オレは若い頃、一人の女の子にとんでもないことをした。その時の事を思い出すと後悔していると言えば、そうだが。少し意味合いが違う。
どうせなら一人占めしとけば良かったなの後悔。犯すは、どっちにしたって誰も賛同しなくたって確実にしていたと思うから。だって、あんないい状況、逃す手はないだろう。
当時の若い反抗期の一年間。
その状態で成績を上げることを強要され正直、胸糞悪かったが。結果的に意味のある勉強、教訓にはなった。親父の発言どうり一年後、迎えに来た時は心底驚いた。
その間、仲の良くなった友。後に彼らを部下にし今の会社を経営しているが、時折思い出す。
彼女のことを。
もし、もしも、今も生きているなら。あの美しさをもっているなら、オレは彼女が欲しい。次は確実にどこかに逃げられないよう監禁でもして、オレのモノだけにしたい。本来、彼女は、もっと愛されるべき存在なんだ……――
*
夜の街を埋め尽くす紅蓮の色。
炎、炎が。
焼く、焼いていく。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
こんなのおかしい、おかしいよ。
でも、足が震えて家の中から抜け出せない。
「……ど、どうしよう……ママ、パパ……どうしよう……」
気づいているのは、ボクだけか?
ボクだけが、この異常を目にしているのだろうか。
だったら、ママ、パパに。
ママ、パパを。
外は、外は。
赤い赤い炎に頭を振る。
この家には、まだ火の手は回っていない。だから本当は『外に逃げよう』と伝えなければ。けれど、違う、そうじゃないのだ。
ボクは、ボクは。
どうする?
どうしよう……
アレは、なにさ。
アレは、おかしいよ。
ボクは二人にアレを見てほしくない。
ボクは、なんとか震える足を動かして、ママとパパの部屋の前に行く。
ガクガクと震える足。
でも、なんとかしなきゃ。
なんとか、なんとか。
“二人をここから出さないようにしなきゃ”
二人を出しちゃいけない。
ボクの誕生日を祝ってくれた二人の姿を思い出す。今日は初めて、ボクは自分の部屋を手にいれた。誕生日プレゼントでくれたのだ。
大好きな、大好きな二人。
必死で自分の部屋から丸机を転がしてくる。パパが用意してくれたコレを扉の前でひっくり返した。そうしたら廊下の壁と扉の間にスッポリとハマってくれた。
――……よかった……
ホッと息をつく。
これで安心だ。この机があるかぎり扉は開かない。コレで二人は外に行かないはずだ。ボクは、もう外を見ないようにして部屋から枕と毛布を引きずってくる。丸机の真ん中で身を横にして猫のようになり眠りにつく。大仕事をして疲れてしまった。きっと朝になれば火事も、あの異常もなくなっているはず。
きっと、きっと……――
***
神父とシスターが同室になる少年達に紹介を始めた。ある程度の説明を聴き目の前の少年が深く頷いた。
「よーう、新人!」
茶髪の背の高い少年が両手を上げて、ニカリと笑う。茶髪の片耳には、チャラチャラしたピアス。
「俺は、ブラソっていうんだ、よろしく!」
「ブラソか、ああ、よろしく」
手を出し握手を求める。両手で、ガバリッと握られた。元気が良い。
「コッチの無口なのは、ナダボカ」
横を顎で促がされ、ソチラを見る。薄黒髪の自分より少し背の低い少年。
「コッチのはペソン、まっ、ただの変態だ」
反対側を顎で促し、ニヤリと笑うブラソ。栗色髪の少年が頬を朱く染め抗議した。
「ブラソ! お前、なにワケわかんない紹介してんの!? ちが……違うからね!」
慌てる様を眺めて頷く。
「……なるほど、ペソンではないと」
「え、そっち!? 名前は合ってるよ! ボクは変態じゃないからね!」
「いいえ、ペソン坊やは変態です」
ブラソがニヤニヤと笑う。ペソンが、ブラソの尻に無言で蹴りをかました。ブラソ、直撃して握っていた両手を離す。
