ヒュプシュブリューメン ~可憐なる花たち~ 作:ろっくLWK
こんにちは! レポーターのウルスラ・シュトラハヴィッツです。
本日は私たちが暮らしているこのエーベルバッハ邸、その詳細と私たちの暮らしぶりをお伝えしていきます。ですがその前に、あの日から今日に至るまで私たち東ドイツ国民がどのような経緯を辿って来たかを、少し振り返りたいと思います。
1983年、旧東ドイツの首都・ベルリンがBETAの侵攻によってあえなく陥落したことで、東ドイツの国民は一時お隣の西ドイツに難民として匿われました。ですがその間にもBETAは止めどなく侵攻を繰り返し、国境線を踏み越えて西ドイツやイタリアといった西欧各国に踏み込んでくるのは時間の問題、と目されていました。このため東西ドイツ両政府は中長期的な国民生活の安定と国力減退の可及的抑制を図り、事前の協定に基づいてアイルランド・ケリー州の一部を租借することが正式に約定されました。
この租借地への国民移送は困難を極めました。とりわけフランスはドーヴァー海峡を渡る北ルートと、ブルターニュ方面から海路を使う西ルートとで大きく二つの脱出路があったため、欧州各国からの避難民が殺到して一時大混乱に見舞われてしまいました。しかし各方面の多大な尽力や、テオドールさんたちを始めとする欧州連合の勇士による大規模遅滞戦術が功を奏し、東ドイツが陥落してしまうまでには東西ドイツ両国民のおよそ73%に及ぶ避難民が海外避難を完了。残る27%の人は継戦のため現地に残った軍関係者と、後は……あえなく犠牲となってしまった方々です。
その後、欧州戦線はピレネー山脈の急峻な地形を天然の砦としてスペインに統合司令部を置き、北進するBETAを先般水際にて撃退したイギリスと共に西欧州絶対防衛線を構築。ドーヴァーの海峡と人工島嶼を利用した一大要塞基地群建設の計画が立ち上がるなど、今もなお迫り来るBETAに必死の抵抗を続けている……というのが最新の状況になります。
次に、今の私たちの簡単な状況説明です。
私たちはフランスから西ルートを経てケリー州へ渡り、新たな東ドイツの拠点として旧ケルズ周辺の租借地に制定された
アイルランドは気候がとても穏やかで、冬でもめったに雪が降りません。周辺にはBETAの直接的な侵攻も支配地域も無いため、海産物や一部農産物などは天然物が入手できる環境が残っており、少し高級ですが他国と比べて食には数段恵まれています。ただ私たちの移住のせいで供給が追い付かなくなってるところもあるので、お肉全般や国内生産の出来ない食材などは米国からの輸入品も多いです。それでも旧東ドイツ時代の食糧事情からすれば、天国みたいに恵まれていると言っていいと思います。
移住後の私たちは全員がテオドールさんと籍を入れず、言わば事実婚状態で一緒に暮らす、という便宜上の『妻』となりました。これはテオドールさんと一番最初に結ばれたアイリスディーナさんの提言に端を発するものです。初めは賛否両論あったものの、リィズさんの事や私たち自身の今後を考えた時に、それが最善の選択であるという合意の下で取り決められました。
大々的な結婚式は無し。家族や親族も集めず、新居に皆が集ったその日に催された小さなパーティの席上で
現在私たちの家族構成はテオドールさんを『夫』として『妻』筆頭のアイリスディーナさんに、お二人の長男ユルゲン君。以下、ファムお姉さんとグレーテルさん、アネットさんと私、そしてリィズさんの八人。今後、家族はどんどん増える予定です。
よく『野球チームを作れるぐらい』なんて言いますけど、私たちの場合は二人ずつ産んでも十二人になってしまうので、サッカーチームだって余裕です。チーム名は……そうですね、『FCエーベルバッハ』。いいかも知れません! でもテオドールさんはきっと「こっちの方が響きがカッコいいから」っていう男の子っぽい理由で『FCベルンハルト』を採用しそうな気がします。代案として『FC
すみません、少し前置きが長くなってしまいました。ではいよいよ私たちの住まい、エーベルバッハ邸の詳細についてお話ししていきます!
