商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
そこにあるのは僅かなランタンの光と小さな星明りだけだった。
おそらく無人島なのだろう、大陸と大陸の間にある様々な島の一つと思われるその場所に開発の手は入っておらず、大昔から変わることなくあり続けたことがわかった。
そんな静謐さすら感じる無人島にジャバジャバと水を踏みつけるかのような音が響いている、街や陸の喧騒から遠く離れたこの島ではそんな音がよく目立つ。
押し寄せる波は穏やかで砂浜に残された足跡を静かに隠していく、足跡の主は島から離れた位置にある自分の船へと視線をやってから、ボートを漕いで一人でこの島にやってきたことを後悔していた。
深く長いローブで頭をすっぽりと隠しているのだが、僅かに曲がった腰やランタンを持つ手の肌艶から老人であることが窺える、それほど長い距離ではないとはいえここまでボートを漕いで来たことから肩を大きく震わせているようだ。
それでも足は止まることなく動いている、老人がこれから会う存在は絶対に不快にさせてはならないからだ、老体に鞭打ってでも決められた時間は守らなくてはならない。
波打ち際を歩いて数分、先程よりも呼吸が荒くなったあたりでようやく老人は目的の存在を視界に捉える、そして汚れることを躊躇することなくその場に跪いた。
春とはいえまだ少し冷たい海が老人の体力を奪っていくのだが、体が震えているのは疲労や寒気からではないのだろう、もっと奥深くにある本能とでも言うべきものが怯えているのだ。
跪いて頭を下げた状態から数分、そこで今になって老人の存在に気が付いたかのように後頭部に声がかけられた。
「あれ、いたのね……気が付かなかったわ」
「お姉様、呼びつけておいてそれはどうかと思うの」
「ならさっさと声をかければいいのではなくて? 虫みたいに這いつくばってじっとしているから悪いのよ」
「前に声をかけて来たこの老人を殴り飛ばしたではありませんか、それ以来ずっとこんな感じですわよ」
「知らないわよそんなこと……まあなんだって良いか、それで首尾はどうなの?」
そこで老人は顔を上げて、恐れながらも二つの巨大な存在を見上げる。
無人島の砂浜にある大きく飛び出た岩の上、そこに座っているのは瓜二つの姿をした二人の少女だった。
しかしながら老人はその二人を少女という認識で見てはいない、姿形は確かに幼さが残された容姿なのだが、放たれる圧力が重く巨大なので人間と呼ぶにはあまりにも遠すぎる。
何より二人の少女の背中から生える蝙蝠のような翼と、爬虫類を思わせる縦に割れた瞳孔が人間離れしているのだ、肌は雪のように白く汚れを知らず、纏う迫力はどんな怪物よりも鋭い。
瓜二つの容姿をした二人は向かい合って両手を繋ぎ合わせて、頬を引っ付けながら老人を見下ろしていた、そうやって体を合わせている片方が鏡に映っているかのように錯覚してしまう。
二人で一つ、そう主張するかのように背中の翼は二人で分け合っている、片方に一翼、もう片方に一翼、体を引っ付けあってようやく一対の翼となっているようだ。
角に尻尾に翼、そんな姿を見れば、多くの者が彼女たちを悪魔と表現するはずだ、そしてそれは何も間違ってはいない。
この双子はまごうことなき悪魔であり、かつて魔神と呼ばれる存在が生み出した人間とは大きく異なる存在なのだ。
そんな悪魔は抱き合いながら、震えて頭を下げている老人の言葉を待っていた。
「真珠はなんとか揃えられました、塩の海賊を御する為の契約書もあります、後は復活させるだけなのですが……少し問題があります」
双子はまったく同じタイミングで首を傾げる、少しだけ不機嫌になったことを感じ取ったのか老人は更に深く頭を下げた。
「何が問題なのかしら、さっさと言いなさい」
「……少しばかりやっかいな相手がおります、キグナスと言う愚かな小娘なのですが、金と力だけは持っているので、後々邪魔になるかと」
