※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

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第四話 海の戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キグナスの下での生活は順調であると言えた、彼女の商会で雑用や書類整理を行ったり、縄張りで窃盗を繰り返す連中を拘束したり、娼婦として働いたりと忙しい時間を過ごしている。

 

 

 

 契約は一カ月、すぐに生活費が必要なので支払いは日払い、それに加えて娼館で働けばチップも手に入るので一日当たりの収入は十分すぎるほどに手に入っていた。

 

 

 

 三人はともかくミカエラは読み書きや計算が覚束ないので、キグナスの秘書らしき人から色々教えて貰っているらしい。

 

 

 

 それぞれの能力に応じての仕事を割り当てられ、持ち場も違うので同じ時間を過ごすことが少なくなったのだが、娼館で顔を合わせた時に近状報告をしていた。

 

 

 

 そこでの話し合いで四人は生活費の心配はなくなったので、そろそろ真珠の購入を本格的に考えるべきではないかと結論をだしたのだが、現状がそれを許さない。

 

 

 

 海賊の横行は留まるところを知らないらしく、最近になって高騰していた値段が更に高くなってしまったらしい、姿を消したとさえ表現してもいい。

 

 

 

 彼女たちは、そしてキャラバンは身に着ける為に真珠を欲しているのではなく、儲けにする為に必要としている、値段が上がれば上がる程に旨味は大きいのだが、それにだって限度があるだろう。

 

 

 

 安く買って、高く売りたい、それが理想なのだが現実は厳しく、店先に並ぶことさえ珍しくなっているようなのだ。

 

 

 

 そう、既に真珠は金さえあれば買える物ではなく、どれだけ金貨を積み上げても手に入らない貴重品になってしまったらしい。

 

 

 

 元々、海の宝石と呼ばれるような物なのでそれなりに高かったのだが、それでもある程度の資金があれば手に入れることは容易かった、真珠とは世界に一つしかないような神具でもなければ、この世にたった一滴しか存在しない神の血でもないのだ、手に入れようと思えばそれが叶う。

 

 

 

 叶うはずだったのだが今はそれが難しい、海賊たちが商船や海の至る所にある荷物や船の中継島などを次々と襲って真珠を奪っていく、その結果が現在の高騰なのだ。

 

 

 

 しかし奇妙なのはその奪われた真珠の行方だった、海賊たちだって金目の物として奪ったのだからどこかで捌く筈なのだが、裏市場や闇取引、密輸出の現場にも姿を現さないのだ、それもまた高騰の原因になっているのだろう。

 

 

 

 どうしようかと四人で考えていると、キグナスがこんな提案をしてきた。

 

 

 

「真珠が欲しいんなら、人魚に依頼してみたらどうだい」

 

 

 

 この周辺で採れる真珠の大半がその人魚たちとの取引によって手に入る物なのだそうだ、人魚たちは月に決められた数の真珠を人間たちに渡してくれるらしく、その見返りとして様々な物を求めるらしい。

 

 

 

 しかし人魚たちとの取引はいくつかの大商会が牛耳っているらしく、新規の参入は難しいと言われていた。

 

 

 

 そんな状況で人魚たちに取引を持ち掛けるのは危険ではないだろうか? そんな疑問にキグナスはこのように答えるのだった。

 

 

 

「人魚たちと商会の間で契約書が交わされている訳じゃない、大商会と呼ばれる看板と規模で回りに脅しかけてんのさ」

 

 

 

 つまり人魚との取引は本来なら自由であり、双方が納得しての交易なら誰にも咎める権利はないのだ、大商会に睨まれて仕事がやりにくくなる覚悟さえあればの話だが。

 

 

 

 しかしそれもキグナス商会の看板が役に立つ、ここもまた大商会であり、この国でも指折りの力と影響力を持ち合わせているのだ、つまり個人的な取引に睨みを利かせる側の立場なのだ。

 

 

 

 一時的にとはいえ四人はキグナス商会の従業員であり看板の庇護下にあるので、人魚との取引も大手を振って挑むことができる。

 

 

 

 キグナスとの出会いは幸運であったと思うしかない、船に乗るという貴重な体験を得ることも出来たのだから。

 

 

 

 

 

 そう、今現在エミリーとシャルル、そしてキャロルの三人は船の上で乗組員としての仕事に精を出している。

 

 

 

 娼婦や小間使いとして働いて二週間ほど、以前より言われていた船の戦力として三人はキグナスより声をかけられたのだ、ミカエラだけは戦闘力が無いので現在は港の商会で個人的な勉強をしていた。

