ししろんに盛大に絶頂させられて間もなく、ラミィはくったりとしながら、ふうふうと息を整えていました。
いつもなら、このままピロートークを始めて……スッと眠りに就けてしまうような疲労感に包まれていました。
「さっきの話だけど……あたし、ラミちゃんのおしっこならイケそうな気がするな……ぺろ、ちゅろろ……♪」
「きゃっ!? ちょ、っと……あんっ、く、ぅううっ……はぁんっ……! 待ってぇっ……まだ、余韻がっ……ふぁああっ……!」
まだイッたばかりだというのに、ししろんのクンニリングスが再開してしまいました。
敏感に蠢くヒダをぺろぺろと舐められて、じゅろじゅろと水っぽい体液をすすられます。渦巻いていた快感の残響が、じわーん、と広がるように気持ちよさが増していきました。
肉食獣のざらついた舌で、クリトリスや内側をぺろぺろと舐められ続け……終わらない余韻の中で、すぐに軽い絶頂まで押し上げられてしまいました。
「んむ……? ちゅぽっ……ナカ、きゅーって締まってたけど……ラミちゃん、またイッたの?」
「はひ、ぃっ……はぁっ、んっ……! し、ししろんが、イかせるからぁっ……ぁんっ……!」
「へへ……♪ ラミちゃんがおま×こヒクヒクさせて欲しがってたから、お願いを聞いてあげただけなんだよなぁ。ラミちゃんは淫乱だなぁ、ホントに……♪」
ししろんはガクガクと揺れる股座から顔を上げ、ラミィが無様に呼吸を乱している顔に向けて……なんともまあ、むかつくほどに綺麗な嘲笑を見せていました。
その視線は、浴びるだけでもとても恥ずかしくて、一方的に愛撫されるばかりの自分がちょっと情けなくなるほどでした。
顔がカーっと熱くなって、『ぐぬぬー!』ってなって。もう、身体が自分の言うことを聞いてくれそうもありませんでした。
「こ、このーっ……! ししろんだって、同じ目に合わせてやるっ……!」
「んぁっ……!? わ、ちょっ……ラミちゃっ――……!!」
舌で一方的に絶頂させられて、ラミィはちょっとムキになっていたのかもしれません。
……それだけ興奮していたというのもありますが……とにかく、余裕すぎるししろんに一矢報いてやりたかったのです。
ラミィはししろんの腕を掴んで、ぐるりと体勢を入れ替えます。ベッドに寝そべらせたホワイトライオンの端正な顔立ちを見下ろして、まずはキスをしてやろうと――。
「………………ぁ…………」
――そう思ったところで、ラミィの動きは完全に止まってしまいました。
「……め……て………………」
それも当然のことでした。先ほどまで、あんなに飄々としていたししろんが……時が止まってしまったかのように、表情を硬直させてしまっていたのです。
「…………や、だ………! ………もぉ、やだぁ……っ……いたいの、やだぁ……!!」
年頃の女の子――いえ、もっと幼い少女のように。素直な〝恐怖〟を前面に出して……ししろんは、ラミィの存在を拒否していたのです。
力なく開いた口から覗く舌で、つい数瞬前まで感じていた気持ちよさなど、すっかり忘れてしまうほどに……いたたまれない空気が満ちました。
ほんとうに、ついさっきまで。目の前、鼻の先、一番近い場所にあったはずのラブラブな空気が……ラミィたちが積み上げてきた関係性ごと、吹き飛んでしまったようでした。
押し倒して、体重をかけていた肩を解放しました。すると、ししろんはすっかり慌てた様子で、自分を守るように……布団の中にくるまってしまいました。
ラミィは呆然とすることしかできなくて……真っ赤だったはずの顔から、ひゅーっと熱が引いていくのを感じるだけです。
『ほら、ラミちゃん。風邪ひいちゃうから、一緒に入ろう』
いつもなら、そう言って……お布団を半分こしてくれていたハズなのに。素っ裸のラミィを気にすることもなく、ししろんは厚い庇護の中でガタガタと震えるばかりでした。
「…………ししろん……?」
名前を呼んでも、返事すらしてくれませんでした。
「……ごめん……そんなつもりじゃ、なくて……。ラミィは、ししろんと……もっと……仲良くなりたかっただけなんだよ……?」
謝っても、ししろんは震えを強くして「ごめんなさい」と繰り返すばかりで。ラミィの言葉を、何も聞いてくれませんでした。
ラミィは仕方なく、よろよろとしながら自分でエッチの後片付けをして……お布団の塊の隣で、いくつものタオルをお腹に掛けて休むことにしました。
