※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

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第三話 小王国郡横断 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 商人の朝は早い、まだ朝霧が残り地平線の彼方に太陽が少しだけ見える時間に彼らは動き出すのが基本である。

 

 

 

 昨夜の乱交による満足感と疲労感がまだ残っており、背筋を伸ばすと腰に痛みが走るのだが、心地の良い晴れやかな気分になっていた。

 

 

 

 最後の方はどうも記憶が曖昧ではあるが最高の交わりであったことは間違いなく、商人仲間にも自慢できることは間違いないだろう。

 

 

 

 娼婦神の聖印を持つ娼婦と一夜を共にした、それは自慢の種であり商人としては一つの到達点である。

 

 

 

 自分は商人としてそれだけの立場と経験と稼ぎがあるんだという証明のようなものなのかもしれない、聖印を持つ娼婦はやはり憧れの存在なのだから。

 

 

 

 だから財布が軽くなったことなど大した問題ではない――いや、涙目になっている男もいるにはいるのだが、必要な出費でありそれを払うだけの満足感があったと自覚しているようだ。

 

 

 

 そして男たち以上に満足そうな顔をしているのは四人娘である、チップを受け取って彼女たちの財布はしっかりと膨らんだからだろう。

 

 

 

「色々とお世話になりました」

 

 

 

「いえいえこちらこそ、良い夜を過ごさして貰いました、自慢にできるでしょう」

 

 

 

 キャラバンを率いる男とエミリーが互いに会釈する、このキャンプ地でたまたま出会って一夜を共にしたのだが、ここから先は行く先が違うので別れることになるようだ。

 

 

 

 男たちは専属の娼婦にでもなってくれないかと思っているようだが、そんな契約を結べるだけの資金も無いので泣く泣く別れることになったらしい。

 

 

 

 こちらに大手を振って去っていく車両の列に、彼女たちも手を振り返しながら見送った。

 

 

 

「さて、ワタシらも移動しようか」

 

 

 

「ん……今日は私が手綱係」

 

 

 

「順調に行けば今日中に小王国郡には辿り着けるでしょう」

 

 

 

 エミリーの言葉にミューは顎に手を当てて考え込む。

 

 

 

「あちらは荒れに荒れているのだったか……到着したとしても、商いは可能なのだろうか? シャルル殿、アンデットの被害はとても深刻なのだろう?」

 

 

 

「あぁ、酷いもんだぞ、無事なのは本当に一部だけだ……でも難民なんかは戻ってたりはしているみたいだけど、それだって一部だけだろうしな」

 

 

 

「国際会議で分割統治することになったのですから、色々と混乱はあっても復興は始まっていると思いますよ……まぁ、大規模な商いは難しいでしょうけど」

 

 

 

 エミリーの見立てはそう間違ってはいないだろう、少なくとも現在の小王国郡でまともに商売はできない、将来的なことを考えて復興に尽力すれば顔や名前も売れて十年後には利益になるのかもしれないが、彼女たちのキャラバンにそこまでの余裕はない。

 

 

 

 あくまで帝国へ向かうまでの通り道という認識であり、もし運が良ければ春風のキャラバンの情報などを仕入れることが出来ればという希望もあるが、そこで儲けようなどとは考えていないらしい。

 

 

 

 経由地として立ち寄るだけである、このキャラバンの最終的な目標は帝国であった。

 

 

 

 人も多く、商いも盛んで、様々な文化が熟成しているかの国を目指すキャラバンは多い、彼女たちもその一つである。

 

 

 

「ん……別に儲けは無くていい、損しなければ」

 

 

 

「そうですね、臨時収入もありましたから」

 

 

 

 彼女たちの財布はとても膨らんでいる、大勢の男たちから受け取ったチップによるものである。

 

 

 

 それによってか四人にはゆとりがあるようだ、損をしなければそれで良しとはなかなか言い切れるものではない。

 

 

 

 自分たちの荷馬車に乗って手綱を操り、キャラバンを走らせていく。

 

 

 

 馬の手綱はキャロルが握り、その隣でミューが地図を広げている、シャルルとエミリーは荷台で寛ぐ形であった。

 

 

 

「地図は当てにできないか、国境線など有ってないようなものだろう」

 

 

