※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

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第三十四話 黄金帝国 4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国東部は小王国郡と接する緩衝地帯とされている、もし何らかの理由で小王国郡が陥落した際はまずこの地域が敵の進行を押し留める役割があり、軍事侵攻を阻む役割もある為に砦や要塞が多い地域でもあった。

 

 

 

 ただ今回の場合、外国からの侵攻ではなく内から湧き出るような脅威であった為に、難攻不落と称される要塞群はあまり機能しなかったらしい。

 

 

 

 東部最大の繁栄都市でありガレス王国ともほど近い場所にある城塞都市は、やはりと言うべきか大きな混乱の渦の中にあった。

 

 

 

 例に漏れず主力は帝都に招集されており、残された戦力だけで対処しなければならない状況であるらしい。

 

 

 

 ただ、東部地域が崩壊するほどではないようだ、混乱があることは間違いないがそれでも士気が崩壊しないのは偏に彼の存在が大きいだろう。

 

 

 

 帝国最高齢の騎士であり、全ての騎士の憧れを背負う男、歴戦の老騎士ゼスの存在だ。

 

 

 

 斧槍が豪快に振り回されると暴徒たちがその度に地面に沈んでいく、本気でやれば胴体を真っ二つにすることもできるであろうが、加減をしているのか骨折程度で済んでいるらしい。

 

 

 

 齢八十を超えようとも、帝国最優の騎士の武力は衰えが見えない。

 

 

 

 そのことに周囲の騎士や兵士たちは鬨の声を上げていた、当然である、彼がここにいる以上は勝ったも同然なのだから。

 

 

 

 落とした砦は年齢よりも多く、積み上げた敵の死体はそれこそ星の数はある、そんな歌を聴きながら帝国の子供たちは育ってきたのだ、歌以上の速度で斧槍を振るう姿を見れば士気も上がるだろう。

 

 

 

「やれやれ、腰にくるな……」

 

 

 

 騎士や兵士を率いて東部都市の治安維持を行うゼスは、自らの腰を摩りながらそんなことを愚痴る。

 

 

 

 衰え知らずと周囲から思われようとも、彼は八十を超える老兵である、自らの体のことは彼自身が一番理解していることだ。

 

 

 

 若い頃に比べて息が上がることが早くなった、腰だって気遣わないとならない、愛用の斧槍に重みを感じるようになったのはここ最近の話でもない。

 

 

 

「老兵をあまり働かさないで欲しいものだッ!!」

 

 

 

 言葉と共にまた斧槍を振るう、するとこちらに迫っていた暴徒の束が衝撃で吹き飛んだ。

 

 

 

 確かに衰えがあることは間違いがないだろう、それでも彼が強すぎるという事実は覆らない。

 

 

 

 星の数ほど繰り返してきた斧槍をいつも通り振るえばただそれだけで脅威が減る、どれだけの暴徒が迫ろうともその切っ先より先へは絶対に進めない、もしこれが暴徒ではなく武器を持った兵士や雨のように降り注ぐ矢であっても変わらないだろう。

 

 

 

 どれだけ老いたと口にしても、この場に彼より強い者はいないのだから、いつまでたっても衰え知らずと歌われるのだ。

 

 

 

「ゼス団長、暴徒の制圧は順調に進んでおります……その、何故か守護像が動き回っており、極めて順調と報告が」

 

 

 

「守護像か……あれを動かさなければならない状況にあると見るべきだろうな」

 

 

 

 部下の騎士の報告にゼスは唸る、どうやら彼はいざという時に守護像をゴーレムとして活用できることを知っている人物らしい。

 

 

 

「帝都へ急がねばなるまい、遅参したとなれば帝国三騎士の名折れとなろう……うむ、ある程度は治安を回復できたならば、この場はあ奴らに任せるとするか」

 

 

 

 ゼスが前線から後方へと振り返ると、そこには虎のような耳と尻尾を持った獣人の集団が派手に暴れまわっている光景が広がっていた。

 

 

 

 誰もが異様な膂力をしており、暴徒を殴り飛ばして吹き飛ばしたり明らかに体躯に見合わない程に大きな物を持ち上げていたりと、異様な集団である。

 

