる何かがあるのだとしたら、それは握られていた黄金の弓と己の技量のみ、敵は広大な大自然とそこを領土とする獣や魔の眷属、思い返してみればよくこれまで生きていられたものだと感心すらしてしまう。
当然ながら死にかけたことも一度や二度ではない、三度や四度でも足りない、巨大な獣に返り討ちにあったり、魔の眷属との戦いで血を流したり、空腹のあまり知識もないまま食したキノコで腹痛と幻覚と脱水症状に陥ったりと、様々なことがあったのだ。
特に厳しかったのは、最初に迎えた冬である。
食料は少ない、森の恵みも期待できない、その頃には矢筒も空になり鉈も折れ、獣から剥ぎ取った毛皮も心許なく何より暖を確保できる環境も万全とは言えない状態であった。
長い年月をかけて森に侵食された古代の遺跡を発見して、そこに巣くうゴブリンの群れから奪い取った薄暗い場所で、少量の干し肉を舐めるように食べながら冬を過ごす。
やはり準備が足りなかったのだろう、雪の降らない天気の良い日は冬眠している獣を探したり、燃料を集めたりしなければならなかったのだ。
だが環境が人を育てるとはよく言ったもので、極限のサバイバル生活の中でキャロルにも様々な変化があったことは間違いない、具体的には足りない矢をどうにかしようと試行錯誤した結果、エミリーの扱う魔術の中に魔力の矢というものがあったことを思い出し、それを再現できたことだろう。
本格的な魔術師ではないキャロルには簡単なことではなかった、しかしできなければ死ぬだけなのでやるしかないのだ、結果として彼女は見様見真似だが魔力の矢を形にできておりそれで獣を狩ることができている。
火を灯す魔術も似たような取得方法であり、限界まで追い込まれた状態で魔術師の友人のことを思い出しながら必死に魔力を運用して魔術へと昇華させていく。
出たのは小さな火花程度の熱であったが、自給自足のサバイバル生活の中で火をおこせる手段は重宝しているようだ。
飢えと寒さで死にそうになりながらも、だからこそ開けたキャロルの新しい可能性ということだろう。
獣を狩る手段と、暖を得る手段が確立されたことで、最初の冬はなんとか乗り越えることができた、それからキャロルの生活は自然の流れに左右されながらも、狩猟と収集へと傾くことになる。
まず大樹海を流れる川を中心に流れに沿って歩く、その川がどこへ続いているか彼女にはわからなかったが、その先にいつかは文明圏へと辿り着けると考えたのだ、当てもなく闇雲に彷徨うよりはずっと懸命な判断だろう。
その道中に食糧を集める、それは川に生息する魚であったり森の恵みであったりするが、冬に備えて毛皮が欲しかったので主な獲物はやはり獣である。
川の流れを追って歩く、獣を狩り肉と毛皮を得る、そしてまた歩き、偶に魔の眷属に襲われたりしながら、先へと進む。
それは安定には程遠く、なにより孤独な旅であった。
「……」
キャロルは星の輝く空を見上げながら毛皮の布団の上で呆けている、これまでの旅路を思い出していたがよく生きていたものだと感心しているのだろうか。
もしかしたら寂しさを抱えているのかもしれない、彼女はあまりお喋りな性格をしていないが、だからといって孤独を好む人間と言う訳ではないのだ。
長い時間を誰とも会話することなく過ごすのは厳しいものである、こうして作業を終えて篝火を前にして一息つくと、キャラバンでの生活をよく思い出すくらいには彼女は寂しさを感じているらしい。
姉のシャルルは無事だろうか、友人のエミリーは無事だろうか、そもそもキャラバンは健在なのだろうか、そんなことを考えているとどうしても不安にかられてしまう。
彼女は年齢や幼い外見の割に大人びているが、だからといって完全無欠な訳ではない。
寂しさを苦痛に思うのは、避けられないことなのだ。
「……ふぅ」
溜息を一つ、そして目の前の篝火に木の枝を幾つか放り込んで毛皮の上に横になる。
熊の解体による疲労は溜まっており、冬が近い川での水浴びで体は冷えている、そんな状態で篝火の熱を感じれば体は倦怠感を訴えてしまう。
このまま横になっていればじきに眠気もやってくるだろう、もう何度も繰り返した一人の夜であった。
「……んッ」
サバイバル生活の中で足りない物は数えればキリがないが、衣食住がある程度充実すれば余裕が出て来る、そして余裕があれば持て余すのが性欲だ。
キャロルは毛皮の寝床に横になった状態で自らの秘所へと指を伸ばす、そして寂しさを紛らわせるかのように膣口を撫で上げる。
僅かに零れるのは甘い声と吐息、そして一度熱が体に走ればそれは全身に広がっていく。
「んん……ふッ……うん」
この自慰には寂しさを紛らわせる目的もあるのだろう、仮にそれを抜きにしたとしてもキャラバンでの生活が体に染みついているのだ、快楽には正直であった。
