商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
やることが決まったのならまずは準備が必要だ、三人は自分たちの業務を他の団員へと引き継ぎを行い装備の点検へと移る。
最も気を使わなければならないのはシャルルだろう、戦士であるが故に身に着ける物も多く手入れの手間がかかり他の二人もまた準備に余念がない、キャロルは新しく購入した矢筒を満たしてエミリーは主に食糧や必要物資を搔き集めているようだ。
危険が想定されるので普段なら倉庫にしまってあるポーションなども引っ張り出している、それだけ慎重にならなければならない任務だと三人は理解していた。
最終的に準備が整ったのは深夜とさえ言うべき時間であり、歓楽街の光以外は街の明かりが完全に消えてしまっている。
「どこかで補給が必要になりますよね、あまり目立ちたく無いのですが」
「王都に近づくにつれて人目も多くなるだろうしなぁ……でもまぁ今は内乱中らしいから傭兵だって言っとけば良いんじゃね?」
「……却下……そんな説明をしても女三人じゃ嘘だとばれる」
荷馬車があればそんな心配は必要ないのだろうが、持っていける食糧はカバンの中に入る量だけであり、王都とこの場所の距離を考えればどうしても補給が必要になってしまう。
別に人目に触れることは問題ないと三人は考えており、村に立ち寄って一般市民と交渉するくらいはなんの問題もないだろう、ただ現在この国は内乱の真っただ中にあるので兵士やそれに準ずる存在が三人を不審に思う可能性も捨てきれない。
ただでさえ内乱中の国で厳戒態勢が築かれているのだ、見慣れないよそ者が疎開するのではなく王都を目指して進んでいれば何かあるんじゃないかと考えてもおかしくないのだ。
なので三人は街から出てすぐに夜に溶け込むように表道から外れて、月明かりと星の位置を頼りに道なき道を進んでいく、事前に地図を頭に入れてあるのでこの周辺地域の地理や起伏も把握している、なのでいきなり谷に落ちたりはしないだろう。
「王都とあの街の中間地点あたりがギリギリかしら、そこから先はまともに道も歩けないわね」
「……先導する」
ランタンも松明も装備できないので夜目がきくキャロルを先頭にひたすら西進していく。
時折、街道へと視線をやると深夜であるにもかかわらずいくつかの明かりが確認できる、おそらくは兵士たちが検問所のようなものを作っているのだろう。
夜でさえそれなのだ、朝になれば巡回兵が周囲のパトロールを開始する。
通行人が持っている手紙や書類に始まり護身用の剣や弓を疑い、なんなら笑顔や性別すらも疑ってかかるのだ、そして少しでも不審に思えば調査という名目で牢に放り込まれてしまうだろう。
疑わしきは罰せず、そんな考えは存在しない。
兵士や巡回兵もだれが暗殺者や敵対勢力の息がかかった存在なのかわからないので強引な方法もとってくる、本当に無関係な者にとっては大きな迷惑だった。
そして彼女たちはよく目立つだろう、良い意味でも悪い意味でも。
なので余計なトラブルを避けながらの西進は夜が中心となり、暗闇を利用して進んで朝になると休憩するという昼夜逆転の生活が何日か続き、運よく冬の嵐を利用することもできたので目標としていた補給地点まであと少しの位置にまでたどり着く。
ここまでは順調だった、全てが予定通りに進んでいる。
しかしここでは難民や巡回兵の目を避けて進むことはできないだろう、バッグの中の食糧は僅かにしか残っていないので決断を迫られた。
「やっぱり最寄りの街は危険ですよね」
「この辺りはもう第二王子の勢力なんだよな? だったら暗殺とか奇襲とか警戒してるだろうし、警備は厳重だろうな」
行って素直に街に入れてくれるとは思えない、必ずしつこい追及があるはずだ。
「……少しだけ王都へは遠回りになるけど、南に少し進めば開拓村があったはず」
「そこにも巡回兵がいるのでは?」
「どこにでもある寒村だから……そこまで重要な拠点じゃない」
