※この作品はR-18です。

ヒュプシュブリューメン ~可憐なる花たち~   作:ろっくLWK

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第2章 喜びの日々
episode 5 生まれ変わる花 ― リィズ・ホーエンシュタイン


 

 

「それじゃあ今夜は、リィズちゃんの退院を祝しまして……」

 

「――乾杯(プロースト)~~ッッ!!」

 

 チン、とそこかしこでジョッキがぶつかり合う。新(ノイ)ベルリン郊外に昨年建てたこの一軒家には、久々の賑わいが訪れていた。

 

「や~、でもホント良かったよねぇ。リィズの退院が予定よりも早まってさ」

 

 ジョッキをぐびりと呷ったアネットが満面の笑みを向ける。それにテオドールは深々と頷いた。

 

「ああ。それもこれもみんなのお陰だ――改めて、ありがとう」

 

「よしてよぉ、ガラでもないな~。ホラホラ、今日はめでたい日なんだし、テオドールもリィズもじゃんじゃん飲みなって!」

 

「よせアネット。リィズは退院したばかりなのだぞ、あまり無茶はさせるな」

 

 少し離れたソファに座るアイリスディーナが苦笑交じりに窘めの言葉を放つ。彼女の腕には今年で二歳になる長男・ユルゲンが抱かれていた。BETA侵攻による東ドイツ陥落から数ヶ月後、一時疎開地であったフランスの地で生を受けたユルゲン。まだ赤子だった彼を伴ってケルト海を渡り、ここアイルランド・ケリー州に自分たちが移り住んでから、早いものでもう一年半が経つ。

 

「い~じゃん、めでたい日は無礼講だってば! あぁカティア、おかわりちょーだい」

 

「はいっ」

 

 元気よく返事をしたカティアはパーティーが始まってからこっち、アネットがどこからか借りてきたビールサーバーの前に張り付き、一心不乱にジョッキへ泡を注いでいる。少しはカティアにも楽しませてやれよ……と言いたくもあったが、今回はそのカティアが自ら給仕役を買って出たのだから仕方が無い。それが彼女なりのリィズに対する気遣いなのだということを、テオドールはちゃんと理解していた。

 

「とは言え、あまり飲ませすぎるなよ。コイツ(アネット)、酔っぱらうと手が付けられなくなるから」

 

「あ、ひっどーいテオドール。あたしだって自分の酒量(キャパ)くらい弁えてるよぉ。――ぐび、ぐび、ぐび、」

 

「あらあら。言ったそばからこれじゃあねぇ」

 

 一気飲みするアネットに苦笑と呆れの視線を送ったのはファム・ティ・ランだ。中隊では次席指揮官を務めていた彼女も、今はこの家で共に暮らす仲間、いや家族となっている。

 

「あのぅ、なんかすみません。私なんかのために……」

 

「『なんか』って、今日の主役がナニ言ってんのさ~。リィズはもっと堂々としてなよ」

 

「そうだぞ、ホーエンシュタイン。あの状況から貴様は本当によく頑張った」

 

 アネットに続いてグレーテルがねぎらいの言葉をリィズに掛ける。かつて中隊付政治将校という立場にあった彼女は租借地への移住を機に党中央の役員に復帰し、現在は内務省の官僚として国家運営を支える要職の立場にある。そんな彼女はしかし、これ以上の出世を望むよりもテオドールたちとの同居生活という道を選び、こうしてこの家に住んでいるのだった。

 

「はい……でもその、何て言うか……」

 

 リィズの表情にはどこか翳りが見える。それは決して退院直後で体力が戻り切っていない、というだけが理由ではない――テオドールはそのように推察していた。

 裁判を経て情状酌量により大幅な減刑措置が講じられた後、リィズを待っていたのは薬物による洗脳からの虚脱症状や後遺症との壮絶な闘病生活だった。一時期は発狂寸前にまで陥り、そのままでは予後真っ当な生活を送れなくなるというほど危険な状態ですらあったものの、西側で開発された新薬による治療が劇的に奏功して容体が落ち着いたのがちょうど半年前。以後は日常生活に復帰するためのリハビリに専心し、つい先日ようやっと医師から退院の許可が下りたため、こうして新しい我が家へと帰って来ることが叶った……というわけである。

 

「リィズさんのこと、皆さん待ってたんですよ。元気になったらみんな一緒に暮らそうって。勿論私もです。ですから今日は目いっぱい楽しんで下さいっ!」

 

 落ち込みかけた空気をカティアの朗らかな笑顔が再び温め直す。うん、と小さく頷いたリィズはほんの少し表情を綻ばせたが、やはり以前のような――いや、かつて義父たちと共にあった頃の彼女の快活さには、まだ遠く及ばない。

 

「あ~も~、とにかく飲も飲もっ! カティアぁ、どんどんおかわり持ってきて。それとおつまみもー!」

 

「分かりました! 今すぐお持ちしますね」

 

「カティアちゃん一人じゃ忙しそうだし、私もお手伝いしようかしら」

 

「あーじゃあファム姉、ついでにザワークラウト持ってきてよぉ。ファム姉の作るヤツ絶品なんだから、アンタ(リィズ)も一回食べたら病みつきんなるよぉ~」

 

「こらこらアネット。あまり年長者をアゴで使うものじゃないぞ」

 

「全く、乱痴気騒ぎとはまさにこのことだな。――まあ今日ぐらいは大目に見てやるが」

 

 普段は仲裁やら何やらに回ることの多いアイリスディーナとグレーテルも、今日は穏やかな表情を湛えている。誰も彼もがリィズのことを歓迎ムードで包み込んでいた。けれどその中でリィズ一人だけが、もう一つ浮かぬ顔でジュースの入ったグラスを傾けていた。

 

 

 

「――あんれぇ? リィズはぁぁ?」

 

 げぷう、とはしたなく喉を鳴らしたアネットが胡乱げな目つきで辺りを見渡す。パーティーが始まって小一時間。ここまでで既に何杯ものジョッキを空けた彼女は、つまるところすっかり出来上がっていた。

 

「疲れたからちょっと部屋で休んでくる、って。……やっぱりまだ落ち着いてないみたい」

 

「だろうな。あの分だと、私たちが気を遣っていることにも気付いているかも知れない」

 

 ファムの見解にグレーテルも同意を示す。リィズを迎え入れるにあたってなるべく明るく振る舞おう。そういう示し合わせの元に今回の退院パーティーは催されたわけなのだが、さすがに少しあからさまというか、わざとらし過ぎただろうか。空になったジョッキをテーブルに置き、テオドールはほぼ頭上にあるリィズの部屋の方角を見やる。

 

「行ってやれ、テオ」

 

 そんなテオドールのほんの一瞬の仕草を見咎めたアイリスディーナが、やにわに声を掛けてきた。

 

「え。いや、だけど」

 

 テオドールは少々返答に詰まってしまう。リィズは本当にただ疲れただけで、少しすれば戻ってくるかも知れない。そこへ自分が行けば、それこそ気を遣っているとダメ押しでアピールするようなものなのではないか。それにこのパーティー自体、彼女のために企画されたものなのだ。言わば皆が自分たち兄妹を思って設けてくれた心尽くしの宴席。それなのに本人はおろか自分までもが中座してしまったら。そんな逡巡が頭の中を駆け巡る。

 

「だからこそだよ。私たちは自分の気持ちを態度で示しておきたかっただけだ。あの子の心情を慮れば、おいそれとは受け容れられないと考えるのも仕方は無い。それに今のリィズに何より効くのは薬でもなければ酒でもなく、貴様という存在そのものの筈だ。それは分かっているだろう?」

 

「……まあ」

 

「だったら行ってやれ。そっちが落ち着いたら戻ってくればいいし、そのまま寝てしまってもいい。私たちには時間がある。多少のわだかまりが残ったとしても、大抵のことは一緒に暮らす日々を送るうちに時間が解決してくれるよ。そうでないものを取り払ってやれるのは、この家ではテオだけだ」

 

 アイリスディーナの言いたいことは分かる。自分がすべきことも。ただそれをすることには、皆に対しての後ろめたさに近い感情もあった。

 

「私からもお願いします。リィズさんのところへ行ってあげて下さい」

 

「カティア……」

 

「リィズさん、きっとテオドールさんのこと待ってます。今リィズさんを癒してあげられるのはきっとテオドールさんだけだと思うから。ですからリィズさんのこと、私たちの分まで、お願いします」

 

「――分かった」

 

 カティアのひと押しを受け、テオドールは首肯した。……思えばこうして、自分は彼女たちに支えられてばかりいる。それにほんの少しでも何かを返してやることが、自分には出来ているのだろうか。こういう時にいつもテオドールは己の力不足を恥じてしまうのだった。

 

「くぉぉらぁぁテオドォールルルルぅぅ、アンタおかわりも飲まらいで、どこ行くつもりらろさぁ~っ。ほれもっと飲め飲め、うひゃぁ~~っ」

 

「ほら、面倒な酔っ払いに捕まる前に、とっとと行ってこい」

 

「ああ」

 

「さあアネットちゃん、テオドール君は忙しいみたいだから、あっちでお姉さんと飲みましょうねー」

 

「なにぃぃ~~っ? あたしの酒がァ飲めないってぇのォ! ちょっと待ちなよておろーるぅ~、ねぇってばぁ~~っ」

 

 ……次の機会があれば、アネットには禁酒令を出した方がいいかも知れない。背後から浴びせられる罵声やら何やらを無視しつつテオドールは階段を上り、リィズの部屋の前に立った。

 

「リィズ」

 

