商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
クラーケンとの戦いが終わった後、キグナスの軍船はその死骸を船に括り付けながら近くの島へと寄港した。
大陸と大陸の間には大小無数の島があり、それらの多くが力のある商会が領主のように土地の権利を保有しているのだ。
軍船が立ち寄った島もキグナスが実質的に取り仕切っている土地であり、母港としている陸からは遠いものの嵐からの避難や船の修理、または海賊たちの監視や貿易の中継所としての役割が強いらしい。
キグナス商会の影響下にあるとはいえ、そこの住民が全て従業員である訳ではなく、寧ろ一般の漁師の方が割合としては大きい。
それでも住民たちはキグナスの影響力が皆無であるかと言えばそうでもない、土地の所有者であることも理由の一つではあるのだが、彼らの生活がキグナスに依存している部分が何より大きいだろう。
陸からは遠く仕事と言えば畑と漁しかない、外界から隔絶された環境では娯楽も少なく、何より稼ぎが無いのだ。
そんな彼らにとってキグナス商会の存在は大きい、自分たちが捕まえた魚を資産へと変えてくれるし、この島では手に入らない物とも交換してくれる、商会が作った船の造船所や停留所兼交易所で雇用も生み出してくれる上に、キグナスは金払いだって悪くない。
この島の住民にとってキグナス商会は自分たちの生活を支えてくれる巨大な組織なのだろう、だからなのかキグナスの軍船が沖合に姿を現すと住民総出で歓声を上げる姿が確認できる。
そして歓喜の声はクラーケンの死骸を確認したことで更に大きくなる、漁で生活する彼らにとって海の魔物の存在は悪夢そのものだ、海に出た漁師がそれを最後に帰ることがなく、近くでクラーケンが出没したなんて話はどこにでも溢れているのだ。
彼ら、彼女たちにとってクラーケンの死骸をぶら下げて進む船は希望であり、そこに乗って戦う海兵たちはまさに英雄なのだろう。
五百人ほどの住人たちは誰もが笑顔で船を出迎えた、未婚の少女は勇敢な海の男たちに頬を染め、少年は憧れの眼差しでいつか自分もと奮い立つ、ただ船が立ち寄っただけなのだがある種のお祭り騒ぎになっていた。
「村長、急で悪いが明日まで一泊させておくれ」
「ええ勿論ですとも、何もない田舎ですが精一杯もてなしますので、どうかごゆるりと休まれてください」
寄港の印としてキグナスは島民の代表者に陸の酒を渡すと、部下たちに船から交易品を降ろさせて島の倉庫へと運ばせていく。
「うちの男どもには酒と食事を腹いっぱい食わせてやってくれ、そっちは何かあるかい?」
酒と一緒に手渡すのは銀貨の入った袋だ、食事代兼宿泊費でもあるのだが、この島ではあまり通貨は意味がなく、島民たちにとっては交易用にしか使うことはない。
「必要な物は多いですなぁ、家畜に砂糖に小麦に酒……まぁここではあれなので後ほど契約書を作って依頼いたします」
今、キグナスが渡した銀貨の大半がその必要物資で消えることだろう。
「明日の朝には出るから急ぎなよ」
「ええ、急ぎ作りますので少々お待ちを……お~い! 宴会の準備をしてくれ!」
ここに来ると毎回大げさなほどの宴会を催してくれる、海兵たちの評判は悪くはないので受け入れているのだが、酔った男が島の娘を手籠めにすることも珍しくないので注意する必要もあった。
別にちゃんと責任を取るのならキグナスとしても文句はないのだが、中には蹴り飛ばさなくてはならないような奴もいるので商会長としての気苦労にもなってしまう。
酒と食事の匂いに釣られて宴会場へと足を運ぶいかつい男たちを見送って、キグナスは船に乗るには似合わない三人の少女たちへと振り返った。
「さて、人魚たちに紹介が必要だったね、こっちだよ」
「なぁなぁ、人魚ってどうやって呼ぶんだ? 普段は海の中にいるんだろう?」