小娘、と言った老人の言葉には隠し切れない嫉妬と歪んだ思いが込められていた、金に力に若さに時間、自分が持っていない全てを有している相手に向けられるのは醜い感情だけだ。
「別に放置しておけばいいじゃない、塩の海賊さえ復活すれば大した問題じゃないわよ」
「……い、いえ、しかし、万全を期すのならばお二人の力こそが」
ゾッと、老人は背筋を振るわせる、双子の悪魔から放たれる圧力が増したことを感じ取ったのだ、全身を氷柱で突き刺されたかと錯覚するような鋭い殺気が周囲にばら撒かれている。
相手を不快にさせてしまった、自分はここで死ぬかもしれない、言葉を間違えた、様々な後悔が老人に押し寄せるが吐いた言葉は戻せない。
もしかしたら双子の悪魔を都合良く動かしてしてキグナスを完璧に排除しようという企みが看破されてしまったのかもしれない、やはり悪魔を出し抜こうなど考えるべきではなかった、キグナスへの嫉妬が判断を鈍らせてしまったのだ。
死ぬ、老人はそう覚悟したのだが、枯れ木のような体は何時まで経っても朽ちることはなかった。
恐る恐る、岩の上にいる双子の悪魔へと視線をやると、先程まで漂っていた殺気は姿を消しており、二人はぴったりと体をくっ付けて激しいキスを繰り広げている。
呆然とその光景を見つめていると、老人を視界の端に捉えた悪魔が僅かに目を細めて汚らしい物でも発見したかのように見下ろしてきた。
「ぷはッ! なにアンタ、まだいたの?」
「お姉様、さっきからずっといましたわよ」
「そうだったかしら? あ、それよりもう日付が変わったわよね……じゃあ次は私が妹だからね、お姉様」
「あら、もうそんな時間だったのね、ふふふ、じゃあ今から交代しましょう」
そして双子の悪魔は再び激しいキスを繰り返して、老人の目の前だというのに互いの胸や股間に手を伸ばして貪りあう、その瞳には互いしか映しておらず老人の存在は完全に消え去ってしまっているようだ。
こうなってしまえばどんな言葉も届かない、枯れ木のような老人は自分の命が助かったことに安堵しながら静かにその場を後にする。
「……当てが外れたな」
キグナスが脅威だということは間違いないのだが、それは塩の海賊さえ復活すればどうにでもなると彼は考えている、問題なのはそうなる前にこちらの目的を看破されて正面衝突することなのだ、そうなればどうしても被害が大きくなるだろう。
だからこそあの双子の悪魔の力を借りたかったのだが、悪魔という存在は神々と同じくらい気まぐれで制御が難しい、覚悟していたことなのだが実際に対峙するとそれがよくわかる。
気分屋で、度し難く、意味もなく怒ることもあれば笑うこともあり、こちらの常識と計算の外にいて、子供のようでありながらその力は半神にすら匹敵してしまう。
なんとも扱いにくい存在だ、そう考えながら老人は懐から小さなコンパスを取り出す。
「まぁ、これを与えてくれたのだ、それだけでも良しとしよう」
握られたコンパスは本来ならば航海に使う物なのだが、その針は不規則に揺れ動いて方角を教えてくれない、その針が指し示すのは北でも南でもなくもっと別の何かなのだ。
悪魔を利用することができなかったので手持ちの戦力で事に当たるほかない、老人は欲望に歪んだ笑みを浮かべながらボートに乗って沖合で停泊している船を目指す。
「……少し計画を早める必要があるか」
枯れ木のような老人は淀んだ瞳で海を、そしてその向こうにある栄光へと視線を向けた。
そんな彼の姿を、人は悪魔と呼ぶのだろう。
波は穏やか、空も晴れている、船に括り付けられたクラーケンの死骸が僅かに異臭を放つが、それ以外は順調な航海だと言えるだろう。
島で一泊したキグナスの軍船は朝日と共に母港へと向かっていた、人魚たちが集める情報次第ではあるのだが、次は海賊との戦いの準備が必要なのだ。
