※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

243 / 287
第三十三話 黄金帝国 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝国が今のように大きくなる前の話だが、当時はまだ様々な小国が入り混じる群雄割拠の時代だったんだ」

 

 

 

 エヴァが魔術院の玄関に置かれていた猫の守護像の頭を撫でてから中へと入っていき、早歩きのままそんなことを言いだす。

 

 

 

「神々と対話した初代皇帝は帝印を受け取ってその権威を背景に同盟や婚姻などを繰り返して勢力を伸ばしていったんだが、中でもとある小国と同盟を結んでからは大きな躍進を遂げた」

 

 

 

 まるで歴史の授業でもしているかのような口調であった、魔術院の奥に進むことと何か関係があるらしい。

 

 

 

「魔術が盛んに研究されていた国でね……私は魔術師でも何でもないので詳しい原理などはさっぱりだが、当時の帝国はその国と同盟を結んで得た魔術を使って成長したとされている」

 

 

 

「何かの大魔術や大儀式でも行ったんでしょうか?」

 

 

 

「いや、帝国黎明期の話であるのならば最低でも千年は前の時代だろう、その当時はまだ魔術と称せるほどの分野ではなかったはず……大魔術など奇跡の領域だと思うのだが」

 

 

 

 エミリーとミューも帝国が行った古い魔術と聞いて興味を寄せていた、昔の、それこそ古代と呼べるほどの時代は今の洗練された魔術とは少し異なると学んだからだろう。

 

 

 

 知的好奇心を刺激されているが、今は学術的興味よりも優先しなければならない状況である、喉から手が出そうな感覚を抑え込みながら先を促す。

 

 

 

「その通りだ、大魔術であることは間違いないだろうが、それは大規模な現象を巻き起こすようなものでもなかった……ただ極めて有用なものであったことは歴史が証明してくれている、この帝国の繁栄がね」

 

 

 

 魔術院の最奥、様々な研究施設や教室などを過ぎ去り、どこかの要塞を思わせるほど重厚な扉の前に立つと、誰が押した訳でもないのに勝手に扉が開く。

 

 

 

「さっきも言ったが当時は戦国時代だ、争い奪うことこそが国家戦略であった、そんな中で帝国は同盟と婚姻に加えて大規模な労働力を使った生産力を持って時代の荒波を乗り越えたらしい」

 

 

 

 最奥の扉の向こうには無数の幾何学模様で埋め尽くされた空間であった、どこか聖都にある天剣の間に似た雰囲気がある、ただしそこにあるのは幾何学模様だけでなく帝国の至る所で確認できる守護像が幾つか並んでいた。

 

 

 

 ただし中央にあるのは星空の剣ではない、人の頭ほどはある美しい結晶であり、細長い台座の上に大きな結晶が鎮座しており何かのトロフィーのようにも見える。

 

 

 

 結晶を覗き込んでみると、その中にも無数の幾何学模様が浮かんでおり、それぞれが美しく輝いており星の輝きを宿しているようにも認識できるだろう。

 

 

 

「わかりやすく言えばゴーレムと言う奴だよ、その小国では戦争で失ってしまった大量の男手を動く像で補おうとした訳だ、そこに帝国も賛同して繁栄への道を開いたということさ。ゴーレムを使って大量の労働力や戦う為の戦力を作ったのが帝国の原型、そして始まりでもある」

 

 

 

「ゴーレムですか、なるほど……もしかして帝国中にある守護像は」

 

 

 

「エミリーが察した通り、あれらは名残だね、その当時の文化が今も残っているんだ。家や畑に守護像を飾るのは単純な歴史的な風習ではなく、文字通りの意味で守護を担う存在だったからこそさ」

 

 

 

「ふむ、だが今では動くことはないようだが」

 

 

 

 少なくともミューが帝国に来てから一度として動いている守護像、ゴーレムを見たことがない、家の入口や屋根に飾られている様々な守護像も本当に風習の名残でしかなかったのは間違いないだろう。

 

 

 

「色々あったのさ、ゴーレムは有用だがそれだけで全てが解決する訳でもないし、戦国時代が落ち着いて人口爆発が起これば民に戦争以外の仕事も必要だ、ゴーレムは有用だが民の仕事を奪うことが予想されて、特に単純な労働力の分野では人間などそもそも必要がなくなっていた……だから用途を絞った、有事の際の防衛だけに」

