商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
「房中術の歴史はとても長くて奥深いものなの。当然よね、生物の歴史と繁栄において切っても切れない儀式なのだから……それ故に最も簡単で最も極めることが難しいと言われているわ、私も長く生きているけどまだ基礎の段階だから教えるだなんておこがましいかもしれないけど」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、世界が作られて生命が生まれて……それと同じだけの歴史があるのだから、私が積み上げた技術なんてほんの一握りでしかないもの、それに私には房中術の才能が全くと言っていい程になかったから基礎の段階で数百年も必要になってしまったわ」
炎や氷を操る魔法とは方向性が違うということだろう、万能の魔術師など存在しないのでローレライほどの魔術師であっても苦手はあるのだ。
しかしこれまで房中術の基礎すらも学んだことのないエミリーからしてみれば、苦手であろうと数百年分の経験値があるのだから遥か高みにいることは間違いない。
ローレライは私室のベッドで服を脱ぎ下着だけの姿をさらす、エミリーやシャルルやキャロルたちのように幼さが完全に抜けきっていない肢体と違って、彼女の体は完全に成熟した大人のそれだ。
何もかもが少女であるエミリーと違うことがわかる、まず胸が大きくエミリーにはない谷間というものが存在しており、同性である彼女からしてみても思わず喉を鳴らしてしまうほどの美しさと色気を醸し出している。
胸の大きさに反して腰はしっかりと引き締まっていた、そしてその下にある臀部は胸と同様に男を魅了する大きさを維持しておりただただ美しい。
ローレライという女性は、顔も声も体も男が理想とする美しさを凝縮したかのような存在だった。
そんなローレライに手を引かれてエミリーもまたベッドへ横たわる、不思議なもので酔ったかのように思考が纏まらず抵抗しようなどと考えることもしなかった……いや、そもそもエミリーにとってローレライに触れられることは不快なものではない。
男性の逞しい剛直に貫かれる交わりも嫌いではないのだが、女性と肌を重ねることもまたエミリーにとって好ましいことである。
これは魔術の訓練である、そんな言い訳があるのならば同性愛を嗜むエミリーが、この交わりを嫌よと言うはずがなかった。
「……んんッ!?」
よく手入れされてささくれのない丸みを帯びた指先がエミリーの肌を撫でる、ただ指先が触れただけだというのに、そこから不自然な甘い痺れが体中に広がってしまう。
その感覚を知っている、彼女が娼婦として働いている時に、極めて体の相性が良い相手との交わった場合によくあることだ、抱かれ貫かれ舌で撫でられて絶頂につぐ絶頂で思考が快楽に囚われ帰って来れなくなった時に、ほんの些細な刺激だけで体が大げさに反応してしまうのだ。
その甘い淫獄に、まだ交わってもいないのに陥ってしまったことにエミリーは瞼を大きく開いて体を震わせる。
「ふふ、敏感ね」
「いやッ……違います、これ、なんだか……体が変に……んんんッ!!」
流れるように服をはぎ取られたエミリーは凶器の指先にまた震えることになる、柔らかく突かれた肌は特別なことなど何もないというのに快楽を体中に走らせていく。
それだけでは終わらない、エミリーの肌に触れる指先は数を増やして五本になると、そのまま猫の背中でも撫でるかのように横滑りして臀部へと到達してしまう。
「アッ……やッ……ああぁぁぁ、あぁぁ……んッ……んんッ……んんんんッ!?」
今度は撫でるだけでなく尻をがっしりと掴まれてそのまま左右に動かされる、ただそれだけだというのにどうしようもない熱が広がって腰がガクガクと揺れ動く。
これは駄目だ、ただ触れられるだけなのに既に絶頂近くまで快楽は高まっており、抗いようのない力に翻弄されている、指先一つで体を支配されてしまったかのように弄ばれていた。
