※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

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第四十一話 黄金帝国 11

 

 

 

 

「カカッ!!」

 

 

 

 圧倒的な暴力を振り回しながら凶獣が戦場を駆けていく、技術も無ければ定石もなく、ただただ圧倒的な力を鉄塊に混めて暴れまわるだけなのだが、稚拙で乱暴なだけのそれは簡単には止められない。

 

 

 

 技術など、定石など、突出した暴力には敵わないと証明するかのように、鉄塊が振り回される。

 

 

 

 そして実際に彼女を止められる者はこの戦場にはいない、帝国側には勿論のことパレスが並び立てた黄金の騎士たちとて同様だ。

 

 

 

「カカカッ!!」

 

 

 

 どれだけ並べようとも、どれだけ束ねようとも、ルールーが振り回す鉄塊を止められなかった、悉くが粉々に粉砕されて飛び散るだけだ。

 

 

 

「あのバカに続くのだ、決して孤立させるなよ!!」

 

 

 

 最前線を駆け抜けていくルールーの速度は極めて鋭い、突出しているといっても良い、放置すれば戦場のど真ん中で確実に孤立することは間違いない。

 

 

 

 それを許すほど間抜けな指揮官は帝国にはいない、後方でゼスが急かすように指示を出していた、既に彼はルールーに対して足並みを合わせて動け等と言うつもりはない、無駄だとわかっているからだろう。

 

 

 

 それに最前線で暴れさせることが最もルールーという戦力を有効活用できる方法なのだ、故に上手く操作するつもりはない、暴れまわる彼女に他が合わせる形が結局は一番である。

 

 

 

 帝国軍は黄金の建築物の東西南北を囲んでいるが突破口を開くのはルールーがいる一点である、強力無比な突破力をもって深部まで貫通する作戦のようだ。

 

 

 

 次々と生えて来る黄金の騎士を蹴散らしながら城壁まで辿り着くと、分厚く強固なそれをまずは魔術師たちが膨大な熱をもって溶解させていく。

 

 

 

 放たれるのは凄まじい力を宿した熱線である、どんな破城槌よりも強力なそれは黄金の壁に幾つも殺到していき、容易く大穴を開けるのだった。

 

 

 

「それ突っ込め!!」

 

 

 

 溶解して大穴が空いた城壁に帝国軍が突っ込む、その先頭にいるのはルールーとロビンフッドだ。

 

 

 

「遅い!! なんでお主はそんなに鈍間なんじゃい!?」

 

 

 

「いやいや逆ですって!! ルールーさんが早すぎるんですよ!?」

 

 

 

 ロビンフッドは両手にそれぞれ握った二つの大盾を構えながら進んで行く、立ち塞がる黄金の騎士たちを引き潰しながらだ。

 

 

 

 側面を突こうにも強固で分厚い全身鎧と鎖帷子が阻む上に、そこに刃を届かせる前にルールーが砕いてしまった。

 

 

 

 二人の騎士が作った隙間を広げるかのように他の騎士たちも進んで行く、溶解した城壁が再生する前に最低でも数千近い騎士たちを送り込むのが作戦である。

 

 

 

「盾を構えよ!! 壁を作るのだ!!」

 

 

 

 同じように先遣隊に入っていたゼスが予め用意させていた大盾隊を前に出す、分厚いそれを並べて騎士たちが固まると即席の城壁を騎士たちで作り上げるのだ。

 

 

 

 黄金の騎士たちもそれをさせまいと殺到するのだが、何故か一人だけ大盾の囲いの外にいたルールーの暴力によって吹き飛ばされていく。

 

 

 

 そんな攻防を続けること数分、騎士たちの背後にあった城壁が再び融解すると、そこからまた大勢の騎士たちが内部に切り込んで来る。

 

 

 

 同じことを繰り返すこと四回、パレスの懐には万を超える屈強な戦士たちが存在していた。

 

 

 

「カカッ!! いざ進め益荒男ども!! 帝国騎士はここにありと証明してみせよ!!」

 

 

 

「「応ともッ!!」」

 

 

 

 戦力は整った、つまらない躊躇をするつもりもない、そして士気も上々だ、広がり続ける鬨の声はパレスにまで聞かせるかのように大きくなっていく。

 

 

 

 そして今も戦力は増え続けていた、城壁が溶解される度に騎士たちは増えていき、それが終わることがない。

 

 

 

 岸辺に押し寄せる波のように、溢れて侵略する溶岩のように、空を埋め尽くす雨雲のように、広く深く押し入っていくのだ。

 

 

 