二度の絶頂で疲れてしまっていたのか、ラミィはすぐに眠ってしまいました。
お布団と、ししろんの添い寝がない夜は……心身がとても寒くて、まともに起きていられないものでした。
――――――
もやもやとした心のまま、迎えた朝。いつの間にか、もぬけの空になっていた布団を寝ぼけ眼で見つめました。
ベッドに残っていたのは、虚しさと、儚さだけ。ラミィが寝ている間に、あの子は逃げてしまったのでしょう……その冷たい抜け殻は、甘い夢の後に見えてしまった現実を、どすん、とラミィに突き付けているようでした。
まどろむ隙も与えない、窓から差し込むさわやかな陽光。その温かみが、何よりも残酷に感じられた――そんな、酷く素敵な朝でした。
ラミィは、ぽけーっとしながらトーストを焼いて、朝食をとりました。空虚な心でお腹だけ満たして、後片付けをします。
「…………あ……」
がちゃん、と酷いぐらいに気持ちわるい音で我に返りました。自分がしでかしたことを、そこでようやく実感したぐらいに呆けていたようです。
垂れたバターで手がすべったのか、愛用だったお皿を落として割ってしまいました。青くて、ハートのかたちをしていて……とても可愛らしかったんですけどね。今は、がしゃがしゃに崩れた……ただの破片たちになっていますね。ふふふ。
どれだけ可愛くても、どれだけ愛おしくても……一瞬の過ちで、こうして壊れてしまうのでしょう。
こんなの、よくあることですから。ラミィもね、軽く二〇〇年は生きてますので……慣れっこなんです。
失うのも、壊れるのも。うん。だから、ぜんぜんへーきです。
ラミィはゆったりと屈んで、壊れたハートを上から眺めます。拾い上げて、くっつけようとする気も起こらないほどにボロボロでした。
『えーっ、ししろんがハートのお皿とか似合わんて~。そっちの丸皿と交換しとくれよ~』
『……これ、ラミちゃんのお気に入りなん? ん~……そんじゃ、これがイイかな、うん』
『いんや、深い意味はないわよ? ただねぇ……なんだかね、ラミちゃんの好きなモノを間近に感じてみたくてさ』
「…………ぐすっ……くすんっ……。ししろん……」
ぽたぽたと、生温かい雫が……修復不可能に見えた、思い出の残骸を濡らしました。
それが、野ざらしにされたガレキのような悲壮感に満ちた光景になってしまって……視界が酷く滲んで、心が暗くなっていきました。
それを捨てることも、直すことも、すぐには決められず……ラミィはただ泣きじゃくって、ししろんが居ない空虚を悲しむことしかできませんでした。
――――――
お皿の残骸を片づけて。腫れぼったい目元をメイクでごまかして。
真っ暗でどん底な心を、アイドルらしく張りつけた笑顔のお面で覆い隠してから――ラミィは収録に向かいました。今日は朝からねぽらぼのみんなで行う収録があったのです。
……案の定というか、まあ『そりゃそうだよね』って話なんですが。ししろんは現場に来ませんでした。
マネージャーさんに連絡があったみたいです。『ごめんなさい』って。『どうしても行けない』って。
具体的な理由とかは明らかにされませんでしたので、表向きは体調不良ということで片づけられました。
そういうわけで。ししろん不在のまま、3人で楽しくおかしく、数時間にも及ぶ企画たちをこなしていきました。四人組の一人が欠けることの重たさを強く実感しながら……穴を空けることができない、多人数が関わるスケジュールを全力で埋めました。
ししろんが居ない理由を作った、大罪人の空笑いを虚しく響かせて――予定よりも長くカメラを回したおかげもあって、どうにかカタチになるものが出来上がったようでした。やっぱり、ししろんが居ないと撮れ高が足りなかったみたいです。
お昼過ぎ。収録が終わって、控え室に戻ります。衣装から私服に着替えて……ねねねが「トイレー!」と飛び出したときのことでした。
「ししろ、来なかったね」
「……そうだね」
おまるんのため息が、ラミィの胸をズキズキと抉りました。
『通話かけてもいい?』。収録が始まる前に送ったメッセージには、既読すらついていませんでした。
まあ『傷付けた本人がどんな顔をしてそんなことを言っているのか』と思われるのは自然だと思います。それでも、お仕事はお仕事ですし……ラミィがししろんの声を聞きたかったのも、本当の気持ちだったので、こうして無視されると心がジクジクと痛みます。
