商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
肌を汚される。
幾度も幾度も、いっそ呆れるほどに繰り返されるのは凌辱だ。
嫌だ、やめてくれ、もう許してくれ、そんなことを何度も叫んだが聞き入られることはなく、ただただ嬲られるだけである。
肌に残された傷と付着した汚泥の数だけ、彼女の心がすり減らされていく。
こんな無様な自分を見て故郷の仲間たちはどう思うのだろうか、戦士としての責務も果たせず魔の眷属に汚され続ける無様を晒し続けているのだ、きっと笑われてしまうだろう。
いっそこのまま壊れてしまえたのならばどれだけ楽か、そんなことを考えたのも一度や二度ではない。
それでもかろうじて正気を残していられたのは、砕けた心の奥底に、ひっそりと隠された矜持があったからだろう。
戦士として、エルフとして、そして主に使える臣下としての、最後の輝きだ。
蹲り、痩せた体で最後の寄る辺を守ろうとする彼女の体は今日も汚されていく。
それは小さな虫に体中を蝕まれるかのようである、或いは幾万ものミミズに這いずられるかのような嫌悪感を伴うものであり、心を抉るには十分なものであった。
やめてくれ。
いやだ。
うあ―――。
う―――。
「うあああぁぁあああああぁあああああぁぁぁッ!!?」
意識の覚醒と叫びは同時であった、毛皮が積み重なった寝床から飛び上がったミューは、何かから逃れるようにじたばたと手足を振り回している。
その光景は空中を泳ごうとしているかのように滑稽ではあったが、夢と現の間を彷徨っていた彼女にとっては自分がどのような状況であるかなどわかりはしない。
ただ、自分の体を凌辱する汚れから逃れようと彼女も必死ということだろう。
飛び上がり、酸素を欲するかのように荒い呼吸を繰り返し、じたばたともがくミューは周囲にゴブリンがいないことに気が付き心を落ち着かせる―――ようなこともなく、顔を青くして今にも吐きそうに顔を歪めた。
体中にミミズが這いずっているような悪寒は消えはしない、腹の奥から込み上げて来る胃液の感触に胸やけもしており、そこまでいくと顔色は青から蒼白へと変わっていた。
嬲られていた時は気力も体力も底をついていたので不安と動揺で暴れまわることもなく、そもそもできなかったのだが、キャロルの房中術である程度の活力が戻った影響だろう、四肢に力を送ることができている。
だから、彼女は自らの体を這いずるミミズやナメクジを幻視して、いるはずのないそれらを払うかのように自分の体を何度も両手で摩りあげていく。
しかしそれだけでは足りなかったのだろう、最後には指と爪を立てて掻き毟るようにボリボリと肌を傷つけるのだった。
「ん……止めた方が良い」
そんな彼女の行動を止めるように、悲鳴を聞いて駆け付けたキャロルが掻き毟る両手を握りしめて阻止するのだが、体をばたつかせて逃れようとミューは暴れまわるだけだ。
「……落ち着いて」
「いやッ、触るな!! 触れるなッ!! うあッ!! やだ、うわああああッ!!」
下手に活力が戻った為なのか抵抗が激しい、目の前にいるキャロルではなく見えない汚れを振り払おうとしているので彼女に対して悪意がない、そもそもキャロルがいると認識できていないようだ。
ミューの爪の間には掻き毟った際に抉れた皮膚と血が詰まってしまっている、このまま放置すれば重症に至る可能性もあるだろう。
だからキャロルは彼女の両手首を掴んで宥めようとするのだが、ミューの抵抗は激しく収まる気配がない。
このまま舌でも噛み切られたらキャロルではどうしようもないだろう、少しばかり強引ではあったが強制的に落ち着かせる必要があるようだ。
「ん……ごめんね」
最初に謝罪の言葉を贈る、それを合図にしたかのようにキャロルは拘束した手首から房中術で魔術の道を作り上げる。