 

 

「あ、あの方々はその……やりすぎる位なのですが」

 

 

 

「だろうな、ルールーの奴めがそうであるように、あの種族は加減を知らんが……戦力としてみれば心強くもあろう」

 

 

 

 実際に燃え上がる建物をルールーに似た雰囲気を持つ獣人たちは道具を使わずに素手で粉砕して周囲への延焼を防いだりしているのだから、確かに戦力としては心強い。

 

 

 

「のうゼス殿!! こやつらは我々が倒したのだから戦利品として持ち帰ってもええのかの?」

 

 

 

 ルールーとどこか似た雰囲気を持つ獣人の一人が意識を失った暴徒たちを指さしてそんなことを尋ねてくる、順法精神が欠落した物言いにゼスは大きな溜息を吐く。

 

 

 

「良い訳がなかろう、それらは帝国の民であり守護対象である、お主らにやれん……褒美が欲しいのであれば後でルールーに強請るが良い、アレでも一応はお主らが使える領主なのだからな」

 

 

 

「おぉそうじゃな、姫様から貰うとしよう、なにせ皇帝からたんまり貰っておるだろうからな」

 

 

 

 カカッと特有の笑い方をしてから獣人の戦士たちはまた拳を振るう、彼女たちがいれば戦力に困ることもないと思われた。

 

 

 

「この場はあ奴らに任せる……我々は帝都へ進むぞ」

 

 

 

 元々、ゼスが率いる騎士団はガレス王国に駐屯して治安維持を引き受けていたのだが、数日前から帝都に戦力を集める為に帰還命令が出ていたのだ。

 

 

 

 その途中にこうして暴動に巻き込まれた状況である、見過ごすこともできなかったので東部都市の駐屯兵とこの辺を領地とする獣人たちを呼び寄せ協力して対処していたが、まだ本来の命令は遂行できていない。

 

 

 

 獣人たちは戦士としては誰もが一流の力を持っているので戦力に困るようなこともないだろう、安心してこの場を預けることができた。

 

 

 

「外征騎士団は前へッ!! 我らが遅参するなどあってはならんぞ!!」

 

 

 

 一路帝都へ、帝国最優の騎士は魔王へ挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国西部、この地域も当然ながらパレスの金貨によって大きな混乱が起こっているのだが、幸いなことにそれ以上に理不尽な力によって強制的に全てをねじ伏せる結果となった。

 

 

 

 暴動は起こった、正気を失った市民たちも大勢現れた、特に富が集中する都市部などは流通する金貨の量も多く、そうなればパレスの一部が紛れ込む頻度も多くなる。

 

 

 

 当然ながら小さくない混乱が巻き起こるのだが、暴動は発生から僅かな時間で制圧されることとなった。

 

 

 

 理由はただ一つ、この地域にシャルルがいる、ただそれだけだ。

 

 

 

 ただそれだけで、全ての問題が解決できてしまった。

 

 

 

 空から淡く輝く光の玉が地上に舞い降りたかと思えば、それは戦士の姿となって刃を形作る。

 

 

 

 幻影であり夢幻でしかない半透明の戦士たちだが、それでも戦士たちが握る刃は確かな重さがあった、一人また一人と増えていき最終的には軍勢と呼べる規模となり動き出す。

 

 

 

 そこに帝国騎士団が加われば、恐れるものなどありはしないだろう。

 

 

 

 暴動も暴徒も瞬く間に殲滅されていき、平穏が戻るまでそう時間はかからなかった。

 

 

 

「……むぅ、やることが、ないッ」

 

 

 

「カカッ、確かにのう、シャルル一人おればそれで解決するからな、何とも楽なものだ」

 

 

 

「本当ですね、いやぁ~、雇って良かった」

 

 

 

 ルールーたちはシャルルが率いる幻影の戦士たちを眺めながらそんなことを話す、キャロルはどこか不満そうにしているのは、活躍の機会が得られなかったからだろう。

 

 

 

 別に彼女一人が暇している訳ではない、ルールーもロビンフッドも特に戦うことも無く馬を走らせるだけだ。

 

