商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
大陸最高峰と称される巨大な国家と言えば帝国であると多くの者が答えるだろう、国土、文化、歴史、国力、研究、政治、様々な分野が洗練されておりまさに大帝国と称するに相応しい。
その評価も決して間違いではない、関係の悪い隣国などは決して認めることなく口汚く罵ることだろうが、世間一般の評価として帝国は巨大で強い国家であることは間違いなく揺るがしようのない事実であった。
かつて神の膝元で神託を受けた当時の皇帝が、濡れ紙を破くかのように次々と周辺諸国を従えて征服し、大陸の全てを舐めつくすとばかりに国土を広げていった歴史があり、軍事的にも大きな力を持っている。
長く巨大な歴史の中にあって数えきれない程の内乱や戦争を乗り越えた結果、今では広大な国土を維持して発展させることを中心としており、かつての勢いにも影が差すかのような雰囲気もあるが、それでも帝国が大国であることは疑いようがないだろう。
そんな大帝国の周囲には多くの小国が広がっており、帝国の強国化を警戒する他の大国と挟まれるように細々と存在していた。
帝国か、それとも他の大国か、巨大な国に挟まれて緩衝材のような役割を担っているそんな小国たちを人々は小王国群と呼ぶらしい。
シャルルが相乗りすることになった貿易キャラバンが辿り着いたのは、そんな小王国群の一つであるガレス王国であった。
特にこれといった特徴もなく、突出したものが何もない国家はまさに小国といった様子であり、大都会にはまだまだ届かない。
国土も狭く、唯一の都市が王都でありそこを中心に農村が広がる光景が隣国の国境まで広がっている。
「まぁ、小王国群なんてどこに行っても似たようなもんだけどな」
キャラバンの代表である男がシャルルにそう言った、初めて来た都市なのでキョロキョロしていた彼女におおざっぱな歴史を教えていたようだ。
「ガレス王国は国土の位置が帝国よりだから色々な面であっち寄りだな、服装とか喋り方とかも帝国風だろ?」
「帝国風って言うか、帝国じゃん……街を警邏してんのも帝国兵みたいだし」
シャルルの指南は正しい、確かに都市を警邏する者の多くが帝国兵であり、入国する際に国境警備を行っていたのも帝国兵であった。
「そりゃ帝国との仲も深い属国だしな、確か何代か前にはこの国の王族が帝室に嫁に行ったとかで血縁関係になるはずだ」
「へぇ~、じゃぁ帝国とは親戚になる訳か」
彼が言うには属国という立場ではあるが自治が認められており、現在の皇帝とガレス王国の国王は親戚でもあるので仲が深いらしい。
帝国とその他の大国との緩衝材でもあるので、政治的にも立地的にも帝国寄りなのだろう。
群れを成すキャラバンが都市を囲む立派な城門を抜けて王都に入ると、様々な面で帝国らしい雰囲気を感じるのもそれが原因なのかもしれない。
「さてと、そんじゃぁ俺たちは積み荷を金に換えていくとするよ」
「あぁ、色々世話になったな、ここまでありがとうな」
「ははは、世話になったのは寧ろ俺たちの方さ、シャルル嬢ちゃんがその気ならうちのキャラバンに正式入団しても良いんだぞ、大歓迎さ!」
「ワタシの目標は前にも言ったじゃないか」
「あぁ、はぐれてしまった仲間を探して聖都を目指してるんだったか……いやぁ惜しいな、嬢ちゃんぐらい腕が立つのなら護衛役としても欲しかったんだが」
「ふふん、欲しいのは護衛役だけじゃないんだろ?」
「わはは! 違いない、嬢ちゃんの具合は最高だからな!」
ここ最近は夜になる度に乱交に及んでいた彼らにも、いざ別れるとなれば寂しさがあるのかもしれない。
「まぁ、アンタらがこのまま聖都まで連れて行ってくれるんなら幾らでも抱かせてやるけど、そっち方面には行かないのなら難しいな」