 

 

 

 大量の民に仕事を与える為に、敢えて便利なゴーレムを封印することを選んだということだ、ただ全てを捨て去るのはあまりにも有用なので、エヴァが言った通りの機能だけが保管されたらしい。

 

 

 

 今となっては守護像にそんな機能が搭載されていると知る者など極めて少数だ、皇族や国家運営を担う官僚の一部が記憶の片隅に留める程度だろう。

 

 

 

 ゴーレムが様々な事情で封印されて以来、ただの一度としてそれが求められるような事態にはならなかった、近年に起こった内乱の時でさえこうして起動させることはなかったのだから、今の異常性がよくわかる。

 

 

 

「では守護像を動かして戦力を増やすということですね」

 

 

 

「うむ、上手く行ってくれれば良いのだがな、何せ本格運用するのは少なくとも数百年ぶりだ。守護像の製造は魔術院で次々行っているし、その度に魔術は更新されているらしいのでそこまで心配もしていないが……」

 

 

 

 少しだけ、彼女にしては珍しく緊張した様子を見せている、こればかりは初めてのことなので仕方がないだろう。

 

 

 

 台座の上にある幾何学模様を宿した結晶に掌を置いて、エヴァは懐から護身用のナイフを取り出す。

 

 

 

 そして鋭い切っ先で手の甲をなぞり、深紅の血を垂れ流すのだった。

 

 

 

「エヴァさん……」

 

 

 

「心配ない、薄皮一枚程度だ、それに鍵代わりでもあるから必要な行為でね」

 

 

 

 守護像の運用には皇族の血が必要なのだろう、今の時代にそれが行える者は何名かいるのだが、エヴァ以外では難しいらしい。

 

 

 

 皇帝に権力が集中しないように考えられて、いざという時の抑止力にもなるようにとどこかで考えられたのかもしれない、そしてこの結晶の台座に鍵として登録されているのはランポッサでもなくアスラでもなく彼女である。

 

 

 

 帝印を使える権利があるのがランポッサであり、守護像の運用をする権利は彼女にあるということだろう。

 

 

 

 彼女やアスラは皇帝の予備の予備ではあるが、同時に権利の分担を担っているということだ。

 

 

 

 深紅の血が手の甲から流れて結晶へと流れると、それを合図にしたかのように赤い輝きが部屋中に伸びていく。

 

 

 

 部屋を埋め尽くす無数の幾何学模様もまた赤く染まっており、まるで血管のようだと三人は思う。

 

 

 

「封印解除、拘束解除、権限行使確定、全て問題無し……さぁ、帝国の危機だ、かつてのように動き出してくれ」

 

 

 

 返事をするかのように結晶の輝きが増していく、そしてそれが限界にまで達すると部屋の壁に埋め込まれていた石像が突如として振動して、まるで生物のように動き出す。

 

 

 

 鎧騎士の姿をした戦闘用ゴーレムと思われるそれらは、まるで騎士のように剣を掲げてエヴァの前に跪く。

 

 

 

「うむ、悪くはないようだ」

 

 

 

「おぉ……無限城のゴーレムを思い出しますね」

 

 

 

 かつてエミリーが旅した空飛ぶ居城にも似たような騎士たちが闊歩していたことを思い出す、確かにアレらとよく似ており、もしかしたら起源を同じとする技術なのかもしれない。

 

 

 

 ただ動き出したのはここにある鎧騎士の像だけではない、エヴァの権限行使によってこれまで眠るだけであった守護像たちが一斉に動き出したのだ。

 

 

 

 それは酒神会の門前を守る酒瓶に絡みつく大蛇の像であったり、商人組合の玄関で多くの商人を迎え入れる兎の像であったり、兵士たちの訓練所を守る猛牛であったり、本当に様々な守護像に命が吹き込まれている。

 

 

 

 古くから伝わる守護像もそうだが、新しく作られた守護像も同様であった。

 

 

 

 帝国国民にとっては家や屋敷を新しく作ればそこに守護像を飾るのはある種の儀式であり文化でもある、記念日を祝うようにそれが習慣となっているのだろう。

 

 

 

 そしてその守護像を製作するのは基本的に魔術院である、その際にゴーレムとして運用できるように様々な魔術を施すのであった。

 

 

