商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
高らかに吼えさせられた角笛が放つ大音響が周囲に広がった後、周囲には不気味なほどの静寂が広がった。
巨大な爆発も、鋭い斬撃も、凍てつく冷気も存在しない、ただの音でしかなく、アントニウスとアンジェリーナの耳朶に響く耳鳴りの音だけが、天使が与えた唯一の変化に思われた。
しかし変化はすぐに明らかとなっていく、朝日が夜を駆逐するように急速にそれは訪れて、二人へと届いてしまう。
空を飛翔する天使の真下、緑豊かなその場所から波紋のように不可視の力の波動が広がったかと思えば、そこから様々な生命が呪いに犯されていく。
草木や、小さな虫や、大地すらも呪いの力が蝕んで飲み込んでいく、それは凄まじい速度で広がりながら聖剣を構える聖騎士へと届くのだった。
それは黒い風に包まれたかのような嫌悪感と、全身にミミズが這いずるかのような不快感を二人に与えて全身へと広がった、その不可視の力が及ぼす領域に存在する全ての者に呪いと病を押し付けるのだろう。
人は勿論、そこに形として存在するあらゆる物が蝕まれていくようだ。
草木は呪いと病に耐え切れずに枯れていき、小さな虫もまた受け入れきれずに灰となっていく、そして大地は汚染されて生命を育むことを止めてしまう。
これは拙いな、そんなことを思ったのはアントニウスかアンジェリーナか、どちらにせよ両者にその力の流れを防ぐことは叶わないのだろう。
今更逃げても遅い、だから二人は病と呪いの波動を受け入れるしかないのだった。
「―――と、いうことがあったんだ。いや~、まいったまいった」
ガハハと、アントニウスが笑って見せる、そんないつもと変わらない朗らかな様子とは真逆の、悍ましい状況や存在のことを聞かされてしまえば、エミリーとしてはただ驚くしかないだろう。
聖都の夜は長く、それも娼婦神の神殿は暗くなってからが職務の本番なので、ガラス窓とカーテンの隙間からは絶えず明かりが零れている。
エミリーとアントニウスがいる神殿の一室もその一つだ、大きなベッドと鮮やかな調度品と、風呂場が隣接された豪華で洗練された空間であった。
娼婦神の神殿の一室なのでここは娼婦の仕事場である、この場合の娼婦とはエミリーのことであり、客がアントニウスなのだろう。
ここ最近は聖都の工房で魔術の研究に明け暮れる彼女だが、仙人でも植物でもないので生きるために稼ぐ必要がある、神殿の仕事で外に出向くときに小遣い稼ぎとばかりに行商人の真似事をしたり、或いはこうして娼婦神の神殿で稼ぐことも多いのだ。
後は魔術の知識を生かして生命神の神殿で癒し手として働くことだろうか、マリーのように本職の医療魔術を柱としている訳ではないので、助手程度の働きしかできないが、それでも結構な給金を貰える。
ただやはり手っ取り早く稼ぐには、娼婦神の娘として働くことが一番であった、その場でチップを貰える上に神殿から給金もある程度は支給される、安定的な生活するだけならばここの働きだけで十分であった。
ただ彼女の場合は研究費用も必要なので様々な所に手を伸ばしている、娼婦の仕事もその一部と言えるだろう。
いつもの清潔感のある法衣ではなく、薄い絹糸に包まれた艶やかな下着姿で、今日は娼婦としてアントニウスの接待をしているようだ。
「あの、アントニウス様……大丈夫なのですか? そのような状況に巻き込まれてしまったのならば、生命神の神殿で診察して貰った方が」
「ガハハ、問題ないとも、マリー君に診てもらったがすこぶる健康らしい、そこは聖アンジェリーナも同様でね。まぁ、我々は聖騎士だ、よっぽど強力な呪いでさえなければそう大きな脅威にならないさ」
アントニウスはエミリーにお酌されながらベッドの上でワインを飲んでいる、健在なその様子を見れば特に問題ないように思えるが、相手が異質異常な存在であるとするのならば万に一つということもありえるとエミリーは考えているらしい。
