商人と冒険者と娼婦 作:にやまな
チャリンチャリンと硬貨の擦れ合う音が周囲に響く、ちょうど掌に収まるほどの大きさである巾着に収められているのは今回の給料である。
一時は情勢の悪化もあって兵士たちの間では給料が減らされるのではという噂もあったのだが、どうやら満額が支払われたようで彼らも安心したことだろう。
兵舎の受付で渡された給料を握りしめながら兵士たちは夜の街に消えていくのだ、給料日はどうしても財布の紐が緩くなってしまうもの、それは店や王都の住人達もわかっているのでサービスもよくなる。
懇意にしている娼館に早足で向かう兵士、酒場を目指す兵士、或いは給料を浪費せずそのまま家族の待つ家に帰る者、行く先は様々であるがやはり給料日というのは特別なものである。
大勢の兵士が給料袋片手に歓楽街へ繰り出す様子は古今東西どこにでも広がっている光景である、ここガレス王国でもそれは変わることはなく、やはりこの日の賑わいは一際大きいものであった。
歓楽街の大通りを歩く兵士の一人がキョロキョロと周囲を観察している、どうやら彼は娼婦を探しているようだが目当ての相手は既に取られてしまっているのかなかなか見つからないらしい。
何度か客として訪れて気が合った娼婦を今日もと考えていたのだが、客商売なので予定が合わないことはどうしようもない、そこは彼も納得しているのだろう。
会えないことは仕方ない、ならばこの熱気をどうするかが問題であった。
新しい娼婦を探すか、それとも酒場で踊り子でも眺めながら少し高めの酒を飲むか、或いは露店巡りも悪くないかもしれない。
「……いや、やっぱりスッキリしたいよなぁ」
酒も良い、踊りも良い、歌も悪くはない、だが下半身に集う熱を晴らすにはやはり娼婦を抱くことが一番である。
ならばどうするか、馴染みの娼婦は取られてしまったのでどうしようもない、娼館に顔を出して新人を歓迎するのも悪くはないだろう。
もしくは大通りで客引きをする娼婦から好みの相手を見つけるか、彼にとっては悩みどころであった。
「お~い、そこの兄ちゃん!!」
給料袋を片手に大通りで悩む彼に声がかけられる、そちらへ視線を送るとそこには美しい女が立っていた。
見ない顔である、歓楽街によく遊びに来る彼は客引きの娼婦の多くと顔見知りなのだが、このような娼婦は見たことがない。
美しさと愛らしさが両立しており、凛々しさと柔らかさも存在している、舞台役者のような顔つきは触れがたいほどに整っている。
そして艶やかな体はしっかりと女性らしい曲線を描いており、思わず喉を鳴らしてしまうほどに色気を振りまいていた。
意匠の凝らされた下着を身に纏い、その上に向こう側が透けて見える薄い絹の布を被った姿はただただいやらしい、熟練の娼婦のような色気を振りまくのでそれなりの年齢かと思えば、少女を超えて女になったばかりといった印象である。
「俺を呼んだのかい?」
「そうそう、歓楽街のど真ん中で給料袋片手に悩んでるアンタを呼んだのさ」
「おっと、目立ってたかな」
「そりゃそうさ、酒場に行くでもなく娼館に向かうでもなくずっと悩んでるんだからさ」
「あぁ……どうしたもんかと思ってね」
「あはは、悩むくらいならワタシと遊ぼうぜ、今日は兵士の給料日なんだろ? サービスするからさ」
そう言って美しい女は体を兵士の男へと摺り寄せてくる、豊かな乳房が形を変えて男の胸板に押し付けられると甘い匂いが鼻孔を擽った。
体が触れ合った瞬間に男の思考が蕩け始めた、上質な酒に酔ったかのようにクラクラと心地いい酔いが突如として生まれて考えが上手く纏まらない。
「なぁ……いいだろぉ? 絶対損はさせないって」
彼からしてみれば容姿だけでも十分なほどに当たりと言えるだろう、それだけでなく艶やかな曲線を持つ体も甘い匂いも全てが上質である。
