ベッドヤクザな遍歴騎士と誘い受けマゾメス騎士姫のハーレム構築ちんチン珍道中 作:HK416
巴との出会いから早一週間。
辿り着いた宿場町に当初は長居する予定はなかったのだが、未だに滞在を続けている。
タキトゥスの治療は済んでおり出発自体は不可能ではなく、留まっている理由は他にあった。
「背筋を伸ばしてください。自分の背骨を馬の背中に一直線で立てるイメージです」
「は、はい……」
「そう、いい感じです。では、右に曲がってみましょう。基本は曲がりたい方向の鐙にかけた足を外側に持ち出して、重心を移動させます。手綱はあくまでも補助です。曲がりたい方向に軽く引いて、逆側は少し緩めてあげましょう」
「な、成程ぉ……ふっ……くぅっ……なかなか、むつかしい……!」
理由は、トモエへの馬術指導と彼女の馬を購入できていないことにあった。
馬に乗っての旅の中で、新たな協力者となった彼女一人を歩かせるわけにはいかない。どれだけ優れた武術を身に着け、神々の加護のある身と言えども、馬に乗らねば一日に移動できる距離などたかが知れている。
そこで宿場町への滞在を長引かせて、問題を解消することに決めた。
最悪、既に各々の馬となった三頭の内の何れかに二人で乗る手もないでもない。
アッシュやルドウィークは戦時においては重い馬鎧を纏う機会もあったため、トモエ一人分の重荷など苦にしない。まだ若馬のファウストには馬体を鍛えるためにはよい重石となるだろう。
しかし、その分だけ緊急時への対処が厳しくなる。
ヴァンハイムは他国に比べれば平穏ではあるが、脅威が全く存在しないわけではない。
何処から現れるかもはっきりと分かっていない魔物が存在しており、貧しい生活に耐えられず野盗に身を窶す輩もいる。そして、彼等の目的とも言える、カルラを奴隷に堕とした組織とトモエの追う咎人の存在もある。
今は一向が追う側狙う側であるが、何かの拍子に追われる側狙われる側に回る可能性も否定はできず、各々が可能な限り身軽に動けるに越したことはない。
よって、トモエも一人で馬を操れるように、という流れであったが、順調とは言い難かった。
今は宿場町近くの草原で、人を乗せるに慣れて気難しくもないアッシュに乗って基礎の基礎を学んでいる最中。
タキトゥスがアッシュを引きつつ、トモエが跨って指導を実践していた。
しかし、これまで馬に触れてこなかったこともあり、慣れぬ高い視点と生き物に乗る感覚に緊張してしまい、動作の一つ一つが固くぎこちない。
これでは馬にまで緊張が伝わってしまい、人馬ともに無駄な疲れを溜めてしまいかねなかった。
此処の所はカルラと共にアッシュ達の世話をすることで馬自体には慣れてきてはいたのだが、馬上ではまだまだであり、前途は多難だ。
「あははははは! そら行けファウスト! ルドウィークに負けるなー!」
「ふもっ! ふもっ! ふももっ!」
「はあ……我が身が情けなくなります。カルラもそれほど長く乗っていないと言うのに……」
上手く行かずに落ち込み気味のトモエがチラリと視線を送ったのは、草原を駆け回る二頭。
鞍も手綱もなく、誰も乗せていないルドウィークの後をカルラの駆るファウストが追っていた。
本来であれば、ルドウィークの背にはセレスティナがいるべきであろうが、現在は魔法通信でラインハルトに現状を報告しているため不在。
だが、ルドウィークは逃げるでもなく本能のまま駆けるのでもなく、自らが運動不足にならぬように走るのみならず、ファウストの訓練にも付き合っている。
その証拠に、まだまだ未熟で馬体の完成していないファウストを離し過ぎず、近づけ過ぎない距離を保ちながら先を行く。上下関係を知らしめていると言うよりも、人を乗せ慣れていないファウストに、走り方を見せて教えてやっているかのようだ。
