商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
「まずは感謝を、客人である貴女に様々な配慮をしてもらった、本来ならば僕がやらなければならないことだったが……うん、世話になった」
天幕の中に招かれて腰を下ろしたカーバンクルは開口一番にそう言って静かに頭を下げる。
「ん……なんの話?」
「演劇の件だ、こんな状況だから色々とストレスが溜まっていたのだと思う、よい息抜きとなった。それに我々の現状を客観的に見る切っ掛けにもなったと思う」
狙った訳ではないが結果的にはそうなっただけだ、不安とストレスで冷静な判断を下すことができなくなっていた彼らが、現状を客観視できるようになったのも演劇の内容が響いたことが大きいのだろう。
敵は巨大で、挑むのは無謀だ、勝ち目はなく、ならばせめて僅かな希望でも残したい、そんな現状をハッキリと理解できたのだ。
戦いに参加できないことを不満に思った者も、故郷を離れることを余儀なくされた者も、自分たちがこれから進むべく道を演劇の向こうに見た。
死ぬべきか生きるべきか、挑むべきか逃げるべきか、簡単に答えがでない問題を前にしてカーバンクルが出したのは冷静な妥協であり、つまりは流す血と残す血を二つに分けることである。
指導者としては決して間違った判断ではない、おそらく大半の首領は似たような選択をするのだろう。
戦いを挑む責務、群れを残す責務、守り継承する責務、カーバンクルもまた群れを率いる者として最善の判断をしたと思っており、客観的に見てもその通りである。
ただ最高の判断という訳ではなく、完璧にも遠い、だから不満を感じる者は多かった。
「僕の判断はそれで良い、それが最善だ、完全完璧な方針なんてありはしないんだからな……だが、ふぅ、他者を率いるのは難しいと思い知らされてばかりだよ」
「……そう」
キャロルにはその苦労はわからない、彼女は王でもリーダーでもないからだ。
しかし人の苦労はわかる、エルフの年齢はよくわからないがカーバンクルは見た目通りの若さであり、年齢に不釣り合いな苦労をしているであろうことは察することができた。
もし自分が群れを率いてその責務を背負わなければならない立場であるのならば、きっと苛立ちを隠せなかっただろう。
その点、冷静であろうと努めている彼は指導者の器があるのだろうと彼女は思った。
「魔王を倒して故郷を取り戻す、これは決して後ろ向きな方針じゃないし嘘偽りのない思いなんだけど……僕自身が信じ切れてなかったんだろう、下の者たちに不安な思いをさせてしまった」
長の動揺はそのまま下の者たちに伝播する、彼の思いや覚悟だって同様だ、どれだけ力強く勝つぞと宣言したとしても、想いの伴わない言葉でしかない。
この集落にいるエルフたちもまた敏感に感じ取っていたのだろう、それが不満へと変わってしまっている。
彼自身が自分の言葉を信じきれていなかったのだ、他の者が信じて納得できる筈がない。
だが、今の彼は重圧から解放されたかのように穏やかな顔をしており、少しだけ年相応な少年らしさが垣間見える。
彼の中で決まったのかもしれない、諭すような言葉や思いではなく死に物狂いで結果を求めるという覚悟が。
別にやることは変わらないのだ、魔王を倒してそれと並行して新しい世界樹を作る、そしてエルフの血と歴史を継承させる、何も変わらない。
ただ同じ方針であってもそれはどうせ勝てないからという妥協からの判断ではない、全てを出し切るという覚悟を併せ持った宣言だ。
それを持って不平不満を持つ同胞たちを説得して回り、彼は最後に感謝を伝える為にこの場にいるのだった。
「妥協ではなく全力の判断を、それに気が付かせてくれたのはキャロル殿のおかげだ、改めて感謝をする」
「ん……気にしないで」
謙遜ではない、本音だ、キャロルとしては距離を縮めたかったという軽い気持ちで行った公演で、そこまで決意を固められても困るのだろう。
ただ、冷静になって客観的に現状を認識できたというのならそれは良い傾向だ、この状況で足並みが揃わないのは拙いということくらいはわかる。
「君は、その為に来たの?」
「あぁ、同胞たちの説得が楽になったからね、しっかりと感謝を伝えておきたかった」