 

 繰り返すようだが帝国国民にとって守護像を飾るのは古くから伝わる文化である、つまり雑に見積もっても帝国にある建築物の数だけの守護像があっても不思議ではない。

 

 

 

 幸運を運ぶ兎が、邪悪を退ける蛇が、戦士を象徴する猛牛が、屋根から見守る鷹が、命を吹き込まれて動き出す。

 

 

 

 エヴァの意思と思いに答えるように、彼らは再起するのだった。

 

 

 

「さて、これで文字通り守護像となってくれた訳だ……悪魔の横っ面を殴ってやるとしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エヴァが守護像を動かした影響は帝国全土に広がっていた、帝都のみに留まらず東西南北全てにだ。

 

 

 

 帝国北部、四千メートルを超える深い山脈を近くに置く寒い地域であってもそれは変わらない。

 

 

 

「全く、何だと言うのだこの騒ぎはッ!! どいつもこいつも正気を失いよってからにッ!!」

 

 

 

 口元に豊かな髭を蓄えた壮年の騎士がそんなことを叫びながら槍を薙ぎ払う、槍先には鞘が被せられているので相手の首を斬り飛ばすこともなく襲い掛かって来た暴徒を吹き飛ばす。

 

 

 

「将軍、あちこちで暴動が起こっているようです!!」

 

 

 

 北部最大の繁栄都市もまた例に漏れず混沌の中にあった、この地方都市に駐屯している騎士団や兵士たちはその大部分が帝都へ招集されている為に普段より手薄であったが、そこは人口大国でもある帝国だ、地方都市を守れるだけの戦力はしっかりと残されているらしい。

 

 

 

 部下の騎士から将軍と呼ばれた壮年の騎士は、豊かな顎鬚を撫でながらたった今吹き飛ばした暴徒が握りしめていた金貨を地面から拾い上げて睨む。

 

 

 

 妖しい輝きを秘めた金貨は、今となっては明らかに異常に見える、魔術師で無くとも危険に思えるほどだ。

 

 

 

「ふん、帝都に戦力を集めるのはこれが原因か? だとしたらあちらでも大きな戦いが起こっているか……ふむ、どちらかと言えばそちらに参じたかったが」

 

 

 

 愚痴ってみるがそれは叶わない、彼に与えられた任務はこの北部都市の守護と治安維持である。

 

 

 

 摘みあげた金貨から引き寄せられそうな引力を感じているのだが、壮年の騎士はそれを鼻で笑ってから投げ捨てると雑に踏みつけた。

 

 

 

「まぁ良い、我が忠誠はこの地でも証明できようて……」

 

 

 

「将軍ッ!!」

 

 

 

「そう叫ばんでも聞こえておるわい。わかっておる、民の避難誘導と暴徒たちの制圧を行うぞ」

 

 

 

「……処理を?」

 

 

 

「馬鹿を言うでない、帝国の民を切り捨てて何になるのだ、拘束に留めるぞ」

 

 

 

「我々だけでできますかね、中央に主力が行ってますけど……」

 

 

 

 若い騎士は自信が無さそうにぼやきながらも暴徒の一人を無力化する。

 

 

 

「心配せんでも援軍は来るとも、騎士団の主力は帝都だが巡回兵の部隊などは残っているだろうからな」

 

 

 

「もしかして慰めてくれてます?」

 

 

 

「間抜けめ、経験を語っているだけだ……まだ若いお主にはわからんか」

 

 

 

 確かに若い騎士にはわからない、主力騎士団が中央に招集されている状況でこの暴動だ、北部最大の都市を守り切るには頼りない戦力だろう、不安になるのも当然であった。

 

 

 

「愚痴る前に手足を動かさんか、民の避難誘導と暴徒を抑えるぞ、さぁ働け、帝国騎士として勲と忠誠を示すのだ」

 

 

 

 壮年の騎士の声によって北部都市に残っていた騎士たちは団結して動き出す、混乱渦巻く都市の全てを守り切るのは難しいことはわかるのだが、それでも彼らに逃げるという選択肢はない。

 

 

 

 騎士としての誇りと責務を全員が共有しているからこその行動だ、傭兵ではこうはいかないだろう。

 

 

 

 その忠誠心は悪魔の誘惑を容易くねじ伏せ、妖しい光を放つそれを踏みつけて混沌とした状況に挑んでいく。

 

