商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
会議はいつも通り紛糾していた、海賊たちによる港街への襲撃に加えて火事による被害が目を覆いたくなるほどに大きかったのだ、金を稼ぐことにかけてはとてつもなく優秀な彼らはどれだけの資金がその手から零れ落ちたかを考えて顔を青ざめさせている。
この会議所にいるのは全員が商人だ、多少の勢力差や派閥の違いはあれど、誰もが金貨によだれを垂らすことを是としている連中ばかり、そんな彼らにとって今回の損害は許容しきれるものではないのだろう。
一枚でも多くの金貨を、一握りでも多くの銀貨を、ちょっとした釣銭だって細かく調べる、それが商人でありそうでなければ商人等と名乗れない。
稼ぐことが絶対の正義であり、損をすることは絶対の悪である、それこそがこの場にいる者たちの共有する価値観なのだ。
だからこそ、今回の海賊による被害は絶対に許すことはできない、土地を汚されたというだけではない、海賊たちは彼らの正義と誇りを踏みにじったのだから。
「傭兵を搔き集めろ! 船もありったけ用意しろ!」
「そうだ、海賊たちの首を港に並べてやれ! この蛮行のツケを払わせてやるんだ!」
そんな言葉が出るのも無理はない、焼き払われた倉庫や船には大量の物資が保管されており、それは彼らの血肉ともいえる金貨へと姿を変えるのだ。
怒らずにいられようか、苛立たずにいられようか、商人であればあるほどに感情は激しく波打ち、この場で声を張り上げて少しでもストレスを発散しなければ気が狂ってしまいそうだ。
襲撃と同時に海賊たちに奪われた物資は庶民が数代は遊んで暮らせる額になるだろう、この場に集う商人たちにとっては稼ぎの一部に過ぎないのだが、例え銅貨一枚であっても損はしたくないと考えるのが商人なのである。
普段ならばもう少し理性的な話し合いが繰り広げられる会議所は、ならず者の集会かと勘違いしてしまうほどに荒れてしまっているのだが、それも仕方がないだろう。
誰もが血を求めている、海賊たちの首を求めている、それ以外にこの荒れ狂う感情を鎮める手段は見つからなかった。
ただ問題がある、それは感情だけでは片づけられない問題だ。
「戦力を集めるとして、どれだけ揃う?」
「船もだ、幾つか焼かれてしまったな」
冷静な意見も飛び交った、しかしそれらも怒りの感情がない訳ではなく、比較的年配の者たちは感情というものを上手く隠すことができているのだろう、その薄皮を剥げば今にも暴発しそうな憤怒があるのだが、それでも表に出しはしない。
感情だけが先行して現実を直視しないのは最も愚かな商売だ、それをここにいる者はよく理解している。
声を荒げて感情をさらけ出していた幾人かの商人も、大きな深呼吸をしてようやく席に座った。
「金は……商人会で寄付を募るべきかと」
「まぁそれしかあるまいな……傭兵は、その金で頬を殴れば嫌とは言うまい」
「問題となるのは船だな、それも軍船だ」
「貿易船を一時的に使ってみてはいかがか?」
「無いよりはマシだろうが、速度も強度も足りんぞ」
「海賊たちの戦力も気になるな、その辺りはどうなっておるのやら」
そこで声を出したのはキグナスだ、他の商人同様に無表情の仮面を被って情報を提供する。
「それに関してはついさっき人魚たちから報告があった、連中のアジトと規模もある程度は把握できているよ」
「ふむ、さすがに仕事が早いですな……それでいかほどか?」
「アジトは大陸間にある島の一つさ、規模は大型軍船が六つに、大型輸送船が二つ、海賊の頭数も多い」
「軍船が六つだと!? 海賊がそれだけの戦力を有していると?」
「事実であるとするのなら、それは大した数だと言うべきであろうな」
船を動かすには大量の人員が必要となる、大型船であれば更に人手が必要だ、ここに集まる商人たちはその稼ぎが自他ともに認められた金持ちばかりであり、そんな彼らであっても大型船を複数運用することはできない。
その為には大量の金貨と時間が必要であり、それならば手ごろなサイズの船を複数運用した方がずっと手を長くできる。
では海賊たちはどうだろうか? それだけの戦力を運用できるだけの数と金と訓練時間はどうやって生み出したというのか、金勘定が得意な彼らにはそれがわからない。
