飴を舐め続ける少女。そういえば噛む素振りがない。野性的なら噛みそうなイメージがあるが。丁寧に丁寧に舐めてくる。
ゴクリッ、ゴクリッ。
喉がなる。まるで、股の間のコレを舐められている感覚だ。
飴を舐めているんだろうけど連想してしまう。服をずらし少女の乳首を見る。ピンク色の綺麗な乳首。胸を触りながら緩く挟むと少女が不思議そうに動きを止めた。
「あ……ごめ……」
オレの後方先から子供達のはしゃぎ声が聴こえた。
ハッとして。
どちらの手も力が緩む。慌てたように舌で飴をすくい上げ立ち上がる少女。そして背を後ろにして走り去ろうとする。
「あ、まって!」
呼びかけると離れた先から振り返り小さく頭を下げ。
「……ありがとう」
蚊の鳴くような声で呟かれた。
「え」
野性的な行動からして、そんな言動があるとは思わなかった。もしかして聞き間違えだろうか。
「あの……」
今度は振り向かず少女は木々の中を通り抜けていってしまった。茫然として自分の両手を見つめる。夢のような感触の名残と唾液で濡れた指先。光に当たり照り照りしている。唾液と甘いお菓子の匂い。
試しに舌先で舐めてみると、甘い味がした。
*
ボクの、シスターの様子がおかしい。そう思い始めたのは、あの『化け物』がこの教会に住み着いてからだ。
子供達を家族として愛情を注いでくれるシスター。困ってへこんでも、それを悟られないように頑張っていたシスター。
ボクは知っている。子供達の栄養を考え毎日のように献立に悩んでいることを。
ボクは知っている。新しい服が欲しい子の為に街の人から古着をもらい神父とデザインを考えて新しく作り直していることを。
ボクは知っている。一人一人の子供達に耳を傾けて親身になって話をきいてくれることを。
毎日、毎日、辛いはずの中、弱音を吐くことなくシスターは頑張ってきたんだ。なのに。
なのに。
慈愛に満ちた、シスターの顔が歪む。恐ろしい化け物をみて歪む。
そして、シスター。彼女らしからぬ罵りを呟く。
なぜ、なぜ、なぜ。
シスター。
シスターが苦しまなくては、いけないんだ。こんなに頑張って、頑張って、頑張って。ボクのあの、おぞましい悪夢でさえも包み込んでくれたシスターが、どうして。こんな化け物のために苦しまなくては、いけないんだ。ボクのシスターに、どうしてお前は。そんな仕打ちをするんだ……――
***
歌が終わると、シスターや神父は街の人達に女神の物語を語ったり。日々の事柄を話したり。ボクは外に出ていく子供達を尻目に二人を眺める。
綺麗な微笑みを浮かべるシスター。長い綺麗な草色の髪を揺らして神父の手伝いをする。シスターと目が合うと緑色の瞳を緩めて微笑まれた。
綺麗な笑顔。ボクの心臓がトクンッと動き頬が染まる。
――……シスター……
身体の中に甘い花が舞うような気持ちだ。シスターの笑顔、シスターの仕草、シスターのドジ。何を見ても愛くるしい。
「……レソ」
神父が親しい名前を、シスターの名前を呼び。シスターが近づく。シスターの綺麗な髪を耳にかけ何かを囁いている。嬉しそうに頷くシスター。
「……」
二人のそんな様子に、たまに頭がおかしくなりそうになる。
けれど違う。神父は、シスターの叔父にあたる人。
そんなわけがない。その証拠にほら。
神父の首につけられたネックレスには火事で死んだ妻の形見が。形見の指輪があるじゃないか。
違う。
違う。
あれは親愛だ。
親子のようなものだ。
だって、そう。
そうじゃなきゃいけない。
シスターは、シスターは。
ボクは火事の修復の時に知り合いになった建築士の元で早いうちから働いている。長年働き。時間をかけて頑張れば家も自己の力で作れるまでになった。お金も随分貯まった。
最初は箱に貯めるだけだったけれど、そのうちシスター名義で銀行に預けてもらっている。ボクと、シスターのお金。