 

 

 

 最新の軍船に乗って向かう目標は沖合、その辺りに出没するクラーケンの盗伐が彼女たちの仕事になる。

 

 

 

「クラーケンって言うとあれだな、酒のつまみに出て来たタコの親戚みたいな奴だろ?」

 

 

 

「親戚? う~ん、確かに姿は似ていますが、あのおつまみとは全然サイズが違いますよ」

 

 

 

 エミリーは自分の知識の中にあるクラーケンの姿を思い浮かべる、あくまで資料の中の情報でしかないので彼女自身も直接見たことはなく、巨大と言われてもいまいち実感できなかった。

 

 

 

「それでええっと、確かクラーケンは個体差が大きくて、長く生きた個体程巨大になるそうです」

 

 

 

「……どれくらい?」

 

 

 

「生まれたばかりの頃は手のひらサイズで、百年単位で生きてる個体は十メートル以上になるそうですよ、中型船くらいは簡単に壊してしまうそうです」

 

 

 

「この船はでっかいし頑丈だから沈められる心配はなさそうだな」

 

 

 

「それはそうですけど油断は禁物ですよ、初めて戦う相手なのですから慎重に行動しなければなりません、なので海の神様に祈りを捧げておきましょう」

 

 

 

「また始まったよ、そんなもん船に乗る前に乗組員の人らが熱心にやってたじゃん」

 

 

 

「だからこそ私たちも真摯に祈らねばなりません、ここは海の上なのですから少しでも力を貸していただかなければ」

 

 

 

 両手を組んで祈り始めるエミリーを見習ってシャルルとキャロルも慣れない祈りを捧げる、自分たちが海の神に好かれているかどうかなんてわかるはずもないのだが、それでも気休め程度にはなるだろう。

 

 

 

 慣れない潮風が三人の髪を優しく撫でていく、少しだけ海が近く感じられたような気がした。

 

 

 

 これが海の神の寵愛を一身に受ける人魚であれば、海流を操作したりできるのだが、陸で生きる人間にはこれくらいが限界なのだろう。

 

 

 

 そして祈りの姿勢を解除した頃合いを見計らったかのように、船を操る船員たちが慌ただしく動き始めた。

 

 

 

 この軍船はマストが三つもある巨大さであり、それを操ろうと思えばそれなりの数の船員が必要になってくる、また船を動かす技術だけでなく戦士としての力量も求められるために、この船で働く海兵たちはまさに精鋭と言える動きを見せてくれる。

 

 

 

 しかし中には動きが拙く荒い者も見受けられた、そういった者たちは共通して体の線が細くてどこか頼りない、どうやら彼らはまだベテランとは言えないらしく、おそらくは経験を積ませて将来的な戦力にする為の奴隷たちなのだろう。

 

 

 

 船の操縦にかけては素人の三人はせめて邪魔にならないように、その奴隷たちと似たように隅で固まっていることしかできない、下手に手伝おうとすればかえって足を引っ張ることはわかりきっているからだ。

 

 

 

「野郎ども! そろそろ餌の準備を始めな!」

 

 

 

 操舵を握るのは海賊帽子を身に着けた女性であるキグナスだ、いかつい海兵たちに交じってもその存在感は一向に霞むことなく、少しでも作業を遅らせようものなら容赦なく蹴りを入れる姿はまさに船長と言えた。

 

 

 

 彼女の指示に従って海兵たちは先端にフックの付いた太い縄をいくつか用意して、その返しの部分に腹を裂かれた大きな魚を引っ掻ける。

 

 

 

 そしてしっかりと縄を船に固定して魚を海へと放り込む、そうやって血と臓物の匂いをまき散らしながらクラーケンを誘い出すのだろう。

 

 

 

「周囲の警戒を怠るんじゃないよ!」

 

 

 

 キグナスの経験上クラーケンは直ぐに現れる、まして今回の相手は大型の商船にも平気でへばりついて襲い掛かってくるほどの大物なのだ、例えこの軍船が頑丈であることがわかっていても油断できる相手ではないだろう。

 

 

 

 数年に一度の割合で相手にしているとはいえ、本音を言うのならキグナスだってクラーケンの相手をしたくはなかった、これが仕事であると納得しようとも奴らに食われた部下は二十人は超えるのだから嫌にもなってくる。

 

 

 

 それでも誰かが戦わなければならないのなら、やはり自分がやるしかなかった、商人会に顔を出す金稼ぎしか知らない連中にはこういった荒事は任せられない。

 

