※この作品はR-18です。

ヒュプシュブリューメン ~可憐なる花たち~   作:ろっくLWK

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episode 9 花ひらくとき ― カティア・ヴァルトハイム2

 

 

 ――その後、テオドールに運ばれ家へ帰ったカティアを待っていたのは温かいお風呂と食事、それとテオドールの不明を詰るアイリスたちの手酷い罵声だった。しょぼくれ返る彼を見かねたカティアが間に入ったことでどうにかその場は収まったものの、聞けば自分が家を飛び出した直後、テオドールは事態を把握したリィズにこっぴどく叱られたとのことだった。

 

『初めてリィズに思いっきりブン殴られたよ、お兄ちゃんのおおばかものー! ってさ。あれはホント効いた。でもそのお陰で、今までの自分がバカだったって気付けたんだけどな』

 

 それからテオドールはカティアの行方を追って市中をくまなく駆けずり回ったものの、姿はおろか足取りさえも掴めぬままに日暮れを迎えてしまった。徐々に下がりゆく気温の中、『ひょっとして人けの無いところにいるのでは』とアタリを付けた彼は思いつく場所を手当たり次第に探し回り、そしてとうとう件の高台公園でベンチに横たわった自分を発見するに至ったのだという。

 それもあとちょっとでも遅れていたら、自分は今頃病院送りになっていたことだろう。帰りの道すがらに空からほつほつと白いものが舞い降りてきたのを見た時は、あのままあそこに居たら明日は自分に来なかった、と想像して心底ゾッとさせられたものだ。

 

『とにかく、カティアちゃんが無事で本当に良かったぁ。――お礼なんていいってば。私だって今はもうカティアちゃんのこと、とっても大事な家族だって思ってるんだし。それにあのバカなお兄ちゃんにはちょっとぐらい反省が必要なんだよ。ホントあの人ってば、いくつになっても女心ってものが分かってないんだから』

 

 そんな風にテオドールを腐すリィズが、けれど大好きな義兄をぶってまで自分の為に怒ってくれたことにも、今は本当に感謝の念しかない。自分はみんなに守られている。そのお陰で自分は今ここに生きている。そのことを改めて、カティアは痛感させられたのだった。

 

『――さて、ひとしきり説教したところで、そろそろテオにも食事と入浴を許すとしようか。だが忘れるなよ。今夜はカティアに免じて一時釈放してやるというだけであって、貴様に言いたいことはまだまだ山ほどあるんだからな。この一晩はせいぜいカティアの部屋で明日の我が身を心配していろ」

 

『覚悟してよねお兄ちゃぁん。昔取った杵柄ってヤツで、明日はお兄ちゃんの事じっくりたっぷり指導してあげるんだから。もちろん、怖い方の意味で』

 

 二人に鬼の形相で詰め寄られ、ひいい、とテオドールは情けない悲鳴を上げていた。この家で最も敵に回してはいけない彼女たちを前にして、テオドールに明日はあるのか――そんな光景が無性に可笑しくて、カティアもついつい笑い声を上げてしまったのだった。

 

 

 

 かくて数十分後。夜間照明(ナイトランプ)を灯した自室のベッドに座り込み、カティアは一人、これからのことに思いを馳せていた。

 

「……しちゃうんだ。とうとう」

 

 胸の高まりが抑え切れない。さっきシャワーを浴びたとき以上に身体がカッカと熱くなってしまっている。ドアの向こうから聞こえる微かな物音や声にもビクンと震え上がってしまうほど、そのドアが開く瞬間を自分は待ち望んでいた。初体験のときの気分。これまでアイリスや他の『妻』たちから聞いてきたその心境を今、カティアはこの上もなく味わわされていた。

 体はすみずみまで洗い尽くした。シャンプーもテオドールの好きなピーチバニラの香りをちゃんと選んである。食後の歯磨きだって三回もした。ネグリジェはちょっとだけ大人びた装飾の施された、この時のために見繕ったもの。その内側に纏った下着も、とっても可愛らしくて色気のあるピンクのブラジャーにショーツ。ベッドのシーツは念のため二枚敷きにしてある。マットレスにまでシミが付くと後が大変だから……とはさっき部屋に入る直前、ファムがこっそり耳打ちしてくれたことだ。

 用意は全て整っていた。後は最愛の人を、テオドールを、ここへ迎え入れるだけだ。

 

「カティア」

 

 どきり、と心拍が跳ね上がる。ノックの音と共に響いたのは間違いなくテオドールの声だった。「どうぞ」と緊張しながら告げるとドアがゆっくりと開き、その向こうから部屋着スタイルのテオドールが姿を覗かせる。

 

「入るぞ」

 

「お、お待ちしてました」

 

 パタリとドアを閉めたテオドールが一直線にベッドまでやってきた。その足音が近付くだに、まるで一段ずつ共振を強めていくみたいに、胸の動悸はずくずくと激しさを増してゆく。そのまま彼が隣に腰を下ろしたと同時に二人の間に流れる、何とも形容しがたい空気。すぐ隣から放たれるテオドールの体温と気配がとてつもなく強くて大きくて、息が苦しい。こんなときに何を喋ればいいのかも分からず、彼と見つめ合う事すらも出来ぬまま、カティアは緊張に震える指をぎゅっと掴んで戒めるばかりだった。

 

「体は大丈夫か?」

 

「あ、あの、ハイ。お湯に浸かって食事を摂ったら、もうすっかり」

 

「良かった。公園でお前を見つけた時、死んだように冷たくなってたからな。――本当に心配したんだぞ」

 

「……ごめんなさい」

 

 反射的に頭を下げたカティアに、謝らなくてもいい、とテオドールは手を振った。

 

「お前は憶えてないかも知れないけど、あの時お前を見つけてすぐに俺、お前を抱き締めたんだ。無我夢中でコート脱いで、それでカティアの全身ひっくるんで。その時に何もかも気付いたよ。いや、思い出したって言うべきか」

 

「何を、ですか?」

 

「『ああそうだった、俺はこいつを守ってやろうと思ったあの時に、最初の一歩を踏み出したんだ』……って」

 

 俯き加減に語るテオドール。カティアもまた、彼と同じような姿勢を取る。

 

「みんなにも散々言ってきたことだけど、俺を変えてくれたのはアイリスだ。あいつが俺を受け止めてくれなければ、今頃自分がどうなってたかなんて想像も付かない。誰も信じられぬままで捻くれていたか、あるいは仲間に頼れないままBETAと戦ってとっくに死んじまってたかもな。そういう意味でも俺はアイリスに救われた。――だけどそのキッカケになったのは、ノィエンハーゲンで囚われの身となっていたカティア、お前を救おうと決めた事だった」

 

 え、と驚いたその衝動でようやっと、カティアはテオドールと目を合わせる。テオドールは一切の揺らぎなく、まっすぐな瞳でこちらを見つめていた。

 

