商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
大神殿から脱出する上で重要なのは身を隠すことである、しかしローブで顔を隠してこそこそと出ていくようなあからさまなことはしない、そこはエミリーの魔術によって外見をごまかして堂々と出ていくことが重要だ。
専門分野ではないものの、ある程度の幻術を扱えるエミリーがミューの姿を一時的にごまかす、やはり本職ではないので魔術師が見れば杜撰で雑なものでしかないのだが、一時的にはこれで十分である。
ミューを覆い隠すように不可視の力場が囲むと、ミューの外見はどこにでもいそうな平凡な一般人へと変化する、すれ違えば誰もが振り向くような美貌は無く耳も尖ってはいないので目立たないだろう。
ハリボテでしかなく幻術を得意とする魔術師が見れば鼻で笑う程度の児戯でしかないが、それでも堂々と大神殿を出ていけた。
そして彼女たちが向かうのは聖都の片隅にあるエミリーの工房である、それほど大きな家ではなく特別防備に優れているようには見えないのだが、そこは魔術師の工房なので見た目通り筈もない。
決して分厚くない木製の扉を開き全員が入ったことを確認すると、エミリーは人差し指で扉を真っすぐに撫でて見せる。
するとその動きに合わせて浮かび上がった魔術陣がグルグルと回りだす、無数の歯車が連なり一つの動きを作るかのようであった。
何故か工房全体にガチャガチャといった金属音が響き渡り、それが鳴りやむと外の音が一切聞こえてこなくなってしまう、シャルルが試しとばかりに窓ガラスを叩くと脆い筈のそれは城壁のように固くなり彼女の手の甲を押し返す。
「ふむ、素晴らしい魔術構築だ。エミリー殿は炎の派閥だと聞いていたが、陣地構成にも造詣が深いのだな」
ミューは魔術師としての視線で工房全体に張り巡らせた防壁を眺めてそんな評価を下す、するとエミリーははにかむように笑って見せる。
「この辺りのことは師匠からしっかりと教えられましたから」
「あぁ、これを見ればそうなのだとわかる、良き師に出会えたのだと……とても美しく無駄のない魔術だと思う。なるほど、こういう発想もあるのだと感心するな」
「わかりますか!? これは一から自分で作ってなかなかの自信作になったんですよ……はぁ~、良いですよね、小さな術式が一つ一つ連なって大きな動きになるのは」
「良く分かるとも、数字の羅列であっても無駄なく連なると芸術的にさえ見える」
二人は魔術を扱うという共通点があるからなのか、うんうんと頷いて何やら納得していた。
「……全然わからない」
「変態の考えだよな」
シャルルとキャロルにはわからない喜びなのだろう、どこか呆れたような表情をしている。
「まぁこの工房が安全ならそれでいいさ、それよりミュー歓迎会をやろう」
「ん……やる」
「そうですね、せっかく仲間となったんですから、歓迎会を開きましょう」
「私への配慮はそこまで必要ないのだが」
「……でも、せっかく仲間になったんだから」
「そうそう、こっちからしてみればやらないっていう選択肢が無いんだよな、変な遠慮なんか必要ないって」
「はい、ある種の儀式のようなものですから、これから苦楽を共にする仲間との最初の一歩となります」
そこまで言われて固辞するのも悪いと考えたのか、ミューは少しだけ頬を赤くしながら彼女たちの好意を受け入れることにした。
同じエルフの同胞と過ごすのとはまた異なり、奇妙な恥ずかしさを感じてしまうのは、まだ彼女に戸惑いや遠慮があるからだろう、距離があると言っても良い。
そんな固さや緊張を三人も、特にまだ交流の薄いシャルルやエミリーは敏感に感じ取っていることが歓迎会に繋がっているようだ。
「酒はあるだろ、材料もあるから色々作れそうだし、歓迎会なんだから豪華にいくか」
「ん……ケーキでも作る」
「果物もありますよ、盛り付けも豪華にできそうですね」
台所に立って楽し気に準備をする三人の背中を見つめて、ミューは気恥ずかしくも心地よい気分となり、何か手伝えることはないかと周囲を見渡してから何かの存在を感じ取り工房の暖炉へと視線を向ける。
燻る暖炉の中で薪を枕にして寝息を立てるのは、美しい灯の光を宿したヘステアである、そうやって自堕落な生活を続けている上にエミリーが際限なく灯を与えるので以前より少しだけ丸くなったようにも思える。
「ピ? ピィ~~」
「あ、あぁ、これは失礼しました、眠りを妨げたことを謝罪する、鳥の王よ」
「ピ、ピピピッ」
気にすんな、そんな意思がヘステアから伝わって来てようやくミューは冷や汗を拭うことができた。
例えるなら街中を歩いていたら突然にドラゴンと邂逅したような、そんな衝撃だろうか。
