『アオのハコ』
離れる、と言いはすれども。
実際離れるとなれば、それはまあ。
いて当然、近くて当然の間柄。
まあ、仕方がない仕方がない。

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闇夜はアオく

 正直、私が一番つらいのだけれど。なんで大喜くんがやたら落ち込んでいるのか。

 大喜くんには、蝶野さんがいる。バドもある。この先、いくらでも先へ進める。だから、勘違いで私の方へ突き進むべきではないと思うのだ。

 体育用具室で、あの時。腕を捕まれて――私は、この上なく胸が高鳴るのを感じた。……まあ、何も無かったけれど。

 でも、頭の奥のモヤモヤが像を結ぶのが分かったのだ。風邪で動けなくなった大喜くんに、触れようとしたのも。大喜くんと蝶野さんの仲を、素直に応援できなかったのも。

 私が、大喜くんを好きになりつつあるからだ。

 そしてそれは、決して望ましいことじゃない。

 私は一回なにか好きになると、壊れるまで延々とハマり続けるから。大喜くんは可愛くて、だからきっと。私は、彼が壊れるまで愛してしまう。

 そんなの、許されるものか。由紀子さんたちに顔向け出来ない。大喜くんの将来を奪いたくない。蝶野さんを泣かせたくない。それに私の立場で、まさかバスケを疎かにするわけにもいかない。

 だから自制はするけれど、でも。

 考えてみれば、大喜くんの方から来る可能性もあるから。

 と言うか私は雑でガサツで雑把だから、多分大喜くんは色々とヘンな影響を受けまくっているだろう。思い返せば私と来たら、目の前で着替えようとするわ風呂上がりに密着するわで迂闊すぎる。男の子はそういうのに敏感で、相手が誰であれなんであれ穴さえ有ればおサルになってしまうとか渚が言ってたし。

 詳しいことは、この間まで分からなかったけど。……鍵が無いからなあ、大喜くんの部屋。隙間から、見えてしまったのだ。大喜くんが、その……している姿が。私の名前を呼びながら、激しく。おサルさんになっていた。

 好かれるのは良いことだけど、あれは流石に怖い。ちょっと退く。

 大喜くんが健やかに可愛いまま育ってくれる為には、ちょっと距離を置いた方が良いかもしれない。頭が冷えれば、蝶野さんともうまくいくだろうし。

 そう思っては、いるのだけれど。

 

 離れようとすると、身体が疼く。大喜くん分が足りない、と脳が訴える。

 なるべく近づかないようにしているのに、気が付けば目で追っている。ほんの僅かな気配さえ、感じ取ってしまう。

 そうなると、もう止まらない。ムラムラして仕方なくなり、練習を中断してまで手洗いに籠りオナニーに耽ってしまう。まあ、急げば一分もかからず終わるけどさ。

 良くない。すごく良くない。なんで私の方がこうなってるんだろう。

 やっぱり私には我慢自体が向いていないんだろうか、でも一回ああやって言ったのを反故にするのは気が引ける。

 さて、どうしたものか。

 どうしたものか、じゃないな。

 これはもう、仕方がない。

 私はバスケの為に置いて貰っている身で、バスケに悪影響を与えるようなことは慎むべきだ。そしてその優先度は、大喜くんよりも上だ。

 大喜くんに道を誤らせてでも、私は部活に集中しなければならない。

 だから、仕方がないのだ。うん。

 

 上弦の月が沈み、更に刻限は深くなった真夜中。足音を殺して、そっと部屋を出る。

 一歩、また一歩。普段ならばほんの一跨ぎの距離を、ゆっくりゆっくり自分を焦らすように進んでいく。

 万に一つでも、気付かれると不味い。可能な限り、忍ばなければ。

 胸を高鳴らせながら、ノブに手をかけて。……大喜くんの部屋へと忍び込む。

 間取りは同じ、でも空気はどこか違う。僅かに感じる、オトコノコの匂い。お腹の奥が甘く痺れていく、禁断の香り。

 寝る前に、したんだろうか。何を思い浮かべたんだろう。蝶野さんかな。自分で思い浮かべた、理想のおねえさんだったりするのかな。いや、考えるまい。

 暗闇の中、歩み寄る。目的の場所へと。

 健やかな寝息、天使のような寝顔。すやすや眠る大喜くんは、とてもとても可愛い。一晩中眺めていても良いくらいだ。

 起こすのは可哀想だから、勝手に――使わせてもらおうかな。

 ベッドからはみ出た腕をそっと持ち上げ、そのまま胸元へと導いてみる。眠っているせいかその手はいつもより温かい気がして、元々体温が低い私にとっては心地いい。

 男の子のちょっと無骨な手が、私の胸をまさぐっていく。……まあ私が押し付けているんだけど。指の間に乳首を挟んでみたりもして、大喜くんで遊ぶ私だ。

 起きている大喜くんは、女子の胸なんか触ったことないだろうな。寝ている間に、こんなことになってるとは思いもよらないだろう。

 私だって、男の子に触られた事なんか無い。女子同士でも滅多に無い。そういえば渚がふざけて揉もうとして、目測より小さかったせいか手が空を切った事はあったな。あの時は申し訳ないと思ったけど、考えてみたら渚が全部悪いよね……。