「それまでの俺は、お前を守ることを任務だ何だと義務的に捉えていた。それにもアイリスが関わってたから、結果的には全部あいつのお陰ってことになるのかも知れないが……だけど少なくともあの日あの時、俺は自分自身の心の底からお前を救いたいと思った。絶対に守り抜いてみせると誓った。その思いは東ドイツの解放を経て今に至るまで、これっぽっちも変わっちゃいない」

 

 カティアの手の甲にそろりとテオドールの手が添えられた。努めて大きな反応を示さぬようにしたつもりだが、そんな己の気配は彼に伝わってしまっただろうか。

 

「……それが、テオドールさんのキッカケ、だったんですか」

 

「ああ。腹を決めた俺を、アイリスは優しく迎え入れてくれた。もし俺があそこでウダウダやってるようだったら、きっとアイリスは俺をノィエンハーゲンには行かせやしなかっただろう。そして今に繋がることも無かった。だから、俺に最初のキッカケを与えてくれたのはカティア、お前なんだ」

 

 テオドールが握った手にグッと力を籠めてくる。その温かさを感じ取りながら、カティアは彼の目をじっと見つめ返した。

 

「そしてこれからは、お前を守りながらお前にも守ってもらうことになる。俺たちの家族を。俺のことを。いつか授かるだろう俺とお前の子供を。それはお前にも、俺と一緒に戦って欲しいってことだ。俺たちの大事なもの全てを守る為に。そして、俺たちのこれからを掴み取る為に」

 

 彼のその言葉には確かな力が宿っていた。その力に自分は守られ、救われ、ここまで辿り着くことが出来た。今まではそれで良かった。だがここから先はそれだけでは足りない。テオドールの『妻』であろうとするならば、自分はもう守られるだけの立場ではいられないのだ。であるならば、自分の返すべき答えは、とっくに決まっている。

 

「お手伝いします。テオドールさんが私にずっと、そうしてくれていたように」

 

 決然としたカティアの返答にテオドールは微笑み、ゆっくりと頷きを返した。

 

「もうああだこうだと言ったりしない。カティアは俺の『妻』で、大事なパートナーだ。今日この瞬間から、俺はお前に背中を預ける。だからカティア、お前の全部を、俺にくれ」

 

 テオドールの瞳はいたって真摯で、力強い愛情に満ち溢れていた。万感の思いに胸を詰まらせながらも、はい、とカティアは返事をする。そのまま二人は二度目のキスを交わした。口中を下って胸に感じるこの甘酸っぱさは、昔と少しも変わらぬ初恋の味そのものだった。

 

「んっ。ちゅ、あふっ……んちゅ、んんっ」

 

 温かい。柔らかい。甘くて切なくて、狂おしいほど胸が痛い。ただそれだけがカティアの脳裏を占める。やがて啄む唇の濡れた音が大きくなっていき、とうとう彼の舌先が、カティアの唇を舐め始めた。

 

「んぁむ、ちゅく……ちゅう、んあ、れるっ。……ちゅくちゅく、はぷ、んむぅぅ……」

 

 舌を絡め合ってのディープキス。ただそれだけなのに、カティアはあっという間に蕩けさせられてしまう。言い知れようのない興奮とかつてない慕情。その二つが体の奥底からこんこんと湧き上がるのを感じてしまい、カティアはひたすらテオドールの舌技に翻弄され続ける。

 

「んん、ちゅ、ちゅうぅ……ぷは、テオドールさんっ……あぁ、テオドールさんっ……ちゅっ、」

 

 甘ったるいキスを何度も繰り返すうち、肩に置かれていたテオドールの手が腋の辺りをくすぐり始めた。むずむずとした感触に身をよじっていると、その手はするりと前側へ滑り込み、カティアの控えめな胸を優しく包み込んだ。

 

「あ、…………あっ、」

 

 どきどきし過ぎて息が出来ない。胸をきゅきゅんと軽く揉まれただけで、視線が宙を泳いでしまう。テオドールの手はこちらの様子を窺うように徐々に徐々にと動き回り、ネグリジェに幾つもの皺を生んでいった。

 

「今まで言ってやれなかったけど……カティアは服選びのセンスいいよな。これ、とっても良く似合ってるぞ」

 

「あ……えへへ。そう言ってもらえて嬉しいです。これ、テオドールさんのために選んだので」

 

「俺のため?」

 

「はい。テオドールさんをその、少しでもその気にさせられたらな……って」

 

 もじもじしながらそう告げると、テオドールは一瞬頬を紅潮させ、それからカティアを思い切り抱きすくめた。

 

「あ、ひゃ、」

 

「――嬉しいこと言ってくれるな。今のでこっちも、完全に火が点いた」

 

「えっ? ……ふ、あああっ!?」

 

 テオドールの指がぐねりと深く乳房を揉み込んできた。強い圧迫感と被征服感を覚えてしまい、カティアはびくびくと身を引き攣らせる。手の動きはさらに大きくいやらしくなってゆき、ブラ越しにでもその指の硬さを感じるまでになってきた。

 

「あ、あのテオドールさんっ。そんなにいっぱい揉まれても、私そんなに大きくないので……っ」

 

「……何だ? そんなの俺が気にするとでも思ってたのか?」

 

「だ、だって……はうっ」

 

 カップの頂点を手のひらに擦られ、カティアは思わず身悶えしてしまう。

 

「その……アイリスさんとかリィズさんとか、皆さん大きいですし。アネットさんやグレーテルさんもこのところカップサイズが大きくなった、って言ってましたから……」

 

 それと比べて自分の胸は思春期からこっち、一センチの成長も見せていない。それが遺伝子の業と言われればそれまでなのだが、普段は誇りにすら思う親譲りのこの容姿を、この時ばかりは憎たらしく思ってしまう。

 

「他人と比較なんてするな。大体グレーテルとアネットなんて、俺とするようになってから大きくなったんだからな」

 

「ふぇ? それっ、ホントですか!?」

 

「ああ。理屈は分かんないけど、多分ホルモンの分泌か何かなんだろう。……だからカティアが希望するなら、お望みのサイズになるまで俺が揉みまくってやる」

 

「そ、そんな……そういう風に言われちゃうと、なんだか……あ、んんっ」

 

 気付けばテオドールの手はネグリジェの裾を捲り、内側へと潜り込んでいた。残る防壁はたったの一枚。そのプレッシャーにも似た感覚が、カティアの胸中をじりじりと焦がしてゆく。

 

「その分だと他の連中から聞いてるんだろ? 俺がおっぱい好きだってことも」

 

「んぁぁ……は、はいぃ……ファムお姉さんとリィズさんの母乳(おっぱい)も、テオドールさんいつも飲んでるって……」

 

 その話を初めて聞かされた時は驚いたものだ。と言うのも出産後のリィズはともかく、ファムは妊娠前から母乳の出る体質であり、それが為に夜毎テオドールにあの豊満な乳房から出る母乳を吸われていたらしい。人の身体とは本当に複雑怪奇なものだ。