それで卒業後は街から少し外れた土地を買い。安アパートか簡易テントで暮らしながら知り合いにも手伝ってもらって、一から家を創るんだ。予定では仕事を週末のみにして一年半か二年で家を作り上げる。建築士の師匠にも話はすんでいるから、抜かりはない。そして完成したら、シスターの手を引いてプレゼントする。家の設計も、ちゃんとシスター好みだ。
二階建ての広々とした朱い屋根の家。煙突は朱レンガ。白とクリーム色の壁。下のパネルは、クリームとピンクをはめる。一階は、シスターが動きやすい大きな台所。リビングには朱いソファーを置いて暖炉を備え付けて温かそうな木の板面で小物が置ける棚を作り、ラジオと蓄音機を置けるスペースもつける。カーテンは白のレースを下に上は、シスターの手作りのを着けようって話した。できるまでは、シスターの好きなピンク色のを着けておこう。
下の一部に敷く絨毯は、クリーム色か白。最近だと水玉模様もある。シスター悩むだろうな。机は楕円形の木の味をだしたもの。書斎は、ボクの自由で良いって言ってくれた。ボクとしては書斎じゃなく子供部屋にしても良い。
トイレは白とピンク。お風呂場は二人で入れるよう広めにしたいな。あ、脱衣所に椅子が欲しいって言ってた。全身鏡も用意して、二階は二人の寝室。残り二部屋は将来の子供達の為の予備。二階のベランダは全部屋に繋がっている風にする。屋根の物置を子供達の秘密基地用にしようって、シスターはしゃいでたなあ。
そこには丸窓を付けて満天の星空を見るんだ。そして周りの庭は家庭菜園や花壇をシスターの好みで近くには水辺があり木のボートもつくる。夏には、ランチを作って釣りをしたり詩を読んだり。ボクが建築で悩んでる時に、シスターと楽しく考えて決めたこれ。ボクは何度も頭の中に浮かべて、つくりあげている。
シスター、待っててね。
あと数年もしたら、お嫁さんになってもらうから。
ボクのお嫁さんに。
ボクの可愛いお嫁さんに。
そうだ、シスターのバージンロードは、シスターの好きな花で埋めつくそう。子供達に頼んで、朱、ピンク、クリーム、白の花を集めてさ。
シスター、きっと喜ぶだろうなあ。
***
物置小屋の中で目が覚めた。ブルリッと身が震える。また朝がきてしまった。朝、日が昇る前に厠に向かう。他の子達に見つかる前に行かなくては。でなければ彼らが離れる時間まで厠に行けない。一応、辺りを伺いながら、そおっと近づく。流石にこの時間に起きている子は、いないようだ。ホッとして手洗いの水場の影から身を乗り出して前に進んだ。
チャポンッ。
通り過ぎようとした手洗い場。その隣にスダレの蓋が斜めに落ちている。湧き出る水が薄く溜まり続けるソコは夜になる頃に虫やゴミが入らないよう蓋が閉じられ。夜洗いたい者は、その都度スダレを少しだけずらして開ける。
「……っ」
胸がヒヤッとした。このままでは落ちていることでまた怒られてしまうかもしれない。
ううん、きっと怒られる。
慌ててしゃがみスダレを拾い。立ち上がって上に広げた。貯まった水に視線が向く。皆が起きる前に用をすませ、暮れていなくなった後に用をする日常の中、明るいうちにまともな水面を見るのは随分ぶりのことだった。綺麗な湧水の流れは緩く案外鏡のようにモノを映す。
ふっと、揺れる水面に知っている色を見つけ幻聴が重なった。
『ば…も…』
『ばけ……』
『ばけもの』
『化け物』
笑い声、罵り声が聴こえる。
『アハハハッ、きたねえな化け物』
『近寄るな、臭い臭い』
『気持ち悪い目』
『呪われた目だってさーぎゃー近寄んなー!』
『何こっちみてんの? 化け物に呪われるー!』
記憶が鮮明に頭の中で映像とかし追いかけてくる。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
気持ち悪い。吐きそう。
