※この作品はR-18です。

商人と冒険者と娼婦   作:にやまな

7 / 287
第六話 三人の任務

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 この大陸には無数の国家が存在しており、大小合わせればその数は百は超えるだろう。国家形態はさまざまであり、当然ながら文化もさまざまだ。人間主体の国があれば亜人が主体となっている場所もあり、遠く人の領域を超えた場所には誰も知らない共同体もあるのかもしれない。

 

 

 

 そんな無数の国家が隣り合えば必ず大きな問題が起こる、当たり前のことだった。

 

 

 

 隣の国は豊かに発展し、国境の向こう側では飢えに苦しむ、多くの資源を持ち合わせていれば、その逆もある。様々な問題を解決するにはどうすべきなのか、多くの王が頭を悩ませたが、結論が出ることなく今にいたるのだった。

 

 

 

 つまり何も解決していない。相変わらず大きな問題が広がっている。

 

 

 

 領土を、資源を、物や人を、短絡的に奪うことでひと時の安らぎを得てそれを繰り返す。それが何百年にも渡って繰り返されてきた歴史だった。

 

 

 

 そんな歴史の中で起こった戦いは様々な理由がある、領土や資源を求めての戦いは定番だろう。

 

あるいは王のたった一つしかない椅子を目指しての争いか、もしかしたら単純に相手が嫌いだからか……なんにせよ大なり小なり戦いにはきっかけがあるのだ。

 

 

 

 

 

 そんなよくある争いの中で、今現在において、大陸中央に存在するとある王国ではこんなきっかけで争いが起こっているらしい。

 

 

 

 

 

 曰く、王族が一人の女を求めて国を真っ二つにしたと。

 

 

 

「……娼婦の神?」

 

 

 

「そうそう、そんなふうに呼ばれている女がおるそうな」

 

 

 

 

 

 北の国からわずかに南へ、あの厳しく強い雪から脱出した春風のキャラバンは北の国との国境を超えて最寄りの街まで到着していた。

 

ここは寒さも常識的であり、その街で完全な春が来るまで過ごす方針となったらしい。

 

 

 

 街に到着すればやることは多い、食糧の確保はもちろん、薬や日常品の購入、個人的な買い物から交易品の売却まで多岐に広がる。また公演用の大きな天幕を設置したり、よそ者が仕事をする上で必要な挨拶回りと許可の取り付け、そして公演を行う為の宣伝、数えればキリが無いだろう。

 

 

 

 そのため、新しい街へ立ち寄るたびに団員たちは忙しく動き回ることになる。

 

 

 

 エミリー、シャルル、キャロルの三人とてそれは変わらない、それぞれの団長の指示で自らの仕事を確実に遂行していた。

 

 

 

 キャロルの仕事は主に必要物資の買い付けだ。街を歩き回りキャラバンが必要としている物を集めるだけでなく、他の団員たちから頼まれた個人的な物資も購入しており、その仕事の中には情報収集も含まれている。

 

 

 

 歓楽街の一角、主に娼館で必要とされる物を買い付けたキャロルは、大量の金を落としてくれた為に口が軽くなっている店主からそんな話を聞くことができた。

 

 

 

「噂じゃ、とても人気のある娼婦らしい、その娼婦と同じ重さの黄金よりも価値があるとかなんとか……それでたくさんの男を虜にしてな、一度その女を目にすれば男なら必ず手に入れたいと思ってしまうらしい」

 

 

 

「……すごく美人?」

 

 

 

「そうなんだろうなぁ、何せ美しい女など抱きなれてる貴族が血眼になって探し回り最後には殺し合いになったらしくてな……事態を重くみた国王陛下が仲裁したらしいんだが」

 

 

 

「……うまくいかなかった?」

 

 

 

「あぁ、その王様ですら娼婦の虜になったらしい」

 

 

 

「……問題ない、そのまま囲ってしまえばいい」

 

 

 

「そうだろうさ、だがその女が魅了したのは王だけでなく、その息子である王子たちも落としたそうな」

 

 

 

 その結果、王は王子に殺されてしまったらしい。そして残された王子たちはたった一つの玉座ではなく、たった一人の女を求めて国を割ったそうだ。

 

 

 

「……バカなの?」

 

 

 