「ほう……坊や……やる気か?」
目を大きく開いて悪どい顔をするブラソ。
「ブラソ……お前って奴は、なんでいつもいつも……」
怒りの顔を向けるペソン。
「だって、本当だろーシスターの……」
「うわああああっ!」
ブラソに被さるようにして口を塞ぐペソン。シスターを見上げて朱い顔で否定する。
「ち、違うんですシスター……違うんです……」
フガフガと、ペソンの手からブラソの声が上がった。
「――……ぃ……の……」
神父とシスターを見ると、神父はニコニコとシスターはキョトンとしていた。
――……まあ、これだけ美人なら、オカズぐらいにはするよね普通……
オカズは有なのか神父を観察していたら目が合った。神父の瞳は優しそうなのに底がしれない。首を傾げて暴れる二人を見る。とりあえずは陰険ではない気の良さを感じた。
「ブラソのピアス、いい色してて綺麗だな」
ピタリ、ブラソの声が止まる。
「それ、珊瑚からとれる……コラールっていったっけ?」
朱よりの桃色のコラール。自分の土地では採れないが物によっては、ダイヤモンドと対等をとれる品だ。ブラソの物を見るかぎり良質は明らかだった。ペソンが、ブラソを伺うように手を外す。ブラソ目を見開いて。
「スゲー! よくわかったな! 母ちゃんの形見なんだコレ。指輪をさ、神父様が加工して俺につけてくれたんだ!」
頬を染めて、ニカリと笑うブラソ。驚いて神父を見上げる。
「器用なんですね……」
コラールを加工して、ピアスにして、つけた?
神父が?
あまりにも意外な、意外すぎる内容。
「神父様、すごいですよね」
シスターが何故か自分が褒められたかのように頬を染めて喜ぶ。
「ボクも、形見を指輪にしてもらいました!」
ペソンが左手の親指に捻り蛇のような指輪をつけている。原料は銀と金か。中々のデザインだ。
無口なナダボカも、ネックレスを静かに見せてきた。小さなターコイズが二つ。銀に囲まれて固められている。銀で、どうやって、あの模様を。
ゴクリッ。
喉が鳴る。
――……なに、この職人技……いや、家の職人よりも……
神父をもう一度見上げると思わず小声で呟いてしまった。
「家に引き抜きたい……」
呟いて、ハッとして口を閉じる。
――……いやいや、オレ、捨てられたんだから関係ねえし……いや、でも……将来的に……
頭が混乱する中、神父もネックレスをつけていることに気がついた。神父のネックレスは、いたってシンプルな銀の指輪。
――……あれ?
シスターを見ると、なにも着けていなかった。
***
次の日。教会でシスターと子供達が歓迎として賛美歌を歌ってくれた。外の外装も中々だったが教会内は、また美しく。オレはそれをボンヤリと眺める。
天井近くの丸びを帯びた鮮やかな硝子。色彩鮮やかなその様は、中々お目にかかれないことだろう。天井まで伸びるパイプオルガンのパイプも、また素晴らしく。思わず仰ぎ見て軽く首を痛めてしまった。
――……さすが有名な教会だけあるな……
鈍い金光するパイプ。黄色、赤色、青色、水色、紫色の硝子から射し込む光。幻想的だ。
照らされる子供達も、なかなか愛くるしく見えてくる。オレ以外にも席に腰かけ歌を聞き入る人々は街の人だろうか。馬車で移動中に見かけた自警団の服装をした奴もいた。多種多様。オレのように眺める者もいれば手の指を組んで祈る者もいる。
ふっと、ガタイのいい、筋肉質な黒髪の少年と目が合った。後列で、オレの同室のメンバーと並んで歌っている。
あ、ペソンは、ソプラノか。アイツ、同い年のくせして、女みたいに声高いもんな。
――……あー……一番年長者の……今年卒業とか聞いたな……えーと……名前は、ディリャ=ペサだっけ?
つり目だからか目付きが悪い。自己紹介の時も今もそうだが、睨まれている感じがする。否、睨まれている?
――……隣の部屋だよな……オレ、なんかしたっけ?