 

「だからカティアの胸もこれからたっぷり弄って、子供が産まれたら沢山吸ってやるからな。覚悟しておけよ」

 

「やぁ、ですっ。テオドールさん、えっち……あぁ、」

 

 抗議の声を上げる間も無く、背中に手を回されたその一瞬でブラのホックを外されてしまう。やっぱり手慣れている。その巧みな手つきからは、『妻』たちとの逢瀬によって蓄えられた彼の経験量というものを感じずにおれない。カティアはテオドールに無言で促されておずおずとネグリジェを脱ぎ、既に半分取れかかったブラジャーをぶらつかせながら己が身体を抱き締める。

 

「あんまり、見ないで。恥ず、かしい、です……」

 

「……下着姿、すごく可愛いぞ。これも俺の為に選んでくれたのか?」

 

「はい、はいっ。全部ですっ……この下着も、シャンプーの匂いもベッドの柄も、ランプの色もぜんぶぜんぶ、テオドールさんに抱いてもらう日のためにっ……」

 

「ありがとなカティア。お前のそのいじらしさが、ものすごく嬉しい」

 

「んぁっ……ああぁんっ」

 

 ブラ一枚を押しのけて、ついにテオドールがカティアの裸の胸に触れた。ころりと軽く乳首を撫でられただけで、初めての感覚に戸惑うカティアは甘い声を洩らしてしまう。もう片方の手にブラジャーを引き剥がされ、ついに露わになった自分の小さな乳房に、テオドールはそっと唇を寄せてきた。

 

「ああっ、やぁぁぁ……っ、」

 

 テオドールが自分の乳首に吸い付いている。その感触も光景も、何もかもが艶めかしくていやらしい。もう片方の手にくりくりと乳輪をつねられる度、身体に電気が迸る。びくびく、と身体を震わせる自分を面白がるかのように、テオドールは手で舌で唇で乳房に執拗な責めを加えてきた。

 

「あぁあっ、ダメ、ですっ。こんな、こんなのすごくてっ……皆さんの話と、全然、違ってっ……!」

 

「何がどう違うんだ?」

 

「皆さんは、気持ちいいって。でもこれ、身体びくびくしてっ、胸の先っぽが、熱くてぇっ」

 

 触られる度に身体が不随意な反射を示す。舐られれば舐られるほど鋭敏さが増していく。胸を中心に広がるその感覚は未だかつて味わったことの無いもので、ほんの少しの怯えとそれを遥かに上回る悶絶とが滝のような勢いで、頭のてっぺんからつま先まで余すことなく流れてゆく。

 

「苦しいか? それとも感じてるのか?」

 

「か、感じる? 多分そうですっ。これが、感じるっ……あぁ、あぁぁあんっ、すごく、すごく感じてますっ」

 

「そうか。ならカティアは胸の感度がめちゃくちゃ良いってことだな」

 

「んっ、んっ、あぁあふあぁぁ。そんなの、自分じゃ分からない、ですよお……っ!」

 

 首筋からせり上がるように浴びせられるテオドールのキス。その絨毯爆撃が再びカティアの唇を捉える。息をくぐもらせながら唾液を食み合っているうちに、彼の手が今度はおへそより下へと伸びてきた。自分でもあまり触れたことの無い女の秘所。最初にそこをひと撫でされただけで、太ももの辺りがバネを弾いたみたいに突っ張ってしまう。

 

「ぅあんっ。あ……は、テオドール、さん」

 

「……なあカティア。一つ頼みがあるんだが」

 

「……はい? 何でしょう」

 

「名前じゃなくて、『あなた(シャッツ)』って呼んでくれないか。俺としてる時だけでもいいから」

 

「『あなた』……ですか?」

 

「ああ。ファム姉から教わったんだけど、アジアの一部では妻が夫をそう呼ぶ風習があるらしいんだ。尤もこういうご時世じゃ、女が男を立てるみたいな呼び方なんて時代錯誤だ、って言われちまうのかも知れないが……」

 

 その言葉の意味するところは勿論知っていた。彼をそう呼ぶことに内心ずっと憧れてもいた。けれどいざ面と向かって口にするとなると、とても照れくさい心地だ。

 

「分かりました。けど私……『テオドールさん』って呼ぶのもすごく好きなので。だから、どっちも使っていいですか?」

 

「ああ、構わない。お前の好きな使い分けで呼んでくれ」

 

「はい。じゃあ……も、もっとここ、あ、あなたに触って欲しい、です」

 

 きっと自分の顔は今、緊張と羞恥で真っ赤になっていることだろう。それでも勇気を振り絞り、カティアは自らショーツの裾へ手を掛ける。そこにテオドールが掌を添え、ずりずり、とショーツを押し下げていった。ついに剥き出しとなった己の恥丘。そこはわざわざ処理するまでも無く、平素から一本の毛も生えていない。お陰で日々の手入れをせずに済むのはいいことだが、丸っきり生えないというのも何だか大人っぽくない気がして、それはそれで少し不満でもあった。

 

「めちゃくちゃ綺麗だな。外側がつるっつるで、作りたてみたいな感じだ」

 

「あぁっ……そ、その、私のソコ、変……ですか……?」

 

「変だなんてあるもんか。こんな綺麗なところに俺が触れていいのかって、そう思っただけだよ」

 

「い、いいに決まってますっ。私はもう、あなたのもの……なんですから」

 

「ああ……そうだな」

 

 ぴとり、とテオドールの中指が一本、カティアの割れ目に添えられた。そのまま熱を持った指が縦に往復する。直接的な刺激もさることながら、花芯の内側に生まれる掻痒感にも似た焦れったさがどうにも切ない。後ほんの一センチ内側にめり込むだけで、自分ですら知り得ないそこから先の領域を、この人が踏み荒らしてくれる。そうと思っただけで、カティアはひとりでにゾクゾクしてしまう。

 

「んくぅぅっ。あ、あ、あっ……何か、くちゅくちゅ、って……」

 

「愛液だ。カティアの奥から出てきた、な」

 

「やぁんっ。こ、れが、愛液……」

 

「これからもっと濡れるぞ。で、ビショビショになったら準備完了だ」

 

「じゅん、びっ……ふあぁあっ」

 

 その言葉の先に待つものを悟り、カティアはさらに身体をジンと熱くさせてしまう。無意識のうちに彷徨わせた視線が捉えたものは、一点がこんもりと盛り上がったテオドールのハーフパンツ。その内側に潜むものの詳細をカティアはまだ知らない。一つだけ分かっているのは、自分が今弄られている場所は、それを受け入れるためにあるのだということだけだ。

 

「ほら、どんどん溢れてきたぞ。だんだんぬるぬるしてきてるのが分かるだろ?」

 

「あはぁっ……うぁ……テオドールさん、指、だんだんっ、めり込んでっ……」

 