 

「ん……ちょっと古い地図だから」

 

 

 

 ミューが広げている地図はキャロルが言うほど古い物ではない、小王国郡で首なし騎士が暴れなければ問題なく今も使える地図であったのだが、それも国際会議で分割統治が決まった後では古い地図となってしまったようだ。

 

 

 

 来年には新しい国境が引かれた地図が売り出されることだろう、ただ手元にある地図でもざっくりとした道や地名はわかる。

 

 

 

 統治する国や人が変わっても、そこにある道や人の営みが消える訳ではないのだから。

 

 

 

「このまま真っすぐ道なりに進むと、我々が最初に辿り着くのはセイラム国だな……いや、だったが正しいか」

 

 

 

 既にそんな国は存在しなくなって久しい、大量のアンデットに押しつぶされたしまったからだ。

 

 

 

「今は隣の大国の保護下に置かれているようだが……ふむ、あれは難民かな」

 

 

 

 キャラバンを走らせること半日ほど、小王国郡の端っこがようやく見え始めた頃に、ミューの黄金の瞳が遠くに人の影を見つけた、彼女たちのキャラバンが進む道の先に同じ方向へ進む人の群れがあったのだ。

 

 

 

 あちらは徒歩で、こちらは馬引きの車両、そこまで移動速度に差は無いので合流するまでざっと一時間ほどの時間がかかった。

 

 

 

 近づくとやはり難民の群れであると認識することができた、誰も彼もが持てるだけの家財を持って歩いているといった様子である。

 

 

 

「もし、そこの方々、少々話を聞かせて貰えないだろうか?」

 

 

 

 ようやく声をかけられる位置にまで辿り着くと、大きなリュックを背負った最後尾を歩く男性にミューが声をかけた。

 

 

 

 驚いたようにこちらに振り返り、ミューの尖った耳を見て更に驚き、その美しい容姿に言葉を無くす。

 

 

 

「どうかなされたか?」

 

 

 

「あぁ、いや、なんでもありません……それで話とは?」

 

 

 

「ここはセイラム国で、貴方方はその住民という認識で問題はないだろうか?」

 

 

 

「えぇ、ようやく帰還の目途が出来たので、こうして故郷を目指しているのですが」

 

 

 

「ん……この先の都市?」

 

 

 

「正確には、その周辺にある宿場町ですな」

 

 

 

 キャロルがミューの持つ地図を覗き込んでそう尋ねる、地図上に印された先にはこの国の首都名がある、どうやら彼らはそこを目指しているらしい。

 

 

 

「聖都で行われた国際会議で復興が決まったと聞いて、我々もようやく帰ることができましてな」

 

 

 

 今までは隣国に疎開していたのだろう、聖都で行われた会議を聞いて帰って来たということだ。

 

 

 

「貴女方は商人ですかな?」

 

 

 

「ん……帝国を目指してる。後、物を売れる場所」

 

 

 

「ほう、では首都を目指されると良い、復興はあそこを中心に進められるそうですから、人も多く需要もあるでしょう」

 

 

 

「わかった……行ってみる」

 

 

 

 復興は始まっているという情報を得られたのは彼女たちにとって好都合であった、人がいるのなら必ず需要がある、このキャラバンの荷台に乗せられているのは主に保存食と塩や酒が主なので全てがしっかり捌けるだろう。

 

 

 

 話しかけた難民たちに気持ちばかりのお礼をしてからキャラバンは首都へと――首都であった場所へと進むのだった。

 

 

 

 小王国郡を構成する国はそれほど広くはない、小国の集まりなのだから当然だが王都を中心に宿場町や農村が広がるのが基本である、大都市を幾つも内包する大国とは異なると言うことだ。

 

 

 

 なので首都を目指そうと思えばそこまで労せず辿り着くことができる、国土が狭いので時間はかからないだろう。

 

 

 

 故郷へ戻ろうとする難民たちと別れてキャラバンはこの国の王都を目指す、国の中心なのでそこへ近づくに連れて難民たちの姿をよく見かけるようになっていた。

 

 

 

 いや、難民と言う表現ではなく復興作業員と呼ぶべきだろうか、既に戦は遠く政治的な根回しや統治する国なども決まっており、後は物と人を集めて組み立てる段階に来ているようだ。

