ベッドヤクザな遍歴騎士と誘い受けマゾメス騎士姫のハーレム構築ちんチン珍道中 作:HK416
「…………」
気が付けば、トモエは見覚えのあるようで全く見知らぬ草原にいた。
背後の木から伸びる木陰の中で座り込み、遥かな彼方で空との境界線を作り出している雄大な山脈を眺めている。
しかし、直前に何をしていたのかさえ思い出せない。
この場は何処で、何故いるのか。目的も、理由も、記憶さえも。
常人ならば不安から叫び出してしまいそうな状況であったが、トモエは穏やかなもの。
何故ならば、視界に映る全ての風景の何処かボヤけて、はっきりとした像を結んでいない。
それでもなお判断できたのは、
身体は元より、頭の中までふわふわと浮遊感で満たされて、現実感が全くなかった。
これは夢と判断する十分で、トモエはどうすることもできずに流れに身を任せる。
「―――――?」
ふと、彼方を眺めていた視線が僅かに下がる。
その先、彼女から少し離れた草原の中では、一頭の馬と一人の幼子が戯れていた。
余り見栄えのしない地味な馬は、一目でライデンと分かった。
ただ、少しおかしかったのは、まだまだ成長途中にあったはずの彼の身体が成長していたことか。
毛皮の上からでも分かる筋肉の隆起は逞しく、立派になったものですと思わず感慨深くなってしまう。
ライデンは興味深げにその鼻先を、幼子へと向けていた。
匂いを確かめているのか、ふんふんと鼻を鳴らすと幼子はきゃっきゃっとくすぐったそう無邪気に笑う。
ただ、幼子の像ははっきりとしない。
髪も短いような、長いような。服装もズボンのような、スカートのような。
ただ、顔立ちには己と
「ぁ――――ふふ」
その時、ようやく隣に座っている暖かな存在に気付き、トモエは思わず微笑んでいた。
気持ちの赴くまま
すると、彼は嫌がる素振りもなく、武器を握り振り続けてすっかりと人間らしい柔らかさを失った無骨な手と指を、トモエの指に絡めていく。
これ以上ないほどの安堵とありきたりな結末。
思わず、此方はなんて卑しい女なのでしょうか、とトモエは自嘲する。
甘いだけの夢と分かっていながら、それに酔い痴れてしまう愚かな自分。
けれど、今はこの偽りの幸福を噛み締めたい。
現実は辛く苦しい。それに立ち向かうためには、傷付いた心身を癒す必要がある、と言い訳を並べて受け入れる。
(嗚呼、どうか、この甘い夢が少しでも長く続きますように……)
―――――
――――
―――
――
―
「………………」
トモエが夢の中で揺蕩っている中で、タキトゥスは目を覚ました。
まず感じたのは自分以外の暖かみ。
昨夜の記憶は途中で途切れていたが、潰れた後にセレスティナかカルラと床を共にしたのだろうと一人納得し、相手の顔を見て凍り付いた。
無理もない。
何せ、隣で眠っていたのは自らの妻ではなく、トモエであったのだから。
すっかりと酔いの抜けた頭で事実を認識したタキトゥスの顔から血の気が引いた。
それはもう凄まじい勢いで引いた。さながら津波の前兆を知らせる引き潮の如き勢いで引いた。
(えっ? は? いや、トモエ、さん? ん? え? なんで? なんでトモエさん? これ、あの……えーーーーーーーーーーーーーーっ!?)
次に浮かび上がるのは、自らがやらかしたであろう事実。
煽情的な格好をして眠るトモエ!
酒で潰れ、残っていない昨夜の記憶!
妻でも恋人でもない女性の泣き腫らした顔と同衾!