人の多く集まる街でも重要な軍事拠点でもない、あまり裕福とは言えない者たちが身を寄せ合って生きているような場所なのだから巡回兵もそこまで重視はしないだろう、こう言ってしまえばあれだが見捨てても構わない存在なのだから。
キャロルの提案にエミリーは頷いた、シャルルも反対意見はないらしい。
ここからそれなりの距離があり、王都までの道のりは僅かに遠のくが目をつぶるしかない。
なによりここから先は目的地まで補給の目途が立たないのだ、主戦場となっている場所が近いので警備も警戒もより一層厚くなってしまうだろう、なので急がば回れというやつだ。
道なき道を進み、時折見かける巡回兵をやり過ごし、一日ほどの道のりを南下して辿り着いたのは予想していた通りの開拓村だった。
いくつかの家と畑が広がり、やはりそこまで裕福には思えない、だからこそここを選んだのだ。
その村はどこか置き忘れられたかのように静謐で、実際に中央の内乱や血生臭いゴタゴタとは無縁だったのだろう、村人たちの多くはどこか呑気な表情で冬の内職に勤しんでいる。
畑を耕し、薪を作り、半分自給自足の生活をしながら僅かに稼いだ金銭でたまの贅沢を楽しむ、そんな毎日を過ごしていたのだろう。
もしかしたら中央がどうなっているかハッキリと把握していないのかもしれない、そう思えるくらいに放牧的な空気が漂っており外からやってきた三人にも特に警戒した様子はなく、寧ろ向こうから話しかけて来た。
「この辺じゃ見ない別嬪な嬢ちゃんだねぇ、こんな寂れた村にどうしたんだい?」
「突然の訪問をお許しください、もし宜しければこの出会いを記念して皆様へ神の祝福を祈りたいのですが、お許しいただけますでしょうか」
「あらまぁ上品な子だこと、そんな礼儀正しい挨拶をしてくれる奴なんて最近みないねぇ……もしかして良いとこのお嬢さんなのかね」
「いいえ、大した身分ではありません。私たちはこの村に食糧を売ってもらえないかと思い尋ねたのです」
恰幅の良い中年女性がエミリーの祈りに祈りで返してくれると、他の村人たちも見様見真似の祈りを捧げてくれる、どうやら邪険には思われていないらしい。
「実は旅の途中に食糧が尽きてしまいまして、相応以上の対価を支払いますので売っていただけないでしょうか」
「そりゃまぁ、構わないけど……うわ、金貨なんて初めてみたよ、やっぱり良いとこのお嬢さんなんだねぇ」
金貨を渡された際の反応でこの村の生活ぶりが理解できる。
「この村から王都までの道のりを過ごせるほどの保存食が必要です、皆様にはご負担をおかけして心苦しいのですが……」
「ははは、構わないさね、困った時はお互い様だよ! まして金貨までくれんだからアンタは良いお客さんだ、ペコペコせずにふんぞり返ったって誰も怒んないって、ほら男衆! 嬢ちゃんたちが食い物を寄こせってさ、さっさと持ってきな!」
怒鳴りつけるかのような命令を受けて村人たちが家へと帰っていく、どうやらこの中年女性は村の代表者らしい。
「なぁなぁ、姉ちゃんたちって冒険者? いろんな所を旅してるんだよね?」
「あぁそうさ! キャラバンって言ってな、大きな馬車に乗って世界中を旅してるんだよ、この前なんか北の国で冬の悪魔と戦ってさ……いやぁ、アイツは手ごわかった、でも最後にはこの剣でぶった切ったんだよ」
「ん……子供に嘘を教えるのはよくない」
村の子供たちは剣と弓という分かりやすい武器を持つシャルルとキャロルに興味津々だった、やはり戦士と言うのは子供たちにとって憧れの存在なんだろう、彼らの目は物語の英雄を見るかのようにキラキラと輝いている。
戦士も良いが魔術師だって憧れてほしい、エミリーはそんなことを思った。
「やっぱり戦士なんだから戦うんだよね、オーガとかゴブリンとか悪魔とか強いんだろ?」
「今言った奴らとは全部切り捨てた、まぁ、ワタシにはかなわない」
「……だから嘘を教えない」
シャルルは変な見栄を張っているようだ、いや、もしかしたら子供たちの夢を壊したくないのかも知れない。
「えぇ、嘘なのかよ」
「ごめんなさいね、私たちはまだ未熟なの、でもいつかは悪魔とだって戦えるように頑張るわ」