ドラゴンも不死鳥も彼女からしてみれば大差がない、どちらも畏怖すべき生物である、だというのに暖炉の中にそれが平然と存在しているのだから驚きも当然である。
台所で楽しそうに歓迎会の準備をする三人もエルフの瞳で注意深く観察すれば、神格や神々の強い加護を感じ取れてしまう、ある意味では不死鳥以上に驚くべき存在であった。
もしかしたら自分は、とんでもない集団の一員となってしまったのかもしれない。
今更そんなことを実感したミューは、畏怖と共に喉を鳴らす。
ただ、彼女が思い浮かべた幻想は、三人娘に酒が入った瞬間に砕けることになる、それを知るのは少しだけ後のことになった。
酒の勢いもあったのだと思う、少し開放的な気分にもなったのだろう、歓迎会という空気が気を緩めたのだ。
ただそれ以前に三人娘の爛れた関係もあり、ここ最近は寂しさを埋めるように肌を重ねていた為に境界もかなり曖昧になっていた。
ミューを迎え入れる歓迎会がお開きとなり、ほろ酔い気分でシャワーを浴びて一日の汗を流す、新しい仲間たちとも上手くやれそうだというある種の充実感のようなものを胸に宿しながら、ミューは浴槽を出る。
当然のごとく体の水分を拭き取り、髪もしっかりと乾かしていく、絹のようにしなやかで艶のある髪は日頃の手入れがしっかりしているからなのだろう。
そして寝巻に着替えていよいよ一日の終わりが近づいてきた、後は眠るだけであると考えた時点で、彼女は自分はどこで眠るべきなのかと疑問に思う。
この工房はそこまで広くはない、寝室が幾つもある訳ではないので必然的に誰かがソファーや床で寝ることになるだろう。
それはそれで構わないのだが、一応は家主であるエミリーに聞いてみるべきかと工房の奥にある寝室へと近づいた時にそれは聞こえて来た。
「うぁッ!? や、やめろって、昨日もあんなにしただろ……ぁ、激し、こらぁ!!」
「はぁ、んッ、んふ、そんなこと言いながら……シャルルここはこんなに締め付けて来てますよ、ドロドロに濡れて、期待してたんですよね? あんッ」
薄い寝室の扉の向こうから聞こえて来るのはエミリーとシャルルの激しい息遣いと艶やかな声である、ノックの姿勢で固まったミューは間違えようもない喘ぎ声に顔を赤くした。
つまり、あの二人はそういう関係であり状況なのだと理解した、これでは入るに入れない。
自分もキャロルを相手に随分と爛れた関係になっているので何も言うべきことはないのだが、羞恥の全てを無くせるほど慣れている訳ではないので、その場で硬直してしまったらしい。
そんなミューに声をかける者がいる、まだ寝室にはいなかったキャロルである。
「ん……入らないの?」
「あッ、いや、キャロル殿、あの二人は取り込み中のようだ……今は都合が合わない」
そんな言葉を返すミューに、キャロルは心底わからないといった表情をして首を傾げる。
「歓迎会の続き……しないの?」
「……はい?」
「ん……混ざる、仲良くなる」
少なくともキャロルは二人が絡み合う寝室に恥ずかしげもなく入るつもりのようだ、既にその手はドアノブに伸びている。
「お待ちを、キャロル殿……今は、その」
「ん……恥ずかしがる必要ない、ほら、いこ」
ドアノブを握る手とは反対の手で、ミューの手首を握りしめると、そのまま華奢な体に似合わない膂力で彼女の体を寝室へと引きずり込む。
寝室に入った瞬間に鼻に届くのは甘い香の匂いである、興奮と欲情を大きくする類のものだろう、そしてそんな香りの中で肌を重ねるエミリーとシャルルが同時にこちらへ視線を向けて来た。
「はぁ、はぁ、んぁ……キャロル、ミューさん、待ってたんですよぉ」
甘ったるい声でこちらを誘うのはエミリーだ、シャルルを押し倒した状態で小刻みに腰を振っている。
「よ、良かった、二人とも……んッ……あッ、手伝ってくれ……一緒にエミリーを倒そう」
「……お待たせ」
ベッドの上で絡み合う二人に混ざるようにキャロルも乗り込んでいく、そして柔らかな寝床の上で振り返りミューを招く。
「ミューも、おいで……一緒に気持ちよくなろ」
幼い容姿に似つかわしくない、妖艶で熱っぽい声と表情で誘うキャロルは、そのままミューの体を大きなベッドに沈めた。
「あ、キャロル殿……その、こんな」
まだ羞恥の全てを捨てきれていないミューは恥ずかしそうに顔を赤くしている、それでもなんとか平静であろうと心がけるのだが、彼女のすぐ隣では同じようにベッドに体を沈めたシャルルが荒い呼吸を繰り返しながら喘いでいる。
最初の印象は凛々しく美しい戦士といったものであったが、今は快楽に蕩けきった表情を見せておりあまりにも妖艶だ。