 

 

 剣を握り、並び立つ、騎士であるが故に。

 

 

 

「どこのどいつか知らんがケチをつけてくれたものだ……だが構わんとも、我ら北部帝国騎士、勲に飢えていたのでな」

 

 

 

 壮年の騎士は獰猛な笑顔を見せて都市の混乱へ進んで行く、正気を失った暴徒を気絶させ、逃げ遅れた民を安全圏へ誘導する。

 

 

 

 付き従う騎士たちもそれに続いた、傷つき血を流す者もいるが、手足を止める者は一人もいない。

 

 

 

 そんな彼らに加勢する者がいた、いや、正確には物だろうか。

 

 

 

 大きな影が奮闘する騎士たちを包み込んだかと思えば、空から大きな荒鷲の守護像が降り立ち、暴徒の一人を嘴で摘みあげて勢いよく地面に落とす。

 

 

 

 叩きつけられた暴徒はどうやら意識を失ったらしい、死んではいないのでしっかりと手加減されているようだ。

 

 

 

「お、おいあれって、都市壁に飾られてる守護像じゃないか?」

 

 

 

「あ、あぁ、確かに……大手門の上にいる奴だよな」

 

 

 

 その荒鷲の守護像は間違いなくこの北部都市で知らぬ者はいないほどに有名な存在であった、都市に入る際には必ずこの荒鷲が出迎えてくれるのだ。

 

 

 

 また、それだけには留まらず、大通りの石畳を蹄で叩きながら疾走するのは猛牛の守護像である、帝国では猛牛は力と勇敢の象徴とされており騎士団の駐屯地に猛牛の守護像を飾ることが習慣になっており、当然ながら彼らにとっても身近な物であった。

 

 

 

 その猛牛の守護像が爆走しながら次々に暴徒たちを吹き飛ばしていく、あまりにも勢いが良かったので生死が心配になるほどである。

 

 

 

「……一体何が起こっているんだ?」

 

 

 

 困惑の声が騎士たちから上がる中、壮年の騎士だけは笑ってこの状況を歓迎してみせる。

 

 

 

「わははッ!! こりゃ凄い、我らが守護像がついに本当に守護像となった訳だッ!!」

 

 

 

「笑ってる場合ですか!?」

 

 

 

「笑わんでどうする、この戦い勝ったぞッ!!」

 

 

 

 意味が分からないのは全員が共有する所だが、長年に渡って自分たちを見守り続けて来た守護像がこうして動いているのだ、邪悪な物であるとは思えなかった。

 

 

 

 ならばこれは勝機である、これ以上ない程の。

 

 

 

「鬨の声を上げろ!! 我ら北部帝国騎士ここにありとな!!」

 

 

 

 その声はどこまでも高らかに、帝国の民が持つ不安を吹き飛ばすかのようでもあった。

 

 

 

 騎士とは憧れられるものであるならば、彼らこそまさに帝国騎士と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして戦っているのは北部だけではない、そこから正反対の位置にある南部地域でもまた混乱と混沌が跋扈して、それに抗うかのように騎士たちの鬨の声が広がっていた。

 

 

 

 よく日に焼けた明らかに物騒な見た目をした男たちが野太い声を上げている、彼らは南部地域の騎士ではあるのだが他の地域と異なり大海に接していることから海軍という役割も持つ。

 

 

 

 どこか海賊じみた姿をしているのもそれが理由だろう、本業の海賊よりもずっと海賊らしいかもしれない。

 

 

 

 そんな彼らも例に漏れず帝都に主力の多くが引き抜かれた状態であり、どうしたって苦戦を強いられるのだが、海に面した地域である為に海運を使って戦力を呼び寄せたらしい。

 

 

 

 帝国中の開拓村や宿場町などを巡回する部隊、主に巡回兵と呼ばれる戦力をとにかく船で運び続ける、彼らは帝都には呼ばれていないので余剰戦力であり、今の帝国で唯一暇をしている戦力でもあった。

 

 

 

 帝都から皇族署名の命令書ですぐさま動くようにという方針は各方面に伝えられたことで、準備態勢に入っていたのだがこうして素早く南部地域に展開できたのは海軍の素早さがあってのことだろう。

 

 

 