「ある程度ほぐしとかないと辛いからな。出来るだけカティアの事、気持ち良くしてやりたいから」

 

 ぴちゃぴちゃ、と股間から響く水音がトーンを上げる。ぬるりとした愛液を花弁に塗りたくられる感触は、体の芯を通じて脳にまで、びりびりと痺れるような快感を迸らせた。同時に乳首をこりこりと捻られ、カティアの吐息はどんどん荒くなってしまう。気持ちいい、が何なのかはまだ良く分からない。だが今この身に感じているものは堪えがたいほど自分を悶えさせ、それが途絶える度に「もっと、もっと」という欲求を増幅させていった。

 

「あぁ……はぁ、はぁ、やっ、んあぁぁあ……っ。テオドールさんっ、胸が、胸が苦しいですっ。触られた後すごくじわんってしてっ」

 

「胸のどこが?」

 

「そ、それはそのっ、胸のっ……先っぽっ……」

 

「乳首、だろ。ちゃんと言わないともう弄ってやらないぞ?」

 

「い、いじわる言わないでっ。……ちっ乳首がっ、じわじわしてっ、そのぅ」

 

「――もっと弄って欲しいんだな」

 

「ひやうっ!?」

 

 こりこりと乳首を指の先でひっ掻かれたことで、カティアの身体は勝手に跳ね回ってしまう。何故だろう。触られてる時には刺激が強すぎて痛みとすら錯覚するほどなのに、それがパタリと止んだ途端に生まれる余韻が狂おしいほどに自分を疼かせる。その感覚は全く初めて味わうもので、以前試しにこっそり自分で弄ってみた時でさえ、ここまで強烈な反応に曝されたことは無かった。もしかしてこれが、気持ちいい、ということなのだろうか?

 

「カティアの乳首、完全にぷっくり勃起してきた。こっちももうグチョグチョだしな。そろそろ指、挿れるぞ」

 

「んあっ、指なんてそんなっ……あわあぁぁあっ!」

 

 つぷ、とテオドールの中指が花弁の内側に滑り込んできた。まだ第一関節ほどしか入っていない筈なのに、その異物感と自分のものでは無い熱さに、カティアは思いっきり動揺させられてしまう。そのまま膣口の周りを掻き回し始めたテオドールの指は、ちゅぐちゅぐという淫靡な音を室内にばら撒いてゆく。

 

「どうだ? 痛かったりしないか?」

 

「いっ、痛くはないですっ。でも胸の時と同じで、奥の方がなんだかむずむずする感じでっ……ああっ!」

 

「だいぶいい感じに濡れてきてる。あとちょっとで準備バッチリだ。……もう少し深くまで行くからな」

 

「ふぁっ……ああぁんっ、やぁんっ! あっ、あ、テオドールさんの指が……指がぁっ。私の中、ぐりゅぐりゅって、なぞってるぅぅっ」

 

 下腹部に強い熱の流動を感じる。それは今テオドールに弄られている部分へと一気に集中し、そのまま噴き出てしまいそうだ。――そこまでを感じ取って、カティアはある種の悪寒にぶるりと身を震わせた。この感じ、がんばって締めても脱力しそうになる感じ。これは。これはまさか。

 

「――だめっ、だめですテオドールさんっ! 離れてっ……これ以上弄らないでっ!」

 

 必死に懇願しているのに、それでもテオドールは蹂躙をやめてくれない。そうこうしているうちにも、体内をせり上がるものはいよいよ噴門の直前にまで差し掛かっていた。これ以上我慢できない。「だめえっ!」という一声と共に、カティアはテオドールを思い切り突き飛ばす。

 

「うわっ、」

 

 どうしたんだよ、とこちらの身を案じるテオドールの目の前で、とうとうその瞬間は訪れてしまった。

 

「……あ、ああぁっ……!!」

 

 ――ちょろっ、じょろろろろろっ。

 

「――――っ!?」

 

「はあぁ、あぁああぁぁ…………ダメえぇ……こんなの見ないで……見ないでぇっ……!!」

 

 鯨の潮みたいに割れ目から勢い良く噴き上がった黄金水が、たぱたぱと飛沫を上げて床に水たまりを作っていく。その様子の全てをテオドールがまじまじと観察している。解放感と羞恥心に全身をひくひくと震わせながら、カティアはもう泣きたい気持ちでいっぱいだった。

 

「……あ、あ……出ちゃった……私……やなのに、せっかくの初めてなのに、こんなのぉ……っ!!」

 

 次に襲ってきたのは凄まじい罪悪感と後悔。やってしまった。まさかこんなことになるなんて、と幾ら思ったところでもう後の祭りだ。しゅびっ、と最後の一滴を出し切ったところで、カティアは顔を腕で覆ったまま泣き崩れてしまう。愛する人に見られながらの失禁。それは綺麗な初体験を迎えたかったカティアの心をへし折るには十分過ぎるほど、あまりにも変態的(アブノーマル)な結末だった。

 

「う、うぅっ……ぐすっ、ひっく……」

 

 テオドールが今どんな顔をしているのか、怖すぎてまともに見れやしない。次第にほんのりと漂ってくる鼻を突くようなにおいが、きっと彼の気分を萎えさせてしまう。さっきまであんなにロマンチックだったのに。これじゃ何もかもおしまいだ。哀しみに喉を引き攣らせるカティアは、心底からの絶望のせいでもう何も出来そうになかった。

 

「カティア」

 

 耳元をくすぐるテオドールの優しい声。頬に感じたこの温かい柔らかさは、テオドールの唇だ。そうと感じて腕の隙間から様子を窺ったカティアの唇を、テオドールの熱烈なキスが塞いだ。

 

「んっ……んん、ちゅぷ……テオドール、さん……」

 

「泣くな。出ちゃったものは仕方ないだろ、そういうことだってある」

 

「でも……でもぉっ……!」

 

「それに何て言うかその……とにかくホラ、手を貸せ」

 

「――えっ……」

 

 テオドールに導かれたカティアの指先が捉える、硬くて熱い感触。彼の履くハーフパンツのそこは屹立の姿勢を保ったままで、びくびくと震えながら生地の一点を滲ませていた。

 

「というわけで、俺は全然気にしてない。それどころかむしろ余計に興奮しちまった、っていうか」

 

「そ、そんな……それじゃまるで、ヘンタイさんじゃないですかぁ……」

 

「実際盛り下がってないんだから仕方ないだろ。それともそんな俺はイヤか?」

 

「……その訊き方はズルいです。あなたの事、嫌いになれるハズなんてありません」

 

 少し拗ねたような口調でカティアが答えると、テオドールはニンマリと口角を吊り上げた。

 

「だったら俺だって同じだ。でもカティアが気にしたらいけないからな、ちょっと待ってろ」

 

 もう一度キスを落としてからそっと自分の元を離れたテオドールは、部屋の隅に置いてあった厚手のスポーツタオルを手に取ると、それを今しがた撒いた聖水の泉にぱさりと被せた。その様子をカティアは恐る恐る注視する。感覚に比して実際に放出したその量はさほどでも無かったらしく、タオルの上面に滲みが浮かんでくることは無かった。