「残念だ、しかし出会いと別れは旅に生きていれば避けようがないもんか……またどこかで会えればその時は楽しませてもらうとするよ」
「そうしてくれ、ワタシは元居たキャラバンでも娼婦として働いてたから、もし店に顔を出したならその時はサービスするさ」
「そいつは楽しみだ」
ニヤッとだらしない笑顔を浮かべたキャラバンの団長は、最後にシャルルの尻を撫でると積み荷と共にガレス王国の王都へと姿を消していくのだった。
手を振り合って別れを済ましたシャルルもまた、王都の街並みへと姿を紛れさせていく。
「さてと、これからどうすっかな……」
王都の大通りを歩きながら彼女は顎に手を当てて考え込む、初めて来た場所でやるべきことはそう多くはないのだが、何をするにしても手持ちの資金が少ないことが何よりの問題であった。
装備の点検、食料の確保、情報収集、拠点、全てタダで済ませられるはずがなく、最初に確認すべきは財布の中身だろう。
懐から引っ張り出した財布は軽くて薄い、ひっくり返してみると中から数枚の銀貨と銅貨が手のひらに落ちてくる。
「……う~ん、とりあえず、腹ごしらえかな」
シャルルはそう言って大通りにある出店の店主に銅貨を渡して串焼きを購入した、それで銅貨は消え去った。
「そんで装備の点検だろ」
次に彼女が目指したのは鍛冶屋である、鉄を打つ音を頼りに大通りから少し外れると、鍋や包丁などの日用品と共に剣や鎧などが並べられた鍛冶場を発見する。
「剣と鎧の整備を頼みたいんだけど……」
ピンッ、と音を鳴らして指で銀貨を弾くと、火事場の主は顎をクイッと動かしてシャルルの装備を求めた。
「剣を磨いて欲しいのと、鎧の留め具を直して欲しい……どれくらい時間がかかるかな?」
「……そう時間も必要ねえ、そこで待ってろ」
鍛冶場の店主はそう告げて作業に取り掛かる。
「見ねえ顔だな、流れ者か?」
「んん~? まぁ余所者ってことは間違いないけど、なんでわかったんだよ?」
「女の剣士なんてそう見かけないんだ、珍しいさ」
大きな砥石に剣を擦り付けながら研ぎなおしていく作業を行いながらも会話は流暢に続けられていた、喋りながらであっても視線は鋭く細められており集中しているようだ。
「最近は傭兵も引っ張りだこで需要も大きい、この王都でもよく見かけるようになった、そんでも女剣士となるとやっぱり珍しいからな」
確かに店主の言葉通り女の身で傭兵は珍しい、それもキャラバンや傭兵団に属している訳でもない独り者ならば更に珍しいだろう。
「お前さんも帝国に仕事を探しに来た口だろ?」
「いや、ワタシは聖都を目指してるんだけど」
「聖都? なんだ、帝国に雇われに来たんじゃないのか……てっきりそうだと思ったんだがなぁ」
剣の研ぎ直しが終わったのか、鍛冶場の店主は胸当てへと手を伸ばして留め具の整備を始めた。
「最近はアンデットがよく出没する、この国も帝国も兵隊が走り回っていてな……だがそれだけじゃ手が足りないから傭兵団を雇ってるらしい……それに加えて今は小王国群でもいろいろとごたついてる」
「へえ、儲けられそうかな?」
「さてな、傭兵の需要が高いのは間違いないが……」
そこで彼は言葉を濁した。
「女の傭兵は舐められがちだからな、雇ってくれって訪ねても難しいか」
「まぁ、そういうことだ……ほれ、終わったぞ」
整備の終わった剣と胸当てを受け取って装着していく、特に留め具の感触をしっかり確かめながら身にまとっていった。
特に違和感はない、胸の成長によって圧迫感を感じるようになったが隙間だらけよりもピッタリとくっ付く鎧の方がマシだろう。
「ありがとうな、傭兵として雇われることがあったらまた世話になるかもしれないけど」
「金さえ払えばそれでいい、男も女も俺からしてみれば等しく客だからな、あんたがまた顔出すことを鍛冶神に祈っておこう」