「律儀だね」
「そういった評価の積み重ねが信頼となるのだろう? これでも首領だからね、格好つけたいのさ」
「ん……良いと思うよ」
「そう言ってもらえて何よりだ……さて、僕はそろそろ戻るとするよ、夜遅くに女性の部屋に居座るのも悪い」
「……娼館に来てそれは無いと思う」
「うん? 娼館? あぁ……あの宣伝は本気だったのか」
そこで彼の瞳がキャロルの首からぶら下がる細い鎖に繋がれた聖印へと向けられた、天幕の中にある獣脂の蝋燭の明かりに照らされて鈍く光るそれは、神の僕である証である。
世に娼婦は数多く存在しても、聖印を持つ者はそこまで多くない、珍しいと断言しても良い。
その聖印をぶら下げられるのは簡単ではなく相応の功績が必要となる、ただそれだけで人々からの信頼と尊敬を集められるのだから審査も厳しいのだ。
仮に娼館で働けば予約で年単位が埋まっても不思議ではない、それだけ人気と信頼を勝ち取ることができる保証にもなる。
エルフであったとしてもそれは変わらない、見ず知らずの相手ならば警戒心が大きくとも聖印持ちならば信頼できるほどにキャロルの持つ証は大きな意味を持つ。
男ならば是非ともお近づきになりたいはずだ、女であってもそう思う者がいても不思議ではない、エルフとしても見ず知らずの娼婦よりもずっと接しやすいだろう、聖印の信頼とはそういうものだ。
ただカーバンクルがおいそれと情事に挑むことは難しい、彼にも里長としての立場があるからだ。
「それに関しては……まぁ、またどこかで縁があればということにしよう。あぁ、キャロル殿が相手で不満という訳ではないので誤解しないように」
足早にその場を去ろうとするカーバンクルの服の袖を、キャロルの指先が摘まむ。
「ん……娼婦を前にして何もせずさよならじゃ失礼」
どうやら彼女はせっかく久々の仕事にやる気になっていたのに、水を差された気分になっているようだ。
「ううむ……僕にも立場があって――」
言い終わる前にキャロルの手が袖から手首へと移ろい、華奢な体に似合わない握力で握りしめると、そのままカーバンクルを引き寄せて天幕の中に引き倒す。
「君は優しいね、責任感も強い、大変だ……息抜きも必要、うん」
キャロルが使っている天幕は狭い、荷物を置いて寝床を作ればそれで一杯だ、二人が寝転ぶとそれだけで隙間は薄くなってしまう。
自然と体は密着する形となる、毛皮の寝床に体を沈めたカーバンクルの緑色の瞳が、鼻先のすぐ向こうにある溶かした黄金を流し込んだかのような輝く瞳をまっすぐと見つめた。
全てを見透かすような黄金の瞳と向き合うと、視線で呪いをかけられてしまったかのように体は重くなっていく。
「これは呪いかな?」
「ん……そうとも、言えるかな、房中術だし」
「あぁ、どうりで……」
思考が蕩けていく筈だと、カーバンクルは考えた所で体に熱が広がっていった。
同時に正常な判断ができなくなっていく、酷い酩酊状態に陥った時のように視界が揺れていた。
「……大丈夫、大丈夫、気持ちよくなるだけだから」
「そうか、それなら……」
「ん……君は大変だね、ちょっと息抜きしよう」
「あぁ……いや、ちょっと待って欲しい」
「むうッ……しぶとい」
抵抗を続ける相手に焦れたのかキャロルは両手をカーバンクルのうなじへ伸ばすと、そのまま強引に引っ張って唇を奪う。
「ん、ちゅ……ん……んむ」
啄むような口づけを繰り返すと、カーバンクルの中に残っていた最後の理性が完全に蕩けて消えてしまうのだった。
「はい……じゃぁ楽しもう」
唇の端を舌先で舐めとるような仕草をしてから、蠱惑的な表情で相手を見上げる彼女は、導くように相手を更に引き寄せ、酩酊状態にあるカーバンクルは特に抵抗することもなく、その額をキャロルの慎ましい胸へと置いた。
すると甘い匂いが彼の鼻孔を擽る、こんな環境では香油など満足に手に入らないというのに不思議なものだと、どうでも良い考えが脳裏を過る。
逆にキャロルは鼻先にあるカーバンクルの頭のつむじに鼻を押し付けて相手の匂いを嗅ぎ、久しぶりに感じる男の匂いを堪能していた。
「ん……良い匂い、ミューとはまた違うな」
ミューと交わっている時に感じる女性らしい匂いとは異なる男性の……雄の匂いである。
