※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

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第二十五話 再びの挑戦へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャロルがエルフの集落に客人待遇で身を寄せて数週間ほどが過ぎた、その間にエルフたちは新天地を目指す者たちと、戦いに挑む者たちとの不平不満を上手く鎮めたようである。

 

 

 

 テイタニアの援助で武器や食料は潤沢なので心の問題が落ち着けばすぐにでも遠征を行える状態だ、妖精女王を筆頭にどこからか物資を調達してくる妖精たちの手腕には全ての者が驚いたことだろう。

 

 

 

 気になったのでこれらの物資はどこから持ってきたのかキャロルが尋ねてみると、テイタニアは特に悪びれた様子もなく淡々と「沢山ある所から持ってきた」と発言したらしい。

 

 

 

 おそらく、人間の社会に顔を出して引っ張って来たのだろうと推測される、もしかしたら世界のどこかの国では多くの物資が盗まれるという事件で騒がしくなっているのかもしれない。

 

 

 

 しかしなんであれエルフたちにはありがたい援護である、食料は自給自足が可能な量を大樹海の恵みから得られるのかもしれないが、武器に関しては揃えようと思っても楽ではないのだから。

 

 

 

 特に金属類は大樹海では得難いものだ、探せばあるのだろうが見つけるのも加工するのも簡単ではないので、鏃が鉄でできた矢など高級品と言う扱いである。

 

 

 

 それらをどこからかちょろまかして来た妖精たちへの感謝と尊敬はやはり大きい、これから戦いに赴く彼らにとってこれ以上ない援護なのだろう。

 

 

 

 そんなこんなで遠征準備は整いつつあった、新天地を目指す者たちを見送って最後の一団が旅立ったことを確認すると、いよいよ決戦へ向けて進むことになる。

 

 

 

 キャロルは慌ただしくありながら集中力を高めていくエルフたちの中で、変わらず穏やかに過ごしているようだ。

 

 

 

 特に緊張した様子もなく、娼婦として働いたりエルフたちの遠征準備を手伝ったりと、細やかな交流を繰り返しており、そのおかげもあってか今では彼らとの訓練に参加するにまでなっている。

 

 

 

 集落を歩いていると喋りかけられるようにもなったのは良い傾向なのだろう、少なくとも遠巻きに腫物のように扱われるよりはずっと良いと思っているらしい。

 

 

 

 しかし問題はある、具体的にはキャロルが娼婦として働くと決まってミューが不機嫌になることだろう。

 

 

 

 ただそういう時は寝床に誘うと普段よりもずっと激しく情熱的な交わりになるので、それに気が付いているキャロルは思いのほか楽しんでもいるようだ。

 

 

 

 ミューには悪いと考えているようだが、それ目的で娼婦として働いている側面もあると思われる。

 

 

 

 嫉妬して、けれど興奮しているミューを可愛いと感じているのだろう、なかなかに楽しめていた。

 

 

 

 そんな風に暫くの間エルフの集落で過ごしたキャロルだが、彼らの遠征開始と共に気持ちを戦いへと切り替えていく。

 

 

 

 エルフの戦士たちと共に再び魔王へ挑む時が遂に来たのである、世話になった集落を離れて世界樹へと歩を進めていた。

 

 

 

 どう転ぶにせよ、大きな戦いになることが確定している旅路であった。

 

 

 

「キャロル、そちらは何か問題はありそうかい?」

 

 

 

 世界樹へ向かって進んでいる戦士たちの隊列中央を歩くキャロルに、そんなことを訪ねて来たのはカーバンクルであった。

 

 

 

 つい先日に彼女の相手をしたことで、それ以降は気さくに話しかけて来るようになった一人である。

 

 

 

 客人、という扱いよりは友人に近い距離感になったのは、身も心も深く繋がり合ったからだろう。

 

 

 

 彼はキャロルと同じく隊列の中央で俯瞰するかのように全体を観察していた、その隣には黄金の槍を握ったミューの姿も確認できる。

 

 

 

「大丈夫でしょう、彼女は見た目よりずっと強靭でありますからな」

 

 

 

「確かに、訓練でも負けなしだ」

 

 

 

「特に弓術がな、あれほど百発百中が体現されている技術はそうないかと」

 

 

 

 カーバンクルの問いに答えを返したのは同じように周囲を歩いていたエルフの戦士たちである、彼らは朗らかに笑いながらこれまでのキャロルを思い出す。

 

 

 

 特に訓練の時の技量を知れば、彼女を華奢で幼い少女とは口が裂けても言えないだろう。

 

 

 

 最初は侮りもあったのかもしれないが、弓術で上を行かれて組手でも投げられれば文句もでない、拠点で過ごしたのはそう長い時間ではなかったが交流は順調らしい。

 

 

 

 まだ距離を感じる者も多くはあるが、キャロルと色々な意味で交流を行った者に関してはそこまで遠くはないようだ、房中術を使って魂すらも重なり合った結果、それは百の言葉よりもずっと相手を理解できるものであり、数十年もの時間に匹敵する信頼になるのかもしれない。