同性であるミューですら思わず喉を鳴らしてしまう程にいやらしい、高級娼婦の顔つきである。
「んッ、あは、ミューさんも興奮しているんですね」
シャルルの艶やかな顔を見て興奮を大きくしたことが見透かされたのだろう、エミリーが怪しげな笑顔を浮かべて視線を向けて来た。
「ねぇキャロル、私もミューさんと仲良くしたいです」
「ん……まぁ、良いけど」
「んふふ、それでは失礼しますね」
キャロルはエミリーの要求に不満はなかったのかミューの足の間からどいて状況を明け渡す。
「ぁんッ!?」
するとエミリーはシャルルの中を思うままに蹂躙していた房中術で作った肉棒を引き抜く、シャルルから漏れ出る甘い声が室内に響いたがそれを気にすることなく、今度はその体をミューへと押し付けて来る。
「うぁ、エ、エミリー殿?」
キャロルに代わってベッドに沈んだ体に圧し掛かって来る妖艶な魔術師は、昼に見た穏やかな表情をどこかにやって妖しく見下ろしてきた。
不思議とその瞳に見つめられると体から力が抜けていく、奇妙な魔術でも行使されているのかと思ったが、背筋を駆ける震えと痺れは己の内から生まれて来るもので間違いない。
冬の大樹海で、暇さえあればキャロルと交わっていた淫らな時間が、しっかりとミューの体に快楽を刻み込んでいたのだろう、こうして押し倒されると途端に興奮してしまうくらいには求めているらしい。
「キャロルから聞きました、ミューさんの魔力はとても美味だと……ふふふ、一度味わってみたいと思っていたんです」
まずは試しとばかりに魔術師の妖しい指先がベッドに沈むミューの肌を撫でてくる、わき腹から乳房へと引っかくような動きであった。
「んッ……ふぁッ」
決して強くはない愛撫なのだが、既に体が興奮を覚えてしまっているミューは敏感に反応をしている。
ゾクゾクと震える体は甘い痺れを求めてやまない、そして心はたったこれだけの愛撫で蕩けだしている、我ながらいやらしくなったものだと呆れるしかないだろう。
「はぁ~……確かに、独特の魔力ですね、女性とも男性とも違う味わいがあって……んふ、美味しいです」
次にエミリーの唇が肌へと吸い付いてくる、胸の谷間に顔をうずめるように吸い付き、そのまま舌を這わせていく。
チロチロと蛇のように動く舌は汗を舐めっとているかのようにも見える、そのまま唇は胸の頂へと移動してそこにある突起を甘く噛んでしまう。
「くッ……はぁ」
よく交わるキャロルとは異なる愛撫の仕方であるとミューは気が付いた、キャロルは少し強引というか幼い姿に似合わず激しく求めて来る傾向がある、ただエミリーはどこかねちっこく感じるのだ。
優しいとは異なる、相手を隅から隅まで舐めとるかのようないやらしさがあるのだろう。
よくよく考えればキャロル以外の相手と交わることなど経験がない、戸惑うのも当然であった。
「エ、エミリー殿、んッ、待ってください……そんな、舌で撫でないで、あッ」
「とても可愛らしい反応をされますね……そんな風に喘がれると、ふふ、興奮してしまいます」
胸の先端から今度は鎖骨へと撫でるように唇が移動して、そこに力強く吸い付くと鬱血痕を残す。
赤い跡が鎖骨付近に刻まれると、それを確認したエミリーは征服欲が満たされたのかゾクゾクと体を震わせた。
この瞬間がたまらなく心地いい、女性の肌に己の興奮を残す行為は彼女の最も強い性癖なのかもしれない。
そして鬱血痕を残した後は両手でミューの膝を掴んで扉でも開くかのように足を開かせる。
「さぁ、交わりましょう……今日はミューさんの歓迎会ですから、た~っぷり蕩けさせますからね、だから楽しんでください」
少しだけ酒の匂いがするが、大部分が彼女の本音であり欲望からくる発言である。
こんな状況に追い込んではいるが、彼女は本当にミューを歓迎しようとしているのだ。
「んんッ……うッ……キャロル殿」
「ん……エミリーの次は私」
助けを求めるようにミューは視線を同じベッドの上にいるキャロルへと向けるのだが、相手はそんな見当はずれの言葉を返すだけであった。
「その次はワタシもしてみるか、確かにミューって美味しそうな魔力をしてるよな」
そして最後の砦と縋ったシャルルも乗り気のようである、三人に見下ろされたミューはこれから捕食される小鹿のように震えており、三対の瞳がそれぞれ肌を撫でる度にこれから行われるであろう交わりに喉を鳴らす。
敬愛してやまないキャロル以外と交わる、そのことに僅かな罪悪感を覚えるが、それ以上に興奮しているのがよくわかってしまう。
自分の体に伸ばされる手や舌や唇に甘い痺れを与えられながら、彼女は一人愛撫に呑まれて蕩けていく。
やはり自分はとんでもない者たちの仲間となったようだ、彼女はその実感を確かなものとしているらしい。