そんなことができるようになるだろうか? エミリーはそんなことを考えるが現状では想像もできなかった、だが最初から強い者などいないので今後の成長次第だろう。
自分たちは心身ともに成長期なのだから、そう言い聞かせるしかない。
「お~い! とりあえずこんなもんで満足かい?」
「あぁ、ありがとうございます、十分すぎるほどです」
子供たちと話していると村人たちが食糧を持ってきてくれた、保存食が中心なのだが何故か果物にワインやチーズらしき趣向品まである。
「これ家で作ったチーズとワイン、持ってってくれ」
「こっちは森で採った果物にハーブ、うまいぞお」
デレデレと、鼻の下を伸ばした男性が獲物を自慢するかのように見せつけてくる、そんな彼らを村長らしき中年女性が呆れたように見つめていた。
「とてもありがたいのですが、受け取ってしまってもよろしいのですか? 皆様の秘蔵の品なんじゃ」
「まあまあ、カッコつけさせてやっておくれ、これくらい金貨に比べたら安いもんだよ」
「そうですか……ありがとうございます、心より感謝を」
厚意に礼を返すのは当たり前だ、エミリーはもちろん、シャルルやキャロルも同じように一礼して感謝を表す。
「またいつでもおいで、こんな村じゃ外から来る人は少ないし暇なもんさ、今度は旅の話でも聞かせておくれよ」
「はい、その時は必ず」
よい出会いだったと思う、再び一礼してから三人は元来た道へと踵を返す。
「思ってたよりも上手くいったよな、ワインやチーズまで手に入ったのは意外だった」
「……ちょっと贅沢できる」
「もう二人とも、仕事中よ」
エミリーも口でそう言うが、だがまぁ少しくらいは良いだろうとも心の中では考える、ずっと気を張っていればどうしても集中力が欠けてしまうのだ、今晩くらいは英気を養うのも悪くはない。
そして良い出会いと機会をくれた村人たちに神の祝福あれと祈りを捧げる、気まぐれな神々は本当に気まぐれなので、今回のように良縁を捧げてくれるわけではないのだから。
そう、必ずしも神は彼女たちの味方ではない。
良き出会いと別れもあれば、最悪の出会いと別れもある。
これはただ、それだけの話だった。
「-ーッ!! 二人とも伏せろ!」
最初にそれに気が付いたのは戦士として鋭い感覚を持ったシャルルだ、次いでキャロルが背中に感じた何かに体を震わせると同時に、エミリーの服を引っ張って頭を下げさせる。
次の瞬間、三人の背後で大きな衝撃が広がった。
一瞬、エミリーは近距離に大きな雷でも落ちて来たのかと思ったほどだ、臓腑に響き渡る重低音と大気を破裂させる衝撃が彼女を襲いそう錯覚させる。
衝撃で飛び散った砂利や木片は体にぶつかり鈍い痛みを与えた、視界は砂ぼこりで埋まり何が起こったのかまだ把握することができない。
ただ一つわかったことは、この衝撃の発生源は村の中心部からだということくらいだ。
「エミリー……無事か?」
「え、えぇ……いったい何が起こって」
「……わからない、でもすぐに逃げた方が良い」
キャロルの体は震えていた、その顔にはハッキリと脅えが見て取れる。
「あぁ、これはやばいな……」
そしてシャルルもまた同様だ、盾を構えて剣を抜き、その目は脅えを隠すかのように細められ村へと向けられていた。
その段階になってようやくエミリーにも、砂ぼこりの向こうにいる何かへと意識が向く。
瞬間、ゾクリと背筋を震わせる。
あれは駄目だ、絶対に戦ってはいけない存在だ……彼女の魂が、心が、生存本能が、最大の警戒を鳴らして逃げろと叫びだす。
「……二人とも、行け」
シャルルの本能もまた逃げろと警告しているにも関わらず、出した言葉はそれだった。
「……シャル姉」
「問題ない、いつも通りだ……ワタシが時間を稼ぐ、エミリーも準備しろ」
「シャルル……」
そこで、この状況で、ニヤリと笑えるのがシャルルの良いところだ、何を前にしようともやるべきことは変わらない、彼女の不敵な笑みはそう告げているかのようだった。
「急げ、来るぞ!」
言葉と同時にシャルルは盾を構えて前に出た、そしてキャロルとエミリーは全力で距離を取る、砂ぼこりが徐々に晴れるにつれて、そこにいた何かが姿を現す。