 

 

 

 ただ、こうしてエルフの男性たちと交流していると、隣を歩くミューが不機嫌になってしまうことが、少しだけ問題と言えるだろう。

 

 

 

 可愛い人だと、そんなことを考えながらキャロルはカーバンクルへ答えを返すのだった。

 

 

 

「……大丈夫、これくらいの行軍くらい、問題ない」

 

 

 

「そうか、それは良かった……しかし無理は禁物、本番は魔王を前にしてからになるんだからな」

 

 

 

「ん……任~かせて」

 

 

 

「ふッ、そう言い切れる君は本当に強い」

 

 

 

 余裕を見せつけるかのようにぐっと親指を立てて見せるキャロルの姿に、笑みを浮かべたのはカーバンクルだけではない。

 

 

 

 敵は説明されるまでもなく巨大で強力なのに、特に気負った様子もないあり方は、味方にいれば心強くもあるのだろう。

 

 

 

「まぁ、世界樹まではまだ遠いのですから、ここから緊張していても続きませんね」

 

 

 

 ミューもまたキャロルを見習ってか少しだけ肩の力を抜いている、周囲に見方が多く隊列の中央なので問題はないようで、最前線の偵察担当の戦士以外は歩く以外にやることがない。

 

 

 

 黄金の槍を肩で支えながら歩くミューはそのまま上空へと槍と同じ色の瞳を向けると、そこには雲一つない穏やかな晴天が広がっていた。

 

 

 

 季節は完全な春である、降り注ぐ太陽の光と大樹海の中を吹き抜ける緩やかな風が肌を撫でて心地いい、これから大きな戦いが迫っているとは思えない様子である。

 

 

 

 最後の戦いになるのかもしれない、するつもりは欠片もないがそうなってもおかしくは無い相手なのだ。

 

 

 

 嵐の王に為すべもなく敗れ魔の眷属の虜囚となって、そこからキャロルに助けられて冬の間は共に過ごし、今は同胞たちと共に再びの決戦へ挑もうとしている。

 

 

 

 彼女は空から視線を下げて隣にいるキャロルへ向けた、幼い少女の姿をした黄金の戦士は、今も視線を集める存在感を放っているようだ。

 

 

 

 彼女にとってキャロルは命を賭して守らなければならない存在なのだろう、魂の上下関係を抜きにしても、そうしなければならないと彼女は考えているのかもしれない。

 

 

 

 二度の敗北を経験しているのだ、その二度とも苦渋を味わった、戦士として耐えがたい経験であり、三度目は絶対に受け入れられないものである。

 

 

 

「……必ずお守りいたします」

 

 

 

「ミュー? 何か言った?」

 

 

 

「いいえ、なんでもありません……戦いを前に決意を固めていただけです」

 

 

 

 最初は房中術による強制的な服従であったが、今現在、彼女の中にある決意は房中術で強制されたものでは無いということは断言できた。

 

 

 

 その決意が固まったのはいつ頃であったか、ハッキリとはしないがおそらく黄金の槍を下賜された時に芽生えたものかもしれない。

 

 

 

 主を守る、それは戦士に課された唯一絶対の約定であるが、ミューはまだ一度も果たせていなかった。

 

 

 

 次は無い、期待はしない、だから必ず守る。

 

 

 

 何も守れない者が、戦士を名乗ることはできないのだから。

 

 

 

 知らない内に額に皺が寄って険しい表情になっていた彼女は、それに気が付いて指先で摘まむように揉み解す。

 

 

 

 緊張すべきではないと言ったそばからこれだと、先が思いやられているのかもしれない。

 

 

 

 額の皺を解してから黄金の瞳を今度は隊列前方へと向ける、数百名に上るエルフの戦士たちが一列になって世界樹を目指しており、ミューやキャロルがいる場所は中央になる。

 

 

 

 前も後ろも確認できる司令塔の役目もあり、司令官はカーバンクルであった。

 

 

 

 隊列に問題はないかと確認していると、前方から斥候役の戦士が慌てた様子で流れに逆らってこちらに向かってきているのが確認できる。

 

 

 

「何があった?」

 

 

 

「はッ、報告いたします!! 前方に異常を発見いたしました!!」

 

 

 

「危険はありそうかな?」

 

 

 

「何とも言えません、魔王がいた訳ではないのですが……」

 

 

 

「了解した……全体停止!! 各員、休憩をとってよし!! ミューリアン、前に行くから一緒に来てくれ」

 

 

 

「はッ、お供いたしまする」

 

 

 

 カーバンクルの指示で隊列の流れが止まった、そして彼は幾人かの精鋭を連れて隊列前方へと向かう。

 

 

 

「ん……何があったのかな?」

 

 

 

「要領を得ない報告だったからね、目立った脅威は確認できなかったということだが……まぁ、見てみないことにはわかるまい」

 

 

 

