商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
「ガルグ師匠、やっぱり聖都って大きな街ですよねぇ……こんな大都会だと俺みたいな田舎者は浮いちゃいますよ」
「その考え自体が田舎者の自意識過剰だ、誰もワシらを気にしたりなどせん、堂々としとれ」
二人の男性が聖都の華やかな街並みを進んでいく、片方はまだ幼さが残る少年でもう片方は老齢の域に差し掛かった男性である。
両者ともこの聖都の生まれではなく周辺の村で狩人として暮らしており二人は師弟関係にあった、師匠の名はガルグであり年齢的にもそろそろ引退を考えているのか、同じ村落で弓の扱いに長けた弟子を見つけて様々な技術を教え込んでいた。
弟子の名はアラン、一応はガルグの親戚でもあるのだが上下関係を意識してか師匠と呼ばせているらしい。
彼らは狩人、猟師であり日々の暮らしの大半を山々から得た獲物を糧に変えて生きている、その為に一年の大半を山で暮らしており、こうして聖都に赴くことは年に数回程であった。
今回はその数回の内の一度ということになる、彼らの背にはこの数カ月で手に入れた獲物の毛皮が大量に入った背負子があり、手には愛用の弓を握って腰には矢筒もある、そして全身を獲物から作った皮鎧と毛皮で包んでいる、まさに狩人といった出で立ちである。
獲物の毛皮を聖都に持ってきて馴染の店や商人に卸す、アランはともかくガルグにとって生涯の大半をこの作業に費やしており今更緊張するようなことでもないのだが、まだ幼さの残るアランにとっては小さな村しか知らないので聖都を歩くこと自体が物珍しいのだろう。
キョロキョロと視線が右往左往して、視線が揺れ動けば足もその方向へと移動する、彼からしてみれば目に映る全てが華やかで美しく、田舎の村育ちには刺激が強かった。
「はぁ~……都会ってすごいなぁ……こうしてるとなんか場違いっていうか……お、女の人もあかぬけて美人だし」
アラン少年の視線は広場に連なる大量の天幕へと固定された、そこには無数のキャラバンが拠点を作っており、娼館なども確認できてしまう。
そこにいる女性、娼婦を認識した瞬間に彼の顔は真っ赤になってしまった、村に住む同い年の少女たちとは明らかに異なる色気を醸し出しているのだ、それすらも彼にとっては大きな衝撃であった。
「ありゃキャラバンの連中だな、毎年この時期になるとあそこの広場に集まる。後で覗いてみるか?」
「えッ!? 良いんですか!?」
「期待に目を輝かせているところ悪いが娼館はまだ準備中だろうさ、そもそも狙いは娼館じゃなくて露店の方だな、大陸中から商人たちが集まるもんだから珍しい物も多い……まぁ、偽物や贋作なんかもあったりするが、その辺は目利き次第ってことだ」
「……娼館には入れないんですね」
「今は昼間だから時間が悪い、そもそもお前に娼婦を買えるだけの稼ぎが無いだろうが……ああいう所に入りたいんならしっかり働いて貯めることだな、ワシが奢ってやっても構わんがそれはお前さんが一人前になった時に取っておこう」
少年に学ぶべきことは多い、それはまだ先の話になるだろう。
「まぁ露店巡りは後だ、今はこいつを金に換えて頼んでいた物も引き取らねばならん」
ガルグの言葉にアランは頷いてその背についていく、聖都には遊びに来た訳ではないのだ、彼らは仕事と生活の為にここにいるので娼婦を物色するなど縁遠い話であった。
人波みと肩が擦りあう、という故郷の村ではまず起こりえない現象に慌てながらも、アランたちが辿り着いたのはガルグと付き合いの長い店や商人だ、そういった取引相手に毛皮を降ろして収入を得ると、身軽になった二人の足は神殿街へと向かう。
娼館はアランにとって縁遠い場所であるのだが神殿もまた馴染がない、山に入る前や狩猟の時に師匠に倣って祈りを捧げてはいるのだが、こうして本格的に足を踏み入れることは初めての経験になる。