ただ、心配はいらないのかもしれない、このアントニウスは神性を秘めた戦士だ、半神と呼ばれる領域にまで足を踏み入れた聖騎士である、確かに唯一絶対の呪いでもなければ害となることはないのかもしれない。
半神ではないアンジェリーナも聖騎士が宿す祝福の力で呪いに抵抗できたのならば、半神であり聖騎士でもあるアントニウスに防げない筈もない。
こうして聖都に帰って来て、診察を終えたらその足で娼館にやって来てたまたま予約が空いていたエミリーを指名するくらいには、活力に満ちているようだ。
「大丈夫ならば良いのですが、尊い身分なのですから健康には十分にお気を付けください」
「わかっているとも、マリー君からも聖アンジェリーナからも同じことを言われたからね」
グイッとグラスを傾けて、中に入っていたワインを飲みほした彼は、そのままほろ酔い気分でベッドに体を沈めていく。
健康に問題はないらしいが、精神的な疲れは溜まっているのかもしれない、いつもの彼はもっと女性をリードするような行為を好むのだから。
「お疲れのようですね」
「かもしれん、まぁ精神的な疲れだから問題はないとも、こうして美しいお嬢さんと戯れていれば元気にもなるさ」
「まぁ、ではしっかりと奉仕しなければなりませんね」
エミリーとアントニウスの情事はこれが初めてのことではない、二年前にも経験がありエミリーが聖都に辿り着いて働き始めてからはそれなりの回数を娼婦として出迎えた。
彼はあちこちの娼婦に声をかけるので娼婦神の神殿で働くエミリーとも仲が深いのだろう、何よりチップをはずんでくれるのでとても良い客でもある。
エミリーはクスクスと笑いながら、ベッドに横たわるアントニウスの大きな体にしだれかかるように触れていき、慣れた手つきで奉仕を行っていく。
心臓の音を聞くかのように右耳を胸に当てたかと思えば、左手は腹へと置かれて指先が肌を滑りながら徐々に下腹部へと下がっていき、片手でありながら器用にベルトの金具を外していった。
とても慣れた手つきである、熟練という言葉がよく似合う。
「ふふ、まだ触っていないのにこんなに大きくなっていますよ」
「ガハハ、エミリー君の予約が空いているとわかった時からこんな感じだ」
金具を外して拘束から解き放つと、既に固く大きくそそり立つ肉棒が露わとなった、相変わらず長さも太さも大きく、彼との行為に慣れたエミリーからしてみても、受け入れるにはそれなりの覚悟と用意が必要な男性器である。
彼女の手首程の太さはありそうだ、娼婦としてそれなりの経験を積んでも楽に相手できる存在感ではなかった。
ただそれを見た瞬間にエミリーの体に興奮が宿る、以前のセックスを思い出して反応したらしい。
「んッ……ふッ……はぁ」
自然と舌はアントニウスの熱い胸板へと伸びていた、左手で肉棒をしごきながら、唇と舌は胸へのキスを繰り返す。
普段はアントニウスがリードする形になるのだが、やはり精神的な疲れがあるのかエミリー優位の愛撫を受け入れているようだ。
だらしない笑顔を見れば、エミリーに奉仕されることを楽しんでいるのがよくわかる。
「……わぁ」
エミリーが小さな歓声を上げたのは、アントニウスの持つ巨大な生命力に房中術で触れたからだろう、マグマのように煮えたぎる凄まじい活力はやはり男性らしい。
エミリーにとってもなかなか得難い活力源だ、特に彼の精子は莫大な魔力へと変換できるので、研究で消費した力を取り戻すのにとても効率がいいのだ。
そこがまた、アントニウスとの交わりを楽しめる要因の一つである。
「んんッ……ふッ」
エミリーの頭が胸板からアントニウスの股間へと移動すると、圧倒的な存在感を放つそこに唇を近づけていき、まずは挨拶とばかりに亀頭に吐息を吹きかける。
するとゾクッとアントニウスの体が震えたのがわかり、エミリーの笑顔がますます深まった。
「はぁ、ん、んッ……ちゅ、れる」
彼女の慎ましい唇に対してその亀頭はあまりにも大きい、咥えこむことが難しいので舌を伸ばすだけの奉仕となってしまうのだが、彼女の舌先は既に熟練の娼婦のそれである、何も問題は無い。