人魚の生態に興味があるのかこれから会えると聞いてシャルルは興奮気味だ、そしてエミリーもうんうんと首を縦に動かしている、こちらは学術的な好奇心が強いようだ。
キャロルはその視線を海へと向けて人魚を探しているようだが、小さな魚影だけで人魚の姿はない。
「連中はアタイら人間と違って海の生活が基本だ、だから接触するには海の鐘を鳴らす必要があるのさ」
キグナスに先導されて三人が向かったのは島に作られた人魚との交易所であった、しかし倉庫やその他の施設らしき建物はなく、浅瀬に木製の橋がかけられてそれが海まで伸びているだけの場所でしかない、その橋の先端には小さな鐘が備え付けられている。
見てなよ、そう言ってキグナスは鐘を手に取るとそれを海に沈めて打ち鳴らす、当然ながら鐘本来の澄んだ音は聞こえないのだが、それが人魚たちを呼ぶ合図なのだ。
「……今ので来る?」
「ああ、アタイらにはさっぱりだが、海の中ではさっきの鐘の音がしっかり響いている筈だよ、人魚は感覚が鋭いから海の中なら遠くの音も簡単に聞き取るらしい、あと海を漂う血の匂いにも敏感だとか……まぁ、アタイも詳しくは知らない」
海ので暮らす人魚の生態を、陸で暮らす人間が完璧に理解することはできないだろう、それは向こうもまた同じ感想を抱いている筈だ。
文化も異なるなら生活様式や常識も異なる、特に悪気は無くても人魚を怒らせてしまうこともあるので注意が必要だとキグナスは説明するのだが、それでもこの交易所にやって来る人魚は比較的おおらかな性格をしているので最低限の礼儀さえ守れば問題はないらしい。
鐘を鳴らして十分ほどの時間が過ぎると、ほんの僅かに海面を揺らめかせて大きな影が姿を現す。
橋の上からその影を眺めると下半身は大きな魚であり、上半身は人間と何も変わらない姿をしていることがわかる。
吟遊詩人が歌い語り、子供たちが寝物語に聞かされる姿そのものであり、その影はまさに人魚としか表現することができない。
海面から顔を出したのは予想通り美しい容姿をした若い人魚だ、緑色の瞳が橋の上にいる四人を順番に観察していくとキグナスの顔を発見して視線が止まった。
「あら~、キグナスさんやん、久しぶりやなぁ! なんかこの辺クラーケン臭いと思ったらアンタんとこの船の仕業かぁ」
「直接、顔を合わすのは確かに久しぶりだね、元気そうでよかったよグリーシャ……クラーケンはあれだ、また暴れだしてね」
「人間は水の中で呼吸できひんのにようやるわぁ、海に引きずり込まれたら死んでまうやん、まぁクラーケンはうちらにとっても脅威やで助かるけど無茶するもんやないでぇ」
「無茶も無理も押し通すのがアタイらの仕事なんだよ」
人魚特有の独特な発音で喋る彼女の名はグリーシャらしい、気軽に会話しているのでキグナスとの関係も長いのだろう。
久しぶりの再会に思い出話でもと口を開こうとするのだが、本来の目的を思い出してキグナスは三人娘を指さして人魚に示す。
「おっと、そうだった……今回アンタを呼んだのはこの三人を紹介したくてね、なんとあのクラーケンをぶっ殺したのはこの三人なんだ、褒美に真珠をやりたいんだけど……今、余裕は?」
「お~、真珠なぁ……う~ん、真珠かぁ」
グリーシャの歯切れが悪い、どこか言葉にするのが難しいのか俯いて深く考え込む。
「都合が悪いのかい?」
「ぶっちゃけるとそうなんよ……キグナスさんとこも無関係やないやろうけど、今って海賊が暴れとるやろ?」
「忌々しいことにね……まさかアンタらにも迷惑かけてんのかい?」
「迷惑って言われたらそうやなぁ、海で出くわす度にモリを投げつけて来よってなぁ……なんか真珠を渡せってうるさいんよ」
「ほう……それで被害は?」
「そんなんあらへんって、海に潜ったら追って来れへんからいつも逃げんねんけどな……あの人ら真珠が入った貝とか根こそぎ持っていきよるんよ」