当たり前だが何もかもタダで動かすことはできない、海賊だって腹は減るし水も飲む、船だって整備が必要であり、動かすには高度な訓練が必要だろう、その為の物資や時間は無から生まれる訳ではないのだ。
「海賊たちに支援者がいるようですな」
そう判断するほかない、誰かが海賊を支援しているのだ、そうでなければ説明することができないだろう。
数も、船も、訓練時間も、ここまで来れば海賊というより軍隊と評した方が正しい、そんな組織はならず者には作れない。
「別大陸の勢力だろうか? これを機にこちらに進出したいとか」
「いや、この国や街の利権に食い込みたい内陸部の連中の可能性もある」
「怪しくなってきましたな、ただの海賊騒ぎとは毛色が違う……政治が絡むといつもこうだ」
この国は軍隊と呼べるような組織は存在しない、あるのは商人たちが個人的に保有している私兵であり、雇っている傭兵が主となっている。
それで他国との交渉や貿易はどうやっていたのかと説明すれば、それは金の力であると言えるだろう。
傭兵を大量に雇うこともそうであるのだが、賄賂や貢物なども金があるからこそできるものなのだ、そうやって有り余る財貨を振り回しながら自分たちと戦うのは不利益が多いと理解させることが、この国の外交である。
誰が黄金の果実を生み出してそれを献上する相手をわざわざ潰すだろうか、仮にそんな国が存在したとしても金の力で解決すればいい。
敵対国と言えど一枚岩であることはありえない、その国の貴族との交流は商人なのだから当然ながら持っている、借金をチャラにしたこともあれば万病に効く薬を譲ったこともある、そうやって相手の利益となることでこの国は戦乱から一歩離れた立場を築いている。
それで問題は無かった、利益と不利益を天秤にかけてそれでも戦うような相手はただの愚か者でしかない、しかし今回の相手は違うようだ。
街を焼き、略奪を繰り返し、そして死をまき散らす。
多少なりとも頭が働くのならそんな真似はしない、その前提が崩れてしまっている。
殴りかかって来る相手に金で交渉できるのならどれほど良かったか、それはつまり対話が可能であり、それならば相手の利益を与えて上手く誘導してやればいい。
最初から対話を吐き捨てて利益を無視して行動する相手は、商人たちが最も苦手とする相手だ。
「連中は……この街を焼いたんだ」
この会議に参加している全員が僅かばかりの迷いを見せている、理解不能な相手と戦わなければならないのでいつも通りの手段が使えないからだ。
銭袋で相手を殴りつける、それができればどれほど楽なことか。
だからこそ困惑している、商人の最大の武器が通じないのだからここにいるのは只の人間でしかない、そんな彼らの戸惑いを断ち切るかのようにキグナスは声を張った。
「倉庫街も焼かれた、歓楽街にも火の手が回ったそうだ、船も焼かれて、人も焼かれた」
ああ、どれほどの怒りがこの場に凝縮されているだろうか、それぞれの商人としての仮面の下には街を焼き焦がした炎よりもずっと熱い憤怒が隠されているのだ、その感情に蓋をすることなど出来るはずがない。
どれだけ議論を重ねようとも、やるべきことは一つしかない。
「奴らが奪った物資を取り返す、奴らが攫った住民も奪い返す、そして二度と舐めた真似ができないように徹底的に滅ぼす……何百年先にまで語り継がれるくらいに残酷にね、そうすれば二度とこの海で海賊はのさばりはしない」
キグナスの言葉はその場にいた全員の思いの代弁だ、反対意見など出るはずがない。
少なくともキグナスはそう考えている、唯一反対しそうな相手は上座にいる枯れ木のような老人だけだろう。
彼と彼女は敵対関係にあると言っても過言ではない、お互いに隙があれば相手を蹴落としたいと考えており、機会があればその商圏を奪いたいとも思っている。
どんな経緯があってどんな因果があったのかは既に忘れてしまっている、もしかしたら最初から反目していたのかもしれない……どうであれ互いが互いを敵だと認識しているのは間違いないだろう。
キグナスが儲けを出せば歯ぎしりして、彼女が事業を広げれば邪魔をする、会議で発言すれば横やりをいれてくるのだ、きっと枯れ木の老人はキグナスがリンゴを手に取って「これはリンゴだ」と説明しても否定するだろう。