震える身体。手に持っていたスダレが力を無くした指先から下に落ち、ワナワナと震える両手で耳を塞いだ。
ああ、ずっと、見ないようにしていたのに。
もう、見ないようにしていたのに。
ああ。
ああ。
ああ。
どうして、どうして。
ママはそんなこと、一言も言わなかった。
『化け物』『化け物』『化け物』
――……やめて、やめて……いわないで……
フルフルと顔を振る。少し考えれば、わかることだ。冷えて固くなった、カチカチの脳みそに何か鋭利なモノが突き刺さる。
わかること。そう、少し考えれば、わかること。
「……そんな」
気づかないフリをしていた。
ずっと、ずっと。
そうだ、そうだよ。
「ぅあ」
きっと、この所為だ。だから、ママは、あんなに悲しそうに微笑んでいた。
だから、私の顔を見る度に。
なんてことだ。
なんてことなんだ。
「……ご、ごめんなさ……ぃ」
私は。
私は、きっと、コレでママを苦しめて苦しめて。
ママを苦しめて。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
胃から込み上げてく液体をゴクリと飲み込む。喉が焼けて痛い。
「ぁあ」
私がママを苦しめていたのね。そう、だから、あの日ママは私と。
熱い液体が頬を伝う。
私は、なんて酷いんだ。
もっと早く、ママがいなくなってしまう前に何故、気づかなかったの。
優しいママが悲しんでいたのに。
「ひ、ぁ、あ……ごめんなさい、ママ、ごめんなさい……」
片目は、ママと同じ薄茶色の瞳。片目は違う紅い瞳。耳から手を外し、左目を片手でソッと押さえる。
「……ぁ」
眼下の水面には片目だけが映った。
「ああ」
片目は薄い茶色。紅い瞳じゃない。瞳じゃない。
そう。
そう。
「……そうだ」
ハッとして辺りに何か閃きの星が舞う。
簡単なことだ。
この瞳があるからいけないのだ。だから皆に化け物と言われるのだ。
教会の厠の手洗い場。そこの水面には顔が映っている。手を下ろすと二つの色が朝日に照らされ映った。淡い太陽の光の粒子が水面から流れていく。
ホゥ……と、息を吐いた。
痛いかな?
痛いよね?
殴られるよりも、蹴られるよりも、傘の先を足に刺されるよりも。
指をいれるんだもの。
きっと。
でも。
でも。
その痛さが終われば。
きっと。
きっと。
うん、うん。
ママと同じ薄茶色の瞳だけ残せばいい。
残せばきっと私だって。
皆と遊んでもらえる。
神父様に懺悔をきいてもらえる。
シスターに微笑んでもらえる。
震える。
震える指を。
間違えないように指を。
指を入れて。
“取り出せばいい”
ソレだけできっと。全て上手くいくのだ。
コクリッと息を飲む。指先で瞼を押し上げて表面に触れる。
ぼやける視界。涙が滲む。奥まで人差し指と親指を入れて引き抜いて蓋を開けるみたいに捻った方が早いかな?
チュク。
痛い。一本、指先を一本、押し込むだけで痛い。
痛い。
痛い、痛い、痛い。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたあい、いた…い、いた…あああ…い…
ズニュリ。
手首の腱がギュウっと握られて私の指から力が抜け腕が外に引かれた。強制的に赤く濡れた指先が離れる。ぼんやりと片瞳で人影を見つけ身体が震える。見上げると神父様がこちらを見下げていた。
「神父様……?」
声が自然に震えて呟いた。
あぁ、見つかった。
もうちょっとなのに。
いつの間にきたの。
こんな朝早く。
神父様。
怒る?
見逃して。
許して。
とらして。
もうちょっとなの。
もうちょっとなの。
もう、ちょっとで、つかめそうだったの。
痛くても、でも、終わってしまえば、化け物は、化け物じゃ。
混乱する頭。
混乱する頭を溶かすように神父様が顔を左右に振って声を落としてくる。
「……エムリ、ソレは親分の形見だ、残しておきな」
――…………え?
