商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
聖都は混乱の真っただ中にあった、都市の至る所から冒涜的な触手の魔獣が現れたのだから当然だろう。
ある者は逃げ惑い、またある者はその場で腰を抜かしてしまう、そして不運な者は触手に絡めとられて引きずり込まれるのだった。
聖都は神殿が連なる聖域、つまりこの世界で最も神の座に近い場所であり、そこが悍ましくも冒涜的な魔獣に汚されていく光景は住人に言い知れぬ不安と絶望を与えたことだろう。
昨日まで当たり前だった世界が前触れもなく壊れていく、安全を求めて逃げ惑う人々は神殿へと救いを求めることになる。
「はぁ、はぁ、お父さん、怖いよ」
「もうすぐ神殿だから大丈夫だ! あそこならあの化け物も入って来れないから安全だよ」
路地裏に親子の姿があった、都市に広がる無数の魔獣から身を隠しているようだ、彼らが目指すのは近くにある生命神の神殿であり同じようにそこへ走る人々の姿も見受けられた。
だが焦りすぎたのだろう、先行く人々の一部が地下水道に繋がるマンホールから噴出した触手に呑まれて消えていく。
そんな彼らを見せつけられた親子は心の中で謝罪しながら、前を行く人々を囮にして自分たちは慎重に神殿へと進んでいった、父親は決して離すまいと我が子の手を握っており、何を犠牲にしてでも守り抜くという覚悟を持っているのだろう。
目の前で犠牲になった人々に感謝と謝罪を、もし彼らがいなければ自分たちが呑まれていたことは間違いない。
「お父さん! 後ろから追って来るよ!」
「走るんだ、早く!!」
だがどれだけ慎重に行動しても素人には限界がある、路地裏を進みながら触手に見つからないように進んでいると獣の姿をした触手群に鉢合わせてしまった。
それを避けるように走り出したは良いが相手がそれを黙って見逃すはずもなく、獣の姿をした触手群は親子を追いかけて粘液を引きずるのだった。
「こちらへ急いでください!!」
幸いなことに神殿は目の前でありそう距離はない、全力で走れば十秒もかからないだろう……しかし触手の集合体とはいえ形は獣なので動きは俊敏だ、人にとっては十秒の距離でも獣からしてもれば一息の近さだろう。
それを神殿の門前で避難誘導をしていた神殿長も理解したのか、彼女は深い祈りを捧げて生命神から祝福を賜ると光の波動を大通りへと放出した。
人には無害なそれは親子を通り過ぎて背後に迫る魔獣を不可視の力で退け、それによって何とか神殿へと転がり込むことができる、だが魔獣も諦めた訳ではなかった、吹き飛ばされて大通りに転がった魔獣は手足のように操ることのできる触手を伸ばして神殿へと立ち向かったのだ。
「ここを生命神の領域と知っての狼藉ですか?」
神殿長の女性は向かってくる触手に穏やかな表情でそう言った、言葉も顔も落ち着いているが内に秘められた憤怒は烈火の如く燃えている。
無数の触手が神殿へと辿り着く、しかしそこに見えない壁があるかのように退けられてしまった、それでも奥へ進もうと力を込めると触手は灰となって消えていくのだった。
「さぁ、ここならば安全です、もう大丈夫ですからね」
「あ、ありがとうございます神殿長……もう駄目かと」
「ありがとうございます!!」
親子は危機を救ってくれた神殿長に頭を下げる、そんな二人に彼女は微笑んで奥への道を示す。
「貴方たちのように避難してきた方々は他にも大勢います、どうかそこで落ち着かれてください」
神殿に避難してきた者は多い、彼らは一様に絶望しながらも両手を組んで祈りを捧げているようだ、神官たちはそんな彼らの治療を行い精神的な支えとなるべく邁進していた。
「……国際会議を中止して正解でしたね」