理屈ではない、理性ではない、どす黒い感情だけで行動する老人は、女であるキグナスとは違う意味で商人会から一歩距離を置かれているのだ。
それでも彼がキグナスの正面にある上座にいられるのは、その歴史と血のなせることだろう。
建国の祖である海運王、この地の設立者にして唯一の王、老人は今は亡き王族の直系であるからこそこの場にいられるのだ。
既に王権は衰えたとはいえ、その血を尊敬する者は少なくない、金が全てと言い切る商人の中であってもそれは同じだろう。
老人の配下にある稼ぎはそこまで大きな規模ではない、この商人会の集まりの中では中堅どころだろう、商会は新進気鋭の若手に押されて年々衰えており、まるでその姿は老人の体と同じように老い先短い雰囲気があった。
何れは完全に屍を晒すことになるだろう、それはもしかしたら老人の衰退と同じ時になるかもしれない。
それでも王の血筋、高貴なる歴史、だからこそこの場にいられるのだ……だからこそ若く勢いのあるキグナスを目の敵にしているのだろう。
今回もそうなる可能性があるかとキグナスは身構えた、何を言ってどんな道理で説き伏せようとも、この老人は自分の邪魔をしてくるのだ、この状況においてもまだそんな呆けたことを口走るのならば、いよいよ首を落とす頃合いかもしれない。
そして市民にはこう発表するのだ、かの御仁は老衰なされたと。
文句は出ないだろう、この国の現状において王族の血がなせる技などありはしないのだ、その歴史が失われたことを嘆くものが少なからずいるだろうが、ここは貴族や王族ではなく商人の国である、何も問題はない。
その時に備えてキグナスは腰のサーベルに手をかけるのだが、その必要はなかったらしい。
「商人会、そして街が一丸となって海賊を排除すべきであるな」
「おお、ご老公もそうお考えか!」
「無論だとも、ここで臆せば我らが誇りと在り方を汚されたままだ……海賊どもの首を並べてこそ全ての屈辱が雪がれる」
「珍しいねブランジュー・ベルシュア……アンタがまともなことを言うなんて……てっきりボケたもんだと思っていたんだが」
「キグナス嬢、我らは事あるごとに敵対していたが、それでも同じ場所に住まう同志であることには変わりあるまい? この地が海賊どもによって汚されたのならば、それは我々全員の血が流れたも同然よ、ならばなぜ報復を躊躇する必要があるのだ」
「普段からそう心がけて欲しいもんだよ……だがまあ、これで方針は固まったね」
奇妙なこともあるものだ、道理も理性も存在しないこの男が自分の方針を肯定するなんて、キグナスはそんなことを思ったのだが、さすがにこの現状では反対意見など意味がないことを理解しているのだろうと納得した。
何より優先すべきは私怨ではなく全体の利益である、ならばやるべきことを進めるだけだ。
この場で考えなければならないことは多い、どれだけの戦力が必要であるかは、つまりどれだけ金が必要であるか同じ意味なのだ。
船に食糧に支援体制、武器の数に情報共有に海賊対策、決めなければならないことは山積している。
手を抜けるはずがない、彼方にこそ栄光ありだ。
戦いの前の空気をシャルルは嫌いではない、戦士であるのだからそれは当然だ、まして大きな戦いともなれば興奮を止められる訳がなかった。
戦闘狂と呼ばれるのかもしれないが、こればかりは戦士の性であるがゆえに止められない、もしかしたら勝利の美酒に酔うよりも、こうやって作戦を考えたり準備を整えたりする時間の方が好きなのかもしれない。
本番よりも、勝利や敗北よりも、徐々に膨れ上がっていく熱が、手足を温めていくこの瞬間が堪らないのだ。
シャルルにとってのこの時間は、悪戯好きの子供がニヤニヤしながらどう落とし穴にかけてやろうかと夢想するのに近いのかもしれない。
一歩進む度に鼓動は高鳴る、どう戦おうか、どう剣を振るおうか、そんなことを思うたびに熱は膨れ上がっていった。
隣を歩くエミリーはそんなシャルルの考え方は理解できないらしい、興奮気味な仲間の背中を少しだけ呆れたように見つめている。
シャルルとは逆にキャロルは目に見えて興奮はしていないようにも思えるのだが、彼女の場合は表に出さないだけでしっかりと熱を帯びている。
戦士の性なのだ、こればかりはエミリーには理解できなかった。
だが言葉にして否定することはしない、それはシャルルとキャロルだけが特別という訳ではないからだろう。