神殿とは神を祭る空間である、その場所は言わば異世界であり空気が異なるのだ、山や街とは一線を引いたかのような清浄な世界にアランは冷や汗をかいて自らの身なりを整えていく。
汚れはないだろうか、汗臭くはないだろうか、そんなことを気にしている間に神殿長が二人の前に現れる。
「アラン、跪け」
そう言ってガルグは慣れた動作で跪く、アランもそれに倣う。
「お久しぶりですガルグ様」
神殿長はガルグと同年齢位の女性であった、生きて来た時間と経験を物語るかのように顔や手には皺が目立つ、だが彼女がガルグに向ける視線は穏やかで尊敬が込められており、顔なじみと言うには少しばかり心の距離が近いのではないかとアランは思う。
二人の関係が気になったものの、無粋な口は挟まずにアランは一歩引いた位置で変わらず跪く。
「お久しぶりです神殿長、この旅は無理を聞いてくださり心よりの感謝を捧げます」
「無理などではありません、貴方は大恩のあるお方、こうして我々を頼ってくださりとても嬉しいのですよ」
神殿長の女性は穏やかに微笑むと、手に持っていた包みをガルグへと差し出した。
「この生命の神殿、そして生命神の力と祝福が強く込められた矢となります、ご確認ください」
紫色の布に包まれていたのは矢筒であり、その中には大量の矢が収められている、布から曝け出された瞬間に淡い光の粒子が零れ落ちて輝きを放つ。
その矢を一目見た瞬間にアランはごくりと喉を鳴らした、一切の疑いや間違いもなく神の祝福が込められていると理解できたのだ。
「確かに、祝福の矢で間違いありません、これこそ我らが求めていたものです」
「それは良かった、我らも汗を流したかいがあります」
二人は互いに微笑み合う、やはり距離が近いように感じられた。
「聖騎士様にも今回のことを報告させてもらい、祝福の矢を作ることを手伝っていただきました」
「聖騎士様方の手を煩わせてしまうとは……彼らには彼らの仕事があるというのに」
「可能なら人手も貸したいと言っておられましたが、今は祝祭も近くなっていますから……それに、最近の聖都は少し治安が悪くなっておりまして」
「祝祭が近くなれば人も多くなります、不埒な輩も多くなるでしょうからな」
「いえ、人の起こす犯罪や悪行ならば可愛いものなのですが……どうも邪悪の気配が漂っている、だからこそ聖騎士様も聖都を離れる訳にもいかないのでしょう」
「邪悪の気配……もしやこちらの状況にも関りが?」
「わかりません……しかし状況が状況です、無関係であると言えればどれだけ楽になるか」
「……こちらはこちらで全力を尽くします、力及ばなければ聖騎士様に縋らせてもらいましょう」
「人手は足りるのですか?」
「私と未熟者のこいつでは足りぬでしょう、聖都に来たのはこの矢を引き取る為もありますが、腕利きの弓兵を探す為でもあるので、これから見つけます」
「そうですか、戦う力の無い私には祈ることしかできませんが、せめてそれだけはさせてください」
神殿長の女性はガルグとアランに深く強い祈りを捧げてくれた、少しだけ体が軽くなった気がした二人はお礼と祈りを返して生命の神殿を後にする。
仕事を終えたこと、そして神殿というある種の異空間から脱出できたことに胸を撫で下ろしながら、アランは固くなった体を伸ばして気になったことを師匠に尋ねた。
「ガルグ師匠、あの神殿長とどんな関係なんです?」
「まぁ昔馴染みだ、アイツが若い頃にちょっと恩を売った……なんだ、文句があるのか?」
「あ、ありませんって……それよりほら、露店巡りにいきましょうよ!」
「何を疑ってやがる……はぁ、まぁいい、露店も冷やかすのも良いが、人手も募らにゃならん」
「俺がもっと弓の腕があればいいんだけどなぁ……」
「半人前にそこまで期待しとらん、お前のやるべきことは学ぶことであって変な気を回すことじゃないんだからな」
「だから人を雇うんですよね……当てがあったりするんですか?」
「傭兵になるだろうな」
「それって大丈夫ですか? 傭兵って夜盗同然の人もいるって噂だし」