これで体の相性が良ければ完璧だろう、戻ってこれないと思えるほどに彼女に沈むはずだ。
「う、うん、じゃぁ今夜は君と遊ぼうかな」
「よっしゃ、一名様神殿までご案内!!」
神殿と聞いて彼は納得した、どうやら目の前の娼婦は神殿娼婦らしい、よく見れば薄絹の向こうにある豊かな谷間には聖印が挟まっていた。
聖印持ちとなれば最高級娼婦である、普通は一年先まで予約が埋まっており簡単には会えない相手である、このように大通りで客引きするなど珍しいことなのだ。
「ええっと、君の名前はなんだい?」
「シャルルだよ、ただのシャルルだ」
やはり彼の記憶にない聞いたことのない名前だ、これほど美人で色気があり聖印すら持っているのならば有名でも不思議はないのだが、どれだけ頭をひねろうとも心当たりはない。
「もしかしてシャルルは新人さんかい? あまり見ない顔だけど……」
「あぁ、最近この都市に来たばかりなんだ、今は娼婦神の神殿で世話になってる」
「なるほど、だから客引きしてたんだ」
兵士は納得した、今は宣伝時期ということだろう、美しい娼婦なのですぐに予約で満たされることが予想できるので、新人時代に接触できたのは幸運なんだと考えた。
予想外の展開だが悪くはない、神殿娼婦となると少々出費が大きくなるが給料日なので受け入れよう、なにより腕を組んで歩くと胸が当たってとても心地いい、これを振り払うことは彼にはできないらしい。
二人並んで神殿へと辿り着き、受付で入場料を支払って名簿に名前を書けば個室の鍵を渡された、後は二人だけの時間である。
神殿の名簿に自分の名前が記されると少しだけ優越感を感じられた、男として一つ成長できたかのような気分なのだろう、同僚に自慢できる考えているのかもしれない。
「まずはどうする? 食事もあるし酒もあるぞ、それとも風呂か?」
「おお、娼婦神の神殿には浴場があるって話は本当だったのか」
「贅沢だよなぁ、私も最初は驚いたもんだ、どんだけ金があるんだってさ」
シャルルに手を引かれて個室に入ると調度品の豪華さにまずは驚く、兵士生活の中ではあまり縁のない品の良い空間に違和感を感じてしまった、そして奥にあるのは湯気をこもらせるタイル張りの浴場である。
ただ湯を沸かしただけでなく香り高い香草や果物などが湯船に浮いているのだ、普段は世話になることのない高級な空間に思わず頬が緩んでいく。
「気に入ったみたいだしまずは風呂にするか、色々物が揃ってるから贅沢できるぞ、香油とか石鹸とかも拘ってるらしくてさ、めちゃくちゃ良い匂いがするんだ」
シャルルが風呂場の棚を開くとそこには大量の石鹸や香油が入った瓶が並べられていた、どれも高級品であることが一目でわかる品質の物であり、やはり兵士には縁遠いものである。
「噂には聞いてたけど良い所だ、金持ちの商人とかは毎晩ここに来るのも納得だな」
「アンタもその一人じゃないか」
「いやいや、兵士の給料じゃそう頻繁には来れないって、今日は給料日だから贅沢してるだけだ」
「そういうもんか? なら沢山楽しませて満足させないとな、次の給料日も来てもらえるようにさ」
シャルルは薄い絹の布を脱ぎ捨てて下着だけになり、そこから見せつけるように下着も剥いでいく、そして全裸になると男の服にも手をかけていく。
カチャカチャと音を立てながら慣れた手つきでベルトを外してズボンを脱がす、そして上半身の衣類も脱がすと二人は浴場で全裸となった。
「おッ、やっぱり兵士なだけあって良い体してるな」
「ははは、上官が厳しい人でね……今日も訓練後だから汗が酷くて」
「よしよし、ここは風呂場もあるんだから贅沢していけばいいさ」
兵士の男が浴場に備え付けられた椅子に腰を下ろすと、背後に回ったシャルルが湯船から桶で掬い上げた湯を頭から落とす、それを何度か繰り返して汗と汚れを濯ぎ、今度は両手で石鹸を泡立てて髪を洗い出す。