周囲を見渡してみると、傭兵や海兵の姿が多く見受けられる、そんな彼らもシャルルと同じように高ぶる熱をその逞しい体に封じ込めているのだ。
後は本番で爆発させるだけ、中には先走って荒々しい雰囲気を纏ってけんか腰になっている傭兵もいるのだが、それはごく当たり前の光景だといえるだろう。
今現在、彼女たち三人が、そして傭兵や海兵がいるのは大陸と大陸の間にある交易島である、島というには面積が広く、人口や産業が多いので田舎という雰囲気は微塵も感じられなかった。
それもそうだろう、ここは大陸間のど真ん中、東から西へ行くにも、北から南へ行くにしても、この島にある港を経由することが殆どなのだ、重要度が大きくなれば限りある資源を投資するのは当然の流れであり、ここには港もあれば造船所もありそれらを支える人口もある。
村ではなく町と評すべき規模だ、何せ二十もの軍艦と十隻もの輸送船、それらを操る海兵や積み荷、傭兵たちを受け入れるだけの余裕がこの島にはあった。
港町は大いに賑わっている、大量の男手が一度にやってきて酒場や娼館は満員だ、あぶれた者たちが戦いの前の興奮を抑えきれずに不逞を働いたという報告を受けて、キグナスが苦い顔をするくらいには混乱もある。
誰もかれもが目前にまで迫った戦いを意識しているのだ、なにも興奮しているのはシャルルとキャロルだけではない。
あの港街は焼かれた事件を受けて、商人会の判断は迅速かつ的確であったといえるだろう、迅速に金と船と食料と戦力を搔き集めてその日の晩には海賊征伐を市民に向けて発表したのだから。
自らの生命と財産、そして誇りを踏みにじられた市民はそんな商人会の代表たちを歓迎した、政府がそれを決めて市民が反対しないのならばただただ早かった。
キグナスの軍船を中心に各商人が持ち合わせている船を合わせて、それらを支える食糧や武器を運ぶ輸送船を整え、ここに艦隊が誕生したのだ。
目指すべきは海賊の首、キグナスが中心となっているのでその看板の下にいる三人にも声がかかった。
だからこそ彼女たちは傭兵や海兵に交じってここにいる、諸々の準備は既に終わっているので戦闘員である彼女たちは戦いの鐘が鳴るまで町を見て回ることしかできない。
観光、とは少し違う、どちらかといえば興奮して浮足立っているシャルルとキャロルの暇潰しにエミリーが付き合っている感じだろう。
逞しい海兵や傭兵の中にあって彼女たち三人は女である為に異質な存在感を放ってしまっているのだ、言葉を飾らずに端的に言えば男たちの欲望を向けられていた。
男所帯のこの状態ではそれも仕方がないだろう、熱っぽい視線を向けてくる男の中には娼館に客として訪れた者もいるので三人が娼婦として働いていたことも既に広まっているらしい。
男女の交わりを行って顔見知りになっている相手もいるのだ、そんな男がエミリーのキスはどうだったとかシャルルの胸やキャロルの膣の具合はどうだったかと酒の席で盛り上がっているのだから彼女たちとしては少しばかり気恥ずかしくはあった。
だから街を歩いているとこんな言葉をかけられることも珍しくない。
「よう嬢ちゃんたち、今晩空いてないか?」
「実は町の娼館が一杯で入れなくてさ、よければどうだい? チップは弾むからさ」
「どれくらい出せばヤラせてくれるんだ?」
まあこんな状況なのだ、戦いの前の高ぶりもあってか積極的な声が多い。
娼婦として無許可で働くと多方面から顰蹙を買うことが多いので、働くのならば娼館で正式にと伝えてはいるのだが、この町の歓楽街はあの焼かれた街にある娼館程の数がないので何人かがはみ出てしまっているのだろう。
そんな彼らが三人に声をかけるのは当然だった、娼婦として働くことが板についてきた三人であるが時と場合を考えなければならない……何より他所の仕事場を荒らすことは避けたかった。
なので船が停泊している付近から離れて町を歩いているのだ、おそらく今晩は船ではなくどこかで宿を取ることになるだろう。
「アイツらしつこかったなぁ」
「ん……でもしかたない」
「娼館はどこも人が溢れてるし、まぁこんだけ男がいればそうもなるか」
三人で並んで歩きながら、手には屋台で買った焼き菓子が握られている、シャルルがそれを頬張りながら視線を向けた先は娼館であり、普段以上の賑わいを見せていた。