「な、そう思うだろう? でもそれだけの魅力を持った女だってことなんだろうさ。王を殺した王子たちも本来なら真面目で頭も良いって評判だったんだが、恋は盲目ってことなのかね」

 

 

 

「……それで今の情勢は? この街にも難民が増えてるって聞いたけど」

 

 

 

「その通りだ。主戦場となっている西の方から毎日誰かしらやってくるな……このへんも少し物騒になった」

 

 

 

 確かにこの歓楽街の中にも食い扶持を求めて戦災孤児らしき子供や物乞いの負傷者が道端でたむろしている姿が見受けられる、それだけでなく中には暴力的な手段で生活の糧を得ようと行動する者も少なくない。

 

 

 

 実際、幼い容姿のキャロルが街を歩いていると、値踏みするような視線が複数は存在する。

 

 

 

「今、この国は第一王子派と第二王子派に分かれていて色々と血なまぐさいそうだ。一応、中立を主張している第三王子派もあるらしいがそっちは勢力が少なくてな……まぁ、生まれたばかりの赤ん坊って話だから大して脅威と思われていないらしい」

 

 

 

 それよりも、と店主は店の外に視線をやって向かいにある娼館を見つめる。

 

 

 

「なぁ、一緒に来たお前さんのツレが向かいの娼館で暴れているみたいなんだが……大丈夫なのか?」

 

 

 

「ん……問題ない」

 

 

 

「そ、そうか……ええっと、あれだ。もし西の方に向かうことがあるのならカムラーンに気を付けな」

 

 

 

「……カムラーン……ドラゴンキラーのカムラーン?」

 

 

 

「そうそうソイツ、なんでも第一王子派に雇われて好き勝手暴れてるそうな、村を焼いたり第二王子派の戦力を潰したり……まぁ、傭兵なんぞ夜盗となにも変わらんってこったな」

 

 

 

 そこで向かいの店での騒ぎが大きくなってきたのでキャロルは話を打ち切った。

 

 店主に買い付けた商品を春風のキャラバンが拠点としている広間に配達してくれるように依頼すると、彼女はシャルルの姿を探して歓楽街の通りへと顔を出す。

 

 

 

 正面にはボロボロの連れ込み宿があり、そこの木製扉が蹴り砕いたかのように店内に散乱していた。

 

 

 

 さらにその向こうでは客と思われる男とみすぼらしい格好の娼婦が腰を抜かしており、突然の事態に困惑しているのか従業員らしき老人は口をぽかんと開けて唖然としている。

 

 

 

「てめぇクソガキ! ここがラゾン一家の縄張りだってわかってんだろうな!?」

 

 

 

「もちろん知ってるさ、だからここに来たんだからな!」

 

 

 

 既にことは始まっていようだ、新品の装備に身を包んだシャルルが用心棒らしき男と戦っている。床には筋肉質の男が一人倒れており、奥からもゾロゾロと人相の悪い連中が顔を出していた。

 

 

 

 キャロルは背負っていた弓を取り出すと流れるような動作で矢を放つ、矢はそうなることが必然であるかのように鋭く無駄のない軌道を描いて男の肩を射抜く。

 

 

 

 そこでシャルルが丸盾を構えて突っ込むという、これまでの冒険で何度も繰り返した連携だ。

 

 

 

 いかつい顔の男たちも武器を取り出して応戦するが、神の加護を宿した二人の攻撃に苦戦をしいられ、結局は全員が昏倒させられるのだった。

 

 

 

「ラゾンはいるか! 春風のキャラバンから挨拶に来たぞ!」

 

 

 

 返事はない、仕方がないので正面扉と同じように奥の部屋も蹴り開く、するとそこには肥え太った男が様々な書類と宝石をかき集めて窓から逃げようとする姿があり、シャルルはそんな男の服を掴んで部屋へと連れ戻す。

 

 

 

「ワタシらがここに来た理由はわかるよな?」

 

 

 

「は、はる、春風のキャラバンだと!? 奴らくたばってなかったのか!?」

 

 

 

 とりあえず男を椅子に座らせるが自由は許さない。正面にシャルルが立ち、背後にはキャロルが陣取る。完全に囲まれた中で男は観念したのだろう、媚びへつらうような笑顔を浮かべて絵にかいたような揉み手を作って見せた。

 

 

 

「へへへ、いやぁ~ご無事だったとはめでたい……北の厳しい冬を乗り越えられたとは、さすがですなぁ」

 