「嫌なことは、忘れさせてあげる」
魔術の道で繋がり合った瞬間に、暴れまわっていたミューが途端に静かになった、それは精神や魂への干渉による強制的な沈静化である。
つまりは洗脳だ、それもすぐに解けてしまう表面的なものではなく、トラウマを取り除く為に深く鋭く魂を掌握する必要があった。
ミューの手首を掴んだキャロルは、そのまま相手に体重をかけて廃神殿の一角に作られた毛皮の寝床に押し付ける。
「久しぶりだな、誰かとするの……君が男ならもっと嬉しいんだけど」
でも贅沢は言えないか……最後にそう呟いたキャロルはミューに覆いかぶさって美しい緑色の瞳を見下ろす。
そこで二人の視線が絡み合う、強制的な沈静化で落ち着きを取り戻したエルフの瞳が怯えたように潤んでいた。
「や、やめろ……誰だ貴様は、なぜ人間が樹海にいるんだ」
「色々と事情があって・・・・・うん、説明しにくいかな、とりあえず今はミューを落ち着かせよう」
ちゅッ、と音を立ててミューの頬に唇が吸い寄せられた、ただそれだけの戯れのような愛撫でしかないというのに、脳が蕩けるかのような熱と興奮が生み出されてしまう。
それが房中術による精神干渉だと気が付いた時には既に遅い、体や四肢からは力が抜けて抵抗ができなくなっていた。
残るのは異様とも言える興奮だけだ、媚薬でも盛られたかのように体が熱くなっている。
「君のトラウマを、ちゃんと消してあげる……後は、純粋に楽しもう」
キャロルも久々の他者との交わりである、房中術による精神干渉でトラウマを強引に取り除くという治療行為をしようとしているのだが、それは建前でもあるのだろう。
他者と肌を重ね合わせることを好むキャロルは、端的に表現すると欲求不満でもあるのだった。
相手が同じ女性であるということは不満点でもあるのだが、エミリーを相手にしていたのだから慣れたものである。
「ん……エルフの魔力って、人間と全然違う味だね」
「うッ! あッ! や、やめろぉ……なんだ、これは、体が、動かない」
キャロルの歯がミューの鎖骨を撫でる、単純な接触でありやはり軽い愛撫ではあるのだが、そこからまるで吸血するかのように活力が流れていく。
キャロルは吸い込んだミューの魔力を舌で転がすかのように味わうと、今度はお返しとばかりに自分の魔力を相手に流す。
そうやってお互いの魔力を循環させていく度に、深く房中術を差し込むことができるのだ。
「熱ッ!! うぁぁ・・・・・んくッ!!」
「はぁ……うん、美味しい、相性はよさそう」
次は歯ではなく舌での愛撫となった、チロチロとキャロルの舌先が首筋から頬へと移り、最後にはエルフ特有の長い笹耳を刺激していく。
「ちゅ、ちゅる……ん、はむ」
「んぁッ……ちょ……やめ……くッ……なんでッ……こんな辱めをッ!」
「ん? なんか、辛そうだったから? 死なれたら凄く困るし……だから、慰めようと」
「同性だろうに!?」
「うん? まぁ、そうだけど……気持ちよくなれば一緒」
「ふざけるな、そんな……そんな自然の摂理に背く行為などッ!!」
「でも……楽になったでしょ?」
キャロルの言葉にミューは言い淀む、否定できなかったのだろう。
舌や指が肌を撫でる度に、吐息や体温が擽る度に、不思議と不安な気持ちが消えていくことを実感してしまったようだ。
全身を掻き毟ってしまいたくなるような衝動がどこかへ引っ込んでいる……いや、キャロルに制御されていると表現すべきかもしれない。
「これは、まさか房中術か? おのれ人間め……なんて不潔な術を使っ―――んやぁッ!?」
廃神殿の隅に広がる大量の毛皮でできた寝床の上でミューの体が震えた、横になった彼女は背後から抱きしめられる形で拘束されており、わき腹から伸びるキャロルの両手がそれぞれ敏感な場所へと触れたからこその反応である。