寝相で壁ドンしたとか。いや、その前からだ。
彼だけは同室と同じ順番で一番の年長者だからと紹介されたのだ。だから寝る前だ。
――……わかんねえな……人付き合いは上手いほうだとは、自負してるんだけど……
外に出れば合う合わないは、あると聴くが、二日目にしてこれか。『親の仇』っといった睨みよう。
――……他が良い奴らな分のハンデかねー……
持ってきた飴の缶とチョコ缶を手の平の上で転がす。
――……まあ、ガキ一人、攻略してやんよ……
ニコニコと、ペサに笑いかけると気まずそうに目を逸らされた。
二つのお菓子は教会の子供達にあげようと予め用意していた品だ。だからといって直接渡すつもりはない。皆が集まる休憩場に然り気無く置いて去るのだ。置く時もし人がいれば素直なタイプなら直接手渡して『皆と仲良くなりたくて』と、寂しそうなフリをする。
徐々に固めていく。無理矢理すぎない程度に徐々に。
――……事業を起こす時、使える奴がいるかもしれないからな……
ズル賢く生きる。それが、オレの生き方だ。
***
街の大火事で生き残った子供達は教会に引き取られた。だが、悲しいことに教会の神父は行方不明となっており新しい神父が来るまで自警団によって切り盛りされた。街全体が悲惨な状態だった。だが不思議なことに、復興は驚くほど早かった。仮面を着けた男と若い女が復興に一役かったらしい。
普通の速度ではない早さで建物は治され、教会もその時、新しくなった。寝泊まりする宿舎の方は無事だったが教会事態は燃えてなくなっていたからだ。それから数年は落ち着いていたが、ある日新しい神父が行方不明になった。
ここの神父は呪われている。
なんて噂が広がりながら自警団が必死に切り盛りをし、それから一週間後、新しい神父とシスターがやってきた。驚いたことに神父は、昔火事のさい行方不明になっていた神父だった。少しばかり記憶の欠けつが見えたが、丁寧な人で死んでしまった妻の姉の娘と共に教会で働きたいと願う。自警団の面々は正直子供相手は疲れていたので、これ幸いと直ぐに承諾された。
街の人間は火事の悲劇をうけた人間達に優しい。被害の共有意識があるのだろう。
「……」
二人の間の過去をあえて訊きはしなかった。きっと、苦しんできたのだろうと解釈づけて。
ボクは自警団の雑なやり方に年長者として気を使っていたので若いが年上のシスターに嬉しくなった。姉のように慕い、シスターが子供達で困ると必ず助けた。まるで本物の姉ができたと、ボクは喜んだ。
ボクは、家族が欲しくてたまらなかったから。
***
さあ、お菓子の缶を置きに行こうと外にむき出しの屋根だけついた廊下を歩いていると果実のなる木を見つけた。木々に囲まれて庭にあるそれ。家庭菜園的に育てているのだろうか。大きな実が明るい橙色をして美味そうに光っている。
――……あーハッサクって、いったかな……?
昔、腹のデカい妊婦と遊んでいた時に『食べたい』と頼まれて旦那の目を盗んで木に上って採ったことを思い出す。あれは中々のスリルだった。人妻を相手にするのは別居中あたりが無難だな。
気まぐれに木々をかき分けて、ハッサクの木に近づく。そこで、ハッとした。木の枝元に汚ならしい格好をした子供が座っていたからだ。
目をパチパチとさせる。ハッサクの皮が、パサリと地面に落ちた。下を見ると皮がいくつか落ちている。
「……」
夢中なのか、こちらを背にして気づかない子供。見たことのない赤銅色の長髪が風にはためいている。パッと見汚ならしいが意外に髪質は柔らかそうだなっと思った。
――……この街にスラムがある印象はないけど……
「ねえ、君、ここの子?」
声をかけると肩を震わして、コチラを振り向いた。
「……え」
振り向いた顔は長い髪で隠れている。が、一瞬、綺麗な何かが見えた気がした。
――……気のせい……?
よくよく見ると、よれて汚れた服の胸元が膨らんでいる。わかる範囲の足や手足も白く華奢で、どことなく柔らかそう。思わず固まる。
――……女の子……?
春風が、ヒュルヒュルと音を立てて木々を揺らす。揺れる髪。また、一瞬だが何か見えた気がして気になる。
――……お腹、減ってるのかな?
