商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
意識が微睡む、力を抜いて海の流れに漂うかのように力が抜けていた。
或いは無重力空間を漂うような感覚だろうか、頭から指の先まで何かに覆われており身動きが取れないでいた。
まるで金縛りにあったかのようである、意識はどこかしっかりとしているのに四肢はピクリともしない。
右も左もなく、前後や上下すらも曖昧な空間の中で漂うキャロルは五感を研ぎ澄ましていた。
空を、仮に彼女が見ている方向が上であるとして、そこには無限とも言える星々が広がり、下を見れば煮えたぎるマグマが伺える。
左右へ視線をやればどこまでも認識範囲が広がっていき、山を越えて海を見てその先にある大陸すらも発見することができた。
これが大地、これが海、これが星、これが世界。
あまりにも広大で、とてつもない情報量に満たされた空間と言えるだろう、何億もの人々の営みも、降り注ぐ雨粒の数でさえも、今の彼女ならば認識することができる。
それはきっと、地脈の流れの中に落ちてしまったが故なのだろう。
今のキャロルは地下深くを流れる巨大なエネルギーの流れの中にある、世界中に血管のように張り巡らせた力の一部となっているのだ。
だからこそ世界にある全てがわかる、理解できる、だからこそ何もできない。
生身のまま地脈に取り込まれて一部と化したことで、触れることができる情報量は世界そのもの、脳が焼き切れるような負荷がかかりそれがいつまで経っても終わりことがないのだ。
地上に広がるありとあらゆる営みを感じ取ることができるのだ、それは終わることのない情報の濁流を受け入れるに等しい。
だからキャロルは、地脈の中でただ流れるがままであった。
何かをしようにも迫る情報に封じられる、体を動かそうにも脳が処理しきれない、ただただ地脈に満ちる情報に翻弄されるだけである。
それが今のキャロルであった。
もしかしたら自分は死んでしまったのかもしれない、この地脈の中に魂だけ取り込まれて大いなる流れの一部となって漂っているのかと、そんなことを思ってしまう。
そんな風に考え始めると、自分が体と認識していた物が指先からドロドロに溶けていくかのような感覚に陥り思考だけがそこに残される。
あぁ、きっと自分はこのまま大いなる流れの一部になってしまうのだ、そしてその果てに新しい命となって輪廻することになるのだろう、そんなことを考えながら彼女は最後に残された思考すらも情報の海に解き放とうとして、脳裏に残された仲間たちの姿を思い浮かべた。
地脈と一体と化しているからなのか仲間たちの様子も手に取るようにわかる、姉であるシャルルは地平を覆い尽くすほどのアンデットとそれらを率いる首なし騎士と戦っており、エミリーは何やら奇妙な儀式をとりおこなっている。
キャラバンの仲間たちはそれぞれが避けることのできない脅威を前にして奮闘しているのだ、地脈の中にいればそれがよくわかった。
だというのに自分だけがどうすることもできないまま敗北してしまった、彼女の中にも悲しさや悔しさもあるが既に体は大いなる流れに溶けてしまっているのだ、今更どうしようもないだろう。
いつかどこか輪廻の先で、また再会できたのならば彼女としてもせめてもの希望になる。
心の中で先立つことを謝罪しながら、彼女は最後に残された思考すらも大いなる流れの中に溶かしていく。
せめて世界の一部になって仲間の戦いを見守る、それが彼女に残された最後の慰めなのだろう。
「なぁ~に諦めてんのよ!! まだ何も終わっちゃいないわよ!!」
だがしかし、魂も肉体も大いなる流れの中に投げ出そうとしていたキャロルを引き留める声は、こんな辺鄙な場所にもあった。
小さな体に、小さな半透明の羽、一見するととても弱そうなでありながら、しかし内包された力はただただ巨大な存在、妖精女王のテイタニアがそこにいる。
地脈という大いなる流れの中にあっても彼女の存在感は欠片も揺らいでいない、キャロルのように体も魂も溶けておらずそのままの姿を維持しているのだ。
何故ここに? 体が溶けてしまっているので言葉を発することができないので、そんな意思だけを伝えると、テイタニアはふんッと鼻を鳴らして胸を張って見せる。
「まだ戦えるでしょ? アンタを迎えに来たのよ。まさか地脈を泳ぐことになるなんて思わなかったけどねぇ……でもまぁ、これも定められた運命ってやつかな」
妖精の小さな手がキャロルへと伸ばされると、地脈に溶けていた彼女の存在そのものへと触れることになった、そして手繰り寄せて集めるように一つ一つを束ねていく。
小さな魂の欠片を、地脈に溶けていた肉体だった情報の塊を、キャロルと言う存在を証明する様々なものを引き寄せて、それを形と成す。
きっとそれは、母親の腹の中で命が作られることと同じなのだろう。
「私がここにいる、そしてアンタもここにいる、そしてまだ魔王は残ってる……ならやるべきことは一つしかないわよね」
まだ戦えるの?
