心に漂っていたモヤが、せっかちな夜とともにどこかへ去ってしまって。眩しい朝日が、カーテンを貫いて差し込みます……が、まだ目覚まし時計は鳴りません。生活習慣が乱れがちな配信者が起きるには、まだまだ早い時間なのです。
いやいや、べつにね、起きようと思えば全然起きれるけれども……! 用事もないし、そこまで起きたくないし……だから、半分だけ眠って、半分だけ起きて……そんな時間を満喫するのです。
まどろみ……そう、これよ! この意識のトロトロ具合……とても……とてもは言いすぎだな……ちょっとだけ得した気分になります。
そんなぜいたくを楽しむのがラミィの日課ですが……腕枕をしてくれていたカッコいい肉食獣はそうではないみたいです。
ラミィが小鳥のさえずりに癒やされていると、腕枕がするりと抜けて、ふかふかの枕に差し替えられてしまいました。
あー、んー……寝やすさはね、さすがにこっちの方が上だけども……ラミィは、ししろんの二の腕のぺっとり感ともっちり感が一番好きなのに。
その肉枕は、ししろんのおっぱいよりちょっとだけやわっこいのに、意外とたくましいところにまたドキッとできるので……。
そんなラミィの葛藤を知る由もなく……ベッドから下りたししろんが、クローゼットを開けて……するする、しゅりん、とシャツに袖を通します。最近よく泊まっていくので、着替えを何パターンもこっちに置いているんですよね。
クローゼットの中は明らかにタイプが異なる衣服がみっちり詰まっておりまして、これがまた〝半同棲〟って感じがするので……ラミィはすっごく好きなんです。
今日着ているのは、きっとアレですね……あの新衣装というヤツです。かっこよくて、シュッとしてる……一緒に並んでデートをしていると、ボディーガードに守られているような頼もしさを感じるアレです。メカクレな髪型もね、素敵だよね……はぁ……もー、好き……。
その生々しい衣擦れの音は、憧れの先輩のASMRぐらい愛しくて――「よっ……と……」――そうそれ!今の『ぎゅっ、パチン!』ってベルト締める音よ!!
はぁー、一生聞いていられますね。録音してLI●Eの着信音にしたいですね。
「……ラミちゃん、昨日はありがと……ご飯もおいしかったし、温もりを感じられて嬉しかった…………愛してるよ」
着替え終えたししろんは、いつも通りに……毎朝のルーティーンをこなすように、眠ったフリをするラミィの頬に顔を寄せ…………んッ…………!?
「……ちゅ……む、んっ……ふぅ……」
……く、唇でした……しかも、わりと……がっつりめに……ひえーっ、息ができない~……。
「んっ……ん、ん……はむ……ん、むっ……」
あっ……ちょい、まち……くちびる、くみくみしないで……! 声、漏れちゃう……寝たフリ、バレちゃうから……!
反射でキスに応じてしまっているラミィのことも気にせず、ししろんは唇をちゅうちゅうしてきました。
なんか……いつもより、激しいような……? ししろん……ラミィとの別れを、惜しんでくれているのかな……?
「んっ……んんっ……! ふぅ……ふぅ……むぅー……!」
「んぷっ……おっと、さすがに起きちゃうか……。仕事もあるし、そろそろお暇しましょうかね…………じゃあね、ラミちゃん…………っ……♪」
わざと音を立てるように頬へとキスをしてから……ししろんは、最低限の物音だけを残してラミィの家を後にしました。そのテキパキ具合は、本当に〝仕事人〟って感じです。
眠り姫を目覚めさせて、脳を沸騰させようとするほどに情熱的な、王子様のキスでした……。その温もりと、濃いめの残り香のせいでニヤニヤしてしまいそうになる頬を必死に押さえていたら……家のドアが閉じて、合鍵が回されてから数分が経っていました。
「……もう寝たフリする意味ないが!? いつまでひとりでニヤニヤしてんのよ!!」
雪民さんたちに鍛えられたツッコミ力が顔を出すほどに覚醒した頭を起こして、ほっぺたをさすって幸せを実感していると……目覚めていく心に、少しずつモヤモヤが溜まっていきました。
「……っていうかさぁ……なぁんでさぁ……! あんなにガチのキスするクセに……エッチだけは……そっちから誘ってくれないのよー……!」
……そうなのです。ししろんは、その……昨晩みたいに、ラミィの身体を触ってはくれるんですけど……それで、終わっちゃうのです。
ペッティングだけで満足させられちゃって、その感じてる顔をずっと眺められて……気づいたら、ラミィだけ全裸で……仲良くイチャついてキスをしたり、ピロートークをしたりしながら眠りに落ちていく、みたいな……。
はじめてエッチしたときから、ずっとこんな感じなのです……。その時もラミィが『……えっち、したい……』って誘って……ししろんは『いいよ』って……。脳死で『いいよ』って言っている疑惑すら浮かんでますよ、これ……。
性欲がない……というか、興味がないのかはわかりません。キスもハグも向こうからしてくれるぐらい――ああ、もちろんラミィからもしますけれども――ラブラブなのに……エッチだけは本当に……一生この感じなのです。
もちろん、ラミィだってこの状況を良く思っていません。どうにかこうにかしたくて、行動は起こしていますが……その成果はお粗末なものでして……。
たとえば、じゃれつくようにおっぱいを触ると、反撃をするように先っぽをコリコリしてくるからすぐ負けるし……。『ラミちゃんのおっぱい、ザコすぎー♪』とか嘲笑されながら、乳首だけで無様にイかされるし……なんなのよ、もう……ってな感じで……我ながら情けないおっぱいですね……。
っていうか、ししろんに触られていくうちに……身体のあちこちが感じやすくなっちゃってるワケで……これから先、惜敗が惨敗になっていく一方なんだが……?
……このままでは、ホントに……ししろんの好きにされるばかりで……。いつまでも、この切なさを抱えて生きていくしかできないのでは……そう思ってしまいます。
ラミィの抱えている危機感は、日に日に大きくなっていきます。愛し合っているはずの夜伽で、ししろんとの距離が空いてしまっているような……そんな恐怖を感じていたのです。