爽やかな香りが浴場に広がった、シャルルの手で髪を洗われる男はご満悦である。
「あぁ~……」
「痒いとこないか?」
「問題ない、とても心地いい……あぁ~」
泡や香油の香りもそうだが、後頭部で感じるシャルルの胸の柔らかさが何よりも気分を良くしてくれた。
「泡流すぞ~」
また桶で掬った湯を頭からかけて泡を流していく、そして次は体を清める番だ。
「へへへ、こういうのも男は好きなんだろ」
ドロッとした粘度の高い香油を体に塗りたくりそこに石鹸の泡を混ぜあわせる、すると胸やくびれが光沢を帯びて更に艶めかしさが増していく、シャルルはそんな状態で男の背中に引っ付くと自らの体を擦りつけながら泡立てていくのだった。
押し付けられた胸が上下に滑る度に形を変えて泡と香油が掻き混ぜられていくのだ、糸を引き泡が角を立てるようになるまでそれを続ければ全身が粘液に満たされてしまう。
「ふふん、気持ちいいだろ?」
興奮を証明するかのように男の股間は大きくそそり立っていた。
「こっちもいいもん持ってるじゃないか」
背後から体を擦りつけながら股間へと両手を伸ばし、泡を擦りつけていくと、与えられる快楽に耐えきれないとばかりにうめき声があがる。
右の掌で亀頭をグリグリと撫でまわし、左手は肉棒を掴んでしごいていく、とても慣れた手つきである。
強めに擦ると痛みを伴うような奉仕ではあるが泡の滑りによってただただ心地いい、股間もそうだが背中に押し付けられた大きな乳房の感触も興奮を膨らませてくれるのだ。
「うッ……ちょっと待ってくれ、もう限界だ」
「大丈夫大丈夫、鍛えてるんだから何度だって出せるって」
正確には出させるだ、既に房中術によって魔術的に繋がりあってるので幾らでも興奮を操れる。
「それじゃぁ一発目だな……このまま手でイッちゃえ」
泡と香油塗れの手が一際強く肉竿を刺激すると、高められていた快感が一気に爆発してしまう、鈴口から放たれた精液はあまりにも勢いが強かったからなのか男の目線の高さまで噴き出してそのまま浴場の壁を汚してしまう。
「ぐッ、うッ、うあぁッ!!」
感じ取ったのは過去ないくらいの強い絶頂である、放出の勢いを見ても間違いないだろう。
「おぉ、凄い勢いだな、どんだけ溜め込んでたんだよ」
自らの両手を汚す白い精液を両手を広げて見せつけるシャルルは、香油と混ざって艶めかしく滴るそれを舌で舐めとった。
「んッ……ふッ……ちゅ、ちゅる」
そして舌で転がして味わっていく、苦みのあるそれは香油と混ざって少し甘く感じられた。
味良し、生命力良し、量良し、濃さ良し、シャルルにとって文句無しの精液である。
兵士なだけあってとても良質であり得られる魔力や活力も豊富だ、口に含んだだけでもそれがよくわかる、そしてこれを子宮で受け入れたなら満足できるセックスになるだろう。
「ふぅ、まだ硬いままだしこのまま休憩挟まず続けるか」
「あ、あぁ……」
強烈な射精に夢見心地だった彼はシャルルに手を引かれて泡で満たされた湯船へと導かれた、そのまま体を付けて半身浴の状態になると、そこにシャルルが乗っかった。
湯船の中で向かい合って抱き合う二人はまずは唇を重ね合わせる。
「ちゅ、ちゅ……んん、んむ」
最初は啄むようなキスを繰り返し、慣れてくると舌を絡ませていく。
男はシャルルとキスする度に、唾液を交換する度に酔いが強くなっていくのを感じていた、体が熱いのは湯船に浸かっているからだけではないだろう、シャルルに興奮を導かれているのだ。
「ぷはぁッ……んふふ、私の中に入れるからな」
泡塗れの湯船では互いの下半身は見えない、しかしシャルルは正確に男の肉棒を掴むと慣れた動作で自らの中に導いていく。
「あん、うぁ……あッ、ぁッ……うあん!」