エーベルバッハ邸は
衛士資格には自動車運転の免許も含まれているので、今のところ日々の移動に不自由はありません。ですがやがて子供たちが大きくなった時の事を考えますと、送り迎えや緊急時の対応のためにもう一台車があると心強いかなって、ちょっぴり思っています。これについては後で皆さん揃ってから相談ですね。
お家の外観は白亜を基調とした総二階の一戸建てで、庭を広く設けてあります。これは子供たちの遊び場を確保するためでもありますが、将来的に子供が大きくなって生活空間を分ける必要が出てきた場合、家の増改築や複数世帯住宅化を視野に入れているからです。なので、庭と言っても据え付け式の遊具や庭園などはありません。ただ天気の良い日には外でお茶やバーベキューを楽しめるように、というアイリスディーナさんの提案で、私たち手作りの木製デッキが置かれています。
他にあるのはプレハブ型の収納ぐらいで、こうして全体を俯瞰してみると結構無骨な佇まいと言えるかも知れません。でもみんなで建てた家なので、私はとても気に入ってます。
では屋内に入ってみましょう。靴棚などがあるエントランスを抜けた先、リビング・ダイニング・階段までを連結するホールはけっこう大きいですが、不必要な家具や調度品などは置かれていません。ホール手前の左手側にはリビングが、右手側にはダイニングキッチンがあり、ホールとの間にはスライド式のパーテーションがあるぐらいで、それも普段は解放状態となっています。この設計は家族同士の交流空間を出来るだけ仕切りたくない、というテオドールさんの考えを反映したものです。何という事でしょう、匠の技が光ってますね。
リビングにはたっぷり十人は座れる大きなソファと、室内を温める暖炉や夏用のエアコンが設置されてます。けど外壁や窓の断熱構造がしっかりしてるので、夏も冬も冷暖房を使わなくても凌げる日が多くてありがたいです。リビングの外には小さいですけどウッドデッキがあり、洗濯物を干したり午後のティータイムにお菓子を並べて皆さんと歓談したりしてます。階段下と並んでユルゲン君お気に入りの場所です。
一階の奥には中央にデンと構えた両階段を境として、左翼側にはお風呂場や洗面所にトイレ、二人程度が腰を下ろして寛げる窓付きのティールームなど、水回り関係の設備が集約されてます。特にお風呂はファムお姉さんのこだわりで、大人二~三人でもゆったり入れる大型浴槽完備です。たまにテオドールさんが皆さんと一緒に入って、その、エッチなことをしてたりする時もあります。私はまだですけど。
反対の右翼側には来客用の応接間と、滞在する方の為のベッドルームなどがあります。応接間は主に、私やグレーテルさんが使う事が多いですね。西ドイツを初めとした世界各国との協調路線も大分定まっては来ているものの、私たちの仕事はまだまだ多いです。そのため政治家さんや党の関係者さんが家を訪れることが結構あり、そうした人たちに対応するためキッズルームにする予定だった部屋を突貫で応接間の体裁にしつらえました。二階に繋がる階段下には物置スペース、トイレに隣接した一角には
続けて二階の説明に移りますね。階段は採光窓が大きく取られていて、昼間は照明無しでもとても明るいのが特徴です。両階段を上がった先の二階にはテオドールさん用の小さな書斎を含め、私たちの私室が計六部屋と空き部屋が二つ、そしてトイレがあります。私室一部屋ごとの広さはおおむね8帖。一人で過ごすには十分な広さですが、将来的に子供が増えることを考えると、これでもちょっと狭いかもですね。でも世情を鑑みればこれでもかなり贅沢な方です。そんな事情もあって、室内には全部屋据付のオイル式暖房を除いて、後は生活に必要最低限のものだけを置く……というのが私たちの暗黙の了解となっています。
――えっ? じゃあテオドールさんはどこで寝ているのかって?