 

 

 

 アンデットに呑まれた消えた全てを取り戻すには、それはそれは長い労働が必要となるだろうが、最初の一歩は既に刻まれている。

 

 

 

「ふむ、人は多いようですね」

 

 

 

「物もあるね……色々とボロボロだけど」

 

 

 

 王都は人が多かった、同時に物も多かった、かつてこの地域を治めていた王家や王族は死んでしまったようだが、それを気にすることもない活気が存在している。

 

 

 

 今は近くにある大国の属領という状態であった、統治者はその国に嫁入りしていたこの地域の王族の親類となっているらしい。

 

 

 

 まぁ、誰が統治してどんな政治的駆け引きがあったかなど庶民にはどこか遠い出来事であると言えるだろう、彼らにとって重要なのは今日を食べていくことなのだから。

 

 

 

 王都がボロボロだろうと、積み上げた城壁が崩れていようと、井戸が枯れていようとも、働かなくてはならない。

 

 

 

 かつてこの地に暮らしていた者も、復興作業員として大国から派遣された者も、人口過多の地域から送られてきた者も、等しく汗水垂らして働くということだ。

 

 

 

 都市はボロボロである、かつてあった住居も都市壁も崩れており寂しさを感じさせた。

 

 

 

 だが活気はある、そらかしこで槌を振るう大工たちがおり、復興需要に乗りたいのか商人らしき者たちが荷物を広げてちょっとした市場のような状態となっている。

 

 

 

 この地を統治することになった国も積極的に商人たちを受け入れているのか、露骨な賄賂などを要求されることもなく、彼女たちのキャラバンもその一部となることができたようだ。

 

 

 

 人と物を集める、復興の第一歩と言えるだろう。

 

 

 

「塩と、砂糖、保存食に紙類と……ふむ、どれも必要なものだ、あるだけ買い取ろう」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 キャラバンがまず向かったのはこの地域の復興を主導する組織、隣国から派遣された軍人たちで構成される衛兵所であった。

 

 

 

 国土の大半がボロボロな上に、深刻な貨幣不足が発生しているこの場所で、道行く人々を相手に物を売りつけてもまず買い取られることはないだろうとエミリーは考えて、彼女たちが向かったのが衛兵所である。

 

 

 

 ここならば纏まった数の貨幣が存在しているという考えは間違いではなく、物資の集積場でもあるので物を売りつけるのならばやはりここだろう。

 

 

 

 物資の出入りを管理している衛兵に荷馬車の商品を見せると、二つ返事で購入すると伝えられた、彼らとしても少しでも多くの物を調達したいので非常に都合が良かったということだ。

 

 

 

「ただ察しているかもしれないがこの地域全体で貨幣不足が深刻でね、きっちり耳を揃えて払いたいんだが……ここは、一部の商品は物々交換でどうだろうか?」

 

 

 

「問題はありません、皆様のご苦労も同情いたします、こちらとしては大きな儲けは望みません」

 

 

 

「配慮に感謝する」

 

 

 

 そんな会話が衛兵とエミリーの間で行われていた、商品の受け渡しも問題なく進められており、お互いの納得のもと契約が結ばれている。

 

 

 

 一部の商品は物々交換となったことも事前に想定していた展開の一つであり、彼女たちに驚きは少ない。

 

 

 

「さて、となると何と交換するかですが……何か希望はありますかな?」

 

 

 

「そうですねぇ」

 

 

 

 エミリーは考え込むような仕草をして振り返り、車両から商品を下ろしていた仲間たちへと意見を求める。

 

 

 

「保存食を保存食と交換しても意味ないよな」

 

 

 

 シャルルはそんなことを言った。

 

 

 

「確かに、それでは売った意味がない」

 

 

 

 ミューもその言葉に頷く。

 

 

 

「ん……この先で必要になる物が良いと思う」

 

 

 

 旅に必要な物となるとやはり食料ではあるが、シャルルが言ったように同価値の物を交換してもあまり意味は無い、それならば最初から売らなければ良いだけの話である。

 

 

 

「必要になる物か……なぁ、一つ聞きたいんだけど、まだアンデットの残党っていたりするのか?」

 

 

 