 

「それにしても、お漏らしカティア、か。昔は良くそう言って、お前の事からかってたっけな」

 

「~~~っ!! もぉ、今そういうこと言わないで下さいっ」

 

「悪い悪い。でも生まれたての仔鹿みたいにふるふる震えながら失禁(おもらし)するカティア、すごく可愛くて興奮したぞ」

 

「うう~っ、そんなっ……んんっ」

 

 濃厚なキスを浴びせられたらそれだけで、脳が蕩けてくらくらしてしまう。そのまま胸をふにふにと揉まれながら潤んだ秘所をまさぐられるうちに、さっきまでの絶望感はいつの間にやらどこかへ吹き飛んでしまった。

 

「じゃあ、せっかくだからカティアにも見てもらうか。俺の恥ずかしいところ」

 

「え、ええっ……?」

 

 泡を食うこちらになどお構いなしとばかり、上着を脱いだテオドールは自らのハーフパンツにも手を掛け下着ごとずり下ろした。ぼろりとまろび出る威容。それを直視したカティアの時がしばし止まる。――何これ。まさに目と鼻の先へ差し伸べられたそれは、カティアの記憶にある――小さい頃、お風呂に入れて貰ったときに見た父の――形状とは、何もかもが違っていた。

 

「これ、が、男の人の……」

 

「ああ。これが今から、お前の中に入るんだ」

 

「あのっ。わ、私っ、どうすれば……」

 

「何もしなくていい。ただ良く見てくれ。……俺だってまじまじと見られるのは、けっこう恥ずかしいんだぜ」

 

 ほら、とテオドールはベッドの上に胡坐をかくようにして座り込んだ。恐る恐るその前に陣取り、カティアは改めてテオドールの肉竿を間近に見据える。びくびくと跳ねる長くて太くて大きいもの。茎のところには血管が幾つも浮き出ていて、急激に膨らんだところから先端にかけては流線型を保って赤く腫れ上がっている。頂端の縦孔から滲み出た透明な汁は糸を引いてシーツに垂れ落ち、なおも止めどなくぷくぷくと湧き出てくる。竿の根元にぶら下がる皺の集った袋にはこれまた細い血管が幾重にも走っていて、えもいわれぬ圧力と共に漠然とした既視感をカティアに与えた。

 

「何だか……光線(レーザー)級みたい……」

 

「おいおい。いくらなんでもBETAに例えるのはちょっとひど過ぎないか」

 

「ご、ごめんなさい。なんとなく思っただけなんですけど、つい」

 

「まあいいさ、よくよく見ればけっこうグロテスク、って意味じゃ否定は出来ないからな」

 

「そ、そんなつもりじゃなくて」

 

「でもこれがお前の中に入っていって、中で精液(ザーメン)を吐き出して、お前を妊娠させる……そのことを良く覚えてて欲しい。男女の営みも子作りも、決して綺麗な事ばかりじゃない。そういうのを共有し合って、人と人は夫婦になるんだ」

 

 だから気にするな。きっとテオドールはその一言を言いたがっていた。とんでもない大失態を晒してしまった自分に、どこまでも温かく。その想いがカティアの胸を強く打つ。

 

「……はい」

 

 ぴくぴくと脈打つ肉竿。それを眺める今の心境は、本音を言えばまだ少し怖かった。けれどこれが自分に愛を注いでくれる。その結果、待望していた愛する人の子を授かれる。そうと思えば忌避する理由なんてどこにも無い。よろしくお願いします、という気持ちでカティアは肉竿を手で包み、みちみちと張り詰めた先端の底部にそっとキスを捧げた。

 

「お、おい、だからって何もそこまでしなくても。先走りが顔についちまったぞ」

 

「平気です。だってこれも、あなたの一部なんですから……あなたがくれるものを、私は全部信じます。全部愛します。ですから、」

 

 もう一度、カティアはテオドールにその身を委ねた。どんなことされたっていい。どんな姿を見られたっていい。この人はその全てを受け止めてくれる。こうして抱き締めてくれる。その安心感が、一度は沈みかけたカティアの昂揚を再びぐんぐんと強めていった。

 

「分かった、……正直俺ももう辛抱の限界だ。少し痛いかも知れないけど、勘弁してくれ」

 

「大丈夫ですよ、それも全部受け止めます。これから私たちは支え合っていくんですから、そのぐらい何てことないです」

 

「カティア……」

 

 そのままテオドールに押し倒され、カティアは仰向けの恰好で寝そべった。その股を押し開いたテオドールが肉竿を下腹部にこすり付けてくる。体温よりも遥かに熱い肉塊の感触に、カティアの思考と肉体はすっかりあてられてしまう。

 

「もう少し腰を、上に向ける感じで」

 

「こう……ですか?」

 

「よし。後は力を抜いて、俺にくっついてろ。――我慢できない時は背中に爪を立てたっていい」

 

 しばらく花弁の辺りをなぞっていた肉竿の先が、ぴとりと入り口を捉える。ぱつんぱつんに硬いはずなのに少し柔らかくもある不思議な感触。いよいよだ。その緊張感を堪えつつ、カティアは身を被せてきたテオドールを抱きすくめる。

 

「行くぞカティア」

 

「はいっ……来てください、テオドールさん」

 

 それを合図にして、ずぬぬ、と肉竿の侵攻が始まった。さっきの指より何倍も太くて大きい。じわじわと内側に広がる圧迫感。事前の想定など全く当てにならないその膨大な感覚が、だんだんと苦痛にすり替わってきた。

 

「…………っ! んん、………………ッッ!!」

 

 それでもカティアは悲鳴を上げなかった。声を洩らしそうになる己の口を必死に閉じ、はらはらと涙をこぼしながらも、黙ってテオドールを迎え入れる。今感じているものは全て、ずっとずっと長い間、心の底から望んできたもの。その一つだって取りこぼしたくない。めりめりと食い込んでくる肉竿の硬さを愛おしくさえ感じながら、カティアはその瞬間が来るのを待ち侘びる。

 

「ん、…………ああっ! ~~~んんんんっ」

 

 圧迫感がいよいよ強烈になってきた。内部の何かにテオドールの肉竿が突っかかっているのだ。本能的に感じ取ったそれは己の処女性そのものだった。これが破られた時、自分は『少女』から『女』になる。アイリスディーナもリィズもファムも、アネットもグレーテルもキルケも、みんなこれを経験してきた。愛する人がそれを奪ってくれるだけ、自分はまだ恵まれているのだ。あと少し。あと少し。テオドールを抱き締める己の指に力を込めながら、カティアは大きく息を吸い込む。

 

「来て、下さいっ――――テオドールさぁぁぁんっ!」

 