 そしてそれが終わらない、いつまでたっても増え続ける。

 

 

 

 数と言う戦争を行う上で最も重要で、最も単純な力をこれでもかと押し付けて来るのだ、そして極めて単純であるが故にこれがとにかく厄介で強い。

 

 

 

 万を超える黄金の騎士がどうした、五万? 十万? だからどうしたと言わんばかりの勢いであった。

 

 

 

 騎士たちの侵攻は終わらない、束ねて合わさり波となり壁となる、それが結局は最も強いということを知っているからだ。

 

 

 

 城壁を超えて内部にまで踏み込んだ帝国軍はそこで止まることもなく追撃を開始する、相手の反応や雰囲気を確かめるようなこともない、ここは闇神殿でもあるのであまり長期間の活動ができないので目指すのは短期決着である。

 

 

 

 城の内部へと踏み込んだ瞬間に壁や床から大量の騎士たちが生えて来るのだが、それでも帝国軍の動きに躊躇はない。

 

 

 

 ロビンフッドが凄まじい勢いでまずは突っ込み、そのすぐ後にルールーが鉄塊を叩きこむ、そうして相手に肉薄して立ち塞がる壁を叩くとそこに騎士たちが続くのだ。

 

 

 

「そろそろ後方から攻撃して来るだろうな」

 

 

 

 最前線のロビンフッドとルールーから少し離れた位置、全体を差配する立場にあるゼスは騎士たちの中央で指揮を預かっていた。

 

 

 

「団長、やはり来ますか?」

 

 

 

「うむ、壁や床から生えて来るのだ、好きに戦力を布陣できるのならば必ずそうする」

 

 

 

「後方より報告!! 背後より奇襲とのこと!!」

 

 

 

「そら来た、随分とわかりやすい相手だ」

 

 

 

 偵察隊の情報を元に事前にそういう状況もありえるという認識を騎士たちは共有していたので混乱らしい混乱は起こらない、来るとわかっていれば不意打ちは不意打ちにはならないのだ。

 

 

 

 パレス攻略隊の騎士たちの中で最も後方に位置していた部隊は、予定通りその場に切り離される、彼らは後方からの攻撃を阻むと同時に退却路の確保が仕事である。

 

 

 

「幾度か続けて無駄だとわかれば次は力押しに変わるぞ」

 

 

 

 そんなゼスの予想は現実となる、最前線に阻むように配置される黄金の騎士たちの密度が明らかに増えたのだ。

 

 

 

 とにかく多く配置して侵攻を阻みたい、そんな意図が手に取るようにわかる、そこにある焦りもだ。

 

 

 

「なるほど、大体は理解した……敵は巨大な怪物ではあるが軍師としては素人だ、予想を超えるようなことはしてこないな、嬉しい誤算だ」

 

 

 

 別に軍略がへたくそな訳ではない、しかし予想を超えてこないので教本通りといった印象なのだ、同じだけの戦力を用意できるのならばまだ人間の軍師の方がやり難くすらある。

 

 

 

 それを理解したゼスは本体から切り離されて後方の退却路を確保している部隊に合図を送った、その部隊は更に後方の部隊へと合図を送り、それが幾度か繰り返されるとその合図は外へと届く。

 

 

 

 意味する所は一つ、東西南北を包囲する帝国軍の一斉攻勢である。

 

 

 

 パレスの動きが予想を超えないことを確信したからこその指示だ、また相手が戦力を一点に集中することを始めたのでその隙を突いた形である。

 

 

 

 即興ではない、事前にそういった流れもありえると全体が共有しているからこその動きだろう。

 

 

 

 勿論だがたった一つに選択肢を縛る必要も無い、事前に予測した数多くある局面の一つを帝国軍は選んだに過ぎないのだ。

 

 

 

 もしパレスの動きがもう少し複雑であったのならば、また違った動きになっていただろう、ゼスにとってパレスの動きは事前予想の中で最も無難でありきたりなものであったので、ここぞとばかりに攻めたてる。

 

 

 

 駒遊びの素人を相手にしているかのように場当たり的で直感的な動きが多い、それがゼスのパレスに対する印象であった。

 

 

 

 巨大な力を持っていようとも軍師ではないのだから当然である、そして最も警戒すべきなのはその力の方だ。

 

 

 

 駒遊びを有利に進められたからといってそれがなんだと言うのか、パレスは盤上をひっくり返せるくらいの力を持っている、故にゼスは有利に進んでいるとは微塵も思っていない。

 

 

 

 さて、どれだけの出血で済ませられるだろうか、老騎士は冷静にそんなことを考えるのだった。

 