 

 

「そういうのいいからさ、もう一度だけ聞くけどなんでワタシらがここに来たと思う?」

 

 

 

 そこで男は視線を彷徨わせる、どうやら心当たりがあるようだ。

 

 

 

「あの魔獣と獣人の女に手を出した件ですかな? あれは部下が勝手にやったことでして……私は完全に無関係で、あ、いえもちろん責任がないとは言いませんとも!」

 

 

 

「わかってんじゃん、いくらダーボが珍しい魔獣だからってよそ様の仲間を誘拐しようだなんて切り殺されても文句は言えないからな……その件でウチの団長がめっちゃ怒ってんだよ」

 

 

 

 どうやら彼らは冬の間この街で待機していたダーボとシャーシャに危害を加えたらしい。結果だけ言えば返り討ちにあったので大きな損害はなかったが、彼女たちが挨拶に来る理由としては十分だろう。

 

 

 

「は、春風の団長さんが……やっぱり?」

 

 

 

「ん……買い物ついでに挨拶してこいって」

 

 

 

 キャロルの手が背後から伸びて男の首に回される、何かしようものならすぐさま喉元を抉り抜ける配置へと、そしてシャルルは新品の剣を引き抜いて男の股間に剣先を触れさせた。

 

 

 

「で、どう落とし前つけてくれるんだ?」

 

 

 

「……現金が欲しい……物納でも良い」

 

 

 

 急所を人質に取られた男は顔を青ざめさせて手持ちの宝石を差し出すのだった。

 

 

 

「ここには魔法の剣とかないのかよ……クソぅ、店にも売ってなかったしなぁ」

 

 

 

「そんなもん持ってても売るしか使い道がねえんだよ……あ、いやありませんハイ」

 

 

 

「……この宝石で納得してあげる」

 

 

 

 どうやら命は助かったらしい、拘束から逃れた男は荒い息を繰り返しながら床に滑り落ちる。

 

 

 

「言っとくけどな、ここにワタシらが来たのは幸運なんだからな」

 

 

 

「ん……もし次があれば、その時は」

 

 

 

「団長本人が挨拶に来るからそのつもりでいろよ……いや、ロウ姉さんの方が良いかな?」

 

 

 

「用が済んだなら早く出て行け……すいません、帰ってください」

 

 

 

 こんなやり取りも彼女たちの仕事に含まれる、少々乱暴な挨拶ではあるがこの争いのきっかけを作ったのは相手なので同情の余地もない。

 

 

 

 仕事がひと段落ついたので歓楽街の大通りへと向かいそのままキャラバンへの帰路につくのだが、路地裏や道端からの無遠慮な視線に晒されて二人は眉をひそめた。

 

 

 

 ボロ布をまとった薄汚い娼婦が、金目の物を探す孤児が、物騒な気配を漂わせる男が、虚ろな瞳の難民が、まともな雰囲気を保っている彼女たちの隙を探しているのだ。

 

 

 

「このへんも物騒になったよな、前に来た時はもうちょっとマシだったろ?」

 

 

 

「……治安が悪い」

 

 

 

 二人にワザとらしくぶつかった難民らしき少年の手を掴んでスリ取られそうになった財布を取り返す、彼は気まずそうな顔をして手を振り払うと、そのまま路地裏へと逃げ込む。

 

 

 

 その先には妹らしき少女の姿もあった。

 

 

 

「……どうしようもない」

 

 

 

 かつての自分たちを思い出しながら二人はその場を後にする、目指すのは街の中央広場にあるキャラバンが設置した大きな天幕だ。

 

 

 

 歓楽街とスラム街から離れたこの場所までくれば街の雰囲気は随分と変化する、身なりの整った者が多くなり治安も悪くなく、なにより刃物をチラつかせるような存在も視界に入らないのでだからこそ天幕や娼館を設置できる。

 

 

 

 今日の公演も盛況なようだ、二人は団員用の入り口から天幕に入り、そう確信を持つ。

 

 

 

「世はまだ神代、人魔の戦いが苛烈を極めていた時のこと……」

 

 

 

 背筋をゾクリと震わせるような美声が天幕の中に響き渡り、それだけで観客の心を掴む。

 

 

 