 ふにふにと胸の輪郭を歪ませながら触らせていると、どんどん身体が熱くなる。もっともっと、触って欲しいな。

 ベッドの端に膝立ちし、胸に当てていた大喜くんの手を動かしていく。私の熱の、中心へと。

 脚の間、私の――オンナノコ。大喜くんの手を、そこへと滑り込ませた。

 誰にも、触れさせてはいけない場所。小さい頃からそう言われてきた、だけど。大喜くんに、触って欲しい。

 その指を、押し当てて。ゆっくりと、腰を動かしながら。指先に私を擦り付けていく。

 最初はおっかなびっくりと、でも少しずつ速度を上げていく。

 擦る音はだんだんと水気が強くなり、皮膚同士の接触と言うより粘膜が肌に張り付く感触が強まる。

 そして、無意識に狙ったのか単に偶然か、その指は不意に私の内側へと潜り込んだ。

「、――ぁ……っ」

 声が出そうになって、慌てて口をつぐむ。私は普段あまり中までは入れないし、そこまで気持ちいいとも思っていなかった。でも、これは。これは、あまりにも、気持ちよすぎる。大喜くんの一部を、犯している。私が大喜くんを、穢している。そんな背徳感が背中を押して、信じられない程の快感を連れてくる。

 もしこれが、指でなかったなら。大喜くんを、もっと深く犯したなら。私は、どれ程気持ちよくなれるんだろう。

 バスケの為とか大喜くんを壊したくないとか、そういう事が頭から消えていく。

 私だって、我儘でいいじゃないか。気持ちに蓋をするのは、面倒だ。

 

 それでも、なるべく音を立てないようにはして。大喜くんの脚の方へと、回り込む。

 慎重に布団の中へと顔を突っ込み、夜目が効く身体に生んでくれた両親に感謝しつつ様子を伺っていく。

 目標は、すぐに見つかった。下半身を覆う布地をゆっくりと引き下ろし、そして――大喜くんのオトコノコが露になる。

 生まれてはじめて、かもしれない。小さい頃男子がふざけて出してたのがチラッと見えたりお父さんのが目に入ったりはしたけど、こうしてまじまじと見たことなんか無い。

 むわっと来る生臭さと、まるで寸足らずの蛇みたいな形。根本近くにある、だらりとした肉の袋。……まあ可愛くはないけど、そういうものなんだろう。オトコノコもオンナノコも、見た目は良いものじゃないからモザイクとか入れるんだろうし。私も前に自分のを鏡で見て、ちょっと落ち込んだし。

 まあ、大喜くんのだから。可愛がってあげよう。オトコノコは本体が寝てても反応する、と渚が言ってたし。……しかしあの女は本当にロクなこと言わないな、よく友達で居続けるもんだ私も。類友と言えば類友かもしれないけど。

 つーっと指でなぞってあげると、ビクンビクンと震えが来る。おお、どうやら本当らしい。そのまま何度も何度も繰り返し触っていくと、みるみる内に形が変わり出した。ムクムクと起き上がり、太さも増していく。さわり心地からすると、スゴく硬くなっているようだ。

 これがオトコノコの、興奮した姿なんだろうか。これはまるで、何かの武器だ。

 いやまるでと言うか、武器なんだ。男の子が男の子たる由縁の槍。大喜くんの、誇りそのもの。

 それを、思うままに弄り倒したい。胸の高鳴りが、加速していく。

 頭の中にセックスという言葉が浮かんでは消え、消えては浮かび上がる。

 でも、それは。それは――出来るのだろうか。

 幾らなんでも、大喜くんが起きるのではないか。起きなかったとしても、未経験の身で寝ている相手と致せるものだろうか。ここで、引き返すべきではないだろうか。

 今なら、気づかれないまま部屋に戻れる。そうは思うけれど、身体がそれを許してくれない。

 大喜くんは寝た振りを決め込める程器用でもお利口でもない、今がチャンスだと頭の奥で声がする。

 女は度胸だ、どうにかなるさ。

 布団を腰まで捲り、膝立ちで大喜くんを跨いで。私も下を脱ぎ、お互いに裸の下半身を晒しあう。まあ片方の持ち主は夢の中だけれど。

 興奮は更に強くなり、ぐちゃぐちゃに濡れているのが触れなくとも分かる。人のベッドでなにやってるんだ、と思わなくもない。でも止まらない、止まりたくない。

 星明かりも入ってこない部屋の中、一度もしたことの無い行為に及ぼうと言うのに。私は成功を確信している。私だから、きっとうまくいく。そう、思える。

 まるで、獲物に食いつく肉食獣のように。私のオンナノコは、自然に大喜くんのオトコノコを呑み込んでいった。

 噂に聞くほどの痛みは感じず、むしろ内側を押し拡げられる違和感が強かった。とは言えそれは程なくして消え去り、まるで元から一つだったと思えるほど、ぴったりと私たちは密着しあっていた。それが、気持ちよくて仕方がない。