後を追うファウストとカルラもそれに気付いているのか。
カルラは楽しくて仕方がないとばかりに手綱を操り、ファウストは闘志を剥き出しにして追い掛ける。
自らと同じく、馬に乗り出してから長くないながらも、既に乗り慣れてきているカルラにトモエが劣等感を覚えるのも無理はない。
だが、カルラの操る狼の如き剣技は天性のバランス感覚がなければ成立しないものであり、馬に乗る上では途方もない武器となる。そもそもからして比較する相手を間違えていた。
「あ、あはは、あまり気にしない方がいいですよ。僕から見ても、カルラさんはずば抜けていますから。自身と他人を比べるよりも、まずは足元を見て一歩ずつ確実に前へ進みましょう」
「…………そうですね。泣き言ばかり言っていられません。
「その意気です。僕もアッシュも協力は惜しみませんよ。なあ、アッシュ……?」
「ぶもぉっ……!」
「くすっ……ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。勿論、アッシュもね……?」
タキトゥスの親身な言葉に、自らの果たすべき誓いを思い出したトモエは後ろ向きな思考を排し、心機一転の意気込みを見せる。
そんな鞍上の気迫を受け取ったのか、アッシュはタキトゥスの問いに荒々しい鼻息で応えてきた。
ただ、歩様に変化は見られない。背に乗せた者の実力と自らにどんな役割が科せられているのかを理解できる知性がある証拠だ。
ここ数日で目にしてきた穏やかな知性と従順で優しい性格を持つ芦毛の馬を、トモエも好いてきていた。
緑の雲海にも見える草原の上を、ゆったりとした
そうして、今日も一日が過ぎていく。
タキトゥスとカルラにはすっかりと日常の一部となり、トモエにとっては久方振りの穏やかな一時であった。
―――――
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―――
――
―
「そういやよぉ、主様は何処で馬の扱いを覚えたんだ? やっぱり騎士になってからか?」
太陽が地平線へと沈み出し、何処か郷愁を誘う茜色の空へ変わる少し前。
ファウストとトモエの訓練を終え、宿場町へと戻っている最中、カルラは愛馬の上からそんなことを言った。
タキトゥスの馬の扱いは素人目に見ても卓越したものがあり、操縦から指導、日々の世話まで抜かりがない。
長い間、馬に慣れ親しんでこなければ得られない諸々は、少女の気を引くには十分であり、アッシュの上で揺られているトモエも興味の視線を向ける。
ルドウィークを引きながら今後の道筋やトモエの馬をどうするか考えていたタキトゥスは、一瞬何について問われたのか分からない表情をしたものの、すぐに気を取り直した。
「んー……騎士になってからも、が正しいですかね? ヴァンハイム式の馬術なんかを学んだのは騎士になってからですねぇ」
「はぁ……タキトゥス殿の馬術は異なるのですか?」
「ええ。騎士となると凱旋式のパレードにも参加しなければなりませんから、実戦ばかりではなく見栄えも求められます。アズマの馬術は分かりませんが、国によってまた変わってくると思いますよ」
馬術を学び始めたばかりのトモエにも、独自の才覚で乗り回しているカルラには違いなど分からないのだろう。二人揃って顔を見合わせ、首を傾げるばかりである。
背後を振り返って二人の反応を目にしたタキトゥスは思わず苦笑を漏らす。
やがて、陽が傾き始めた西の空に目を向ける。その瞳には珍しく僅かばかりの郷愁の念が宿っていた。
「へぇ。じゃあ、どっかから馬を盗んで自分で覚えたのか?」
「ち、違いますよ!? そりゃ
「あら、アッシュの前にも、ですか? 幼少の頃より旅をしていらしたそうですが、随分と太っ腹な御仁も居られたのですね」
「まあ、どんな馬も買うと高いですからね。でも、僕に譲ってくれたのはイタルアの方々でしたから」