「あんだけ人がいるんだし仕事を取ることにもならないんだからさ、別にワタシらが相手しても良かったんじゃないか?」
「……チップも言い値で貰えた」
そんなことを言う二人をエミリーは窘める。
「さすがにそれは難しいのでは? 娼館からあぶれた殿方は少なくありません……私たち三人でそんな大勢の人は受け入れられませんよ」
「ん~……難しいか?」
「……十人くらいならいける」
「おそらく百人はいますよ」
百人近い男に囲まれて輪姦される姿を想像してみると、それはさすがに難しいと理解できた。
「今夜は宿に泊まりましょう、船で休むと襲われてしまいますからね」
「それは困るなぁ、タダで抱かれるのは嫌だ」
「……同じく」
「私も同じ思いです……ただ問題となるのはその宿ですね」
宿に泊まると言ってもこの状況では簡単ではなかった、そこそこの人口があって人や物の行き来が頻繁に行われているこの島の港町であるのだが、大量の海兵と傭兵が一度にやって来た為に少なくない混乱があるのだ。
容量ギリギリまで水が満たされた器の様にこの港町は人で溢れている、そうなると宿一つ予約することも難しくなってしまう。
海兵や傭兵だって目の前に町があるのだから、波で揺れる船の中よりもそこで眠ることを選ぶだろう、特に船上での生活に慣れていない傭兵はその行動が顕著だった。
娼館は勿論、町にある宿屋も予約で一杯だろう、歩きながら既に幾つかの宿を訪ねたのだが良い返事は未だに貰えていない。
だからといって船に用意された部屋は難しい、先程の想像が現実になってしまう。
キグナスに相談してみようかと考えてみるが、彼女は商人会の会議と艦隊の指揮や準備で忙しい、まともに眠る時間も無い相手にこれ以上の疲労は与えたくない。
どうしようかと三人で悩んでいると、シャルルの瞳に人で溢れた歓楽街の中であって少しだけ寂しさが残された場所を発見することになる。
「あそこはどうだ? ほら、あの娼館」
「あそこは……ええっと、確かに空いているように見えますが……で、でもあれは……」
「ん……娼館、それも男娼の」
掲げられた看板は確かにそう書かれている、だからこの状況であっても人が少ないのだろう。
いや、少ないというのは違う、おそらく常連と思われる妙齢の女性やおばさまらしき姿があり、それなりに若い女も来店しているようだ、そんな中にあって海兵や傭兵の男が男娼目当てに普段とは異なる賑わいに花を添えている。
「あ、あの方たちは、その、男性同士でということですよね!? つ、つまりそれは、ええっと、どうやってことを為すというのですか!?」
「エミリー少し落ち着け、そういう奴もいるらしいぞ……そもそもお前だって女同士で乳繰り合うのが好きじゃないか」
「ん……それと同じ」
「そ、それは……そんなハッキリ言われると恥ずかしいのですが……うぅ、否定できません。つまり殿方が殿方とキスしたりするんですね、なるほど、それはそれは」
ほぅ、ほぅ、と何やら納得したかのように赤い顔で頷きながらエミリーは興味深そうに娼館を覗き込んでいる。
「キスっていうかさ、ケツに突っ込むんだろ……いや、突っ込まれるってこともあるのか」
「……後は……舐めたり?」
「殿方が殿方の……アレを? そして、お尻に?」
頭の中で思い浮かべるのは男女の交わりではなく同性の交わりだ、女同士で肌を重ねることは三人で経験しているのでわかるのだが、男と男では上手く想像できない。
ただ興味はあるのだろう、三人は厳つい傭兵が幼い男の子を二人指名すると、その手を引いて娼館の奥へ消えていく背中を見送った。
様々な愛や肌の合わせ方があるものだ、そう納得するほかなかった。
「それでどうするんだよ、他に宿は空いて無さそうだしここにするか?」
「……私は興味がある」
「つ、つまり男娼を買うと?」
「そりゃそうだろ、娼館なんだからタダで泊めてくれなんて言えるわけないし……それとも船で休むか?」
三人の視線は娼館へと向けられ、そして客引きをしていた幼い男の子たちと目が合った。
年齢は、おそらく自分たちよりも少し年下だ、背も低く男になりきれていない者が殆どであり、幼い容姿がよく目立つ。
「……可愛い」
キャロルのその言葉が最終的な判断となった、恥ずかしさもあるが好奇心の方が強かったのだろう。
三人はその男娼たちへ声をかけて、チップや入場料を確認すると、店内へと入っていくのだった。