 

 

 立ち塞がる全ては圧倒的な軍勢で蹂躙することができるので、他の戦力が戦う意味などまるでない。

 

 

 

 彼女たちは現在、西部都市の治安を安定させてから時を置かずに帝都への道を進んでいた、帝都で起こっているであろう戦いに参戦する為である。

 

 

 

 道中に立ち寄った宿場町などでも都市部ほどではないが暴動が発生していたが、それくらいの問題で幻影の戦士たちが止められる筈もなく、濡れ紙を破くかのごとく何の手ごたえもないまま進んで行く。

 

 

 

「まぁまぁキャロルよ、そうむくれるでない、本番は帝都に付いてからだろうからな、今は休んでおけば良いて」

 

 

 

「ん……でも暇」

 

 

 

 キャロルは自分たちのキャラバンが保有している荷馬車に乗って馬を操っており、軍馬に跨るルールーたちに付いていくだけであった。

 

 

 

 その少し先にシャルルがいて、その更に前に幻影の戦士たちがいる、後方には騎士たちが続いている陣形である。

 

 

 

 とにかく帝都へ急ごうという方針からシャルルが戦神の権能を使って問答無用で突き進むだけである、帝都と西部都市の間にある村や宿場町は次々と制圧されている状況であった。

 

 

 

 ルールーとロビンフッドも暇を感じられるくらいに余裕がある様子ではあるが、本番は帝都だとわかっているので今はシャルル任せである。

 

 

 

「この調子だと混乱は西部だけに留まっていませんね……多分、帝国中が……」

 

 

 

「だろうな、落とし前を付けさせねばなるまい」

 

 

 

 ロビンフッドの心配にルールーが剣呑な声でそう返す、明確な殺意が込められており一般人が聞けばそれだけで腰を抜かしそうな迫力があった。

 

 

 

 それだけ苛立っているということだろう、大雑把な性格に見えてもルールーはしっかりと帝国騎士なのだ、この状況を笑って見過ごせる筈がない。

 

 

 

 元凶は必ず殺す、その為にも今は体力の温存が最優先であった。

 

 

 

「シャルル!! 疲れてはおらんか?」

 

 

 

 少し前を借りた馬に乗って走るシャルルに声をかけると、特に問題ないとばかりに大きく手が振るわれた。

 

 

 

「大丈夫だ!! まだまだいけるよ!!」

 

 

 

「カカッ、頼もしい奴だ」

 

 

 

「……もうシャルルさん一人だけで良いような気が」

 

 

 

 ロビンフッドの感想に、隣で並走して馬を走らせていたルールーが拳骨を落とす。

 

 

 

「馬鹿を言うな、何の為の帝国騎士だ……手前らが誰よりも戦わんでどうする、シャルル一人に全て任せて笑ってられるなら騎士など止めてしまえ」

 

 

 

「痛ッ……いや、別に丸投げするつもりはありませんって、帝都までは体力を温存するって話でしょ!? ちゃんと働きますから!!」

 

 

 

「わかっておるではないか、次つまらんことを言ったら顎を砕くからな」

 

 

 

「ちょ、乱暴すぎますってッ!!」

 

 

 

「皇帝陛下ならばこう言うだろう、たった一人の人間に全てを託す国家ほど脆いものもないと」

 

 

 

「英雄は簡単には生まれない、でしたっけ?」

 

 

 

「おうとも、ならば手前らがやるしかあるまい」

 

 

 

「……相手は魔王ですよ?」

 

 

 

 帝都に辿り着いたら巨大な相手と戦うことになるだろうと予想して大きな体を震わせるロビンフッドだが、ルールーは鼻で笑うだけである。

 

 

 

「上等ではないか、魔王だなんだと言っても殴り続ければ死ぬのだろう? 手前らで見事殺してみせるとしよう」

 

 

 

 ここは帝国なのだから、この地に住む自分たちがそれを成さねばならないだろうとルールーは考える。

 

 

 

 別に英雄に頼ることが悪い訳ではない、ただそれでは自分たちの存在意義はなんなのだと思わなくもないのだ。

 