 どう交換すべきかと考えていると、シャルルが何かを思いついたのか衛兵にそんなことを尋ねた。

 

 

 

「アンデットはまだ出没する筈です、多くが制圧できてはいるが、まだ完全とは言い難い状況と聞く。この辺りも夜になると徘徊したりして夜警が強化されていて……小王国郡の一部地域に至ってはまだ奪還できていない状況ですな」

 

 

 

「ふぅん、なら武器類が良いかもな」

 

 

 

「シャルルは、その心は?」

 

 

 

「いや、ほら、まだアンデットの残党がいるのなら必要になるだろって思ってな」

 

 

 

「アンデットならば私たちで十分対処できると思いますが」

 

 

 

 エミリーは炎の魔術師であり殲滅戦は得意分野である、キャロルやミューも後れを取るようなことはしないだろう、シャルルに至っては聖騎士なのだから片手間に殲滅できてしまう。

 

 

 

 そんな自分たちに余剰分の武器が必要だろうかと考えるエミリーに、シャルルは肩を組んで引き寄せると衛兵の男に聞こえないようにこう囁く。

 

 

 

「どこにでもある武器でも祝福を宿せば売れると思うんだよ」

 

 

 

「……なるほど、アンデットの残党がいるのなら欲しいと思う人たちは多いかもしれませんね」

 

 

 

「付与に関しては任してくれ、ガレス王国にいた頃はそればっかやってたから慣れてるんだ」

 

 

 

「ですが纏まった数の武器と交換してくれますかね?」

 

 

 

「兵隊の集まる場所に無いってことはないだろ、あっちも復興に必要な物と交換しろと言われるよりは武器の方が良いって思うんじゃないか? 予備武器とか持ってるだろうしさ」

 

 

 

「わかりました、ではそうしましょうか」

 

 

 

 エミリーもシャルルの言い分に納得したようだ、内緒話を終えて衛兵に向き直ると物々交換の品は武器類が良いと伝えると、相手は少しだけ考え込むと最終的には受け入れたようだ。

 

 

 

「細かな指定はありますかな?」

 

 

 

「槍が良いかな、無ければ剣でも良いけど、問題無いようなら両方欲しい」

 

 

 

「それならば問題ありません、予備も多いのでお譲りしましょう」

 

 

 

 こうして彼女たちのキャラバンが運んできた荷物は自分たちが消費する物を除いて全てが捌けることになった、代わりに紐で括られた槍の束と剣の束と幾ばくかの金貨を受け取ることになる、荷台は随分と広くなったが損をしたとは思っていないのだろう、シャルルは満足そうに笑っていた。

 

 

 

 彼女は車両の荷台に乗り込んで束となった武器の一つを抜き取り、己の内から湧き出る祝福の光をそこに注ぎ込んでいくと十分ほどで刃が淡い光を宿す。

 

 

 

「ほう、見事なものだ、本来なら祝福の付与は神々への祈願が必要になる筈だが……聖騎士は祝福の力をその身に宿しているんだったか。シャルル殿、実に見事だ」

 

 

 

 そんな様子を興味深そうに見ていたのはミューである、彼女はその指先で淡い光を宿した刃をなぞり感嘆していた。

 

 

 

「なんかそんな風に褒められると照れくさくなるな、別に特別なことをしてる訳じゃないんだし、聖都にいる聖騎士なら同じことができるだろうしな」

 

 

 

「個人的に興味深いのだ、エルフの里には聖騎士がいなかったのでな」

 

 

 

 そう言えばエミリーもシャルルが祝福の力を使えるようになったばかりの頃に、手帳を片手に細かく質問をしてきたことを思い出して、魔術を扱う人種は皆そうなのかと思ってしまう。

 

 

 

「これが次の商品になる訳か、確かにアンデット相手にするのならこれ以上の物はないだろう」

 

 

 

「傭兵とか兵隊とか走り回ってるだろうからさ、そいつらに売りつけよう」

 

 

 

 束になった武器の一つをまた抜き取り、祝福の力を宿していく。

 

 

 

 これらがまた彼女たちの利益となってくれるだろう、物を右から左へと転がして徐々に儲けを膨らませていくのだ、そう考えると彼女たちの行動は実に商人らしいものと言えるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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