 

 

 以前、船の修理と船員の休暇や、陸での仕事が運悪く重なって手が回らなかった時に、他の商会が金でかき集めた傭兵を連れてキグナスに対抗しようと海の脅威に立ち向かったことがあるのだが、結果は最悪のものだった。

 

 

 

 海賊に敗北した挙句に大量の身代金を要求されたその商会は、その失態の影響で求心力や信頼を失って最後には海の藻屑と化してしまったのだ、それによって勢いを増した海賊はキグナスが復帰するまで随分と暴れまわってしまう。

 

 

 

 海での戦いはいつだって命懸けだ、クラーケンに部下が食われようとも、サハギンに海へ引きずり込まれようとも、彼女は決して止まることは出来ない。

 

 

 

 春風のキャラバンから独り立ちしたその瞬間に、自分の中にあった甘さや感傷を捨てるほかなかった、それが自分で生きていくということなのだろうと納得して。

 

 

 

 視界の端で周囲を警戒している三人娘を視界の端に捉えて、キグナスは昔を思い出して少しだけ微笑んだ。

 

 

 

 いつかあの三人も自分の道や生き方を見つけるのだろう、ならばせめて完璧でなくとも先輩としてカッコいい姿を見せてやりたかった。

 

 

 

 キグナスは、その感情が独り立ちした時に捨てた甘さと優しさであることに気が付いていないらしい。

 

 

 

 自覚の無い感傷に浸っていると、船にいる全員の耳に届くかのように鐘が慣らされた、マストの天辺に立って周囲の警戒をしていた観測員が鳴らしたものだ。

 

 

 

「でかい! 南から来るぞ!」

 

 

 

 その言葉に海兵たちの視線が南へと向けられる、そこには撒き餌に釣られたと思われる大きな影が海面を泳いでいた、目算でしかないがおそらく十メートルは超えるだろう影だった。

 

 

 

「報告通りのサイズだね、百年単位で生きてるクラーケンだ」

 

 

 

 つまりクラーケンとしては最大サイズ、頻繁に戦う相手だがこれほどのサイズは早々お目にかかることはできないだろう。

 

 

 

「戦闘準備を急ぎな! 今回は頼りになる魔術師がいるから手筈通りにやるんだよ!」

 

 

 

 ベテランの海兵たちは慣れたものだ各々がモリや剣を持って配置に付いていく、奴隷上がりの新兵たちは予めそう指示されていたのか船内へと避難していった。

 

 

 

 そして全員の準備が完了すると、一呼吸おいて軍船が僅かに揺れ動く。

 

 

 

「戦闘用~意!!」

 

 

 

 海兵の一人が叫んだ言葉は波打つように広がっていき呼応する、そして受けて立つと言わんばかりに海面を盛り上げて姿を現したのは巨大な触手と体を持つクラーケンだ。

 

 

 

 わかっていたことではあるが大きい、足の一本一本が船の帆柱程はあるだろう、このサイズでは一薙ぎなれただけで簡単に殺されてしまう。

 

 

 

 足に付いた吸盤も厄介だ、もし仮にそれに吸い付かれてしまえば人間の体など容赦なく潰される、シャルルが両手を広げた位の大きさなので骨も肉も無事では済まない。

 

 

 

 そして何より厄介なのはその独特の軟体だろう、骨も無く変幻自在に動き回る体は言ってしまえば全身が筋肉の塊と表現できる、或いは肉の鞭と言葉にすべきか……どちらにせよ厄介なことには変わらない。

 

 

 

 クラーケンは撒き餌用の魚を一飲みにすると、警戒心など皆無であるかのように大きな触手を軍船の横へと張り付けて船上へと身を乗り出した、ここにも獲物がいると気が付いたらしい。

 

 

 

 実際に獲物という表現は正しい、クラーケンからしてみれば人間などその程度の存在だ、この巨体からしてみればそれは傲慢でも油断でもないだろう。

 

 

 

 ただ一つ、誤算があるとするのなら、この獲物たちは逃げまどい泣き叫ぶほど弱くはないという点だ、どれだけ小さくても牙と爪を持ち合わせている。

 

 

 

 海兵たちがその巨体に一切怯えることはない、普段より大きい相手だがそんなものは理由にはならない、自分たちが海の安全と秩序を守るという自覚と信念が恐怖などかき消してくれるのだ。

 

 

 

 そこにあるのは海の戦士としての誇り、決して錆びつくことの無い魂である。

 

 

 