湯船の泡とシャルル自身の興奮によって男の欲望は大きな引っ掛かりもなく最奥へと滑り込んだ、子宮口と密着した亀頭が感じる熱は湯の温度以上に熱くなっているシャルルの秘所の感触であった。
艶めかしく蠢いてとても熱い、そして膣口はとても狭いというのに最奥は包み込むかのようなゆとりがあるのだ、このままでも心地いいので動かなくても射精してしまいそうである。
「うッ、うんッ……あッ、おっきい、な……はぁ、はぁ」
ジャブジャブとシャルルの腰使いに合わせて湯船が波打った、最初は穏やかだったそれも徐々に激しくなっていき、互いの感触を把握すれば後は貪るだけなのだろう。
「あぁぁッ!! んあぁ!! あッ、あッ、あぁッ!!」
「うお、締め付けがすごいな、それに激しすぎだっての!」
「だってッ……んやぁッ、アンタのこれ、凄く良い形してるからさ……はぁ、凄く、あん、気持ちいいんだ」
子宮口が亀頭とキスする度に軽い絶頂を感じ取っているのか、既にシャルルにも余裕がないようだ、男の方もそれは同様なのかせり上がってくる精液を必死で抑えているらしい。
「おッ、おッ……んぉ……あはぁ、あッああああッ……んぁああッ!!」
互いに限界が近い、それを理解したのか腰と体を密着させながら視線と唇を絡ませあった。
ちゅ、と音を立てて唇が離れると、それを合図をしたかのように二人は快楽を爆発させるのだった。
「やぁああああッ!? んあぁ……~~~~~ッッ!!?」
耳元に感じる心臓の鼓動と合わせて吐き出される精液は、先ほど浴場の壁を汚した時と変わらない力強さを感じられる。
子宮を満たす熱で背筋が続々と震えた、そして二人は絶頂の余韻が引くのを体を強張らせながら耐え忍ぶ。
それは甘い沼に浸かるような快楽ではない、歯を食いしばって耐えなければならないほどに強烈な絶頂なのだろう。
「あぁ~……あッ……あ~……んぁ」
「はぁ、はぁ……シャルル、君は凄いな、こんなセックスは初めてだ」
房中術を使っているからこその評価である、体だけでなく魂まで溶け合う感覚を味わってしまえば普通のセックスでは物足りなくなってしまうのかもしれない。
強力な媚薬や麻薬などを使っても同様の効果があるのだが、房中術ならば体を蝕むことなく快楽を得られるので危険性も少ない。
彼も完全にハマってしまったようだ、これからもシャルルを指名することだろう。
「はぁ、私も気持ちよかったよ……ん、あッ……でも、まだ足りないだろ?」
「あ、あぁ、そうだな……まだ時間は大丈夫かな?」
「んふふ、私は朝までだって大丈夫さ」
「いや、さすがにそこまでは体が持たないっていうか……」
「ならやれるとこまで続けよう、気に入ってくれたらチップも多めにくれよな」
「もう十分すぎるほどに楽しんでるって、次の給料日も必ずシャルルを指名すると思うし……あぁ~、でもその頃にはシャルルも予約で一杯になってるかもな」
「おぉ、なんだか人気娼婦みたいだな」
「聖印を持ってる娼婦なんだからそれくらいが普通だろ……そう考えるとまだ忙しくない時に出会えた俺は運が良い」
せっかく手に入れた幸運なのだから一度や二度で終わらせるのはもったいないと彼は考えたのか、湯船から立ち上がるとシャルルを抱き上げた。
「おッ、ベッドで続きするか?」
「あぁ、せっかくだから限界まで君を遊んでいたい」
「へへへ、期待しとくよ……たっぷり抱いてくれ」
抱き上げられた姿勢でシャルルは男のうなじへと両手を伸ばしてぶら下がる、そして相手の頬へキスをした。
触れるだけのくすぐったい感触であったが、それだけでも興奮を増幅させられたのか男の股間は三度目の射精に向けて熱を蓄えていく。
シャルルの状況次第だが、もし空きがあるようなら来月の給料日も必ず指名しよう、彼はそんな決意を抱いているようだ。
高級娼婦とは、一度触れてしまえば抜け出すことのできない沼のようなものなのかもしれない。