商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
眼前に広がるのは吹雪によって染め上げられた大地だった。毛皮のコートをまとい、分厚い襟巻を身に着け、耳まで覆う帽子を身に着けても寒さを感じてしまう。手足の先端は冷たい痛みを訴え、吸い込んだ空気は肺を凍らせるかのごとく体温を奪っていく。
「今夜はこのあたりが限界だな、もうなにも見えやしない……ダーボ、止まるんだ休もう」
唯一、魔法の毛皮を身に着けたダーボの背中だけが温かい。だからこそ凍死せずにすんでいるのだ。
「この吹雪の中でもお前はあったかそうだなぁ」
毛皮に包まれた頭を撫でると長い鼻が頭上にまで伸びてきて彼女の体を優しくつかみ取る、そしてそのまま持ち上げると中央車両の専用入り口まで運んでくれる、なんとも賢い魔獣である。
彼はとてつもなく利口な生き物であり、春風のキャラバンを支える唯一の男性にして絶対の大黒柱だ。言葉を交わすことは出来なくてもこちらの言っていることは確実に伝わっている、人間の言語を正しく理解して意思の疎通を行い、そして尊敬さえしてくれるのだろう。
だからダーボの世話係であり誘導役でもある彼女もまた彼に尊敬を返す。
「ありがとう、夜には何度か様子を見に来るからな」
体にこびりついた雪を中央車両の窓際で落としてから中へと滑り込む、外よりはまだマシだが室内であっても寒かった。身を震わせながらも帽子だけは邪魔に感じたのか脱ぎ去る、すると彼女の頭上に獣人特有の獣耳が現れ周囲の音を拾い集めていく。
「シャーシャ、お疲れ様」
一番近い音の発生源はキャラバンの団長だった、その手にはホットワインが入ったコップが握られている。
「外の様子は……聞くまでもないわね」
シャーシャがホットワインを飲みながら頷く、窓の外を見れば今年の冬がどれだけ厳しいかは説明できるだろう。
「ぷはぁ……いやぁ団長、今年の冬はやばいですって、この辺は毎年冬が厳しいけど今年は特に強烈だ。完全に殺しにきてますよ」
「殺しにねぇ……実際そうなのかも、秋を終わらせる獣が現れたらしいし……確か前回に猛威を振るった時は大量の凍死者が出たはず、三十年も前のことだけどね」
「下手に移動せずあのまま街に引きこもっとくのもアリだったんじゃ?」
「それが難しいのよ、こんな状況だからどこもまともな準備をできなかった……あまりにも冬が早く来すぎてしまったのよ、あの街はこういう状況を想定して備蓄は沢山あるだろうけど、他はそうはいかないでしょうねぇ……実は領主様から依頼を受けてね、周辺の村や町に物資を届けてくれないかって」
「あのとんでもない量の物資はその為ですか、自分らで使うにしては多すぎると思ってました」
「あれでもかなり減らしたのよ、軍の輸送部隊に押し付けたしね」
「まぁ、放置して死なれても後味悪いですよね、春風のキャラバンはこの地域にはよく顔だしますし、長年築いた信頼関係を壊すのもあれですもん」
「そういうこと、でも最優先はキャラバンの生存ね、このまま徐々に南下しながら進路上の拠点に物資を配って……せめて普通の冬を過ごせる場所に行きましょう」
「今はまだ耐えられてるけどダーボを死なせるわけにはいきませんよね、冬眠できるといっても限度がありますし」
「ええ、だから彼の体調には注意してちょうだい。状況によっては車両を切り離して彼の生存だけは確定させなきゃ」
車両や物資を放置してでもそれだけは優先させなければ最後には全滅してしまうだろう、このキャラバンをけん引できるのは彼だけなのだから。ダーボが生きていれば冬を乗り越えさえすればまた引っ張ってくれる、逆にダーボが死んでしまうと物資も車両も捨てて体だけで生きていかなければならない。
「厳しい冬になりそうですね」
「……ええ」
外はまだ吹雪いていた、せめて明日は止んでくれることを祈るしかない。