 ずぐん。張り詰めた弦を切り落とした時のような鈍い感触と共に、今までよりも深いところまで肉竿がめり込んできたのが分かる。胎内をごりごりと貫き進んでくる剛直の炎。それがあるところでぴたりと立ち止まった時、テオドールが深々と息を吐いた。

 

「……全部入ったぞ。カティアの中に、全部」

 

「あ、あ、ああぁぁ……テオドールさん、テオドールさんっ。私、私……」

 

「ああ」

 

「テオドールさんに、あなたに処女(バージン)を……捧げることが出来ました……」

 

 ぽろぽろ、とまた涙がこぼれてしまう。けれどその涙はあったくて、心地良くて、嬉しかった。そう言えば、とカティアはふと思い出す。いつぞやグレーテルは言っていた。任務と称して初めてテオドールに抱かれた際、そうならないよう意識していたにも関わらず、あまりの喜びについ泣いてしまったのだと。そんな彼女の心境も今ならば文字通り、痛いぐらいに良く分かる。

 

「私、やっと……やっと、あなたの『妻』になれました……嬉しいです。すごく、すごく嬉しい……」

 

「――今までずっと待たせて、ごめんな」

 

「いいんです、もういいんですっ……こうして今を迎えられたら、今はもう、それだけでっ……!」

 

 自分の中でテオドールがどくどくと鼓動している。全身に火が点いたみたいに熱い。その上にのしかかっているテオドールの肌触りが癖になるほどくすぐったい。自分は今、テオドールと繋がっている。その実感がこれほどまでに己を昂らせ酩酊させるものだなんて、今日この時まで思いもしなかった。胸いっぱいに溢れる喜びを込めてテオドールをギュウと抱き締めると、彼もまたそれに応えてふわりと抱擁を返してくれた。

 

「じゃ、じゃあ出してくださいっ。テオドールさんの、その、赤ちゃんの素をっ」

 

 後はテオドールから注がれるものを受け取るだけだ。カティアはぎゅっと目を瞑り、その瞬間に備える。

 

「え? あ、いや……そのな、お前の言ってる『赤ちゃんの素』ってのは、普通にこうしてても出ないようになってるんだ」

 

「――え?」

 

 予想外のその答えにカティアはキョトンとしてしまう。入れたら出る、というものでは無いのか? 今まで周囲から具体的な話までは聞かされていなかったが故に、男女の為すべき交わりはこれでとっくに完了しているものとばかり思っていた。

 

「え、……じゃああの、どうやったら……?」

 

「それは、こういうことだ」

 

「――ふあぁっ!?」

 

 ずりり、と膣内で大きく前後するテオドールの肉竿。一旦落ち着きかけたところに再び強い刺激を加えられ、カティアの視界は一瞬眩んでしまう。

 

「男のこれは擦れると気持ち良さを感じるんだ。今の動きをカティアの中で繰り返してどんどん気持ち良くなって、それが頂点に達すると精液(ザーメン)が出る。だから、このまま気持ち良くなるまでカティアを搗きまくるぞ」

 

「ああっ、そ、そんな……今のが、何度も……? ぁ、んあっ……ああぁぁっ……!」

 

 引いていった異物感がまた膣の奥まで戻ってくる。引いては戻り、引いては戻り、そうするうちにその動作は少しずつ速まってくる。苦しさに息を詰めているうち、今までの苦痛とは違う何かが己の芯をじくじくと浸食し始めた。

 

「ふ……っ。あ、あ、はぁ、はぁ……んうっ、はああぁぁっ……」

 

 これはさっき胸に感じたのと同じ感覚だ。擦れているときには苦しくて堪らないのに、ひと度それが止んでしまうとものすごく焦れったくなって、また擦られると頭よりも先に身体が満足を覚えてしまう。――この辺りからカティアも確信を抱き始めた。気持ちいい。この感覚がきっと、気持ちいい、ということなのだ。

 

「あうんっ、やぁぁん、あぁっ、はうっ! んっ……あっ、あ、あぁぁんっ!」

 

 その感覚は、今まで見知っていた『気持ち良さ』とはまるで質が異なっていた。マッサージしてもらって気持ちいい。汗を流して気持ちいい。善行をして気持ちいい。あったかふわふわで気持ちいい。そういったこれまでの感覚の延長線上を想像していたカティアにとって、この身に感じるものはそれらよりもずっと濃密で、強烈で、身体が示す反応も脳が覚える認識も全然違っていた。これは快感、いや快楽と呼ぶべきものだ。そこでようやく知識と経験が結びついたことで、カティアは一つの悟りを得る。テオドールが高波のように送り込んでくるこの波濤こそが、皆の言う「気持ちいい」なのだということを。

 

「はぁっ、うああっ! ……いいです、気持ちいいです。私今、とっても気持ちいいっ……。震えちゃうくらい、気持ち……いいですぅっ!」

 

「そうか。カティアが気持ち良くなってくれて、俺も嬉しい」

 

「テオドールさんはっ……? はぁ、ああっ――、テオドールさんは、きもち、いいですかっ?」

 

「ああ、気持ちいいぞ。カティアの中キツキツで、擦れる度にぬるぬる絡みついてきて、すごく気持ちいい」

 

「良かった……あなたに、気持ち良くなってもらえて、良かったぁっ。もっと……もっと気持ち良くなって下さいっ。私もどんどん……あっ、あぁああっ!」

 

 肉竿の先端がコツンと一番奥にぶつかり、その衝撃と快感でカティアはがくりと顎を揺すられるほどに感じ入ってしまう。おなかにジンジンと響く今の一突きはまだ痛みの方が勝るものだったが、それをやめて欲しいという気持ちには全くならなかった。

 

「んあっ! テオドールさんっっ……テオドールさぁんっ!」

 

 膣を穿たれながら乳首を撫でられると、身体が勝手に暴れ馬のように跳ね回ってしまう。甘いキスを注がれ舌を舌で蹂躙されると、目の前が熱にあてられたみたいにぐしゃぐしゃになってしまう。その全てが気持ち良かった。まるで脳に直接お酒を注がれているみたいな甘く強い興奮を、カティアはこの上もなく味わわされていた。

 

「はぁ、はぁ、っく、カティア、そろそろ……っ、」

 

「は、はいっ! 私はいつでも大丈夫ですっ。――あっ、あ、あ、あ、やだ、もっと速く……!? はうあぁっ、こんな、のっ……す、ごぉっ……!!」

 

 頂点へ駆け上がろうとするテオドールの抽挿が、自分を引き連れてぐんぐんと高みへ昇っていく。今離れたら落っこちてしまう。そんな気持ちでテオドールに全力でしがみついた自分に、彼は首から胸へと優しくキスを落としてゆく。そのままカティアの腰を掴んだテオドールが、まさに楔を打ち込むような勢いでごつごつと肉竿を突き動かしてきた。

 

「あっあっあっ、だめぇっ、切ないっ……テオドールさん、切ないぃぃっ……! こんなっ、こんな気持ちっ、初めてですっ。テオドールさんっ、あああっ……うあぁあぁああんっ!」