「勿論よ、アンタならやれるわ、寧ろアンタ以外の誰がアレを倒すっていうのよ」
テイタニアの小さな体と、小さな額が、キャロルだった情報の塊にぴたりと押し付けられた、二人は額を合わせた状態で繋がり合う。
「まだ諦めちゃダメ、私がアンタを導くからさ……後はわかるでしょ?」
どうやって?
「大丈夫よ、これだけ力に満ちた場所なんだから私ならどうにでもできる。もう一度、キャロルを生み出してみせる」
生み出す?
「そう、生み出すの……いや、生まれ変わる、かな?」
テイタニアの言葉を上手く飲み込めなかったのか、キャロルであった情報の塊は首を傾げる。
「地脈に落ちたアンタは分解されちゃったのよ、この熱と情報の海にね」
つまりは死んでしまったということだろう、それ自体は察していたので驚きはない。
「だからもう一度作り直す、きっと私がここにいるのはその為かな……まッ、これも宿命ってやつよ」
そう言ったテイタニアは少しだけ疲れたような憂いのある表情を浮かべる。
何か問題があるの?
「そりゃあるわよ、大ありよ!! あのね、人間一人を生き返らせるっていうのはとんでもない奇跡が必要になるの、魔力はここに幾らでもあるけどそれだけじゃ意味がないっての、私がいくら可憐で美しくて天才でも楽なもんじゃないわね」
尊ぶ奇跡は安くはない、それを叶えようと思えば代償はとてつもないものになるだろう。
金銀の山を作り上げて死山血河の生贄を捧げようともまだ足りない、死んだ者を生き返らせるのはそんな安くはないのだ。
もっと重要で、世界にとって替えのきかない何かを消費する必要があり、或いは世界をひっくり返すほどの儀式でも行う必要がある。
テイタニアはその巨大な何かを、己で清算するつもりなのだ。
「だから、私の全てをアンタにあげる、この妖精女王の全てを使って奇跡をおこしてやるわ」
奇跡を叶える対価としては、きっとこれ以上ないほどのものなのだろう、妖精女王という奇跡をそのままキャロルに押し付けるのだから、同価値のやり取りでしかない。
ん……それは。
「気にしないで良いわよ、私は死ぬわけじゃないんだから、キャロルの中で私と言う存在は生きていく、新しく作られた器の中でね」
重ね合った額から、テイタニアの体とキャロルの情報体が溶け合うように重なり合っていく、房中術よりもなお深く、それを魂の干渉ではなく融合とも呼ぶべきものであった。
「いつかアンタの命が終わった時、魂はこの地脈に帰って来て循環と輪廻の果てに私はまた生まれ落ちる、まぁそれまではアンタの中でぐーたらしてるわ……だから気にしないで」
新しい器を作るのに足りない力は地脈から補う、この空間には無限とも言うべきエネルギーに満たされているのだ、足りないということはないだろう。
「もし負い目を感じるのなら、私の可愛い仲間たちを守ってあげて、私と融合したキャロルにならその資格がある」
やがて二人の魂が混ざり合い同化する、するとその魂に相応しい器が無限のエネルギーをかき集めて形作られていく。
「やるべきことはわかるわね?」
うん、任せて。
「これはアンタにしかできないことよ?」
大丈夫、外さない。
「よろしい、もう大丈夫ね」
ごめんなさい。
「謝らないの、これは宿命……こうなるべきだったの」
やがて意識が溶けていく、魂も肉体も重なり合って混ざり合い、最後にはテイタニアとキャロルの境界は完全に存在しなくなる。
テイタニアの体もまた地脈の中で分解されて情報だけの存在となり、同じように情報だけになっていたキャロルと重なり合った。