 船横へ吸盤で取りついたクラーケン目掛けて大量のモリが投げつけられるとそれが開戦の合図となった、筋肉の塊とも言える体に次々と鋭い刃が突き刺さるのだが致命傷には程遠い、しかしクラーケンとの戦いは毎回こんなものだ。

 

 

 

 巨大な体に、巨大な膂力、そんな怪物を相手には徐々に手傷を負わせながらの持久戦が基本となる、一撃で何もかもを粉砕できるのは半神くらいのものだろう。

 

 

 

 小さくとも傷は傷、ならば数で押し切るほかないのだ、その為にこの軍船には大量の武器が積まれているのであり、クラーケンにとっては小さな針でしかないがそれでも無視することはできない。

 

 

 

 一つで足りないのなら十で、それでもまだ足りないのなら百でも構わない、とにかくありったけをぶつけるだけの戦いだった。

 

 

 

 体中に次々と突き刺さるモリを煩わしく感じたのだろう、クラーケンは巨大な触手をバタつかせながら一番近くにいた海兵の足元を掬いあげた。

 

 

 

 触手の先端に掴まれてしまえば人間の力ではどうしようもない、そのまま絞殺されるか、叩きつけられるか、食われるかの差はあれど、待っているのは抗いようのない死だろう。

 

 

 

 海兵たちにとっては見慣れた光景である、それでも戦い続けるのが彼らなのだ。

 

 

 

「力を!」

 

 

 

 しかし今回はそうはならない、捕まえた海兵を殺そうと大きく振りかぶられた触手がその最中に切り落とされてしまったからだ、輝く白刃が大樹ほどあろうかという筋肉の塊を両断してみせた。

 

 

 

 短く雑な神への祈りを唱えてクラーケンの触手を切り裂いたのはシャルルだ、海兵を救出して勢いそのままに帆柱の一番上まで飛び上がってどこか驚いたかのような顔をしている。

 

 

 

 それも仕方がないだろう、シャルルは自分の体が以前よりもずっと軽くて鋭く動けたことに驚愕しているのだ、太く弾力のある触手を切ったこともそうだが、こんな高さまでジャンプするなど以前は不可能だった。

 

 

 

 成長中なのだから進歩は当たり前だが、それにだって限度がある、ここまでの変化は最早進化とさえ言えるだろう。

 

 

 

 自分の体の変化に戸惑っているが、この感覚は以前にも体験したことがあるとシャルルは思い出す、あの神殿の戦いで一時的に半神と化した時の感触と近いのだ、あの時と比べれば格段に弱い力ではあるのだがそれでも平常時よりは遥かに強い。

 

 

 

 借り物とはいえ半神の力を宿したことで、その領域に少しだけ近づいたのだ、結果としてシャルルは以前よりも戦士として高い位置にいる。

 

 

 

 そしてそれは彼女だけではない、キャロルやエミリーも同じだった。

 

 

 

 半神の力はない、しかしそれでも格段に強くなっている、神の寵愛が高まっていることで以前には無かった力が宿っているのは間違いない。

 

 

 

 キャロルは帆柱の上にある見張り台から弓を引き絞ってクラーケンを見下ろしていた、限界まで引っ張られたそれは放たれる瞬間を今か今かと待ちわびているかのようだ。

 

 

 

 フッと一呼吸おいて矢を放つ、するとほんの僅かにだが放たれた矢が光の尾を引いているのがわかる、神殿の戦いでキャロルが使った蛇行する光の矢には程遠い輝きではあるのだが、それでも以前はこんなことは出来なかった。

 

 

 

 淡い光の矢が真っすぐ風を切りながら突き進み、まるでそうなることが必然であるかのようにクラーケンの大きな眼球へと突き刺さる。

 

 

 

 どれだけモリを突き立てられようとも揺らぐことの無かった筋肉の塊が、その一撃だけは我慢することが出来なかったらしい、大きく体をのたうち回らせながら残った瞳で犯人を睨みつけるのだが、そんな隙をここにいる者たちが見逃すはずもない。

 

 

 

 また無数のモリがその巨体へと突き刺さる、一つ一つは小さな痛みでも百を超えれば激痛だ、あまりの痛みに逃げ出そうかと身を海へと向けるのだが、そこでもクラーケンにとっての誤算が生じてしまう。

 

 

 

 自身の体に突き刺さったモリの何本かに太い鎖が引っ付いているのだ、そしてそれは軍船の一番太い帆柱に括り付けられている。

 

 

 