竿から亀頭へと丁寧に舌を滑らして、熱っぽい吐息と共にキスを繰り返す、幾人もの男がそんなエミリーの奉仕のファンとなったのだ。
夜の街界隈で彼女の人気は高い、普段はきっちりと法衣を身に纏ってあまり肌を晒さない彼女が、ベッドの上では淫らに揺れるギャップに加えて、行為にも積極的で巧みである、人気がでないはずがない。
また、彼女は娼婦を専業としている訳でもない、毎日会える存在ではないという希少性も人気を高める一つの要因なのかもしれない。
なんであれ、彼女と枕を共にした男は幸運と言えるだろう。
「ふふ、ビクビク震えていますね、相変わらず素直です」
「そりゃこんな美しいお嬢さんに奉仕して貰っているんだ、男なら誰だってこうなるとも」
手で扱き、唇と舌で奉仕を繰り返せば、男の体はすぐに快楽に満たされていくのだ。
房中術で繋がっているので相手の状態は文字通り手に取るようにわかってしまう、相手が快楽を溜め込んで射精が近くなっていることに気が付いた彼女は、その前にアントニウスの体に跨って騎乗の形となった。
「あん、もう、すぐに手が伸びるんですから」
「いやぁ、こうして見上げているとどうしてもねぇ」
ベッドに寝転がって自分の上に跨ったエミリーを見上げる彼の手は、豊かに成長した彼女の胸へと伸びる、柔らかな二つの膨らみの感触を掌全体で楽しみ始める。
よく鍛えられたが故のゴツゴツした指を、エミリーはそれほど嫌いではないのか、艶やかに微笑んで受け入れているようだ。
娼婦と遊ぶことが多いからなのか、アントニウスは身だしなみや体臭にはとても気を使っている、爪も綺麗に揃えられて磨かれており、巌のような大きくて頑丈そうな印象とは裏腹に女性の扱いはとても丁寧である。
だからエミリーの胸を弄ぶ愛撫もまた、とても柔らかなものであった。
太く固い指先が彼女の乳首をこねるように触れると、エミリーの細い体がゾクゾクと震えていた。
「んッ、んぁ……はぁ、もう、入れちゃいますね」
そんな状態でエミリーは僅かに腰を上げて、固くそそり立つ肉棒を掴んで自らの秘所へと押し当てる。
「ふぅ~……はぁ~」
そして彼女は深い深呼吸を繰り返す、アントニウスの肉棒は受け入れるにはそれなりの覚悟がいるのだろう。
「うッ、くッ、うぁ……んッんんんんッ!!」
大きな亀頭がエミリーの秘所を押し開いて沈んでいった、既に奉仕による興奮で濡れていたとはいえ、一気に最奥までは迎え入れられないようだ。
「んや、おっきい……ふぅ、くッ……はぁ、はぁ……おッ!?」
そして彼女はねじりこむようにアントニウスの男性器を受け入れた、何度も味わっている感触ではあるが、一向に慣れることのない圧倒的な存在感をへその下に感じることができる。
「んひッ!? あぁ、待ってください……動かないで、んんッ……もう、少し、馴染ませてから動きますので、うぁ……」
そんなエミリーの時間稼ぎのような言い訳に、アントニウスはいやらしい笑みを浮かべている、自分に跨って頑張っている相手の姿を見るのが好きなようだ。
エミリーはまず上下運動ではなく、跨った状態で縁を描くかのようにユラユラと腰を揺り動かしていく、決して激しくはない緩やかな快楽がじんわりと二人の体に広がっていく。
とても心地いい、この腰使いを続けていくだけで絶頂へと至ってしまいそうだ、二人はそんなことを思っているのかもしれない。
ただエミリーは娼婦として神殿の一室を借りている、中途半端な奉仕はできなかった。
「ふぅ~……はぁ~……ここから、んぁッ!!」
円運動から上下の運動へと移行する、深呼吸と共に深く収まった肉棒を引き抜いて、亀頭だけが埋まった状態まで体を持ち上げ。
「んんんんンンッ!?」
そのまま勢いよく体を下ろして大きな肉棒を受け入れた。
それだけで軽く達してしまったのか、エミリーは大きく瞼を開いて快楽に仰け反るのだった。
「あッ、あツ、あぁ!?」
それでも娼婦としての使命感から腰使いは止まらない、子宮の最奥で感じる存在感に翻弄されながらも、上手くリードしようと必死なのだろう。