それはですね……実はテオドールさんには定まった個室というのがありません。私たちは全員が『妻』としてここに暮らしています。そして各々の私室がテオドールさんの寝室でもあるんです。その日どの部屋でお休みになるかは、テオドールさんが自由に決めていいことになっています。なので夜になるとお誘い攻勢が盛んになったり『妻』同士の駆け引きが始まったり、ということもちょくちょくです。あえて当番制にしないのは、アイリスディーナさん曰く「競争は女を磨くから」なのだそうです。
それでも『妻』同士でいざこざが起こったりしないよう、テオドールさんは最低でも十日に一度は各部屋を持ち回りみたいにして寝に来てくれたり、たくさん配慮して下さってます。もちろん、夫婦としての夜の営みも。こういう事情もあってこの家は断熱のみならず、防音についてもバッチリ対策が取られているんです。ですからその、例えテオドールさんがどなたかのお部屋でエッチなことをしてたって、他の皆さんの安眠や精神的安定が損なわれることはありません。私はまだですけど。
それと、二階ホールスペースの一部は一階から吹き抜けになっていて、リビング付近から二階へ直接声を掛けたり上から下の様子を窺ったりすることが出来るようになっています。この設計はグレーテルさん拘りです。お陰で二階は部屋が密集しているにも関わらずけっこう開放的な空気があって、私たちも椅子を並べてそこで談話したり、ユルゲン君と遊んであげたり、といった感じにゆったりと過ごしています。
ではここで各私室を訪問……と行きたいところなのですが、皆さん恥ずかしがって紹介は控えて欲しい、とのご要望でした。なので皆さんを代表して私の部屋と、テオドールさんの書斎についてのみ簡潔にご説明します。
まずはテオドールさんの書斎から。私たちの部屋の半分ほどのスペースでかなり手狭ですが、壁一面に設けた本棚と小さな机が一体型の構造となっていて、そこにリクライニングチェアが一つ。テオドールさんはここで持ち帰った書類の整理をしたり、これまであったことを本にまとめようと執筆をなさっていたり、どこからか持ち込んだ『映像資料』とやらをこっそり視聴してたりします。
私はその場に出くわしたことは無いのですが、以前アイリスディーナさんに現場を押さえられた際にはテオドールさん、こってり絞られてました。「私たちというものがありながら、貴様は何を考えているか!」という怒声が深夜の家中に響いた時には、我が家の防音構造の限界というものを悟ったものです。ええ、しみじみと。
ちなみにその時没収されたのは、『これぞ85年・永久保存版! 欧州金髪美女大集合、
そして、私の部屋です。ベッドと
以上、エーベルバッハ邸の紹介でした。この通りとってもアットホームで風通しの良い家ですので、気兼ねせず過ごして下さいね! ――あれ、アネットさんどうしてヘンな顔してるんですか? 私、何かおかしなこと言ったでしょうか……?
最後に、とっても大事なお知らせです。なんと! ずっと入院してたリィズさんが今週末、いよいよ私たちの家に帰って来ます! 昨年末ぐらいから状態が回復してきて、その後も長いリハビリ生活が続いていましたが、その甲斐あって今月頭にやっとお医者様の許可をいただくことが出来ました。現在は退院に向けての準備が進められていて、ファムお姉さんが先頭に立って各種手配をして下さっています。退院当日のお迎えはテオドールさんが向かわれるそうです。リィズさん、喜んでくれるといいなぁ。
私を初め皆さんも手が空けば必ず面会に行ってましたし、リィズさんとも一緒にみんなで暮らせる日が来るのを心待ちにしていました。やっと念願が叶って、本当に嬉しく思ってます。リィズさんとお話ししたいこと、たくさんたくさんあります。リィズさんとやりたいこと、いっぱいあります。ですからリィズさん、何か困ったことがあったり不安だったりしたら遠慮なく、私たちのこと頼って下さいね。何でも相談して下さいね。私たちみんな、リィズさんのこと家族だって思ってますから。
「……こんな感じで、どうでしょうかテオドールさんっ。編集機器が無いので苦労しましたけど、前回の失敗と反省を踏まえて一生懸命頑張った甲斐あって、ものすごい力作に仕上がりましたよ! これならリィズさんのお迎えVTRにバッチリな筈ですっ」
「――うん。ビデオのくだり要らないから、
「ふえっ?! えええ~~~~~っっ!!」