二年ぶりに感じるそれを肺一杯に吸い込むとそれだけで彼女の体は熱を持つ、高い酒を舌で転がした時のように幸福感を噛みしめて、艶やかな笑顔を浮かべていた。
久しぶりのごちそうである、そんなことを思っているのかもしれない。
「はい……服脱ごうか」
「あぁ、そうしようか」
互いの熱と匂いを十分に堪能した二人は衣服を脱いで肌を晒すと、より強い熱を求めて重なり合う。
カーバンクルは相手の肌を熱いと感じて、キャロルは少しひんやりしていると思いながら、引き寄せられるように互いの唇が肌を撫でていく。
「君の魔力は美味だな」
キャロルの鎖骨に吸い付いて鬱血痕を残したカーバンクルがそんなことを言った、お返しとばかりに彼女も相手の首筋に後を残す。
「ん……んぁ、君も美味しい……人間とは質が違うね……はぁ、濃くて良し」
魔術が得意だからなのか、一般的な人間に比べると房中術で感じ取れる魔力が多いように感じるのだろう。
量は別にしても性質が異なるようにも思えた、果実水と果実酒のような微妙な違いではあるが、味わいが異なる。
量を取るべきか、味を取るべきか、もし交わる対象が人間とエルフに分かれていたら、彼女は大いに悩んだのかもしれない。
ただ、現在、目の前にいるのはカーバンクルである、ならばここは良質な魔力を味わうべきだろう、人間の精液とはまた違った味わいがある筈だ。
互いの体にキスしながら徐々に熱を高ぶらしていき、幾つかの鬱血痕を残してから互いの指先が秘所へと伸ばされていく。
「んや……あッ……ん……凄くドロドロ」
そこは既に興奮が漏れ出るかのように湿り気を帯びていた、純粋な男性と交わるのが久しぶりなのでキャロルも強く興奮しているようだ。
二年ぶりの純粋な男なのだ、ミューとの交わりも良いものではあったが、やはり本物の男性との交わりは一味違うように思えるのは、久しぶりだからだろうか。
「ふふ、ねぇ、ここに挿れて……きっと凄く気持ちいいよ、ほらぁ」
幼く華奢な容姿に似合わない妖艶な誘いに抗える筈もなかった、カーバンクルはぐっとキャロルの体を寝床の毛皮に押し付けて自らの興奮を押し込んでいく。
狭い膣口を亀頭でこじ開けてその先へ、痛いほどに締め付けて来る入口とは異なり奥はぴったりと張り付いて絞り上げるように脈動している。
そして何より熱い、熱で満たされた密壺といった状態であった。
「んんぁぁ……これ、いい、やっぱり、男の人はちがう、ね……んあああぁぁッ!!」
固く引き締まった胸元や押し付けられる体重や固さ、匂いや熱なども女性とはことなる、それら全てを合わせた雄の欲望を押し付けて来る感覚はミューとの交わりでは物足りない部分であった。
「熱くて、固くてぇ……ふぁ、くッ、んあ……あッ、あッ……ふぁッ!?」
亀頭が彼女の最奥を押し上げた感触で一際大きな快楽が背筋を走り抜ける、ミューが悪い訳ではないのだが雄らしさを感じることのできる相手は素晴らしい。
へその下辺りに感じる男の興奮に満足そうな表情を浮かべると、押し倒してくるカーバンクルの腰に足を巻き付けてぴったりと重なると、両手もカーバンクルの背中に回してそこで結び合う。
「あッ、ふぁ、おっきくなってる……出すの? 出すんだ? いいよ……ひぁッ!?……一番奥にい、頂戴ッ……んんんッ」
最後にキャロルは秘所で肉棒を丹念に舐めとるかのように脈動させると、吐き出される精液を最奥で歓喜と共に受け止める。
「―――――~~~~~ッッ!!」
子宮で味わう精液はすぐに彼女の活力へと変換されていく、やはり人間のそれとは性質が大きく異なるのか変換効率が良いようだ。
ただ、量が少ないようにも思える、具体的には人間の半分ほどの量だろう。
「はぁ、はぁ……ん……ふぅ……ねぇ、もう一回……あれ?」
覆いかぶさるカーバンクルの興奮が鎮まっていくのを、キャロルは房中術を介して理解した。
とても落ち着いているようにも思えた、一度の射精でそうなることは珍しくないが、房中術を行使しての交わりでは珍しいことである、なぜだろうかと考えてみるといつか先輩団員であるローレライが話してくれたことを思い出す。