 

 

「ルールーさん、次はどっちですか!!」

 

 

 

「次は右じゃ、その次は左!!」

 

 

 

「本当ですか!? なんとなくで選んでません!?」

 

 

 

「なんじゃと!? 魔性の匂いがより濃くなっておるから間違いないわい!!」

 

 

 

「匂いって言われても僕にはわかりませんって」

 

 

 

 攻略軍の先頭を走るロビンフッドとルールーは次々と現れる黄金の騎士を粉砕しながら進んで行く、しきりに鼻を鳴らして誘導役となっているのはルールーだ。

 

 

 

「お前ならばどうする? そうさな、絶対に見られたくない、そして傷つけたくない物があるとして、それをどこに隠す?」

 

 

 

「そりゃ勿論、一番安全な場所ですよ」

 

 

 

「だろうな、当然ながら悪魔とてそれは同じだ、こいつがスライムならばどこかに核がある、この城の最も安全な最奥にな」

 

 

 

「そこを目指すのはわかりますけど……」

 

 

 

「安心しろ、奴の匂いと存在感はあの廃坑で覚えた、間違いなくこの先じゃ……それにほれ、騎士の数も明らかに多くなって来ておる、近づいとる証拠だろうて」

 

 

 

 そう言いながらロビンフッドの肩を足場にして飛び上がると、巨大な鉄塊を騎士たちへ叩きつける、頑丈なはずの鎧騎士はクシャっと潰れてそのまま床に散らばった。

 

 

 

 大きな蜘蛛の巣状の罅を床に広げた鉄塊は、そのまま横へと移動して黄金の騎士たちを転倒させていく、そのまま遠心力を増してグルグルとルールーが回転するだけで面白いように騎士たちが吹き飛んでいく。

 

 

 

 運よくその暴力を逃れたとしても、続くロビンフッドと騎士たちが粉砕していくのだ、黄金の騎士たちは押し寄せる津波に翻弄されているかのようにも見えた。

 

 

 

 帝国側も決して無傷という訳ではない、敵と接触する度に大なり小なり出血を強いられている、前線でどれだけルールーが暴れようともそれは変わらない。

 

 

 

 いや、暴れているからこそ、この程度の出血で済んでいるのだろう。

 

 

 

 それでも帝国軍は止まらない、同胞や仲間の血がどれだけ床を汚して、力及ばず倒れようともその亡骸を踏み越えていく。

 

 

 

 涙を呑んだだろう、憤りや悲しみもあっただろう、しかし仲間の亡骸を超えようとする足には欠片の躊躇も見当たらないのだ。

 

 

 

「我ら帝国騎士であるが故に、お前もそうするだろう?」

 

 

 

 騎士の一人がまた倒れた仲間を踏み越えて進んで行く、彼の後ろにいた者もまた同様であった。

 

 

 

 仲間を踏み越えていくことに絶望は無い、あるのは怒りだ、届くことの無かった同胞の無念を背負うかのように進む度に彼らの刃には力が宿る。

 

 

 

 そして幸運なことに、その怒りをぶつける相手は最奥にいるのだ、とても話が早かった。

 

 

 

 だから彼らは同胞の亡骸を踏み越える、その度に怒りと力を大きくするのだ。

 

 

 

 きっと、倒れた騎士も同じことをして進むだろう、長き悲しむのではなく刃を握ってこその騎士なのだから。

 

 

 

「それそれ、あともう少しじゃい!! だいぶ匂いも濃くなってきよったぞ!!」

 

 

 

 そして敵の密度も濃くなっていた、大きな帝城を模した通路は帝国側の騎士とパレス側の黄金の騎士で溢れており、隙間なく埋め尽くされている有様だ。

 

 

 

 最前線で戦う者が倒れたならば、そのすぐ後ろにいる騎士たちが前に出て戦う、それを何度も繰り返して前進していく戦いは、しかし破竹の勢いは既に消えている。

 

 

 

 単純に敵の密度が濃くなったからだ、疾走ではなくジリジリと距離を稼ぐかのような動きとなっていた。

 

 

 

 ここから先は一歩進む為に血を流す必要がある、立ち塞がる刃は数え切れないほどであり、流れる血と倒れる騎士たちは明らかに多くなっていた。

 

 

 

 それでもまだ損害は少ない、最前線でルールーとロビンフッドが暴れまわっているので最小限で済んでいるだろう。

 

 

 

 そもそも完全完璧な勝利などあるはずがない、全体の指揮を預かるゼスやランポッサも、数万程度の損害は目を瞑るつもりでいるのだ。

 

 

 

