ヒュプシュブリューメン ~可憐なる花たち~ 作:ろっくLWK
西ドイツ首都・
「話は大体分かったわ。それで今はみんなと一緒に夫婦として暮らしてる、と」
「ああ……」
後方の教導隊に配置転換となって早一ヵ月。このほど西ドイツ軍との連携強化を図るための技術交流研修を決定した
「まあ、薄々そんな予感はしてたけどね。貴方たちのところのあの凶暴な衛士……ホーゼンフェルト少尉だっけ? ああ、今は中尉か。あの子とこないだ話した時に色々探りを入れて、ある程度は推測していたし」
そうか、とテオドールは納得する。アネットとて決して口が軽い方では無いのだが、性根がまっすぐなせいか誘導尋問の類に滅法弱い。恐らくはキルケに日頃の生活や周辺の近況などを聴き取りされるうちに、こちらの生活様式を推定するに足るだけの情報を口走ってしまっていたのだろう。
「それに貴方の隊長さんのベルンハルト大尉、あの人との間に子供が出来たって話までは聞いてたからね。そこへ加えて義理の妹に革命の象徴、他にも沢山の戦友が貴方の周りに今もいる、って時点で何も驚くようなことじゃないわ。尤も、そんな暮らしを誰一人不満なく実行してるってことには感心すると同時に、正直言えば呆れてもいるけど」
「呆れてる、か」
そう思われるのも無理は無い、とテオドールは苦笑をこぼす。集団同棲。自分たち夫婦のスタイルをこんな風に客観視されることについては、ある意味もうとっくに慣れっこになっていた。
「だって、好きな人のことは独占したいって思うのが普通でしょう? それなのに皆がみんな承知の上で一つ屋根の下で暮らして、貴方もみんなに分け隔てなく愛情を注いで、それで子供まで作ってだもの。どうやったらそんな状況を維持できるのか、純粋に興味があるわ」
「そこはまあ、途中経過が色々あってのことというか、アイリスディーナがそういう在り方を提言してくれたお陰というか……」
言い訳がましいことだと思いつつも、テオドールは一通りのことをキルケに説明する。果たして彼女はもう一つ納得してはいなかったようだが、少なくともエーベルバッハ家の形態が単純に爛れた女性関係の末のものでは無い、ということだけは分かってくれたようだ。
「まあ、貴方が幸せなら、それでいいわ」
「そう言ってもらえると助かる。で、その、俺が訊きたいのはお前の事なんだが……」
次の句をなかなか継げずに口ごもっていると、「見る?」とキルケが懐から一枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは穏やかに笑うキルケと、彼女の腕に抱きかかえられた一人の幼な子の姿だ。
「イェレミアス・シュタインホフ。この春二歳になった男の子よ」
写真の中の彼を一瞥した瞬間、それまでの予感が確信へと変わる。その子イェレミアスは赤褐色の髪と生意気そうにつり上がった青い瞳という、まさしく自分とキルケを足して二で割ったような容姿をしていた。
「……俺とお前の子、なんだな」
「そう。あの時に授かって、翌年産んだの。最初に妊娠が発覚したときは『まさかこんなことが』って、自分でもビックリしちゃったけどね」
くす、と微笑してキルケは優雅にティーカップを傾けた。
「何か訊きたいことはある?」
「いや、訊きたいことっていうか。……連絡を取らないままでいて、悪かった。そんなつもりじゃなかった――なんて言い訳にもなりはしないが、それでも結果として子供の事をお前一人に押し付ける形になってしまったこと、本当に申し訳無いと思ってる」
「なんだ。どうして私がこの子の妊娠や出産を貴方に伝えなかったのか、訊かないの?」
「それは――そういうのは男の責任として、こっちから訊くのはダメだろ」
「お堅いのね。さすがは東側、ってトコかしら」
こういう事に西も東も関係ない気がするのだが。そう思いつつもテオドールはただじっと黙する。自分は彼女にぶたれたって文句の言えない立場。故に一切を彼女の言い分に委ねるつもりで、テオドールは今日この場に臨んでいるのだ。
「別に貴方に迷惑を掛けたくないとか、そんな気取った理由じゃないのよ。半分ぐらいは
「運命?」
目を伏せながらテオドールは尋ねる。手元のティーカップに注がれたストレートの紅茶には、まだ殆ど口を付けることが出来ていない。喉はカラカラに渇いているのだが、かと言ってとても悠長に茶の味を楽しめるような心境では無かった。それを察してかどうなのか、ミルクティーを半分ほどまで飲んだキルケが少し苦笑するような表情を浮かべながらカップをソーサーに置く。