 舞台上ではローレライがリュートを奏でながら歌うようにその光景をナレーションしていおり、観客たちは誰もが首を上に上げてその光景に酔いしれ、幻想の世界へと旅立っているかのようだ。

 

 

 

 シャルルとキャロルは舞台袖から観客たちと同じようにその光景を眺める。

 

 

 

 そこでは氷と炎の軍勢が戦いを繰り広げているようだ、氷は戦士を象り炎は悪魔を表し、それらは苛烈な戦いを繰り広げていた、サイズはすべて人形サイズだが騎士も悪魔も細かく造形されており非常に美しくしかもそれは自然の物ではなく魔法によって生み出された現象なのだから、そうそうお目にかかれるものではないだろう。

 

 

 

 そして氷の戦士が炎の悪魔たちと戦う光景をローレライが歌い上げる。

 

 

 

 世界が混沌に埋め尽くされ星々の明かりを消し去るかのように人々が消えていった頃、世界の未来を案じた英雄たちが力を集結させて悪魔の軍勢と戦った歴史、これは誰もが一度は耳にしたことのある英雄譚だった。

 

 

 

 子供の頃に寝物語に聞かされ、あるいは本や吟遊詩人の歌で知り、この大陸に住まう者にとっては誰もが知る常識でもあるのだ、物語は地域によって細かく脚色されており僅かな違いがあるが、大筋の話は大体こんな感じになる。

 

 

 

 様々な種族が力を結集して、悪魔の軍勢を迎え撃ち、最後には勝利する、それだけだ。

 

 

 

 言葉にするとシンプルな内容なのだが、だからこそ親しまれているのだろう。

 

 

 

 氷で形作られた戦士はその英雄であり、炎で作られた悪魔はやられ役だ、物語の最大の山場である最終決戦で英雄たちは次々に倒れていき徐々に悪魔たちに押されているのがわかる。

 

 

 

 するとその瞬間、曇天を切り裂いて一つの輝ける剣が地面に突き刺さった。

 

 

 

 もちろんただの演出でしかない、空から落ちて来た剣もまた氷で作られており、舞台袖では演出担当のエミリーと舞台上のローレライが必死に魔法を行使しているのが確認できる、だがそんな彼女たちの苦労は観客に伝わることなく大きな歓声が響く。

 

 

 

 悪魔との戦いで右腕を失った英雄の一人がその剣に触れようとすると、聖なる剣から溢れた光が彼の腕を癒し再び戦う力を与えたのだ。

 

 

 

 聖剣を手に英雄は悪魔たちを打ち払う、それを魔法の氷と炎で表現する、ローレライの演奏と歌声がそんな幻想的な光景を情緒たっぷりに彩り、そして舞台は終幕となった。

 

 

 

 これが誰もが知る英雄譚、今より遥か昔に起こった神代の歴史であり、実話でもある。

 

 

 

「天剣」と名付けられた物語なのだが、それを魔法の氷と炎で演目にしてしまったのは春風のキャラバンくらいだろう。

 

 

 

 度重なる魔法の行使で舞台袖ではエミリーがぐったりしている、彼女は炎担当でありローレライは氷担当でもある、しかしリュートを奏で歌を歌って魔法を行使していたローレライの方はまだ余力があるらしい。

 

 

 

「エミリーお疲れさん、砦で暇な時に練習したかいがあったな」

 

 

 

「……いい感じ」

 

 

 

「あり、がとうございます……ふう、ちょっと疲れてしまいました」

 

 

 

「だらしないなぁ、ロウ姉さんはケロッとしてるぜ」

 

 

 

「ローレライさんと私とでは魔術師としての年季が違いますからね、もっと修行しなければあそこまで簡単に魔法は使えません」

 

 

 

 そんな彼女は万雷の拍手に舞台上で礼を返している、疲れた様子さえ確認できない、やはり年季が違うらしい。

 

 

 

「二人も仕事は終えられたのですか?」

 

 

 

「おう! ばっちりだ、ちゃんと挨拶してきたからな」

 

 

 

「ん……平和になった」

 

 

 

「それはよかった、挨拶は大事ですよね」

 

 

 

 今日の公演はこれで終わりらしい、日も暮れて来たので後は夜の仕事の時間だった。

 

 

 

「あぁ、そうでした、団長が私たちを探していましたよ、二人が挨拶回りから帰ってきたら私と一緒に部屋まで来て欲しいそうです」

 