 コンコン、とドアをノックしても返事は無い。もう一度「リィズ?」と呼びかけると、ドアの向こうからゴソリと何かの動く音がした。

 

「入るぞ」

 

 ドアを開けると室内は真っ暗だった。いないのか? ――そう思いかけたその時、再びゴソリと衣擦れのような音。テオドールが音の出どころを目で追うと、ベッドの上でシーツに包まり膝を抱えるリィズの姿が、そこにはあった。

 

「……リィズ」

 

 ドアを閉めたテオドールはひとまずベッドではなく、対面にある化粧台の椅子へと腰掛ける事を選ぶ。部屋の明かりはあえて点けなかった。それらはいずれも、今自分がそうする事をリィズが望んでいないと、そう直感したから。

 

「お兄ちゃん」

 

 シーツの端から覗くリィズの表情は、明らかにそれと分かるほど消沈していた。これは、落ち込んでいる? いや悲しんでいるのか? どちらともつかぬ彼女の様子を慎重に窺いつつ、テオドールは言葉を選んで彼女に話し掛ける。

 

「ごめんな、退院したばっかりなのにうるさくしちまって。疲れただろ?」

 

「……ううん」

 

 ふるふる、とリィズが首を振る。彼女がそうと答えるのは勿論分かっていた。今のはただの会話の取っ掛かり、というやつだ。

 

「この部屋、気に入ったか? この家を建てた時からずっと用意してたんだ。お前が退院してきたら気兼ねなく暮らせるように、ってさ。カーテンのストライプ柄とかカーペットとか、あとそのベッドも、みんなで色々選んだヤツなんだぜ」

 

 リィズは返事をしなかった。会話の残響が失せてしまえば自分も沈黙せざるを得なくなる。だからその前に、テオドールは言葉を紡ぐ。

 

「今日の退院パーティーだってそうだ。ちょっと羽目を外し過ぎた感もあるけど、みんなお前のこと待ってたんだ。医者の面会許可が出てからも俺たち頻繁にお見舞いに行ったろ? 早くリィズに元気になって欲しい、リィズと一緒に暮らしたいって。今日ようやくそれが叶って、みんな嬉しかったんだよ。もちろん俺も」

 

「……どうして?」

 

 俯くリィズからぽつりと落ちた一言。それはあたかも月影のように、昏く室内へと沈み込む。

 

「私、みんなに、みんなに迎え入れて貰えるような人間じゃないのに」

 

「そんなことは無い。現に今だって――」

 

「私、酷いことばっかりしたんだよ。アイリスディーナさんにも、グレーテルさんにも、ファムさんにも、アネットさんにも、カティアちゃんにも。……お兄ちゃんにだって、お兄ちゃんの知らない人たちにだって私、許されないこと沢山した。それなのに、どうして」

 

 リィズの声が強く震える。テオドールはそれを、ただ真っすぐに受け止める。

 

「時々ね、夢に見るの。お父さんとお母さんのこと。引き離されていくお兄ちゃんのこと。国家保安省(シュタージ)に捕まって拷問されてた時のこと。あいつらの狗になって、沢山の人たちを裏切ったり、騙したり、痛めつけたり殺したりしたこと。その度にいつもうなされる。うなされて目が覚めて、いつも死にたくなる。どうして、どうして私、生きてるんだろうって」

 

「……リィズ」

 

「だってそうでしょ? あんなに酷いことして、それなのにその私がのうのうと生きてるなんて、絶対許されない。私が手にかけた人たち、私のせいで死んじゃった人たち、みんなきっと恨んでる。私を恨んでる人、生きてる人の中にだって沢山いる筈だよ。そんな私がお兄ちゃんたちと幸せに生きるだなんて、絶対誰も許してくれないよ」

 

 ぐず、と鼻をすする音。リィズの顔から零れた光の玉がぽたぽたと、シーツに滲んで消え失せた。

 

「なのに、みんな優しくてあったかくて。今日だってあんなお祝いまでしてくれて。――どうしてなの? 私、みんなに受け入れてもらえるようなこと、何一つしてない。むしろ逆のことばっかして。一歩間違ってたら私、みんなを殺してたかもしれないのに。私の手はもう、沢山の人たちの命で血まみれになってるのに」

 

「……それはお互い様、ってやつだ。俺たちだって、多くの命をこの手に掛けた」

 

 それは必ずしも国家保安省(シュタージ)の関係者だけとは限らない。成り行き上交戦を避けられなかった国家人民軍(NVA)の人間。自分たちの志に同調した結果命を落とした文字通りの同志たち。そして戦火に巻き込んでしまった罪無き一般人。咎の多寡を問うなれば、それはテオドールたちもまた同罪だ。

 

「それだけじゃないよ。亡命者狩りしてた時、私は大人も子供も、お爺ちゃんお婆ちゃんもこの手で殺した。生まれたばかりの赤ちゃんまで……。そうしなくちゃ生きられなかった。お兄ちゃんを生かせなかった。だからやらなくちゃいけないんだって自分に言い聞かせてるうちに、だんだん心が麻痺していって」

 

 シーツの内側で、リィズが自らの体を抱きすくめる。その様子をテオドールはただ黙って見守り続ける。

 

「それは洗脳されたから仕方なかった、って言えばそうなのかも知れない。あの頃の私は正気じゃなかったんだって、今なら分かる。でも、それでも、私がやったことには変わりないんだよ。――それに私は、アクスマンに……あの男に汚されて、調教されて、それから任務で色んな人たちと寝て。……私は心も体も何もかも、汚れ切っちゃったんだよ。お父さんとお母さんとお兄ちゃん、四人で暮らしてた頃の私はもう、どこにもいない」

 

「――いいんだ。もういいんだ」

 

 テオドールは立ち上がってベッドの縁に腰を下ろし、シーツ越しにリィズを抱き留める。細く小さいリィズの肩はまるで雪原の只中に置かれていたかの如く、悲憤と恐怖で激しく震えていた。

 

「お前のことは全部分かった上で、俺は、俺たちはお前の全部を受け入れるって決めたんだ」

 

 リィズが自らの口で語った事実。その全てを、テオドールは既に知っていた。国家保安省(シュタージ)の、アクスマンの下劣なやり口、その毒牙に愛する義妹が掛かっていたこと。組織の命令に忠実に従い、数多の命を奪っていたこと。その全てがテオドールを生かすためのものであったこと。当初はすんなり呑み込むことなんて出来やしなかった。連中を激しく憎悪もしたし、あまりに過酷な現実から目を背けたくなったことだって二度三度の話ではない。だが、それでも自分は。

 

「これ以上自分自身を責める必要なんて無い。お前は十分苦しんだ。それを俺たちはちゃんと分かってる。その俺たちが、誰より俺が、望んでるんだよ。お前と一緒に居たいって」

 

「ダメだよ。私なんかが傍にいたら、きっとまたみんなを不幸にしちゃう。お兄ちゃんに悲しい思いさせちゃう。……私はここにいる資格なんて無い。いっそあの時、死んでれば良かったんだ」

 

「そんな悲しいこと言うな。――あの時お前が助かって、俺がどんなに嬉しかったか。みんながどれだけ喜んでくれたか。それを無碍にするようなことを、頼むから言わないでくれ」

 

 彼女の肩を掴むその手に、知らず知らずと力が籠ってしまう。かつてラーテノーでの交戦時に捕虜となったリィズは、革命軍内の臨時裁判にて処刑宣告を下されていた。その際テオドールは軍への信義を示すため、彼女を銃殺する任を命ぜられたのだった。もしもあの時、ほんの少しでもカティアが来るのが遅かったならば、きっと自分は最愛の義妹をこの手に掛けてしまっていたことだろう。

 

『そんなことをしてはいけません! 私たちは怨みに依って体制を変えてはいけないんです。誰もが恐怖に縛られて悲しい思いをした時代からこの国の人たちを、この国の全てを解き放つ。それを自ら実践できなくて、どうして国を変えることが出来るんですか。……悲劇はもう沢山です。私たちが作る新しい東ドイツ、その本当の象徴は私でもベルンハルト大尉でもなく、テオドールさんとリィズさん、国家の歪みに裂かれたこのお二人であるべきなんです』

 

 その必死の説得のお陰でテオドールはリィズを撃たずに済み、革命成って国情が落ち着くまでリィズを監禁状態に置くことで、彼女の罪を新体制の法に基づき処断することが叶ったのだった。そこから先もまたグレーテルやアイリスディーナらの尽力あって刑期を大幅に減免され、その後に待っていた闘病生活でも皆の支えがあって今がある。全ては奇跡の連続。そうとしか言いようのないものがリィズを、そして自分を、今日この時まで導いてくれたのだ。

 

「俺はお前が生きててくれて本当に嬉しいんだ。もう二度とこんな日は来ないって、一度は諦めてしまっていたから――だからお前が仲間の誰も殺さず、誰にも殺されず、こうしてみんなと一緒に暮らせる日を迎えられたこと、本当に心から感謝してる。そこにお前自身の頑張りが無かったなんて、俺はそんな風には思わない」

 

 テオドールはありったけの本音をリィズにぶつける。長く重い苦しみに凍てついた彼女の心を、その熱で溶かすように。

 

「お前の辛さ、全部は癒してやれないかも知れないけど、それでも俺は受け止める。お前が犯した罪は俺の罪だ。その業は俺たち二人で背負っていこう。お前の穢れは俺の穢れだ。それが俺たちをここまで生かしてくれたものである以上、俺が汚らわしく思うことなんて一つも無い」

 