 その精鋭たちにひっつくようにキャロルも同行した、求められた訳ではなく勝手に付いていっただけであるが、文句がでないのは集落で培った信頼の結果だろう。

 

 

 

 彼女たちは隊列前方へと向かって偵察隊へと合流すると、彼らに案内されて隊列先頭から一キロ先まで進んだ場所で唖然とするのだった。

 

 

 

「森が……枯れている」

 

 

 

 カーバンクルの呟きの通り、大樹海の一部が枯れ果てて瑞々しさを無くしてしまっている、春と言う緑豊かな季節だというのに、灰色が良く目立つ。

 

 

 

 少しだけ緩やかな風が吹き抜けると、パラパラと枯葉が死んだ木々の枝から離れて大地へ落ちていく、既に幾度も繰り返されたのか足元は枯葉の絨毯と化してしまっている。

 

 

 

 緑豊かな大樹海のど真ん中に境界を引いたかのように二つの世界に分かたれているのだ、片方は自然の営みが強く残る青々しい大樹海、もう片方は寿命を終えた死んだ森であった。

 

 

 

 これは異常事態である、木々が枯れることなど何も珍しくはないのだが、季節や時間の移ろいで緩やかにそうなるものであり、除草剤や枯れ木剤でも使ったかのようなこの有様は自然の流れとは考えづらいだろう。

 

 

 

「これは、どういうことでしょうか? 世界樹の方向へ続いているようですが」

 

 

 

「いや、続いているというよりは、そちらが中心でこっちに向かって広がっているようだ」

 

 

 

 カーバンクルは皮の手袋を外して両手を大地へ触れさせた、彼が握るのは土ではなくその遥か先にある大地の流れ、つまりは地脈であった。

 

 

 

「地脈が急速に世界樹の方角へ流れている……凄まじい速度だ。しかし足りていないのだろう」

 

 

 

「……足りてない?」

 

 

 

 キャロルの質問に、カーバンクルは神妙な表情でこう答える。

 

 

 

「おそらくだが世界樹は……深く傷ついているのだと思う、その修復に必要な力を地脈から急速に吸い上げている、だがその力の流れが極めて不自然な為に異常が出てしまっているんだ」

 

 

 

 傷を治す為に体中から過剰な栄養を引っ張ってきているのだろうか、そのせいで本来必要な栄養が枯渇してしまっている、カーバンクルの説明にキャロルはそんな風に認識するのだった。

 

 

 

「通常なら地脈はこの大地に満遍なく広がって流れるものだ、この大樹海も当然ながら山や海にもね……だが今は均等には程遠い」

 

 

 

 地脈の流れが偏っているということだ、その影響が彼らの前に広がっている枯れた森である。

 

 

 

 本来、この森が享受する筈であった大地の深くを流れるエネルギーが、世界樹に奪われてしまっているのだろう。

 

 

 

 つまり、それだけ大量のエネルギーを奪って吸い上げなければならないほどに、世界樹が傷ついていることの証明ともいえるだろう。

 

 

 

「……拙いな、これは拙いぞ、放置すれば大樹海そのものが死んでしまう」

 

 

 

「ん……魔王が原因?」

 

 

 

「それ以外の原因があれば教えて欲しいくらいだ……そもそも、我々は魔王の目的すらハッキリと理解できていない、故郷を占拠した理由すらもね」

 

 

 

「なんであろうと我々のやるべきことは変わらないかと、魔王の目的も考えも知る術はありません……打ち払う脅威であると認識できればそれで十分だと思いますが」

 

 

 

「あぁ、ミューの言う通り、それで良いのだと思うが……ふむ、少し考える必要があるかもしれないな、現場の状況と相手の出方次第では少し作戦の変更もあるかもしれない」

 

 

 

 地脈の流れを感じ取っていた両手を大地から話して、カーバンクルは死んだ森を見渡した。

 

 

 

「これだけ大量の力を世界樹が欲しているのならば、その原因と推測される魔王には更に巨大な力を持っていかれているだろう……さて、どう転ぶかな」

 

 

 

 彼はこれから指揮官として全員の命を預かるのだ、そんな重責を背負う彼に齎された情報に頭を悩ませる。

 

 

 

 そして朧げに敵の輪郭を想像する、何が目的でどんな理由を持って、いかなる性格をしているのか、そんなことすらも知らなかったと今更気が付いたらしい。

 

 

 

 知る必要などないと言ってしまえばそれまでだが、世界樹を介して地脈に何らかの干渉を行っているという情報を柱に相手の、ひいては現場の状況を思い浮かべていく。

 

 

 

 すると雲に隠れた月のように明確ではなかった敵の存在を、少しだけ想像することができた。

 

 

 

 どんな戦いになるのだろうか、そんなことを考えながらカーバンクルは隊列へと引き返していく。

 

 

 

 彼らの肌を撫でる嫌な風は、世界樹へ近づく度に強まっていくのだろう。

 

 

 

 魔王との戦いは、もう目の前である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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