真珠は貝から取ることが出来る、形も大きさも様々だが長く生きて成長した貝ほど良質で美しい真珠が手に入るとされており、小さくて未成熟な貝は将来のことを考えて漁師や商人、そして人魚たちからも保護されているのだ。
しかし海賊たちはそんなことは関係ないといわんばかりに、海にある貝を根こそぎ奪っていくらしい、秩序などあったものではない。
浅瀬にある貝は勿論、驚くことに素潜りまでして本来ならば人間の手が届かない位置にある貝まで手を伸ばしているらしく、その度に人魚たちとぶつかっているそうだ。
海の戦いで人魚に勝てるはずもないので発見されたら直ぐに撃退されるのだが、懲りることなくまた潜ってきて貝を奪っていく。
人魚たちとて常に監視していられる時間もなく、隙を見つけて海賊たちは数を生かしてこの周辺の貝を乱獲しており、人魚たちであっても簡単には真珠を手に入れることが難しいのが現状であった。
「貝ってそんな簡単に育つもんやあらへんし、気長に待つしかないと思うでぇ……探せば多少はあるやろうけど、ちっちゃいのは残しときたいしなぁ……まぁ、海賊が持っていった分は陸で捌きよるんやないの?」
「いや、港には出回ってないね、裏市場でも見かけないからとんでもない額になってるんだ」
そこで両者の会話を聞いていたエミリーが疑問を投げかけた。
「なぜ海賊たちは真珠を奪うのでしょうか?」
「んん? そら儲ける為やろ」
「それならば裏取引なりして財貨に変える筈です、ですが全く真珠が見当たりません」
「裏取引やで陸の商人が嫌がってるとかちゃうの?」
「いや、あの港街の連中は金を稼ぐことが唯一絶対の正義だ、どれだけ汚れていようが儲けられるのなら絶対に飛びつく、アタイも含めてね……裏取引だろうが密輸品だろうが店先に並んでしまえば高値で売れるんだから関係ないのさ……そう考えると確かに妙だね」
「……海賊たちは、真珠を売っていない」
キャロルが出した結論に行きついてしまう、しかし何故という疑問は残っている。
人がいるのなら必ず物資が必要になるだろう、食糧や水に生活必需品、海賊たちだってそれは絶対に変わらない。
利益の為に真珠を集めているのだと考えれば蛮行の説明ができるし納得もできる、しかしわざわざ集めてそれを後生大事に懐にしまっておくなどありえないことだ、真珠は食えないので飢えを満たせないし水の代わりにもならない。
「あれちゃうかなぁ、ほら、塩の海賊」
「海の底に封じられた怪物を復活させるのに真珠が必要だっていう話だろ……ありゃおとぎ話なんじゃないのかい」
「えぇ……人間の中ではそうなっとるんか? うちのお祖母ちゃん世代は今でもめっちゃビビっとるけど、盛って話とったんやろか」
「盛って話したかどうかわからないけど、塩の海賊と呼ばれる男が大昔に存在したのは間違いない、でも荒唐無稽の話も多いからねぇ……それに海賊やってる連中ならその名前にあやかっても不思議はないし」
「でも最近暴れてる連中は海龍の旗印なんやろ、しかも真珠も集めてる……なんか嫌な感じやなぁ」
「なぁなぁ、二人で話し込むなよ……ワタシらにもわかるように説明してくれ」
地元の歴史を語られてもよそ者には理解できない、塩の海賊やその噂を離されても三人は付いていくことができないでいた。
「あぁ悪いね……塩の海賊っていうのは、なんと表現すべきか」
言葉を選んでいるキグナスに人魚のグリーシャはこう答える。
「大昔のめっちゃ強い海兵のことやね、二百年くらい前に今のキグナスみたいに海の魔物と戦ってたりしたみたいなんよ」
「海兵なのに海賊なのかよ?」
「まだこの国が出来上がったばかりの頃は今と比べられないくらい海賊も多かったのさ、建国者である海運王はそんな海賊連中を支配下に置いてね、即席の海軍を立ち上げて自分に従わない連中に差し向けたのさ」
それで海兵であり海賊ということなのだろう、塩の海賊と呼ばれた男はそんな海運王の配下の一人であったということだ。