「……お兄、ちゃん」

 

「それでもダメならその時は、こうしてお兄ちゃんがお前の傍にいてやる。俺はずっと傍にいる。それでいいって俺に教えてくれたのはアイリスやカティア、ここにいる皆なんだ。だからお前にも、ここにいて欲しい。例え世界中の全てを敵に回したとしても、俺は、俺たちだけはずっと、お前の味方でいるから」

 

「……いいの?」

 

 リィズの声が、全身が、わなわなと震え出す。テオドールはその全てを両手で抱き締める。

 

「ああ」

 

「ほんとに、いいの? 私なんかが、ここにいて」

 

「勿論だ」

 

「私、お兄ちゃんの傍にいても、いいの?」

 

「当たり前だろ」

 

「私、お兄ちゃんの、お兄ちゃんの……うぐ、ひっく……」

 

 リィズの被っていたシーツがずるりと落ちる。月明かりに照らし出されたその表情は、今にも決壊しそうなほどぐずぐずになっていた。

 

「いいんだ、もう我慢しなくて。――辛かったなリィズ。助けるのが遅れて、ごめん」

 

「……うああぁあぁぁああぁぁぁぁあ……」

 

 テオドールの胸にすがりつき、リィズは大声を上げて泣きじゃくった。……一体いつぶりだろう。中隊の仲間であったときも、敵として対峙したときも、リィズの流した涙は決して嘘ではなかったと思う。けれどこうして昔のように兄妹として涙を流し抱き合えたのはきっと、二人が確かに家族でいられたあの時以来だった。

 

「――落ち着いたか?」

 

 リィズの感情が収まった頃合いを見計らい、テオドールは声を掛ける。うん、と小さく頷いて、リィズが両手で涙を払う。

 

「お前にはまだ言ってなかったけど、俺たち今、みんなで暮らしてるんだ。みんな一緒に、夫婦として」

 

「……みんな、一緒に?」

 

 ああ、と頷きながらテオドールは片手をズボンのポケットへと差し入れる。そこから取り出した小さな宝石箱の蓋をリィズへ示すように、そっと開いてみせた。

 

「本当はさっきのパーティーの最後に、みんなの前で渡すつもりだったんだけどな」

 

「あ……」

 

 飾り気の無い、けれど強い光沢を放つシルバーリング。それはリィズの退院前に、彼女の指のサイズに合わせて注文してあった品だった。

 

「もちろん籍は入れられないし、生まれた子供も認知するだけの関係だから、世間は色々言うかも知れない。けど俺たちの幸せはそれでいいんだって、最初にその道を示してくれたのがアイリスディーナだった。――あいつはお前から何一つ奪おうとなんかしてなかった。むしろ行き止まりだった俺たちに、幸せになるための方法を教えてくれてたんだよ」

 

「私たち、が……しあわせに……」

 

「だから――独り占めできなくて不服かも知れないけど、お前にも俺たちと一緒に歩んで欲しい。俺たちが幸せになるための道を、支えられるだけじゃなく、支える側として。これはそのための誓いの儀式、みたいなもんだ」

 

 テオドールはリィズの左手を取り、その薬指にリングを嵌める。きらりと光るリングの輝きを、リィズはしばし呆然と見つめていた。

 

「もっと早くに言うべきだった。――好きだ、リィズ。初めて会ったその日から、今日までずっと。そしてこれからもずっとお前のことを愛し続ける。その証として、この指輪を受け取って欲しい」

 

「お兄ちゃん……やだ、私……うそ……」

 

 リィズの目から再びぽろぽろと涙がこぼれ始めた。テオドールはそれを微笑みでもって見守る。

 

「どうしよう……さっきまであんなに苦しくて辛かったのに、死にたいって思ってた筈なのに、今はすごく嬉しくて、幸せで……もう死んでもいいってぐらいなのに、死にたくない。ワケ分かんないよ、もう」

 

「いいんだよ、ワケ分かんなくて。……返事なんて、聞かなくてもいいよな」

 

 頬に滑った涙をそっと拭い、そしてテオドールは顔を近づける。それに応えたリィズが瞳を閉じ、二つの唇は静かに重なり合った。初めてではないリィズとのキスは、あの時のような寒々しさと淫靡さとは対極に、二人の醸す暖かな波動と幸福感で満ち溢れていた。

 

「……お兄ちゃん、好き。愛してる」

 

「ああ、俺もリィズのこと愛してる」

 

「えへ。……なんか、急に照れくさくなっちゃった」

 

 リィズが急にもじもじし始めた。何でだよ? とテオドールは怪訝に苦笑を浮かべる。

 

「だって、前はとにかく一生懸命で、お兄ちゃんの気持ち考える余裕なんて全然無かったから。今はお兄ちゃんも同じ気持ちでいてくれるんだって思ったら、なんて言うか……すごくドキドキしちゃって」

 

「それなら俺と同じだ。俺もすごくドキドキしてる。お前とキスするの、初めてじゃないってのにな」

 

「うん……そうだね」

 

「でも多分、それが自然なことなんだ。ドキドキして、お互いに好きって気持ちがあって、もっと相手のことを感じたいって思って。――だから、ここからやり直そうリィズ。これが俺たちの、本当の『初めて』だ」

 

「ん……お兄ちゃん、私をお兄ちゃんのものに、して」

 

 もう一度キスを交わし、テオドールはリィズを強く抱き締める。細く華奢で壊れてしまいそうなリィズの身体が、今は狂おしいほど愛おしくて堪らない。服の上から胸に手を掛けると、「ん、」とくぐもった声を洩らしてリィズがその身をよじらせた。

 

「あ、あのねお兄ちゃん。私もその、久しぶりだから、あんまり上手くサービスしてあげられないかも」

 

「サービスなんて、お前にそんなの求めないよ」

 

「でもね、してあげたいの。私に出来ること全部で、お兄ちゃんに気持ち良くなって欲しい。だから……ちょっとだけ私にさせて。ね?」

 

 言うが早いか、リィズは自らの服の裾へ手を掛けた。……久しぶりに拝んだリィズの下着姿。長きに渡った入院生活のせいで以前より少し痩せてはいるものの、形良く実った胸や腰回りの肉付きはほとんど衰えてはいない。背中に手を回して「ぷつ」とブラホックを外し、リィズはその双丘をテオドールの眼前に晒した。

 

「……あぁ、すごく綺麗だ」

 

 傷一つ無いリィズの裸身。それを目にして前言通り、汚らわしさなんて微塵も感じない。こちらもシャツを脱いで待ち構えると、その胸板に自らの乳房をこするようにしてリィズが覆いかぶさってきた。

 

「あは。お兄ちゃんの身体、あったかい」

 

「リィズもあったかい。それにぷるぷるで柔らかくて、すごく抱き心地がいい」

 

「ふうん……ねえお兄ちゃん。私のおっぱいとアイリスさんのおっぱい、どっちが好き?」

 

「――ぅえ!?」

 

 やぶからぼうに意地の悪い質問をされ、テオドールは一瞬言葉に詰まった。どっちが好き。そうと訊かれてまじまじと、テオドールはリィズの乳房を凝視してしまう。

 

「アイリスさんっておっぱい大きいでしょ。それに体つきエッチだしめちゃくちゃ美人だし、やっぱりお兄ちゃんの好みってああいう人なのかなーって」

 

 ごくり。込み上げた唾を飲み下しつつテオドールは思考を加速させる。リィズの胸はアイリスのそれと比べれば、確かに大きさでは敵うべくもない。だが並よりは豊かな方ではあるし、何よりもこのパンパンに膨らませた風船のような弾力は他では得難いものがある。少し大きめな乳首は触り心地も感度も抜群で、まさに男を悦ばせる理想の造形というべき代物だ。一概に甲乙なんて付けられない。と、そんなこちらの心理を見透かしたかのように、リィズは妖しく微笑んだ。

 

「そこで黙っちゃうってことは、大きさと質感でアイリスさん、バランスとハリの良さで私、トータルでほんのちょっとアイリスさんの勝ち、って感じ?」

 

「なっ、バッ! 俺はお前らを比べたりなんか、」

 

「だいじょーぶだよお兄ちゃん。私はそんなの気にしないし、それに、比べてもらった方が私にとっては有利だから……ふふっ」

 

 リィズの両乳房がテオドールの顔を挟む。ぱふぱふ、と唱えながらリィズは手で乳房を動かし、その心地良い肉感でテオドールを圧迫し始めた。

 

「もが、むぷっ」

 

「ほぉーら、お兄ちゃんの大好きなおっぱいだよ? これでお兄ちゃんのこと、いっぱいこすってあげるね」

 

 ぷるんぷるんと頬をこする感触が心地よい。リィズは乳房を巧みに操り、顔から耳、首筋から肩、胸板から臍と、様々な箇所を乳肉と乳首とで摩擦していった。やがて到達した先はテオドールの乳首……つまり、互いに乳首をこすり合わせる格好だ。

 

「知ってる? 男の人もココ敏感なの。ほら、くりくりーって」

 

「うぉ、あっ」

 

「あはっ、お兄ちゃん可愛い。そんなお兄ちゃん見たら、私までゾクゾクしちゃうっ」

 

 こりこりと捏ね合う乳首同士の不可思議な感触に、テオドールはついつい身悶えしてしまう。その間にリィズは下へと手を伸ばし、テオドールのベルトをカチャカチャと手際よく開放してしまった。

 

「――わぁ、何度見ても大っきい……」

 