これで資金は完全に底をついた、財布をどれだけひっくり返しても何も出てくることはない。
今までそうしてきたようにどこかのキャラバンに自らを売り込んで目的地まで近づくことが理想だが、都合よくそういった相手が存在するはずもなく一人旅では路頭に迷うことも珍しくはなかった。
これからシャルルがこの都市でやることはまず相乗りできるキャラバンを見つけることだろう、それが振るわなかった場合は路銀と生活費を稼いで自分の足で進むしかなくなってくる。
どうであれ、まずは財布を太らせるしかないのだった。
ただそれも普通の仕事となれば難しい、キャラバンの看板が使えればその信頼もあってか仕事にもありつけるのだが今は一人旅である、アンデットの大量発生で傭兵の需要は高くなっているらしいがおそらくシャルル一人が雇ってくれと尋ねても門前払いで終わってしまうだろう。
なんの後ろ盾もなく後援者もいない女の一人旅は厳しいものである、しかしシャルルはそこまで困った様子はない。
彼女の手が首にぶら下がっていた細い鎖へと伸びる、指先で引っ張り出したのは聖都で大儀式に参加した際にお礼として受け取った聖印であった。
その聖印は娼婦と男娼の神であり、性愛を司る神の庇護下にあることを証明する物であり、これを持つということは娼婦として最高の評価を得ることと同義であった、それに加えていざという時は神殿の一員として庇護下に入ることも可能である。
次のキャラバンが見つかるまでは娼婦として働こう、聖印の存在もあるので許可も簡単に降りる筈だと彼女は考え、そのつま先は神殿へと進められるのだった。
娼婦の神殿は大勢力である、それなりに大きな街や都市には必ずと断言して問題ないほどに神殿の支部が作られている。
この王都にもあるだろうとシャルルは考えて、実際にその思惑が外れることはなかった、神殿街へと足を運べば生命神の神殿と並ぶように娼婦神の神殿も建てられていたからだ。
生命神の神殿は病院、娼婦神の神殿は娼館、どちらも人の生活に欠かすことのできない存在なので、どの都市であってもこの二つの神殿だけは建てられているものである。
シャルルは怪我をしたであろう兵士や傭兵が大勢押し寄せている生命神の神殿を眺めながら、昼の間は静かな娼婦の神殿の中へと入っていく。
「すいませーん……あれ、誰もいないな」
ミカエラと似た雰囲気を持つ銅像が出迎える神殿の内部は静謐であり騒がしさがない、受付にも人はおらず声が反響するだけである。
娼館が昼に静かなのは仕方がないことなので特に文句もない、シャルルは受付に置いてあったハンドベルを打ち鳴らして来客を知らせるのだった。
済んだ音が静謐な空間に広がって消えていく、すると一分もしないうちに神殿の奥から足音が聞こえてくる。
身にまとっている法衣から察するにこの神殿の代表者だろう、それはつまり神官であると同時に娼婦でもあるということだ。
シャルルは聖印を胸元から取り出して首にぶら下げると、その場に跪いて首を垂れる。
「旅のお方、よく参られました……ここは娼婦と男娼の神を祭る神殿、この出会いを祝福させていただきます」
「あぁ……えっと、ワタシはシャルル、です。この出会いを祝福します」
慣れない敬語と神殿風の挨拶をしながらシャルルは垂れていた頭を上げた、すると彼女の瞳に映ったのは当然ながら目の前にいる神官の顔である。
穏やかにほほ笑む神官の年齢は二十代前半ほどだろうか、清潔な法衣を纏った姿を見るとエミリーの顔が脳裏にチラつくのだが、友人である彼女とは容姿が大きく異なるようだ。
シャルルの認識が二年前のエミリーの姿のまま止まっているということもそうだが、目の前の女性はとにかく儚げな印象が強い。
美人は美人なのだがどこか影が差しており、俯きがちな姿勢も合わさって活発な印象は与えない、同じ神官であっても活力に満ちたエミリーとは正反対の印象である。