祝祭の日に各国の代表者が集って様々な議題を語り合うことが予定されている、中には聖都の中立性を求めて紛争の中断を求めるなどの話もあったのだが、神殿長が集まって出した結論がそれらの会議を中止するというものであった。
当然ながらこの日に集まった各国の代表者からは不満が噴出することになる、特に紛争中の国家間からは特別に強い不満があった、数年にわたってズルズルと続いた戦争を解決する為に何度も会談が行われていたのだが、自分たちだけではこれまでの被害と互いの感情が先行してなかなか上手く纏まることはなかったのだから……この祝祭の日を待ちわびていたことだろう。
各国の目と聖都の中立的立場、それらを期待して理性的な話し合いができると考えていただけに、国際会議の中断を聞かされて外交の場とは思えないような口汚い文句が飛び出た……だがまぁ、こんな聖都の光景を見せつければさっさと逃げられて良かったと思う筈だ。
彼女は大きく溜息を吐いてこれからのことを憂う、そして神に祈りを捧げながら油断なく門前を見渡す。
視界に広がるのは汚された聖都の街並みと避難してくる人々である、神殿長の女性は彼らを受け入れながら魔獣だけを拒絶するように祝福を放つ。
そんな彼女の瞳に一人の少女が映った、安全を求めて神殿へ走る人々の中にあってただ一人だけ視線を向けている方向が違う。
その少女は逃げ惑う人々の波から外れて別の場所へと駆けていく、この生命神の神殿でもなければ別の神殿でもない、都市がこんな状況だというのに少女のつま先は危険な方向へと進んでいるのだ。
「そこの貴女!! どこへ行くつもりなの!? そちらは危険だからこちらにいらっしゃい!!」
破滅へと向かう少女……ラシュリーへと神殿長の声が届く、だが彼女はそんな言葉にペコリと頭を下げると、進路を変えることなく混乱の中を突き進む、まるで何かに誘導されるかのように。
追いかけようとも思ったが、そんな神殿長の邪魔をするかのように魔獣が迫って来る、それを祝福の波動で打ち滅ぼすと既にラシュリーの姿は消えてしまっていた。
探しに行くこともできない、救いを求める者が避難してくるので人々を守る為に神殿からあまり離れられないのだ。
優先すべきは多数の命、少女一人ではない……そんな非情な判断を下さなければならないほどに状況は悪い。
ラシュリーの小さな後姿を見失ってしまった神殿長は、せめて彼女に幸運をと神に祈ることしかできなかった。
「儀式再現班は私と共に大神殿内部に溢れる魔獣の掃討を行う!! それ以外は聖都全域に現れた魔獣の排除に当たれ!! 我々には神の加護がある、決して臆することなく戦うのだ!!」
アントニウスから激励の声が響く、普段はあまり強い言葉を使うことのない彼だが、さすがにこんな状況では声に重さと張りがあった。
そんな声に包まれて聖騎士たちが背筋を伸ばして胸を張る、誰もがこの状況で心に迷いがあったのだがそれを消し去るかのようにアントニウスの声が包んでくれる。
強者の声は、英雄の声は、背中に続く者に力を与えてくれるものだ、本人はどう思っているかわからないが、聖騎士たちにとって目の前のアントニウスは間違いなく誰かを率いる器だと認められているのだろう。
「聖アンジェリーナの行方は?」
「不明です、聖女様の護衛についていた筈なのですが姿が見えません」
「……わかった、では代理は私が勤めよう」
「可能なのでしょうか……団長は男性です、上手く合わせることができないのでは?」
「かもしれん、だが我々は戦士だ、無理も無茶も押し通して結果を得なければならない」
彼の言葉が全てであった、弱音も弱気も勢力差も戦力差も全てを無視して勝たなければならない、それが聖騎士である。
悪魔であろうとアンデットであろうと竜であろうと剣を握って立ち向かう、そう生きることを決めてそうあれと努力してきたのだ、無理であろうと無茶であろうと押し通すしかない。
「手筈通りに動いてくれ、儀式再現班は私に付いてこい」