お菓子の缶を揺らして呼びかけてみる。
「お菓子、欲しい?」
子供の背筋が伸び、驚いた様子で頷いた。
――……おお、犬みたい……
昔飼っていたゴールデンレトリバーの雌が頭の中で映像として蘇る。
――……ガール……天国でも大好きなリンゴくってんのかなあ……
犬なのに涎を垂らすほど、リンゴが好きだったガールを懐かしみつつ。缶から取り出した紙に包まれた飴とチョコを手にのせて誘ってみる。手を動かす度に気になるのだろう全身が手の方に向く。
――……投げたら、飛びつきそう……
試しに飴の包みを上に投げてみる。まあ、子供の位置からじゃ確実に届かないから、オレの手の中に戻ってくるのだが。が、しかし。晴れた空に、突然影がさした。大きな影が全身を伸ばし、手も最大限伸ばし、木の太い枝から離れている。
「飛んだ……」
まさかの予想外。度肝をぬかれた。
ドスンッ!!
全身下敷きになり、オレは呻く。あまり重くないが高さからの落下は負荷がかかる為、地味に痛い。見上げると子供がオレの上にうつ伏せになり地面に落ちた飴に手を伸ばしている。
「……」
その行動で服が顔にかかり、子供の服から生乾きのような雑巾のような臭いがした。思わず顔をしかめる。しかし柔らかい感触もした。
――……胸、デカ……
子供の見た目とは裏腹に、なんという弾力。
カサリ。
チョコの包みを開けて子供の前に見せてみた。ぴったりと止まり、次の瞬間、指ごと食われた。
「わっ」
チュル、チュル。
オレの指についたチョコも逃さないように、子供は味わっていく。ソッと、空いてる片手を伸ばして子供の頭を撫でてみる。ビクンッと肩を震わして、バッとオレの上から降りた。転がる飴をチラチラ見ながら何故か距離をとりはじめる。
――……野性の犬……
身を起こし飴を拾い、紙の包みを取って指に挟んで揺らしてみた。
「……」
子供は、よつんばいになり、ジリジリと顔を近づけてくる。
――……頭を触られるのが嫌なのかな?
子供の喉が鳴っている。ごくん、ごくんっ。ついでに腹の音も聴こえた。
――……しかし食欲には逆らえないと……
珍妙な動物に餌をやる感覚。口元が自然に緩むのを感じた。
「……あのチョコもお気に入りなんだけどさ、こっちのミルクティーを包みこんだ味の飴も美味いんよ」
手を揺らすと子供の顔も揺れる。
「食べないの?」
オレが残念そうに遠くに投げ捨てようとすると、また指ごと食わえてきた。
チュル、チュパ。
温かく、柔らかい感触。メイドと最後にヤりまくった場面を思い出す。思い出すと、ついつい下着を着けていない子供の谷間に目がいく。よつんばいだと、ユルい服装から丸見えだ。角度さえ頑張れば乳首も見えるかも。飴は、チョコよりも長い、スケベ心を野性的な子供に発揮するのもどうかと思うが。
若いんだ、胸の思い出の前では、多少のことは目をつぶる。それに臭い系は身を整えればなんとかなるもの。漁師の女だって仕事終わりは生臭さが半端なかったが洗えば、ちゃんと女だった。
――……大丈夫、大丈夫……
なにが大丈夫なのか。オレは自分に暗示をかけ、ソッと、頭じゃなく子供の胸元に手を伸ばす。
ムニュリ。
頭と違って逃げる気配がない。
ムニュ、ムニュ。
「……」
チュル、チュパ。
少し妄想してみる。
例えば、オレのアソコにチョコを塗りたくり差し出したら、この子供は食べるだろうか。
――……食べそうだ……
きっと、口一杯に頬張り、丹念に残さず食べていく。胸を布の下から触ってみた。
「……っ!」
思わず、息を飲んだ。
手に。
手に触れる、初めての質感。絹、シルク、陶器、ああ、なんだこれ。綿菓子、ポップコーン、いやいや、マシュマロ?
なんだ、なんだ。祭りの際に、ピエロが膨らました風船。
近い、近いけど、違う。スベスベで、ハリがあって、柔らかくて、手に張り付く。
――……信じらんねー……
気がついたら、オレの股の間は膨らんでいた。