戦いが確定しているとはいえ三人に出来ることはそう多くはない、キグナスの小間使いとして微力ながら支えになることくらいだろう。
島での宴会や海兵たちに褒美をばらまく彼女は始終難しい顔をしている、可能な限り表に出さないように注意しているようなのだが、それでも苛立ちを隠しきれていないのだ。
組織の代表者が簡単に感情をさらけ出すことは隙にも繋がるのであまり褒められたものではないのだが、キグナスのそんな態度は海兵たちにとって日常であるらしい。
今回の海賊騒ぎに限らず、商売が上手くいかなかったり海の魔物との戦いで大きな被害が出た時などは決まって不機嫌になってしまうようだ。
その苛立ちを他人にぶつけることなく原動力にすると周囲の人間は理解しているので、海兵たちにできるのは武器を磨くことくらいである、そして彼女の指揮の下で戦うことで機嫌を良くするのだろう。
今度の相手は海賊である、クラーケンと同様に戦い慣れている相手ではあるのだが、少しだけ毛色が違うことを海兵たちは感じ取っている。
「塩の海賊かぁ、まぁ海の戦士ならば一度はそう名乗ることを夢見るもんだ」
「そういえば何年か前に戦った連中も海龍の旗を掲げていたな」
「ああ、いたいた、でもあれは食い扶持に困った農民の集まりだったろ、船に乗り込んだらすぐに降参したっけ」
「なら今回も似たようなもんなんじゃないか、名前にあやかりたいって海賊は多いしな」
「だが連中は真珠を集めているんだろう?」
「その真珠で海底深くに封じられた塩の海賊が蘇るってか? 本当にそんなことがあり得るのかね」
「さてね、まぁもし復活したとしても何か問題があるのか?」
「そりゃお前、塩の海賊っていえば海を自在に操って大津波を起こすとかなんとか」
「酒場で吟遊詩人が歌ってたなぁ……あれ、俺が聴いた時は塩の槍を作って投げつけてくるとかだったような」
海兵たちは船の上で各々の仕事を果たしながら塩の海賊のことを話していた、彼らもまた吟遊詩人の歌以上の情報を持ち合わせてはいないのでどこか掴みどころのない影を追うかのような感覚だった。
それぞれの頭の中に想像上の塩の海賊がいる、力も容姿も脅威も一致しないので、やはり空想上の存在でしかないのだ。
ここに当時を知る存在がいるのなら声を荒げて注意したのかもしれないが、二百年もの時間を生きる者など船にはいない。
結局のところ、彼らにとって塩の海賊とは大昔の存在でしかないのだ、どれだけの力を持っていようとも、どれだけの血を流したとしても、遠い歴史でしかないのだろう。
ただ塩の海賊がかつての半神だと聞かされて動揺したのは三人娘だ、彼女たちは半神がその身に宿した力の大きさを嫌というほどに理解させられているのだから。
「海神の半神ってことだからさ、やっぱカムラーンみたいな奴なのかな?」
「……強敵」
「どうなんでしょうね、あの方は武神ですから海の神様と比べても意味はないかもしれません」
「ああそっか、ミカは半神だったけど強くはなかったもんな」
単純な武力のぶつかり合いであればカムラーンに勝てるような存在は大陸を見渡してもいないだろう、しかし彼にはミカエラのように異性を惑わすような力は持っていない。
それはミカエラにも同じことがいえるだろう、彼女には半神であっても敵を蹴散らすような力はないのだ。
そう、例え神々にどれだけ愛されていようと、その力の在り方は神々が持つ力に左右される。
海の神がどれほどの力を塩の海賊に与えているのか計ることは難しいが、武神や戦神のように戦いを司る神々と比べれば、その力の方向性は異なることは間違いない。
海神に愛される、即ち海に愛されるということであり、それは一騎当千の戦士を生み出すということにならないのだ。
しかし油断は禁物だろう、三人は半神の恐ろしさをよく理解しているのだから、そこだけは間違えてはいけない。
「まぁ、本当に塩の海賊が復活したのなら、半端な相手じゃないだろうな」