 下着の裾から露出した肉竿にリィズが感嘆の声を上げる。すでに八割がた勃起していたそこを、リィズはまず指先で根元からなぞり始めた。ぞわぞわとこみ上げる快感と劣情。それがちょうど裏筋に差し掛かる、というところで人差し指の動きはピトリと止まってしまう。

 

「だぁめ。気持ちいいのはおあずけ」

 

「く、な、何で……」

 

「お兄ちゃんにはとことん気持ち良くなって欲しいんだもん。だからギリギリのトコで我慢してもらうね」

 

 リィズの指先にくいくいと弄ばれた肉竿が四方八方に跳ねる。そのむず痒いような刺激に、テオドールはつい腰を浮かせてしまう。

 

「見てお兄ちゃん。先っぽから透明なおツユがぷっくり出てきてるよ」

 

「うぁ……」

 

「これ、どうして欲しい……? 舐める? すする? それとも指にまぶしてシコシコしてあげるのがいいのかな?」

 

「そ、そりゃあ……」

 

 本音を言えば、全部して欲しい。さすがだなんて言いたくはなかったが、リィズは男を悦ばせるツボというものを存分に心得ていた。そしてそれは今、自分のためだけに遺憾なく発揮されている。いつぞやのような演技交じりのものではなく、こちらの反応を窺いながらも純粋に行為を愉しむかのようなリィズの淫らさは、テオドールの性欲を否応なしに掻き立ててゆく。

 

「うふふっ、辛そうにおちんぽピクピクさせて、しょうがないなぁ。――じゃあ最初は、お口でしてあげる」

 

 おもむろに跪いたリィズが、胡坐をかくテオドールの股間に顔を近づけた。いきなりは接触せず、まず竿先に「ふう」と軽く息を吹きかけてから、リィズはスンスンと鼻を鳴らした。

 

「……はぁ、逞しい雄のにおい。ステキだよお兄ちゃん」

 

「うぉ。り、リィズ」

 

「そんな切なそうな顔しないで。お兄ちゃんの欲しいもの、ちゃぁんとあげるから――んぁ、」

 

 ぬろり、と亀頭を包み込む生温かい感触。初めに舌を使って肉竿全体に先走りを塗りたくらせたリィズは竿を持ち上げ裏側にキスを落とし、これ見よがしに匂いを嗅いでは鼻先で雁首をこすりつつ、その周辺を舐め上げていく。

 

「ちゅぷっ。れる、ぅりゅれるっ。……どう? こういうの」

 

「どうも何も……すげえ興奮するっ」

 

「ふふ、良かったぁ。じゃあもっと良くしてあげるね。……んちゅ、ちゅぶぶ、」

 

「おおぉ、」

 

 堪らずテオドールは呻きを上げた。リィズの小さな口に、自分の肉竿は半分以上が呑み込まれてしまっている。先端を喉輪で締め付け、上雁のところを上顎で受け止め、裏筋の周囲を踊る舌腹で責め立てる。同時に片手で巧みに陰嚢を揉み、もう片手を竿に添えて上下に扱く。テオドールの性器はまさに今、リィズによって余すところなく蹂躙されていた。

 

「……ん、ふふ。お兄ちゃんのおちんぽ、太くてカタくて、やっぱりすごぉい。ずっと口に入れてたら顎が壊れちゃいそうだよ。そのクセとっても敏感で、ちょっと弱いトコ責めただけでムクムクって膨らんで。……あんまり可愛いから、もっと虐めたくなっちゃう」

 

 リィズが舌なめずりをして再び肉竿を頬張った。上目遣いをしながら首を動かしてちゅこちゅこと扱き上げられ、さらには唇を使って雁首をぷりぷりと引っ掻かれると、テオドールもいよいよ高まるものを抑え切れない。舌の柔らかさを感じつつ微かに腰を揺すると、「んふ、」と満足げにこぼしたリィズは倍増しの速度で啄木鳥の如き責めを与えてきた。

 

「んっ。ぐぷ、ぐぷ、ぐぷ。ちゅぼっ、くぷ、んぐ、んっんっ、んぷ、」

 

「うぁっ、リィズ、もう出るっ……! このままイクぞ、お前の、口に……っ」

 

 肉竿を咥えたままで、こくん、とリィズが小さく頷く。ちょうだい。まるでそうねだるかのようなリィズの視線に、テオドールの興奮はとうとう頂点に達してしまった。

 

「……ちゅぶ、ちゅぶ、くぷっ、ちゅるちゅる、ちゅぐっ」

 

「~~~っ。リィ、ズっ……!!」

 

 どくん、と竿の根元から飛び出す滾った熱塊。腰をひくつかせながらテオドールが絶頂感を堪能している間、リィズは唇をぴったりと閉じて躍動しながら精を吐き散らかす肉竿を戒めるように、ねろねろと舌で亀頭の裏を撫で続けてくれた。

 

「――ぷは。……ごく、ん、」

 

 竿から離れたリィズは口に手を当て喉を鳴らし、テオドールの放った精液を嚥下した。しばしうっとりと惚けた後、彼女は再び肉竿にかぶりつき、先端から滲み出る残り汁を音を立てて啜ってゆく。

 

「ん、ずちゅ、ちゅぅぅうぅっ。……ぷわあっ。なんか不思議……お兄ちゃんのコレ、すごく甘い味がする」

 

「あ、甘い味?」

 

 そんな感想を告げられたのは初めてだ。当惑するテオドールに対し、リィズは竿に頬ずりをしながら「うん」と頷く。

 

「直接的な意味じゃなくて、何て言うのかな、じわーって安らぐ感じ。一つもイヤな気持ちにならなくて、ずーっとしゃぶってたくなるの……あはは、ヘンだよねこんなの」

 

「いや……変だとは思わない」

 

 きっとそれは、リィズが自分との行為に安心の念を覚えているからなのだろう。傷付けられない。汚されない。そういうセックスがぼろぼろになった彼女の心を少しでも癒せるのなら、自分がリィズと交わることには確かな意味があるに違いない。――そうとまで考えてはたとテオドールは気付く。さっきアイリスディーナはこう言った。『今のリィズに何より効くのは薬でもなければ酒でもなく、貴様という存在そのものの筈だ』。それは多分、このことを指していたのだと。

 

「俺もすごく安らぐよ。リィズとこうしていられて」

 

「お兄ちゃん……えへへっ」

 

 甘えるようにしながらリィズが肉竿にキスをする。再び口淫(フェラチオ)を再開した彼女は、しかし強い刺激を加えるようなことをせず、まるで棒飴(ロリポップ)を舐るかのようにゆったりと舌を動かすばかりだった。それを受けるテオドールもまたリィズの髪を優しく撫でつつ、じわりと沁みる快感に身を委ねる。その時二人が感じていたものは、ある種の尊さであったに違いない。

 

「……ん。お兄ちゃんのおちんぽ、またカタくなってきてる」

 

 しばらくしてから、リィズが「ちゅぽんっ」と口を離した。涎まみれになった肉竿が一刻も早くリィズの柔肉に埋もれたい、と暴れている。けれど肝心のリィズの方はまだ準備が整っていない。肩に手を掛け寝そべらせ、テオドールは彼女の股を割るようにして押し開く。

 

「あぁ……お兄ちゃん、」

 

「綺麗だ。リィズのここ」

 

 それはリップサービスでも何でもなかった。ライトピンクに彩られた、男の味を知らぬかのような淑やかさを放つリィズの花弁。そこに指を這わせる度、リィズの身体が怯えるように小さく震える。気持ち良くするだけなら幾らでも方法はあるだろうが、さっき感じたあの尊さをテオドールは手放したくなかった。だから最初はまず、処女にするような優しいキスをたっぷりと浴びせてゆく。

 

「んっ……ああん、お兄ちゃんの唇が……くすぐったくて、ぞわって、する……」

 

 徐々に乱れる彼女の呼吸に合わせて、花弁の奥に渦巻く膣ひだがうねりを大きくし始める。それと同時に皮の内に埋もれていた陰核(クリトリス)がムックリとその顔を覗かせた。――その横腹に穿たれた貫通孔(ピアスホール)の意味を、今はあえて考えない。代わりにテオドールは舌の腹を使って、小指の爪ほども無いサイズの肉刺(まめ)をゆっくりと転がしていく。

 

「はあぁぁ……っ、お、兄、ちゃん……おにい、ちゃぁんっ」

 

 リィズがびくびくと腹筋を痺れさせながら悶えの吐息を上げる。じゅわ、とこぼれる愛液は、指で掬うとトロトロに糸を引いた。それをまぶしてさらに陰核(クリトリス)を舐り、花弁に沿わせていた指を内側へと潜りこませる。

 

「んぁぁん、やぁぁっ」

 

 リィズの切なげな声がテオドールの鼓膜を揺する。それは背骨を伝ってダイレクトに腰まで届き、肉竿をより硬く屹立させた。空いていた手で揉んだ乳房はやっぱり抜群の弾力で、どれだけ揉んでも形を崩さないかのような芯の強さを感じさせる。乳首を優しく撫で、お尻の柔らかみを鷲掴みにし、腰から太ももの形をなぞり。そうして逸ることなく徹底的に、リィズの全身を愛撫し続ける。

 

「お兄ちゃあん、切ないっ……切ないよお……胸の奥がじゅわあってして、体が熱くって……こんなの初めてっ……!」

 