「やっちまえてめえらぁぁあ!! なんかわからんが守護像も動いてやがる!! 暴れる馬鹿どもを抑え込め!!」

 

 

 

 南部最大の繁栄都市もまた暴動によって至る所に黒煙が上がっている様子だが、巡回兵をかき集めたことで人手を補充して、そこに守護像たちが動くことで混乱に対処していた。

 

 

 

 海の守り神であり港の近くに鎮座していた海竜の守護像が燃え上がる建物を押しつぶして周囲への延焼を抑えたかと思えば、クラゲの守護像が暴徒を絡めとっていく。

 

 

 

 混乱は大きいものの、絶望的な程でもないようだ、海賊のような身なりの騎士たちにはまだ余裕が伺える。

 

 

 

「ひゃッはあああああッ!! やっちまって良いんですかいお頭ぁ!!」

 

 

 

 海賊のような騎士の部下もまた海賊のような雰囲気と口調をしており、それを見た援軍として到着した巡回兵は呆れたような顔をしていた。

 

 

 

「全く南部者はこれだから困る」

 

 

 

「確かに、品がありませんな」

 

 

 

 呆れつつも巡回兵たちは正気を保ったままの住民たちの避難誘導を行っている、帝国中を駆け回る彼らは南部の気性を理解はしているのだが、やはり海賊全開の様子は受け入れがたいらしい。

 

 

 

 ただそれでも、戦力としての価値は揺るぎなく、忠誠を疑っている訳でもないのでそこだけは信頼しているようだ。

 

 

 

「隊長、五班が消火活動に移るとのことです」

 

 

 

「了解した、我々も避難誘導が済み次第そちらに加わる」

 

 

 

 抱えていた幼子を火の手から遠い海岸沿いに下ろして、彼らは次に大きなバケツとハンマーを持つ。

 

 

 

「とにかく延焼を抑えるぞッ!! 燃えている建物の周囲は崩して構わんッ!! とにかく燃え移る物を遠ざけるんだ!!」

 

 

 

 戦いとは剣を握るだけではなく、槍を振り回すだけでもなかった。

 

 

 

「海賊騎士殿!! 我らはこれより消火活動を行うッ!! 宜しいか!!」

 

 

 

「おう構わねえぜ、暴れてる馬鹿どもはこちらで抑えよう!!」

 

 

 

「ではそちらは引き続きお願いする!!」

 

 

 

 激しく燃え盛る火の手に立ち向かう巡回兵たちの背中を見て、海賊のような騎士は鼻息荒く笑って見せた。

 

 

 

「中央寄りの巡回兵はお上品でいけねえなぁ……だがまぁ根性はあるようだ、それで十分か」

 

 

 

「お頭ぁッ!! 大通りは制圧しましたぜエ!!」

 

 

 

「よし、そこが終わったら次は商業区だ……それと船を出さねえとな」

 

 

 

「どこに出すんで?」

 

 

 

「キグナス商会だ、何が起こってるか知らねえがどうなるにせよ色々と必要になるだろうからな、どうせ中央から似たような命令が来るだろうから今のうちに物資を集めとくんだよ、食い物に武器に薬とか無いと困るだろう。もし必要無かったとしてもあって困るもんでもねぇ」

 

 

 

 思い立った瞬間には海賊風の騎士は部下に命令を出して手紙と船を用意させていた。

 

 

 

 どれだけ粗雑に見えても彼は帝国の騎士、海賊ではないということだろう、しっかりと帝国の未来を見てる。

 

 

 

「他の地域は大丈夫ですかね?」

 

 

 

「俺が知るかよ、だがまぁ偶に会う騎士たちはどいつもこいつもしっかり金玉ぶら下げた男たちだ、縮こまってる訳がねえよ、俺達みてえにカッコつけてるだろうぜ」

 

 

 

「そりゃそうでしょ、騎士なんだから」

 

 

 

「あぁ、だから戦うのさ……泣く子も喜ぶ帝国騎士、カッコつけてなんぼってなぁ!!」

 

 

 

 南部の戦いはこうして進んで行くのだった、多くの者が目の前の困難にぶつかりながら未来を思っているようだ。

 

 

 

 きっと帝国は、そんな人々の数え切れない小さな努力を束ねて支えられているのだろう。

 

 

 

 人が国家を支え、国家が人を支えるのだとは、初代皇帝の言葉である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。