シャルルは自らの剣をその手で撫でる、カムラーンに一撃を与えた時の感覚をなんとか思い出そうとするのだが、さすがにあの頂へはまだまだ遠い。
神の膝元なら中途半端な半神になれるのだが、海の上ではそう上手くいかないだろう、戦神が太っ腹なことを期待するしかないようだ。
「復活しないのが一番なのですが」
「……あまり期待しないほうがいい」
「だな、団長がよく言ってるじゃないか、世の中面倒ごとの方が多いって」
嫌なことを言わないで欲しいとエミリーは思ったのだが、キャロルはシャルルに同意するように頷いている。
神々というのは気まぐれで暇なのだ、必ずしも人々の味方になる訳ではないし、都合よく動いてくれる訳でもない。
その方が楽しい、そんな理由で塩の海賊を復活させる未来を選んだとしても不思議ではないのだ。
「……ん?」
神々の気まぐれさに苦笑いを浮かべた頃、港も近くなってきたので船内が騒がしくなってきたのだが、そんな時にキャロルが僅かに眉をひそめた。
「キャロル、どうしたんですか?」
「ん……焦げ臭い」
それは潮風に乗ってキャロルの鋭敏な感覚に捕まった、五感の鋭い彼女は様々な状況で危機を察知することがあるのだが今回も同様だ。
何かが焼けて焦げる匂い、海の上ではあまり嗅ぐことのない匂いを感じ取って三人は周囲を見渡すと、それと同時に船内に大きな鐘の音が鳴り響く。
帆柱の頂上、監視塔になっているその場所から海兵が港を指さしながら鐘を打ち鳴らしている、数は三度なので戦闘準備を知らせていた。
「なんだってんだい!?」
その警戒音を聞かされて船内からキグナスがサーベル片手に飛び出してくる、そして海兵が指さす方向へ視線をやると、そこに炎の輝きを見つけてしまう。
「船長! 港街から火の手が上がってやがる! それも一つじゃないみたいだ!」
「火事じゃないんだね!?」
「遠くてハッキリとはわかりません!」
そこでキャロルが帆縄を素早くよじ登って港街を観察した、弓兵に不可欠な高い視力に加えて神への祈りを合わせれば数キロ先の出来事も認識することができるのだ。
その瞳に映されたのは焼け焦げる街と傷つき倒れる住民たちだ、キャロルはいち早くそれをキグナスへと伝えると海兵たちへの檄が飛ぶ。
「どこのどいつか知らないがウチの縄張りでいい度胸だ……野郎ども、船を全速力で走らせな!」
港街から上がる炎と黒煙は大きい、接近するにつれてその被害の規模も鮮明になってきた、倒れ伏す海兵や逃げまどう住民たち、必死に消火しようとバケツリレーをしている漁師たちもいるようだ。
だがこの惨状を生み出した下手人の姿が見当たらない、ここにいるのは被害者だけらしい。
「姉さん! お戻りになられましたか!」
けが人を担いで安全地帯に運ぼうとしていた海兵がこちらに駆け寄ってくる、どうやら彼はキグナス商会の一員のようだ。
「何があったんだい!?」
「海賊でさぁ! いきなり現れて街に火を放ってあっという間に逃げやがった!」
ギリっと歯を噛みしめるような音がキグナスから発せられた、わなわなと震える手はサーベルを握っており、行き場の無い怒りが周囲へと漏れ出てしまっている。
ここで暴れだしても不思議ではないほどの雰囲気だが、相手がいないので怒りのやり場がどこにもない、溶岩のように煮えたぎり爆発寸前の感情は、大きな深呼吸と共の胸の奥へと消えていった。
そして深く長い溜息を吐き出した彼女の顔は無表情だ、荒れ狂う憤怒の上に商会長としての仮面を被っている。
「ありったけの人手を集めな! 消火と避難を急がせろ!」
海兵と彼女の姿を見つけて集まってきた手下たちに次々と指示を飛ばしていく、そしてエミリーたちにも声をかけてきた。
「アンタたちは歓楽街の方を頼むよ、そこで消火作業の救援を呼んできておくれ」
「はい、わかりました、そちらもお気をつけて」
状況が迷いを許してくれない、海賊は既に立ち去った後のようだが未だに火事は広がっており、ケガ人は時間が経つにつれて数を増やしていくだろう。