呆然とする私の頭を撫でると神父様が微笑みを浮かべた。
なぜ、なぜ、なぜ。
なぜだろう。
よくわからない。
なぜ、神父様はそんなことを言うの?
私、怖くて、怖くて、でも、コレさえなければ。
コレさえなければ、私は、やめてよ、なんで。
――……なんでですか……
頭の中に熱がたまってくる。身体が痺れて妙に渇いた喉が歪な声を上げた。
「し、神父様だって……神父様だって言ってるのに……この瞳がいけない、だから私が化け物だって、言ってるのに……なんで、なんで……!」
産まれて初めて怒りが沸いた。これしかないのに、どうしてこんな瞬間に私の名前を呼び止めるのか。いつも呼ぶことのない。季節が一つ巡っても呼んでくれなかったのに、どうして今なの。
「わ、私、化け物なんかじゃない、化け物なんかじゃないのに……ちゃんと名前があるのに……! どうして、そんな風に呼ぶの? なんで、なんで……」
神父様が屈みこみ両手で頬を撫でてきた。顔が近い。息のかかる距離で神父様が目を見開き呟く。
「……そうだな、いうなら、そう、僕がレソを愛していて……君のことも可愛いと思っているからだよ」
「……え」
息が漏れた。カタカタと震える身体。
ポロ。
ポロ、ポロ。
ポロリ、ポロリ。
溢れる涙。薄い赤色の涙。頭の中が真っ白になる。
『化け物だから』
『その瞳が紅いから』
だから、いけないのだと、なんでいつものように言わないの?
理解できない。神父様、理解できない。
理解できません。
どういうことだろう。
意味がわからない。
意味がわからなくて、わからなくて。
何かが、ガラガラと崩れていく。
すがる何かが崩れていく。
神父様の笑顔がより近づき額に口付けをしてきた。涙が止まらない。
「うん」
嬉しそうな神父様の顔が側から離れていく。
「ああ……僕、好きだなあ……そーいう顔。とっても、そそられる」
朝日に照される神父様の優しい表情を見れば見るほどに身が震え。恐怖を感じる。口が息を求めるように、パクパクと動いた。動いたが声が声にならない。
「あーあ、君が吸血鬼じゃなければなあー……こんなに美味しそうなのに……」
神父様の片手が私の震える首筋を撫で軽く握り絞めてくる。
「……吸血鬼の血ってね、吸血鬼には一定量を超えると猛毒だからさー……」
「ぁ、あう……」
軽く喉が締まる。苦しいほどではない。ないが、身体がいうことをきかず腰を抜かした。神父様の手から離れて尻餅をつく腰。
チョロ……
チョロ……
「ぁ、わ、う……あ……」
真っ青になる顔。股の間から温かいものが広がる。涙で視界がぼやける。鼻水が垂れ、つまったような荒い息が漏れた。
ヒィー……
ハヒィー……
「本当……いい表情するなあ」
たまらないといた甘美なため息が落ちてきた。カチカチと歯の奥がなる。地面に広がっていく染み。独特な臭いと湯気が股の間から上がった。
怖い。
怖い、怖い。
神父様が怖い。
ゴソゴソ。
布の擦れる音。
何か液体が擦られるような音。
シュ、シュ、シュっと、その音が早くなっていく。
視界の端。
上で神父様が何か動いていた。
震える顔を上げる。
朧気な視界に見たことのない塊が見えた。独特な重量をもった塊。しなる姿は不思議な弾力ある動きを見せる。神父様の手の中で生き物が暴れるように上向き、液体を撒き散らす。朝日に反射して、パラパラとパラパラと。固まっていると顔に温かい液体がかかった。髪から額、鼻筋を通り、口元に垂れる。変な臭いがした。
湿った地面を気にせず、しゃがみ込む神父様。大きな両手が伸ばされる。手がゆっくりと押し込むように顔を撫で回し朝の空気に冷えていく液体を広げていく。