 初めて。その一言は、テオドールを昂らせるのに十分なパンチ力を秘めていた。花弁からとぷとぷと湧き出る愛液がシーツをしとどに濡らしている。指の滑りももはや十分過ぎるほどで、時おりきつく締めてくる膣内が早く本命をよこせとねだっているかのようだ。それでもテオドールは前戯をやめない。己の身に刻まれた過去の傷をリィズが忘れ去ってしまうぐらい、ねっとりといやらしく、そしてどこまでも優しく。それに火を灯されたリィズの反応は徐々に強まり、控えめに押し殺していた喘ぎ声も段々と大きくなってきた。

 

「んぁっ、あああ……お兄ちゃんが、やさしい。やさしくて、きもちいいのっ。あん、んぅ、ふぅぅん、……だめ、そんなやさしいの、泣けてきちゃう。すき……お兄ちゃん、好きぃっ」

 

「俺の可愛いリィズ。いっぱい愛してやるぞ、お前が俺から離れられなくなるぐらいに」

 

「離れないっ、離れないよおっ。お兄ちゃんのこと、大好きだからっ。ぜったい離れないっ。んっ、あ、あぅああっ。あ……あ、くる、くるぅぅっ」

 

 膣の収縮が早まってきた。リィズの絶頂が近いことを感じ、テオドールはさらに柔らかな動きで彼女を責めていく。激しさはいらない。突き抜けるような快感も今は求めない。芯から癒された彼女が、ただ幸福感のみを享受できるように。そんな願いを込め、テオドールは膣の上辺――俗にGスポットと呼ばれる箇所を指先で押すようにしてごく微かに擦り上げた。

 

「ふあぁぁっ。お兄ちゃん、お兄ちゃんっ。好きっ、大好きっ。あ、あ、お兄ちゃんイク、私、いっちゃうっ。んあっ、あ、あっ、あっ……!!」

 

 おへそを天へ突き出すようにして、リィズがびくびくと身体を緊張させた。きゅうきゅうと絡む膣肉がこちらの指を奥へ奥へと引きずり込んでいく。――やがてくたりと弛緩したリィズのお腹や乳房に、テオドールは吸い付くようなキスを落としていった。

 

「……あぁ。こんなやさしく逝かされたの、はじ、めて……お兄ちゃん……」

 

「リィズ……」

 

 ぎゅうと強く抱き締めてやると、リィズの顔はさらにとろりと綻んだ。思えばこんな風に想いを交えつつ彼女を抱くのもこれが初めてかも知れない。そのまま大きく胸をまさぐりつつディープキスを注ぐと、顔を真っ赤にしたリィズは舌を絡めてテオドールの唾液を受け取った。

 

「んっ、んく、あむ……ちゅ、んふ、んむちゅぅ……」

 

 その舌の動きはさすがにじっとりと淫靡だった。けれど顔を離して眺めたリィズの表情はまるで初体験を迎えた少女のように可憐で、そのギャップにテオドールは軽い酩酊を覚えてしまう。果たしてそれが彼女得意の演技でしかないのだとしても、自分にそれを見破る術は無い。そして今のリィズにそうする必要が全く無いのだという事も、テオドールはしかと理解している。

 

「あっ……あは……お兄ちゃんが、私のおっぱいしゃぶってる……」

 

 桃色に色づいたリィズの乳首。一見すれば無垢なそれも、きっと見えない傷が数多く刻まれてしまっているのだろう。それをひたすら丹念に舐め転がすと、リィズは悶えながらもテオドールの頭を優しく包み、さわさわと髪を撫でてくれた。

 

「んふ、お兄ちゃん優しい……処女(バージン)にするみたいに優しくて、気持ち良くて、私、また泣いちゃいそうだよぉ……」

 

「リィズのこと、傷付けたくないからな……自分が気持ち良くなることより、今はリィズに気持ち良くなって欲しい」

 

「嬉しい……私、こんな大事にされたことない。私を大事にしてくれるのは、お兄ちゃんだけだよ……」

 

「そんなこと無いさ、お前を大事にしてくれるヤツはこれから沢山増えていくよ。俺が一番大事にしてやる、ってのは変わらないけど」

 

「そうだね。私、これからはそういうのとも、ちゃんと向き合っていかなきゃね。……でもお兄ちゃんに大事にされるのが、一番嬉しい」

 

「俺だってそうさ。リィズを大事にしてやれるのが、俺にとって一番の幸せだ」

 

「お兄ちゃ……あっんっ、その吸い方やらし……っ」

 

 ぷっくり勃ちきった乳首を甘噛みするように吸いながら、とろとろに濡れた恥丘を手のひらで撫でさする。「あん、ああっ」というリィズの甘い喘ぎが体の芯まで響くような心地だ。長いことお預けを食らっていた肉竿は痛いほどに膨れ上がっていて、その先端からも愛汁(カウパー)がたらたらと垂れ流しの状態となってしまっていた。

 

「……おちんぽ、もうカチカチだね。そのままだと辛いでしょ?」

 

「ああ。リィズが欲しくて、もうたまらない」

 

「私はお兄ちゃんのものだよ。だから……いっぱい食べて。私が生まれ変わっちゃうぐらい」

 

 リィズが身を起こし竿を花弁に宛がうと、その長く美麗な両足をテオドールの腰に絡める。事を終えるまで決して離しはしないと、目の前の雄を縛るかのように。

 

「まだ病み上がりだから、なるべく無理させないようにする」

 

「あはは、そんなの気にしなくたっていいよ。――ずっと入院してたお陰で、薬ももう抜けちゃってるし」

 

「薬?」

 

「ほら、ああいう仕事って、もし万が一があったら使い物にならなくなっちゃうでしょ。だから、」

 

 ――ああ。口ごもるリィズの態度から、テオドールはその趣意を察した。『蜜の罠(ハニートラップ)』。国家保安省(シュタージ)が得意としていたその手管にあって、まかり間違っても子を身籠ることのないように、きっと彼女たちは常日頃から避妊薬(ピル)を摂取していたのだろう。

 

「正直、自分がこんなこと思って本当にいいのかな、って気持ちもあるけど……今はお兄ちゃんの子供が欲しい。もしかしたら私の身体じゃもう出来ないかも知れないけど、もし出来たらがんばって産んで、一生懸命育てる。それが多分、これからの私に一番必要なことなんだって思うから」

 

 テオドールは黙って頷く。彼女の想いを、心に負ったものを、テオドールもまた分かっていればこそ。

 

「お前の気持ちは分かった。けどなリィズ、一つだけ言っておくぞ」

 

「なぁに?」

 

「俺たちが子供を作るのは、誰かへの贖罪のためじゃない。俺たちが愛し合って、掛けがえのない存在だと思い合うからこそだ。だからその結果生まれる子供も大事で、俺たちにとって掛けがえのない存在になる――そうだろ?」

 

「……うん。ダメだね私、やっぱり引きずっちゃってる」

 

「それ自体はしょうがないさ。その分、これからいっぱい優しくなっていけばいい……それだけが俺たちに出来ることなんだから」

 

「ん。――あぅ、」

 

 つぷ、と亀頭の中ほどまでがリィズの中に挿り込む。花芯は既に熱く、永らく待ち望んでいた本命を積極的に迎え入れるようにぎゅるぎゅると絡みついてきた。

 

「リィズ。愛してる」

 

「お兄ちゃん……いっぱい愛して。あ、ああっ……!」

 

 肉竿が快楽の海に呑まれていく。一度経験済みだから分かることだが、リィズの中は相当に具合が良い。加えてリィズにはその動きを意図的にコントロールし、膣内に捉えた獲物を巧みに射精まで導けるだけの技術がある。現に挿入して間もないこの段階ですら、リィズは膣口を締めて肉竿に強い圧迫感を与えつつ腰をくねらせて膣内のうねりを加速させ、亀頭を隅から隅まで搾るように動かしていた。油断すればこっちがあっという間に果ててしまいかねない。ゆるゆると息を吐きながら挿入を進め、テオドールはリィズの最奥まで辿り着く。

 

「……全部、入った」

 

「あぁ、ふわああ……。分かる、分かるよお兄ちゃん。私とお兄ちゃんが、ぴったりくっ付いてるの……」

 

「ああ……」

 

 リィズの膣内形状。その完全なる密着ぶりは、あたかもテオドールの肉竿を採寸して作られたかのようだ。その深さも、ぴったり腰をくっ付ければちょうど吐精口が子宮口(ポルチオ)に当たるという絶妙さ。少し動かせばその膣壁はぬるりと追随し、絶えず肉竿にほど良い締め付けを仕掛けてくる。以前は経験が浅かったせいで良く分からなかったことだが、彼女のそこは一般的に言って名器、こと自分にとっては神器、と評して良いだろう。

 

「ふぅぅんっ。私の中、お兄ちゃんでいっぱいになってる……前した時と全然違うよおっ」

 

「気持ちいいぞ、すごく。リィズもか?」

 

「うん、うんっ。――ね、お兄ちゃんから動いて。もっとお兄ちゃんのこと、感じたい」

 

「分かった。もし先にイっちまったら、ごめんな」

 

「えへ。その時はもう一回したらいいよ……私は何回だってできるから」

 

 ゆっくり腰を引くと、ねとりとまとわりつくリィズの愛液がひだひだの間で滑らかに擦れる。もう一度腰を突き入れると膣全体が悦びに震え上がる。その全てはあまりに気持ち良すぎて、正直いつ射精したっておかしくない。頭のてっぺんがびりびり痺れるのを感じつつ、テオドールはリィズと見つめ合っての抽挿を繰り返す。

 

「あぁいいよぉ……お兄ちゃんのあったかいの、中でぬるぬるってしてるぅ。いちばん奥、当たってるのも分かるよ……あぁあっ、ぅんんっ、あ……あ、……」

 