「否定は出来ん、が……それは本当に一部だ、そういう奴は見ればわかるから心配いらん、狙いはあの広場にあるキャラバンだな、護衛役の傭兵だったりいるだろう」
二人の足は広場に広がる天幕群へと向かう、祝祭の前だというのに既に大きな熱気に包まれており、聖都の住人たちが普段は見ないキャラバンを覗いては露店を興味深そうに眺め、何か珍しい物はないかと物色しているようだ。
ガルグとアランもそんな人々の一部だ、特に若いアランは聖都の街並みですら圧倒されていたので、大陸中を旅する商人たちが売り出す商品に目を輝かせている。
しっかり見張っていないと、軍資金で余計な物を押し付けられそうなほどに隙だらけな様子にガルグは溜息を吐いていた。
幼いのだから落ち着きがないことは仕方がない、ただそろそろ成人も近いのでもう少し成長して欲しいものだとガルグは思う、いっそ娼婦でも宛がって色々経験させれば大人になるのかもしれない……逆に娼婦に入れ込んで仕事や訓練に身が入らなくなるかもしれないが……師匠としての悩みは尽きない。
幸いにも聖都にいる、キャラバンもこれだけあるので移動巡業の娼館も見つかるだろう、しかし一人前になったご褒美と言った手前、難しい判断となってしまう。
どうしたものか、ガルグがそう悩んでいると、小さな影が彼の前に突然現れた。
「おじさん!! これから公演があるんだ、見ていきませんか!!」
ガルグの前に現れたのは幼い少女、ラシュリーであった。
彼女は満面の笑みを浮かべると、返事も待たずにガルグとアランの手を握って引っ張り出すのだが、小さな体では男二人はどうやっても動かすことができない。
「おいおい、お前さんは何がしたいんだ?」
「公演があるの!! そこに連れて行かなきゃダメなの!!」
「公演? 師匠、何か見世物があるってことですかね?」
「まぁ旅芸人も多くいるだろうからな……いやでも、そんな時間はないんだ、傭兵を探さにゃならんのでな」
「えぇ!? 二人は公演を見なきゃダメなんだよ!」
「ははは、強引な客引きだな、時間あれば覗いてみるのもいいかもしれんが……今はなぁ」
望んだ反応を得られなかったのでラシュリーは焦り出す、しかし二人の両手を握ったまま何かを思い出すかのように瞼を閉じると、数秒してからこう言い放つ。
「今日の公演は弓兵の話なんだよ、弓の上手な人が悪魔と戦う話なの、オジサンたちにぴったりだと思うな!!」
「ほう、弓兵の話なぁ……有名な狩猟王と呼ばれた半神の劇ってところか……ふむ」
「師匠、まさか興味がおありで?」
「まぁな、我らが信仰する神の寵愛を一身に受けた男がかつていた、その話をやるらしいぞ」
ガルグの指先が広場の中央にある一際大きな天幕へと向かう、アランは字が読めないのでどのような演目が看板に書かれているのかわからないが、そんな人の為に絵も描かれているので凡その内容が推測できる。
公演内容を知らせる看板には黄金の弓を構えた英雄が、邪悪の化身とも言える悪魔と対峙している絵があった。
「これからワシらも大仕事だ、狩猟王の残した逸話を観るのも良いんじゃないか、ゲン担ぎにもなるだろう」
「俺たちは人手を探しに来たんじゃ……」
アランの困惑は解消されないままラシュリーによって天幕へと案内されるのだった、受付にいた獣人の女に入場料を支払うとそのまま中へと入っていく。
田舎育ちのアランにとってこういった公演などは完全に別世界のものであった、お話というのは母親が寝物語に聞かせてくれるものであり、入場料を払ってまでわざわざ目にするものでもない。
しかし興味が無いかと言われればそうでもなかった、やはり田舎育ちであるので目にするもの全てが珍しい、どこにでもありそうな露店であっても宝箱のように目を輝かせているのだから旅芸人の集団だって彼からしてみればオシャレで洗練された人々に見える。
こうした場所に出入りすることで、自分が都会育ちの洗練された人間になったかのような気分になった……勘違いでしかないのだが。
「……おぉ」