「凄いでしょう? 極めれば交わることで相手を洗脳して意のままに操ったりもできるのよ」
陸に上がった魚のように体をビクつかせて口をパクパクと動かしながら、涙目で助けを訴えるかのような視線を向けてくるエミリーに気をよくしたのか、ローレライは普段の穏やかな表情とは縁遠いどこか邪悪な笑みを浮かべて掴んでいた彼女の臀部を軽く引っ叩く。
ペチッ、そんな軽くて乾いた音が部屋に響くと、それがトドメの一撃となった。
「----ッッんんんんん!?」
僅かな痛みですら甘美な快楽に変換されてしまう、体の全てを完全に支配された今ならばそよ風ですら耐え難い痺れになってしまうだろう。
房中術というのはただ上手く快感を得る為の術ではない、肌と熱を交じり合わせながら互いの存在を溶け合わせて五感や魂に影響を与える技術だ、長ずればそれこそ相手を奴隷とすることもできてしまう恐ろしさがあった。
この魔術を得意とする魔女が一国の王を支配下に置いて国を右へ左へと翻弄して、最後には国を抱いたまま英雄に討たれてしまう、そんな歴史も珍しくない。
使い方を誤ればそれこそ傾国の武器となるのだが、魔術師の間でこの技術が広く深く広がり、主流の派閥まで存在するくらいに大きな影響力を持っているのは、やはり魔術師にとって有用であるからだろう。
ローレライは絶頂に震えるエミリーの髪を優しく撫でると、それすらも快感になるのかピクリと反応を返してくる。
「今みたいに五感に干渉して快楽を増幅させることも忙中術の一種ね、こうすれば強引に魔力を流し込むよりもずっと安全に魔力の相互循環が可能になるわ、溶け合うように交じり合いながら魔力を流すだけだから比較的簡単だと思うんだけど……感覚は掴めたかしら?」
「うッ……あッ……んん……ふえ?」
朦朧としながらもローレライの言葉は染み入るようにエミリーに届く、前後不覚の状態なのだが体の全てを支配されているので、今ならば言葉が無くても思念となって届いたかもしれない。
実際にその通りになるだろう、今のエミリーはローレライに全てを支配されており、体も魂も記憶も完全に手中であり、ある種の魔術的な路が繋がった状態なのだ。
その不可視の路を伝ってローレライから魔力が流れてくる、それだけでなく感情や想いや記憶らしきものまでエミリーへと届く。
自分の知らない知識や景色が頭の中に消えては浮かんでいき、それがローレライの記憶だとわかった時に、エミリーは真の意味でローレライの生きた時間を理解することができた。
長く生きていることはわかっていた、途方もない時間であることも察することができる、しかしたった今流れ込んできたローレライの記憶のほんの一部でさえエミリーの人生よりも長い時間であるのだから、本当に長い人生なのだろう。
そんな苦労を少しも見せないままローレライはエミリーの髪を撫でている、その微笑みだけを見ればただの美しい女でしかない。
「エミリーも感じてると思うけど、この魔術的な路を作ればシャルルやキャロルにも魔力の循環ができて知覚することができる……一時的な物だけどね」
「……あぅ、私にも……はぁ、出来るんでしょうか?」
「出来るわよ、房中術は簡単だけど奥が深い……極めようと思えばとてつもない時間が必要になるけれど、入口に立つだけなら誰にでもできるわ。そもそもエミリーは私が教える前から不完全だけど房中術を使っていたと思うし」
「え? そうなんですか?」
「だと思うわよ、誰にでもできることだって言ったじゃない……そうねぇ、例えば男性の精液を飲んだり子宮で受け止めたりした翌日とか、普段より魔力が増えていたりしないかしら?」
「えっと、どうでしょうか……あぁ、でも言われてみれば確かにそうかもしれません」
「でしょう? 男の人の精液って生命力の塊のようなものだから魔力への変換効率がとても良いの、エミリーの流派では呼吸によって魔力を吸収するけど、たぶんそれ以上の効率でしょうねぇ……極めれば寿命を延ばしたりなんてことも可能なの」