もっと胸を張って笑顔で堂々としていれば男たちが放っておかないだろうな、そんなことをシャルルは考えながら相手の顔を覗き込む。
「……」
そこでシャルルは言葉を無くした、何故なら長い前髪に隠された眼窩には輝きが存在しなかったからだ。
本来そこにあるはずの眼球はどこにもない、前髪と瞼で隠そうとしているようだが窪んでしまっているので注意深く観察すれば察することができるだろう、シャルルも一目見て瞳を失っているのだと気が付いたほどである。
病か怪我かそれとも事故かわからないが、目の前の女性には眼球が存在しない、名刺代わりに見せつけるように首にぶら下がった聖印が空振りに終わってしまった。
「私がここに来たのは……ええっと、娼婦として働く許可を貰いたくてさ」
「……許可、でございますね……あぁ……どうすればいいのかしら」
その言葉にシャルルはずっこけそうになった、神官の姿をしていたので彼女に話を通せば許可が下りるかと思っていたのだがアテが外れてしまったらしい。
「とりあえず神殿の偉いさんを呼んできて欲しいな」
盲目の神官にそう伝えると彼女は小さく頷いて神殿の奥へと踵を返す、するとその瞬間によく響く大声が二人の耳へと届くのだった。
「アナスタシアぁぁ!! 客が来てるってのになにチンタラやってんだい!!」
思わず耳を両手で塞いでしまうような声量である、それに加えて酒で喉をやられてるのかざらついた印象を与えてくる声色でもあった。
神殿の奥から怒鳴り散らしながら姿を現したのはアナスタシアと呼ばれた女性と同様に神官の法衣を身にまとった女性である、よく皺の目立つ顔つきは生きた時間の長さを物語っており年齢的にこの神殿の代表者だろう。
かつては娼婦として男を虜にしたであろう老婆である、しかし今は鋭い視線やガラガラ声も合わさって堅気の雰囲気は皆無である。
片手に持った酒瓶が神官らしさを相殺しているのも悪い印象を与えた、少なくともシャルルがこれまで関わってきた中で培った神官像を壊してしまうくらいには俗に染まっているのは間違いない。
「……ミリア母さん」
「何度言ったらわかるんだ、神官長とお呼び!!」
「……お酒の匂いが……体に悪いから控えていただきたいのですが」
「はんッ、美味いもんを飲んで体に悪いはずがないだろう……それに今はお前のつまらん説教よりも客の相手だ!」
ミリアと呼ばれた老婆は酒の匂いを漂わせながらシャルルに近寄っていくと、観察するかのように視線を尖らせて足元から頭まで睨みつけていく。
「見ない顔だねえ、女の傭兵とは珍しいもんだ……んん? お前さんが首からぶら下げてるのは聖印かい?」
「あ、うん……聖都で貰ったんだけど」
「どれ、見せてみな」
見せてみろという言葉に反して老婆はひったくるように聖印を奪い取った、そして注意深く観察しながら撫でまわすと小さく頷く。
「ふん、偽物じゃないようだ……こいつはそう易々と手に入れられるものじゃないんだが、お前さん、どうやって手に入れたんだ?」
「聖都で大儀式があって、それを手伝ったら貰ったんだ」
「そうかい、よっぽど大きな儀式だったんだろうね……まぁそいつを持ってるのなら、この神殿はお前さんを守ってやらなきゃならん、そういう決まりなんだ」
そこで老婆は言葉を区切って酒を飲む。
「しかし、だ……こちらとしても許可をやりたいところだけど、今は色々と厄介ごとが多い」
ミリアの持つ衰えながらも鋭さを残したままの瞳がシャルルを観察していく、それは表面的なものだけでなく奥底まで見透かすような視線であった。
長く生きた者だけにできる瞳に見つめられると、シャルルの背筋に奇妙な震えが走る。
「お前さん、それなりに腕が立ちそうだ……ふん、聖印を持ってる相手にこう言うのも悪いが、こちらの仕事を引き受けてくれるのなら神殿の威光を与えようじゃないか」