彼女の体が上下に跳ねる度に、秘所からは粘度の高い液体を掻き混ぜたかのような音が室内に響き、形の良い乳房が揺れ動く。
「あぁ~、あぁ~……あッ、おッ……んんんんッ」
苦しさはあるが、それが堪らなく心地いい。
一突きごとに浅い絶頂を繰り返し、それでもなお腰を振り続けるエミリーの股間の周辺は、掻き混ぜられた愛液でドロドロに汚れており、大量の糸を引きながら白く濁っていた。
グチャグチャと下品な音が立つほどである、だからこそ滑りが良くなって行為も激しくなっていく。
「んぉ!?」
チカチカと、エミリーの視界で白い火花が跳ねた、既に浅い絶頂を何度も迎えているが、姿勢を維持できないほどに大きな波が来ていることがわかった。
エミリーはそのままアントニウスの胸元へと倒れこみ、過呼吸気味になりながらその衝撃に備えるのだった。
ぐりゅっと、子宮を押し上げる感触を最後に、彼女はその時を迎える。
「―――~~~~ッッ!!?」
子宮から爆発するように快楽が弾けて、彼女は声にならない悲鳴を上げて耐え忍ぶ。
そして彼女の絶頂に合わせるかのように、アントニウスも最奥へと大量の興奮を解き放つ。
「―――んッ――――――んんんんッ!?」
激しく巨大な甘い衝撃に体を何度も震わせて、そんな状態を数分に渡って繰り返した後、エミリーの体はようやく余韻が引いたのか糸が切れたかのようにアントニウスの胸元で脱力するのだった。
二人とも汗だくであり、そのままの状態で余韻を味わっているようだ。
穏やかな甘い痺れを引きずる体はあまり力が入らない、このまま瞼を閉じればそのまま簡単に眠りに落ちてしまうだろう、だがエミリーにはその前に言わなければならないことがある。
「はぁ、明日からまた仕事だな、天使の捜索をしなければならない……やれやれ、雲を掴むような話だよ」
どうやら彼としては、今回の情事は忙しくなる前のほんの僅かな休日になるらしい。
「はぁ、はぁ……あぁ、そのことなのですが、アントニウス様、少し思い出したことがありまして」
エミリーの体が胸元からベッドの上へと滑り落ちる、そして余韻に震える体をアントニウスの脇に置きながら、彼女はこんなことを伝える。
「昔の話なのですが、天使に関する研究を行っていた派閥があったと記憶しています」
「ほう、そのような研究がおこなわれていたとは、初耳だ」
「すぐに異端と称されて禁忌の研究になったと聞きます、ですがその魔術師の派閥は深い大樹海に逃げ込んで違法な研究を続けて……確か、優秀な神殿騎士に討たれたと……まぁ、詳しくは私も知らないのですが」
「ふむ」
「アントニウス様が発見した天使がその研究と関わりがあるのかはわかりません、しかしそのような奇跡の産物が簡単に世に生まれるとは思えないのです……もしかしたら何か通じる所があるやもと思うのですが」
「うむ、関わりがあるにせよ無いにせよ、闇雲に捜索するよりはずっとマシだろう。神殿騎士が討伐したというのならば、当時の記録が神殿に残っているやもしれん……少し調べてみるとしよう」
アントニウスとしても当ての無い捜索よりも、ずっと希望が持てるのかもしれない。
もし無関係だったとしても、振り出しに戻るだけなのでマイナスにはならないのだ、それに可能性の一つを潰せるのだから悪い判断ではないだろう。
「魔術師側の記録も用意いたしましょうか?」
「可能なのかね? 君たちの世界は色々と面倒ごとも多そうだが」
「それぞれの領分を弁えればそこまで大きな問題にもなりません、それにこれでも正式な身分と証明を持つ魔術師の一人ですから、過去の記録を回覧する権利はしっかりと持っています」
「そうか……ふ~む、ならばそちら側の情報は期待させてもらおうかな、神殿側は私が調査しよう」
「はい、お任せください」
こうして二人の間で協力関係が構築されたのだった、天使を捜索するという共通の目的を共有することになる。
お互いに忙しいが、情報交換はベッドの上で頻繁に行えるので大きな問題はないだろう。
少し甘い考えなのかもしれないが、エミリーはそんなことを思い、甘い余韻を楽しんでいる。