「「……イタルア?」」
聞き慣れぬ言葉に、再びカルラとトモエの頭上にハテナマークを浮かべる。
無理もない。カルラはギルドタリア、トモエはアズマの出身。立場の違いはあれども、外からやってきた外来人。ヴァンハイムの一民族のことなど知りようもなく。
これがヴァンハイムの西に位置する宗教国家バルトメロイであったのなら、また話は変わったかもしれない。
「ヴァンハイムの西に、バルトメロイとの国境を跨ぐベイガーの大平原があります。イタルア族は、其処で馬に乗って家畜を育てながら暮らす遊牧の民です」
「ゆうぼく……ってのが、そもそもオレ達にはピンと来ねぇんだけど」
「そうですねぇ。ベイガーの大平原は、とにかく大きくて。アズマとそう変わらない広さだと思いますよ」
「それほどまでに広大なのですか……」
「ええ。その上、草原には木も少ないので家を建てることをせず、家畜が土地の草を食べ過ぎないように一年を通して草原を移動しながら、先々で天幕を張って生活をしています」
タキトゥスの軽い説明に、カルラとトモエはイタルアについて想像してみたようだが要領を得ていない様子。
ギルドタリアにせよ、アズマにせよ、一つの場所に定住し、田畑を耕して暮らす農耕が基本である以上、その生活を想像するのは難しいのだろう。
より正確に言えば、イタルア族の中にでも農耕を行う者もいれば、特定の拠点で生活を送る者もいる。
遊牧民の性質として、獣の肉や革、ミルクは容易に入手は可能であるが、食の基盤となる穀類、生活に必要な工芸品となると安定した入手は望めない。
よって、彼等の生活には定住の民との交易と拠点が必要不可欠であり、ベイガー大平原の東側には彼等の築いた街が点々と存在している。
彼等は時に街の住民として農耕を行い、時に大草原に躍り出て牧畜を行う。いずれの場合でも移動手段、労働力として馬と共に生活する騎馬遊牧民であった。
「しっかし、それでよく馬を譲ってもらえたどころか、乗り方まで教えてもらえたな。聞いた感じじゃ、イタルアにとって馬は重要なもんなんだろ?」
「まあ、そうですね。でも、排他的な方々ではなかったし、身形もバルトメロイとは違ってたからなぁ。あんな大きい平原で子供が一人ですから、物珍しかったのもあったのかもしれません」
「と言うよりも、タキトゥス殿はどうしてそのような平原に……」
「いや、行く当てもなかったのでふらふらして迷い込んで、見渡す限りの大草原で自分が何処にいるかも分からなくて、野生の獣を狩ってどうにかこうにか生き延びてましたが、ある時……あーーー……えー、そのぉー……間違って群れから逸れた彼等の羊を、何も知らずに仕留めてしまって……」
「馬は盗んでないけど、家畜殺してんじゃねえかよ。オレが野盗やってたのと変わんねぇぞ、それ」
「しょうがないじゃないですか! その時は家畜の印なんて知らなかったんですよぉ!」
罰が悪そうに過去を明かすタキトゥスに、カルラは呆れ顔で呟いていた。
主として慕ってこそいるが、立場の違いから何処かで壁を感じていたのだろう。それが壊され、より近い存在となったことで何処か嬉しげでもある。
ただ、タキトゥスにとっては失敗の記憶のためか、苦い表情で慌てて言い分を並べていた。
幼い頃の失敗談など笑い話にしかならないが、野盗扱いは流石に心外であったようだ。
「兎に角、家畜を育てていた家族に捕まって、殺してしまったものは仕方がないから新しい羊を用意するように、と。自分達以外の家畜を手違いで狩ってしまうと、自分達の家畜を引き渡すのが彼等の習わしだったようで」
「広大な草原で過ごすのなら、珍しい事態ではないのでしょうね。その土地に根差した生き方と独自の掟、興味深いです」