 ゆっくりとした腰の動きを引き鉄に、テオドールとリィズは同時に快感の吐息を洩らす。なんて気持ち良いんだろう。この時テオドールはかつて無いほどに、セックスの真髄というものを味わっていた。

 互いが溶け合うようなこの感覚。一つに混ざり合って、相手と同じものを得る感覚。目の前には自分と同じように切なげな表情をして喘ぐリィズの姿がある。くっつき合った身体は次第に高まる互いの熱を頻繁に行き交わせている。汗で滑る肌の感触が離れ難い心地良さを生んでいる。その全てがたまらなく気持ち良くて、嬉しくて、幸せだった。

 

「うあぁぁぁんっ……いい……すごくっ……こんな優しいセックス、だめ……っ。私、興奮しちゃってるっ。今までで一番、興奮しちゃってるのお……ッ」

 

「リィズ、好きだっ。リィズとのセックス、気持ちいいぞっ。いくらだって抱いてやる、これから何度だって、何度だって」

 

「抱いてお兄ちゃんっ。いっぱい抱いてっ。私をお兄ちゃんでいっぱいに染め上げてぇっ。あっ、ああっ、あぁ……ぁんんっ!」

 

 執拗にリィズの胸を揉みしだきながら、テオドールは杭を打つように何度も腰を突き立てた。攪拌されて白い泡となった愛液が次から次へと結合部から溢れ、リィズの腿を垂れ落ちてゆく。膣がぎゅぎゅうと締まる感触と、陰嚢が縮み上がるように滾りを抱く感覚。これは互いに絶頂が近い。そう感じたテオドールはひときわ長く息を吐き、その瞬間の訪れを少しでも遅らせようと試みる。一緒に逝けるのは理想的ではあるが、今回はリィズのためのセックスだ。彼女には一瞬でも長く一度でも多く、快感ばかりを味わって欲しい。ただそれだけの願いがテオドールをギリギリのところで踏み留まらせる。

 

「~~うぅぅんっ、あっ……あっ……! おちんぽ、中でどんどん大っきくなってるっ。あぅん……一番奥のところで、コツコツいってるの分かるっ。そこ、そこだよお兄ちゃんっ……そこに出してっ。そこにいっぱい、注いでぇ……っ!」

 

「うぁ……! リィズッ、リィ、ズっ……!」

 

 膣内の収縮がまた速まってきた。限界のハードルすらも飛び越えて、それでもテオドールは最後の堰を必死に保とうと足掻き続ける。茎の中は熱いどころかもう痛いぐらいだ。けれど、まだ足りない。リィズをもっと満足させてやりたい。リィズを悦び果てさせてやりたい。ただその一念だけが、狂おしさで今にもほつれそうなテオドールの理性を意識の端に繋ぎ止めていた。

 

「あっあ! またくるっ……すごいのきちゃうっ! 抱き締めてお兄ちゃんっ。私のこと離さないでっ。ぁぁイク、イクイクイクッ、イッ……あぁあああぁ……あああ――……ッ!!」

 

「――ぅああっ!!」

 

 リィズの全身が痙攣したその瞬間、テオドールは堪えに堪えた絶頂を解き放った。矢を射るときのような衝撃が下腹部に迸り、竿の先からまっすぐに、亀頭を包む熱源へと噴き出してゆく。一度、二度、少し間を置いて三度、四度。……そうして精を吐き出し切ったテオドールは疲労困憊とばかり身体を投げ出し、リィズの上へと覆いかぶさった。

 

「……あ、ふあっ……あぅん……熱ぅぅい……どぴゅどぴゅって、たくさん、出てるぅ……」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。リィズ……」

 

 無我夢中でリィズの明るい金髪を撫でながら、テオドールは快感の余韻に身体を震わせる。――あまりに長く堪え過ぎていたせいで視界がちかちかする。本当ならリィズに後戯を施して愛を囁いてやりたいところだったが、今ばかりはちょっとその余力を見繕えそうにない。竿の中に残っていた精までリィズの膣にきゅるきゅると搾り尽くされ、まさに精も根も尽き果てんばかりの自分が他に出来ることと言えば、せいぜいつたなく腰を動かして膣内に撒いた精液を子宮口(ポルチオ)へこすりつけてやることぐらいだった。

 

「…………はぁ、はぁ。お兄ちゃん、疲れちゃった?」

 

「……あぁ。気持ち良すぎて、ちょっと……」

 

「じゃあ、今度は私に任せて」

 

「はぁ、はぁ……え?」

 

 テオドールが怪訝にしていると、やにわに身を起こしたリィズがグイと体重を掛けてきた。そのまま押し倒される格好となったテオドールの上へ、繋がったまま器用に脚の位置を入れ替えたリィズがまたがるように座り込む。

 

「さっきのお返し。私がお兄ちゃんのこと、いっぱい気持ち良くしてあげる」

 

「お、おいリィズ……?」

 

 リィズの瞳に妖しい光が宿っている。――そうと感じた時にはもう、肉竿はリィズの膣によってギュウときつく締め上げられていた。まだ射精の興奮収まらぬテオドールは「くぁ、」と短く呻き、萎びれかけていた肉竿に再び血流を集めてしまう。

 

「本当はさっきも、下からお兄ちゃんを気持ち良くしてあげたかったんだけど……あんまり気持ち良すぎて、熱に浮かされたみたいになっちゃって、全然ダメだった。気持ちが乗ってると全然違うんだね。本当のセックスを知っちゃった気分……」

 

 全然ダメだったって、あれでかよ。――リィズの発言にテオドールは心底恐懼してしまう。彼女が本意気で感じてくれたのは嬉しい限りなのだが、それにしたってこっちも未曽有の快感を味わわされた心地だ。ところがそれはリィズの本領とまではいかないものだったらしい。もし本当にそうだとするならば、リィズが主導権を握れるこの体位では一体どんなことになってしまうのか、まるで想像がつかなかった。

 

「大丈夫、痛いことはしないから。お兄ちゃんが悦んでくれるように、気持ち良くなれるように、いーっぱいしてあげるね……んっ、」

 

 そう言ってリィズは僅かに腰を上げ、直後にずぶずぶと肉竿を呑み込んでゆく。加圧された膣内から押し出された精液が繋ぎ目から漏れ出し、テオドールの竿周りでぐちゅりと粘った音を立てた。

 

「あん、せっかく出してくれたのに、勿体ない」

 

「り、リィズ……」

 

「だめ、お兄ちゃんはゆっくりしてて。私なりに、お兄ちゃんみたくやってみるから……」

 

 そのまま徐々にリィズの腰が動き始める。ぐりゅぐりゅ、と亀頭全体を粘膜で撫で回されるような感覚。肉襞が完璧にフィットし、肉竿を上へ吊り上げるように引っ張り込む。体格に比して大きな胸をたぷんたぷんと緩やかに弾ませながら、リィズは咥え込んだ肉竿を膣穴で上手に扱き上げていった。

 

「んぁ……はぁ、はぁ、あぁぁ、上になると、やっぱりすごい……お兄ちゃんのおちんぽ、私のお腹突き破るみたいっ。どうかなお兄ちゃん……気持ちいい?」

 

「……く、正直、良すぎるっ」

 

 ただでさえ射精直後で敏感なところに、リィズの膣と腰の動きはこすり上げと搾り取りを同時に行う緻密さで、それらは的確にテオドールの官能を高めてゆく。その上仰向けになってリィズを見上げるこの光景もまた、視覚的な刺激の度合いが恐ろしく強い。決して淫乱という意味では無いが、前後左右に腰を踊らせこちらを責め立てるその動き。桜色に染まった頬を切なげな形にし、相手の事を見つめながら己の生み出す快感を互いに享受し合おうとする健気さ。巧みさと初心(うぶ)とが混在したリィズの艶めく痴態にははっきり言って、かつて無いほど興奮せずにはおれなかった。

 

「お兄ちゃんが気持ち良くなってるの、分かるよっ。私の中で、カチカチになってる……あん、どんどん奥に食い込んできて、中の口が押し開かれるみたいっ……」

 

「お前は? お前も気持ちよくなってるか、リィズ?」

 

「うんっ、すごく、気持ちいいっ。入口から奥までギュウギュウになってる感触もいいし、お兄ちゃんとエッチしてるって思うだけで、背中ぞわぞわして、頭があっつくなって……あっあっ、おへその下が暴れてるみたいだよおぉっ」

 

「良かった。リィズが気持ち良くなってるのを見るのが、俺は一番興奮する」

 

「ならもっと見てっ。お兄ちゃんだけしか見たことない、今までで一番気持ち良くなってる、私のこと……っ」

 

 リィズがテオドールの両手を掴む。そのまま引き込まれたその先には、たわわに跳ねるリィズの乳房があった。――下から支えてみると感じる確かな重量感。それをグイと揉み込むと「あぁぁんっ!」とリィズはトーンの高い感泣を洩らした。

 

「胸触られるの、好きか?」

 

「好き、好きぃっ。お兄ちゃんの優しい手で、ギュって強くされるのが、いちばんんぅっ」

 

「じゃあ沢山揉んでやる。ついでに、俺好みのこの可愛い乳首も弄りまくるからな」

 

「ん、うんっ……もっと弄って。私のおっぱい、沢山いじめてっ。お兄ちゃんならいいの、どんなにされても、いいのぉっ!」

 

 その要望に応え、テオドールはリィズの乳房を下から押し付けるようにして鷲掴みにする。ぱるんぱるん、と弾力に富むこの手応えが実にたまらない。それを体の支えにしたリィズはテオドールの腿の辺りに後ろ手をつき、上体を反らすような姿勢で腰を上下させた。