「魔術師にとって有用だということはわかります……この魔術を柱とする流派があるのも納得できました」
相手を支配したり、生命力を奪って自らの力に変えたり、それらの技術ですら入口でしかないのだろう、エミリーは房中術という魔術の深淵を垣間見た気がした。
娼婦として働く契約を正式に結んだので、これから幾らでも房中術を鍛える時間はあるはずだ、それはつまり魔術師として高みに進むことに他ならない。
「さぁ、繋がりが消えないうちに練習しましょう、今度はエミリーからいらっしゃい」
そう言ってローレライは下着を脱ぎ去って全裸になると、ベッドの上に力を抜いて横たわる、エミリーはどこを見ても完璧な肉体を曝け出されて喉をごくりと鳴らした。
この体を、自分の好きにしていい、そんな欲望が体の奥底から沸き立つように生まれると、その熱は全身に広がっていく。
女性同士で愛し合う為のそれらしい言い訳は思い浮かばなかったが、熱にうなされた思考は頭ではなく体を動かすことを優先したらしい、横たわるローレライの体に手を伸ばすとそのまま吸い込まれるように肌に触れた。
「んッ……ふッ……ふふ、赤ん坊みたいね」
二つの膨らみが作る谷間に顔を埋めると、熱を更に高める甘い香りが鼻孔をくすぐり心地いい、男性の筋肉質な体とは違って柔らかく瑞々しい肌は……やはりエミリーにとって興奮に油を注ぐかのようなどうしようもない魅力を宿している。
硬く分厚い男の体に包まれて押し倒され抱かれることも決して嫌いではないのだが、女性特有の柔らかい肌に触れることの方が彼女にとって好ましいのだろう。
あぁ、罪深い私をお許しください。そんな取ってつけたかのような雑な祈りを捧げると、エミリーはローレライの鎖骨へとキスをする。
新雪に足跡を残すかのような緊張を持って美しい肌に吸い付くとチュっと音を立てた、すると僅かに鬱血痕が残ってしまうのだが、白い肌に残されたそんな光景を見てエミリーはゾクゾクと背筋を震わせるのだった。
「はぁ……ちゅッ……ふぅ……ちゅる」
気分を良くしたのかエミリーの唇は鎖骨からそのまま下に滑っていき、大きな胸の頂上へと唇を近づけると、そこにある桜色の突起を咥え込む。
無数の男がそこを舐りまわしたにも関わらず、美しい色合いの乳首を唇で食みながら舌を回して弄ぶ、その度にローレライの体はピクリと反応を返してくれるので、エミリーの体も連動するかのようにゾクリと震えていた。
「んんッ……ほら、エミリー……しっかりと魔力を繋ぎ合わせるのよ……あッ……」
「はい……ちゅ、こう、でしょうか?」
二人の間に結ばれた不可視の路を伝ってエミリーからローレライへと魔力が流れ込む、しかしまだ房中術の入口に立ったばかりのエミリーには加減がわからなかったのだろう、本人の予想以上に多くの力が流れ込んで相手の領域を犯していく結果となった。
「あぁッ!? ダメッ……んん!! いきなりそれは……んんんんッ!?」
普段から呼吸術によって体内に貯め込んでいた魔力の量はかなり多い、熟達の魔術師であるローレライからしてみてもかなりの量だ、それが加減もなく流し込まれれば先程のエミリーのように体に快楽が駆け巡っていく。
繋がった路を通じて今度はエミリーの魔力が流れ込み、同時に記憶や経験といったものが渡ってきた、それはただ肌を重ねて愛し合うよりもずっと深く強い繋がりだ、文字通り体と魂が溶け合って五感が交じり合う。
相手が感じれば路を通してそれが伝わって、またその快楽が相手へと伝播する、自分の快感は相手の快感であり、相手の痺れは自分の痺れでもあるのだ。
普通のセックスではここまで濃厚な熱を感じることはできないだろう、房中術でより深い繋がりを構築したからこその甘美な一時だった。
「はぁ……凄い、これが……ならこうすれば、んッ……んんッ……ちゅッ」
「エミ、リー! あうッ……はぁ……こんな、いきなりは駄目よ……もっと、やさしく、ね?」
「ふぁい……す、すいません……つい、その、なんと言いますか」