 

 体の奥から何かがぞくぞくと溢れようとしている。これはさっき失禁をしてしまった時の感覚と少し似ていた。けれどそれを主張することよりも今は、テオドールに愛されることに溺れていたい。それ以上のことはもう、その時のカティアには何も考えられなかった。

 

「う、カ、カティアっ。俺を見ろっ、カティアっ」

 

「はいっ。テオドールさん、汗だくで、すごく顔が赤くてっ……私とおんなじで、すごく切なそうですっ。気持ち、いいんですねっ。今すごく……気持ちいいんですねっ」

 

「ああ、そうだっ。これがセックスでイくときの、男の反応だっ」

 

「忘れないですっ……あなたの今の表情、私を愛してくれてるときの表情っ、ぜったい、絶対……! っあ、ああぁ、はぅあぁぁあっ!」

 

「カティアっ、カティ…………っ!」

 

 ずぐん、と最奥を突いたテオドールの律動が止まった。びくびくと中で震える肉竿に過敏な粘膜をくすぐられ、カティアもまた「ひやぁあぁぁ、」とだらしない声を上げてしまう。ぷしゃ、と花弁の裾から噴き出てしまったものが俗に『潮』と呼ばれるものだという事を、カティアはもう少し後になってから知るのだった。

 

「……うあっ、ああんっ、あぁ……テオドールさんが、私の中で……どくどくんって、膨らんでます……」

 

 膣内にじんわりと広がる熱。ぬちゅぬちゅと音を立ててねばつく芯奥。それがテオドールの子種であることを、カティアは本能で思い知る。……互いに呼吸が落ち着くまでしばしの間、カティアはテオドールとぴったり抱き合っていた。テオドールのぬくもりも汗の匂いも、この頬にすり付く彼の頬の感触も、何もかもが溶けそうなほど心地良い。それからややあって、テオドールがこちらを正面に捉える。

 

「……カティア」

 

 はい、と首肯を返して、カティアはそっと唇を結んだ。

 

「ん、ちゅ――」

 

 唇同士を密着させるだけのキス。そこから注がれる彼の愛がカティアを隙間なく満たしてゆく。性的な気持ち良さを遥か上回る多幸感に、カティアはしばし酔いしれた。

 

「……んふぁ。……ありがとうございます……テオドールさん、いっぱいいっぱい、愛して下さって」

 

「それはお互い様だ。俺だってカティアから、たくさん愛をもらった」

 

「そう、なんですか?」

 

「与えるのも愛、受け入れるのも愛、ってことだ。どっちかが一方的にすることなら、それは愛じゃない。――だろ?」

 

「……確かに、そうでしたね」

 

 それはさっき痛感したばかりの事だった筈なのに、やっぱりまだ身に沁みてない。カティアは自嘲めいた笑いをこぼす。でも今はそれでいいと思った。いきなりではなくとも、例え失敗を繰り返しながらでも、これから時間をかけて少しずつ成長していって、本当の意味での大人になって。そうしてやがては『妻』として、彼と共に自分たちの守りたいと思うものを守れるようになれれば、それで。

 

「私、テオドールさんのこと好きになって良かったです。テオドールさんと皆さんとお会いできて、一緒に暮らせるようになって、本当に良かったです」

 

「ありがとうカティア。俺も――と、そうだ。今のうちに渡しておこうか」

 

「え? 何を、ですか」

 

 テオドールは脱ぎ捨てたハーフパンツを手繰り寄せ、その中からごそごそと何かを取り出す。――それはフェルトをあしらった細長いジュエリーケース。開けてみろよ、と差し出されたそのケースをカティアは殊勝な面持ちで受け取り、恐る恐る蓋を開いた。

 

「……わ、」

 

 箱の中に納まっていたのは銀細工の煌びやかなペンダント。ロケットの部分には、カティアの瞳の色と同じ琥珀色(アンバーカラー)に輝く大粒の宝石が嵌め込まれていた。その手の知識には乏しいが形状や色合いなどから察するに、恐らくはトパーズか何かだろう。細かいところまで意匠を施されたそのペンダントを手に取ってしげしげと眺めていたカティアに、テオドールが優しく微笑む。

 

「そのペンダントな、お前が持ってたものと同じ細工がしてあるんだ」

 

「細工?」

 

 ひょっとして、とカティアは宝石の付け根部分にある仕掛けを捻ってみた。カチリと音がして、宝石を嵌め込んでいた枠が蓋のように開く。その中には自分の持つ青い宝石をあしらったペンダントと同じように、小さなものを収めておける僅かな空間が確保されていた。

 

「ホントだ。でも、どうして?」

 

「俺たちのリングを作った宝飾屋に頼んで特注させた。時間が掛かる、って言われてずいぶん前から発注してたんだけどな。今日ファムたちへのプレゼントを買うついでに引き取ってきた。お前の為だけの一点ものだ、遠慮せず受け取ってくれ」

 

「そんな。きっと高いものでしょうし、その上特注だなんて――」

 

「気にするな。俺のポケットマネーで作ったものだし、仕掛けを付けたのも俺の気持ちみたいなもんだ」

 

「気持ち、ですか」

 

 そうは言われても、何だか却って恐縮してしまう。手にしたペンダントをどうしたらいいかまごまごしているカティアの髪を、テオドールがそっと静かに梳いた。

 

「いつも俺たちの為に尽くしてくれてるカティアへの感謝を込めて、っていうのも勿論あるけどな。――前にお前の親父さんが写ってた写真、俺が燃やしちまったのを覚えてるよな?」

 

「はい。そうしないと私もテオドールさんも、どんなことになるか分かりませんでしたから……」

 

 カティアは当時の事を思い出す。最初は十分に納得できているとは言い難かったが、今となっては彼がああした事の重要性が良く分かる。万が一にもあんなものが国家保安省(シュタージ)や往時の政治将校(グレーテル)に見つかりでもしていたら。……その時点で自分は即銃殺刑、テオドールを初め中隊の面々は国家反逆者に加担した人間として良くて拷問、最悪は自分と同じ末路、という運命を免れはしなかっただろう。

 

「あれがずっと俺の心に刺さってた。お前にとって唯一の、親父さんとの思い出を残した写真。理由はどうあれそれをお前から奪ったのは俺だ。あれから俺も八方手を尽くして親父さんを写したネガや記事が残ってないか探したり、せめて何かひとかけらでも親父さんにまつわるものが見つかればと思って方々に問い合わせたりしてきたが、結局それらしいものは一つも見つからなかった」

 

「……はい。父の痕跡は旧体制下で徹底的に検閲削除されたと、グレーテルさんや他の皆さんから聞かされました」

 