 

 

 彼女は帝国騎士だ、何もかもを人任せにして笑っていられるほど弱くはない。

 

 

 

 獣のような鋭い瞳は帝都の方角へと向けられており、体中に来るべき戦いに備えて活力が漲る。

 

 

 

 ガレス王国ではシャルルに譲ったが今回は帝国での戦いなのだ、ならば魔王に刃を突き立てるのは帝国騎士こそが相応しい。

 

 

 

 魔王が何するものぞ、そんな勢いを感じなせながらルールーは遠く離れた帝都を睨みながら鋭い犬歯を覗かせるのだった。

 

 

 

 戦いはこれからが本番であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都の中央にある行政区画、特に帝城を中心とした場所は帝国始まって以来、初となる戦場となっている。

 

 

 

 大量の、数え切れないほどの騎士や戦士たちが黄金の城、或いは黄金の宮殿を取り囲み陣形を作る様子はまさに攻城戦の様相をなしていた。

 

 

 

 広大で分厚い包囲網が帝城を囲む城壁を中心に構築されており、そこが人魔の境となっているらしい。

 

 

 

 片や黄金の宮殿を中心に怪しい輝きが広がり、片や精強な鎧騎士たちが陣形を構築する様子だ、両勢力はまだ本格的な衝突へは至っていないが、戦士たちの殺気を見るにそう遠くない内に戦いが始まるだろう。

 

 

 

「陛下、攻城兵器の設置が完了したとのことです、合図を待つとのこと」

 

 

 

 最前線から少し離れた位置に立てられた天幕は臨時の指令室となっており、多くの伝令役の兵士が出入りを繰り返しているのが確認できた。

 

 

 

「北部、南部方面軍共に準備完了……それと守護像が動いていることに少なくない混乱があるそうです」

 

 

 

 天幕の内部には簡素でありながらしっかりとした大きな机があり、帝場周辺を記しているであろう地図が広げられていた、その正面にある椅子に座るのはランポッサである。

 

 

 

「守護像に関しては気にする必要はない、戦力の一部として考えるように各方面軍には伝えろ」

 

 

 

「は、はい、わかりました」

 

 

 

「一先ずは様子見だ、守護像の一部を先行させて感触を確かめるぞ」

 

 

 

 おそらくは守護像だけで全ての問題が解決できないだろうということはわかるが、例え壊されたとしても惜しくはない。

 

 

 

 使い捨てできる戦力として運用できるのがゴーレムの良い所だろう、偵察役に騎士を動かして死なせるよりはずっと効率的とも言えた。

 

 

 

 破壊されたとしても結局は石でしかない、そこは割り切っているらしい。

 

 

 

「敵側の動きは?」

 

 

 

「現在は沈黙している模様です、反応は確認できません」

 

 

 

 ランポッサの瞳は机の上にある大きな地図に向けられる、その上には幾つもの駒が乗せられており戦場の状況をざっくりとだが俯瞰できるようになっていた。

 

 

 

 こちらの戦力はハッキリしているがパレス側の戦力が不明な状況である、刃を突きつけ合うように距離感と戦力を図りながら牽制を繰り返すのが基本となるだろう。

 

 

 

 何より三騎士がまだ到着していない、戦力の要を欠いた状態で戦うつもりはランポッサにはなかった。

 

 

 

「三騎士が来るまで膠着状態は望む所ではあるが……何の情報もないまま奴らをぶつけることもできまい、動くぞ」

 

 

 

 天幕の入口にあるカーテンを開くと、前線から離れているというのにそれでも黄金の建築物が確認できてしまう。

 

 

 

 帝城に匹敵するほどの大きさで黄金に輝くそれを見ていると、腹の奥に何とも言えない苛立ちが沸き起こるのだが、それを為政者としての仮面をかぶって平静を装う。

 

 

 

 周囲にいる兵士や近衛騎士は今か今かと彼の声を待っており、そんな戦士たちの期待に応えるように命令を下す。

 

 

 

「第一陣前に、守護像を先頭にして偵察を行え」

 

 

 

 長い戦いの一歩はこうして刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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