剣を抜いて彼らは二手に分かれて行動を開始する、片方は都市に溢れる魔獣の掃討に、もう片方は大神殿を埋め尽くすように広がる魔獣の排除と天剣の守護に付く。
アントニウスの班は彼に続いて大神殿の大広間へと進んでいく、道中に現れた様々な形をした触手群は難なく排除できたのだが大広間に広がった光景に思わず剣を止めてしまう。
そこに広がっていたのは触手の海だ、美しかった大神殿の大広間は粘液と触手に汚されており足の踏み場が無い程に満たされてしまっている、もしここに呑まれればそのまま溺れてしまうことは間違いない。
「聖アンジェリーナの力を感じるな……これに呑まれたか」
「どうされますか?」
「押し通る、それだけだ」
聖騎士団の持つ祝福の剣が輝きを増していく、それが限界まで高まると彼らは剣先から一斉に光の波動を放つ。
幾重にも連なった光の波動は押し寄せる波のように触手の海を押しのけて進んでいく、灰となり崩壊していくそれらはかなりの量であったのだが、それでも大広間を満たす触手群の一割にも満たないだろう。
「やれやれ……これは手間がかかるな!!」
二度目の波は更に強く輝いた、立ちふさがる肉の海を消し去っていくのだがやはり効果が薄い、だが確実に削れていっている、後は繰り返すだけである。
長期戦な上に消耗戦というあまり歓迎したくない状況であるが、これもまた受け入れるしかないようだ。
だがそんな状況を打開するかのように触手の海が大きく蠢いた、それはまるで奥深くで何かが爆発したかのような光景であり、触手と粘液をまき散らしながらのた打ち回っている。
「誰かが中で暴れているようですね」
「ありがたいことだ、こちらは外から削り取るぞ」
内部で戦う誰かを援護するかのように光の波動を放っていく、トンネルを掘るかのように肉の壁を削っていくのだ、触手群は腹の中で暴れる何か対処するのに必死なのか聖騎士にされるがまま穴を掘られていた。
そんなことを何度繰り返しただろうか、数えきれないほどの波動を放ち、刃こぼれが心配になるほどに剣を振るった彼らは、ようやく爆発の中心へと辿り着く。
「あれは、聖女様です!?」
そこにいたのは触手に絡めとられて粘液に塗れたマリーであった、そんな彼女と抱き合うようにエミリーの姿も確認できる。
二人を拘束していた触手を切り裂いて救出すると、彼女たちは溺れる寸前であったかのように咳き込んで新鮮な空気を求めるのだった。
「もう大丈夫だ、君たちが注意を引いてくれたおかげでこいつらを多く消滅させることができた……後は私たちに任せなさい」
粘液に塗れた少女にアントニウスは祝福の光を浴びせていく、邪気を押し流すように注がれる光に晒されて特に反応したのはエミリーであった。
「アン、トニウス様……良かった、私の魔力を使っていただけますか?」
「……君の魔力を?」
「この触手に捕まっている間に、マリー様と一緒に少しづつ相手の生命力を奪っていたんです……それを、はぁ……魔力に変換しました」
触手に嬲られながらも房中術を使って抵抗していたのだろう、度重なる絶頂と凌辱で疲労しているようだが器を満たして零れるほどに溢れる魔力が備わっていた。
エミリーはアントニウスのゴツゴツした腕に手を伸ばして奪い取った魔力を押し流す、マリーから受け取った分も合わさって個人が持つには不釣り合いな量となって彼の中へと注がれていく。
アントニウスは魔術師ではない、なので魔力を保存する器が小さく魔力を渡されても長時間ため込むことが出来ない……彼はそもそも男性なので魔術師に向いていないのだ。
魔女という言葉が一般的に広がるくらいに認知されることはあっても、魔男という言葉は誰もが聞き覚えがない、それは極端なほどに数が少ないからだ……力強く強靭な体を持って生まれてくる代わりに男性はそういった方面の才能がないというのが常識とされている。