「だって初めての男の人と、たった一度きりの交わりで妊娠したんだもの。それがどれだけ奇跡的なことかぐらい、貴方にだって分かるでしょう? ――誇張でも何でもなく、この子は天からの授かりものだと思った。この子の父親が傍に居なかろうと、私一人でもいっぱい愛情を注いで育てなきゃってね。だから有り体に言えば、貴方に寄り縋ろうだなんて発想自体が全然無かったのよ」
「でもそれじゃあ男として父親として、あまりに無責任だ。やっぱり俺からキルケに何かしらの連絡をすべきだった」
「そんな風に思わないでよ。むしろ貴方に対しては心苦しくもある。こないだホーゼンフェルト中尉に会った時、私が未練がましく子供の事や貴方に会いたいなんて話を彼女にしさえしなければ、きっと今頃こうなってはいなかったんだろうし」
「それは……まあそうだが」
答えづらさを感じてテオドールは口ごもる。そもそもアネットに聞かされた話がキッカケでこの事態に気付く事が出来たわけであり、そうでなければ自分はいつかどこかで偶然キルケに出会うまで、もしくは出会ってさえも、この状況を迎えることは無かっただろう。恐らくは今後一生、
「うっかり口を滑らせちゃった、って後からずいぶん後悔もしたけれど、でも貴方のことを思い出したら急に懐かしくなっちゃって。――ごめんなさい。貴方たちの幸せを壊すつもりは無いわ。私は私の生きる理由を貴方から貰えた、ただそれだけでもう十分だから」
「そんなことは言わないでくれ、俺も今日ここへ来るまでに腹は括ってきたつもりだ。――今までの経緯はどうあれ、キルケの子供が俺の子なんだと分かった以上、俺はきちんと認知する」
「……テオドール」
「勿論その子の、イェレミアスの父親として、出来る限りの責任は果たす。アイリスや家のみんなにも改めてちゃんと話をして了承を取る。だからキルケたちさえ良ければ、
確かな覚悟でもってテオドールは宣言する。ここへ来る前、家の皆にはキルケと関係した過去と共に、彼女の子が自分との間に出来た子供かも知れないという可能性があることを白状していた。もちろん当初は驚かれもしたし、詰られたり咎められたり埋められたりと紆余曲折あったわけなのだが、最終的にはアイリスを始めとして一同も納得の姿勢を見せてはくれた。
『――まあ一通りの制裁も済んだし、この事実を今の今までテオが伏せていたことについてはさて置くとしよう。だがその選択の結果としてシュタインホフ少尉が奮戦の末に生き残り、それによって多数の東西ドイツ国民の避難が間に合った事を考慮すれば、私たちもまた貴様の判断によって命を救われたということになる。ならばその事実と存在を認めねばなるまい。……彼女とテオの今後についてもな』
「――どうだ?」
真摯に問うテオドールに、キルケはしばし何かを考えるように俯いてから答えた。
「ごめんね。私、今は貴方たちと一緒に暮らせない」
キルケの回答に悲壮の色は浮かんでいなかった。テオドールは黙って彼女の言葉の続きを待つ。
「私はやっぱり西ドイツの人間だし、軍のこともあるからそう簡単にここを離れることは出来ない。あの子ももう物心がつき始めてて、私の父や母にも良く懐いてる。それに両親も、初めは私が妊娠したことにショックを受けてはいたみたいだけど、最後には私の考えをきちんと分かってくれてね。今では初孫のイェレミアスを可愛がってくれてるし子育てにも協力してくれているの。――そんな家族とあの子を引き離すのも、すごく酷なことだと思うから」
「……そうか。まあ俺も家を捨ててまで来いと言いたいわけじゃなかった。それでも俺に出来ることとして、せめてお前の親御さんに挨拶ぐらいはさせて欲しい」
「それはまた今度の機会ね。両親には貴方のことすら話してないし、急に連れて行ったらビックリさせちゃうもの」
自慢の黒髪をさらりと手で払い、キルケが屈託のない笑みを向ける。
「でも、その気持ちだけでもすごく嬉しいわ。ありがとうテオドール。……もしも色んなことに区切りを付けられる日が来たら、その時は私も貴方たちと一緒に暮らせる日が来るかも知れない。でも今のところ、それは約束のできないことだから。それでも良いっていうなら、時々は互いの家で家族と行き会うようにしましょう」
「そう言って貰えれば、こっちこそ救われる心地だ。イェレミアスの養育についても可能な限りの援助はさせてくれ。お前のためだけじゃなく、自分の子が育っていくのを父親としてちゃんと支えてやりたい」
「あまり無理はしないでね。貴方には他にも家族がいて、子供がいるんだから」