村の中心、つい先ほどまで村人たちがワインやチーズを見せびらかしていた場所に刺さるのは巨大な槍だ、普通の槍より太く長く先端は十字に別れており、大地を蜘蛛の巣状に打ち砕いている。
村は壊滅状態だ、家は残骸となり、村人たちは肉片と化していた。
その槍を掴む男が一人、獣のような視線がシャルルを捉える。
ハッキリと言おう、その視線に貫かれシャルルは今すぐ逃げ出したかった。
みっともなく泣き散らしながら、剣も盾も捨てて全力で逃げ出したかったのだ、しかしそれは彼女自身の誇りが決して許さない、なにより妹と友人を捨てて逃げれば彼女は二度と立ち直ることができないだろう。
彼女は戦士なのだから、生き恥は許されない。
「お前を知っているぞ!! カムラーン!!」
槍と剣が重ね合わされる、わかってはいたことだが助走と体重を乗せた上段切りはあっさりと受け止められた。
両者の視線が至近距離で結びあう、カムラーンと呼ばれた男は興味深そうにシャルルを見つめていると突然ニヤリと獣じみた笑みを浮かべるのだった……彼女はそれを知っている、獲物を見つけた時の魔獣の顔なのだから。
「女か? いいねえ、こんな寂れた村じゃ大した面白みもねえと思っていたが……なかなかどうして、楽しめそうじゃねえか」
「なぜこの村を襲った!!」
「なぜも何も、雇い主が適当に第二王子のテリトリーで暴れて来いって命令してくるからよ、給料分は働いてやってんのさ」
「女子供もいたんだぞ!?」
「それの何が悪い、俺がここにいて、力があり、全てを奪う、当たり前のことだろうが」
槍にわずかに力が籠められると、巨大な壁に押されたかのように剣が弾かれてしまう。
「戦士が、強者が、全てを手に入れる! 金を奪い、弱者を虐げ、土地と文化を略奪し、女を犯す!」
カムラーンは笑っていた、それが世界の全てだと宣言するかのように高らかに。
「俺はそれが許された! 法も国もそれを止めることはできねぇ、何故かわかるか嬢ちゃん!」
全てを貫かんかという豪槍は一つの歪みもなく、それは彼のこれまでの人生を物語っているかのようだった、立ちふさがる全てを打ち貫き誰一人として止められる者が存在しなかった彼の歴史を。
「俺が強いからだ、この世の誰も止めることができねえのさ……ならば全てが肯定される、村を吹っ飛ばそうが誰が責めるってんだよ」
「お前の目の前にいるだろうが!」
「俺を殺してから吠えやがれ!」
フウウウウウウっと音を立てると肺が膨張する、そして胸いっぱいに広がった酸素を吐き出すと同時にシャルルが一歩死地へと踏み込む。
恐れは既になかった、あるのは戦士の誇りだけだ。
「戦神よ力を寄こせ!」
気まぐれな神々は彼女に力を貸すことを選んだらしい、鍛えられたしなやかな体に似つかわしくない力が宿る。
呼吸はもちろん、瞬き一つ許さないかの如く放たれる連撃は彼女が今現在できる最高の剣戟だろう……しかしカムラーンには届かない。
まるでそこに見えない壁でもあるかのように槍によって阻まれてしまうのだ。
「おお、悪くねえな、良い体幹してやがる」
シャルルの最高の刃は体にまとわりつく蜘蛛の糸を払うかのような気楽さで防がれた、その口調も獣じみた顔も一切の焦り無く、あまりにも簡単に。
「ほらもっと見せてみろ! これで終わりじゃねえだろ?」
「戦神よ! 天上の主よ! 力を!」
シャルルの言葉に気まぐれな神々は快く答えてくれた、先ほどよりもさらに力が籠められる。
そのしなやかな体は空中に飛び上がると全ての力を結集して刃を振り下ろす、彼女の力と体重と重力が乗せられた剣は悉くを両断するギロチンのようだ。
鋼と鋼が打ち合わさる甲高い音が鳴り響き、再び剣と槍が重ね合わされる、衝撃の強さを物語るかのようにカムラーンの足が大地にめり込むがその体幹はピクリとも揺らぐことはなかった。
「これも悪くねえ! なかなかスジが良いじゃねえか! 神々に随分と可愛がってもらってるみたいだな!」
だが、とカムラーンは言葉を区切り、そこで初めて槍を構えた。
「それは俺も同じだ……いくぜ嬢ちゃん、簡単に死んでくれるなよ? もし生きてたらお前は俺の女にして毎晩犯してやるよ」