天幕の内部はドーナツ状に観客席が広がっており、真ん中の空間は演者が狩猟王と呼ばれた人物の活躍を描いた公演を行っている、アランたちが席に付いて数分後に開幕のベルが鳴ったかと思うと、周囲の松明が消されて暗くなっていった。
そして中央の開けた空間に突如明かりが灯った、アランが感嘆の声を上げたのはそれが彼が初めて見る魔術の輝きであったからだ。
天から降り注ぐ光の柱の如くステージが照らされる、そこに立っていたのは公演用の衣装を身にまとったキャロルであった。
手には黒色の弓、獣の牙で作った王冠を頭に乗せて、その肢体を包む布地は薄く透けている。
その向こうにある下着が僅かに透けて見えており、体には奇妙な模様が描かれて白い肌をより際立たせていた、そして目や鼻といった顔の輪郭を際立たせる化粧も忘れていない。
重要な場所は隠しているものの、少女の体を見せつけるかのような衣装に観客席にいた男は沸き立った、アランもその一人である。
「……可愛い子だなぁ、故郷の村にはあんな子はいないな、やっぱり都会って凄いや」
そして肌や下着が透けて見えるような薄い布地の衣装なので股間が熱くなってしまう、そういう宣伝の意味もあったのでアランの反応は正しい、恥ずかしがっているのは彼が初心なだけだろう。
周囲の男性客は慣れているのか大いに喜んで楽しんでおり、女性客もまた同様だ……一部、男の太ももに鋭い攻撃をしている人物もいるが、多くの観客が公演を楽しんでいるようであった。
狩猟王ーー弓神の寵愛を一身に受けたその人物の伝説はアランも知っている、英雄譚は寝物語の定番であることもそうだが、同じように狩猟に生きる彼にとっては尊敬と畏怖の象徴でもあるのだ。
放たれた矢は流星の如く、狩猟王を表す上でこの言葉は外せない、その弓の技術を表現する為に吟遊詩人が歌にしたのだった。
百発百中、嘘か誠かその生涯でただの一射たりとも外したことがなく、その矢は光の尾を伸ばしながら必ず相手の急所を穿つ。
黄金の毛並みを持つ熊を射殺し、曇天を吹き飛ばして青空を作り、決して届かない距離であっても矢を届かせる、無数の獣を狩りながら進み続けて悪魔をも打ち倒し果ては龍すらも撃墜したらしい。
今回の演目は、そんな数ある狩猟王の伝説の一つ、悪魔退治を演ずるようだ。
「我が力が届かないとは、あの異形はまさに怪物よな……なるほど面白い、雲すらも穿った矢も邪悪には無意味か」
天幕の内部に大きな声が響き渡る、キャロルが喋っているのかとアランは思ったのだが、彼女の口は動いておらず悪魔を模した魔法の炎を相手に戦うだけだ。
どうやら響いた声は他の団員によるアテレコらしい、アランは知らないことだがキャロルは体を動かすことは得意でも、演者としての才能が無かった為にこういう形になったのだった。
台本は問題なく覚えられる、運動神経も悪くないので激しい行動も苦ではない……ただ、決定的なまでに演じながら感情を表に出すことが苦手であるのだ。
時には大げさなほどに感情を曝け出し、涙を流すことすら求められる役者は、物静かで無表情が基本となっているキャロルには難しかったのだろう。
だからこそ苦肉の策ではあるが舞台上では動作だけに集中させて、演劇において重要な台詞は慣れた先輩団員が感情を込めて響かせるのだ。
キャロルもやりやすいだろう、舞台上で薄い衣装を波立たせながら動く彼女は演目に集中することができる。
悪魔を模した炎が体から切り離した一部をキャロルに放つ、それは九つに別れて矢になると狩猟王へと殺到する、演劇だとわかっていても思わず観客から悲鳴が上がってしまう程の迫力があり、アランもまたギュッと拳を握って見入っているようだ。
九つの炎の矢は鋭く早い、盾ではなく弓を持っているので受け止めることが出来ず、躱そうにも人が生きられる隙間はない……悲劇を予想して更に悲鳴が大きくなるが、観客たちの予想は裏切られる。
キャロルが矢を放つ、それも三本同時にだ、その矢は淡い光を残しながら全くブレることなく自らに殺到する炎の矢を迎え撃つ、まずは三本。