 

「あ、あ、これいいっ。さっきと違う角度に当たって、おなか、押し出されちゃうっ。ああっ、あ、あぁあああぁあ~~……!!」

 

 リィズが喉を震わせるような艶声を上げる。一見すれば彼女が一方的に高まっているだけ――とも取れそうだが、その裏では強い性感を浴びた膣が折り重なる収縮運動を返してきたせいで、肉竿はよりギチギチに締め上げられていた。再びむらむらと込み上げる吐精欲。そのせいで、テオドールはつい深く腰を突き入れてしまう。

 

「きゃうんっ!」

 

「あ……すまないリィズ、大丈夫かっ」

 

「――ううん、急に奥にズンって来て、ちょっとびっくりしちゃっただけ。それより今の、ジクンってなっちゃったぁ。子宮が疼いてる……お兄ちゃんのおちんぽ、私のちょうどいいところにばっかり届くんだもん」

 

「そ、そうか……?」

 

 そこまでの細かな具合はさすがに自分には分からなかった。だがここまでの行為を通じて得た感覚から言うならば、自分の肉竿のサイズはリィズに対して長すぎず短すぎず、あるいは太すぎず細すぎず――といったところなのだろう。快感も神経刺激がもたらすものの一種、度が過ぎれば苦痛にしかならない。それが『ちょうど良い』というならやはり、自分とリィズの肉体的相性は抜群だと言って良い筈だ。

 

「ね、また出そうなら教えて……私また、一緒にイキたいの。お兄ちゃんと一緒に」

 

「……実はそろそろヤバい。お前の中が良すぎるせいで……」

 

「やっぱりそうなんだぁ。先っぽが中でぱんぱんに膨らんでるから、きっともうすぐかなって思ってたの。……ん、あぁぁぁ、」

 

 嬉しそうな口調と共に、リィズはゆっくりと深く腰を沈めてきた。もう一度ぷにゅりとぶつかる亀頭と子宮口(ポルチオ)。それをぐりぐりと押し付けるように腰を動かしながら、リィズがテオドールの耳元にこう囁きかけた。

 

「出すならまたここに……この奥に、ねっ?」

 

 完全に埋没した位置からリィズの上下動が細やかに、短いストロークでの往復を繰り返す。それはフィニッシュに向け、こちらの性感をせり上げようとする搾精の動きだった。

 

「あ、あん、あんっ。奥でお兄ちゃんを感じるの、すごくいいっ。んあっ、んっ……あああだめっ。私ももう、余裕無いっ」

 

「うっ、あ、リィズ……リィズっ」

 

「ああっ、ふあぁっ。ね、お兄ちゃん。私のおっぱい、好き?」

 

 さっきと似た質問。だがそれは誰かとの比較ではない。そんな意図を汲みつつテオドールは返事をする。

 

「ああ好きだ。リィズの胸も、中も顔も体全部、綺麗でまっすぐな心も全部、好きだっ」

 

「嬉しいっ……お兄ちゃんに好きって言ってもらえるのが、一番嬉しいのぉっ」

 

 リィズはテオドールの背中に腕を回してゆっくりと上体を抱き起こした。目の前にあるのは彼女の豊満な胸。その柔らかさに顔を埋め、かぶりつき、乳首をしゃぶり吸い尽くす。リィズはそれに嬌声を上げながら腰の動きを加速させ、滑らかに媚肉をうねらせる。淫靡を極めるその行為は今の二人にとって何よりも穏やかで、尊くて、美しいものだった。この瞬間、兄妹は身も心も一つに溶け合っていた。

 

「お兄ちゃんっ、好きっ、大好きぃっ! ああんっ、もっと愛して。私のこと、いっぱい愛してぇぇっ!」

 

「愛してやるっ。これからいくらでも愛してやるっ。好きだリィズ、だから俺から、絶対離れるなっ!」

 

「うん、うんんっっ! もう離れないっ。私……ずっとお兄ちゃんと一緒に……あはぁぁあぁぁんっ!」

 

 下からの突き上げを仕掛けると、リィズの身体は衝撃と快感にぶるぶると震えた。さっきまでの労わるような動きとは違い、ただリィズを貪るためだけの本能的な動作。理性の抑えはもう利かなかった。ばちゅばちゅと腰をぶつけ、ほとんど垂れ流しの愛液にまみれた肉竿を膣壁にこすりつけながらリィズを穿っていく。陰嚢に感じる窮屈さを必死に堪え続けたテオドールの忍耐力も、そろそろ限界が近い。

 

「あっ! やああっ……お兄ちゃぁぁんっ、もうだめイクッ、ぅあんっ、イクうっ! キスしてっ、お兄ちゃんっ、キスぅぅっ」

 

「リィズ……っ!」

 

 唇を重ね、舌を絡め合う。上から下まで互いの体温と粘液をかき混ぜるようにして。二人の汗が醸し出す甘酸っぱい香りを胸いっぱいに吸い込んで。薄目を開けて覗き見たリィズの表情は、快楽に蕩けながらも心底幸せそうに綻んでいた。

 

「ああぁぁあぅんっ! お兄ちゃ……あぁあぁ、あ、あっあ……あ! ――い、くぅぅううぅぅうぅ~~ッッ!!」

 

「ぁぁリィズっ、リィズ……――――うッ!!」

 

 どちゅん、と最奥を突くと同時にテオドールは絶頂へと達した。――ぶびゅびゅ。厚みのある肉と亀頭の間で弾ける熱い迸り。精巣を根こそぎ持っていかれるかと錯覚するほど大量の吐精。それを一滴でも多く飲ませてやりたくて、リィズの子宮口(ポルチオ)に密着させたままでびくびくと射精を続ける。

 

「――あ、あ……はぁぁんっ。す、ご……」

 

 同じく絶頂を迎えたリィズの膣もまた細やかに蠕動し、テオドールの精液を奥へ奥へと運ぼうとする。脳髄が溶けそうなほどの気持ち良さ。それをひとしきり堪能した後、力の抜けたテオドールはリィズと共にどさりと汗まみれのシーツへ倒れ込んだ。

 

「はぁ、はぁ、――たくさん出たね、お兄ちゃん」

 

「あぁ……過去イチだったかも」

 

「それなら、次に赤ちゃん出来ちゃうのは私で決まりだね。ふふふっ……」

 

 愛おしそうな手つきで自分の下腹を撫でさすりながら、リィズがゆったりと微笑む。

 

「ん……私、ちょっと、疲れちゃったかも……」

 

「悪い、病み上がりなのに結局無理させちまったな」

 

「ううん、全然へーき。でも、なんだか眠くなってきちゃった……ねえお兄ちゃん。私が眠るまで、このまま抱きしめててくれる……?」

 

「ああ、勿論だ」

 

 ウトウトとしているリィズの唇にキスを注ぎながら、テオドールは彼女の胸や背中をまさぐってやった。そうしているうちに彼女の呼吸も次第に落ち着いていく。繋がりっぱなしの肉竿が少し緩み、それと同時に、リィズの膣口から熱気に滾る二人の愛液がじゅぷりと溢れ出てきた。

 

「ん……はぁ……こんなに気持ち良くて、ホッとするの……ホントに初めて……。まだ胸がドキドキしてるのに、すごく……リラックスしてる……」

 

「それが『幸せ』ってことだ。俺も今、すごく幸せだよ。リィズ、これからもっともっと、幸せにしてやるからな」

 

「これが、しあわせ……私……すごく幸せ、だよ……おにい、ちゃん……」

 

 やがてすうすうと、リィズが緩やかな呼吸をし始める。満ち足りたその顔を優しく撫で、テオドールは彼女から肉竿を引き抜いた。膣から流れ出るおびただしい量の白濁。それをティッシュで拭い、彼女の身体に掛け布団を掛けてやる。柔らかいぬくもりに包まれたリィズは微かに嬉しそうな表情を浮かべ、そのまま深い眠りへといざなわれたようだった。

 こうしているとまだ幼かった頃をふと思い出す。昼寝をするリィズを傍らで見守っていた、あの平和な日々。この幸せを今度こそ守り抜きたい。そんな思いを新たにしつつ、テオドールはリィズの安らかな寝顔をしばらく眺め続けたのだった。

 

 

 

「――お疲れ様、テオ」

 

 リィズが完全に寝落ちたのを確認して後、リビングに戻ったテオドールをアイリスディーナが出迎えてくれた。

 

「あの子(リィズ)はもう休んだのか?」

 

「ああ。せっかくのパーティーだったのに、済まない」

 

「構わん。ご覧の通り、あれからこっちはこっちで適当に楽しんでいたからな」

 

 アイリスが親指を向けたその先には、「ぐえぇ~」と弛んだ呻きを洩らしながらソファで寝潰れるアネットの姿。ファムとカティアはキッチンに立って洗い物などをやっている。自分たちが離席してから数時間。既に宴席はお開きとなったらしく、料理や食器などはテオドールの分を除いて殆どが片付けられていた。ひとまず座れ、とアイリスに促されたテオドールはソファに腰を下ろす。

 

「飲むといい。不慣れなもので、カティアほど上手には注げなかったが」

 

 彼女が差し出したものはなみなみとビールの注がれたグラス。金色の液体と泡の比率は半分半分で確かに上手な注ぎっぷりでは無かったが、今はその心遣いがありがたい。そんな気持ちを素直に告げてグラスを受け取ったテオドールにアイリスは薄く笑いを返し、隣に着座した。