「親として当然のことをするだけだ。……ところで、当のイェレミアスに俺のことは話してあるのか?」
「具体的なことは何も。『貴方のパパは東西ドイツを救った英雄なのよ』とか、『貴方もパパの血を引いてるんだから立派な人になってね』って話をしてるぐらい」
「そんな風に話してたのか。いざ会ったら幻滅されそうで、ちょっと怖いな」
「大丈夫よ、あの子まだ話の半分も分かってないから。でもパパに会ってみたい、とはずっと言ってたわ」
「じゃあ、その願いはそう遠くないうちに叶えてやらないとな」
「そうしてちょうだい。イェレミアスもきっと喜ぶわ」
ようやっと安堵を覚え、テオドールはすっかりぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。口の中に残る渋みが今は清々しいぐらいの心地だった。
「ところで貴方、この後何か予定はあるの?」
「いや、今日明日は休暇だったから、特には」
「そう。……じゃあ私たちの再会を祝して、これから食事でもどうかしら」
「良いな。今後のことももうちょっと相談しておきたいし、腰を落ち着けて話せる場所が欲しい」
「この先の通りにいいレストランがあるの。お酒も揃ってるから、そこでゆっくり過ごしましょう。思い出話に花を咲かせながら、ね」
ふわりと笑顔を浮かべたキルケ。彼女のその瞳には、微かに妖しい女の光が宿っていた。
「――ふっ、んんっ、ちゅく、ちゅぱ、あむぅっ」
果たして数時間後。すっかり夜の帳も下り、煌びやかな街の明かりを窓に彩るホテルの一室で、テオドールはキルケと熱烈なキスを交わしていた。
『ねえテオドール。私、少し酔いが回ってきちゃった。――ちょっとだけ、ここで休んでいかない?』
そんな風に誘ってきたキルケの相伴に与かれぬほど、今の自分は朴念仁でもなければ臆病者でもない。そのままホテルに入ってシャワーを浴びた二人は言葉少なに抱き締め合い、互いに夢中で唇を貪っていたのだった。
「ぷちゅ、んっ、んふん、はぁっ……ふふ。久しぶりなせいか、キスだけで体が熱くなっちゃった」
うっとりと頬を赤らめたキルケが唇を離すと、二人を繋いでいた唾液の糸が弧を描いてふつりと途切れる。年月を経て一児の母ともなった今のキルケは、まだ幼さを滲ませていたあの頃よりも格段に妖艶な姿を見せ、それなのにどこか生娘のようなあどけなさも覗かせる。その落差に、テオドールはより興奮を掻き立てられてしまう。
「なあキルケ、こんなこと聞くのは無粋かも知れないけどさ」
「何?」
「その、俺と離れてる間に他の男と付き合ったり、一緒に暮らすってことは考えなかったのか?」
テオドールの質問に、そうね、とキルケは一瞬考える仕草をした。
「こんなコブ付き誰も相手にしない、って考えてたのもあったけど……貴方より素敵な人が見つからない限り、他の誰かと付き合おうだなんて気は起こらなかったと思うわ。こう見えても私、けっこう貞操観念強い方だから」
「つまりはずっと俺だけの女で居てくれるつもりだった、ってことか」
「えらく自信家ね。まあ実際、貴方以上の男なんてこの世に何人もいないと思うけど」
くすくすと唇を震わせつつ、キルケが胸で留めていたタオルの裾をめくった。はらりと落ちる薄布の裾。それをテオドールは何も言わず彼女の身体から引き剥がす。スレンダーながらも極めて女性的な
「だから、私がこういう事を許した相手は貴方だけ。私自身もこれが人生二度目。……あの夜からずうっと、私は貴方だけのもの」
キルケの乳房は久しぶりに見てもやはり絶品の形状で、挑発的にツンと上を向いて尖っている。その先端に踊るごく薄いピンク色の乳頭も、これまた持ち主の性格を反映したかのように小粒で見事な円錐形だ。乳輪をなぞるように指先で軽く撫でてやると、「ぁん、」と小さく喘いだキルケはテオドールの肩にねっとりと腕を回してきた。
「今夜も骨の髄まで、私を貴方のものにしてくれる?」
「当然だ。離れて暮らしていたって、キルケも俺の『妻』だからな」
「ふふ、その『妻』っていうのが他に何人もいるくせに。女ったらし……」
再び濃厚な口づけをすると共にキルケがのしかかってくる。ベッドに倒される格好となったテオドールは、しかしそのまま主導権を明け渡すことなく彼女を引き寄せ、一緒に寝そべりながらキルケの乳房をぐにぐにと揉み込む。
「あぁん、ふわぁぁ……テオドールの指、すごくゴツゴツしてて、かさかさで、好き。この指の感触、ずっと覚えてたの。私を愛してくれた、私の好きなこの感触」