両者の魂はドロドロに混ざり合い、二つの魂は一つの形へ再編されていく。
それは母親の腹の中で新しい生命が生まれることに等しい、もしくは幼虫が蛹となり蝶へと変化することにも近いのかもしれない。
芋虫は蛹の中で肉も骨もなく蕩けたゼリーのように不確定な姿になるという、新たな器が完成されるその時まで蛹の中で眠るのだ、きっと今のキャロルはそれに近いのだろう。
「忘れないでキャロル……奇跡は一度だけ、決して安くない」
「ん……もう負けない」
彼女たちの、いや既に一人の個と化した彼女は、心の内で己との対話を終える。
「「これは、私たちの宿命だ」」
決意を一つ、今はそれだけでいい。
頭上に広がる束ねられた嵐の勢いは留まる所を知らず、圧倒的な破壊と暴力を凝縮した嵐の砲弾がゆっくりと倒れ伏すミューリアンへ落ちていく、両手を使い潰した彼女にそれを凌げる術はなく、ただ齎される破壊を受け入れるしかなかった。
戦士の結末としては、満足できるものだと彼女は思っているのかもしれない、その顔はやりきったかのように後悔が無く、空を支配する暴風には少しの興味も向けてはいない。
ただ受け入れるだけである、そこには達成感と諦めがあるのだろう。
しかし、そんな彼女の肩を揺らす存在がいた。
「ミュー、ミューリアン……ぐッ、まだ、動けるか?」
「……わ、若、様?」
声の主は嵐の王の力で吹き飛ばされていたカーバンクルであった、それと同じく幾人かの同胞が満身創痍の状態だがその場にいる。
「はぁ、はぁ……まだ、動けるというのなら、行くんだ……少しくらいの、時間は稼ぐ」
そう言ったカーバンクルは全身が傷だらけであり、左腕に至ってはあらぬ方向へ歪んでおり正常とは言い難い様子であった、負傷の大きさならばミューも似たようなものであり、つまりどちらも重傷なのだ。
すぐに適切な治療しなければ命に関わるだろう、だが彼らはこの期に及んでそんなことは望んでいないらしい。
魔王の撃破が絶望的になったという現実が前にある、ならばやるべきことは一つしかない。
「ミューリアン……世界樹の実を回収する班と合流せよ。そして首領として最後の使命を下す、ダージュとキューリアンの娘ミューリアンよ、これより其方がエルフの長だ」
周囲にいた満身創痍のエルフたちがミューリアンを取り囲み、己の命すらも削り取って最後の魔術を行使しようとしていた。
「其方は才気に溢れ、強く若い……きっと、私よりも多くの同胞を導ける、だから死ぬな」
「……若様」
緩やかに、健在であったカーバンクルの右手が伸ばされて、ミューの頬を指先で撫でる。
「ミュー、後は任せたよ」
彼は既に次を、そして先を見据えているのだろう、そこに自分の姿はなく黄金の槍を持ったミューの姿だけがある。
神器を持った戦士が同胞を率いるのならば一切の憂いがない、だからこそ彼からしてみればここでミューを死なせる訳にはいかないのだ。
彼の思い描く未来に、この神秘を宿した黄金の輝きは必ず必要であった。
そして彼は周囲にいる満身創痍の同胞たちへ頷きを贈る、彼らの忠誠と働きに報いるように。
誰もが皆深く傷つき多くの血を流しておりそれは今も続いている、だがそんな彼らが行うのは自らの生命力を削って行うミューへの治療だ。
既に魔力は尽きている、だから先の短い命をここで削り取りミューへの活力へと変えようとしているのだろう、それに加えて空から落ちて来る束ねた嵐を凌がねばならない。
できるできないではない、やらねばならぬのだ。
ミューへ治療の魔術を行使して何とか命を繋ぎ、エルフの戦士たちはすぐに空を睨みつける。