エルフは長命故に繁殖力が高くないと、人間であれば数年で子供を授かることができるが、エルフはそれこそ十数年物間、妊娠することが無いことも珍しくはないそうだ。
ましてや男性は吐き出す側だ、受け止める側ではない。
つまり、量と回数が人間よりも少ないのだろう。
房中術を使って強引に生命力を吸い出せばまだ続けられるだろうが、これから大きな戦いに挑まなければならない戦士にそれをするのは酷と断言できる。
「……もう」
房中術を使った激しい行為に疲れたのかカーバンクルはキャロルの胸で荒い呼吸を繰り返している、このまま寝落ちしてしまいそうだ。
キャロルはそんな彼の体を動かして毛皮の寝床に横にすると、そのまま薄い布だけを纏って天幕の外へと出ていくのだった。
「ふッ……ううんッ……ふぅ、ふぅ……んッ」
キャロルとカーバンクルが交わっている天幕のすぐ隣にミューが使っている天幕もあった、彼女はその内部で横になると長い耳を澄ませながら隣で行われている男女の交わりに聞き耳を立てていた。
そんな状態で彼女は指先を秘所や胸にやって自らを慰めている、何度も掻き混ぜられて白く濁った愛液で掌を汚しながらも、その動きはいつまでも止まらない。
「うぁ、はぁ、キャロル、殿……何で、私が、私がいるというのに……んッ……あんなことしなくても、私が……うッ」
隣の天幕から聞こえて来る主と思っている少女の喘ぎ声が聞こえる度に、奇妙な興奮と言葉にすることが難しいやるせなさが胸に広がり、それらを紛らわせるように指の動きは激しくなっていく。
ミューは自分が変わってしまったと考えているのかもしれない、以前はここまで快楽に溺れることはなかったのだが、廃神殿での爛れた生活で性欲が強まったように思えた。
「うぁぁあ……イク、またイク……ふうう、うくぁぁぁッ!!」
ビクっと体を仰け反らせて絶頂に震えた、しかしそれはどこか物足りない消化不良気味のものであるようにも思える。
物足りないのだ、廃神殿で暇さえあればキャロルと楽しんでいたので、自分の指だけでは刺激が足りないのだろう。
それならばキャロルと交わればいいのだが、その彼女は隣の天幕でカーバンクルと楽しんでいる状況だ。
娼婦として働かなくても自分がいるのに、そんな不満を感じながらの自慰行為は極めて虚しいものである、軽い絶頂の波が引けば彼女の指先はまたも秘所を掻き混ぜ始めるのだった。
「うぅ……キャロル殿ぉ……ん、あッ」
長い耳が揺れ動き、隣の天幕の状況を確かめようとするのだが、キャロルの喘ぎ声は届かない。
代わりに入口付近から足音が聞こえて来た、そしてカーテンの向こうから顔を出したのは薄い布を一枚だけ纏っただけのキャロルである。
「ミュー、相手して……何してるの?」
「ふぇ!? ち、違います、これは、その……」
「……一人で慰めてたの? それなら混ざればよかったのに」
「い、いえ、そんな訳には……いかないかと」
「……まぁ良いや、それより……しよ?」
「わ、若様はどうしたんでしょうか?」
「ん……隣で寝てる」
人間ほど性欲が強くないエルフの男性ではキャロルの相手を続けるのは難しいのだ、いや、人間であっても一晩中の間を楽しむことは難しいのだが、房中術を取得して冬の間にさんざん楽しんだミューならば付き合える筈だ。
「ん……嫌かな?」
「そんなことはありません!! えぇ、お相手します!! 何度でも!!」
「ふふ……そう? なら楽しもう」
天幕の中に入って来て薄い布を落として裸体を晒すと、彼女の体は少し前の交わりの跡が幾つも残っている、複数の鬱血痕や太ももを流れる白濁などだ。
その状態を見せつけられてミューは興奮と嫉妬を覚えたのか、強引にキャロルの華奢な体を引き寄せて押し倒す。
「はぁ、はぁ、キャロル殿!!」
「ん、んや……あんッ……んんんんッ」
不思議なことにミューはかつてないほどに昂っていた、キャロルの体に残された様々な痕跡を消し去ろうとするかのように何度も何度も幼い体を犯すのだ。
それから先、二人は数え切れないほどに絶頂を繰り返し、互いの熱を晴らしていく。
大きな戦いが目の前に迫っていることから、いつも以上に激しいものになったのだが、それこそが二人が求めていたものだろう。
両者共に、一度や二度で満足できるような体ではないということだろう。