「働く許可を貰えるんなら、まぁ……後は内容しだいかな」
「許可ならやるさ、なんだったら上納金もいらないし、報酬もくれてやる」
それは懐の寂しいシャルルにとってありがたい提案であったが、都合のいい話には必ず裏があるものである。
シャルルの警戒を老婆は感じ取ったのだろう、また酒で喉を潤してからざらついた声で笑ってみせた。
「そう警戒しないでもいいさ、お前さんに任せたいのは何も違法なことじゃない……この神殿の力と威光を愚かな者たちに知らしめることさね」
「あぁ~……ワタシはあれだ、神官じゃないから説法とか苦手だぞ」
「誰が傭兵にそんな面倒ごとを任すかい! お前さんに期待するのは荒事だよ!」
ミリアは空になった酒瓶を置いてから懐を弄り、中から小ぶりな巾着を取り出すとそれをシャルルへと投げ渡す。
受け取った瞬間に硬貨が摺り合わさる音が巾着から漏れた、中を覗き込んでみるとそれなりの数の銀貨と銅貨が入っているのがわかる。
「そいつは前金だ」
「……貰えるんなら貰っとくけど、もしかしたら失敗するかもしれないぞ」
「ふん、体に祝福を宿しておきながら何を言ってやがる……お前さんは聖騎士だろ、天剣に認められた戦士がそんなつまらんことを気にするもんじゃない、汗一つかかずに平然とやってみせな」
「いや、そんな無茶な……そもそもワタシは聖騎士じゃないっての」
「神々に祈願をしていないのに祝福を宿してるんだ、そいつは聖騎士の証じゃないか」
「そうだけど、聖騎士団に入ってる訳じゃないんだ」
「なんだって構いやしないよ、結果が伴うのならね……それで、受けてくれるんだろう?」
「う~ん……まぁ懐具合が厳しいからなぁ」
「よしよし、それでいいんだよ……アナスタシアぁ!! 例の件、説明してやりな」
二人のやりとりを聞きながら黙って佇んでいた盲目の神官は、深々と頭を下げて「わかりました」と返事を返す。
「股を開くだけが娼婦と男娼の神を奉る神官の仕事じゃないんだ、いい機会だからお前もよく学ぶこったね」
「はい、ミリア母さん」
「神官長とお呼び!!」
来た時と同じように怒鳴りながらミリアは神殿の奥へと消えていく、それを見送ったアナスタシアとシャルルは静かになった聖堂で向かい合う。
「聖騎士様、改めまして自己紹介を……私はアナスタシア、ただのアナスタシアでございます」
「アナスタシアね、よろしく頼むよ。ワタシはシャルル、同じくただのシャルルだ……あと、聖騎士じゃないからな」
「ですが、祝福を宿されています……」
「そうだけど聖騎士団所属ってわけじゃないから……う~ん、それなのに聖騎士って名乗ると色々と面倒なことになりそうだ」
「そういう……ものでございますか?」
「詐欺とか騙されたとか言われても責任とれないっての……聖都で見たんだけどさ、聖騎士って凄く敬われてるんだよ、通りを歩いたらお婆さんが拝んだりしてさ。ワタシはそんな大層な存在じゃないよ」
そこまでされる実績も力もないという自覚があるからなのか、シャルルは聖騎士と称されることが苦手なようだ。
だがそれはシャルルの自己評価でしかない、神に祈願することなく祝福を宿す存在は誰がなんと言おうと聖騎士と称される存在であり、そこは揺るがしようのない事実だろう。
シャルルを前にするアナスタシアもまた、盲目であるにも関わらずどこか眩しそうにしている、祝福の光が突き刺さっているのだ。
瞳を失う前に、ふと見上げた夏の太陽のように、その輝きは鮮烈である。
「……」
盲目であっても関係ないとばかりに感じ取れてしまう光に、アナスタシアは思わず顔を俯かせてしまった。
そして静かに深呼吸しながら心を落ち着かせていく、無限に広がる暗闇を切り裂くかのような輝きを直視するには、強い覚悟が必要なのだろう。
盲目のアナスタシアにとって、いや、盲目だからこそ、シャルルの輝きは刃のように鋭いのかもしれない。