なので魔力を渡されてもそれを術の領域で扱えない、器が未熟なのでため込むことも出来ない、しかしそれを右から左へ流すことはできた。
体中を満たす膨大な魔力を剣先へと押し流す、そして祈りと共に祝福の光を輝かせると、彼の剣は太陽のように輝いて熱を持つ。
聖剣は内包したエネルギーに耐えきれず半ばで砕けてしまった、すると塞き止められていた濁流が解放されたかのように光が爆発するのだった。
祝福の光をより強く、より巨大に、より熱く強化したのは渡された魔力だ、それが祝福と合わさって津波と化す。
周囲に広がった触手の壁がそれによって押し流されて灰となり消えていき、あれほどの堆積を誇った触手群の大半が崩壊して消滅していくのだった。
「……はぁ、よかった」
それを見てマリーが疲労困憊のまま安堵の言葉を漏らす、絶望的な状況でまだ完璧に扱えるとはいえない房中術を使って起死回生を望んだ策であったので、成功してようやく肩の荷が降ろすことが出来たらしい。
「凄まじい光だったな……魔力のことはよくわからんが祝福とはまた違った力なのだな、今度勉強してみるか」
ガハハと、状況に似つかわしくない笑いを響かせてからアントニウスは笑顔を浮かべる、強敵を思わぬ形で排除できたのでしっかりと余力が残っている、これは彼らにとって嬉しい誤算であった。
敵は個ではなく群なのだ、実際に触手群を打ち払った彼らの前には片翼の悪魔の姿がある、疲労の濃い状態で会いたくなかっただけにこれは僥倖である。
「やぁ、昨日ぶりじゃないか」
「お前か……せっかく苦労して産み落としたのに、簡単に殺してくれちゃってさ」
「ガハハ、まぁそんなこともあるだろうさ」
アントニウスは一歩前に進んで触手の海から姿を現したエキドナと向かい合う、彼女の足元にはキャロルやシャルル、そして同僚のアンジェリーナが倒れており救助する必要がある、右手で折れた剣を相手に向けながら左手を後ろにやってハンドシグナルを部下へと送る、内容は「注意を引くので彼女たちの救助せよ」だろう、そんな言葉なき指示を受けて背後の聖騎士たちが散開した。
散っていく聖騎士たちにエキドナは興味がないのだろう、真っ赤な瞳はブレることなく正面のアントニウスへと注視されている。
「幾つか聞きたいことがあるのだが……君は何故、このようなことを?」
「それを答える必要があるのかしら?」
「ないかもしれないが……単純に私が知りたいんだ」
「ふうん……まぁ答えてあげてもいいけど、それなりの条件があるわよ」
「ほう、多少ならば譲歩するが……」
「そう? なら頭を下げて懇願なさい……私と対等に向かい合おうだなんて生意気にも程があるわよ」
からかうように、挑発するようにそう言ったエキドナにアントニウスはまたガハハと笑った。
「それくらいなら安い買い物だ……これで構わないかな?」
そう言ってアントニウスは胸に手を当てて膝を折ってから頭を下げる、騎士が上位者に跪くかのような形になるのだが、間違いなく敵対者にする礼ではないだろう。
エキドナは自分が要求したことだというのにその礼を見せつけられて眉に皺を作る、予想とは違う形に少しだけ苛立っているかのようだ。
「……お前にはプライドがないのかしらぁ?」
「プライドか……私はそういったものを大事にできるほど大した男ではないのだよ、学も無ければ称号も無い、貴族でもなければ王でもないのでね、聖騎士団を率いちゃいるがただ体格に恵まれただけにすぎん」
エキドナの背後では聖騎士たちによる救助が行われている、倒れている少女たちを悪魔から遠ざける為に背負っているのだ、エキドナもそれに気が付いているのだろうがどうやら見逃しているようだ。
「だからこんな安い頭ならいくらでも下げられるさ、満足してもらえたかね?」
「いいえ、つまらないわぁ……私は搾取と略奪が好きなの、相手から奪ってその心を折るのが好きなの、おわかり? そもそも折れるものがない相手なんて不快なものでしかないわよ」