 

 

「うーん……何かへましたっけな?」

 

 

 

「……心当たりはない」

 

 

 

「単純に報告して欲しいだけなのではないでしょうか、私も今回の公演の手ごたえを団長に伝えなくてはなりません」

 

 

 

 三人で天幕を抜けて中央車両に向かいキャラバンの団長の部屋へと顔をだす、扉の向こうには一枚の手紙を広げて難しい顔をした団長が座っており、三人は一瞬身構えてしまう。

 

 

 

 ヒリヒリとした緊張感が部屋の中に広がっている、発生源は団長だ。

 

 

 

「団長、どうかしましたか?」

 

 

 

「んん? あぁ、来たのね……なに、少し昔の伝手から仕事を依頼されてさ」

 

 

 

「いや、なんでそんなに殺気立ってるのか聞きたいんだけど」

 

 

 

「面倒な仕事なのよ、でも断れない事情がある……具体的には金がない、そして報酬が大きい」

 

 

 

 この街に来て団長が最初に行ったのは北の国で失った後部車両の新築だ、手の空いている大工を搔き集めて図面を渡し、可能なら春が来る前に完成させるためだった。

 

 

 

 当然のことながらお金が必要になる、それも莫大な。

 

 

 

 なので今現在、春風のキャラバンの資金は底を付いていると言っても過言ではなく、早急な財源が必要になっているのだ。

 

 

 

 さきほどキャロルが要求していた宝石を団長に渡してみるが、その程度では雀の涙にしかならないだろう。

 

 

 

「それで私たちを呼んだんですね、お手伝いすれば良いんでしょうか?」

 

 

 

「うん、そうなんだけど……」

 

 

 

 彼女にしては歯切れが悪い、三人に仕事を命令するかどうか迷っているかのように唸り、視線は天井を彷徨っている、それは珍しい光景であった。

 

 

 

「……仕事、難しい?」

 

 

 

「いいえ、単純な護衛任務よ、単純なね……私はそう思ってるんだけど、う~ん」

 

 

 

 やはりまだ迷っているようだ、そんなところも彼女らしくない。

 

 

 

「私が常に同行できて四人体制なら問題ない、でも依頼された仕事は二つあって私は片方にかかり切りになってしまうと思うの……だからもう片方は貴女たちに頼みたいんだけど、少し不安でね」

 

 

 

「危険が伴うのでしょうか?」

 

 

 

「その可能性は否定できない、この情勢下ではなおさらね」

 

 

 

「でも団長がワタシらをここに呼んだってことは、もう腹は決まってるんだろ、なら後はやれって命令すれば良いじゃん」

 

 

 

「ん……全力を尽くす」

 

 

 

「そうですね、それが仕事ならいやよはありません、私たちも微力ながらお助けします」

 

 

 

 三人の言葉を聞いて団長は一つため息をついてから頷いた、どうやら心は決まったらしい。

 

 

 

「三人にはこれから西に向かってとある人物と合流してもらって、その人物の護衛と輸送を命令します、報酬はそれなりの物を用意しましょう。準備が整ったら直ぐに出発してちょうだい、こまかな情報はここに記しておきます」

 

 

 

 そう言って渡されたのは封筒だ、中を覗き込むと今回の依頼内容と方針が書かれた紙と、それなりの量の軍資金が入っている。

 

 

 

「私はもう片方の仕事に向かうから、そっちはお願いするわね」

 

 

 

 すると団長の部屋の扉が開き外からローレライが入ってくる、彼女は部屋を見渡して何か納得したように頷くとこんなことを訪ねて来た。

 

 

 

「お仕事ですか?」

 

 

 

「ええ、少しキャラバンを留守にするから、後のことは貴女にお任せする」

 

 

 

「承知しました、こちらの街の顔役へはどのように対処しましょう」

 

 

 

「そちらには話をもう通してあるから、娼館の売り上げの二割を収めておいて」

 

 

 

 そこで団長は小さくため息を吐いてからローレライにだけ聞こえる声量でこう伝えるのだった。

 

 

 

「私が帰って来なかったら、後はお願いね……」

 

 

 

 彼女はいつも通り穏やかに微笑んで静かに一礼を返すだけだった。

 

 

 

 どうやら春はまだ遠いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。