こういうとき、テキトウに謝るのは良くないって知っています。過ちへの意識が足りない謝罪は、怒りを増長させ、悲しみを根深く遺すからです。
このケンカで、ラミィとししろんの関係性が終わってしまうとしても……それならそれで、後腐れないものにしたかった、という気持ちもありました。『逃げた』と言われても、仕方ないと思っています。
……ズルくて、臆病で……自分勝手だな……って。我ながら、そう実感しています。
「ししろ、今日の収録は楽しみにしてたハズなんだけどな。ちょっとぐらいの体調不良なら来そうなもんだけど……よっぽどのコトなんだろうね」
目元のメイクを落としたおまるんが、スマートフォンをいじりながら……ラミィの顔も見ず、返答も聞かずに続けます。
「ところで、さ。ししろとケンカした?」
「っ……ううん……そんなんじゃないよ。ラミィもさ、今日はなんも聞いてなかったし……たぶん、ホントに体調不良なんだと思う……」
「……さっさと仲直りしときなよ。そういうの、後を引くと苦しくなるだけだからな……家族とか……恋人とかだと、特にね」
会話がまったく成立しません。だというのに、意思も、伝えたい言葉も通じ合っていました。
おまるんには、ラミィたちの関係を話したことはなかったハズなのですが……なんとなく、見抜かれているような気がしました。
おまるん、普段はどこか抜けているように振る舞っていますが……けっこう鋭いところがあるのです。センスが敏感というか、物事の本質を見抜いているというか……そんな感じで。
……だからこそ。ラミィは、おまるんに聞きたいことがありました。
「……ねえ、おまるん」
「なんじゃらほい?」
「もし、おまるんが言うように……ラミィとししろんが、恋人っぽくケンカしたとして、さ……どっちが悪いと思う?」
おまるんとねねね……それに、収録に関わってくれた人みんなに迷惑をかけたこと。この申し訳なさを、誰かに強く叱ってほしかったラミィです。
『ラミィがなんかやったんでしょ?』って。『早く謝りなよ』って。そう言ってほしかったのだと思います。
……って、なんでこんなに、他人事みたいに感じているんでしょうね。自分のことなのに、なんだか自信が持てなくなっちゃっているみたいです。
……こんな面倒くさい女……誰にも好かれなくて、当然なのかもしれませんね……。
「……知らんけど、どっちも悪いんじゃねー?」
それでも、おまるんは優しいから……ラミィの期待には、応えてくれませんでした。
「ぽるか的にはアレだな……『ケンカする』ってことは、『本気で想い合っている』ってことでもあると思うんだよな。好き合う力が強いほど、そのぶつかったバチバチが……ちょっとだけ、強くハジけちゃうだけなんだ」
それどころか……二ッと白い歯を見せて、両手の人差し指をチュッチュとキスさせていました。
「ししろもラミィも、つらいことがあったらまずは胸にしまい込んで、隠し事にしちゃうタイプだからな。ちゃんと腹を割って話し合ったら、スッスーと解決するんじゃね?」
その言葉は……あの恐怖に満ちた顔を見てしまったラミィからすれば、どこか楽観的に聞こえてしまったのですが……なぜか、スパンッ!と的を射ているような、矢所の良さを感じてしまうのでした。
もっとおまるんと話したい……そう思ったとき、ちょうどねねねが帰ってきたのでお話は消化不良なまま終わりました。
ねねちゃんのことは恨んでいません。むしろ、おまるんに泣きつこうとしたラミィの女々しさを止めてくれたこと、感謝すべきだと思いました。
あのままだと、ラミィは……おまるんの優しさに甘えて、ししろんとの仲を取り持ってもらって……『怖がる恋人を性欲のままに襲おうとして傷つけた』という、最低な過ちを軽視してしまいそうでしたから。
一緒にご飯に行くらしい、おまるんとねねね。「ワミィも一緒に行こうよ!」って誘われましたが、ラミィは「ごめんね」とボケを殺したうえでつまらない返事をしました。
その打ち上げの会場に、ししろんが居ないことに……ラミィが耐えられそうになかったのです。
罪悪感しかないラミィは、明るい空気から逃げるようにスタジオを後にしました。
……そんな気分じゃなかったとはいえ……『誰やねん!』のひと言ぐらい、ツッコんでおけばよかったかな……。