だが、とエキドナは言葉を区切る。
「お前は私の要求に従って頭を下げてしまったのよ、私たち悪魔は契約を果たすことに関しては人よりも重要視している……しかもここは大神殿でもあるから契約神の力が濃い、忌々しいことにね」
「おお、では話してくれるのかね?」
「構わないわよ、どうせある程度は察しているんでしょうからね」
エキドナの指先がアントニウスの背後へ伸びる、そこにあるのは天剣へと続く最奥の門である。
「天剣よ、それが私たちの目的かしら」
「ふむ、君たちにとっては無用の剣だろう……悪魔が触れてしまえば灰になりそうなものだが」
「確かにそうかもね、でも剣そのものではなく……中身に用があるのよ」
中身、と言われてもアントニウスはいまいち納得できない、天剣の中にある巨大な力を欲しているということなのかと解釈できるがどうやら違うらしい。
「あら、その顔だと人間は知らないみたいね……天剣は斬る剣ではなく分かつ剣なのよ。そこに存在する物を二つに分けて解離する、例えば肉体と魂の繋がりを切ったりなんかもできてしまうの」
「魂と肉体を分かつ、か……天剣にはそのような力があるのだな」
「ええ、では問題です……分かたれた魂と肉体はどうなるのでしょう? 体は物言わぬ生きた死体となって朽ちていくでしょうね、では魂はどうなるのかしら?」
「……」
「正解は天剣が食らってその内に取り込む、でした……そう、例えば、その剣で切り伏せられた無数の悪魔の魂なんかは今もそこに封印されているの」
「なるほど、君の目的が見えて来た」
「でしょう? そこを退く気になったかしら?」
「ガハハ、そういう訳にはいかないな」
アントニウスは半ばで折れた聖剣を握りなおす、そんな彼に並び立つように救助を終えた聖騎士たちも剣を握るのだった。
「……聖アンジェリーナは?」
「救助できました、今は治療中です」
「急がせろ、彼女でなければ勝てん」
小声での会話を遮るように正面にいたエキドナの迫力が増していく、少女の体から放たれる圧力はドラゴンにも匹敵するのかもしれない。
綺麗な三日月を唇で作った悪魔は、全てを押しつぶすかのような殺気を放ちながら一歩前に出る。
「どきなさい」
「無理な相談だ、我々は絶対にここを通さん」
「あらあら、死んじゃうわよ?」
「かもしれん、だがそれでも戦おう……何故だかわかるかい?」
「さぁ、人間のことはよくわからないもの」
「……我々が聖騎士であり、この地の守護者であるからだ」
そこでアントニウスは腹に力を込めて吠える、エキドナの圧力を吹き飛ばすように、隣に並び立つ仲間の背中を押すように。
折れた剣は高く掲げられ輝き、祝福の光は波となって放たれる、そこにいたのは誰もが理想とする聖騎士そのものであった。
「我ら聖騎士団はここにあり!!」
「「「ゆえにこの地は不沈なり!!」」」
「神の加護は我らにあり!!」
「「「ゆえに我ら不敗なり!!」」」
聖騎士たちの怒号にも似た咆哮に大気がビリビリと振動した、彼らから放たれる覚悟と祝福に空間が怯えているかのようだ。
折れた剣が天からエキドナに向けられた、頼りない武器だというのにその切っ先は鋭く尖っているように錯覚してしまうような迫力があったことだろう。
実際にエキドナはその剣を脅威と判断した、決して言葉にはしないが言い知れぬ不安と恐怖を感じてしまったからだ。
「さあ行くぞ悪魔よ、楽に我らを超えていけると思うな……今この瞬間、我らは世界で最も固い錠となったのだ」
聖騎士たちは陣形を組んで、エキドナを押し返すかのように一歩前に出た。
すると片翼の悪魔は僅かに後退する、不可視の壁に押されたかのように。
そんな事実が許せなかったのだろう、彼女がギリっと歯を鳴らしてから力強く聖騎士へ突撃していく。