「ううううぅ~……寒すぎるだろ耐寒魔法とかエミリーは使えないのかよ」
「シャルル……使えてもこんな状況です、魔力は温存しておきたいんです」
「…………」
純白の大地に三人の足跡と荷馬車の車輪の後だけが残されていた、荷馬車をけん引するのは一番力のある戦士のシャルルだ、後衛でありシャルルに比べると貧弱なエミリーとキャロルは荷馬車の後ろから足を滑らせながらも押している。
春風のキャラバンが秋の間、拠点にしていた街を去ってから既に二カ月が過ぎ去っている。徐々に南下しながら周辺の村々に物資を届けながらの行軍は普段の移動と比べてもかなり遅い。
通常ならば南の街まで既にたどり着いており、秋を終わらせる獣の勢力圏からは脱出していなければならないのだが、彼女たちは道半ばで本体と別れて荷馬車を引いているのだ。
移動が遅れた理由は二つある、一番の原因はやはり秋を終わらせる獣の力が想像を超えて巨大であったことだろう。二つ目は配達依頼を受けた物資の量と行先だった。前者は北の果てで今も猛威を振るっており、その力から逃れるための南下ではあったのだが……これは半分成功で半分失敗でもある。
本来の移動ならその勢力圏から苦も無く抜け出せただろう、しかし大量の物資がそれを邪魔する。結果として春風のキャラバンは常に背後に巨大な吹雪を背負いながらの移動を強いられてしまう。振り返れば自分たちの通った道がとてつもない吹雪に覆われているのだ、なかなかに恐ろしい光景だった。
ギリギリの距離まで追いつかれて離れてを繰り返しながらも、進行ルート上の近くにある村や町への補給も忘れない。
そしてそれこそが彼女たちがキャラバン本体から離れている理由だ、やはりどこもかしこも物資不足であり、寒さに身を寄せ合いながら耐えしのぐ光景が当たり前のように広がっていた。もし、物資が不足したまま秋を終わらせる獣の勢力圏に完全に飲み込まれてしまえば……春を迎えることは厳しい。
春風のキャラバンに所属する団員たちが総出で各地に配達しているため救われた村々も多いだろう。だからこそ秋を終わらせる獣の力に追いつかれそうになっているのだが。
だがそれも今回の輸送で終わりだった、領主から依頼された仕事がようやく終わるのだ、あとは身軽になったキャラバンを全速力で南下させ「普通」の冬を過ごす。
「あちらの方は、まだ少し雪がちらつく程度だそうです」
「マジかよ、ここはこんなに寒いのに」
「……妖精の力が巨大すぎる、完全に異常気象」
この地域の冬は確かに厳しい、しかしここまで悲惨なことになったのは秋を終わらせる獣の力ゆえだ。北の空に視線をやると吹雪の結界とも言うべき光景が広がっており、逆に南側に視線をやるとチラホラと緑が確認できる。
「でもまぁ、今回の輸送で最後なんだ、さっさと終わらせてこんな寒さからおさらばしよう」
「……シャル姉……秋を終わらせる獣を捕まえる話はどこに?」
「その話はもういいっての!こんな力を持った怪物なんて相手できるかよ」
「確かに厳しいでしょうね、もし発見できても捕まえられません……そもそも魔法や剣が通じるような相手ではないでしょうし」
遭遇すれば確実に死ぬ、それだけは実感しているし断言できた。まだまだ未熟ではあるが決して愚かではない彼女たちもそのへんは理解できる、秋を終わらせる獣に挑むのはドラゴンに挑むようなものだと。
炎で焼き殺されるか、氷の彫像になるかの違いでしかないだろう、そんな最後はごめんだった。
「……矢も意味がなさそう…………ん、ちょっと待って、何か動いてる?」
「おっと、全然気が付かなかったぜ、場所はどのへんだ?」
最初にそれに気が付いたのはキャロルだ、寒さに震えて話しながらも弓兵特有の鋭い視力がこちらに接近する何かに気が付く。
「正面から少し右……あれは……狼」
「全然見えませんわ。距離はどれくらいですか?」
「……あの倒れた木より少し向こう、数は……二十二匹、真っ白な体」