 出血を恐れて魔王が倒せるわけがない、流した血と積み上げた亡骸で土台を作ってその喉元へと刃を届かせるのが戦争である。

 

 

 

 彼らが覚悟している数万と言う損害は、魔王を殺す為の必要経費でもあった。

 

 

 

 死山血河を覚悟しなくて、魔王を倒せるはずもない。

 

 

 

 そうならない為に最大の努力はするが、そうなってもなお良しとする、帝国側の戦いは徹底していた。

 

 

 

 岸辺に押し寄せる波のようとはまさにこれだ、いつまでたっても帝国騎士たちの前進が終わらない。

 

 

 

 パレスは彼らをどう思うだろうか、少なくとも心穏やかに眺めているなんてことは無いだろう、もしかしたら苛立たしそうに爪でも噛んでいるのかもしれない。

 

 

 

「そら、あそこが敵の本丸だ!!」

 

 

 

 分厚く並べられた黄金の騎士たちを薙ぎ払いながら誰よりも早くルールーがそこへと至る、黄金の大きな扉に描かれた意匠は彼女も知っている、帝城にも存在するものだからだ。

 

 

 

 形を真似ているだけなので開閉機能があるかどうか謎ではあるが、そんなことは関係ないとばかりに大きな鉄塊にありったけの力を込めると、そのまま全力で叩きつける。

 

 

 

 隙だらけのそんな様子を左右で援護して敵を近づけさせないのは彼女に随伴していた騎士たちである、ルールーを自由に暴れさすことを最も優先している存在だ。

 

 

 

 そんな騎士たちに守られながら盛大に力を溜め込んだルールーの隙だらけの一撃は、予想通りに黄金の扉を割り砕いて騎士たちをそこへ導いていく。

 

 

 

「ここは、玉座の間ですかね?」

 

 

 

 ロビンフッドもこの場所を知っていた、帝城にも同じ場所があるからだ、全てが黄金で形作られた点を除けば玉座の間とそっくりである。

 

 

 

 その最奥、本来は皇帝が腰かける筈の場所に腰を下ろすのは、人型に擬態した黄金の美女であった。

 

 

 

 見た目は恐ろしく美しい女なのだが、人間との差異はやはり瞳にある三つ目の瞳だろう。

 

 

 

 妖しく輝くそれは魔眼である、睨まれただけで心臓を止められてしまうのではと錯覚してしまう程の力を感じ取ることができた、そしてその認識は決して間違いでもない。

 

 

 

 立ち塞がる全てを黄金の彫像に変えてしまえるのならば、それは即死の視線と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 大勢の騎士たちが雪崩れ込んだ瞬間に問答無用に魔眼が輝くと、不可視の力の波動が玉座の間を駆け抜けていく。

 

 

 

「ロビンッ!! 防げッ!!」

 

 

 

「わ、わかってますって!!」

 

 

 

 彼女の視界に入る全てのものが黄金でなければならないと、そんな傲慢な願いを叶えるかのような力の流れは、しかしあの廃坑道での戦いと同様に大きな二つの盾にまず阻まれる。

 

 

 

 シャルルが付与した祝福の力が込められていた大盾は魔眼から放たれた力を阻む、それが落ち着いた瞬間にロビンフッドの背後からルールーを筆頭に大勢の騎士が前に出た。

 

 

 

 こちらもまた問答無用であった、会話もなければ挑発も無い、そういう次元は既に通り過ぎており意味を成さないのだろう。

 

 

 

 やるべきことは対話ではない、野蛮な殺し合いである。

 

 

 

「鬨の声を上げよぉ!!」

 

 

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」

 

 

 

 玉座の間は騎士たちの声と長靴の音で満たされた、凄まじい気迫と怒りがそこには込められており、言葉の魔術のように他者へと圧力を与えたことだろう。

 

 

 

 パレスもまた例外ではない、押し寄せる騎士を、放たれる怒りを、そして彼らの覚悟を前にして、静かにこう思う。

 

 

 

 あぁ、自分はここで死ぬのか。

 

 

 

 それが自分の責務であり、なすべきことでもある、なので文句はない。

 

 

 

 例え死んだとしてもその魂はエキドナへと帰っていく、なので恐れもないのだが、ただ一つだけ心残りがあるらしい。

 

 

 

「……そこまで安い首と思われるのは我慢ならないわねぇ」

 

 

 

 せめて一人でも多く道連れにするとしよう、己の脅威が未来永劫に渡って語り継がれるほどの殺戮が必要だ。

 

 

 

 魔王とは、簡単に殺せぬから魔王なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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