次にキャロルはすうっと深呼吸をすると、くるりと大げさに体を回転させて炎の矢を躱す、最初の矢によって人が生きられる隙間が出来てそこに体を滑り込ませたのだ、これで七本。
またくるりと体を回す、すると彼女の指先には矢筒から引き抜いた矢が二本握られている、それを残った炎へ放つ、これで九本の炎の矢をやり過ごすことになる。
演劇だということはわかっている、決められた流れに沿っていることも理解できる、炎の矢もそれを射落とすキャロルの動きも全てが決められていたことだと言われたならば納得できた。
しかしだ、もしあの舞台に立っているのが自分であったのならばどうだろうかとアランは思う、キャロルと同じように殺到する炎の矢を迎撃できるだろうか……少し考えただけで無理だとわかってしまう。
演劇なのだからこの形になるまで数えきれないほどの練習があったのだろう、炎の矢が描く軌道も打ち合わせ通りであることもわかる、だからといって同じように打ち落とせと言われたならば、アランは無理だと答えるに違いない。
演劇は演劇でも、それが台本上の決められた行動であっても、キャロルの弓術は研ぎ澄まされており高みにある、少なくともアランよりは間違いなく。
「師匠、あの子、凄いですね!!」
「あぁ、大したもんだ、お前と年もそう変わらんだろうに……あそこまで洗練された動きになるまで、相応の訓練が必要だろうさ」
師匠のガルグの評価もまた高い、彼の下で学んでいるのでガルグが人を褒めることが少ないことを理解しているアランはその高評価に内心驚いた。
「やっぱり都会って凄い」
「……あの子の腕となんの関係もないからなそれは」
狩猟王を演じるキャロルは炎の悪魔と一進一退の攻防を続けているが、ただの矢では悪魔に大きな影響はないので徐々に押され始めるのだが、そんな英雄を助けるかの如く光が差し込む。
魔法の光が柱のようにキャロルを包んだのだ、その光景はアランは勿論のこと他の観客たちも知っている、悪魔に追い詰められた狩猟王に神が力を与えた瞬間だ。
おお、と歓声が上がる、魔法で再現された光の柱が晴れた瞬間に、そこにいたキャロルの姿が大きく変わっていたからだろう、牙で作られた王冠は金色に代わっており手に持つ弓もまた同様である。
薄い布地はそのままだが、体に塗られた模様は淡い光を放っているのでどこか幻想的な雰囲気を放っており、キャロルの美しさを際立たせているようだ。
おそらくは、光の柱で体を隠している間に早着替えしたのだろうとアランは思う、体に塗られた模様が淡く光っているのは何らかの細工があるのだろうとも考えるが、今は余計なことに頭を働かせずに演劇を楽しもうと判断して、ただ見入った。
狩猟王がこの瞬間に半神となったことを視覚的に表している、つまりは演出でしかないのだが、こうも鮮やかに表現されたのならば、本当に神が宿っているのではないかと観客が考えても不思議はないだろう。
狩猟王ことキャロルが天高く弓とそこに重ねられた矢を掲げた、それに答えるように無数の輝きが集うと、矢と弓は黄金の輝きを維持したまま悪魔へと向けられる。
「我が一撃は流星である!! 邪悪な悪魔よ、失せるが良い!!」
また天幕に声が響く、その台詞に合わせてキャロルが矢を放つと、黄金の矢は真っすぐ線を引いたかのように光の尾を残して悪魔を模した炎を打ち滅ぼすのだった。
観客から拍手と歓声が広がる、アランもまた惜しみない拍手を送った。
「いやぁ、旅芸人の演劇って初めて見ましたけど、良いもんですねぇ」
「あぁ、思わぬ収穫もあったからな、本当に良い物を見れた」
まだ拍手が鳴りやまぬ中をガルグは立ち上がる、アランも慌てて追いかけるのだが彼が向かう先は天幕の出入り口ではなく従業員用の舞台袖であった。
「え? 師匠、どこにいくんですか?」
「人手がいると言っただろう、あの子の腕ならば頼りになりそうだ」
どうやら目的であった傭兵を見つけることができたらしい、二人は従業員用の入口に向かって今後の打ち合わせをするのだった。