クリームのようなベトベトが髪から耳の裏や穴の中まで塗られ。息づかいが落ちてくる。神父様が私の唇を指平でなぞる。唇の形にそって、クリームが塗られた。
優しげな手の圧力。頬を掴まれた。神父様の大きな手が、歯と歯の間、頬の上から両側の窪みに指を押し込み。自然と口が開いた。
神父様の液体で濡れた指先が口内に入り込み舌を撫でる。苦い味がして思わず吐きそうになった。舌で押し返そうとし、できなかったので歯を食いしばる。でも硬い指。力一杯ずっと噛んでいると顎が痛くなった。
「僕はさ、噛まれても……まあ平気だけど、普通の雄なら叩かれるかもね」
荒い息の神父様が身を寄せ熱い息を吐き耳元に言葉を囁いてくる。
「……僕で、舐める練習しよっか」
神父様が指を抜き腰を上げ、あの塊を口元に持ってくる。
「エムリ。君は折角の素質を持っているんだ。覚えておけば役にたつよ」
頬に弾力のあるソレが擦り付けられる。
「……噛まないように舐めて、それができたら、きっと良いことがあるよ」
愉しげな声色。
「……よ……良い……こと……?」
予想外な言葉に思わず反応した。
よいこと?
よいことがあるの?
恐怖の中、少しだけ見えた光。すがるように神父様を見つめた。神父様は綺麗な笑顔を浮かべている。
「うん、とりあえずはね、この後一番に君をお風呂に入れて新しい服を用意しよう」
私は目を見開いた。
中々入れないお風呂。ここに来てから滅多に替えていない服。たまに要らなくなって焼却炉で燃やされる寸前の服を拝借する事がある。どうしてもボロボロの服は、布団代わりにしている。
ゴクリッ。
息を飲んだ。それは、とても甘美な響き。
舐めればいい。噛まずに舐めるだけ。それだけで、お風呂に入れて服が貰えるのだ。
ペロ。
舌を出して促される塊を舐める。
ペロ、ペロ。
苦い、苦い味を、口一杯に頬張る。
チュル、ペチュ。
口の中で蠢く塊。喉の奥が、ネットリとして息が苦しい。
チュル、チュパ。
口の中のネバネバ、ムズムズ。吐き出したい。でも『良いこと』の為。その為なら簡単なことな気がする。
ジュル、チュル。
神父様の腰が緩く動いて喉を刺激した。
「……ぐ、ぅ、ぇ……」
吐き気で、モノを入れたまま唾液が口の端から滴った。生理的な涙と鼻水が止まらない。
頭を抱えられた。神父様の腰が振動する。神父様の足布にしがみつき、グッと耐える。程無くして口一杯に苦い味が広がった。
「良い子だね……」
抜かれない塊。口の端から溢れるあのベトベトしたクリーム。私はジッと神父様を涙目で見つめた。
いつ、終わりなのだろう?
私から垂れた液体を顎もとで神父様は手に拾い。その液体を私の髪に塗りたくっていく。愉しそうな神父様。この液体の臭いが全身を包み込んでいく。
「ほら、味がするだろう?その味がなくなるまで、しっかり舐めてね」
優しげななのに、優しげな笑顔なのに。よくわからない恐怖感は拭えなかった。
必死に舐め。ようやく終わった頃は皆が起き出す時間頃で私は約束どうり風呂に入ることができ新しい服をもらった。長い肌触りのよい毛糸の服。冬を越すにはありがたい。下着はないので、そのまま裸足で物置小屋に戻る。物置小屋の中には、よく忘れられてしまうご飯と共に、ここに来て初めて置かれた甘いものがあった。
顔を近付ける。
――……む、昔ママが作ってくれた……プリン……?
夢じゃないかと思い大きく吸い込む。
大丈夫。
大丈夫だ。
夢じゃない。
食べ物の香りに自然と涙がこぼれた。