まさに
もっとも、タキトゥスは手を出していないのだが、状況証拠、そしてセレスティナとは知らなかったとは言え、酔って手を出した
「…………っ!」
背骨そのものが
混乱と罪悪感の極みに達したタキトゥスが最初に行ったのは、ベッドから抜け出ること。
音もなく、空気を乱すことさえない。男女の仲を利用して情報を抜き取る密偵でさえ、此処まで瞬足無音ではいられまい。
だが、残念ながらタキトゥスの動きに磨き抜かれた無駄の無さなどなく、半ば転がり落ちるようであった。これで音を立てないのだから、非常に芸術点が高いと言えよう。
タキトゥスは何とか四肢をついた四つん這いの体勢になると、部屋の扉へと向かう。
まるで死にかけの敗残兵か、人妻に手を出して夫に見つかった間男のような不様さで宿屋の廊下を転がり出る。
向かう先は、言うまでもなくセレスティナとカルラの部屋である。
「お、お、お客様ぁ――?!」
「お気遣いなくぅぅぅっ!!」
その過程で看板娘と擦れ違ったが、タキトゥスに恥や外聞を気にしている余裕などあるはずもなく。
何事かと目を丸くする相手を置き去りにし、這う這うの体で目的地へと辿り着ついた。
中では、既に目を覚ましていたナイトウェア姿のセレスティナが、優雅な朝のティータイムの最中。
カルラは一足先に着替えており、インナー姿でベッドに腰掛けて、白く眩しいニーソックスに脚を通している。
普段であれば妻の極上の女体と薄着に生唾の一つも飲み込み、伸びる鼻の下を抑えるので精一杯になるところ、今日ばかりはそうもいかない。
四つん這いで部屋の中心へと駆け込み、ステイディング正座を二人に披露した。
「あら、おはようございます、タキトゥス様♪」
「主様、うりゃー♪ おはようさん♪」
「……………………………………………………おはよう、ございます。お二人に、大事な、お話、が」
「声ちっさ」
様子がおかしいタキトゥスは一先ず無視し、セレスティナははんなりと微笑み、カルラはタキトゥスの首に抱き着いて朝の挨拶をした。
素知らぬ顔をしているが、そもそもタキトゥスが蒼い顔をせざるを状況に整えたのは、この二人である。
そんなことを知り得るはずもないタキトゥスは、蚊が鳴くような声量で途切れ途切れに呟く。
二人はタキトゥスの見えないところで策の成功を確信して拳を握り締めたが、鋭い嗅覚を持つカルラはすぐさま怪訝な表情をした。
カルラの変化を悟ったセレスティナであったが、顔には出さない。
追い込まれたタキトゥスが何かに気付いてしまっては全てが台無し。今は黙するのみであった。
「その、記憶は、ないのですが……ど、どうやら、酔った勢いで、トモエさんに手を出したらしく……す、すみません」
「まあ、それは大事ですね」
「あーあ、やっちまったなー」
「…………なんか反応薄い、薄くないですか???」
「気のせいですわ♪」
「気のせいだろー♪」
自己嫌悪と罪悪感をそのままに己の確認した事実を告げ、そのまま土下座敢行である。
これまでとは訳が違う。
国に多大な迷惑を現在進行形で駆けている最中であるが、セレスティナの場合は彼女自身がそうなるように仕向けた。
カルラの場合も仕向けこそしなかったが、彼女が望み、タキトゥスも受け入れている。
いずれにせよ相手側の合意があったものの、トモエの場合はどうか。
記憶もなく、どのような経緯であったかも、彼女が望んだかさえも分からない。
もし万が一、強姦紛いのような真似をしていたのなら二人にも類が及びかねない――――と、
けれど、セレスティナもカルラもあっけらかんとした、どころか声が弾み、内心はニッコニコ。
罵倒や軽蔑は勿論のこと、最悪は浮気だと捨てられると覚悟していたタキトゥスにしてみれば拍子抜けである。
だが、二人もニッコニコにもなろう。
何せ、タキトゥスという男を今まさに味わっている最中なのだから。
トモエと話し合い、黙っていて貰えば手を出した事実だけは隠せたはず。
他にも、やりようなどいくらでもあったにも拘らず、様々な感情を抱えながらも真っ先にやってきての謝罪。
この分ならタキトゥスは一切の隠し事などしまい。いや、できないと言っても過言ではない。
謀で自分達が仕向けた事実を抜きにしても、生き辛くなるであろうほどの誠実さは、彼女達が惚れた理由の一つでもある。
余りの悦びに女の芯が揺さぶられ、きゅんきゅん♥ と子宮と胸の内が震え上がる。
状況が状況ならば二人揃ってタキトゥスを押し倒してキスの雨を降らせているところであったが、今は場合が場合だ。