具体的な位置を知らされてエミリーとシャルルは目を細める、確かに雪の上を真っ白な何かが走っているようだ。
「保護色になって分かりにくい……だからここまで接近されて気が付かなかったのね」
「確かこのへんの狼って季節によって体毛の色が変わるらしいぞ、白色の毛皮は人気があって高く売れるらしい」
「皮を剥いで加工するような時間も余裕もありませんわ、今回は諦めてください」
「ちぇ、タダ働きかよ」
おしゃべりしながらも準備は怠らない、シャルルは鞘から剣を抜き兜を締め直し、盾を構えて一歩前に出る。キャロルは荷馬車の上に移動して弓を構え、エミリーは魔法を放つ準備を整える。
「あと一分ほどくださいな」
「マジで?前よりだいぶ早くなってないか」
「ゴブリンの時と違って大きな魔法ではありませんから、あんなものをここで使えば雪崩が起こってしまいます」
接触はそれから十秒後だった、キャロルが放った矢が先頭の狼の眉間を打ち抜いたのが開戦の合図だ。先駆けを潰しても群れの勢いが衰えることもなく次々と襲い掛かってくる。四足歩行動物特有の低く鋭い突進をシャルルが安物の盾で受け止めると驚くほどの衝撃が左手に広がるが耐えられないほどではないようだ。
「戦神の……えぇっと、アイツの名前なんだったかな、まぁいいや、なんか凄い力を分け与えたまえ」
「シャルルさん!神々への祈りと聖句を雑に済ましてはいけないと何度言ったらわかるんですか!」
「いやいけそうだぞ!力が湧いてきた!」
「えぇ……」
その言葉の通り、シャルルは自分の体に力が宿ったことを実感できた。以前はエミリーがうるさいので長い祈りと発音しにくい名前をボソボソと呟いていたのだが、ここ最近になって雑な祈りでもなんだかんだで力を貸してくれるようになったらしい。
戦士を見守る戦神は太っ腹だ、シャルルはそんなことを思った。
「よっしゃぁ!かかってこい!」
盾で狼を弾き返し、剣でとどめをさす。やるべきことはそれだけなのだが、言葉にするほど簡単ではない。相手は群れであり一対一を望むような相手でもないのだ。
正面の狼を切り捨てる、次に側面からの突進を盾で受け止め勢いを殺し、体幹を崩した狼の喉元へと刃を潜り込ませた。
流れるような一閃は狼の毛皮と肉と骨を断ち切り雪原を赤く染め上げる。
神々の力とはかくも偉大である、あまり信仰心のないシャルルですらこれなのだから。
「どうして彼女はああなのかしら」
「……神々は気まぐれ……たぶん信仰心は関係ない、シャル姉のことを気に入ってるだけ」
キャロルは矢を放ちながらシャルルとは対照的にしっかりと心の中で祈りを捧げていた、その祈りが神々に届いたかどうかはわからないが、矢はしっかりと目標へと突き刺さる。
「……エミリー、決めちゃって」
「豊穣の神よ、至高の君よ、脆弱な我らに慈悲をお与えください」
手本を見せるかのようにそう祈り、聖句を唱える。こちらもまたその祈りが届いたかどうかはわからないが魔法はしっかりと発動できた。
大地を覆いつくす雪の一部が固まり、細く鋭い槍となって狼たちの胴体を突き上げる。これで群れの半数が排除できただろう。
串刺しにされた同胞を見て群れのリーダーらしき狼は小さく唸り声を響かせ距離をとった。どうやらここで撤退しするらしい。
「逃げられましたわね」
「……狼は賢いからしかたない」
「なぁ、やっぱり毛皮は取らないのか?一匹くらいなら大した手間にならないしさ」
「さっきも言いましたが駄目です、一秒でも無駄にできません」
未練がましくその場を後にして緩やかな斜面を登りきると、丘の頂上にある目的地にようやく到着できた。そこには、どこにでもありそうな開拓村が広がっている、人口は百人にも届かないだろう。
村人らしき者が家の屋根に上って雪下ろしをしているので近づくと向こうから声をかけられる。