「私が相手だからまだ良いけど、魔術師ではないシャルルやキャロルにはもっと優しくするのよ……急激に魔力を流せば必ず驚くわ……優しく、優しくよ?」
「はい……気を付けます」
今度はその助言に従ってさざ波のように穏やかな流れを作って魔力を循環させていく、氷を体温で溶かすかのようにゆっくりと、そして擦れ合った場所から生まれる熱を全身へと日遂げていった。
ローレライの熱をエミリーへ、エミリーの熱をローレライへ、二人の魔術師は抱き合いながら唇を寄せ合い、唾液と魔力を交換しながら快感を増幅させているようだ。
「んッ……んんッ……んんんッ……チュ、ちゅる」
「ふぁ……ちゅ、ちゅ……んんッ! んッ、はぁ」
肌を触れ合わさせるだけで燃え上がるような痺れが広がるのだ、キスをして舌を絡ませ合えばそれだけで二人は絶頂してしまった。
股間からは弄ってもいないというのに大量の愛液が流れて太ももを汚しており、シーツにシミを作って今なお広げていく。
「んむ……ん、ふ~! ふ~! チュッ! んんッ……ふぁ、これ、すごいわ」
「はぁ……んん、ちゅる……ん、ん、あむ、ちゅ……ローレライさん……あぁ、もっと、唾液を……くだひゃい」
これから経験する絶頂をねだるかのようにエミリーは舌を伸ばしてローレライの口内を弄っていく、ぐちゃぐちゃと粘度の高い唾液を絡ませ合いながら舌を突き合い、ローレライは最後に唇でエミリーの舌を咥え込み、それがトドメとなる。
最初に達してしまったのはエミリーだが、房中術で繋がった路に引っ張られるようにローレライも快楽を爆発させる、自分の体の中だけでなく相手の中にある絶頂も感じ取ってしまうので、普段よりも長く深い痺れが広がっているようだ。
意識を手放しそうになりながらも必死に耐える、しかしいつまで経っても快楽は消えることなく反響して暴れまわるので余韻がいつまでたっても訪れない。
「----ッッ!! -----ッッ!?」
「んんッ! んんんッ! んぶんんんん!?」
敏感な部分に触れた訳でもない、二人は舌を絡ませ合うだけで終わることのない絶頂を繰り返し、いよいよ意識を失う寸前で唇を離す。
唾液の橋が二人の唇から伸びてぷつんと途切れた、そしてエミリーは腰を抜かしてベッドに倒れるように体を沈めるのだった。
これまでの性経験の中でもずば抜けて心地良い絶頂の波で体は限界まで酷使されているようだ、快楽で死にそうになることもあるのだと、エミリーは初めて知った。
「はぁ~、はぁ~……うッ、あッ……う、ごほッ!」
「ふぅ……ふぅ……ふ、ふふ……やっぱり魔術師との房中術は、一味違うわね……男性との交わりも良いけど、男の魔術師って少ないから機会もなくて……ふふ、癖になっちゃいそうだわ」
ローレライもまたいつまでたっても引く気配のない余韻を味わいながら悦に浸っている、長く生きてエミリーよりも豊富な経験を持っているのだが、そんな彼女であっても久々と言えるような快楽なのだろう。
いつだったか、遠く朧げな記憶の中に荒れた時期が彼女にもあったのだが、その時に気まぐれに手を出した薬物を使ってのセックスでも似たような快楽を味わったと記憶している。
あまり乱用すべきではないのかもしれない、自分はともかくエミリーは若く幼いのだから、そんな言い訳をしながらもローレライは体を震わせる彼女の髪を優しく撫でる。
既に房中術で作った魔術的な路は消しているので、ただただ優しい温もりだけを感じることができた。
「方法は分かったわね? これも魔術の練習だからエミリーがあの二人の魔力を操作しなさい……聞こえているかしら?」
「は、はい……大丈夫です」
ローレライの掌を心地いいと感じながらエミリーは夢想する、二人の親友を相手にこの魔術を使うことを想像したのだ。
あの二人に路を作って愛し合えば、どれほどの快楽を得られるだろうか?
そんな妄想を繰り広げるエミリーの顔は、聖職者にあるまじきいやらしい笑みであったことだろう。