「何としても防ぐぞ!! 絶対にミューを死なせるな!!」
束ねられた嵐はすぐそこまで迫っている、その圧倒的な破壊の塊に臆することもなく、カーバンクルたちは最後の力を絞り出して魔術の壁を作ろうとした。
しかしそれは不発に終わる、発動しなかったのではなく、その必要がなくなったからだ。
「……なんだ?」
頭上に広がる巨大な暴風の塊が突如として解けるように消え去ってしまう、それはカーバンクルたちの抵抗によって起こったことではなく、完全に別方向からの干渉によるものである。
空が晴れ、渦巻く暴風の向こうにいる嵐の王の姿をカーバンクルの瞳が捉えた、しかし視線が混じり合うことはなく、彼の魔王は彼らではなく別の場所へと注意を向けているようだ。
「▇▇お▇▇▇▇あ▇▇▇▇ッ!!」
そして鼓膜をやぶらんばかりの声量で悲鳴をあげた、咆哮ではなく何かに怯えるような悲鳴である、そこに魔王としての威厳も迫力もなく、ただただ恐ろしい何かを否定したいかのように声を上げるだけであった。
一体何があったのかと、混乱するカーバンクルたちもまた、次の瞬間には答えを知ることができた。
感じ取ったのは脈動、力強い大地のうねり。
認識したのは黄金の輝き、その塊。
その日、世界中の生命がほんの僅かな違和感を覚えたとされる、明確な答えのない違和感を。
ある者は少し大地が揺れたかと首を傾け、またある者は不意に遠くを眺めて、またある者は夜中に何故か目覚めたらしい。
鳥の群れは慌てて飛び立ち、馬は落ち着きなく歩いた、反応は実に様々だ。
彼らにとってそれは些細で、やがて気にすることなく日常が流れていくほどに遠くの出来事なのかもしれない、しかし確かに感じ取ったのだ、世界中にその気配が伝播するほどの存在感を。
かつて、妖精女王が生まれた時も同じ現象が起こった、遠い昔の話ではあるが。
多くの者には些細であっても、その存在感の中心を目の前にした嵐の王にとっては、天地がひっくり返ったかのような驚きと恐怖だったのかもしれない。
だから彼は喉が張り裂けんばかりに叫ぶ、その先にある輝きに向けて。
「▇▇▇▇▇▇あ▇▇▇▇▇▇▇あ▇▇ッ!!」
大地が波打ち脈動していた、やがて抑えきれないとばかりにひび割れて奥底から膨大なエネルギーが噴出した。
その中心にあるのはキャロルとテイタニアが落ちた大穴だ、既にその穴は繰り返される大地の脈動で崩壊しており僅かな窪みしか残っていないのだが、そこが再び隆起したのだ。
「あ。あれは……」
山の噴火のように光が迸り、その中心にある黄金の輝きをミューが見つける。
そこにあるのは巨大な結晶であった、膨大な途方もないエネルギーを一点に集めて凝固したかのように、人がすっぽりと収まるほどの結晶塊が鎮座しているのだ。
丸みをおびており、まるで輝く卵のようにもみえる。
いや、その認識は間違いではないのだろう、それはまさしく卵なのだから。
嵐の王が恐怖と焦りによって自らを昇華させて次のステージに生まれ変わったように、その結晶の卵もまた新しい何かを生み出そうとしているのだろう。
「……あ、あぁ、良かった、これで……もう」
パキッという音が周囲に広がると結晶の卵に亀裂が入る、それはミューの耳に届き、上空にいる嵐の王に届いた。
やがて亀裂は広がっていき、その隙間から小さな手が伸ばされる、華奢で細くそして白い腕である。
大人と言うには少し頼りなく、子供と言うのも似合わない、少女のような手であった。
卵に入った亀裂はそのまま大きくなっていき、最後には扉を開くかのように二本の腕が割り砕く。