塩の海賊、その存在はこの地域に暮らす者にとって常識であり恐怖の象徴でもある、誰もが必ず一度は耳にしたことがあり、親から子へと語り継がれる寝物語の定番にもなっているらしい。
子供のしつけにも役立っている、悪さをすると塩の海賊が攫いに来るぞと脅して子供を叱りつけたりもしるのだ。
強く、逞しく、恐れを知らない勇敢な男、そう聞くと物語の主人公のようだと多くの者は考えるのだが、彼は英雄ではなく恐ろしい怪物として語り継がれている。
建国の祖、海運王の片腕として敵対する海賊や海の魔物や商売敵を蹴散らす日々の中で、彼の名声は確かなものとなっていたのは間違いない、それだけで終われば英雄譚なのだが彼は狂気に飲まれてしまう。
ただ彼が強く勇敢であったが為に起きた悲劇だ、多くの敵を打ち砕いてその度に重ね上げた名声と同じ分だけの嫉妬が彼にのしかかって……簡単に言うのなら最後には毒を盛られて死んでしまう。
英雄の死に様としてはよくある話ではあるのだが、それで全てが終わることはなかった。
勇敢なる海の戦士を失った海は荒れに荒れた、これは比喩表現ではなく実際に異常事態となってしまったのだ、季節外れの嵐に始まり、高波に魚の大量死、海に出た漁師は忽然と姿を消して船だけが濃い霧の中を彷徨う。
海の怪物たちが何かに先導されるかのように暴れまわり、渦潮が全てを飲み込んでいく、そんな地獄と化したのだ。
人の手でそんな地獄は起こせない、これは神の御業であった。
そう、彼は海の神に愛されていたのだ、その恩寵と愛情は体の半分ほどを神に近づける程に強かったと言われている、そんな彼が死んだことにより海の神が嘆き悲しんだ結果がこの地獄である。
海の神の悲しみはどれほど強かったのだろうか、少なくとも毒殺されて海に投げ捨てられた半神の体を拾い上げて、魂をその体に縫い付けるほどに強かったのは間違いないだろう。
肉体は魚に食われて残っていない、零れ落ちた臓物はどこかへ流れていった、それでも骨だけは残っていたので冥府の神と交渉して彼の魂を呼び戻して定着させる……そして彼は再び歩き出す、アンデットとして。
しかし死神もタダでそんな要求を受け入れた訳ではない、魂を手放す条件として要求したのは別の魂だったのだ。
彼が復讐の狂気に飲まれたのも無理はない、卑怯にも毒を盛って己を殺した者たちへ報復を掲げて彼は海で暴れまわった。
波打ち際を赤く染め上げるまで血が流れたという、魚の干物のように人々が港に吊るされて、立ちふさがる海兵や海賊たちを粉砕し、終わりの見えない戦いがいつまでも続いたらしい。
肉体を失い、骨だけで戦う彼は最早半神と呼ぶには遠く、命ある全ての者を憎むアンデットと成り下がってしまったのだ。
人も、人魚も、亜人も、海の魔物も、全て等しく彼は殺し続けた、復讐など既に忘れてしまっている、そこにあるのはただの骨の人形でしかない。
最初の数人で復讐は終わっていたのだが、それでも彼が止まることはなかったと語られている、ただ戦うだけの存在でしかなかったのだ、意味もなく理由もなく死体が積み上がっていく光景を見せつけられてその当時の人々は恐怖したことだろう。
その殺戮を止められる者がいないのであれば、国が亡びるまで続いたことは間違いない。
しかし現在もこの国は途切れることなく続いている、それは誰かが塩の海賊を止めたことの証明であり、世界を旅する吟遊詩人たちはこの地の歴史をこのように語ることが多い。
塩の海賊が生前に唯一愛した麗しき乙女が、その怒りを鎮めて死ぬことのできないかの者を海の底へと封印したと、そう小銭稼ぎの為に酒場や路地で歌われるのだ。
それはあくまで一つの結末にすぎない、人によっては英雄が討ち取ったとも、神の雷に焼かれたとも表現されており、その時々によって結末は大きく変わっている。
何が真実でどれが正しいのか今となってはわからないが、この時代に生きる者にとって遠い昔の出来事なのであんまり関係ないだろう。