「私達の夫としてトモエとの姦淫を罪を考え、謝罪をしてくれたの嬉しく思います。ですが、いまタキトゥス様がなさるべきはもっと別にあるのでは?」
「い、いや、それは、そうなんですが……」
「えー、じゃあ何だぁ? このままヤリ捨てすんのー? トモエかわいそうになー」
「……う、うぅ」
セレスティナは澄まし顔、カルラはジト目で共にタキトゥスを見る。
視線を向けられた張本人は人並み以上に大きい身体を縮こまらせ、まるで小人のように威と厳を根こそぎ失っていた。
これが平時であれば、やたらと誘導的で作為的な二人の言動に違和感の一つも覚えただろうが、今のタキトゥスは平静でなどいられない。
ただでさえ、一人の男としてセレスティナとカルラに不誠実な真似をしているにも拘らず、トモエにまで手を出す有り様。
牡として、貴族としてならば、或いは正しいと言えたかもしれないが、人でありたいタキトゥスに獣の理屈は受け入れ難く、貴族の理屈は理解できないほど遥か遠くにある。
ましてや、そこに強姦疑惑まで。追い詰められれば、人の思考能力は際限なく奪われるのである。
「では、何をすべきでしょうね?」
「と、トモエさんと話を……」
「それだけかー? 本当にそれだけかー?」
「責任を、取ります。トモエさんに、納得して頂ければ、ですけど……」
「ああ、安心しました。私達の夫が、不埒な殿方でなくて」
「は、はは、どうも…………不埒、今のがよっぽど不埒、絶対不埒だと思う……」
タキトゥスは自分自身の愚かしさに嫌悪と絶望を滲ませながらも、煽られるままに立ち上がり、扉へと向かっていく。
ふらふらと覚束ない足取りで部屋を出て行くタキトゥスの背中は、捨てられた子犬のように頼りなく、庇護欲をそそった。
二人とも、今すぐにでも背中から抱き締めてやりたいところであったが、それでは全てが御破算。
タキトゥスのことは愛してもいる。
昼の立ち居振る舞いは誇らしくなるほどで、言葉にされこそしないが些細な行動にも自分達に対する確かな愛情を感じる。
夜など大満足を通り越して、精魂尽き果ててしまうほどの勢い。
男としても夫としても不満などあろうはずもないが、それでもなお陥れるような真似をするのか、と言えば、より長く夫婦として幸福な生活を送るため。
そして、トモエのこともある。
彼女は何かを隠している。そんな思いがセレスティナとカルラにはあった。
何か確証があるわけではなく、女の勘と言ってしまえばそれまでの話だが、確信にも近い引っ掛かり。
トモエの義を重んじる性格はこれまで共に過ごした時間で分かっている。その中で時折見せた思い詰めた表情は痛ましくさえあった。
いっそのこそ苦しみを少しでも軽くしてやるため無理にでも踏み込んでいくことも考えたが、敢えて控えていた。
踏み込むのならば自分達よりも、タキトゥスの方が適任と考えていたからだ。
彼は過酷な人生の中でも失われなかった善良さは勿論のこと、聞き役としても優れている。
相手の懊悩を安易に否定せず、口数も多い方ではない故に話も遮らず、真摯に受け止め誠実に言葉を選ぶ。
そうした部分にカルラは救われており、陥った境遇こそ変わらなかったものの、どうにもならない怒りや憎しみ、ぶつけどころを失った感情を吐き出し、消化できた。
だからこそ、夫婦云々の話を抜きにして、タキトゥスならばトモエの傷付いた心を荒らすことなく踏み込んでいけるのでは、と考えたのである。
「それで、カルラはどう思う?」
「ありゃあ、手ェ出してねーなー。交尾の匂いがしなかった」
「でしょうね。でも、何もなかったわけではない、といったところかしら」
「だろうなー。主様の胸元、涙の匂いがしたからな。何かあったのは間違いねえや」
二人の思惑は実際に功を奏している。
少なからず、何か事が起こったと察するには十分な材料が揃っている。
タキトゥスが泣かせたのか、トモエが泣いたのか。
いずれにせよ、トモエが何らかの感情を吐き出したのは確か。後は事態がどう転ぶのかを見守ることしかできない。
だが、二人は落ち着いたものであった。
セレスティナはまだ熱い紅茶を啜り、カルラはベッドに座り直す。その表情は全く同じものであった。
「堕ちたわね」
「堕ちたな」
私達の夫が、ただただ女を泣かせるだけ済ませるわけがない。
そう言わんばかりに、安堵と勝ち誇りが混ざった、余人からすれば何とも言えないものであった。
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