 これはきっと、大喜くんだからだ。全く同じサイズの作り物でも、まして別人の物でもダメだろう。粘膜を通じて、大喜くん分が私の中に浸透してくるのが分かる。そして、大喜くんを犯しているという事実。ああ、悪いことをするのは何故こんなにも快感なのか。満たされていく。私が、満たされていく。

 自分でも意識しないまま、腰が動き出していた。これは、不味い。止められない。大喜くんが起きてしまうかもしれない、でもそのせいで更に気持ちいい。

 ベッドは軋み音を立て、食い縛った口からも喘ぎが漏れていく。

 あまりにも、快感の波が強すぎる。

 その奔流が私の頭を貫いたその瞬間、お腹の奥深くで何かが爆発した。

 ドクンドクンと脈打つ感覚、そしてそれを一滴残らず吸い上げようと子宮が疼き出すのがわかった。

 眠ったまま、大喜くんが射精した。私の中で、射精した。

 粘膜同士の接触より更にダイレクトに、大喜くん分が私を満たしていく。

 これなら、暫く大喜くんと距離を開けても堪えられるかもしれない。

 と――。

「う、あ……?」

 小さく呻くような声が、快感の余韻に浸る私の意識を現実に引き戻した。

「せんぱ、い……?」

 しかし暗い部屋の中だ、こうしてのし掛かっているのが私だと確信できていない。恐らくは。

 一瞬の内に、虹色の脳細胞をフル活動させる。どうにか、してみせる。

 まだ焦点のあっていない瞳を手で覆い、上がりかけていた大喜くんの上半身をそのままベッドに押し戻す。

「大喜くん、これは夢だよ。大喜くんはエッチな夢を見ました、それだけですよ。はい復唱」

「夢……見てて……。先輩の、エッチな……俺……夢を…………」

 大喜くんはそこまで言って、静かになってしまった。恐々顔から手を離すと、そこには天使のような寝顔。

 そうかこの子は私が思うよりずっとずっと、バカなんだな。ああ、信じられないバカで助かった。

 

 ……まあ、そのあとは勿論大変だった。大喜くんのオトコノコが縮んで抜け落ちてから、結構な量の精液が逆流してきたのだ。私って緩いのかな、と落ち込むレベルで。

 とにかくティッシュで栓をして、ベッドに散った分も出来る限りはきれいにしようと拭って回ったけれど、灯りがない中では何処まで出来たか分からない。

 それに大喜くんの下半身も汚してしまったけど、手荒にするとまた起きそうだから一通り拭くくらいが精一杯。精が一杯、はたしかにそうなんだけど。精液というのは何て言うか、遺伝子! って感じで自己主張が強すぎると思う。

 夜の夜中に人の部屋を掃除してると、何だか変に笑えてくる。なにやってるんだ、私は。本当に。

 そしてどうにか体裁を調え、来たときと同じようにこっそりと部屋を後にする。

 部屋に戻ってベッドに横たわると、急激に睡魔が襲ってきた。疲れたったら無い。ああ、もう。寝よう寝よう。

 後は起きてから、考えよう。私は全部明日にまわして、目を閉じた。

 

「……おはよう、ございます……?」

「おはようございます、大喜くん」

 いつもより若干の寝過ごしで済んだ私は、寝惚けた顔の大喜くんに平静を装って挨拶を返す。

 その表情はいつも通り、バカで可愛い大喜くんだ。どうやら本当に、夢だと思ってくれたらしい。バカってスゴいな。

 それから私たちは、宣言通りに若干距離を開けて生活してはいる。大喜くん分が不足してきたら、その都度寝込みを襲ってみたりしながら。適切な距離と不適切な関係、それを繰り返している。なかなかに刺激的だ。

 でもこの日々には、期限がある。その先は、どうなっていくんだろう。

 バスケという理由がなくなり、仮の家族でもなくなった、その先は。

 私が猪股千夏になる未来も、あるかもしれない。

 ああ、楽しみだな。毎日がとても、楽しい。私の人生は、悪くない。




私は渚さんをなんだとおもってるんでしょうかね。

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