「おぉ、やっぱりキャラバンの嬢ちゃんたちじゃないか、またワインを買いに来たのかね?」
一人の老人がどこか期待するかのように三人を眺めてそう言った。二カ月前にこの村で作られている葡萄酒を買い付けに来た時に知り合った、この村の村長にあたる人物だ。
「おっすおっちゃん!悪いけど今日はそうじゃないんだ」
「なに、そうなのか?……できれば食糧なんかと交換して欲しかったんだが」
「安心してください。交易ではありませんが、依頼を受けてここに来ました。領主様より各地への物資の輸送を任されているんです。ですのでこちらをお渡しします、お代は既に頂いておりますのでお受け取りください」
「おぉ領主様が……なんとも慈悲深いことだ」
「……やっぱり厳しい?」
「うむ、まともな準備ができなかった。薪は年中作っているから足りるだろうが、食べ物がな……森に入ろうにも天気は不安定だし、獲物が取れるとも限らん。嬢ちゃんたちが来てくれて助かったよ」
最悪、覚悟しなければならなかった。男性はそう呟いて受け取った物資を村の集会所に移す。
「もう少し多く運べれば良かったんですが」
「あぁよいよい、蓄えが少ないといっても無い訳ではない、これと合わせれば何とかなるだろうさ」
「ほんとに大丈夫か?今年の冬は秋を終わらせる獣の力でとんでもないことになってるんだぜ」
「ほぉ、そうかそうかどうりで厳しいはずだ。何十年前だったか、そいつが猛威を振るった年があってなぁ……ありゃあひどかった、最後の叫びはこの世の終わりかとおもってな」
村長は視線を村から眺めることができる山脈へと移す。丘の上にあるこの村からは障害物が少ないので三千メートル級の山々が一望できるのだ。
「……最後の叫び?」
キャロルの疑問に彼はこう答える。
「秋を終わらせる獣が死に際に最後の力を振り絞って叫び声をあげるんだ。あの時はちょうどあの山々の頂からだったな……その叫びは巨大な衝撃となって周囲に広がり、冬はより一層深まった。最後の足掻きなんだろうな」
「そんなに凄いのか?」
「ああ凄い、それまでは厳しくはあったがギリギリ踏ん張れた……だが叫びと共に衝撃が広がると、こうして外すらまともに歩けん。多くの者がその叫びを超えられなかった」
村長は山の頂を指さしてその時の状況を説明する。例え数十年前のことであろうとも、あの頃の衝撃は今でも脳裏に焼き付いていた。
「山の頂上に巨大な光が現れて渦を巻いたんだ、周囲の雲も引き寄せられるかの集まってな……最後には山の頂上が見えなくなるくらいまで雪雲が大きくなった、そんで……」
叫びと共にその雲が爆発を起こし、衝撃となって周囲にまき散らされたのだと言う。
「そうそう、ちょうどあんな感じに……あんな……感じに、な」
村長の言葉は驚愕と絶望に染まる、彼が指さす山の頂上にはその言葉を再現するかのように大きな光が現れたからだ。
山の頂が光り輝いている、太陽を背負って逆光になっているのではない、青白い光は正しくあの時の記憶のままだった。
「な、なんですのあの滅茶苦茶な魔力の渦は……う、うそでしょう」
魔術師であるエミリーはその巨大すぎる魔力を恐れ。
「…………やばくね?」
戦士であるシャルルは遠く離れていても感じ取れる強者の気配に体を震わせる。
「……」
弓兵であるキャロルは山頂に存在する怪物を見つめて口を閉ざした。
「ま、間違いない!あれが秋を終わらせる獣の最後の叫びだ!こりゃまずいぞ!」
「叫びはすぐに来るんですか?どれほどの猶予がありますの!?」
「はっきりとはわからん、前は丸一日くらいはかかったような気がするが、あそこから周囲の雪雲を束ねるまではまだ時間がかかるはずだ」
三人は視線を合わせる。考えていることは同じだった。
「村長さん、私たちは今すぐキャラバンに戻ります」
「まてまて、その空の荷馬車を引きずってか?絶対に邪魔になるだろう……ここに置いていけ、責任を持って預かるから。どうせまた葡萄酒を買いに来るんだろう?その時に返そう……代わりにこいつを持っていけ」