今や娼婦としての生活が懐かしく感じているキャロルだ、もともとセックスを楽しんでいた上に娼館で働けば相手にも困らなかった、キャラバンでの時間は性欲を持て余すようなことはなかったのだが、今は一人である。
手頃な相手などいない、売春しようにもそもそも街すらない、指先だけでしか慰められないのだ。
そして、細く短い指ではどこか物足りないらしい。
「やぁ……もう、こんなに……んん~~ッ!」
膣口から中へと指を差し込む、熱と湿り気を帯びたそこは異物の侵入に震えるのだが、足りないとばかりに強く舐めるように締め付けていく。
実際に足りていない、どれだけ指を進ませようとも最奥を押し上げるような衝撃にはならないからだ、そして絶頂したとしても熱が消えない。
もっと、もっと、とねだるようにキャロルの蜜壺は濡れて指を締め付けるのだが、やはり最奥には届かない。
粘り気を増していく愛液を混ぜ返しながら自慰に耽る、寂しさと心細さをかき消す為の指使いなのだが、激しさを増す度に虚しさも大きくなっていくかのようだ。
「ふ~~……ふぅ~~ッ」
思い返すのは娼婦として働いていた時の様々な交わりだ、彼女は比較的、どのような相手ともセックスを楽しめており相応の経験もある、最近の自慰では主に娼婦神の神殿で行われた性儀式での交わりを思い出すことが多い。
あれは良いものだった、とても楽しかった、そう思ったからこそ自慰の時はよく思い出すのだろう。
「はぁ……んッ……んッ、んッ、んッ」
大勢の娼婦と男が入り乱れた交じり合う儀式であった、キャロルも大いに楽しんだ、もう一度参加したいと考えるくらいには良い思い出である。
「うッ……くッ……んんんんッ!」
膣へと差し込む指を一本増やす、それでもまだ太さも長さも物足りない。
「うぁん……はぁ、はぁ」
足りないが、己の指以上の物がこの場にはないのだ、体に宿る熱はこれで発散するしかないだろう。
膣内に入った二本の指をへの字に曲げて敏感な部分を刺激しながら、空いたもう片方の手は自分の薄い胸を揉み上げる。
その頂にある突起を指で摘まむと、キャロルの体はビクッと反応して背筋を逸らした。
孤立して二年近い時間が過ぎており、成長期ならばそれなりに体の変化があっても不思議ではないのだが、どうも彼女の肉体は成長の様子が見られない。
いや、身長も胸も大きくなっているのは間違いない、ただ目視で実感できないくらいに僅かな差というだけである、キャロルはそれが少しだけ不満であった。
「はッ……はッ……はぁ~」
二本の指で何度も掻き混ぜられた愛液は白く濁っており、キャロルの細い指をドロドロに汚しているようだ。
華奢な体は小刻みに痙攣を繰り返し、自らの秘所と乳首を弄る動きは更に激しくなっていく。
膣口を撫で上げればゾクリと震えて、肉豆を弄れば思わず声が漏れる、中へ差し込めば体はビクッと反応している。
「あぁ~~……あぁ~~」
物足りない……物足りないが、それでも勝手知ったる己の体である、指で慰めることにも慣れている、ぐちゃぐちゃと暗い森に音が響く程に激しく慰めながらキャロルは絶頂へと上っていく。
「んんッ!! イクッ……あッ、あッ……~~~~~ッッ!!」
最後に、差し込んだ指で膣壁を引っ掻くかのように動かすと、それを合図にしたかのように彼女は快楽を爆発させるのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ」
絶頂の余韻に痙攣を繰り返すキャロルは、徐々に引いていく絶頂の余韻を感じながらも、体にある熱は未だに健在であることに気が付く。
「ん……足りない」
自慰では完全に熱を冷やせない、子宮を押し上げられながら熱い欲望の塊を吐き出されることもない、やはり不完全燃焼で終わってしまう。
だからなのかキャロルは余韻に震えながらも、再び指で己を慰めるのだ。
「あッ……あッ……アッ」
小さく細い身体がまた震えだす、何度も繰り返さなければ消えることのない熱を晴らすかのようにそれは続いていくのだろう。
結局、その日は三度ほどの絶頂を経験してから、ようやくキャロルは落ち着くことができた。
汚れた指先や汗の浮かぶ体を、もう一度近くの川で清めてから寝床へと戻ると、その段階で疲労と眠気は最大にまで蓄積しており、毛皮を被って瞼を閉じればすぐに眠りに落ちていける。
視界が閉ざされる寸前、空に浮かぶ星を眺めながらキャロルは離れ離れになった仲間たちを思う。
健在だろうか、怪我はしていないだろうか、そして自分は無事に再会できるだろうかと。
一人になってから何度も思ったことを、今日もまた眠りに落ちながら繰り返す。
キャロルの二年は、そんなことの繰り返しだったのだろう。