重要なのは塩の海賊と呼ばれた男が今も本当に存在するのかどうかであり、それについては多くの者がある種のおとぎ話だと考えているようだ。
しかし中には今でも怯えている者がいるらしい、年老いた老人が自らの曽祖父から聞かされていたり、正しい形で脅威が受け継がれた人魚たち、あるいは寿命の長いエルフなどは当時の出来事をその目で見ていたりしたのかもしれない。
塩の海賊を解き放ってはならない、そう言葉にする者は少ないながらも存在するのだ。
この地域の歴史と、塩の海賊に関連する話を聞かされて、三人娘は自分たちが欲している真珠の行方に関してはまだわかっていないことを問うと、キグナスからこう説明された。
「塩の海賊は海底の奥深くに封印されていると歌われている、その封印を解くには真珠が必要らしい」
「……なんで真珠?」
エミリーは封印と真珠と聞かされて何かを察したようだが、魔術師でないシャルルとキャロルはいまいちピンとこないようだ。
「真珠ってなぁ海の魔力が凝縮されてるんよ、装飾品だけじゃなくて魔術の触媒なんかにもなるし、邪気を遠ざけたりするんよ」
「そうですね……纏った魔力の質や量によっては大魔術と言われる現象も引き起こせると思います」
エミリーは自分の知識の中にある資料を頭の中で引っ張り出す、数年前に読んだ本には宝石を使った魔術が記されており、そこには真珠の魔術的特性や使用方法などが書かれていたと記憶している。
「確か真珠を使って魔法陣を構築するとより強力な結界になったり、それ単体で魔力の塊と言えるので投げつけて空間や魔術を乱したりも可能だったはず」
「海賊連中が真珠を集めてるのも、塩の海賊を解き放つ為だってのかい? う~ん……ちょっと怪しくなってきた感じだね」
キグナスは眉をひそめて何かを考え込む、本当に塩の海賊が復活した場合に予測される被害を想定しようとするが、上手い数字は出てこない。
彼女は人間なので当時のことを知る由もない、彼女の中にある塩の海賊の知識は吟遊詩人の歌の中にしかないのだ。
誇張されて、美しくも残酷に脚色された情報から結果を予測するなど不可能だ、しかし準備する時間だけは幸いにも存在する。
海賊たちが売りさばくこともなく真珠を集めている、それは間違いなく真実であるのだから海の秩序を守る者として動くだけだ、本当に塩の海賊が復活するのならその前に海賊たちを叩けばいい。
清濁の違いはあれどキグナスも海賊みたいなものなのだ、自分の縄張りで暴れまわる商売敵を放置することなどありえなかった。
「グリーシャ、大急ぎで人魚を集めて貰いたい、塩の海賊とかそういうのは一先ず横に置いといてさ、アンタらも連中が目障りだろう」
「はいはい、海賊のアジトを探しとけばいいんやろぉ、ウチらに任せといて」
「三人も悪いんだけど真珠はここでは手に入らないみたいだ、当てが外れちまったみたいで悪いね」
「いえ、事情が事情なので無理は言えませんよ、またの機会にお話しさせてもらいます」
「だな、それに海賊連中がたんまり貯めこんでるだろうから、そこから手に入れれば良いだけだしさ」
「ん……一気に大金持ち」
無いのならある場所から入手すれば問題は解決する、目的はハッキリしているので後は準備を整えるだけだろう。
幸いにもキグナスはやる気なのだ、クラーケン退治に呼ばれたのだから海賊討伐にも声がかかるだろう、その報酬に海賊たちが持っているであろう真珠を貰えるのなら彼女たちに文句はない。
「一先ず今日は英気を養おう、グリーシャたちが連中の根城を直ぐに見つけるだろうから、それまで準備が必要になってくるしね」
武器に食糧に船の数、商会の代表である彼女には考えなければならないことが多い、ただ戦うだけの三人よりもずっと。
キグナスは難しい顔で唸っていることが多いのだ、そんな姿は春風のキャラバンの団長によく似ていた。