そう言って手渡されたのは物資運搬の為のソリだ。あまり大きくないが、詰めれば少女三人くらいは乗れるだろう。
「お前さんたちのキャラバンがどこにあるのかは知らないが徒歩より早いだろう、丘の麓まではこいつで一気に行ける」
「よろしいのですか?」
「遠慮はいらん、恩人には当然の配慮だ」
「感謝します、あなたに豊穣の神の御加護を」
「ありがとう、お前さんたちにも幸運を」
山頂にはわずかに雲がかかっていた。
丘の上の開拓村からキャラバンまでは直線距離で一日は必要となるだろう。だからこそ貸してもらえたソリの存在は重要だった。緩やかな傾斜をまっすぐに滑るソリの速度は徒歩よりもかなり早い、何より体力を温存することができるのが大きい。
これならば半日ほどでキャラバンにたどり着ける筈だ、残された時間は僅かだがなんとか最後の叫びが聞こえない場所まで脱出する。
ダーボには大きな負担をかけるだろうが、やってもらうしかない。
(次の街に着いたらあいつの好きな果物でもおごってやろっかな)
そんなことを考えながら、シャルルは勢いよく雪原に叩きつけられるのだった。
雪がクッションになりはしたが、完全に勢いを殺すことができないまま緩やかな斜面を転げ落ちていく。
全身に広がる鈍い痛みに、腹部からの嘔吐感、転げ落ちた先にある大木にぶつかった衝撃で頭上からとどめを刺すかのように大量の雪が落ちてきた。
それでも彼女が意識を手放さなかったのは戦士としての意地であり責任感からだろう。痛む体を強引に奮い立たせながら、自分たちが乗っていたソリを吹き飛ばした下手人を睨みつける。
そこにいたのは真っ白い体毛の狼たちだった。
なるほど、納得するほかない……シャルルは狼がいかに賢いかを理解した。雪に紛れてソリを操ることに集中していた三人に接近して体当たり、狼の存在に気が付いた瞬間にはもう遅い。
霞む視界の中でエミリーとキャロルの姿を探す、どうやら二人とも意識を失っているようだ。片方は体の半分が雪に埋まり、もう片方は壊れたソリの傍らで頭から雪に突っ込んでいる。
「あともうちょっとでキャラバンだってのに……ほんとずるい」
キャラバンを視界に収め、油断した瞬間を狙われたということだ。
「……ほら来い、決着つけてやる」
純白の狼たちは余裕ともとれるシャルルの言葉に苛立ったのか、上位者は自分たちだとばかりに咆哮をあげて突進してくる。
「……何だったけあの神様の名前」
意識がしっかりとしないまま、神の力を得ようと言葉を探すが霞がかって上手く出てこない。今現在、頭から雪に突っ込んで気絶している友人がいつもうるさく注意してきたので何となくは覚えているのだが、シャルルはそこまで信仰心が熱くはないのだ。
別に神々を軽んじているわけではない、尊敬していないなんてこともない。ただあんまり意義が見つけられないだけだった。
シャルルにとって神とはその程度の存在だった、そして神々はそんな彼女をあんがい気に入っているのだ。
「あぁ……そうだった、確かこんな感じだったか」
呟いたのは多くの戦士が信仰する戦神の名前だった、発音しにくいその名を発した瞬間、シャルルは狼たちの視界から掻き消える。
獲物はどこへ消えたのだろうか?……そんな狼たちの疑問は答えが出ないまま闇へと葬られてしまう。
一瞬にして狼たちは惨殺された、ただの一頭も例外なく、その首をシャルルによってねじ切られて。
「…………」
そこで彼女も雪の中へと無言で倒れこむ、もう指の一本でさえ動かせない。
「エミ、リー……キャロル」
それでも心だけは前に進めと急かすのだが、そこで彼女の意識は完全に眠ってしまうのだった。
どこか遠くでこの世の終わりを知らせるかのような叫び声が聞こえる、それが何かはわからなかった。
小説家になろうで連載中の物をこちらに転載します。