右手は乳房の先端へ、左手は股間を弄り、ついでとばかりに唇と舌でうなじを刺激していた。
単純な愛撫ではあるのだが、そこは房中術を使用した魔術的な工程であり儀式でもあるので、効果は如実に表れる。
ミューの体は熱くほてり、四肢から力が抜けていく、思考は蕩けて上手く頭が回らず、キャロルの指先から与えられる快感に抵抗ができないらしい。
「大丈夫大丈夫……嫌なことは全部忘れさせてあげるから」
体に巻き付けられていた毛皮のマントの中へと手が滑り込み、僅かな愛撫で熱く濡れていた秘所の入り口を指でこじ開ける。
「んぁ!? んッ……んッ……んんんッ!」
「ちゅ、はぁ……痛くないでしょ?」
人差し指を中へ差し込んで自分で慰める時のように僅かに曲げて中を優しく刺激していくと、ミューの体にはゾクゾクと快感が走り抜けた。
数十年生きた彼女からしてみても、それは初めての快感であるらしい。
彼女はまだ未婚であり、そもそも人間の年齢に換算するのならば成人を迎えてもいないのだ、性経験が乏しい、一応は自ら慰めることもあるにはあるのだが、ここまで大胆な指使いは経験したことがないのだろう。
逆にキャロルの経験は多い、熟練の娼婦と評しても問題ないくらいには交わって来た、そこに房中術を加えれば経験の浅いミューを蕩けさせることなど難しくない。
つまり、ミューはキャロルにされるがままである。
うなじに何度もキスしながら胸と秘所を弄り回す、より熱くより深く興奮を高まらせていくと房中術の効果も高まっていき、魂の繋がりも強固になっていくのだ。
そうなれば精神への干渉も強まる、鬱もトラウマも不安も取り除けるし、やろうと思えば相手の全てを壊して廃人にだってできてしまう。
房中術が、使い方次第でとても危険な魔術になってしまうのも頷けるというものだ。
だがキャロルのしていることは治療行為である、精神への干渉によるトラウマの除去を目的としているのだから間違いではない。
久しぶりの他者との交わりを楽しんでいることも否定はできないが、キャロルの行動は善意からなるものである。
例えそれが洗脳だとしても、結果として救われるのならば医療行為という建前が使えるのだろう。
実際に、今キャロルがやっていることは娼婦神の神殿で行われている性儀式の一つでもあった。
「んッ……あッ……んんんッ……お、おかしい、こんな、こんなことをされて私はッ」
「んん、ちゅる……おかしくないよ、気持ちいいことしてるんだから」
背後から抱きしめる形だった二人だが、ミューの興奮が高まって抵抗できなくなった頃合いでキャロルが上になって相手を見下ろした、そして彼女は煩わしそうに毛皮の衣服を脱ぎ去ると、二年という時間があってもあまり成長することのなかった華奢な体を見せつけた。
僅かな膨らみしかない乳房も、引き締まった体も全てが晒された状態である、幼さが目立つ少女らしい姿であり倒錯的な魅力を醸し出す。
だがそれを見上げるミューは同性かつ少女らしい体であるにも関わらず、興奮と共にゴクリと唾を飲み込んでいた。
かなり深く房中術に酔わされているらしい、興奮と熱が体の奥そこから溢れてくるのだろう。
「ん……私も、気持ちよくなりたいかな」
そう言ってキャロルは妖艶に微笑むと、力が抜けて動けないミューの足の間に体を滑り込ませて自らの股間を相手の股間に密着させるのだった。
「んッ……くちゅくちゅ鳴ってるね、興奮してるんだ」
「ち、違う!! これは、貴様の邪法のせいで……んんんッ!?」
興奮によって固くなっていた両者の肉豆が擦り合わされると、甘い喘ぎが廃神殿に広がっていく。
「んんッ……あッ、あッ……これでも十分、気持ちいい……はぁ、はぁ……贅沢を言えば、やっぱり、男の人のあれの方が良いんだけど」