 

「ユルゲンとグレーテルは?」

 

「二人とも自室だ。ユルゲンは早めに寝かしつけたが、グレーテルは明日の会議に備えて資料を作成すると言っていたな。……それはともかく、リィズを落ち着かせることは出来たか?」

 

「まあな」

 

 とは言え、これはまだほんの一歩に過ぎないだろう。そう考えつつテオドールはグラスをぐびりと呷る。ぼろぼろに打ちひしがれていたリィズがこの家を心から我が家と感じ、平常な心で皆と共に暮らしていけるようになるまでには相当の時間を要する事だろう。けれど今のリィズなら大丈夫。この先どんなことがあったって、きっと乗り越えていける。そうと信じて彼女を支えてやることこそ、これからの自分が為すべき最も重要な課題である筈だ。

 

「……と、そうだ、アイリスにも礼を言っておかないとな」

 

「何だ、やぶからぼうに?」

 

「俺とリィズが今こうしていられるのもアイリスが居てくれたからだ。アイリスがこういう道を俺たちに示してくれなきゃ、きっと俺たちはどうしようもなくなっていた。だから本当にありがとう、アイリス」

 

「よせ。私は自分が最善だと信じる道を歩んできただけだ。テオや彼女に直接何をしてやれた訳でも無い」

 

「謙遜するなよ。そもそもアイリスが俺に灯火を与えてくれなかったら、俺はどうしようもないクズのままだった。あの頃の俺じゃあリィズはおろか誰一人として守ってやれなかったに違いない。その力と志を俺にくれたのはアイリス、お前なんだ。それを俺が本当に心の底から感謝してるってことは、素直に受け取っておいて欲しい」

 

「――何とも面映ゆい話だな。それを言うなら、感謝するのは私の方だ。あの時テオが自らの最後の灯火に従い決断してくれたからこそ、私たちは一人とて欠けることなく今のこの幸福を享受できているのだから。……ありがとう、テオ」

 

 クスリと笑ったアイリスがおもむろにテオドールの手を握る。その手を握り返して見つめ合い、テオドールはアイリスとキスを交わした。そしてぼそりと、テオドールの頬をこするようにアイリスが呟く。

 

「……今夜は、さすがに弾切れだろうな」

 

「う、」

 

「バレていないとでも思ったか? ここはリィズの部屋の直下だ。いかにこの家が『互いのために』防音性を高めてあると言っても、天井からの軋み音だの喘ぎ声だのは流石に洩れ聞こえていたぞ」

 

 そこまでは気が回っていなかった。ひょっとして皆に嫌な思いをさせてしまっただろうか? そんな懸念にすっかり顔面蒼白のテオドールを至近距離で一瞥したアイリスが「ぷっ」と噴き出す。

 

「心配するな。聞こえたと言っても、耳を澄ませば辛うじて聞き取れたという程度だ。――尤も、ユルゲンには到底聞かせられないような代物だったから、あの子は早めに部屋へ戻して寝かしつけたわけだが」

 

「ぐぅ……悪い」

 

「テオが気に病むことじゃない。私たちだってリィズのことは気に掛かっていたし、荒んでいたあの子の心を鎮める方法として必要なことだと理解もしている。それに皆あの程度のことで今さら動じたりはしない――と言いたいところだが、カティアだけは別だったな」

 

 それはそうだろう、とテオドールは苦笑を洩らす。この家に暮らす面々の中で、カティアとだけはま(・)だ(・)だった。それは彼女の現在の立場や、移住後のこの一年あまりでカティア自身も色々と忙しい状況が続いていたから――という事情のせいでも勿論ある。だが実のところはそれ以上にカティアに対する自分の個人的な認識、言わば拘りが大きな比率を占めているのだが。

 

「とは言え、カティアも今年で十七歳。この世情もあって条件付きでの結婚も許される年頃だ。いい加減抱いてやったらどうだ?」

 

「そうは言ってもな。この手の話にはグレーテルが一番うるさいだろ? 『未成熟な婦女子を毒牙に掛けるとはー』とか何とか言って」

 

「そうやって子供扱いするのもどうかとは思うのだがな。あの頃ならばともかく、今やカティアもいっぱしの大人として国の為に尽くしている立場。ならばそれ相応の扱いをしてやって然るべし、と私は思うのだが」

 

「まあ、その辺は今度グレーテルとも話をしておく。それにカティア本人の意思も大事にしてやりたいしな」

 

「そのことなら――いや、まあいいか。私の口から話すことでは無いな」

 

 何だよ? と小首を傾げるテオドールにアイリスは何も返さず、ただ静かに目を伏せただけだった。

 

「ともかく、大事なのはこれからだ。テオの負担が大きくなるばかりで心苦しいが、頼んだぞ」

 

「任せておけよ。自分の守りたいものを守るためなんだ、そのための苦労なら幾らでも買って出るさ」

 

「ふふ、頼もしいな。――さて、私もそろそろ部屋へ行く。テオはここで一休みしたら今夜一晩リィズのところで過ごしてやれ。起きた時に貴様が居なかったら寂しい思いをさせてしまうだろう」

 

「分かった、今夜はそうする。じゃあまた明日な」

 

「ああ。お休み、テオ」

 

 颯爽と立ち去るアイリスを見送って、それからテオドールはグラスに残っていたビールを一口に飲み干した。と、そこにちょうど洗い物を終えたファムとカティアがやって来る。

 

「お帰りなさい、テオドールさん」

 

「ああ、ただいま。その、皆にもいろいろと気を遣わせちまったな」

 

「別にいいのよ。リィズちゃんも私たちの家族なんだし、みんなで助け合っていかなくちゃ。ね、カティアちゃん」

 

「はいっ。リィズさんが幸せそうで、私もホッとしました」

 

 ――それは暗に『聞こえてた』と白状してるようなものじゃないか? どうにも気まずい空気を誤魔化そうと、テオドールはソーセージを手に取りひと齧りする。合成食とは言え、旧国土に居た頃と比べれば遥かに味の良くなった我が国自慢の伝統食。普段なら文句無しに美味いと舌鼓を打つ筈なのに、今はほんのり苦いような気さえしてしまう。

 

「……んぁ~~、あれぇ、テオドール帰ってきてるぅ。そんじゃ~二次会といきますかぁぁ。カティアぁ、ビールもぉ一杯ぃ~」

 

 自分たちの話し声に反応して、アネットが眠りの淵から目覚めてしまったようだ。「ぶはあ」と酒臭い息を吐きながら身を起こしたアネットに、これ以上はダメですよ、とカティアが釘を刺す。

 

「アネットさん飲み過ぎです。今日だけでジョッキ何杯飲んだと思ってるんですか」

 

「あはは~、だいじょーぶだいじょーぶ。こんくらいで~酔っぱらってたらぁ~、衛士なんか~務まらないってぇ。あはははは~~……おぇぷ、」

 

 瞬転、アネットの顔色が青ざめた。これは明らかに許容量(キャパ)をオーバーしてる。咄嗟に身を引いたテオドールは、とりあえず近くに袋かゴミ箱でも無いか、と視線を巡らせる。

 

「ほらー、これ以上飲んだら悪酔いしちゃうわよアネットちゃん。お姉さんがお水持ってきてあげるから、飲むならそっちにしなさい」

 

「うぇ~。じゃあそこ置いといて……あたしちょっとトイレ行ってくる。むぶ、うぇっぷ」

 

 口元を押さえながら這うようにしてズルズルと、アネットがトイレへ向かった。――ありゃあ明日は二日酔い確定だな。そんな自分の遠目から思考を読み取ってか、カティアがくすくすと笑声をこぼす。

 

「あんなに酔ったアネットさん、初めて見ました」

 

「まぁ、元から酔いやすい体質ではあるけどな。いつもこのぐらいのグラスで二、三杯飲んだだけでベロンベロンになってるし」

 

 そもそもアネットは一時期、戦争神経症(シェルショック)のせいで戦闘中頻繁に鎮静剤と興奮剤の交互投与を受けていた時期があった。ああいった類の劇薬を投与され続けた人間はその後遺症として、アルコールの類に随分と弱くなってしまうものらしい。現在のリィズもアネットのそれと似たような経緯を辿っている。今後も二人にきちんと目を配ってやらないとな、とテオドールは改めて心に誓う。

 

「きっと、それだけ嬉しかったんだと思います。アネットさんもずっとリィズさんのこと心配してましたし」

 

「そうだな……人一倍仲間想いなヤツだからな」

 

「それもそうですけど、一番はやっぱりテオドールさんにとって大事な人だから、なんだと思いますよ。大事な人が悲しんでたら自分の事以上に辛く悲しく感じるものですし、逆に大事な人が喜んでくれたら自分も嬉しいし幸せだなって感じます。それと同じことで、テオドールさんにとって大事な存在を自分も同じように大事にしてあげたい――そういう気持ちは、私も一緒なので」

 

「……ありがとうな」

 

 カティアのその想いがありがたくて、嬉しい。そんな思いと共に、テオドールはカティアの栗色の髪をくしゃくしゃと撫でる。

 

「えへへ。これからも頑張りましょうね、テオドールさん」

 

「ああ。よろしく頼む、カティア」

 

「はいっ!」

 

 弾けるようなカティアの笑顔が眩しい。思えばこの笑顔を守ると決めたその時から、テオドールの本当の戦いは始まったのだ。そしてそれは今日この時まで地続きに繋がっている。誰かの為に戦う。それこそが衛士としてだけでなく人としての本質なのだという事を、この胸に強く刻みながら。

 

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