 自分の触手より太く固いそれは、クラーケンが全力で引っ張ても僅かにしなるだけで、一向に折れる気配がなかった、その時点でクラーケンは目の前にいる小さな獲物が自分を脅かす脅威なのだと理解するのだが……既に遅い。

 

 

 

 武器を整え、場を整え、数を整えた人間たちに、ただ海を漂って獲物を捕食するだけしか知能の無いクラーケンがここから逆転する手立ては存在しなかった。

 

 

 

「さて、動きも封じた、後は任せたよ!」

 

 

 

 キグナスの号令が船上で戦いが始まってからずっと魔法の詠唱を続けていたエミリーにかけられる、彼女もまた以前よりも早く、そして大規模な魔法の行使が可能になっているようだ。

 

 

 

 エミリーの指先が獲物を射抜くかのようにクラーケンへと向けられると、その次の瞬間にまばゆい閃光と膨大な熱がクラーケンの穿たれた眼球の中で発生して……鼓膜を粉砕するかのような轟音と共に弾けた。

 

 

 

 炎は竜巻にはならなかった、ただ一点に凝縮されて爆発したのだ、それもクラーケンの内部から。

 

 

 

 どれだけ巨体であろうと、どれだけ膂力があろうとも、その爆発に耐えきれるはずもなく、クラーケンの体は三分の一程が吹き飛んでしまう。

 

 

 

 内臓と体液ををまき散らしながらも残った意識と瞳で小さな脅威を睨むのだが、クラーケンの視界に広がったのは無数の鋼の輝きだった。

 

 

 

 それがとどめとなった、恐怖する間も逃げる時間も無く、クラーケンは息絶える。

 

 

 

 そして広がるのは勝利者たちの雄たけびだ、当然ながらクラーケンがそれを聞くことはなかった。

 

 

 

「やるじゃねえか嬢ちゃんたち! ここまであっさりと倒せるとは大したもんだ!」

 

 

 

「今の爆発みたかよ、魔法ってあんなことができるんだな」

 

 

 

「戦士の二人も凄かったぞ!」

 

 

 

「……毎回こんだけあっさり倒せたら楽なんだがなぁ」

 

 

 

 最初は三人の存在をキグナスの命令とはいえ僅かに軽んじていた海兵たちが口々に賞賛の言葉を贈ってくれた、結果を出されてしまえばそう言うしかないだろう、実際に三人が居なければもっと苦戦していたのは長年クラーケンと戦っている彼らが一番よく理解しているはずだ。

 

 

 

「よくやったよアンタたち! クラーケン相手に死人が出なかったのは何時ぶりだって話さ!」

 

 

 

 中でも一番喜んでいるのはキグナスだ、三人に駆け寄って大げさに抱き着いて来る。

 

 

 

「いや~良い戦力だよ、いっそ一カ月と言わずにずっとここで働いて欲しいくらいだよ」

 

 

 

 おそらく半分は冗談だろう、そしてもう半分は本気と思われる。

 

 

 

「ありがとうございます、でも私たちだけではクラーケン相手にはどうしようもありませんでした」

 

 

 

「そりゃあそうだろう、ここにいる全員の力が必要だってのは間違いないけど、アンタたちの働きが大きかったのは間違いない、良い仕事をしたんだから誇ると良いさ」

 

 

 

 キグナスは謙遜するエミリーに笑顔を見せてから海賊帽子を深く被りなおす、そして次に表情を見せた時には商会長の代表としての顔があった。

 

 

 

「野郎ども! クラーケンの死骸はそのまま縛り付けて持って帰るよ! 一先ず近場の島まで運んでそこで一泊だ!」

 

 

 

 そこでキグナスは三人に振り返ってこう告げる。

 

 

 

「アンタら真珠が欲しいんならそこで人魚に相談してみるといい、近くに連中との貿易所もあるからアタイが話を通しておくからさ」

 

 

 

 今回の働きの報酬ということだろう、どうやら彼女は最初からそのつもりだったらしい。

 

 

 

 商会主である彼女が人魚たちとの仲介に立ってくれるのなら目的の物も手に入りやすい、三人はここまで来たかいがあったと微笑み合うのだった。

 

 

 

 ここまで全てが順調に進んでいることは疑いようもない、真珠が手に入れば更に良い状況になる。

 

 

 

 しかしあまりにも順調すぎたので彼女たちは忘れていた、この世界には危険などいくらでも存在するということを。

 

 

 

 ここではないどこか遠くで何かが蠢く音がしたのだが、それに気が付いたのは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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