金色の瞳が見下ろすのは怯えながらも熱に潤んだ緑色の瞳だ、エルフらしく整った美しい容姿をしており、どこか中性的な顔をしているミューは十分に魅力的に映っている。
男装させればよく似合いそうだ、そんなことを思いながらキャロルは前のめりになって唇を奪うのだった。
「ちゅ、ちゅ……ん……あむ……ちゅ」
「んんんんんんッ!? んむんんんッ!?」
強引に唇を開かせて舌と舌を結び合う、押し返そうとするミューとそれを巧みに絡み取るキャロルの舌が激しく絡み合っていった。
思考が蕩ける、体中に広がる熱は更に熱くなり、四肢からどんどん力が抜けていく、最初こそ激しく抵抗していたミューの舌も徐々に受け入れるかのように穏やかになっている。
あぁ、ダメだ、落とされる……そんなことを察したのだが、抵抗らしい抵抗はできないまま、ミューは甘い沼に落ちていくのだった。
「んんッ……んッ……んぁ……ぷはぁ!」
貪るようなキスを終えると両者の間に唾液の橋がかかりプツンと途切れ、キャロルはぺろりと唇の端を舐めると、完全に抵抗ができなくなったミューを見下ろす。
完全完璧に房中術の虜となった相手の頬へと手を伸ばす、それは彼女からしてみれば最早上位者からの手招きに近くなっているのだろう。
王が功績を労うように、神官が信仰を称えるように、或いは神が地上の子供へ救いの手を伸ばすかのように、特別な意味があるのだ。
「あッ……」
ミューは、伸ばされた掌を受け入れた、抵抗しようなどと一考することもなく、藁にも縋るかのようにその指先を迎え入れていく。
キャロルの掌が頬を撫でる、その瞬間に彼女の魂はキャロルに屈服するのだった。
「ふふ……どうして欲しい?」
「あ、愛してください……や、優しく、労わるように」
「ん……良いよ、全部忘れさせてあげるからね」
「はいッ! ありがとうございます!!」
まともな思考をしていないことはわかっていたのだが、そんなことは些末な問題でしかないとミューは思っていた、思わされているのだ。
今は、目の前にいる少女に愛されたい、それ以外はどうでもいい。
ゴブリンに嬲られたことも、汚され切ったことも、どこか遠い記憶のように感じられてしまう。
「じゃあ……イカせてあげる、優しくね」
「あッ! ああああッ!?」
ピッタリと合わさって擦り合わされる肉豆は互いの愛液に塗れて白く濡れている、そんな状態でカクカクと小刻みに腰を揺すれば激しすぎない甘い痺れが広がっていく。
肉棒を激しく出し入れするセックスでは味わえない、爆発するような絶頂ではなく甘く火照るような絶頂へと導くのだ。
「んッ、んッ、んッ……気持ちいい?」
「ふぁい!! 気持ちいい、です!! こんなの知らない、やぁあッ!!」
「あんッ……大丈夫、受け入れて……はぁ、はぁ、癖になるから、ね?」
最後に、キャロルはもう一度ミューの唇を塞ぎ、密着させた腰を一際強くこすり合わせた。
それを合図にしたかのように、二人の体にはどこまでも穏やかな絶頂が駆け抜ける。
「んんんッ……んッ……んふんんんんんッ!!」
「ふあんッ……うッ、くふんんんんんんんッ!!」
荒い息と共に体を震わせて絶頂の余韻を味わう二人は、ふかふかとした毛皮の寝床に体を沈めて見つめ合う。
艶やかに笑うキャロルと、身に余る祝福を授けられた敬虔な信徒のように目を細めるミュー、なんとも対照的な光景である。
「ん……もう大丈夫」
「……はい」
ミューの中にあるトラウマは既に消えていた、遠く遥か過去の出来事に書き換えられたのだろう。
彼女はキャロルの持つ金色の瞳を、恐怖ではなく信仰と感謝で見つめ返すことができている。
彼女に頬を撫でられると、ただそれだけで明日に希望を持つことができてしまう。
房中術による洗脳、その治療行為は成功と言えるだろう。
この日、ミューはかつてないほどに穏やかな気持ちで眠ることが出来たらしい。