甘美な鳴き声を振りまきながら、キルケはひたすら切なそうに身をよじった。彼女のそんな姿を久しぶりに目の当たりにしたせいもあって、テオドールの情欲にも激しい炎が灯ってしまう。キルケの乳首をしゃぶりながら互いに揉み合うようにごろごろとベッドの上を転がり回り、やがて仰向けの姿勢で彼女の艶めかしい腰をなぞる。そうやって己の両手が辿り着いたのは、実にむっちりとしている彼女のお尻だった。
「あぁああんっ」
「キルケ、これが好きだったよな」
問いながらお尻をむにゅむにゅ揉みしだくと、キルケは短く二度こくこくと首を縦に振った。実に肉感的かつ見事なまでの造形に整ったヒップ。どうやらそこはキルケにとって有数の性感帯でもあるらしい。前回の行為時にはちょっと撫でさすっただけでもすぐに喘ぎ声を洩らし、こんな風にいやらしく揉み回しながらのピストン運動を加えた折には絶頂後しばらく気絶してしまうほどの感じようだった。あれから数年の時を経た今はどうか。テオドールは試しにゆっくりと両尻の肉を摘まみ、それを急に離して「ぶるるんっ」と撓ませてみる。
「はぅああぁうっ。だめ、テオドール、私のお尻で遊ばないでぇっ」
「相変わらず弱いんだな。そんなに気持ちいいものなのか?」
「貴方に触られるのがいいのっ。貴方の手でもみもみされるとすごく興奮して、それだけで敏感になっちゃう。他の人に触られたんじゃこんな風にはならないんだからっ」
「……てことは、他の誰かに触られたことがあるのか」
「ん、それはその、うちの隊長とかが……」
キルケの部隊の隊長……と言ってテオドールが思い当たったのは、西ドイツ陸軍第51戦術機甲大隊の当時の隊長、ヨアヒム・バルク少佐だ。確かにキルケが彼と行動を共にしているのを見かけたことは何度かある。だが彼には確か妻がいた筈だ。それなのに彼が他の女の尻を触ったというのは。そしてそれが、いつも傍に居るキルケであるという事は。そう考えるだに、テオドールの胸中にはむくむくと黒色の何かが膨れ上がってくる。
「あっ、ち、違うの。少佐のは単にからかってるだけっていうか、貴方の想像してるようなことじゃなくて……」
「いや、分かってる。あの人なら冗談半分で女の尻を叩くぐらいのことはするだろ。それが自分の部下だったら尚更な。……けど、」
テオドールにとって重要なのは彼の動機などではない。自分以外の男がキルケの体に触れた。それが既に問題なのであり、文句を言える立場に無いと重々承知していながらも、それでもどうにも許容のしがたいことだった。
「俺が言える筋合いじゃないかも知れないが、その……出来れば少佐には今後、くれぐれも自重するようにと言っておいてくれ。何だったら俺の名前を出したっていいから」
「テオドール……」
キルケの頬がさらに一段、ほわりと桜色に染まる。
「――うん、分かった。今後は貴方以外の誰にも私のお尻は触らせないわ。だけど、そうなるとちょっと困っちゃうわね」
「困っちゃうって、何がだよ?」
「貴方の名前を出すってことは、
「何だ、そんなことか。――堂々と公表したらいい。少佐にも西ドイツの連中にも、『東ドイツのテオドール・エーベルバッハは私の夫です』ってな」
「くす。そんなこと宣言したら貴方も私も方々で噂されて、大変なことになっちゃうわよ?」
「ずっと隠し通すよりはいいだろ。それに噂なんか放っとけばいい。むしろキルケに悪い虫が寄り付かなくなって、俺としては願ったり叶ったりだ」
「……ほんと強引なんだから、貴方って人は。ぁ、んっ。もっと乳首、きつめに吸って……」
あの頃よりも遥かに成熟したキルケの柔肌を舐りながら、テオドールは彼女の花弁を丁寧にまさぐる。やがて滲み出るとろりとした愛液。行為自体は久しぶりでも、男の味というものを彼女の秘所は憶えていたに相違ない。だったら今夜はその味を存分に堪能させてやるべきだ。がちがちに屹立した肉竿の裏面で濡れそぼった恥丘を叩くと、キルケは愛欲と喜悦にその身を震わせた。
「あっ、……避妊は、しないの?」
「した方がいいか?」
「……ううん。貴方が望んでくれるなら……」
「――二人目が出来たら、その子の名前は俺に付けさせてくれ。イェレミアスにも負けない良い名を」
そう告げながらテオドールは、つぷ、と生の亀頭を膣口にあてがう。彼女は自ら望むかのように、そのしなやかな足でテオドールの腰を絡め取った。
「ええ……約束するわ、
テオドールがありったけの愛をそこへ込めると、キルケは涙を流しながらそれを迎え入れた。数年ぶりに繋がり合った二人はその夜、身も心も溶け合い、再び一つに結ばれたのだった。