「と言っても、根無し草の子供に家畜なんて用意できるわけがないので、子羊が生まれるまでの間、家畜の世話をする、でしたけどね」
「へぇ、成程ねぇ。イタルアと一緒に生活して、馬の方も、ってわけか」
「そうです。イタルアと生活する以上、馬に乗れねば話になりませんから。イタルアは女性であろうと子供であろうと、余程の荒馬でもなければ乗りこなせますしね」
どうやら、タキトゥスにとってイタルア族との生活は大切な思い出であったようだ。
故郷を離れ、身一つで広大な世界を彷徨う経験は、まだまだ少年だったタキトゥスにとって過酷以外の何ものでもなかっただろう。
その中での新たな出会いは、例えようもない光であったに違いない。遥かなるベイガーの大平原とイキルア族を第二の故郷や家族となってしまうほどに。
西の空に細めた目を向けるタキトゥスの横顔に、カルラは勿論のこと、トモエも少なからず共感を覚えて笑みを浮かべていた。
両者ともに、先行きが闇に包まれた己の人生に光を与えたくれたのは、異国の地における新たな出会い。
境遇は違えども、全てが一致せずとも、言葉にできない喜びと安堵までが異なるとは限らない。少なくとも、彼女達はそう感じていた。
「それで、家畜の世話をしながら、馬の乗り方や世話の仕方を教えて貰いながら生活しました。半年か一年くらいだったかなぁ?」
「思ったよりも短いな。なんかあったのか?」
「その頃、ヴァンハイムとバルトメロイの関係が悪化したらしく、戦になるかもしれないからお前はこの土地を離れろ、と。イタルアはベイガー大平原の守りを担っていますからね。あれがなければ、そのままイタルアとして暮らしてたかもなぁ」
ヴァンハイムとバルトメロイは、ギルドタリア帝国ほどではないものの、関係性は友好とは言い難い。
バルトメロイの信奉する十神教はヴァンハイムもまた国教としている。しかし、先王時代以前からの習わしで、政治への干渉を許していない。
歴代の国王達は、宗教の力というものを利用すると同時に危ぶんでもいたのである。民草の人心や倫理を育てるにはこれ以上のものはないとしながら、生まれる価値観は国の根幹を脅かしかねない、と。
事実、バルトメロイの布教という名の教化は凄まじく、ヴァンハイムに仕えている貴族ですらが寝返りを打つほど。
戦もないままに、土地と民を奪いながら自国の領土を広げていくさまは、ギルドタリアの侵略以上に厄介ですらあった。
その防波堤となったのが、イタルア族である。
彼等の間にも、大いなる大地と恵みを生んだ地母神ハルマに対する信仰はあるが、それ以上に大地そのものへの信仰心が強い。
『地母神ハルマ様には感謝している。だが、我等を育んだのあくまでもこのベイガーの大平原。我等には我等の掟と信仰があり、余人にとやかく言われる筋合いなどない』
その独自の信仰心と価値観は、バルトメロイの教化に対して強い反骨心を抱かせ、靡かせなかった。
過去、その態度がバルトメロイの怒りに触れ、大規模な遠征軍が組織されたこともあったが、イタルア族はヴァンハイムと手を組み、その悉くを退けている。
主な要因はベイガー大平原がなだらかで見通しの良い広大な土地であったこと、イタルアが騎馬民族であったこと、そしてイタルア族が交易の殆どをヴァンハイムと行っており、王国側がその精強さと生活様式を知っていたことにある。
木々の少ない広大な草原では大規模な拠点は造ろうにも、外から資材を運ばねばならず、進軍は遅々として進まない。
無理に進軍すれば補給線が伸びて、最前線の兵が飢えかねず、まともに戦えたものではない。
其処に、イタルア族が自ら育てた精強な馬に跨り、強襲を仕掛けるのである。
イタルア族が得意とする軽騎兵の騎射による一撃離脱戦法は絶大な効果を上げた。
バルトメロイの陣地を発見すると騎兵によって突撃。
陣の手薄な場所は敵兵の秘蹟や魔法を高速機動で掻い潜り、馬で跳ね上げ、踏み砕いて大混乱を招く。