炎をかき消すには何よりも人手が必要になってくる、そちらは海兵や漁師に任せるとしても、有事の際の避難所や仮設病院の設置などやるべきことは多い。
小間使いとしてやるべきことはその為の連携、つまりは伝令と情報共有である。
歓楽街のど真ん中にある下手な貴族より遥かに大きな屋敷、キグナスの本店に駆け込んだ三人は被害状況の確認と人手の有無、そして大量のケガ人が存在するであろうことを伝えると、支配人であるキグナスの腹心が直ぐに手配してくれた。
薬はある、食糧もある、そして避難場所、幸いにも歓楽街まで火の手は伸びていないので広場の屋台や椅子をどかしてテントを広げて即席の病院とするのだが、そこに火の手が伸びるのも時間の問題だろう。
少しばかり強引に行くしかない、そう呟いた支配人は集まった人手に向かってこんな指示を出した。
「全体に燃え移る前に周囲の建物を壊してください」
そこでどんな人物が暮らして働き、どれほどの財産があるのかエミリーたちには知ることが出来ない、多くが酒場や娼館だったので同じだけの数の職が失われることになるだろう。
自らの仕事場が有無を言わせず粉砕されるのだ、涙を流す娼婦や、小遣い稼ぎの仕事をくれる酒場が壊されるのを見て涙を流す子供、それらが必死にやめてと叫ぼうとも、それは敢行された。
エミリーとて同じだ、後ろめたさを感じようともその魔法で建物を吹き飛ばすことを躊躇しない、シャルルは解体用のハンマーを振り回し、キャロルは屋根の上から火の手の様子を観察して解体の指示を出している。
彼女たちはここで迷うような教育など受けてはいないのだ、優先すべきは生存と利益である、キャラバンでの生活では常にそう教えられてきた。
切り捨てられる側に思うところはあるのだが、この歓楽街に住まう全ての者を巻き込むことはできない。
神ならざる身で全てを救うことなど出来るはずがなく、ならばせめて両手が届く範囲は救いたい、それが今の彼女たちの限界なのだろう。
幾つかの建物を破壊して、何百人ものケガ人を広場の仮設病院に担ぎ込み、大量の包帯や薬を輸送して、気が付けば日が沈みそうになっており体が沼に沈んだかのような疲労感が蓄積された頃、三人はようやく一息つくことができた。
三人は汗と煤に塗れて広場の椅子に座り群青の空を見上げる、どうやら火の手は完全に収まったらしく、僅かにくすぶっているだけのようだ。
疲れ切っているのか声も出さない、そんな三人に水と食料を届けたのは同じように忙しく走り回っていたミカエラだった。
「お疲れ様です、あの、これ、支配人が持って行けって」
「お~、ありがとなミカ……そっちは大丈夫か?」
「ん……怪我はない?」
「はい、海賊が暴れまわったのは街の中心部でしたからこっちまでは……ようやく火事も収まりましたよ」
シャルルは手渡された水をがぶ飲みして、半分は頭から被った、それでも体の奥から生まれる熱は消えることなく火事のようにくすぶっているようだ。
彼女だけではない、エミリーもキャロルも苛立ちと怒りが静かに燃えていた、それは勿論この現状を作り出した海賊たちへと向けられているのだろう。
真珠を得る為に海賊と戦う覚悟だったのだが、どうやらもう一つの理由も生まれたらしい。
「あ、そうだ、さっきキグナスさんが本店に顔を出されてましたよ」
「何かおっしゃられてましたか?」
「えっと、被害の確認と人手を知りたがってました……なんだか大きな会議が開かれるとか、後は船の整備を急がせろって」
「あぁ……なら直ぐに海賊と戦えそうだな」
「……腕が鳴る」
三人は広場から見える港へ、そしてその向こうにある大海へと目を向ける、その先にはこの被害をもたらした海賊の背中があるのだろう、ならばやることは一つしかない。
かつてこの国を作り発展させた人々の言葉を借りるのならば、彼方にこそ栄光ありだ。
その海の向こうにこそ、目的が存在する。
戦いは、目前にまで迫っていた。