漏れ出るのは黄金の輝き、姿を現すのは光り輝く粒子を周囲に漂わせた新しい奇跡の体現者。
エルフの特殊な瞳が認識するのは神秘をこれでもかと宿した英雄の姿であり、煌く黄金の髪と瞳はより鮮やかに、内に秘めた存在感はかつての比ではない。
そこに立つのは新たな半神、神秘宿す戦士の姿であった。
キャロルはたった今目覚めたかのように瞬きを繰り返し、そして緩やかな足取りでミューたちへと近づいていく。
その様子は、上空で悲鳴をあげる嵐の王を気にかけてすらいなかった。
「……キャロル殿」
ミューが近づいてくるキャロルへ手を伸ばす、仲間たちの治療でなんとか動かせるようになった手を黄金の輝きへと向ける。
「ん……後は任せて」
その手をキャロルは両手で包み込む、そしていつものように声をかけるのだった。
どれだけ神秘を高めても変わることのないキャロルの姿に、ミューは安堵と共に全ての不安を消し去った、もう何も心配はいらないと確信があるのだろう。
「はい、お任せいたします……どうぞ、こちらを」
そして彼女は側にあった黄金の槍を差し出した、それを受け取ったキャロルは小さな頷きを返すと、煌く黄金の瞳を空へと向ける。
もう恐れるものは何もない、ただ魔王を討つだけであった。
「……来て」
キャロルが左手を虚空に伸ばすと、どこからか吸い寄せられるように彼女の神器である黄金の弓が現れた。
ここまで来れば小細工は不要、ただ一点を、全力で穿つだけで良いだろう。
かつて百発百中を体現した狩猟王のように、嵐すらも貫くだけだ。
そしてキャロルは、語り継がれる彼の歌を知っている。
「彼の矢は流星の如く、無限の空を駆けていく」
あらゆる魔獣を討ち取り、嘘か誠かその生涯でただの一度も外したこともなく。
彼が放った鏃は嵐を穿ち、最後には魔王すらも撃ち落としたと歌われる。
遥か彼方、誰を手が届かない場所にまで矢を届かせたのだ。
彼にそれができるのならば、今のキャロルにそれができないはずがない。
「その鏃は、遥か彼方まで届くのだ」
黄金の弓に重ねるのは、黄金の槍。
矢として扱うには長く分厚く本来ならばそれで放つのは難しいだろう、だがキャロルの意思に答えるかのように弓も槍も乱れることなくそこにある。
だからきっと、その一撃は天上へと至るのだろう。
「▇▇▇▇▇▇お▇▇▇▇▇▇お▇▇ッ!!」
魔王は暴風を束ねていた、空を濁らせる曇天をうねらせて一点へと凝縮しているのだ、その姿はまさに空の王、まさしく嵐の王。
都市程度ならばそれが齎されるだけで崩壊することは間違いなく、とてつもない破壊の塊であることは疑いようがない。
だが、地上に溢れる黄金の輝きを前にすれば、どこか頼りない力のうねりであった。
「黄金よ、空を穿て」
天と地に分かれて睨み合う両者は、やがて合図もなく全く同時に己の力を解き放つ。
空からは嵐の束が落ち、地上からは輝く流星が放たれ、中間地点でぶつかり合う。
拮抗はほんの一瞬、あざ笑うかのように、ただそれだけ。
キャロルが矢の代わりに放った黄金の槍は、落ちて来る嵐を穿ち、その先にいた嵐の王すらも貫通すると、そのまま曇天を打ち払い青空を覗かせた。
「ん……よく晴れてる」
どちらも小細工は無い、ただ巨大な力を一点に凝縮して放つという単純な力比べの結果、最後に立っていたのはキャロルであった。
一射一殺、それを体現したかのような一撃で、嵐の王は消滅したのだ。
あっけなく、今までの戦いはなんだったのかと思う程に静かに、雲っていた空は晴れ渡る。
それが、キャロルと嵐の王の決着であった。