陣が厚ければ、一定の距離を保って騎射を続ける。敵が損害に浮足立つか、玉砕を覚悟で打って出れば、即座に退却。
後を追ってこなければそれで良し。追ってきたのならば、高速機動に対応できなくなって隊列の乱れたところを反転し、攻勢に出る。
そして、バルトメロイが消耗したところでヴァンハイムの重騎兵が悠々とやってくるや否や蹂躙するのだ。
こうした経緯から、バルトメロイ側はイタルア族を“悪魔の騎兵”と呼び、忌み嫌っている。
対するヴァンハイム側は“西方の優駿”として畏敬の念を保っており、先王時代には一時的に関係が悪化したものの、現在は改善されていた。
「それで、馬を一頭――――アイツを譲って貰って、ベイガー大平原を出ました」
「あら、アッシュの前にも馬を……?」
「子供の足じゃ、大平原から出るだけで何年かかるか分かりませんからね。餞別のつもりもあったのかな? まあ、とんでもない馬でしたけど、インサニアの奴め……」
「すげー顔してんな、主様……」
アッシュの前に出会ったもう一頭の愛馬を思い、タキトゥスは知らず知らずの内に顔を引き攣らせていた。
普段、安穏として惚けた表情をし続ける男には似つかわしくない顔に、カルラもトモエも、どんな馬だったのか、と訝しげである。
因みに、インサニアはタキトゥスの故郷では“狂気”を意味する。
もうそれだけで、タキトゥスがその馬にどんな思いを抱いているのか、分かろうというものだ。
「兎に角、凶暴な奴でしたよ。荒馬にも慣れてるイタルアの方に悪魔の子なんて呼ばれてるわ。指を食いちぎるのなんて当たり前なんで口籠を常につけられてるわ。人が乗ろうとすると振り落としてそのまま踏み殺そうとするわ。実際、何人か殺してたみたいですし」
「凶暴なんてレベルじゃねぇな、おい?!」
「イ、イタルア族の方々もよく殺さずに飼っておられましたね……?」
「イタルア族は馬に殺される方が悪い、と考えている方が殆どでしたからねえ……」
不思議なことに、インサニアはタキトゥスにだけは心を開いていた。
イタルア族ですら匙を投げ、縛り付けて接することしかできなかった己を、何度となく殺されかけながらも恐れなく根気強く接したからか。
はたまた、狂気を隠そうともしない馬と穏やかそのものの少年の波長が、たまたま噛み合ったのか。
そして、狂気の馬が殺されなかったのは、イタルア族の価値観以上に有益な存在であったからだ。
どういう訳か、インサニアの子は父の凄まじい能力を引き継ぎながら、気性の方は母に似る傾向にあった。
血統で気性の全てが決まるわけではなく、全ての子が傾向に従うわけではなかったものの、タキトゥスと共に暮らした家長はその法則性に早い段階で気付いた。
そして、可能な限り穏やかな牝馬を用意し、インサニアに種を付けさせることで優秀かつ従順な馬を手にしたのである。
イタルア族にとって、優秀な馬を持つことは生活の安定や万が一の備えに直結する重要な問題。
馬に対する感謝と慈しみ以上に、インサニアの生み出す不利益よりも、利益の方が大きかった故に生かされたのだ。
「まあ、僕と出会った頃には四十年近く生きていたので、最後くらいは気に入った相手と好きに過ごせ、という面もあったかもしれません」
「それもあったかもしれねぇけどよぉ……」
「…………失礼ですが、危険な馬を押し付けたようなものでは?」
「いやー、えー、あー……出て行く頃には僕を襲うことはなかったので、護衛にもなるとか考えてくれていた、気がするような、しないような…………あっはっはっはっはっ!」
気軽に明かされる狂気のエピソードに、カルラとトモエは思わずドン引き。
タキトゥスも笑ってこそいたが、目が死んでいる。インサニアによって齎された苦労の数々を濁流の如く思い出しているのだろう。