彼もまた音を立てて酸素を取り込み、吐き出すと同時に踏み込んだ。
その瞬間、踏み込みの強さを証明するかのように大地は放射状に砕かれ、その衝撃を槍へと伝える。
「武神よ、この身に降りたまえ」
槍が僅かな残像を印してシャルルへ振るわれた、突きではなく横薙ぎだ。
早く、鋭く、重く、何人も抗うことのできない一撃は、とっさに盾を構えたシャルルの体をくの字にへし折り吹き飛ばす。
盾はひしゃげ、左手は嫌な音を上げて砕ける、吹き飛んだ体は地面を何度もバウンドして村の入り口まで転がっていく。
「さてさて、アイツはどれくらい気まぐれな神様に愛されてるのかねぇ」
「…………」
「どうだい嬢ちゃん? 生きてるかい?」
地面に転がったシャルルは……ピクリとも動かない。
「死んじまったか? まぁ神々はきまぐれだからなーーッとあぶねえな」
カムラーンはシャルルに近づこうとしたところで自分の眉間に放たれた矢を打ち落とす、彼にしては珍しく焦った様子がある。
「弓兵がいるようだな、しかもこいつも神々の寵愛を得ていやがる、本来なら俺に矢は当たらねえはず……大したもんだ」
また、彼はニヤリと笑う、新しい獲物を見つけた獣のように。
「さてとどこに隠れてる? 男なら殺すだけでつまらんが女なら楽しめそうだ」
彼の視線は深い森の中へ彷徨う、それ故に地面に転がるシャルルへは向いていなかった。
地面からの一閃、視線を向けた時にはもう遅く、その剣先は首を捉える。
しかしその剣が首を刎ねることはなかった、剣先が不自然に軌道を変えてカムラーンの頬を撫でた。
神々というのは、本当に気まぐれなようだ。
「あが、ごぼ……どう、した……私は、まだいきて……がはぁ!」
「おお! 生きていたか! 神々ってやつは本当に気まぐれだ! 俺にとってもお前にとってもな!」
体を震わせながらもシャルルは立ち上がる、左手はだらんとぶら下がり役に立たないだろう、あばら骨も折れて内臓が傷ついている可能性が高い。
それでも彼女は立ち上がった、満身創痍であることなど意味はなく、戦士としての誇りゆえに、そんなシャルルを見てカムラーンは嘘偽りなく称賛を送っている。
「大したもんだ、武神の一撃を受けてなお立ち上がるとは……良いぜ、お前は俺が犯す、あの弓兵も女なら一緒に犯してやろう、お前たちにはその価値がある」
「……ふざ、けるな……まだ勝負は、ごほ! 終わってない!」
「良いねえそのはねっかえり具合! そんな女を犯して屈服させるから面白いんだよ」
またどこかから一本の矢が飛来するが、今度は視線すら向けずに弾き落とす。
「俺はお前たちより強い、だから犯す、文句はないだろ?」
ないはずがないが、シャルルにカムラーンの行動を止めることは出来ないだろう、キャロルもまた同じだった。
「なあに気にするな、そのうち自分から腰を振って犯されにくるさ」
そう、二人にはカムラーンを止めることができない、シャルルとキャロルの二人には。
「ーーーッちいい! 魔術師までいやがったか!?」
最後の切り札であるエミリーだけが彼を止められるのだ、シャルルとキャロルが作った魔法の詠唱時間を最大限に使い、自分にできる最強の魔法を今まで構築していた。
カムラーンを中心に炎が渦巻き、それは大きな竜巻へと姿を変えていく。
炎が全てを焼き払う、彼自身も、村も、村人の亡骸も。
「武神よ、天上の君よ! この身を、この歴史を、守り給え!」
いつのまにか満身創痍のシャルルをエミリーとキャロルが支えていた、三人は炎の向こうで祈りと聖句を唱えているカムラーンに背を向けてその場を後にする。
「良いぜお前ら最高だぁ! 決めた、お前らは俺の女だ! 絶対に犯す! 絶対にだ! 神よ感謝するぞ!」
そんな言葉が彼女たちの背中に投げかけられるが振り返ることはしない、ただ全速力で走るだけだった。
一秒でも早く、一歩でも遠くへ、あの災害から離れる為に。
気まぐれな神々は、そんな彼女たちの姿を見送るのだった。
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