 アルフレート・シュトラハヴィッツ。かつてBETA大戦での勲功により中将の地位にまで上り詰めた父はその後、歪だった国を変えるため革命活動に身を投じ、娘の身の安全を図るため自分を西ドイツへと逃がした後に国家反逆罪で処刑された。従って父のことを述する記録はもうこの国の、いや世界のどこにも残ってはいない。ただ一つ、この胸の中に今も宿る父との思い出、その像を除いて。

 

「もちろん今後も調査は継続するし、幸いにして軍の事務局の連中も協力的ではいてくれている。そこに親父さんだけでなくお前自身の功績があるのは間違いないが――もし見つかったらそれをお前にプレゼントしたいって思ってたんだけど、さすがに何年かかっても見つからないとなると、な」

 

「いいんです。もしあったとしても、それは旧国土ごと失われてしまったのでしょうし。……それに父ならきっと、過去に囚われるよりも今を共に歩む人たちと一緒に未来を見なさいって、そう私に言ってくれたと思いますから」

 

 そんな優しい父の幻影が、今もカティアの胸には息づいている。そうである限り、写真が無くても自分は大丈夫。例え年月を経るに連れて記憶に残る父の姿が薄れゆこうとも、父の遺してくれた想いが自分を生かし導いてきたという事実がある限り、自分は父のことを決して忘れはしない。

 

「お前がそういう気持ちでいるだろうな、とは思ってた。だからこそそのペンダントを作ったんだ。お前の青いペンダントにはいつか必ず親父さんにまつわるものを探し出して仕舞わせる。その代わり、これからはそのペンダントに新しい思い出を収めていって欲しい。俺たちと作る新しい思い出を。そして、お前自身の大事なものを」

 

 それはつまりテオドールなりの、未来へ進もうとするカティアを後押しする気持ちの表れ、ということなのだろう。彼の想いが込められたそのペンダントをぎゅっと両手で握り締め、カティアは祈りを捧げるときのように俯く。

 

「ありがとうございます。私、一生の宝物にします」

 

「ん。そうしてくれると嬉しい」

 

「でも、どうしてこんな凄いものを、このタイミングで用意して下さってたんですか?」

 

 そこだけがカティアにはどうにも腑に落ちなかった。突発的に思いついたにしては随分手が込んでいるし、さっきのテオドールの言い回しからして大分前から用意していたものに相違無い。例えばそれが初体験記念の品のつもりだったとして、まさか今日こうなることまで彼が看破できていた訳は無いだろう。じゃあどうして? それこそ何かの記念日でもなければ――とまで考えて、カティアは「あ、」と閃く。

 

「ひょっとして、誕生日プレゼント……?」

 

 今日は一月六日。そして明日、一月七日はカティアの十九回目の誕生日だった。それに合わせてテオドールがプレゼントを用意してくれた、ということなのだろうか。でもそれにしてはいささか手が込み過ぎているような。驚きと困惑の目を向けるカティアに、テオドールは微かに悪戯っぽさの滲んだ表情を覗かせる。

 

「それも勿論ある。が、それだけじゃあ答えとしては半分だ」

 

「半分?」

 

「もう一つあるだろ? もう何日か後にある、俺とカティアだけに通じる記念日が」

 

 二人の記念日。そうと問われて、カティアはしばらく脳内の記憶を探る。みんなで夫婦の誓いを交わした日付ならもうしばらく先だ。東ドイツ革命成就の日……も日数的に合わないし、そもそも二人だけの記念日とは言えない。では他に何が?

 

「何だよ、忘れちまったのか?」

 

 ぴん、とテオドールに鼻先を指で弾かれ、カティアは「わたっ」と小さな悲鳴を上げる。

 

「じゃあヒントをやるよ。――四年前の一月十日。その日何があったか、よーく思い出してみろ」

 

「四年前……一月十日……ああっ!!」

 

 カティアはつい大声を上げてしまう。

 四年前の一月。それは忘れもしない、当時国連軍所属だった自分が東ドイツへ派遣され、BETAとの戦闘中に墜落して意識を失ってしまったあの一件があった時期。そこから救出されて東ドイツ側の国家人民軍(NVA)に身柄を置かれることとなった自分はその数日後、命の恩人との面会と称した尋問の席で東ドイツへの亡命を申請したのだった。

 

『あのっ! 私を、皆さんの中隊に加えて貰えないでしょうか』

 

 それから後のことは語るべくもない。あの日あの時起きたことがキッカケで自分は西から東へと渡り、その中で本当に沢山の人たちと出会い、彼らと手を取り合って新しい東ドイツを切り開くことが出来た。その発端、つまり最初の最初にあったもの。それは、つまり。

 

「……テオドールさんが私を、一番最初に救ってくれた日……」

 

「そうだ。より正しく言えば、お前と俺が初めて出会った日。それが四年前の一月十日だ」

 

 そんな。そんな日付を、自分よりも正確に覚えていてくれただなんて。手の中のペンダントを今一度見つめ、カティアは荒れ狂う感情と思考をどうにか落ち着かせようと努める。けれどあまりに思いがけない喜びを食らわされたせいで、すっかり箍の外れてしまった自分を抑えつけることは、出来なかった。

 

「あの時お前は気を失ってたからな、まあ覚えてなくても無理はないが……」

 

「いいえっ。あの時私を助けて下さったのがテオドールさんだったこと、私ちゃんと覚えてました。それから四年経って、一月十日からは五年目になるわけだから……そういうことだったんですね」

 

 ああ、と頷き、テオドールはカティアの手からペンダントを抜き取った。そしてカティアの首にそれを提げながら、いつもの不器用そうな照れ笑いを浮かべる。

 

「五年目、っていう節目にと思ってな。他にも込めた想いは色々あるが――そこにお前の気持ちも込めていって欲しい。中身があえてカラなのは、そういう意味も含めてある」

 

「テオドール……さん……」

 

 その時の心境たるや、まさしく夢心地と呼ぶべきものだった。この人はこんなにも自分の事を想ってくれていた。ちっとも分かってくれないだなんて、そんなこと全然無かった。この人ほど自分の事を想い、考え、行動してくれる人が他にいるだろうか。そんな彼にこの熱量と同じかそれ以上のものを、自分は返せていただろうか。恥じ入るような気持ちと共に、カティアは強く思う。これからの自分は絶対に、この人のことを守れるような自分でありたい、と。

 

「ありがとうございます、テオドールさん。――私、今、すごく幸せです」

 

「俺もだ。これからもずっと一緒に歩いていこうな、カティア」

 

「はいっ!」

 

 その満面に朗らかな笑顔を湛えて、カティアは大きく頷いた。胸元で輝くペンダントはカティアとテオドール、二人分の想いをそこへ映すかのように煌々と、温かな光を湛えていた。

 

 

 

 

 眠りに耽る新(ノイ)ベルリンの街に、こんこんと雪が降り積もる。それはあたかも彼らの愛と同じように。銀化粧を施されたその美しさは昇り来る陽光に照らし出され、やがて一面に白皙の花園を広げたのであった。

 

 

 

 

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