だが、苦労ばかりではなく輝かしい思い出も確かにある。
渋々であったのか、快くであったのか。
インサニアがどう考えていたのかまでは分からないが、人を決して乗せなかった狂気の馬が、自分にだけを背を預けた。
タキトゥスにとってはそれだけで、全ての苦労が報われる思いであり、アッシュと同様に無二の友であり相棒であったと断言できる馬だ。
「……その後は、インサニアが亡くなるまでヴァンハイムを色々と駆け回って、アッシュを貰った領主様のところに落ち着いたわけです」
「タキトゥス殿が馬に慣れたのは、そのような理由があったのですね……」
「そりゃそんな馬と一緒にいりゃあ、嫌でも扱いが巧くなるわけだわ……しかし、どうして気が合ったのかね。主様とじゃ、反りが合わなそうだけど…………あ、いや、種付け巧いのは似てんよなぁ?」
「ちょっ、カルラさん?!」
「いや隠す意味ないぞ。この前、セレスティナとやってるとこに部屋に入ったから、バレてるしよ」
「う゛ぞぉ゛……!?」
「カ、カルラァ……! 余計なことは言わなくていいです! いいですから!」
イタルア族
ヴァンハイムの西方に位置し、バルトメロイとの国境を跨ぐベイガー大平原に住まう騎馬遊牧民族。
ヴァンハイムの一員として認められているが、独自の生活様式と文化を保っており、彼等の土地は一種の自治区のような扱いとなっている。他にもヴァンハイムにはエルフやドワーフの自治区が存在しており、それらの頭目、族長は辺境伯として扱われる。
自立心の強い異民族、亜人種の自治を認めるのは国として反逆などのリスクが大きくなるにも拘わらず認められているのは、始まりの騎士アルトリウスの働きが大きく、ヴァンハイムが拡大時代に築いた慣例でもある。
イタルア族の騎兵は、ヴァンハイムの一翼を担う『蒼馬騎士団』として知られ、最強たるベオウルフ率いる『黒獅子騎士団』、女性騎士を生み出した『白薔薇騎士団』でも、ベイガー大平原においては打ち破るのは不可能でこそないものの、薄氷の上の勝利となると思われる。
また彼等の育てる馬は質が良く、ヴァンハイムの軍馬の質を引き上げるのに一役買っている。
イタルア族の生活は交易がなければ成立しないため、性格は全体的に見ても非常に寛容で寛大。但し、バルトメロイのように自身の教えを絶対として押し付けてくる輩には反発も辞さない勇猛さも持つ。
そうした気風が先王時代は関係の悪化を招き、現国王とは強固な信頼関係を築くに至っており、同時に見ず知らずの子供でしかなかったタキトゥスを受け入れる土壌にもなった。
インサニア
モチーフはゴールドシップ+ダイヤモンドジュビリー。
ゴルシの賢く頑固で繊細な気性難とダイヤモンドジュビリーの悪魔の子と呼ばれた凶暴な気性難と能力が複合した狂気のヤベー馬。
絶対に人を乗せないどころか、イタルア族の何人かを蹴り殺しているが、その価値観と種馬としての優秀さで殺されなかっただけ。
そんな狂気のインサニアも、タキトゥスにだけ心を開き背に乗ることを許し、甘えた様子を見せたため、イタルア族は度胆を抜かれた。
イタルア族がタキトゥスに譲ったのは厄介払いのつもりではなく、哀れな子供の将来と老齢に達してようやく生涯唯一の友を得た馬を慮って。
彼等の旅は凄まじく、野盗を踏み殺し、魔物を蹴り殺し、友と共に大地を思うままに駆け抜けた。
その最後は、ある日訪れた故郷を思わせる草原の中心で横たわり、太陽を浴びながら昼寝をし、友に看取られながら息を引き取るという狂気の馬には似つかわしくない、穏やかなものだった。
イタルア族に学んだタキトゥスの騎乗技術を底上げした要因であり、タキトゥスとは様々な思いと日々を交換し合った忘れらえぬ一頭である。
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